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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1311864
異議申立番号 異議2015-700158  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-09 
確定日 2016-03-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第5718843号「ボトル入りマヨネーズ様食品」の請求項1ないし3に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5718843号の請求項1ないし3に係る発明の特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5718843号の請求項1ないし3に係る発明の特許についての出願は、平成13年2月28日に出願した特願2001-55055号の一部を平成24年3月9日に新たな出願としたものであり、平成27年3月27日に特許の設定登録がされた。その後、その特許に対し、平成27年11月9日に特許異議申立人 加藤裕美により、同年同月10日に特許異議申立人 伊澤武登により、特許異議の申立がされたものである。その後、平成28年1月14日付けで特許権者が上申書を提出した。
以下、特許異議申立人 加藤裕美、特許異議申立人 伊澤武登を、それぞれ「申立人1」、「申立人2」といい、各人が行った特許異議申立及びその特許異議申立書を、それぞれ「申立1」、「申立書1」、並びに「申立2」、「申立書2」という。

第2.本件発明
特許第5718843号の請求項1ないし3に係る特許発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、項番に従って「本件発明1」等という。本件発明1ないし3を総称するときは「本件発明」という。)
請求項1の記載を分説して示せば、次のとおりである。
《本件発明1》
A.ボトル入りマヨネーズ様食品であって、
B.該ボトルが少なくとも主要樹脂層/接着樹脂層/酸素バリア性樹脂層/接着樹脂層/主要樹脂層の順で構成される可撓性多層樹脂ボトルであり、
C.該主要樹脂層がポリエチレンからなり、
D.該酸素バリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体単体からなり、
E.及び該接着樹脂層が下掲(1)乃至(6)の樹脂のいずれかで構成され、
(1)マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(2)無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(3)エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体:
(4)(3)の共重合体の金属塩:
(5)エチレン-酢酸ビニル共重合体:及び
(6)ビニルアルコール残基比が25%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、ならびに、
F.ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上であることを特徴とする
G.ボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ様食品。

本件発明2は、上記構成要件Fにおける「0.025ml/日以下」が「0.012ml/日以下」に替わっている点でのみ本件発明1と相違し、その余の点は、本件発明1と同じである。
本件発明3は、上記構成要件Fにおける「0.025ml/日以下」が「0.010ml/日以下」に替わっている点でのみ本件発明1と相違し、その余の点は、本件発明1と同じである。

第3.申立理由の概要
1.申立人1の申立理由
(1)申立人1は、下記(2)に示す甲1-1ないし甲1-6を提出し、本件発明1ないし3は、甲1-1に記載の発明と同一である、また、本件発明1は、甲1-2に記載の発明と同一であるから、本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであると主張し、さらに、本件発明1ないし3は、甲1-1に記載の発明に、甲1-2ないし甲1-6に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、よって、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、取り消されるべきものであると主張している。
申立人1は、さらに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載、及び特許請求の範囲の記載に不備があるから、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同条同項第2号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものであると主張している。

(2)申立人1が提出した証拠方法
甲1-1.実願昭51-156816号(実開昭53-75362号)のマイクロフィルム
甲1-2.特開平7-246682号公報(後記甲2-1と同じ)
甲1-3.特開平11-236063号公報
甲1-4.特許第2864563号公報(後記甲2-3と同じ)
甲1-5.特表平11-512773号公報
甲1-6.香川 綾 監修、『四訂食品成分表』、女子栄養大学出版部、昭和62年1月

2.申立人2の申立理由
(1)申立人2は、下記(2)に示す甲2-1ないし甲2-4を提出し、本件発明1ないし3は、甲2-1に記載の発明に、甲2-2ないし甲2-4に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、よって、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、取り消されるべきものであると主張している。
申立人2は、さらに、下記(2)に示す甲2-5を提出し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載、及び特許請求の範囲の記載に不備があるから、本件請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものであると主張している。

(2)申立人2が提出した証拠方法
甲2-1.特開平7-246682号公報(甲1-2と同じ)
甲2-2.21世紀包装研究協会 編、『食品・医薬品包装ハンドブック』、株式会社 幸書房、2000年7月15日、83?84頁、258?262頁及び266?269頁
甲2-3.特許第2864563号公報(甲1-4と同じ)
甲2-4.野田治郎 著、「マヨネーズの包装技術と品質保全」、『ジャパンフードサイエンス』、13巻9号、昭和49年9月5日、日本食品出版株式会社、71?78頁
甲2-5.川口秀明 著、「ハイバリヤー性樹脂“ソアノール(R)”」、『包装技術』、23巻4号、昭和60年4月、財団法人日本包装技術協会、32?41頁(当審注:「(R)」は「丸囲みしたR」を意味する。)

