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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1311846
異議申立番号 異議2015-700278  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-09 
確定日 2016-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第5730376号「増粘用組成物及びその製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5730376号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5730376号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年11月1日に特許出願され、平成27年4月17日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人袴田忠士により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5730376号の請求項1?7に係る発明は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下それぞれ「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
増粘多糖類と、金属塩を封入したデキストリンとを含む増粘用組成物であって、増粘多糖類と、金属塩を封入したデキストリンの質量比が46:54?70:30であり、増粘多糖類100質量部に対する金属塩の質量部が3.5?12.8質量部である増粘用組成物。
【請求項2】
デキストリンのDEが8?25である、請求項1に記載の増粘用組成物。
【請求項3】
金属塩が乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸三ナトリウム及びクエン酸三カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の増粘用組成物。
【請求項4】
増粘多糖類がキサンタンガム及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種である第一の増粘多糖類である、請求項1?3のいずれか1項に記載の増粘用組成物。
【請求項5】
増粘多糖類がさらに、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム及びグルコマンナンからなる群から選択される少なくとも1種の第二の増粘多糖類を含む、請求項4に記載の増粘用組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の増粘用組成物を含有する飲食品。
【請求項7】
デキストリンと金属塩を水に混合溶解、均質化した後、乾燥して金属塩を封入したデキストリンを得る工程と、該金属塩を封入したデキストリンを増粘多糖類に添加して混合又は造粒する工程を含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載の増粘用組成物の製造方法。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として
甲第1号証;特開2013-111035号公報、
甲第2号証;特開2009-55号公報、
甲第3号証;特開昭54-126742号公報及び
甲第4号証;国際公開第2007/136083号
を提出し、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべき旨主張している。

4.甲各号証の記載事項
[甲第1号証]
(1a)「【請求項1】
金属塩を含有する澱粉分解物と増粘多糖類とを含む分散性の改善された増粘組成物。
【請求項2】
金属塩の含有量が、澱粉分解物100質量部に対し、0.5?40質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の増粘組成物。
【請求項3】
金属塩がカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の増粘組成物。
【請求項4】
粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が、金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一つに記載の増粘組成物。」

(1b)「【0027】
本発明において、増粘組成物とは金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類とを含むものであり、増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比は、金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1、好ましくは60:40?99:1、より好ましくは65:35?99:1、最も好ましくは70:30?99:1である。金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45より金属塩含有澱粉分解物の含有比が小さい場合は分散性の改善が認められない。」

(1c)段落【0064】の表5及び段落【0065】の表6には、澱粉分解物の含有比の異なる実施品、比較品に対し分散性評価試験を実施した評価として、金属塩含有澱粉分解物の含有比が請求項1において特定されている含有比より小さい比較品は、いずれも分散性の評価において「+++(分散性が悪く、大きなダマが多数発生)」であることが示されている。

以上の記載から、甲第1号証には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「金属塩を含有する澱粉分解物と増粘多糖類とを含む分散性の改善された増粘組成物。」

[甲第2号証]
<省略>

[甲第3号証]
(3a)「(1) キサンタンガム、植物性種子ガム、水溶性でん粉分解物および食塩を含有してなる食品用増粘剤。」(特許請求の範囲)

(3b)「本発明の食品用増粘剤における各成分の比率は、重量比において、キサンタンガム1に対して、植物性種子ガムが0.3乃至0.6程度、水溶性でん粉分解物が0.6乃至2.0程度、食塩が0.3乃至1.0程度である。好ましくは,キサンタンガム1に対して、植物性種子ガムが0.4乃至0.5程度,水溶性でん粉分解物が0.7乃至1.5程度、食塩が0.4乃至0.7程度である。また,キサンタンガムと植物性種子ガムとの比率が約2対1のときに、好ましい場合がある。」(第2頁右上欄11?20行)

(3c)「実施例1
キサンタンガム25g,グアーガム10g,デキストリン40gおよび食塩25gを混合し、食品用増粘剤を得た。
実施例2
キサンタンガム40g,グアーガム20g,デキストリン25gおよび食塩15gを混合し、食品用増粘剤を得た。」(第3頁右上欄20行?同左下欄7行)

