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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
管理番号 1311855
異議申立番号 異議2015-700269  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2016-02-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5727660号「セルロースナノファイバー水分散体の製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5727660号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5727660号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年10月1日に出願され、平成27年4月10日にその特許権の設定の登録がされ、同年6月3日にその特許公報が発行され、その後、同年12月3日に特許異議申立人白井雅惠(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5727660号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?7に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(i)原料パルプをアルカリセルロース化し、更に、カルボキシメチル化してカルボキシメチルセルロース(CMC)塩を製造する工程、
(ii)前記CMC塩を部分酸型CMCに変換する工程、
(v)得られた部分酸型CMC塩を解繊分散処理する工程、
を有する部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法であって、
前記、部分酸型CMCがCMC塩のアルカリ塩の部分を部分的に酸型に変換したものであり、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法。
【請求項2】
(i)原料パルプをアルカリセルロース化し、更に、カルボキシメチル化してカルボキシメチルセルロース(CMC)塩を製造する工程、
(ii)前記CMC塩を部分酸型CMCに変換する工程、
(iii)前記部分酸型CMCを洗浄する工程、
(iv)洗浄した部分酸型CMCと、所定量のアルカリを反応させる工程、
(v)得られた部分酸型CMC塩を解繊分散処理する工程、
を有する部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法であって、
前記、部分酸型CMC塩がCMC塩のアルカリ塩の部分を部分的に酸型に変換したものであり、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の溶媒を除去する工程、を有する部分酸型CMC塩ナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体。
【請求項5】
請求項1または2記載の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体を含有する食品。
【請求項6】
20℃におけるpHが3.0?5.5である、請求項5記載の食品。
【請求項7】
請求項1または2記載の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体を含有する、20℃におけるpHが3.0?5.5である化粧料。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第36条第6項第1号(以下「理由1」という。)
本件発明1?7は発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
特許異議申立人は、具体的には以下の理由を示している。
本件発明1及び2は「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」ことを備える。しかし実施例において具体的に効果が開示されているのは全置換度(グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度)が0.21?0.60かつ酸型置換基比率が23.3?61.9%である場合のみである。
甲2号証には「セルロ-スナノファイバーの表面に存在するカルボキシル基がナトリウム塩などの塩を形成し、親水性が高い状態となっているため、ナノファイバー分散液から調製したフィルムや繊維は、高湿度環境下で容易に吸湿・膨潤し、寸法が変化するなどの・・・問題を生じている」(甲2号証段落0005)、「カルボキシル基を酸型(-COOH)に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題がある」(甲2号段落0006)との開示がある。すなわち、ナトリウム塩型が多い場合つまり酸型置換基比率が低い場合には、セルロースナノファイバーが高湿度環境下で容易に吸湿・膨潤することが開示されており、このことは水分散液とした場合に分散液が経時変化しやすいことを示唆している。一方、酸型が多い場合つまり酸型置換基比率が高い場合(なお、審判請求書には「低い場合」と記載されているが、酸型が多い場合であるから、酸型置換比率が「高い場合」の誤記であると認める。)にはナノファイバーが得られない可能性が示唆される。
前述のとおり本件特許明細書において具体的に効果が示されているのは全置換度が0.21?0.60で酸型置換基比率が23.3?61.9%の範囲であり、本件発明1及び2で特定する全置換度が下限付近であってかつ酸型置換基比率も下限付近である場合や、全置換度が上限付近であってかつ酸型置換基比率も上限付近である場合おいて所期の効果が奏されるかどうかは明らかでない。
したがって本件発明1及び2は明細書に開示されていない範囲を含む。よって、本件発明1及び2、ならびにこれらを引用する本件発明3?7についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取消されるべきである。

2 特許法第36条第4項第1号(以下「理由2」という。)
発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
特許異議申立人は、具体的には以下の理由を示している。
上記1で述べたとおり、本件発明1及び2は明細書に開示されていない範囲を含む。したがって、本件発明1及び2、ならびにこれらを引用する本件発明3?7について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取消されるべきである。

3 特許法第29条第2項(以下「理由3」という。)
本件発明1?7は本件特許に係る出願の出願日前に頒布された以下の甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1?7についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。

甲1号証:国際公開2014/088072号
甲2号証:特開2010-235687号公報

第4 当審の判断
1 理由1について
(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(明細書のサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願当時の技術常識に照らし、課題を解決できると認識できる範囲であるか否かを検討して判断する。
以下、この点について検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には以下の記載がある。
a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、部分酸型カルボキシメチルセルロース(CMC)塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法、並びに該製造方法によって得られる食品および化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来の高分子材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を使った材料が注目されている。例えば、セルロース繊維を使った材料として、ナノサイズの繊維径をもったセルロース繊維(セルロースナノファイバー)に関する技術が注目されている。特許文献1には、アニオン変性されたセルロースが高圧ホモジナイザーで処理されることを特徴とするカルボキシメチル置換度の低いセルロースナノファイバーの製造方法が開示されている。
【0003】
また、部分酸型カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロース塩(以下、CMC塩という)のアルカリ塩の部分を部分的に酸型に変換したものである。従来技術によれば、CMC塩はアルカリ塩では水溶性であるのに対し、酸型では水に不溶となるので、酸型の置換基数の増大により、水への膨潤度を小さくすることができるため、この特徴が注目されている。特許文献2には、部分酸型CMCの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-185122号公報
【特許文献2】特開2008-19344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の要求性能の向上に伴い、セルロースナノファイバー水分散体外観の変化、ゲル性の変化の経時安定性が求められるようになった。また、セルロースナノファイバーを使用した増粘剤等についても、増粘性等の経時変化が小さいことが求められるようになった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、本発明によれば、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、特許文献1記載の方法では、置換度が0.30より大きくなると一部成分が溶解して、増粘剤やゲル化剤として機能が大きく損なわれるといった問題があることが分かった。また、当該技術では、酸性条件下、例えば、pH5.0を下回る条件下で使用をする際、いわゆるpHショックによってセルロースナノファイバーの沈降、凝集物の発生、粘度の急激な低下、ゲルの崩壊などの現象が見られ、耐酸性に問題があることが分かった。セルロースナノファイバー水分散体は、前記の如く、幅広い用途分野での応用が期待されているが、その本来の機能を保持しながら好適に使用できるpH領域が狭いという課題を抱えており、特に、酸性領域では増粘、ゲル化、保形性、乳化安定化、分散安定化などの機能が著しく低下する問題があった。例えば、人の皮膚表面のpHは通常4.5?6.0の弱酸性であり、スキンケア製品や化粧品、トイレタリー製品などでは弱酸性の商品設計となっているものが多い。また、食品や飲料、調味液類、等において、・・・これら用途で添加剤として使用される増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化安定化剤、分散安定化剤、等は、弱酸性領域でpHショックを生じることなく、性能が保持され、その性能の経時変化が小さいものが好ましい。一方、特許文献2に記載の方法は、水に不溶性の部分酸型CMC塩を平均粒子径10?100μm程度の粉末状、或いは、粉末を水に一部膨潤させた状態で使用するものであり、ナノファイバー由来の性能が得られるものではない。
【0008】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、セルロースナノファイバー水分散体を調製する原料として、部分的にアニオン変性されたセルロース、即ち、カルボキシメチル置換度を特に限定した低置換度カルボキシメチルセルロース塩(低置換度CMC塩)から、更に、そのアルカリ金属塩である低置換度CMC塩の一部を酸型に変換して得た部分酸型CMC塩を用いることで、より広いpH領域、特に、弱酸性領域でpHショックを生じることなく、増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化安定化剤、分散安定化剤、等としての性能を発揮し、その性能の経時変化が小さいことを見出し、本発明を完成させるに至った。」
b)「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供することができる。」
c)「【0014】
<工程(i)>
工程(i)で使用する原料パルプとしては、特に限定されないが、・・・【0015】
工程(i)において、アルカリセルロース化に用いるアルカリとしては、特に限定されないが、・・・
・・・
【0020】
工程(i)においては、次に得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を反応させてエーテル化を行なう。エーテル化は、アルカリ過剰下で進行させることが好ましい。エーテル化剤としては、特に限定されないが、例えば、モノクロル酢酸、モノクロル酢酸ナトリウム、モノクロル酢酸メチル、モノクロル酢酸エチルなどが挙げられる。これらのうち、モノクロル酢酸が好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0021】
前記エーテル化剤の使用量は、目的のエーテル化度によって決定されるため、特に制限はないが、原料パルプ中のグルコース単位量に対して、モル比で0.5?6倍が好ましく、2?4倍がより好ましい。エーテル化剤の配合量が、0.5倍以上であれば、CMC塩のエーテル化度が十分であり、目的とするエーテル化度が得られやすい。一方、エーテル化剤の配合量が6倍以下であると、高価なエーテル化剤を無駄に使用することがなく、好ましい。
【0022】
前記エーテル化における反応温度は特に限定されないが、75?100℃が好ましく、80?90℃がより好ましい。反応温度が75℃以上であれば、エーテル化が充分である。一方、反応温度が100℃以下であれば、反応溶媒の沸点を超えず、溶媒が揮発しないことから作業性の観点から好ましい。また、反応時間は特に限定されないが、50?120分間が好ましく、50?90分間がより好ましい。反応時間が50分間以上であればエーテル化が充分である。一方、反応時間が90分間以下であれば、作業性が良好であり、得られるCMC塩の粘度の観点からも好ましい。
【0023】
前記エーテル化反応終了後、反応溶媒として用いた有機溶媒を一部除去する。・・・
【0024】
<工程(ii)>
工程(i)で得られたCMC塩は、酸を添加することにより、部分酸型CMCに変換する工程である。酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、クエン酸、リンゴ酸、モノクロル酢酸などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
これらの中で、酸型CMCに変換する効率が高い点で、硫酸、塩酸が好ましい。
【0025】
前記酸の添加量は、理論エーテル化度に対して、モル比で0.2?3.0倍が好ましく、0.3?2.5倍がより好ましい。これらの範囲であれば、酸置換度が好適となる。
【0026】
前記酸を添加後の反応温度は、特に限定されないが、50?110℃が好ましく、65?105℃がより好ましく、60?80℃がさらに好ましい。反応温度が、これらの範囲であれば、酸置換が充分となり、酸置換の反応時間が好適となることから酸置換の均一性の観点から好ましい。また、撹拌時間は、特に限定されないが、20?80分間が好ましく、40?60分間がより好ましい。撹拌時間が、これらの範囲であれば、酸置換が充分であり、作業性の観点からも好ましい。
【0027】
<工程(v)>
工程(ii)、または後述する工程(iv)で得られた部分酸型CMCを、解繊分散処理することで、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体を得る工程である。
・・・
【0031】
本発明の部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法では、前記工程(ii)の後、前記工程(v)の前に、(iii)前記部分酸型CMCを洗浄する工程、(iv)洗浄した部分酸型CMCと、所定量のアルカリを反応させる工程、を有することも好ましい態様である。
【0032】
<工程(iii)>
工程(ii)で得られた部分酸型CMCを洗浄する工程である。・・・
【0037】
<工程(iv)>
工程(iii)で得られた洗浄した部分酸型CMCと、所定量のアルカリを反応させる工程である。
・・・
【0041】
本発明におけるセルロースナノファイバーの製造方法は、前記工程(v)で得られたセルロースナノファイバー水分散体の溶媒を除去する工程を有する。溶媒を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、濾別、濃縮操作などが挙げられる。溶媒除去には、特に限定されないが、例えば、有機溶剤、或いは、水と有機溶剤の混合溶媒を用いることができる。」
d)「【0043】
前記工程(i)?(v)によって得られる部分酸型CMC塩の全置換度(エーテル化度)は、0.02?0.80であることが好ましく、0.1?0.75がより好ましい。これらの範囲であれば、水への膨潤あるいは溶解を抑制することができる。なお、CMC塩の全置換度(エーテル化度)は、実施例に記載の方法で算出することができる。
【0044】
前記工程(i)?(v)によって得られる部分酸型CMC塩の酸型置換度は全置換度(エーテル化度)の1.0?80.0%が好ましく、10.0?65.0%がより好ましい。酸型置換度が1.0%以上であれば、酸型置換基の効果を得ることができ、一方、酸型置換度が80.0%以下であれば、セルロースナノファイバーの解繊が容易になる。」
e)「【0047】
本発明のセルロースナノファイバー、およびその水分散体は、増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化安定化剤、分散安定化剤などに利用できる。具体的には、食品、化粧品、医薬品、医療、農薬、トイレタリー用品、スプレー剤、塗料、等の用途で幅広く使用することができる。また、弱酸性領域でpHショックを生じることがないことから、特に、20℃におけるpHが3.0?5.5の領域において好ましく使用できる。具体的には、乳酸菌飲料やヨーグルト、酸性乳飲料、スポーツドリンク、乳幼児用イオン飲料、機能型ドリンク、ゼリー飲料、カロリー摂取型ドリンク、デザートドリンク、ベビーフード、ジャム、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、ウスターソース、バーベキューソース、焼肉ソース、各種食用タレ、つゆ、ジュレ状調味料等に好適に使用できる。また、セルロースナノファイバー水分散体を中間原料として更に化学修飾や加工して利用することもできる。」
f)「【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明について詳細に説明するが、本発明はもちろんこれらに限定されるものではない。
【0050】
カルボキシメチル化の全置換度(エーテル化度)、塩型置換度および酸型置換度は以下の方法により測定した。
【0051】
<(1)工程(i)で得られたCMCの全置換度(エーテル化度) ※Na塩の場合>
試料1g(純分換算)を磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10のH_(2)SO_(4) 100mlを添加して中和した。次に、過剰のH_(2)SO_(4) をN/10のNaOHでフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量A(ml)から下記式にて全置換度(エーテル化度)を求めた。なお、このとき、f_(1)=N/10のH_(2)SO_(4)の力価、f_(2)=N/10のNaOHの力価である。
【数1】