第4.主たる甲号証の記載事項
甲1-2と甲2-1、甲1-4と甲2-3は、それぞれ同一の証拠であるので、以下では「甲1-2」及び「甲1-4」で代表させることがある。

1.甲1-1の記載事項
申立人1が主たる証拠として掲げる甲1-1には、次の事項が記載されている。
(1)実用新案登録請求の範囲(明細書1頁3行?2頁1行)
「積層構成が最外層(A)/接着層(B)/芯層(C)/接着層(b)/最外層(a)であり、1対の最外層を成す(A)及び(a)はポリオレフイン樹脂、芯層を成す(C)は、エチレン含有量20?50モル%を有し、ケン化度96%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物とし、1対の接着層を成す(B)及び(b)は、α-オレフインの単独重合体、若しくはα-オレフインと酢酸ビニルとの共重合体、若しくは更にその部分ケン化したもののいづれかに不飽和カルボン酸又はその無水物を0.1?4重量%グラフトさせた重合体でかつ、下限厚さ0.1μから上限厚さを全層厚さの5%以下の極薄層である事を特徴とする5層中空容器。」

(2)明細書9頁6行?10頁7行
「本考案で言うポリオレフイン層とは、一般的なα-オレフインの単独重合体又はα-オレフインを主体とする共重合体又はこれらの混合物を意味するが、芯層の脆く、又吸湿により、著しくバリヤー性が低下する致命的な欠点をポリオレフイン層により充分に補わせるため、高強度で低水蒸気透過度を有するものが本考案の目的に適し、更に経済性、外観、衛生性(食品包装の場合、直接食品と接触する層となるため特に問題となり、例えば、BHT等の抗酸化剤は極力減少させ、望ましくは、無添加とする必要があるため、熱又は光安定性の優れたものが好ましい。)等から、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、酢酸ビニル含量15重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体及びアイオノマー等が好ましく、特に抗酸化剤無添加でも成形性のよい低密度ポリエチレン及びアイオノマーが最も好ましい。」

(3)明細書11頁1行?12頁13行
「実施例1
本考案の有用性を知るために2台のスクリユー式押出機と1組のメルター付ギアポンプを使い、押出機の内1台は、芯層としてエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層(エチレン含量32mol%、ケン化度99.5%)、もう1台は、1対の最外層を形成する様に円形ダイ内で2分されるポリエチレン層、更にギアボンプにて1対の芯層と最外層の接着層を形成するエチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28重量%)のケン化物(90%ケン化)のアクリル酸グラフト共重合物層(アクリル酸含量2重量%)を円形ダイ内で溶融会合させ、押出して得られる円筒パリソンを常法により、中空ボトルとした。
本容器の重量は、約22gで内容積500cc、胴部厚さを最外層(A)/接着層(B)/芯層(C)/接着層(b)/最外層(a)の夫々が200μ/1.5μ/30μ/1.5μ/200μ(接着層の厚さ百分率0.7%)となる様に調整したものを接着力(………)及び、ボトル自身の酸素透過度(Modern Control 社製 OX-TRAN 100 型にて30℃の条件で測定した。)について評価した。」

(4)明細書12頁14行?13頁末行
「本考案の要素が1つでも欠けると、目的は達せられぬ事を対照例として以下の(1)、(2)にて示した。又、接着層相当量の接着剤を芯層、又は最外層にブレンドしても、本考案匹敵のものは得られぬ事を以下の対照例の(3)、(4)にて示した。
(1)、実施例(1)と同容積で胴部厚さ450μのポリエチレン単体のボ
トル
(2)、ギアポンプ駆動を止め、接着層を無くしたもの(即ち、厚さ構成
は、(A)/(C)/(a)を200μ/30μ/200μ)
(3)、芯層に接着剤を混合したもの(即ち、厚さ構成は(A)/(C)/
(a)を200μ/33μ/200μとなり、芯層中の接着剤含量は
約9容積%となる。)
(4)、両最外層に接着剤を混合したもの(即ち、厚さ構成は(A)/(C)
/(a)を201.5μ/30μ/201.5μとなり、最外層中の接
着剤含量は約0.75容積%となる。)」

