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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1311837
異議申立番号 異議2015-700252  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-02 
確定日 2016-02-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5729291号「口腔用組成物」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5729291号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5729291号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成23年12月21日に特許出願がされ、平成27年4月17日に、その発明についての特許権の設定登録がなされたところ、平成27年12月2日に、そのうちの請求項1ないし2に係る発明の特許に対し、中嶋美奈子(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第5729291号の請求項1ないし2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。

「【請求項1】(A)グリセロリン酸又はその塩、(B)塩化セチルピリジニウム、及び(C)塩化ベンゼトニウムを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】成分(A)が、グリセロリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の口腔用組成物。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠方法として、甲第1ないし6号証を提示し、次の取消理由(A)及び(B)を主張する。

取消理由(A)
本件発明1ないし2に係る特許は、甲第1ないし6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので取り消されるべきものである。

取消理由(B)
本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するので取り消されるべきものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2011-140454号公報
甲第2号証:特開2009-1511号公報
甲第3号証:特開2011-126802号公報
甲第4号証:特開平11-49625号公報
甲第5号証:特表2012-522752号公報
甲第6号証:特開2013-94759号公報

第4 甲第1ないし6号証、それらの記載事項及び甲第1号証記載の発明
1 甲第1号証
本件出願の日前に頒布された刊行物である特開2011-140454号公報には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】カチオン性殺菌剤とグリセロリン酸カルシウムを含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】グリセロリン酸カルシウムの配合量が0.02?2.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】カチオン性殺菌剤が塩化セチルピリジニウムであることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項4】塩化セチルピリジニウムの配合量が0.05?0.3質量%であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の口腔用組成物。」

(1b)「【技術分野】
【0001】本発明は、カルシウム塩を配合した組成物において、口腔内細菌に対する殺菌活性を有する塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着効果を促進した口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】塩化セチルピリジニウムに代表されるカチオン性殺菌剤は、口腔内細菌に対する殺菌活性が高いだけでなく、口腔粘膜や歯牙表面に吸着する。吸着したカチオン性殺菌剤は、口腔内細菌の吸着を阻害することで歯垢形成を抑制し、齲蝕予防効果、歯周病の症状改善や予防効果が得られることが期待できる。一方、カルシウム塩を口腔用組成物に配合すると齲蝕予防や初期齲蝕の改善効果を期待することができる。しかし、齲蝕予防効果を高めるためカチオン性殺菌剤とカルシウム塩を併用すると、カチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着が阻害されることが知られている。」

(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】本発明は、カルシウム塩の存在下において塩化セチルピリジニウムに代表されるカチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着効果を向上させることで、カチオン性殺菌剤の活性を高めた口腔用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、カチオン性殺菌剤とグリセロリン酸カルシウムを併用した場合、カチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着効果が飛躍的に改善することが判明し、本発明を見出すに至った。」

(1d)「【発明の効果】
【0009】本発明の口腔用組成物は、塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性殺菌剤歯牙表面への吸着効果を促進することにより活性をさらに高め、齲蝕や歯周病などを引き起こす口腔内細菌の歯牙表面への吸着を阻害して歯垢の形成を効果的に抑制することが可能である。」

(1e)「【0011】本発明に用いるカチオン性殺菌剤は、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムなどが挙げられ、このうち塩化セチルピリジニウムが最も好ましい。かかるカチオン性殺菌剤は、本発明の口腔用組成物の全量に対して0.01?1質量%を配合することができ、好ましくは0.05?0.3質量%、さらに好ましくは0.05質量%を配合することができる。0.01質量%未満になると、カチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着効果が低下してしまい、一方1質量%を超えると、使用時の苦味、歯の着色等の問題が生じてしまう可能性があるため好ましくない。
【0012】本発明に用いるグリセロリン酸カルシウムは、例えば市販品を使用できる。市販品としては、例えば、岩城製薬株式会社製の「グリセロリン酸カルシウム」を挙げることができる。グリセロリン酸カルシウムの配合量は、本発明の口腔用組成物の全体の全量に対して0.02?2.0質量%を配合する事ができる。特に0.1?2.0質量%が好ましく、0.5?1.5質量%が最も好ましい。配合量が0.02質量%未満の場合は十分な齲蝕予防効果が得られない可能性があり、2.0質量%を超えると渋味・苦味が強く感じられるため使用感の点で好ましくなく、溶解しない場合がある。」