【0052】
<(2)工程(iv)で得られた部分酸型CMCの塩型置換度および酸型置換度>
試料1g(純分換算)を純水200mlとN/10のNaOH100mlが入っているフラスコ中に入れて溶解した。次に、過剰のN/10のNaOHをN/10のH_(2)SO_(4)
でフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量B(ml)を得た。次に、別の試料1g(純分換算)を磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10のH_(2)SO_(4) 100mlを添加して中和した。次に、過剰のH_(2)SO_(4) をN/10のNaOHでフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量C(ml)を得た。次に、次式によって塩型置換度および酸型置換度を求めた。なお、このとき、f_(1)=N/10のH_(2)SO_(4)の力価、f_(2)=N/10のNaOHの力価である。
【数2】

【数3】

【0053】
<実施例1>
工程(i)
2軸の撹拌翼と溶剤の揮散を抑えるためのコンデンサーを備えた容量3リットルのニーダー型反応機に、表1記載の原料パルプを選択し、更に家庭用ミキサーで粉砕したパルプ100g(乾燥重量)を仕込み、IPA:水=280g:120gで調製した混合溶媒400gに、表1記載の所定量の水酸化ナトリウムを溶解させて40℃に調整した溶液を反応機内に仕込み、60分間撹拌してアルカリセルロースを調製した。そののち、表1記載の所定量のモノクロル酢酸を等重量のIPAに溶解させた溶液を、反応熱を抑えながら30?50℃で60分間かけて仕込んだ。次いで、30分間かけて85℃に昇温し、75?90℃でカルボキシルメチル化反応を60分間行った。次いで、スラリー状の中和物を反応機より取り出し、遠心分離操作にてIPA-水混合溶媒を除去して固形分濃度50重量%のCMC-Na塩粗製物(表1-1の実施例(A)?(D))を得た。
【0054】
工程(ii)?(iii)
前記工程により得られたCMC-Na塩粗製物に対して、表1に示す20%硫酸を添加し、30分間撹拌後、更に、70℃で50分間攪拌して部分酸型CMC粗製物を得た。得られた部分酸型CMCに対して、重量比で20倍となるように80%メタノール水溶液を添加し、30℃で50分間撹拌した。撹拌後、遠心分離機でメタノール水溶液を遠心分離により除去し、この80%メタノール水溶液による洗浄と溶媒除去の操作を4回繰り返し、遠心分離回収液の遊離液から遊離酸が検出されないことを確認して、固形分濃度50重量%の部分酸型CMCを得た(表1-1の実施例(A)?(D))。
【0055】
工程(iv)
表1記載の通り、前記工程により得られた部分酸型CMCを秤取し、更に、所定の水酸化ナトリウムを含む80%メタノール水溶液を添加し、スラリー状の溶液を30℃で50分間撹拌させて部分酸型CMC粗製物を得た。その後、遠心分離機で溶媒除去を行い、更に、80%メタノール水溶液による洗浄と溶媒除去の操作を2回繰り返し、固形分濃度50重量%にて部分酸型CMCを取り出した。得られた部分酸型CMCの全置換度(エーテル化度)、塩型置換度および酸型置換度を測定し、その測定結果を表1に示した。
【0056】
工程(v)
前記工程により得られた部分酸型CMCに対して、固形分濃度3%となるよう水を添加し、更に、高圧ホモジナイザー処理の前に処理液のpHを水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸を用いてpH5.0±0.3の範囲内となるよう調整した後、高圧ホモジナイザ
ーにより、液温20℃から冷却操作を伴いながら140MPaの圧力で5回処理して目的のセルロースナノファイバー水分散液を調製した(表1-1の実施例(A)?(D))。
【0057】
<実施例2>
実施例1、及び、表1-1に記載の実施例(D)において、工程(iv)で使用する中和剤を水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに変更し、工程(iv)で使用するpH調整剤を水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに、酢酸ナトリウムから酢酸カリウムに、変更した以外は前記操作と同様にしてセルロースナノファイバー水分散液(表1の実施例(E))を得た。
【0058】
<実施例3>
実施例1、及び、表1-1に記載の実施例(A)において、工程(i)で使用するパルプ種を広葉樹パルプから針葉樹パルプに変更し、更に、工程(i)終了後、IPA-水混合溶媒による洗浄と溶媒除去の操作を2回繰り返し、その後、工程(ii)として、硫酸を用いてpH5となるよう攪拌しながら注意深く酸を添加し、必要に応じて、工程中で水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムと酢酸を用いてpH調整しながらが、70℃で50分間攪拌した以外は前記操作と同様にしてセルロースナノファイバー水分散液(表1-1の実施例(F))を得た。
【0059】
<比較例1>
実施例1、及び、表1-1に記載の工程(i)?(v)において、各成分の仕込み量を表1-1の比較例(X)、及び、比較例(Y)のように変更した以外は、前記操作と同様にしてセルロースナノファイバー水分散液(表1-1の比較例(X)、(Y))を調製した。しかしながら、比較例(Y)については、高圧ホモジナイザー処理中に処理液回収タンク内不均一の発生と高圧ホモジナイザーの詰まりが生じ、やむを得ず、工程(v)をした中断した。
【0060】
<比較例2>
実施例1、及び、表1-1に記載の実施例(A)において、工程(i)の操作に従ってカルボキシメチル化を行った後、IPA-水混合溶媒による洗浄と溶媒除去の操作を2回繰り返し、工程(ii)?(iv)を省略して、続いて、前記工程(v)の操作に従って高圧ホモジナイザー処理を行い、不均一状粘稠液体(表1-1の比較例(Z))を得た。比較例(Z)については、酸型置換未実施の為、工程(v)にてpH未調整(pH7.4)とした。
【0061】
【表1】

