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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1311839
異議申立番号 異議2015-700199  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-19 
確定日 2016-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5722182号「光音響撮像装置および光音響撮像方法」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5722182号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5722182号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成23年9月28日に特許出願され、平成27年4月3日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第5722182号の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件発明1」などと、本件発明と請求項の番号を組合わせていうこととする。)は、次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
被検部位に測定光を照射する光照射部、および、前記測定光の照射により前記被検部位内で発生した光音響波を検出する超音波振動子が一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子と、
前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得する情報取得部と、
前記超音波探触子の走査によって検出された前記光音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、光音響画像データを生成する画像データ生成部と、
前記少なくとも1つの方向と前記光音響画像データに係る撮像部位との前記実空間における位置関係が保持された状態で、前記第2の空間情報を前記光音響画像データに関連付ける関連付け部と、
第2の空間情報が関連付けられた前記光音響画像データについて、該第2の空間情報によって規定される前記少なくとも1つの方向の中から1つの方向を選択して、選択結果に基づいて視点とするべき方向を設定する視点設定部と、
前記視点とするべき方向から見られた画像として、前記光音響画像データに基づく光音響画像が表示部に表示されるように、前記光音響画像データを変換するデータ変換部と、
変換された前記光音響画像データに基づく前記光音響画像を表示する前記表示部とを備えることを特徴とする光音響撮像装置。
【請求項2】
前記視点設定部が、前記選択された1つの方向について、さらに順方向か逆方向かの選択をし、この選択結果も踏まえるものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響撮像装置。
【請求項3】
前記視点設定部が、複数生成された光音響画像データについて、前記複数の光音響画像データのそれぞれに関して前記視点とするべき方向として、同一の要素を選択するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の光音響撮像装置。
【請求項4】
前記情報取得部が、1フレーム分の撮像ごとに前記第1の空間情報を取得するものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光音響撮像装置。
【請求項5】
前記第1の空間情報によって規定される前記位置および前記向きのそれぞれが、予め設定された位置および向きと略一致した場合に、1フレーム分の撮像を実施するものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光音響撮像装置。
【請求項6】
前記情報取得部が、磁気センサユニットを含み、該磁気センサユニットを用いて前記第1の空間情報および前記第2の空間情報を取得するものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の光音響撮像装置。
【請求項7】
光音響撮像用の超音波探触子を備える光音響撮像装置を用いて、
前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、被検体の被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得し、
前記超音波探触子の走査によって検出された、測定光の照射により前記被検部位内で発生した光音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、光音響画像データを生成し、
前記少なくとも1つの方向と前記光音響画像データに係る撮像部位との前記実空間における位置関係が保持された状態で、前記第2の空間情報を前記光音響画像データに関連付け、
第2の空間情報が関連付けられた前記光音響画像データについて、該第2の空間情報によって規定される前記少なくとも1つの方向の中から1つの方向を選択して、選択結果に基づいて視点とするべき方向を設定し、
選択された前記1つの方向から見られた画像として、前記光音響画像データに基づく光音響画像が表示部に表示されるように、前記光音響画像データを変換し、
変換された前記光音響画像データに基づく前記光音響画像を表示することを特徴とする光音響撮像方法。
【請求項8】
前記選択された1つの方向について、さらに順方向か逆方向かの選択をし、この選択結果も踏まえることを特徴とする請求項7に記載の光音響撮像方法。
【請求項9】
複数生成された光音響画像データについて、前記複数の光音響画像データのそれぞれに関して前記視点とするべき方向として、同一の要素を選択することを特徴とする請求項7または8に記載の光音響撮像方法。
【請求項10】
1フレーム分の撮像ごとに前記第1の空間情報を取得することを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の光音響撮像方法。
【請求項11】
前記第1の空間情報によって規定される前記位置および前記向きのそれぞれが、予め設定された位置および向きと略一致した場合に、1フレーム分の撮像を実施することを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の光音響撮像方法。
【請求項12】
磁気センサユニットを用いて前記第1の空間情報および前記第2の空間情報を取得することを特徴とする請求項7から11いずれかに記載の光音響撮像方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として次の甲各号証(以下、甲第1号証を「甲1」のように甲と番号を組合わせていうこととする。)を提出した。
甲1:特開2005-296436号公報
甲2:特開2003-325514号公報
甲3:特開2010-259536号公報
甲4:特開2011-125571号公報
甲5:特開2010-57730号公報
甲6:特開2008-173216号公報
甲7:特開2005-124712号公報

