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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
管理番号 1311835
異議申立番号 異議2015-700203  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-20 
確定日 2016-02-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5720585号「ガラス母材の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5720585号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5720585号は、平成24年1月18日に出願された特願2012-8303号について、平成27年4月3日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1-3に係る特許に対し、特許異議申立人 中川 賢治により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明の認定
上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1-3に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、請求項ごとに「本件発明1」-「本件発明3」という。)と認められる。

【請求項1】
「反応容器内に出発ロッドとガラス微粒子生成用バーナーとを配置し、該ガラス微粒子生成用バーナーに供給配管からガラス原料ガスを投入し、該ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、火炎分解反応によりガラス微粒子を生成させ、生成した該ガラス微粒子を出発ロッドに堆積させてガラス微粒子堆積体を作製し、得られた該ガラス微粒子堆積体を高温加熱して透明ガラス母材を得るガラス母材の製造方法であって、
前記供給配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上とし、前記ガラス微粒子生成用バーナーに投入する前記ガラス原料ガスの温度を150℃以上に制御し、且つ前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上とし、前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とすることを特徴とするガラス母材の製造方法。」

【請求項2】-【請求項3】略

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1-4号証(以下、「甲1-4」という。)を提出し、上記特許は、特許法第29条第2項の規定に違反(以下、「取消理由1」という。)してされたものであり、また、同法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、それぞれ「取消理由2」及び「取消理由3」という。)特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

甲1:特開平4-270130号公報
甲2:特開平2-102146号公報
甲3:黒崎晏夫他著,「伝熱工学」,株式会社コロナ社,2009年5月7日,p.57-p.58
甲4:特開2004-300006号公報

1.取消理由1について
(1)本件発明1について
特許異議申立人は、甲1、4の記載内容を説明し(特許異議申立書第6頁第31行-第9頁21行)、甲1の記載内容と請求項1の記載内容との対応関係及び、本件発明1と甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)との相違点1及び2について説明し(同第9頁第22行-第10頁第18行)、当該相違点が、周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたこと(相違点1)であるか、実質的な相違点でない(相違点2)ことであるから、本件発明1は、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(同第10頁第19行-第11頁第9行)。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、特許異議申立人の主張のとおり、本件発明1と甲1発明とは、下記(相違点1)及び(相違点2)で相違している。

(相違点1)
本件発明1では、「前記供給配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上とし」ているのに対し、甲1には、この点についての記載がない点。

(相違点2)
本件発明1では、「前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上とし、前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とする」ものであるのに対し、甲1には、この点についての記載がない点。

ここでまず(相違点2)について検討すると、甲1-甲3には、ガラス微粒子の粒子径や、ガラス微粒子を粒子間で結合させること、結合した粒子群の質量について記載も示唆もない。甲4には、その段落【0023】、【0024】、【0026】に、ガラス微粒子の粒子径や質量についての記載、ガラス微粒子の「凝集」についての記載があるが、甲4発明は、例えばその段落【0011】に記載されているように、「ガラス微粒子」自体を原料として「バーナへ供給する」ものであって、甲1発明のような、「蒸気反応物」を「バーナ」で燃焼させて「スート」を生成するものとは、製法が異なるものである。
よって、特許異議申立人が主張するような、甲4の記載から甲1発明で生成される「スート」の粒子径や質量を推認することはできないから、(相違点2)は本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であり、甲2-甲4発明に基づいて、当業者が容易になし得たことともいえないものである。
さらに、他に甲1発明の「スート」が、本件発明1のガラス微粒子の「粒子径」や、結合した粒子群の「質量」を有するものであることを推認できるものはない。
したがって、(相違点1)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1-甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1に従属する方法発明であるから、これらの発明も本件発明1同様、当業者が甲1-4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1-3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2.取消理由2について
(1)特許異議申立人は、請求項1に記載された「前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上とし、前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とする」ための方法が、発明の詳細な説明において当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないこと、特に段落【0024】等の記載は作用的な記載であり、製造方法の条件が開示されていない旨主張している(特許異議申立書第12頁第3行-第9行)。
しかし、「物を生産する方法の発明」に関する実施可能要件としては、発明の詳細な説明に、(i)原材料、(ii)その処理工程及び(iii)生産物の三つが記載されていることが求められるべきであり、また、製造条件に係る実施可能要件について、
「(i)発明の実施形態の記載において、製造条件等の数値が記載されていない。
(ii)その製造条件等の数値が出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。」の両方に該当する場合に、実施可能要件を満たさないとされるべきである。
そこで、発明の詳細な説明に記載された「物を生産する方法の発明」及び「製造条件」が、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件に違反するか否かについて検討する。
発明の詳細な説明の段落【0029】には、原材料となる原料ガスが記載されている。
また、段落【0022】、【0023】には、ガラス母材を製造するための製造工程(処理工程)が具体的に記載されているし、段落【0016】-【0021】には、該製造工程に使用するための装置について記載されている。
さらに、段落【0030】、【0034】、【0035】には、製造条件となる「原料ガス温度」の具体的な値と、その製造条件で製造されたガラス微粒子の特性が記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、(i)原材料、(ii)その処理工程及び(iii)生産物の三つが記載されており、製造条件等の数値も記載されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件に違反するものではない。