※1: 固形分換算、 ※2: 対全置換度、 ※3: 工程中断の為、測定未実施、 ※4: pH未調整
【0062】
実施例1?3、及び、比較例1、2にて得られたセルロースナノファイバー水分散体、実施例(A)?(F)、比較例(X)、(Z)について、その性状(透明性、ゲル化の有無、曳糸性の有無)について調べた結果を表2に示す。なお、測定前に必要に応じて前記操作に準じて、pH5±0.3の範囲内となるようpH調整後、各種評価を実施した。また、比較例(Z*)は、比較例(Z)(pH7.4)について以下評価を実施するに当り、pH5.0±0.3に調整したものであり、供試した比較例(Z*)のpHはpH5.0であった。
【0063】
<透明性>
一定光源下、固形分濃度0.5%のセルロースナノファイバー水分散体を30mmの光路長を持つ透明ガラスセルに入れ、白色上質紙に印字された12ポイントの文字(ゴシック体)をセルの向こう側に接するように配置し、その文字を判別できたものを「○」、判別できなかったものを「×」、部分的な不均一状態が認められるものを「△」と評価した。これら結果を表1-2に示した。なお、表中の「1D」は1日後、「1W」は7日後を表す。
【0064】
<ゲル化性>
固形分濃度3.0%で調製された実施例(A)?(F)、比較例(X)、(Z)を所定の固形分濃度になるよう水を添加して、ディスパー型ミキサーを用いて回転数8,000rpmで10分間微細化処理を行って、200mlねじ口付きガラス製サンプル瓶に流し込み、評価用の試料を得た。各試料について、所定日数経過後のゲルの状態を目視で観察し、ゲル状態のものを「○」、液状(流動性あり)のものを「×」、ゲルから離水が見られたものを「△」と評価した。これら結果を表1-2に示した。なお、表中の「1D」は1日後、「1W」は7日後を表す。
【0065】
<曳糸性>
固形分濃度3.0%で調製された実施例(A)?(F)、比較例(X)、(Z)を所定の固形分濃度になるよう水を添加して、ディスパー型ミキサーを用いて回転数8,000rpmで10分間微細化処理を行って、200mlねじ口付きガラス製サンプル瓶に流し込み、評価用の試料を得た。各試料について、所定日数経過後に外径10mmの表面平滑なガラス棒をサンプル瓶中央に垂直に立て、その状態からガラス棒を約1秒間で引き抜き、その際のガラス棒先端における曳糸状態を目視で観察し、曳糸性が認められないものを「○」、曳糸性が認められないものを「×」、僅かな曳糸性、或いは、ガラス棒へのゲル付着などが認められるものを「△」と評価した。これら結果を表1-2に示した。なお、表中の「1D」は1日後、「1W」は7日後を表す。
【0066】
【表2】

※5: 評価時のpH、pH5±0.3の範囲外の場合にはpH調整実施。
※6: 比較例(Z)(pH7.4)を評価直前にpH5±0.3に調整実施。
【0067】
《製造例:酸性乳飲料、及び、乳酸菌飲料》
弱酸性領域での分散安定性が必要とされる酸性飲料、乳酸菌飲料組成物の製造処方について、本発明の前記実施例、及び、比較例で示したセルロースナノファイバー水分散体を用いて、下記処方に従って飲料組成物を調製し、以下記載の評価方法に従って評価を行った。
【0068】
<製造例1:酸性乳飲料>
表3記載の処方に従い、2Lサイズの円形ステンレス製取手付容器に固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体200g(固形分換算6g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、液温を30℃とし、ついで、脱脂粉乳40gを水500gとともに少しずつ投入して、攪拌、混合して均一分散させ、続いて、30℃の温度で、10分間かけて30℃に調整した3%クエン酸水溶液100gを徐々に滴下して脱脂粉乳混合液を得た。次に、調整水を用いてホモジナイザー通液の準備を行い、その後、脱脂粉乳混合液を15MPaにてホモジナイザーに1回通液し、更に、その脱脂粉乳混合液を90℃まで昇温して加熱殺菌を行い、その後、水浴中で10℃まで冷却して目的の酸性乳飲料組成物を得た。このとき、得られた酸性乳飲料組成物は、無脂乳固形分は4.0%、セルロースナノファイバー(固形分換算)0.6%を含み、20℃におけるpHは4.6?4.9であった。
【0069】
【表3】

【0070】
<製造例2:乳酸菌飲料>
表4記載の処方に従い、2Lサイズの円形ステンレス製取手付容器に固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体200g(固形分換算6g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、液温を20℃とし、別に調製した水400g、グラニュー糖15g、70%異性化液糖95gを溶解させた糖混合液を徐々に加え、攪拌を継続しながら、80℃まで昇温して10分間加熱殺菌を行い、その後、水浴中で20℃まで冷却して、醗酵乳(カード)30gを少量ずつ投入して、攪拌、混合して均一分散させて醗酵乳混合液を得た。次に、調整水の一部を用いてホモジナイザー通液の準備を行い、残りの調整水は醗酵乳混合液に加え、その後、醗酵乳混合液を15MPaにてホモジナイザーに1回通液し、更に、その醗酵乳混合液を90℃まで昇温して加熱殺菌を行い、その後、水浴中で20℃まで冷却して目的の乳酸菌飲料組成物を得た。このとき、得られた乳酸菌飲料組成物は、醗酵乳固形分は3.0%、セルロースナノファイバー(固形分換算)0.6%を含み、20℃におけるpHは3.7?4.0であった。
【0071】
【表4】

【0072】
製造例1、2において得られた酸性乳飲料、及び、乳酸菌飲料について、以下の方法によって、乳蛋白沈澱量、及び、乳蛋白再分散性評価からセルロースナノファイバーの分散安定性を評価した。
【0073】
<乳蛋白沈澱量>
得られた酸性乳飲料、及び、乳酸菌飲料を、長さ250mm、100ml容のガラス製円筒管に充填し、密栓して5℃にて2週間静置した。2週間後、円筒管を静かに取り出し、円筒管底部の乳蛋白沈澱量を計測した。なお、当該評価において、乳蛋白沈澱量はその
数値が小さいほど乳蛋白に対する分散安定性に優れていることを示す。これら結果を表5に示した。
【0074】
<乳蛋白再分散性>
上記乳蛋白沈澱量測定の後、密栓された円筒管を一旦静かに180°回転させて逆さにし、その後、乳蛋白の沈澱再分散性を記録しながら、円筒管を静かに360°回転させる操作を準じ行い、円筒管底部に付着している沈澱が再分散するまでの円筒管の回転回数を計測した。なお、当該評価において、この円筒管の回転回数が少ないほど、乳蛋白の分散性に優れていることを示す。これら結果を表5に示した。
【0075】
【表5】

※1: 従来技術の一例として、CMC‐Na塩を利用した場合の対照実験を合わせて行った。CMC‐Na塩としては、汎用されている第一工業製薬(株)製のセロゲンF-SB(2%水溶液粘度:150?250mPa・s、エーテル化度: 0.85?0.95)を用いた。
【0076】
本発明のセルロースナノファイバーは、表5に示す通り、供試した実施例(A)、(C)、(D)、(F)は、比較例(X)、(Z)、対照例(CMC‐Na塩)に比較して、酸性乳飲料、及び、乳酸菌飲料における2週間後の乳蛋白沈殿量を大きく低減している点において分散安定性に大きな差異があることが分かる。また、実施例(A)、(C)、(D)、(F)は、一旦沈降した乳蛋白を容易に再分散性できる点で実用上極めて重要な性能を有している。本発明の実施例(A)、(C)、(D)、(F)は、従来技術である低置換CMC-Na塩からのセルロースナノファイバーと異なり、Na塩の一部が酸型に変換されており、弱酸性条件下での使用に際してpHショックを生じ難く、そのpH適用範囲が広く、上記実施例の結果の如く、本発明の技術の根幹となるセルロースナノファイバーからなる増粘、分散安定化作用が保持される結果となった。一方、比較例(X)、(Z)は弱酸性条件下でpHショックを生じ、水中におけるセルロースナノファイバー自体の分散安定性が低下し、その結果として乳蛋白の分散安定性の悪化を招き、更に乳蛋白の再分散性を大きく低下させる結果となった。
【0077】
《製造例:食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソース》
弱酸性領域での増粘性、並びにゲル形成能、更に、調味液組成物のチクソトロピー性が必要とされる食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソースの製造処方において、本発明の前記実施例、及び、比較例で示したセルロースナノファイバー水分散体を用いて、下記処方に従って調味液組成物を調製し、以下記載の評価方法に従って評価を行った。
【0078】
<製造例3:食用タレ>
表6記載の処方に従い、2Lサイズの円形ステンレス製取手付容器に固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体400g(固形分換算12g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、液温を40℃とし、ここに別途調製した砂糖180g、粉末醤油60g、みりん200g、化学調味料20gの混合溶液を調製水とともに徐々に加え、攪拌しながら、80℃まで昇温して、更に30分間攪拌を継続した。その後、水浴中で20℃まで冷却して、目的の食用タレを得た。このとき、得られた食用タレ組成物は、セルロースナノファイバー(固形分換算)1.2%を含み、20℃におけるpHは4.8?5.1であった。
【0079】
【表6】