(1f)「【実施例】
【0023】<塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着試験>
・・・
○:塩化セチルピリジニウムの吸着量が300以上
×:塩化セチルピリジニウムの吸着量が300未満
【0024】なお、塩化セチルピリジニウムの吸着量は、300以上のものが好ましく、吸着量が300未満のものは十分な殺菌効果を発揮することができないと考えられ、好ましくない。
【0025】
【表1】(略)
【0026】表1に示したとおり、グリセロリン酸カルシウムは、他のカルシウム塩と比較して、優れた塩化セチルピリジウムの吸着量を示した。また、グリセロリン酸カルシウムとエチルアルコールを配合した処方はエチルアルコールを配合しない処方に比べ吸着量が劣ることがわかった。なお、クエン酸カルシウム及び硫酸カルシウムは完全に溶解しなかったため、吸着量の測定を行なわなかった。」

(1g)「【0028】
処方例1 練歯磨剤
成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.05
グリセロリン酸カルシウム 0.2
・・・
精製水 残 部
合計 100.0
・・・
【0032】
処方例5 練歯磨剤
成分 配合量
塩化ベンゼトニウム 0.05
グリセロリン酸カルシウム 0.7
・・・
精製水 残 部
合計 100.0」

2 甲第2号証
本件出願の日前に頒布された刊行物である特開2009-1511号公報には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】下記成分(A)?(C)を含有する液体口腔用組成物。
(A)カルシウムイオン供給化合物 0.005?1質量%、
(B)カチオン性殺菌剤、
(C)下記(C1)及び(C2)を含む非イオン性界面活性剤、
(C1)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(C2)(C1)以外のHLB16?20の非イオン性界面活性剤。」

(2b)「【0003】一方、塩化ベンゼトニウムや塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤は、口腔細菌に対する殺菌活性が高く、歯垢や舌苔などのバイオフィルムの形成を防ぐことから、う蝕、歯周疾患、口臭等の予防・改善のために多くの口腔用組成物に配合されている。しかしながら、特許文献1のようにカルシウムイオン供給化合物の可溶化剤としてアニオン性界面活性剤より多量の非イオン性界面活性剤を配合した場合、カチオン性殺菌剤の殺菌活性や歯牙や口腔粘膜などの口腔組織表面への吸着性を低下させる場合がある。特に洗口剤等の液体口腔用組成物においては、一般的な練歯磨き剤より口腔への適用時間が短く(口腔内での滞留性が低い)、洗口後の吐き出しや飲み込みなどにより、口腔内に殺菌剤等の薬剤が十分には滞留し難い。そのため、カルシウムイオンを安定に共存させ、殺菌剤の歯牙や口腔粘膜などの口腔組織表面への吸着性を高めて口腔内で効果的な殺菌作用が発揮できる液体口腔用組成物が所望されていた。
・・・
【0004】本発明の目的は、カルシウムイオンを安定に配合でき、カチオン性殺菌剤の口腔組織表面への滞留性を向上させることにより、う蝕と歯周疾患を効果的に予防し得る液体口腔用組成物を提供することにある。
・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明の液体口腔用組成物は、カルシウムイオンを安定に配合でき、かつカチオン性殺菌剤の口腔組織表面への滞留性を向上し、う蝕と歯周疾患を効果的に予防することができる。」

(2c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】本発明の(A)カルシウムイオン供給化合物とは、・・・。このうち、溶解性の観点から、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム等の水溶性のカルシウム塩が好ましい。カルシウムイオン供給物の含有量は、う蝕・歯周病予防効果の点から、口腔用組成物全体に対してカルシウムイオン換算で0.005?1質量%であるが、好ましくは0.01?1質量%、特に0.01?0.8質量%が好ましい。
【0009】本発明の(B)カチオン性殺菌剤は、口腔組織表面、例えば歯牙表面、口腔粘膜(歯ぐきを含む)等に吸着し、むし歯、歯周病、口臭等の原因となる菌に対して殺菌作用を有するものであり、例えば、第四級アンモニウム化合物、ビグアニド系化合物等が含まれる。具体的には、第四級アンモニウム化合物に属する殺菌剤としては、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化ラウロイルコラミノホルミルメチルピリジニウム等が挙げられる。・・・成分(B)として、上記殺菌剤を1種又は2種以上組み合わせて用いることができるが、殺菌作用及び味の点から、本発明液体口腔用組成物中に0.001?0.5質量%含有するのが好ましく、特に0.005?0.2質量%含有するのが好ましい。」