そして、特許異議申立書の29?30頁「(5)むすび」の項に記載された条文に鑑み、申立理由を整理すると、次の(申立理由1)及び(申立理由2)を特許異議申立人は主張している。(以下、甲1に記載されている発明を「甲1発明」、甲2に記載されている事項等を「甲2記載事項」等という。)

(申立理由1)
本件発明1ないし3、6ないし9及び12は、甲1発明および甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。
本件発明4及び10は、甲1発明ならびに甲2記載事項および甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。
本件発明5及び11は、甲1発明ならびに甲2記載事項、甲4記載事項および甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。

(申立理由2)
本件発明1および7は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、取り消すべきものである。

第4 申立理由1についての検討

1 甲各号証記載の事項
(1)甲1記載の事項
甲1には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付加したものである。以下、同様。)

(甲1ア)「【0014】
図1に示すように、超音波診断装置は、超音波断層像を再構成する系統と、リファレンス断層像を再構成する系統に大別される。超音波断層像を再構成する系統は、被検体との間で超音波を送受する複数の振動子が例えば円弧状に配列された超音波探触子である探触子10と、探触子10に駆動信号を供給すると共に、探触子10から出力される反射エコー信号に対し増幅、アナログディジタル変換、整相加算などの処理を施す送受信部12と、送受信部12から出力される反射エコー信号に基づき超音波断層像を再構成する超音波像構成部14と、再構成された超音波断層像を記憶する画像メモリ16と、画像メモリ16から読み出される超音波断層像を表示する表示部18を有して構成されている。
【0015】
探触子10に位置センサ20が貼り付けられている。位置センサ20は、ベッドなどに取り付けられたソース22から発生する例えば磁気信号を検知する磁気センサを有して構成されている。位置センサ20により、ソース座標系Sにおける探触子10の三次元的な位置及び傾きが検出される。ソース座標系Sは、ソース22を原点Soとする三次元直交座標系であり、X軸を被検体が横たわるベッドの短手方向、Y軸をベッドの長手方向、Z軸を鉛直方向に合わせられている。なお、ソース座標系Sは、三次元直交座標系に限らず、探触子10の位置を特定できるものであればよい。また、位置センサ20は、磁場を利用するものに限らず、例えば光を利用したものでもよい。
【0016】
一方、本発明に係るリファレンス断層像を再構成する系統は、探触子10を超音波スキャン面に対して垂直方向に走査させたときに送受信部12から出力される3次元ボリュームデータ(以下、ボリュームデータという。)を被検体に予め設定された被検体座標系Pに対応付けるボリュームデータ作成部26と、ボリュームデータ作成部26から出力されるボリュームデータを記憶する記憶手段としてのボリュームデータ記憶部28と、ボリュームデータ記憶部28のボリュームデータから所定の断層像データを抽出してリファレンス断層像を再構成し、再構成したリファレンス断層像を画像メモリ16に出力する抽出手段であるリファレンス像構成部30などを有している。」

(甲1イ)「【0023】
次に、原点Voに位置した探触子10を超音波スキャン面に対し垂直な方向に走査する。これによって、各走査ラインで反射エコー信号が取得される。取得された反射エコー信号は、探触子10の位置及び傾きに基づき三次元ボリュームデータ(以下、ボリュームデータという。)として送受信部12からボリュームデータ作成部26に出力される(S108)。そのときの探触子10の走査範囲が、ボリュームデータ領域(SizeX、SizeY、SizeZ)として設定される。なお、探触子10が蛇行して走査されたときでも、位置センサ20の検出値を用いることにより、ボリューム座標系Vの各座標に対応させてボリュームデータを取得することができる。取得されたボリュームデータは、患部(例えば、腹部の腫瘍)に対応したデータを含んでいる。また、取得したボリュームデータのデータ数が少ないときは、重み付け係数などに基づいて補間処理を施すことにより、データ数を増大させることができる。」