【0080】
<製造例4:ゲル状(ジュレ状)調味料>
表7記載の処方に従い、2Lサイズの円形ステンレス製取手付容器に固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体300g(固形分換算9g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、液温を20℃とし、ここに別途調製した砂糖50g、ソルビトール90gと調整水の一部からなる混合溶液を、徐々に加え、更に、攪拌しながら、醤油130g、食酢100g、みりん30g、ゆず果汁30g、残りの調整水を徐々に加え、80℃まで昇温して、10分間攪拌を継続し、その後、60℃まで冷却して、蓋付きポリエチレン製パック包材に充填し、水流中に30分間投入して目的のゲル状(ジュレ状)調味料を得た。このとき、得られたゲル状(ジュレ状)調味料組成物は、セルロースナノファイバー(固形分換算)0.9%を含み、20℃におけるpHは4.4?4.6であった。
【0081】
【表7】

【0082】
<製造例5:ディップソース>
表8記載の処方に従い、2Lサイズの円形ステンレス製取手付容器に固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体300g(固形分換算9g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、液温を40℃とし、ここに別途調製したレモン粉末果汁10g、食塩8g、全粉乳4g、調味配合物8gと調製水からなる混合
溶液を、徐々に加え、40℃を維持しながら、更に30分間攪拌を継続した。更に、ボディ剤30gを徐々に加えて、強攪拌下で5分間攪拌した後、攪拌を低速とし、水浴中で20℃まで冷却して、目的のディップソースを得た。このとき、得られたディップソース組成物は、セルロースナノファイバー(固形分換算)0.9%を含み、20℃におけるpHは4.3?4.6であった。
【0083】
【表8】

※肉エキス、酸味料、アミノ酸類、粉末香料からなる調味配合物
【0084】
製造例3、4、5において得られた食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソース、等、調味液組成物について、以下の方法によって、調味液組成物の光沢、透明性、粘度、付着量、液だれの有無、スプレー塗布可否、等から、セルロースナノファイバーの弱酸性領域における増粘性、ゲル形成能、更に、調味液組成物のチクソトロピー性を評価した。
【0085】
<調味液組成物の光沢、透明性>
得られた調味液組成物の光沢、透明性、均一性を目視にて評価した。これら結果を表9に示した。なお、各試料について、調味液組成物の光沢、透明性、滑らかさがよいものを「○」、やや劣るものを「△」、劣るものを「×」と評価した。
【0086】
<調味液組成物の粘度>
得られた調味液組成物の20℃における粘度をBH型粘度計、回転数20rpmにて測定し、これら結果を表9に示した。
【0087】
<調味液組成物の付着量>
得られた調味液組成物の付着量、液垂れの有無について、「食用タレ」の場合は、串刺しの三連単団子を対象食品として、タレに三連単団子を定速(上下各1秒目処)で浸漬、引き上げする操作を2回行った後、15秒後の調味液付着量(g)を操作前後の重量差から求め、その結果を表9に示した。
また、「ゲル状(ジュレ状)調味料」の場合は、水切りした刺身用の白髭大根の「けん」を対象食品として、ステンレス製の小型のざるを透明容器の上に置き、そのざるに「けん」を盛り、その上に20gのゲル状(ジュレ状)調味料をかけ、30秒後にざるから滴り落ちる調味液の有無を目視で確認した。各試料について、ざるの下に置かれた透明容器に調味液が見られない場合を「○」、わずかに調味液が見られる場合を「△」、多量の調味液が見られる場合を「×」と評価し、その結果を表9に示した。
また、「ディップソース」の場合は、市販のプレーンクラッカー(4.5cm×4.5cm)を対象食品として、ディップソースにクラッカーの下部2.5cmを定速(上下各1秒目処)で浸漬、引き上げを行い、15秒後の調味液付着量(g)を操作前後の重量差から求めた。この操作を3枚のクラッカーで3回行い、3回の調味料付着量の合計値を表9に示した。
【0088】
<調味液組成物のスプレー塗布可否、液垂れの有無>
得られた調味液組成物を市販のトリガー式スプレーボトルに入れ、遠心から半径1cm、4cm、8cmの3つの円を記した白色光沢紙をスプレーノズルから15cm離れた場所に垂直に置き、その遠心に向って調味液組成物を噴霧し、その後、直ちに白色光沢紙上の着滴形状と大きさからスプレー塗布の適合性を評価した。 なお、各試料について、着滴形状が概ね円状で半径8cmの円を超えて着滴がある場合を「○」、着滴が概ね円状で半径4cmの円を超えて、8cmの円を超えていない場合を「△」、着滴が半径4cmの円の内側にある場合を「×」と評価し、その結果を表9に示した。
また、液垂れの有無については、噴霧操作後、直ちに前記白色光沢紙を45°の傾斜をつけた板の上に置き、1分経過後に着敵からの液垂れの状態を評価した。なお、各試料について、液垂れが見られない場合を「○」、前記半径8cmの円内において、着滴から僅かに液垂れが認められる場合を「△」、前記半径8cmの円内において、多くの着滴からの液垂れが見られる場合を「×」と評価し、その結果を表9に示した。
【0089】
【表9】

※1: 従来技術の一例として、CMC‐Na塩を利用した場合(対照例)の評価を合わせて行った。CMC‐Na塩としては、汎用されている第一工業製薬(株)製のセロゲンF-SH(1%水溶液粘度: 350?500、エーテル化度: 0.60?0.70)を用いた。
【0090】
本発明のセルロースナノファイバーは、表9に示す通り、供試した実施例(A)、(B)、(D)、(F)は、比較例(X)、(Z)、対照例(CMC‐Na塩)に比較して、食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソース、等、様々な様態の酸性?弱酸性
の調味液組成物において、実用上所望される好適な増粘性、ゲル形成能を示し、更には組成物のレオロジー特性を改良し得る点で、産業上の利用価値は大きい。例えば、本発明技術の食用タレにおける利用において、食品産業において特に重要視される外観上の優位性から商品価値を高め得るばかりか、本発明のセルロースナノファイバーの高い増粘効果から、食品への食用タレの付着量を比較例、対照例に対して2倍以上高めるとともに、食用タレのスプレー噴霧を可能とせしめ、更に、調味液でしばしば問題となる液垂れの改善、調味液の歩留りの大幅改善を可能とせしめる点において、本発明は食品の生産効率向上に寄与できる点で極めて有用な技術である。
ゲル状(ジュレ状)調味料は、近年、市場要求の高い調味液の様態であって、調味液の付加価値向上の観点から、差別化製品として注目をあびている。本発明技術のゲル状(ジュレ状)調味料における利用において、比較例、並びに、対照例に比較して、外観上で目新しい商品様態の構築(商品差別化)に寄与するのみならず、食品に対する調味液の付着量を増大させ、本質的な要求である調味効率(調味液の有効利用率)を大きく増大せしめた点で産業上の利用価値は大きい。
ディップソースも前記ゲル状(ジュレ状)調味料同様に、消費者ニーズの多様化から、利用が広がっている調味液の利用形態の一つである。本利用形態においても、本発明技術は、外観上の商品差別化、調味効率(調味液の有効利用率)に関する評価項目において、比較例、並びに、対照例を上回る好適な結果を示し、本発明技術の有用性を明示している。
【0091】
<製造例6:弱酸性ゲル状化粧水>
弱酸性領域での増粘性、並びにゲル形成能、チクソトロピー性が必要とされる弱酸性ゲル状化粧水のモデル処方において、本発明の前記実施例、及び、比較例で示したセルロースナノファイバー水分散体を用いて、下記処方に従って化粧水組成物を調製し、以下記載の評価方法に従って評価を行った。
表10記載の処方に従い、200mlのビーカーに固形分濃度3%で調製された本発明のセルロースナノファイバー水分散体20g(固形分換算0.6g)を仕込み、幅広翼を装着した攪拌装置で攪拌しながら、室温でグリセリン20.0g、エタノール5gを徐々に加え、更に、攪拌しながら、別にクエン酸0.6g、クエン酸三ナトリウム0.6gを調整水50gに溶解させたクエン酸‐クエン酸三ナトリウム水溶液を徐々に滴下して仕込んだ。次いで、低速で撹拌しながら、残りの調整水とローズマリーエキス0.3gを加えて、撹拌を10分間継続した後、市販のトリガー式スプレーボトルに組成液を充填して、目的の弱酸性ゲル状化粧水を得た。このとき、得られた各弱酸性ゲル状化粧水は、セルロースナノファイバー(固形分換算)0.6%を含み、20℃におけるpHは4.4?4.7であった。
【0092】
【表10】

【0093】
製造例6において得られた弱酸性ゲル状化粧水について、以下の方法によって、化粧水組成物のゲル性、使用感(べたつきの有無、さっぱり感)を評価した。
【0094】
<化粧水組成物のゲル性>
得られた化粧水組成物が充填されたトリガー式スプレーボトルを横に倒し(90°転回)、更に逆さま(180°転回)とし、ゲル形成の有無を目視で評価した。これら結果を表4-2に示した。なお、各試料について、ボトル内充填物が室温で透明、且つ、ゲル状であるものを「○」、ゲルの一部に不均一箇所がある、或いは、僅かに離水があるものを「△」、ボトル内充填物に流動性がある、或いは、全体的に不均一であるものを「×」と評価した。
【0095】
<化粧水組成物の使用感>
得られた化粧水組成物が充填されたトリガー式スプレーボトルから手の甲に1?2回スプレーした後、化粧水をもう一方の手の指先で軽く円を描くように伸ばした際の使用感を社内パネラー3人(20代女性、30代女性、40代女性)で評価した。これら結果を表4-2に示した。なお、各試料について、化粧水組成物の使用感はべたつきがなく、さっぱり感を感じたものを3点、僅かにべたつきがある、或いは僅かに滑らかさに劣るもの、或いは、を2点、べたつきがあり、重い感触があるもの、或いは、滑らかさに欠けるものを1点として採点し、社内パネラー3人の平均点が2.6を上回れば「○」、平均点が2.0?2.6であれば「△」、平均点が2,0を下回れば「×」と評価した。
【0096】
【表11】