(2)特許異議申立人は、請求項1に記載された「前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上とし、前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とする」ための方法について、「ガラス原料ガス」として「SiCl_(4)」以外の「ガラス原料ガス」を使用する場合の方法は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している(特許異議申立書第12頁第10行-第13行)。
しかし、請求項に係る発明に含まれる実施の形態以外の部分が可能でないことに起因する実施可能要件違反について、
「(i)発明の詳細な説明に特定の実施形態のみが実施可能に記載されている。
(ii)その特定の実施形態が、請求項に係る発明に含まれる特異点である等の理由によって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識 (実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても、その請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由がある。」の両方に該当する場合に、実施可能要件を満たさないとされるべきである。
本件特許の実施の形態では、「ガラス原料ガス」として「SiCl_(4)」のみが用いられているから、「SiCl_(4)」が特異点である等の理由により、「SiCl_(4)」以外の「ガラス原料ガス」を用いることが、当業者の技術常識を考慮しても、その実施をすることができないとする十分な理由があるかについて検討する。
本件特許明細書中で従来技術として記載されている特開平7-144927号公報の段落【0029】及び図1や、特許異議申立人が甲1号証として提出した特開平4-270130号公報の段落【0015】、【0023】、【0026】等に記載されているように、ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、ガラス微粒子を製造する方法について、「SiCl_(4)」以外の「ガラス原料ガス」である「GeCl_(4)」、「ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)」、「ヘキサメチルシクロトリシロキサン(HMCTS)」、「オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)」、「デカメチルシクロペンタシロキサン(DMCPS)」を用いても、ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、ガラス微粒子を製造することは本件出願前から知られている。
したがって、当業者の技術常識を考慮すれば、ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、ガラス微粒子を製造する際の「ガラス原料ガス」として、「SiCl_(4)」が特異点等の理由はなく、当業者の技術常識を考慮すれば、「SiCl_(4)」以外のガスを「ガラス原料ガス」として用いる実施形態についても、その実施をすることができないとする十分な理由があるとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件に違反するものではない。

以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、同様に、本件発明1に従属する方法発明である本件発明2、3についても、その実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであって、実施可能要件に違反するものではないから、特許異議申立の理由によっては、本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

3.取消理由3について
特許異議申立人は、発明の詳細な説明において、特に請求項1には、「前記ガラス微粒子生成用バーナーに投入する前記ガラス原料ガスの温度を150℃以上に制御し、」と記載されているが、この条件は、「ガラス原料ガス」として「SiCl_(4)」を使用する場合の条件であり、他の「ガラス原料ガス」において適用する条件ではないから、請求項1-3に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものでないと主張している(特許異議申立書第12頁第14行-第25行)。
そこで、本件特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすかどうかを、いわゆる大合議判決(平成17年(行ケ)第10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)の観点、すなわち、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」に照らして検討する。
発明の詳細な説明の段落【0009】には、発明の課題について、「生成されたガラス微粒子の出発ロッドやガラス微粒子堆積体への付着効率を向上させることができる」と記載され、段落【0010】には、課題を解決する手段として、(ア)「前記供給配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上」とすること、(イ)「前記ガラス微粒子生成用バーナーに投入する前記ガラス原料ガスの温度を150℃以上に制御」すること、(ウ)「前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上」とすること、(エ)「前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とすること」が挙げられている。
ここで、段落【0025】に「凝集が促進されることで粒子群の慣性質量が増加する。慣性質量が増加した粒子群は、火炎内のガスの流れから離脱し易くなる。これによって、ガラス微粒子の粒子群は、ターゲットである出発ロッドやガラス微粒子堆積体へ付着し易くなり、原料収率を向上させることができる。」と記載されているように、「付着効率」の「向上」という課題は、(エ)「前記ガラス微粒子生成用バーナーの火炎内で、前記ガラス微粒子を粒子間で結合させ、結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とする」ことによって解決されるものであると認識でき、また、段落【0019】、【0034】、【0035】等の記載から、本件発明においては、「結合した粒子群の質量」を「1.8×10^(-17)(g)以上」とするために、(ア)「前記供給配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上」とし、(イ)「前記ガラス微粒子生成用バーナーに投入する前記ガラス原料ガスの温度を150℃以上に制御」し、(ウ)「前記ガラス微粒子の粒子径を10(nm)以上」としているものであるといえる。
したがって、「結合した粒子群の質量を1.8×10^(-17)(g)以上とする」ことができるとすれば、「ガラス原料ガス」として「SiCl_(4)」以外のガスを用いても良いことは、本件特許の出願時の技術常識に照らして当業者に自明なことである。
よって、本件発明1において「ガラス原料ガス」を「SiCl_(4)」と特定していないことが、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものであるとはいえないので、サポート要件に違反するものではない。
同様に、本件発明1に従属する方法発明である本件発明2、3についても、サポート要件に違反するものではないから、特許異議申立の理由によっては、本件特許の請求項1-3の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、請求項1-3に係る本件特許は、特許法第29条第2項第36条第4項第1号並びに第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

第4.むすび
以上のとおり、異議申立人が主張する取消理由1、2及び3によっては、請求項1-3に係る特許を取り消すことはできない。

したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-27 
出願番号 特願2012-8303(P2012-8303)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03B)
P 1 651・ 537- Y (C03B)
P 1 651・ 536- Y (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永田 史泰飯濱 翔太郎  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 後藤 政博
萩原 周治
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5720585号(P5720585)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 ガラス母材の製造方法  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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