(甲1ウ)「【0026】
次に、ボリュームデータ領域に対し探触子10より超音波走査が行われる(S208)。超音波走査により超音波断層像(例えば、治療後断層像という。)が表示される(S209)。表示された超音波断層像に患部が描出されたとき、その治療後断層像のスキャン面が制御部40により算出される(S210)。例えば、操作卓41を介して又は自動的に、腫瘍を描出させたときの探触子10の位置や傾きが制御部40に取り込まれる。取り込まれた位置や傾きに基づいて治療後断層像のスキャン面の被検体座標系Pにおける座標位置が算出される。算出されたスキャン面に対応する断層像データが、ボリュームデータ記憶部28のボリュームデータから抽出される(S212)。抽出された断層像データが、リファレンス像構成部30によりリファレンス断層像(例えば、治療前断層像という。)として再構成される(S214)。再構成された治療前断層像は、S210の処理で表示された治療後断層像と並べて同一画面に同一時に表示部18に表示される(S216)。」

(甲1エ)図1


(2)甲2記載の事項
甲2には、次の事項が記載されている。

(甲2ア)「【0026】ボリューム変換部16は、例えばデジタルスキャンコンバータ(DSC)などによって構成されており、信号処理部14で処理されたエコー信号に対し、座標変換処理を施す。すなわち、エコー信号は電子走査及び機械走査による超音波ビームの三次元走査に従って取り込まれるが、このエコー信号上の各点の信号データ(エコーデータ)を後の表示処理等のためにXYZ座標系(三次元デカルト座標系)アドレスにマッピングするのが、このボリューム変換部16である。このXYZ座標系での空間の分割単位がボクセルである。ボリューム変換部16により得られた各ボクセルのエコーデータは、ボリュームメモリ18に格納される。ボリュームメモリ18は、3Dプローブ10による三次元走査1回分以上のエコーデータを格納可能であり、三次元デカルト座標系に従ったアドレス指定によりデータの読み書きが可能である。このボリュームメモリ18は、3Dプローブ10が走査する立体領域を内包する、直方体等の形状の三次元領域のボクセルデータを格納することができる。」

(甲2イ)「【0031】三次元画像形成部26には、ボリュームメモリ18に格納された各ボクセルのエコーデータeiをもとに、上述した(1)式を基礎としたボリュームレンダリング演算を行うことにより、被検体の三次元画像を形成する。このボリュームレンダリング演算による三次元画像形成処理には、前述した特開平10-33538号公報などに開示されている技術を利用すればよい。ボリュームレンダリング演算の演算条件は、コントローラ36によって設定される。また、ボリュームレンダリング演算において必要な各ボクセルのオパシティ値は、あらかじめ記憶されているオパシティ関数から求められる。
【0032】ここで、ボリュームレンダリング演算の際のレイの方向、すなわち視線方向は、入力装置38からユーザ選択可能である。入力装置38によりユーザが指定した視線方向は、コントローラ36を介して三次元画像形成部26に指示され、三次元画像形成部26はこの視線方向についてボリュームレンダリング演算を行う。」

(甲2ウ)「【0042】この例では、Z軸の正方向を正面視方向、X軸の負方向を側面視方向、Y軸の正方向を上面視方向と呼び、これら三方向とその逆方向の合計6方向をボリュームレンダリング演算の視線方向として選択可能としている。」

(甲2エ)「【0047】また、この四面表示画面200では、直交断面の断層像202a、202b、202cのうちの2つの断層像に対し、三次元画像204の視線方向を示す視線方向マーク220を表示する。図5の例では、三次元画像204は正面視方向の画像であるため、側面視及び上面視の断層像202b、202cに視線方向マーク220が示されている。なお、この例では、矢印の視線方向マーク220を用いているが、ユーザが方向を理解できるものであればどのような表示形態のものでも視線方向の表示として用いることができる。なお、三次元画像204に上面視方向の画像を表示した場合の視線方向マーク220の表示例を図6に示す。図6の例では、正面視方向及び側面視方向の断層像202a、202bに視線方向マーク220が示されている。」