【0097】
本発明のセルロースナノファイバーは、表11に示す通り、供試した実施例(A)、(D)、(E)は、弱酸性ゲル状化粧水の調製に有用で、且つ、その使用感も良好であり、比較例(X)、(Z)に比較してその効果は明白である。また、本発明技術は弱酸性領域において、より高い増粘性、ゲル形成能を示す一方で、化粧水組成物のレオロジー特性を改良して、ゲル状でありながらスプレー噴霧を可能とせしめ、また更に、化粧水の使用感としてしばしば問題となるべたつきを抑え、さっぱり感を発現し得る点で、化粧料向けの増粘剤、ゲル化剤、レオロジー改良剤としての産業上の利用価値は大きい。」

(3)判断
ア 本件発明1について
上記摘示a、bからみて、本件発明1の発明の解決しようとする課題は、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供することにある。
発明の詳細な説明には、原料パルプをアルカリセルロース化する方法、アルカリセルロースにエーテル化剤を反応させてエーテル化すること、エーテル化剤の使用量は目的のエーテル化度によって決定されること、特定の反応時間によりエーテル化度が充分となること、酸を添加することで部分酸型CMCに変換すること、酸の添加量を特定の範囲とすることにより酸置換度が好適となること、酸を添加後の反応温度、撹拌時間を特定の範囲とすることにより酸置換が充分となることが記載され(上記摘示c、段落0014?0026)、さらに、本件発明1のカルボキシメチル置換度の範囲であれば、水への膨潤あるいは溶解を抑制することができること、酸型置換度が1.0%以上であれば、酸型置換基の効果を得ることができ、一方、酸型置換度が80.0%以下であれば、セルロースナノファイバーの解繊が容易になることが記載されている(上記摘示d)。
また、実施例としてカルボキシメチル化の全置換度(エーテル化度)が0.21?0.60である部分酸型CMC、酸型置換基比率が23.3?61.9%である部分酸型CMC(実施例(A)?(F))、比較例としてカルボキシメチル化の全置換度(エーテル化度)が本件発明1の範囲外である0.88であるもの(比較例(X))、酸型置換基比率が本件発明1の範囲外である91.7%及び0%であるもの(比較例(Y)及び比較例(Z))についての水分散液が記載され(摘示f、段落0049?0061)、それらに関し、1日後、7日後の透明性、ゲル化性、曳糸性の測定結果が記載されているところ(摘示f)、その結果からは、本件発明1に相当する部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体の透明性、ゲル化性、曳糸性が1日後、7日後のいずれにおいても優れていることがみてとれる(摘示f、段落0062?0066)。
さらに、製造例1?6として、本件発明1に相当する部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散液(実施例(A)、(C)、(D)、(F))、上記比較例(X)及び(Z)の水分散液、対照例である汎用のCMC-Na塩を用いた酸性乳飲料(製造例1)、乳酸菌飲料(製造例2)、上記実施例(A)、(B)、(D)、(F)の水分散液、比較例(X)、(Z)の水分散液、対照例である汎用のCMC-Na塩を用いた食用タレ(製造例3)、ゲル状(ジュレ状)調味料(製造例4)、ディップソース(製造例5)、上記実施例(A)、(D)、(E)の水分散液、比較例(X)、(Z)を用いた弱酸性ゲル状化粧水(製造例6)が記載されている(摘示f、段落0067?0097)。
そして、酸性乳飲料、乳酸菌飲料については、乳蛋白沈澱量、及び、乳蛋白再分散性評価からセルロースナノファイバーの分散安定性が評価され、本件発明1に相当する実施例(A)、(C)、(D)、(F)の水分散液を用いたものは、比較例(X)、(Z)の水分散液、対照例(CMC‐Na塩)を用いたものに比較して、酸性乳飲料、及び、乳酸菌飲料における2週間後の乳蛋白沈殿量を大きく低減している点において分散安定性に大きな差異があること、実施例(A)、(C)、(D)、(F)の水分散液を用いたものは、一旦沈降した乳蛋白を容易に再分散性できる点で実用上極めて重要な性能を有していること、実施例(A)、(C)、(D)、(F)は、従来技術である低置換CMC-Na塩からのセルロースナノファイバーと異なり、Na塩の一部が酸型に変換されており、弱酸性条件下での使用に際してpHショックを生じ難く、そのpH適用範囲が広く、本発明の技術の根幹となるセルロースナノファイバーからなる増粘、分散安定化作用が保持される結果となること、比較例(X)、(Z)の水分散液を用いたものは弱酸性条件下でpHショックを生じ、水中におけるセルロースナノファイバー自体の分散安定性が低下し、その結果として乳蛋白の分散安定性の悪化を招き、更に乳蛋白の再分散性を大きく低下させる結果となったことが記載されている(摘示f、段落0072?0076)。
食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソースについては、調味液組成物の光沢、透明性、粘度、付着量、液だれの有無、スプレー塗布可否等から、セルロースナノファイバーの弱酸性領域における増粘性、ゲル形成能、更に、調味液組成物のチクソトロピー性が評価され、本件発明1に相当する実施例(A)、(B)、(D)、(F)の水分散液を用いたものは、比較例(X)、(Z)の水分散液、対照例(CMC‐Na塩)を用いたものに比較して、食用タレ、ゲル状(ジュレ状)調味料、ディップソース、等、様々な様態の酸性?弱酸性の調味液組成物において、実用上所望される好適な増粘性、ゲル形成能を示し、更には組成物のレオロジー特性を改良し得る点で、産業上の利用価値は大きいこと、例えば、本発明技術の食用タレにおける利用において、食品産業において特に重要視される外観上の優位性から商品価値を高め得るばかりか、本発明のセルロースナノファイバーの高い増粘効果から、食品への食用タレの付着量を比較例、対照例に対して2倍以上高めるとともに、食用タレのスプレー噴霧を可能とせしめ、更に、調味液でしばしば問題となる液垂れの改善、調味液の歩留りの大幅改善を可能とせしめる点において、本発明は食品の生産効率向上に寄与できる点で極めて有用な技術であること、ゲル状(ジュレ状)調味料は、近年、市場要求の高い調味液の様態であって、調味液の付加価値向上の観点から、差別化製品として注目をあびているところ、本発明技術のゲル状(ジュレ状)調味料における利用において、比較例、並びに、対照例に比較して、外観上で目新しい商品様態の構築(商品差別化)に寄与するのみならず、食品に対する調味液の付着量を増大させ、本質的な要求である調味効率(調味液の有効利用率)を大きく増大せしめた点で産業上の利用価値は大きいこと、ディップソースも前記ゲル状(ジュレ状)調味料同様に、消費者ニーズの多様化から、利用が広がっている調味液の利用形態の一つであるところ、本利用形態においても、本発明技術は、外観上の商品差別化、調味効率(調味液の有効利用率)に関する評価項目において、比較例、並びに、対照例を上回る好適な結果を示し、本発明技術の有用性を明示していることが記載されている(摘示f、段落0084?0090)。
弱酸性ゲル状化粧水については、化粧水組成物のゲル性、使用感(べたつきの有無、さっぱり感)が評価され、本件発明1に相当する実施例(A)、(D)、(E)は、弱酸性ゲル状化粧水の調製に有用で、且つ、その使用感も良好であり、比較例(X)、(Z)に比較してその効果は明白であることまた、本発明技術は弱酸性領域において、より高い増粘性、ゲル形成能を示す一方で、化粧水組成物のレオロジー特性を改良して、ゲル状でありながらスプレー噴霧を可能とせしめ、また更に、化粧水の使用感としてしばしば問題となるべたつきを抑え、さっぱり感を発現し得る点で、化粧料向けの増粘剤、ゲル化剤、レオロジー改良剤としての産業上の利用価値は大きいことが記載されている(摘示f、段落0093?0097)。
これら発明の詳細な説明の記載から、本件発明1によれば、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体を得ることができ、部分酸型CMC塩の全置換度(エーテル化度)が本件発明1の範囲内であれば、水への膨潤あるいは溶解を抑制することができ、また、部分酸型CMC塩の酸型置換度は全置換度(エーテル化度)が酸型置換度が1.0%以上であれば、酸型置換基の効果を得ることができ、酸型置換度が80.0%以下であれば、セルロースナノファイバーの解繊が容易になることが理解できる。なお、酸型置換基の効果がどのようなものであるか必ずしも明らかではないが、発明の詳細な説明の段落0003を参酌すれば、水への膨潤度を小さくする効果が挙げられるといえる。
さらに、上記実施例における各種評価の結果から、カルボキシメチル化の全置換度(エーテル化度)が0.21?0.60の範囲、酸型置換基比率が23.3?61.9%の範囲における部分酸型CMC塩の水分散体又は該水分散体含有品については、透明性、ゲル化性、曳糸性とそれらの経時変化、経時後の分散安定性、増粘性、ゲル形成能、チクソトロピー性において優れていることが具体的に確認することができる。
そして、カルボキシメチル化の置換度が0.21?0.60の範囲以外、酸型置換基比率が23.3?61.9%の範囲以外であって、カルボキシメチル置換度が0.02?0.80の範囲であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%の範囲である部分酸型CMC塩の水分散体又は該分散体含有品の、透明性、ゲル化性、曳糸性とそれらの経時変化、経時後の分散安定性、増粘性、ゲル形成能、チクソトロピー性については、発明の詳細な説明において具体的に確認することはできないものの、そのような範囲の部分酸型CMC塩の水分散体又は該分散体含有品についても透明性、増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化が一定程度抑制されることは、上述の発明の詳細な説明の記載(段落0006、0043、0044)から認識することができ、そのような範囲の分散型CMC塩が上記した性質を有するものではないとするその他の技術的根拠もない。
してみると、本件発明1において、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」範囲について、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供するという課題が解決できることは、発明の詳細な説明の記載から、当業者が認識できるものである。
したがって、本件発明1は、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」とした点において、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、この点において特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

