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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 一部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1311822
異議申立番号 異議2015-700166  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-09 
確定日 2016-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5713068号「ゴムロールの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5713068号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第5713068号(請求項の数は2。以下,「本件特許」という。)は,平成25年8月15日に出願された特許出願に係るものであって,平成27年3月20日に設定登録された。
特許異議申立人井上由美(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成27年11月9日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「軸方向に搬送する支持体に対して,試験温度100℃の条件で,1分間予熱,ローター回転時間19分の合計20分経過後のムーニー粘度MVeと該合計20分経過するまでのムーニー粘度の変動曲線の最低値MVmとの差(△MV=MVe-MVm)が10以下の未加硫ゴム組成物を圧力変動3%以下で円筒状に押し出し,円筒状の前記未加硫ゴム組成物を前記支持体の外周面上に成形する第1工程と,
前記円筒状の未加硫ゴム組成物を加硫し,前記支持体の外周面上に,未加硫ゴム組成物の加硫物で構成された弾性層を形成する第2工程と,
を有するゴムロールの製造方法。」

第3 申立理由の概要
異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。

1 主たる証拠として特開2007-298821号公報(以下,「刊行物1」という。)並びに従たる証拠として「河岡豊著「ゴム配合データハンドブック」日刊工業新聞社,昭和62年4月25日発行,p212及び213」(以下,「刊行物2」という。),「試験結果報告書,株式会社島津製作所 ADC 西村,平成27年10月14日」(以下,「報告書3」という。)及び特開2013-40627号公報(以下,「刊行物4」という。)を提出し,本件発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し(以下,「取消理由1」という。),又は本件発明は,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下,「取消理由2」という。)ものである。

2 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件に適合しない(以下「取消理由3」という。なお,当該要件を「サポート要件」という場合がある。)ものである。

具体的には,本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明と出願時の当業者の技術常識から,本件発明の課題は「研磨工程なしにクラウン形状の弾性層を形成するために,支持体の搬送速度を変更する場合において,圧力変動を抑制して,弾性層の形状精度を向上すること」といえ,実施例も,クラウン形状のゴムロールを製造しているものが記載されているにもかかわらず,本件発明には「スクリューの回転速度を一定に維持する点」,「支持体の搬送速度が変動する点」及び「弾性層を研磨しない点」が規定されてないから,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えて特許を請求するものであってサポート要件を満足していない。

3 本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に規定する要件に適合しない(以下,「取消理由4」という。なお,当該要件を「実施可能要件」という場合がある。)ものである。

具体的には,本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の「ゴム剤の圧力変動を3%以下とする」具体的な方法として,「ゴム材の圧力変動を3%以下とするには,経時ムーニー粘度差(△MV=MVe-MVm)が10以下のゴム材を使用した上で,例えば,押出成形機のスクリュー228の形状,スクリュー228の駆動モータ230の種類,若しくはブレーカープレート231の種類,又は,それらの組合せ等を変更することで実現される。」と記載されている一方で,実施例2と同じ「経時ムーニー粘度差が10以下」という条件を満足しているゴムを実施例2と同じ押出機(「スクリュー」,「駆動モータ」,「ブレーカープレート」は同じと認められる。)で押し出している比較例2において,ゴム材の圧力変動は3.5%となっている。そうすると,上記記載に基づいても当業者はスクリュー,駆動モーター,ブレーカープレートの組み合わせ条件を理解することができず,ゴム材の圧力変動を3%以下にするには過度の試行錯誤が必要であるから,発明の詳細な説明は本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

4 そして,上記取消理由1?4にはいずれも理由があるから,本件特許の請求項1に係る発明についての特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。