3 甲第3号証
本件出願の日前に頒布された刊行物である特開2011-126802号公報には、次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】フッ素イオン供給化合物を含有する第1組成物(A)と、カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含有する造粒物である第2組成物(B)を含んでいる口腔用組成物であって、
第2組成物(B)に含まれているカルシウムイオン供給化合物が、結晶水の少なくとも一部が除去されたものであり、
第2組成物(B)が濃度10質量%の水溶液にしたときのpH(25℃)が7以上のものである、口腔用組成物。」

(3b)「【0019】〔第2組成物(B)〕
第2組成物(B)に含有されるカルシウムイオン供給化合物としては、グリセロリン酸カルシウム、・・・が挙げられる。これらのカルシウムイオン供給化合物の中でも、味の良さの点から乳酸カルシウムやグリセロリン酸カルシウム等が好ましい。」

(3c)「【0031】〔その他の成分〕
本発明の口腔用組成物には、前記成分の他、一般に用いられるアニオン界面活性剤、・・・等を含有してもよい。また、口腔用組成物に一般的に用いられている、・・・研磨剤、・・・湿潤剤、・・・塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、・・・等を適宜含有させることができる。・・・」

4 甲第4号証
本件出願の日前に頒布された刊行物である特開平11-49625号公報には、次の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】義歯安定剤に有機及び/又は無機系の殺菌剤を配合してなることを特徴とする義歯安定剤組成物。
【請求項2】殺菌剤が、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロロヘキシジン、グルコン酸クロロヘキシジン、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化ドミフェン、トリクロサン、オイゲノール、チモール、並びにアパタイト、ゼオライト又はシリカに銀、銅又は亜鉛を担持したもの及びガラスに銀又は銅を結合させた抗菌ガラスから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の義歯安定剤組成物。」

(4b)「【0012】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者らは上記要望に応え、義歯へのプラーク付着を抑制し、義歯性口内炎、口臭の予防効果を持ち、更に口腔粘膜の組織賦活効果を義歯安定剤に付与するために鋭意検討を重ねた結果、有機及び無機系殺菌剤を配合すること、更に好ましくは、グルタミン酸、リゾチーム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウムから選ばれる2種以上を組み合わせ配合することにより、菌が産生する内毒素、菌体外代謝物の抑制効果を付与した義歯安定剤組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
・・・
【0015】本発明では、更に菌が産生する内毒素、菌体外代謝物の抑制効果を付与する点から、上記殺菌剤として塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムとを併用するか、或いは上記殺菌剤、特に塩化セチルピリジニウム及び/又は塩化ベンゼトニウムにグルタミン酸及び/又はリゾチームを併用することが好ましい。これらの組み合わせにおいても、義歯安定剤への配合量としては、0.001?5%、特に0.01?3%とすることが好ましい。」

5 甲第5号証及び甲第6号証
甲第5号証として提出された特表2012-522752号公報及び甲第6号証として提出された特開2013-94759号公報は、いずれも本件出願の日後に頒布された刊行物であるので、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、特許法第29条第2項の規定について判断することはできない。

6 甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、上記(1a)からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「カチオン性殺菌剤とグリセロリン酸カルシウムを含有することを特徴とする口腔用組成物。」

第5 判断
1 取消理由(A)(特許法第29条第2項)について
(1)対比
ア 甲1発明の「グリセロリン酸カルシウム」は、グリセロリン酸の塩であるから、本件発明1の「(A)グリセロリン酸又はその塩」に相当する。

イ 本件発明1の「(B)塩化セチルピリジニウム」及び「(C)塩化ベンゼトニウム」は、本件特許明細書の「【0006】・・・これらの殺菌剤の中で塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤は、・・・広く使用されている。」との記載からも明らかなとおり、カチオン性殺菌剤である。

ウ よって、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両発明は、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>「(A)グリセロリン酸又はその塩、カチオン性殺菌剤を含有してなることを特徴とする口腔用組成物。」である点

<相違点>本件発明1では、カチオン性殺菌剤が、「(B)塩化セチルピリジニウム、及び(C)塩化ベンゼトニウム」の2種の併用であると特定されているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点

(2)判断
そこで、上記相違点について検討する。
ア 甲1発明は、上記(1b)?(1d)及び(1f)のとおり、口腔用組成物において、カチオン性殺菌剤とカルシウム塩を併用すると、カチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着が阻害されるところ、カルシウム塩としてグリセロリン酸カルシウムを用いると、他のカルシウム塩を用いた場合と比較してカチオン性殺菌剤の歯牙表面への吸着効果が飛躍的に改善することが判明したことに基づいてなされたものである。
そして、上記(1e)の【0011】に、カチオン性殺菌剤として、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムがその他のカチオン性殺菌剤とともに例示され、上記(1g)に、塩化セチルピリジニウム又は塩化ベンゼトニウムのいずれかと、グリセロリン酸カルシウムとを配合した練歯磨剤の処方例が記載されているが、甲第1号証のその他の記載を参酌しても、カチオン性殺菌剤を2種以上併用することに関しては何ら記載も示唆もない。