イ 本件発明2?7について
摘示a、bからみて、本件発明2、3の発明の解決しようとする課題は、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制する部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供すること、本件発明4の発明の解決しようとする課題は、上記したとおりの水分散体を提供すること、本件発明5及び6の発明の解決しようとする課題は、上記したとおりの該水分散体を含有する食品を提供すること、本件発明7の発明の解決しようとする課題は、上記したとおりの化粧料を提供することである。
そして、本件発明2は本件発明1と同様に、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」と特定しており、本件発明3?7に係る請求項3?7は、本件発明1又は2に係る請求項1又は2を引用するものであるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1は「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」範囲について、部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の経時的な外観の変化、ゲル性の変化を抑制し、かつ部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体含有品の増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制しうる部分酸型CMC塩セルロースナノファイバー水分散体の製造方法を提供するという課題が解決できることを当業者が認識できるのであるから、本件発明2?7についても、同様の理由により上記課題を解決できると当業者が認識できるものである。
したがって、本件発明2?7は、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」とした点において、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、この点において特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲2号証の「セルロ-スナノファイバーの表面に存在するカルボキシル基がナトリウム塩などの塩を形成し、親水性が高い状態となっているため、ナノファイバー分散液から調製したフィルムや繊維は、高湿度環境下で容易に吸湿・膨潤し、寸法が変化するなどの・・・問題を生じている」(甲2号証段落0005)、「カルボキシル基を酸型(-COOH)に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題がある」(甲2号証段落0006)との記載を根拠に、本件特許発明1及び2で特定する全置換度が下限付近であってかつ酸型置換基比率も下限付近である場合や、全置換度が上限付近であってかつ酸型置換基比率も上限付近である場合おいて所期の効果が奏されるかどうかは明らかでない旨主張する。
しかし、甲2号証の上記記載はセルロースナノファイバーに関するものであり、本件発明1?7の部分酸型CMC塩(すなわちカルボキシメチルセルロース塩)ナノファイバーとは異なる物質に関するものであるから、甲2号証の上記記載事項をそのまま本件発明1?7に適用できると解する技術常識はなく、また、適用できるとする根拠が挙げられている訳でもない。仮に適用できるとしたとしても、甲2号証の上記記載は、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度及び酸型置換基の全置換基に対する割合が、それぞれどの程度であれば、増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制する効果を生じ得ないかを記載するものではないから、かかる記載によって、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」ものについて、増粘性、ゲル化性、保形性、乳化安定性、分散安定性の経時変化を抑制する効果を生じ得ないということはできない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由2について
(1)はじめに
発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)に適合するか否かは、方法の発明に関しては、過度の負担なくその方法を使用できるかどうか、物の発明に関しては、過度の負担なくその物を作ることができ、その物を使用できるかどうかにあると解される。
以下、この点について検討する。

(2)判断
ア 本件発明1について
本件発明1において特定されている「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」ものが発明の詳細な説明に記載されていることは、上記1(3)ウで述べたとおりである。
そして、発明の詳細な説明には、そのような「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」点について、エーテル化剤の使用量、エーテル化における反応温度、反応時間、酸の添加量、酸添加後の反応温度、撹拌時間により調節すること、かかるグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度及び酸型置換基を有する部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体についての具体的な実施例、製造例が記載されており(摘示c、段落0021、0022、0025、0026、摘示f、段落0049?0097)、これらの記載から、発明の詳細な説明は、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である範囲全般に渡り、部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体を当業者に過度の試行錯誤を要することなく製造できるように記載されているものといえ、本件発明1の製造方法を過度の負担なく使用することができるように記載されているといえる。
してみると、本件発明1の「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」点において、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2は本件発明1と同様に、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」と特定しており、本件発明3に係る請求項3は、本件発明1又は2に係る請求項1又は2を引用するものであるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1は「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」と特定している点において、本件発明1の製造方法を過度の負担なく使用することができるように記載されているといえるから、本件発明2及び3についても同様に、この点において、発明の詳細な説明は、その製造方法を過度の負担なく使用できるように記載されているといえる。
したがって、この点において、発明の詳細な説明の記載は、本件発明2及び3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

ウ 本件発明4?7について
本件発明4?7は本件発明1又は2の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体あるいは該水分散体を含有する食品又は化粧料についてのものであるところ、本件発明1又は2の製造方法によって「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」部分酸型CMC塩ナノファイバーの水分散体を作ることができることは上記ア、イで述べたことから明らかであり、発明の詳細な説明には、該水分散体を増粘剤、ゲル化剤等に利用すること、該水分散体を含有する食品又は化粧料とすること、その具体例が記載されている(1(2)摘示e、f)から、水分散体、食品、化粧料を作ることができること、使用できることは明らかである。
したがって、本件発明4?7について、「グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であり、かつ、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%である」最終物としてのナノファイバー分散体、食品、化粧料を、発明の詳細な説明は、過度の負担なく作ることができ、使用することができるように記載されているといえる。よって、この点において、発明の詳細な説明の記載は、本件発明4?7を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

(3)理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきでものではない。

3 理由3について

(1)甲号各証の記載
ア 甲1号証(国際公開第2014/088072号)
ア1)「[請求項1] 平均繊維径が3?500nm、アスペクト比が100以上、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01?0.30である、カルボキシメチル化セルロース繊維。」

ア2)「[0010] 本発明は、特定の平均繊維径とアスペクト比とを有し、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01?0.30である、繊維状のカルボキシメチル化セルロースに関する。・・・このような繊維状のカルボキシメチル化セルロース(すなわち、カルボキシメチル化セルロース繊維)は、セルロース原料を特定のカルボキシメチル置換度となるようにカルボキシメチル化した後に解繊することにより得ることができる。
[0011] (セルロース原料)
本発明のカルボキシメチル化セルロース繊維を製造するためのセルロース原料としては、晒又は未晒木材パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース;セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸して製造される再生セルロース;これらを加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合して得た微細セルロース;及び、これらを機械的に処理して得た微細セルロースが例示される。
[0012] (カルボキシメチル化)
セルロース原料のカルボキシメチル化は公知の方法(例えば、水媒法または溶媒法)を用いて行うことができる。水媒法は、セルロース原料にモノクロロ酢酸などのエーテル化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を加え、水が主成分の媒体下で反応させる方法である。溶媒法は、セルロース原料にモノクロロ酢酸などのエーテル化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を加え、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の低級アルコールが主成分の媒体下で反応させる方法である。水媒法は、解繊前に乾燥工程を必要としないことから好ましい。
・・・
[0016] 本発明では、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01?0.30であることが重要である。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースは容易にナノオーダーの繊維径にまで解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.01より小さいと、十分に解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.30より大きいと、膨潤または溶解するため、繊維形態を維持できなくなり、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。カルボキシメチル置換度は、水媒法、溶媒法ともに、反応させるエーテル化剤の添加量、触媒であるアルカリ量、水や低級アルコールなどの溶媒の組成比率をコントロールすることによって調整することができる。」

ア3)「[0028] (グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法)
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5?2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH_(2)SO_(4)で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出した:・・・のファクター」

ア4)「[0033] <製造例1>
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で50g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを50g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05のカルボキシルメチル化したパルプを得た。その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で3回処理することにより解繊し、カルボキシメチル化セルロース繊維とした。得られた繊維は、平均繊維径が10nm、アスペクト比が500、I型の結晶化度が75%、II型のI型に対する比率が25%、B型粘度が10000mPa・s、透明度が90%であった。
<製造例2>
・・・
[0048] <実施例1>
上記製造例1?10及び比較例A?Cについて、熱処理後の粘度の変動、レオメーター粘度、被膜性、液だれしにくさ、分散性、保水性、及び熱処理後の着色の評価を行った。結果を表1に示す。
[0049] (熱処理後の粘度の変動の評価)
得られた繊維の水分散液(固形分1%(w/v))を80℃で5時間、保持した。その後、25℃まで放冷し、上記方法でB型粘度を測定した。
[0050] (レオメーターの測定)
得られた繊維の水分散液(固形分1%(w/v))を30℃とし、粘弾性レオメーターMCR301(アントンパール社製)により、ずり速度が0.01(1/s)の時の粘度を測定した。測定には、パラレル型のプレート(PP25)を用い、測定部のギャップを1ミリとした。
[0051] (被膜性の評価)
得られた繊維の水分散液(固形分1%(w/v))をガラス板上に#16のコーティングロッドを用いて塗布し、送風乾燥器中で100℃、30分焼き付けを行い、膜厚20?25μmになるよう調整した。ガラス試験板を40℃の温水中に浸漬し、被膜の白化、はがれ、ブリスターの程度を目視判定した。
3:5日以上浸漬しても安定である
2:浸漬5日以内に異常発生
1:浸漬1日以内に異常発生
[0052](液だれしにくさの評価)
得られた繊維の水分散液を固形分0.1%(w/v)とし、スプレー容器にいれ、垂直面にスプレーした。垂直面に付着した液体のダレの程度を目視判定した。
3:液ダレがほとんどない。
2:液だれが若干みられる
1:明らかに液ダレがある。
[0053] (分散性の評価)
得られた繊維の水分散液を固形分0.2%(w/v)に調整し、カーボンブラックを濃度2%(w/v)となるように加えた。その後、1000rpmで10分間撹拌し、比色管にいれ静置した。一週間後のカーボンブラックの分散性の程度を目視判定した。
3:カーボンブラックが良好に分散している。
2:カーボンブラックがわずかに沈降している
1:カーボンブラックの分散性が悪く、沈降が生じている。
[0054] (保水性の評価)
得られた繊維の水分散液(1%(w/v))を上質紙(日本製紙製、商品名:NPi上質(登録商標)、坪量64. 0g/m^(2))上に3滴たらし、紙への染み込み具合の程度を目視判定した。
3:良好上質紙にしみこまない
2:上質紙にわずかにしみこんでしまう
1:不良上質紙にしみこんでしまう
[0055] (熱処理後の着色の評価)
得られた繊維の水分散液(1%(w/v))を105℃で一晩乾燥させた。乾燥後の繊維の着色の状態を目視判定した。
2:ほとんど着色しない
1:着色が認められる
[0056]
[表1]