第4 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,取消理由1?4にはいずれも理由はないと解する。

1 取消理由1及び2(新規性及び進歩性)について
(1)刊行物の記載
ア 刊行物1(特開2007-298821号公報;異議申立人の提出した甲1)
刊行物1には,「本発明の導電性ゴムローラは、ゴム組成物のゴム成分にエピクロロヒドリンゴム(A)と、100℃(ML1+4)でのムーニー粘度が5以上30以下であるゴム(B)を含有することにより、押出し後の収縮を小さくすることが可能で、押出しチューブで2.2m/minと高速の押出しにおいてもゴム組成物収縮による形状不良(端部浮き)を抑えることができる」(段落【0011】)ものであって,実施例1として,具体的な未加硫ゴムの各成分と配合量(段落【0017】)が記載されると共に「未加硫ゴム組成物をφ70mmクロスヘッドダイ付き押出し機を用いて予め接着剤を塗布した芯金と共に外径が略φ13mmになるように押出し、芯金外周上に未加硫ゴム組成物を被覆した。このとき芯金は、外径φ6mmのSUM(硫黄複合快削鋼鋼材)材にKNメッキを施したものを用い、ゴムの押出し速度はスクリュー回転数が14rpm、芯金送り速度を2.5m/分の一定速度で供給し続けた。この成形体170℃で1時間電気炉で加硫し、研磨砥石GC80を取り付けた研磨機にセットし、研削条件として回転速度2000RPM、送り速度500m/分で外径φ12mmになるように研削し、導電性ゴムローラを作製した。」(段落【0018】)とされ,「(比較例6) ゴム材料としてエピクロルヒドリン系ゴム95質量部 アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム[商品名 Nipol 1312 日本ゼオン(株)製(液状NBR)]]5質量部とした以外は、実施例1と同様にして成形を行い導電性ゴムローラを作製した。」(段落 【0028】)と記載されている。
そうすると,刊行物1には,比較例6の導電性ゴムローラの製造方法として,以下の発明が記載されているといえる。
「エピクロルヒドリン系ゴム[商品名 エピオンON301 ダイソー(株)製]95質量部、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム[商品名 Nipol 1312 日本ゼオン(株)製(液状NBR)]5質量部、酸化亜鉛[商品名 亜鉛華2種 白水テック(株)製]5質量部、ステアリン酸[商品名 ステアリン酸S 花王(株)製]1質量部、炭酸カルシウム[商品名 シルバーW 白石工業(株)製]90質量部、FEF級カーボンブラック[商品名 旭#60 旭カーボン(株)製]5質量部、イオン導電材 [商品名 LV-70 旭電化工業(株)製] 2質量部、ポリエステル可塑剤 [商品名 PN-350 アデカ・アーガス(株)製] 5質量部、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)[商品名 ノクセラーDM 大内振興化学工業(株)製]1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)[商品名 ノクセラーTS 大内振興化学工業(株)製]1質量部、イオウ[商品名 サルファックスPMC 鶴見化学工業(株)製]0.8質量部を混錬りした未加硫ゴム組成物をクロスヘッド付き押出機を用いて芯金と共に外径がφ13mmになるように押出し、当該押出時のゴムの押出し速度はスクリュー回転数が14rpm、芯金送り速度を2.5m/分の一定速度とし、芯金外周上に未加硫ゴム組成物を被覆した成形体を加硫し、その後、外径がφ12mmとなるように研磨する、導電性ゴムローラの製造方法。」 (以下,「刊行物1発明」という。)

イ 刊行物2(異議申立人の提出した甲2)
刊行物2には,「ゴムロール(黒色)」の配合として,


」と記載されている。

ウ 報告書3(異議申立人の提出した甲3)
報告書3には,以下の記載がある。




エ 刊行物4(特開2013-40627号公報;異議申立人の提出した甲4)
刊行物4(とくに段落【0020】,【0022】,【0042】,【0054】)には,異議申立人が特許異議申立書で主張する,「クラウン形状のゴム弾性層を押出成形するために,押出機のスクリュー回転数を一定として,芯金の送り速度を加減速させると,クロスヘッドの吐出口において圧力変動が生じ,ひいては,スクリュー先端部で押出圧力に変動が生じることとなる」ことが記載されている。

(2) 刊行物1発明との対比
本件発明と刊行物1発明とを対比すると,
「軸方向に搬送する支持体に対して、未加硫ゴム組成物を円筒状に押し出し、円筒状の前記未加硫ゴム組成物を前記支持体の外周面上に成形する第1工程と、
前記円筒状の未加硫ゴム組成物を加硫し、前記支持体の外周面上に、未加硫ゴム組成物の加硫物で構成された弾性層を形成する第2工程と、
を有するゴムロールの製造方法。」の点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点1>
未加硫ゴム組成物に関して,本件発明は「試験温度100℃の条件で,1分間予熱,ローター回転時間19分の合計20分経過後のムーニー粘度MVeと該合計20分経過するまでのムーニー粘度の変動曲線の最低値MVmとの差(△MV=MVe-MVm)(以下,「経時ムーニー粘度差」という。)が10以下」と特定するのに対し,刊行物1発明では,この点を特定しない点。
<相違点2>
ゴム材の圧力変動に関して,本件発明は「圧力変動3%以下」と特定するのに対して,刊行物1発明では,この点を特定しない点。