2 本件発明1について

(1)本件発明1の特定事項
本件発明1は、当審において(A)?(H)の見出しを付けて文節すると、次のとおりである。

「(A)被検部位に測定光を照射する光照射部、および、前記測定光の照射により前記被検部位内で発生した光音響波を検出する超音波振動子が一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子と、
(B)前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得する情報取得部と、
(C)前記超音波探触子の走査によって検出された前記光音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、光音響画像データを生成する画像データ生成部と、
(D)前記少なくとも1つの方向と前記光音響画像データに係る撮像部位との前記実空間における位置関係が保持された状態で、前記第2の空間情報を前記光音響画像データに関連付ける関連付け部と、
(E)第2の空間情報が関連付けられた前記光音響画像データについて、該第2の空間情報によって規定される前記少なくとも1つの方向の中から1つの方向を選択して、選択結果に基づいて視点とするべき方向を設定する視点設定部と、
(F)前記視点とするべき方向から見られた画像として、前記光音響画像データに基づく光音響画像が表示部に表示されるように、前記光音響画像データを変換するデータ変換部と、
(G)変換された前記光音響画像データに基づく前記光音響画像を表示する前記表示部と
(H)を備えることを特徴とする光音響撮像装置。」

(2)甲1に記載された発明の認定

上記「1(1)」の(甲1ア)?(甲1エ)の記載を総合すると、甲1には、
「(a)被検体との間で超音波を送受する複数の振動子が円弧状に配列された超音波探触子である探触子10と、
(b)探触子10には、位置センサ20が貼り付けられ、位置センサ20により、ソース座標系Sにおける探触子10の三次元的な位置及び傾きが検出され、ソース座標系Sは、ソース22を原点Soとする三次元直交座標系であり、X軸を被検体が横たわるベッドの短手方向、Y軸をベッドの長手方向、Z軸を鉛直方向に合わせられており、
(c)探触子10を超音波スキャン面に対して垂直方向に走査し、これによって取得された反射エコー信号は、探触子10の位置及び傾きに基づき3次元ボリュームデータ(以下、ボリュームデータという。)としてボリュームデータ作成部26に出力する送受信部12と、
(d)ボリュームデータから所定の断層像データを抽出してリファレンス断層像を再構成する抽出手段であるリファレンス像構成部30と、
(e)再構成されたリファレンス断層像を表示する表示部18とを有している、
(f)超音波診断装置。 」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)本件発明1と甲1発明との対比

ア 対比
(ア)本件発明1(A)の特定事項について
甲1発明(a)の「複数の振動子が円弧状に配列された超音波探触子である探触子10」は、本件発明1(A)の「一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子」に相当する。
よって、甲1発明(a)の「被検体との間で超音波を送受する複数の振動子が円弧状に配列された超音波探触子である探触子10」と、本件発明1(A)の「被検部位に測定光を照射する光照射部、および、前記測定光の照射により前記被検部位内で発生した光音響波を検出する超音波振動子が一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子」とは、「被検部位内からの音響波を検出する超音波振動子が一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子」である点で共通する。

(イ)本件発明1(B)の特定事項について
甲1発明(b)の「位置センサ20」は、「ソース座標系Sにおける探触子10の三次元的な位置及び傾き」を「検出」するものであるから、本件発明1(B)の「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得」「する情報取得部」に相当する。
よって、甲1発明(b)の「位置センサ20」と、本件発明1(B)の「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得する情報取得部」とは、「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得する情報取得部」である点で共通する。

(ウ)本件発明1(C)の特定事項について
甲1発明(c)の「送受信部12」は、「探触子10を超音波スキャン面に対して垂直方向に走査し、これによって取得された反射エコー信号は、探触子10の位置及び傾きに基づき3次元ボリュームデータ(以下、ボリュームデータという。)としてボリュームデータ作成部26に出力する」ものであるから、「反射エコー信号」および「探触子10の位置及び傾きに基づき3次元ボリュームデータ」を生成していることは、明らかである。
よって、甲1発明(c)の「送受信部12」と、本件発明1(C)の「前記超音波探触子の走査によって検出された前記光音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、光音響画像データを生成する画像データ生成部」とは、「前記超音波探触子の走査によって検出された前記音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、音響画像データを生成する画像データ生成部」である点で共通する。