ア5)「[0061] 以上のように、本発明のカルボキシメチル化セルロース繊維は、耐熱性、被膜性、液だれしにくさ、分散性、及び保水性に優れており、また、各種の添加剤と混合した場合でも粘度が低下せず、液だれしにくさや、分散安定性を保持する。したがって、食品、飲料、化粧品、医薬、各種化学用品、土木、塗料、インキ、農薬、建築、防疫薬剤、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、洗浄剤などの様々な分野における添加剤として有用である。具体的には、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、ゴム・プラスチック用配合材料、接着剤用添加剤、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤及び溢泥防止剤として使用することができ、それらを構成成分として含むゴム・プラスチック材料、塗料、接着剤、化粧品、潤滑用組成物、研磨用組成物、衣料用しわ低減剤、アイロンがけ用滑り剤などに応用できる。また、高い被膜性、形成する膜の水中での高い安定性、高い保水性を有していることから製紙、印刷用途素材、例えば、コート紙用塗剤やバインダーとしても好適に使用できる。」

ア6)「[0067] (化粧品:液体ファンデーション)
精製水(9)に(8)を加えて70℃に加熱した後、(6)、(7)を加えて十分に撹拌した。これに十分混合粉砕された(1)?(5)の混合物を撹拌しながら添加し、70℃でホモミキサー処理した。次に70?80℃で加熱溶解された(10)?(14)を徐々に添加した後、(15)を加えて70℃でホモジナイザー処理した。これを、撹拌しながら室温まで冷却し、最後に脱気して容器に充填し化粧品(液体ファンデーション)を得た。下記の基準に従い、1週間後の化粧品の安定性、均一性を目視判定した。結果を表2に示す。
3:均一な状態を保っている。
2:ほとんど均一な状態を保っているが、ごく一部、沈殿が生じている。
1:沈殿物が存在する。
(1)タルク:3.0wt%
(2)二酸化チタン:5.0wt%
(3)ベンガラ:0.5wt%
(4)黄酸化鉄:1.4wt%
(5)黒酸化鉄:0.1wt%
(6)モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン:0.9wt%
(7)トリエタノールアミン:1.0wt%
(8)プロピレングリコール:10.0wt%
(9)精製水:残余
(10)ステアリン酸:2.2wt%
(11)イソヘキサデシルアルコール:7.0wt%
(12)モノステアリン酸グリセリン:2.0wt%
(13)液状ラノリン:2.0wt%
(14)流動パラフィン:2.0wt%
(15)上で得られた繊維:セルロース純分として1wt%
(16)必要に応じて、防腐剤、香料等を加える。
[0068] (化粧品:アイライナー)
精製水(7)に(3)、(4)を加え、70℃で加熱溶解した後(1)を加えてコロイドミルで処理した。(2)、(5)、(6)を加えた後、70℃でホモジナイザー処理した。これを撹拌しながら室温まで冷却し、化粧品(アイライナー)を得た。1週間後の化粧料の安定性、均一性を目視判定した。結果を表2に示す。
3:均一な状態を保っている。
2:ほとんど均一な状態を保っているが、ごく一部、沈殿が生じている。
1:沈殿物が存在する。
(1)黒酸化鉄:14.0wt%
(2)酢酸ビニル樹脂エマルジョン:45.0wt%
(3)グリセリン:5.0wt%
(4)ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル:1.0wt
%
(5)クエン酸アセチルトリブチル:1.0wt%
(6)上で得られた繊維:セルロース純分として1wt%
(7)精製水:残余
(8)必要に応じて、防腐剤、香料等を加える。
[0069](化粧品:アイシャドー)
(1)?(3)をブレンダーで混合後、粉砕機で処理した。精製水(7)に(8)、(9)を加え、70?75℃に加熱した。これに、70?80℃で加熱溶解した(4)?(6)の混合物を撹拌しながら加えた。これによって得られた(4)?(9)の混合物に(1)?(3)の混合物を70?75℃で撹拌しながら加え、次いで(10)を加えてホモジナイザー処理した。撹拌しながら室温まで冷却し、化粧品(アイシャドー)を得た。1週間後の化粧品の安定性、均一性を目視判定した。結果を表2に示す。
2:均一な状態を保っている。
1:沈殿物が存在する。
(1)タルク:10.0wt%
(2)カオリン:2.0wt%
(3)顔料:5.0wt%
(4)ミリスチン酸イソプロピル:8.0wt% 20
(5)流動パラフィン:5.0wt%
(6)モノラウリル酸プロピレングリコール:3.0wt%
(7)精製水:残余
(8)ブチレングリコール:5.0wt%
(9)グリセリン:1.0wt%
(10)上で得られた繊維:セルロース純分として1.2wt%
(11)必要に応じて、酸化防止剤、香料、防腐剤、金属イオン封鎖剤等を加える。
[0070] (化粧品:乳液状クリーム)
乳液状の化粧品組成物(ステアリン酸4質量%、スクワラン5質量%、グリセリン5質量%、プロピレングリコール5質量%、ショ糖脂肪酸エステル2質量%、上で得られた繊維:セルロース純分として3質量%、水70質量%)を作成した。得られた乳液状クリームを女性パネラー15名に1ヶ月間使用させ、分散性、ザラツキ感のなさ、ベトツキ感のなさ、伸び、保湿性、付着性の評価を行った。結果を表2に示す。
3:11?15名が良好と判定
2:6?10名が良好と判定
1:0?5名が良好と判定。」

ア7)「



イ 甲2号証(特開2010-235687号公報)
イ1)「【請求項1】
(A)(1)N-オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化する工程、
(B)前記(A)からのセルロース系原料を解繊・分散処理することによりナノファイバー化する工程、
(C)前記(B)からのセルロースナノファイバーを酸性にしてゲル状物質を形成させる工程、
(D)前記(C)からのゲル状物質を水洗し、次いでスラリー化し、ゲル状物質の分散液を調製する工程、及び、
(E)前記(D)からの分散液を粉砕処理してセルロースゲル分散液を得る工程
を含むことを特徴とするセルロースゲル分散液の製造方法。」

イ2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法により得られたセルロースナノファイバー水分散液では、セルロースナノファイバーの表面に存在するカルボキシル基がナトリウム塩などの塩を形成し、親水性が高い状態となっているため、ナノファイバー分散液から調製したフィルムや繊維は、高湿度環境下で容易に吸湿・膨潤し、寸法が変化するなどの問題を生じたり、また所望の高機能性が得られないなどの問題を生じている。
【0006】
この問題を解決する方法としては塩型のカルボキシル基(例えば、-COONa)を酸性にすることで酸型のカルボキシル基(-COOH)に変換し、親水性を下げる手法が考えられる。しかしながら、酸化されたパルプにおけるカルボキシル基を酸型(-COOH)に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題がある。」

イ3)「【0053】
[実施例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(日本製紙ケミカル社)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化パルプを得た。0.3%(w/v)の酸化パルプスラリーを回転刃を装備したハイシェアーミキサー(日本精機製作所社、エクセルオートホモジナイザーED-7、周速37m/s)でナノファイバー化してセルロースナノファイバー分散液を得た。0.3%(w/v)の酸化パルプスラリーを回転刃を装備したハイシェアーミキサー(日本精機製作所社、エクセルオートホモジナイザーED-7、周速37m/s)でナノファイバー化してセルロースナノファイバー分散液を得た。このセルロースナノファイバー分散液を2N塩酸水溶液でpH3としゲル状の凝集物を得た。この凝集物(ゲル状物質)を十分に水洗した後、水を加えて、1%(w/v)のスラリー(ゲル状物質の分散液)を2L調製した。このゲル状物質の分散液を、超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で10回処理したところ、半透明なゲル状のセルロースゲル分散液が得られた。」

(2)甲1号証に記載された発明
甲1号証には、特定の平均繊維径、アスペクト比、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度を有するカルボキシメチル化セルロース繊維が記載されているところ(摘示ア1)、具体的な製造例として上記摘示ア4で示した製造例1が記載されている。当該製造例1の方法及び摘示ア1?ア7の記載からみて、甲1号証には、「パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で50g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを50g(有効成分換算)添加し、30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌し、その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05のカルボキシルメチル化したパルプを得、その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で3回処理することにより解繊する、カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法であって、得られた繊維は、平均繊維径が10nm、アスペクト比が500、I型の結晶化度が75%、II型のI型に対する比率が25%、B型粘度が10000mPa・s、透明度が90%である前記カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法。」の発明(以下「甲1発明1」ともいう。)が記載されている。
また、甲1号証には、「パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で50g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを50g(有効成分換算)添加し、30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌し、その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05のカルボキシルメチル化したパルプを得、その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で3回処理することにより解繊する、カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法であって、得られた繊維は、平均繊維径が10nm、アスペクト比が500、I型の結晶化度が75%、II型のI型に対する比率が25%、B型粘度が10000mPa・s、透明度が90%である前記カルボキシメチル化セルロース繊維の製造方法によって得られたカルボキシメチル化セルロース繊維。」の発明(以下「甲1発明2」ともいう。)が記載されている。