以下,相違点について検討する。
相違点1について
異議申立人は,報告書3(甲3)をみれば刊行物1発明においても未加硫ゴム組成物の経時ムーニー粘度差が10以下を満足していると主張するが,報告書3(甲3)をみてもSample2と刊行物1発明の未加硫ゴム組成物とで両者の組成が全く同一であるかどうか明らかでないから,Sample2のムーニー試験結果をもってして,刊行物1発明における未加硫ゴム組成物の経時ムーニー粘度差が10以下であると直ちにいうことはできないし,そもそも,報告書3(甲3)の2頁目の記載と他の頁の記載との関係が不明である。
そして,刊行物1には,経時ムーニー粘度差についての記載はなく,また,押出機にゴム材を投入してから押出されるまでの経路において,ゴム材の部分的な加硫に起因する粘度の上昇についての言及ないし示唆もないから,刊行物1発明において,未加硫ゴム組成物の経時ムーニー粘度差を10以下とする動機づけがあるとはいえない。よって,相違点1は当業者であっても容易に想到しえたものとはいえない。

相違点に係る効果について検討する。
本件発明は,上記相違点1の発明特定事項を有することにより,「円筒状のゴム材の加硫物で構成される弾性層の厚み(つまり、得られるゴムロールの外径)が芯金の軸方向で変動することが抑制され」(段落【0018】),「形状精度に優れた弾性層を有するゴムロールが製造」(段落【0019】)できるという効果が奏されるものであり,当該効果について,具体的な実施例において確認されている。
一方、刊行物1,2,4及び報告書3のいずれの文献にも、未加硫ゴム組成物の経時ムーニー粘度差が10以下であることとゴムロールの形状精度との関係についての記載はなく、示唆もされていないから,上記効果は,当業者が予測し得ない格別の効果といえる。

(3) まとめ
よって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明は,刊行物1発明でないことはもちろん,刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,新規性及び進歩性を有する。異議申立人が主張する取消理由1及び2には理由がない。

2 取消理由3(サポート要件)について
本件特許に係る発明の詳細な説明の段落【0006】の記載に基づけば,本件特許の発明が解決しようとする課題は「形状精度に優れた弾性層を有するゴムロールの製造方法を提供すること」と認められるので,異議申立人が主張する上記第3_3に記載の課題は,本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づかないものである。
そして,本件特許に係る明細書の段落【0018】,【0019】の記載を併せみれば,当業者は,本件発明は,「形状精度に優れた弾性層を有するゴムロールの製造方法を提供すること」を発明が解決しようとする課題としていることが理解でき,本件特許の発明特定事項を満足することで,前記課題が解決されることが理解できる。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
よって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たすと判断される。異議申立人が主張する取消理由3には理由がない。

3 取消理由4(実施可能要件)について
異議申立人は,未加硫ゴム組成物を圧力変動3%以下で円筒状に押出するには,過度の試行錯誤を要するものと主張しているが,押出機の押出圧力の変動は,本件特許の出願時において当業者が通常に認識している技術事項(例えば,異議申立人の提示した甲4の【0020】参照)といえ,当業者の技術常識及び本件特許の明細書の段落【0031】の記載及び具体的な実施例1?6の記載を踏まえれば,未加硫ゴム組成物の圧力変動3%以下で円筒状に押出することは当業者が実施できると認められ,過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって,本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たすと判断される。異議申立人が主張する取消理由4には理由がない。

第5 むすび
したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が特許法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-21 
出願番号 特願2013-168898(P2013-168898)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (B29C)
P 1 652・ 536- Y (B29C)
P 1 652・ 537- Y (B29C)
P 1 652・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 小野寺 務
大島 祥吾
登録日 2015-03-20 
登録番号 特許第5713068号(P5713068)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 ゴムロールの製造方法  

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