[甲第4号証]
<省略>

5.対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「金属塩を含有する澱粉分解物」は、本件発明1の「金属塩を封入したデキストリン」に相当する。
よって、両者は、
「増粘多糖類と、金属塩を封入したデキストリンとを含む増粘用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件発明1では、増粘多糖類と、金属塩を封入したデキストリンの質量比が46:54?70:30であり、増粘多糖類100質量部に対する金属塩の質量部が3.5?12.8質量部であるのに対し、 甲1発明では、そのような特定がない点。

そして、上記相違点により本件特許明細書記載の効果を奏するものであり、上記相違点は、設計上の微差とはいえず、実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

なお、異議申立人は、「増粘多糖類100質量部に対する金属塩の質量部」について、甲1の段落【0046】表2の実施品2、6?9及び17における「調整品金属含有量」及び「キサンタンガム:調整品」の数値を用いて、上記各実施品は、本件発明1の「増粘多糖類100質量部に対する金属塩の質量部が3.5?12.8質量部」の範囲内であるので、一致点としているが、上記各実施品のキサンタンガム(増粘多糖類)と調整品(金属塩を封入したデキストリン)の比率は、本件発明1を満たすものではなく、そして、当該比率は上記「増粘多糖類100質量部に対する金属塩の質量部」の値に影響するものであることから、上記一部の数値のみを用いて甲第1号証に記載された発明を認定することはできない。

また、上記相違点を検討すると、
甲第1号証において、請求項4には「増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が、金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一つに記載の増粘組成物。」(記載事項(1a)参照)、段落【0027】には「本発明において、増粘組成物とは金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類とを含むものであり、増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比は、金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1、好ましくは60:40?99:1、より好ましくは65:35?99:1、最も好ましくは70:30?99:1である。金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45より金属塩含有澱粉分解物の含有比が小さい場合は分散性の改善が認められない。」(記載事項(1b)参照)と記載され、「金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1」(増粘多糖類:金属塩を封入したデキストリンの質量比が45:55?1:99)とされ、それより金属塩含有澱粉分解物の含有比が小さい場合は分散性の改善が認められないとされている。さらに、実施例においても、それより金属塩含有澱粉分解物の含有比が小さい比較品は、いずれも分散性の評価において「+++(分散性が悪く、大きなダマが多数発生)」と、最低の評価になっている。
そうすると、甲第1号証において分散性の改善が認められないとする上記相違点の本件発明1に係る「増粘多糖類と、金属塩を封入したデキストリンの質量比が46:54?70:30」を、当業者が採用する動機付けはない。
また、甲第3号証には、食品用増粘剤において、「キサンタンガム1に対して、植物性種子ガムが0.3乃至0.6程度、水溶性でん粉分解物が0.6乃至2.0程度、食塩が0.3乃至1.0程度である」ことが記載され、それらの最大値及び最小値の組み合せから「(キサンタンガム+植物性種子ガム):(水溶性でん粉分解物+食塩)」が、30:70?64:36であることが算出される。しかし、水溶性でん粉分解物(デキストリン)は、食塩(金属塩)を封入したものではなく、その前提が甲1発明とは相違し、また、(キサンタンガム+植物性種子ガム)100質量部に対する食塩(金属塩)の質量部は、最低でも18.8質量部((1+0.6):0.3=100:18.8)と上記相違点の範囲外の値であるので、甲第3号証に「(キサンタンガム+植物性種子ガム):(水溶性でん粉分解物+食塩)」が上記相違点の増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比の範囲に入り得る記載があるからといって、当業者が直ちに甲1発明に適用することを想到し得るものではなく、また、仮に適用したとしても本件発明1に構成し得るものではない。
さらに、甲第2号証及び甲第4号証にも、上記相違点を容易になし得たとすることができる根拠は示されていない。

よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明及び甲2?4に記載された事項から容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明及び甲第2?4号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-09 
出願番号 特願2013-228607(P2013-228607)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 窪田 治彦
鳥居 稔
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5730376号(P5730376)
権利者 松谷化学工業株式会社
発明の名称 増粘用組成物及びその製造方法  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  

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