(エ)本件発明1(F)の特定事項について
甲1発明(d)の「リファレンス像構成部30」は、「ボリュームデータから所定の断層像データを抽出してリファレンス断層像を再構成する」するものであり、(e)「再構成されたリファレンス断層像」は、「表示部18」に「表示」される。
よって、甲1発明(d)の「リファレンス像構成部30」と、本件発明1(F)の「前記視点とするべき方向から見られた画像として、前記光音響画像データに基づく光音響画像が表示部に表示されるように、前記光音響画像データを変換するデータ変換部」とは、「前記音響画像データに基づく音響画像が表示部に表示されるように、前記音響画像データを変換するデータ変換部」である点で共通する。

(オ)本件発明1(G)の特定事項について
甲1発明(e)の「表示部18」は、「再構成されたリファレンス断層像を表示する」ものである。
よって、甲1発明(e)の「表示部18」と、本件発明1(G)の「変換された前記光音響画像データに基づく前記光音響画像を表示する前記表示部」とは、「変換された前記音響画像データに基づく前記音響画像を表示する前記表示部」である点で共通する。

(カ)本件発明1(H)の特定事項について
甲1発明(f)の「超音波診断装置」と、本件発明1(H)の「光音響撮像装置」とは、「音響撮像装置」である点で共通する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁に記載しているように、甲1を、b「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する空間情報」と、「実空間の鉛直方向をZ軸とする被検体座標系Pを取得」し、c「前記超音波探触子の走査によって検出された前記超音波、および前記走査中に取得された前記空間情報に基づいて、ボリュームデータである超音波画像データを生成」し、d「探触子10を超音波スキャン面に対して垂直方向に走査させたときに取得された超音波画像データの各ボクセルを前記被検体座標系Pの座標に対応付けることにより、前記被検体座標系Pで定義されたボリュームデータである超音波画像データを生成する」ことを含む発明としている。
その上で、特許異議申立書の18?19頁に記載しているように、本件特許発明1(「本件発明1」に相当する。)と甲1発明を対比しており、ここで、一致点として、「甲1発明の構成bにおける『被検体座標系PのZ軸』は、本件特許発明1の構成Bにおける『前記実空間の鉛直方向』に相当するため、甲1発明の構成bにおける『被検体座標系P』は、本件特許発明1の構成Bにおける『第2の空間情報』に相当する。よって甲1発明の構成bは本件特許発明の構成Bに相当する。」としており、また、「甲1発明の構成dにおける『超音波画像データの各ボクセルを前記被検体座標系Pの座標に対応付けることにより、前記被検体座標系Pで定義された超音波画像データを生成する』ことは、第2の空間情報である被検体座標系Pに関連付けることに他ならない。よって甲1発明の構成dは本件特許発明の構成Dに相当する。」としている。
しかしながら、甲1の「実空間の鉛直方向をZ軸とする被検体座標系P」は、ボリューム座標系Vであれ、ソース座標系Sに関連付けて、「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する空間情報」(本件発明1の「第1の空間情報」に相当する。)を表現するための座標系にすぎず、甲1発明の構成bにおける「被検体座標系P」が、本件発明1の構成Bにおける「第2の空間情報」に相当するとはいえない。
そして、この点を踏まえると、甲1発明の構成dにおける「超音波画像データの各ボクセルを前記被検体座標系Pの座標に対応付けることにより、前記被検体座標系Pで定義されたボリュームデータである超音波画像データを生成する」ことは、第2の空間情報に関連付けることではないから、甲1発明の構成dは、本件発明1の構成Dに相当するとはいえない。