(3)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比
甲1発明1のパルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)は、本件発明1の原料パルプに相当する。
甲1発明1では、アルカリセルロース化について特定されておらず、得られるものがカルボキシメチルセルロース(CMC)塩であるとはされていないが、パルプに水酸化ナトリウムを加えた後、水を加えその後30℃で30分間撹拌するものであり、この工程は本件発明1のアルカリセルロース化に相当し、甲1発明1においてさらに、モノクロロ酢酸ナトリウムを添加して反応を行うことにより、カルボキシメチル化して、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩が生成するものと解され(なお、本件発明1においても同様の工程によりアルカリセルロース化を行い、モノクロル酢酸を反応させて、CMC塩としていると解される(段落0053)。)、また、摘示ア3には、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としてカルボキシメチル化セルロース繊維について、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした旨記載があるから、甲1発明1において、得られるものはカルボキシメチル化セルロース塩であるといえる。
また、甲1発明1では、解繊分散処理すること、得られるものが水分散体であることについて特定がないが、摘示ア4の段落0048、0049によれば、製造例1で得られたものは水分散液であり、甲1発明1は、固形分1%の水中で解繊するものであるから、甲1発明1は、解繊分散処理するものであって、得られるものは水分散体である。
さらに、甲1発明1ではナノファイバーである旨特定がないが、得られた繊維は平均繊維径が10nm、アスペクト比が500であり、ナノサイズの繊維径をもった繊維であって、本願明細書の段落0002にナノファイバーについて「ナノサイズの繊維径をもったセルロース繊維(セルロースナノファイバー)」との記載があるから、甲1発明1の繊維は本件発明1でいうナノファイバーであるといえる。
そして、甲1発明1のグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.05であるから、本件発明1の該置換度0.02?0.80の範囲内にある。
してみると、本件発明1と甲1発明1とは、
「(i)原料パルプをアルカリセルロース化し、更に、カルボキシメチル化してカルボキシメチルセルロース(CMC)塩を製造する工程、
(v)得られたCMC塩を解繊分散処理する工程、
を有するCMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法であって、
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であるCMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法。」である点で一致し、
<相違点1>
本件発明1が、(ii)前記CMC塩を部分酸型CMCに変換する工程を有するものであり、工程(v)において解繊分散処理に供するCMC塩が部分酸型であり、前記、部分酸型CMCがCMC塩のアルカリ塩の部分を部分的に酸型に変換したものであり、製造方法の対象となるCMC塩ナノファイバー水分散体を部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体である旨特定しているのに対し、甲1発明1ではそのように特定されていない点、
<相違点2>
本件発明1が、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%であると特定するのに対し、甲1発明1ではかかる特定がない点
において相違する。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
相違点1は、CMC塩を部分酸型CMCに変換し、解繊分散処理することに関するものであるので、この点について検討する。
甲1号証には、CMC塩を部分酸型CMCに変換することについての記載はない。段落0033(摘示ア4)に、モノクロロ酢酸ナトリウムを反応させた後、中和する旨の記載があるが、中和によって、CMC塩が部分酸型CMCに変換されるとの記載はなく、CMC塩が部分酸型CMCに変換されるとの技術常識もない。
一方、甲2号証には、セルロース系原料を酸化した後、解繊・分散処理することによりナノファイバー化し、その後セルロースナノファイバーを酸性にしてゲル状物質を形成させる工程を含むセルロースゲル分散液の製造方法が記載され(摘示イ1)、セルロースナノファイバーについて、表面に存在するカルボキシル基がナトリウム塩などの塩を形成し、親水性が高い状態となっているため、ナノファイバー分散液から調製したフィルムや繊維は、高湿度環境下で容易に吸湿・膨潤し、寸法が変化するなどの問題を生じること、この問題を解決する方法としては塩型のカルボキシル基(例えば、-COONa)を酸性にすることで酸型のカルボキシル基(-COOH)に変換し、親水性を下げる手法が考えられること、酸化されたパルプにおけるカルボキシル基を酸型(-COOH)に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題があること、セルロースナノファイバー分散液を製造する具体例として、セルロースナノファイバー分散液を2N塩酸水溶液でpH3としゲル状の凝集物を得たことが記載されている(摘示イ2、イ3)が、甲2号証に記載されているのはセルロースナノファイバーについてであって、CMC塩ナノファイバーについての記載はなく、さらに、セルロースナノファイバーについての事項ではあるものの、酸化されたパルプにおけるカルボキシル基を酸型に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題があることが記載されているのであるから(摘示イ2)、甲2号証の記載をみても、当業者が、甲1発明1において、カルボキシルメチル化したパルプを得た後、解繊前にCMC塩を部分酸型CMCに変換することを想起し得たものとはいえない。
したがって、相違点1に係る事項を当業者が容易に想到し得たということはできない。

(イ)相違点2について
相違点2は、酸型置換基の全置換基に対する割合についてのものであり、これは部分酸型CMCについての特定であるところ、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明1において、カルボキシルメチル化したパルプを得た後、解繊前にCMC塩を部分酸型CMCに変換することを想起し得たものとはいえないから、ましてや、部分酸型CMCについての特定である、酸型置換基の全置換基に対する割合を相違点2において挙げた範囲に特定することについては当業者が容易に想到し得たものということはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明1と甲1号証に記載された発明とを対比し、その相違点として、上記相違点1と同様に、甲1号証に記載された発明が、部分酸型CMC塩を得て部分酸型CMC塩を解繊処理に供することを明示しない点、上記相違点2と同様に、甲1号証に記載された発明が、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%であることを明示しない点を挙げ、それらについて、当業者が容易に想到し得ると主張するが、これらの点は、いずれも、上記したとおり当業者が容易に想到し得るものではないので、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

エ まとめ
したがって、本件発明1は甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の工程(ii)と工程(v)の間に、(iii)前記部分酸型CMCを洗浄する工程、(iv)洗浄した部分酸型CMCと、所定量のアルカリを反応させる工程をさらに有するものであり(なお、本件発明1に「前記、部分酸型CMC」とあるのに対し、本件発明2には「前記、部分酸型CMC塩」とされているが、製造工程からみて、本件発明1及び2においてこれらは同義であると解される。)、工程(ii)でCMC塩を部分酸型CMCに変換すること、工程(v)で解繊分散処理に供するCMC塩が部分酸型であること前提として、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2に更に工程を加えた製造方法の発明であるから、本件発明1及び2と同様に、甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(6)本件発明4について
ア 甲1発明2との対比
上記(3)アで述べたことを考慮し、本件発明4と甲1発明2とを対比すると、両者は、「(i)原料パルプをアルカリセルロース化し、更に、カルボキシメチル化してカルボキシメチルセルロース(CMC)塩を製造する工程、
(v)得られたCMC塩を解繊分散処理する工程、
を有するCMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法であって、
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02?0.80であるCMC塩ナノファイバー水分散体の製造方法によって得られたCMC塩ナノファイバー水分散体。」である点で一致し、

<相違点3>
本件発明4は、本件発明4に係る製造方法が(ii)前記CMC塩を部分酸型CMCに変換する工程を有するものであり、工程(v)において解繊分散処理に供するCMC塩が部分酸型であり、前記、部分酸型CMCがCMC塩のアルカリ塩の部分を部分的に酸型に変換したものであり、当該製造方法によって得られたCMC塩ナノファイバー水分散体が部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体であり、酸型置換基が全置換基の1.0?80.0%であると特定するのに対し、甲1発明2ではそのように特定されていない点において相違する。

イ 相違点3についての検討
相違点3に係る事項はいずれもCMC塩を部分酸型に変換することに関連する事項であり、本件発明4のCMC塩ナノファイバー水分散体は、CMC塩を部分酸型に変換する結果として、部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体である。ここで、CMC塩を部分酸型に変換することについて検討するに、上記(3)イ(ア)で述べたとおり、甲1号証には、CMC塩を部分酸型CMCに変換することについての記載はなく、甲1号証に記載された中和によって、CMC塩が部分酸型CMCに変換されるとの記載はなく、CMC塩が部分酸型CMCに変換されるとの技術常識もない。また、甲2号証には、CMC塩ナノファイバーについての記載はなく、酸化されたパルプにおけるカルボキシル基を酸型に変換すると、カルボキシル基による電荷反発力の作用が低減するため、通常のパルプ同様、高せん断力の装置を用いても全くナノファイバー化しないという問題があることが記載されているのであるから、甲2号証の記載をみても、甲1発明2において、当業者が、CMC塩を部分酸型CMCに変換する結果として、部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体とすることを想起し得たものとはいえない。
ましてや、CMC塩を部分酸型CMCに変換する結果として、部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体とすることを想起し得たものとはいえないのであるから、部分酸型CMCについての特定である、酸型置換基の全置換基に対する割合を上記相違点3において挙げた範囲に特定することを当業者が想起し得たものということはできない。
したがって、相違点3に係る事項を当業者が容易に想到し得たということはできない。

ウ まとめ
したがって、本件発明4は甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(7)本件発明5?7について
本件発明5、7は、いずれも、本件発明4である「請求項1または2に記載の製造方法によって得られた部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体」を含有する物についての発明であり、本件発明6は、本件発明5を更に特定する物についての発明であるところ、本件発明4に係る上記部分酸型CMC塩ナノファイバー水分散体が、甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないのであるから、それを含有する物についての発明である本件発明5?7も同様に、甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(8)理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?7についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-15 
出願番号 特願2014-202762(P2014-202762)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08B)
P 1 651・ 121- Y (C08B)
P 1 651・ 537- Y (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5727660号(P5727660)
権利者 第一工業製薬株式会社
発明の名称 セルロースナノファイバー水分散体の製造方法  
代理人 富田 克幸  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 前澤 龍  
代理人 有近 康臣  
代理人 蔦田 正人  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 中村 哲士  
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