イ 他の甲第2ないし4号証の記載を検討するに、甲第2号証の上記(2c)には、液体口腔用組成物に配合するカチオン性殺菌剤について、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを含む数種のカチオン性殺菌剤が例示され、1種又は2種以上組み合わせて用いることができることが記載されている。
しかしながら、甲第2号証のその他の記載を考慮しても、甲1発明のグリセロリン酸カルシウムを含む口腔用組成物において、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを併用して配合することを動機づける記載はない。
甲第3号証は、上記(3c)に塩化ベンゼトニウムが例示されているに過ぎない。
甲第4号証の上記(4b)の【0015】には、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを併用することが記載されているが、甲第4号証は、上記(4a)及び(4b)の【0012】とおり、両者を併用するのは、義歯安定剤における菌が産生する内毒素、菌体外代謝物の抑制効果を付与するためであって、グリセロリン酸カルシウムを含む口腔用組成物において、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを併用して配合することを動機づける記載はない。
よって、甲第2ないし4号証の記載を参酌しても、甲1発明において、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを併用することを、当業者が容易になし得たことということはできない。

ウ 異議申立人は、甲第2号証に記載の実施例では、カルシウム塩として乳酸カルシウムが用いられているが、甲第3号証から、乳酸カルシウムとグリセロリン酸カルシウムとは、味の点から好ましい旨記載されている(上記3b)ことを指摘しているが、甲1発明において、塩化セチルピリジニウムと塩化ベンゼトニウムを併用することとは関係しない。

エ ところで、甲第5号証は本件出願の日より後に公開されたものであるが、その国際出願に係る国際公開第2010/112577号は、本件出願の日前に頒布された刊行物(以下、「刊行物5」という。)である。そこで、念のため、英語で記載された刊行物5の翻訳文としての甲第5号証の記載も検討する。
異議申立人は、甲第5号証の「【0002】いくつかの真菌種、ウイルス、時には原虫とともに数百種の細菌は、歯垢として知られる、歯の表面上に見られるザラザラした黄色がかった白色の沈着物として非常によく目に見える口腔微生物叢を形成する。・・・」、「【0007】したがって、口腔内に見られる細菌の増殖または代謝を止める、阻害する、または遅らせる原料を口腔ヘルスケア製品中に含めることが非常に望まれるようになってきている。【0008】抗菌剤は、口腔ヘルスケア製品中にしばしば見られる。一般的に含まれるのは、陽イオン性化合物のクロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、および塩化セチルピリジニウムである。・・・」との記載を指摘し、「口腔用組成物において、塩化セチルピリジニウム(B)や塩化ベンゼトニウム(C)を含有すれば、歯の表面上でザラザラとした感触・・・が一掃され、その結果として歯面がツルツルしていると感じられるであろうことは、当然に予測されるものであり、何ら格別顕著な作用効果をもたらすものではない。」(異議申立書9頁(iii))と主張する。
したがって、この主張は、本件発明1の効果「【0017】本発明によれば、グリセロリン酸及びその塩の刺激感が緩和され、苦味がなくサッパリとした嗜好性の良い使用感を有すると共に、歯牙のコーティング実感が高く、歯垢付着抑制実感付与効果に優れた、特に液体製剤として好適な口腔用組成物を提供できる。」のうちの、「歯牙のコーティング実感が高」いことについて、カチオン性殺菌剤を使用した場合の効果の予測性についての主張であると解される。
しかしながら、既に検討したとおり、効果の予測性を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1ないし4号証の記載に基づき、容易になし得たものではない。しかも、本件発明1の有する「歯牙のコーティング実感が高」いという効果は、本件特許明細書の実施例及び比較例から明らかなとおり、3成分を併用したことにより奏されるものであって、歯垢の形成を抑制する成分として周知の成分を用いたことのみによるものではない。

オ 以上のとおり、本件発明1は、甲第1ないし4号証の記載に基づき、当業者が容易になし得たものではない。

カ 本件発明2は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記ア?オの本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1ないし4号証の記載に基づき、当業者が容易になし得たものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