イ 一致点
よって、本件発明1と甲1発明は、
「被検部位内からの音響波を検出する超音波振動子が一次元に配列したアレイ振動子を有する超音波探触子と、
前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得する情報取得部と、
前記超音波探触子の走査によって検出された前記音響波、および前記走査中に取得された前記第1の空間情報に基づいて、音響画像データを生成する画像データ生成部と、
前記音響画像データに基づく音響画像が表示部に表示されるように、前記音響画像データを変換するデータ変換部と、
変換された前記音響画像データに基づく前記音響画像を表示する前記表示部とを備える、音響撮像装置。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
(相違点1)
本件発明1では、(B)「前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得する情報取得部」と、(D)「前記少なくとも1つの方向と前記光音響画像データに係る撮像部位との前記実空間における位置関係が保持された状態で、前記第2の空間情報を前記光音響画像データに関連付ける関連付け部」と、(E)「第2の空間情報が関連付けられた前記光音響画像データについて、該第2の空間情報によって規定される前記少なくとも1つの方向の中から1つの方向を選択して、選択結果に基づいて視点とするべき方向を設定する視点設定部」と、(F)「前記視点とするべき方向から見られた画像として、」変換するデータ変換部とを備えているのに対し、甲1発明では、これらの特定事項を備えていない点。

(相違点2)
本件発明1は、(A)「被検部位に測定光を照射する光照射部、および、前記測定光の照射により前記被検部位内で発生した光音響波を検出する」超音波探触子を備えた(H)「光音響撮像装置」であるのに対し、甲1発明は、(a)「被検体との間で超音波を送受する」「探触子10」を備えた(f)「超音波診断装置」である点。

(4)本件発明1についての当審の判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
(ア)甲2には、上記「1(2)」の(甲2ア)?(甲2エ)の記載を総合すると、
エコー信号上の各点の信号データ(エコーデータ)を後の表示処理等のためにXYZ座標系(三次元デカルト座標系)アドレスにマッピングし、
ボリュームメモリ18に格納された各ボクセルのエコーデータeiをもとに、ボリュームレンダリング演算を行うことにより、被検体の三次元画像を形成し、ここで、ボリュームレンダリング演算の際のレイの方向、すなわち視線方向は、入力装置38からユーザ選択可能であり、例えば、Y軸の正方向をボリュームレンダリング演算の視線方向として選択可能とし、
三次元画像204に上面視方向の画像を表示した点が記載されている。

(イ)ここで、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と、上記甲2記載事項とを対比すると、甲2記載事項の「ボリュームメモリ18に格納された各ボクセルのエコーデータei」は、「XYZ座標系(三次元デカルト座標系)アドレスにマッピングし」たものであり、本件発明1の「光音響画像データ」ように、「超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する」「第1の空間情報に基づいて」「生成」したものでない。
また、甲2は、「ボリュームメモリ18に格納された各ボクセルのエコーデータeiをもとに」、「ボリュームレンダリング演算の際」、「Y軸の正方向を」「視線方向として選択可能とし」ているが、本件発明1のように、「前記光音響画像データに」、「前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を」、「視点とするべき方向」として「関連付ける」ものでもない。

(ウ)以上のとおり、甲2には、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項について、特に上記(イ)で述べたように、「超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する」「第1の空間情報に基づいて」「生成」した「光音響画像データ」に対して、「前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を」、「視点とするべき方向」として「関連付ける」点について、記載もなければ示唆もされていない。また、この点は、甲3ないし7のいずれにも記載も示唆されていない。

(5)小括
よって、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明および甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

3 本件発明2、3及び6について
本件発明2、3及び6は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明および甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

4 本件発明7ないし9及び12について
本件発明7においても、本件発明1同様、「超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する」「第1の空間情報に基づいて」「生成」した「光音響画像データ」に対して、「被検体の被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を」、「視点とするべき方向」として「関連付け」る点が特定されている。
よって、本件発明7は、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明および甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。
また、本件発明8、9及び12は、本件発明7を更に減縮したものであるから、上記本件発明7についての判断と同様の理由により、甲1発明および甲2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

5 本件発明4及び10について
本件発明4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明ならびに甲2記載事項および甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。
また、本件発明10は、本件発明7を更に減縮したものであるから、上記本件発明7についての判断と同様の理由により、甲1発明ならびに甲2記載事項および甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

6 本件発明5及び11について
本件発明5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明ならびに甲2記載事項、甲4記載事項および甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。
また、本件発明11は、本件発明7を更に減縮したものであるから、上記本件発明7についての判断と同様の理由により、甲1発明ならびに甲2記載事項、甲4記載事項および甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

第5 申立理由2についての検討

1 本件発明1について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、発明の詳細な説明において、第1の空間情報および第2の空間情報を取得する手段として、磁気センサユニットのみが記載されているところ、本件発明1の「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、前記被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得する情報取得部」という表現は、磁気センサ以外のセンサを含む表現であり、本件発明の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明に開示された内容を、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化できるものとはいえないと主張している。

(2)上記主張について当審の判断
音響撮像技術において、超音波探触子の空間情報を取得する手段としては、磁気センサであれ光センサであれ、超音波探触子の位置およびその向きが計測できるものであれば、どのように構成されもよいことは、甲1(段落「【0015】・・・位置センサ20は、磁場を利用するものに限らず、例えば光を利用したものでもよい。」)、甲3(段落「【0019】・・・本実施形態の位置姿勢計測装置300としては、超音波プローブの位置及び姿勢が計測できるものであれば、どのように構成されてもよい。」)などに記載されているように、本件発明の出願時の技術常識であり、当該技術常識に照らし、発明の詳細な説明に記載された磁気センサユニットを、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化した記載とすることができないとはいえない。

(3)小括
よって、請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこととはいえず、特許異議申立人の上記主張によっては、請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。

2 本件発明7について
(1)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人は、発明の詳細な説明において、第1の空間情報および第2の空間情報を取得する手段として、磁気センサユニットのみが記載されているところ、本件発明7の「前記超音波探触子の実空間における位置およびその向きを規定する第1の空間情報を取得し、かつ、被検体の被検部位の前記実空間における軸の向き、前記超音波探触子の前記実空間における走査方向、および前記実空間の鉛直方向のうち少なくとも1つの方向を規定する第2の空間情報を取得し、」という表現は、磁気センサ以外のセンサを含む表現であり、本件発明の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明に開示された内容を、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化できるものとはいえないと主張している。

イ また、特許異議申立人は、発明の詳細な説明において、超音波探触子としては、1次元状に配列された複数の超音波振動子22aから構成されるアレイ振動子のみが記載されているところ、本件発明7の「光音響撮像用の超音波探触子」という表現は、これ以外の振動子配列形状を含む表現となっており、本件発明の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明に開示された内容を、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化できるものとはいえないと主張している。

(2)上記ア及びイの主張について当審の判断

(上記アについて)
上記「1(2)」に示した判断と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された磁気センサユニットを、本件発明7の範囲まで拡張ないし一般化した記載とすることができないとはいえない。

(上記イについて)
音響撮像技術において、超音波探触子としては、1次元アレイ振動子であれ2次元アレイ振動子であれ、音響画像を撮像できれば、どのように構成されもよいことは、甲2(段落「【0023】もちろん、いわゆる2Dアレイ振動子を用いて三次元空間を形成してもよいし、・・・」)、甲5(段落「【0003】 光音響トモグラフィ診断装置では、・・・発生する音響波を複数の微小振動素子を配列した1次元、または2次元の微小振動子アレイにより受信する。1次元、または2次元の微小振動子アレイとしては、通常超音波診断装置で用いられるプローブに類するものが使用されることが多い。」)、甲6(段落「【0015】・・・2Dアレイ振動子に代えて、1Dアレイ振動子を機械的に走査することによって三次元空間Vを形成することも可能である。・・・」)などに記載されているように、本件発明の出願時の技術常識であり、当該技術常識に照らし、発明の詳細な説明に記載された1次元状に配列された複数の超音波振動子22aから構成されるアレイ振動子を、本件発明7の範囲まで拡張ないし一般化した記載とすることができないとはいえない。

(3)小括
よって、請求項7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこととはいえず、特許異議申立人の上記主張によっては、請求項7に係る発明の特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上検討したとおり、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-21 
出願番号 特願2011-212134(P2011-212134)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61B)
P 1 651・ 121- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 樋熊 政一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
▲高▼橋 祐介
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5722182号(P5722182)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 光音響撮像装置および光音響撮像方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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