2 取消理由(B)(特許法第36条第6項第1号)について
異議申立人は、本件発明1ないし2は、(1)配合量を一切規定しない本件発明1ないし2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、(2)歯磨組成物を包含する本件発明1ないし2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する。そこで、それぞれについて以下に検討する。

(1)配合量を一切規定していない点について
ア 本件特許明細書の「【発明が解決しようとする課題】【0010】従って、グリセロリン酸又はその塩を配合した口腔用組成物においては、グリセロリン酸又はその塩の刺激感の緩和、使用感の改善が課題となっていた。更に、使用者が歯牙への歯垢付着が抑制されたと実感できる使用実感の向上が課題であった。【0011】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、グリセロリン酸及びその塩の刺激感が緩和され、苦味がなくサッパリとした使用感を有すると共に、歯面がツルツルしたと感じることができる高いコーティング実感を与え、歯垢付着抑制実感付与効果に優れた口腔用組成物を提供することを目的とする。」との記載からみて、本件発明1ないし2の解決しようとする課題は、「グリセロリン酸及びその塩の刺激感が緩和され、苦味がなくサッパリとした使用感を有すると共に、歯面がツルツルしたと感じることができる高いコーティング実感を与え、歯垢付着抑制実感付与効果に優れた口腔用組成物を提供すること」と解される。

イ 本件特許明細書には、各成分の配合量について、「【0020】成分(A)の配合量は、組成全体の0.005?1%(質量%、以下同様。)が好ましく、より好ましくは0.01?0.2%である。0.005%未満では成分(B)、(C)と併用してもコーティング実感、苦味の改善効果が十分に得られない場合がある。1%を超えると成分(A)自身の渋味・異味が強くなって使用感に劣る場合がある。」、「【0021】・・・成分(B)の配合量は、組成全体の0.01?0.1%が好ましく、より好ましくは0.02?0.08%である。0.01%未満では、成分(A)、(C)と併用してもコーティング実感が満足に発揮されない場合がある。0.1%を超えると、成分(B)自身の苦味が強くなって苦味を改善できない場合がある。」、「【0022】・・・成分(C)の配合量は、組成全体の0.005?0.1%が好ましく、より好ましくは0.008?0.05%である。0.005%未満では、サッパリ感が得られない場合がある。また、成分(A)、(B)と併用してもコーティング実感が満足に発現しない場合がある。0.1%を超えると、成分(C)自身の渋味・苦味・異味が生じ、使用感を改善できない場合がある。」と記載されている。
これらの数値限定の下限値は、いずれもこれより少ないと、所望とする効果を得られないとする値であり、かつ、上限値は、いずれもこれより多いと、各成分に周知の渋味、苦味などを感じるとする値であって、いずれも通常当業者が当然考慮する範囲を示したにすぎないものである。
しかも、例えば、甲第1号証の上記(1a)、(1e)や甲第2号証の上記(2a)、(2c)に示されているように、口腔用組成物にカルシウム塩やカチオン性殺菌剤を配合する際の通常の範囲といえる。
そして、本件発明1ないし2について、特許請求の範囲に配合量に関する発明特定事項がないとしても、口腔用組成物として使用し得る通常の範囲内の配合量を超える範囲を意味していないことは、当業者の技術常識に照らして明らかである。

ウ そうすると、本件特許明細書には、示された数値限定の範囲内の配合を採用した実施例において、本件発明1ないし2の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえるから、出願時の技術常識に照らせば、本件発明1ないし2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。

(2)歯磨組成物を包含する点について
本件特許明細書には、「【0030】本発明組成物は、特に配合成分が可溶化した液体口腔用組成物として好適に調製される。なお、本発明組成物は、歯磨剤のようなペースト状製剤においても有効であるが、このような製剤に比べて、洗口剤や液体歯磨剤のような液体製剤では特に苦味が強く発現するが、本発明によればかかる液体製剤で苦味を抑制しサッパリとした使用感を得ることができる。・・・」と記載されている。
そして、本件特許明細書の実施例、比較例から、液体製剤については、上記(1)で述べた本件発明1ないし2の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
そうすると、歯磨組成物より苦味が強く発現する液体製剤について、本件発明1ないし2の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載されているといえるから、出願時の技術常識に照らせば、液体製剤以外の歯磨組成物を包含する本件発明1ないし2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-26 
出願番号 特願2011-279156(P2011-279156)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61K)
P 1 652・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 憲一郎  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小久保 勝伊
関 美祝
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5729291号(P5729291)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 口腔用組成物  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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