(5)明細書14頁1行?同頁下から3行
「 第 1 表
┌───────────────────────────┐
│ │接 着 力│ 耐衝撃性 │ 酸 素 透 過 度 │
│ │(g/cm)│ │(cc/bottle.day.atm) │
├─────┼────┼─────┼──────────┤
│実施例(1)│ 450 │50回以上│ 0.05 │
├─────┼────┼─────┼──────────┤
│対照例(1)│ ?? │50回以上│ 63 │
│ (2)│ 5以下 │1回で剥離│ 0.05 │
│ (3)│ 52 │ 33.6回│ 0.09 │
│ (4)│ 5以下 │1回で剥離│ 0.05 │
└─────┴────┴─────┴──────────┘
第1表によれば、対照例(1)では酸素透過度は極端に大きく食品等の保存性劣悪となる。対照例(2)、(4)では接着力が弱過ぎ、耐衝撃性劣悪で、実用に耐えぬものしか得られない。対照例(3)は比較的良好であるが、耐衝撃性は劣ると共に、芯層が変質し、酸素透過度も実施例に及ばぬ事が知られる。」
(6)明細書14頁下から2行?16頁10行
「実施例2
接着剤の種類が本考案の範囲内にある必要を知るため、実施例(1)と同方法で同一厚さ構成のボトルを接着剤の種類のみを変えて作成し、第2表に接着強度の結果をまとめて示した。
実施例としては、
(A)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28重量%)に
2重量%のアクリル酸をグラフトしたもの。
(B)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28重量%)の
90%ケン化物に2重量%のアクリル酸をグラフトしたもの。
(C)、低密度ポリエチレンに1重量%のマレイン酸をグラフトしたもの。
これの対照例として
(D)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28重量%)
(E)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量28重量%)の
90%ケン化物。
第 2 表
┌─────┬─────┐
│ │ 接 着 力 │
│ │ g/cm │
├─────┼─────┤
│実施例(A)│ 450 │
│ (B)│ 400 │
│ (C)│ 510 │
├─────┼─────┤
│対照例(D)│ 100 │
│ (E)│ 220 │
└─────┴─────┘ 」

(7)第1図には、口部に雄ネジを設けたボトルが図示されている。

2.甲1-2(甲2-1)の記載事項
申立人1及び申立人2が主たる証拠として掲げる甲1-2には、次の事項が記載されている。
(1)段落0001
「[産業上の利用分野]本発明は、スクイズ性(圧潰性)とガスバリヤー性とを備えた多層中空プラスチック容器に関し、さらに詳しくは、透明性及び耐熱性に優れ、かつ、スクイズ性が良好な多層中空プラスチック容器に関する。本発明の多層中空プラスチック容器は、外観上、内容物の色味を損なうことがなく、しかも高温充填が可能なため、トマトケチャップやマヨネーズなどを充填する容器として好適である。」

(2)段落0002
「[従来の技術]従来から、トマトケチャップなどの容器として、内容物を絞り出すことができるプラスチック製のスクイズボトル(squeeze bottle)が使用されている。このようなボトルとしては、例えば、外層と内層に低密度ポリエチレン(LDPE)、芯層にエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)を配置したLDPE/EVOH/LDPEの層構成の多層中空プラスチック容器が汎用されている。芯層のEVOHは、酸素ガスバリヤー性を付与するために使用されている。各層間は、必要に応じて接着性樹脂層により接合されている。……」

(3)段落0009
「芯層に使用するガスバリヤー性樹脂としては、エチレン含有量が20?50モル%、好ましくは28?43モル%で、ケン化度が90%以上、好ましくは96%以上のEVOHが好ましい。……」

(4)段落0010
「内外層と芯層との間の接合のために、接着性樹脂からなる層を配置することができる。接着性樹脂としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物でグラフト変性された酸変性ポリオレフィン、あるいはコポリエステル、コポリアミド等が挙げられる。また、内層と芯層との間、あるいは外層と芯層との間に、いわゆるリグラインド層を設けてもよい。リグラインド層は、本発明の多層中空プラスチック容器の製造工程で発生するスクラップ樹脂を材料とするものなどがあり、コスト低減に役立つ。」

(5)段落0011
「本発明の多層中空プラスチック容器の典型的な層構成としては、
[1]外層/接着樹脂層/芯層/接着樹脂層/内層、
[2]外層/接着樹脂層/芯層/接着樹脂層/リグラインド層/内層、
………
等が挙げられる。」
(当審注:「[1]」等は、「丸囲み数字の1」等を表す。)

(6)段落0014
「[比較例1]複数の押出機を使用して、以下の層構成のパリソンを押出し、ダイレクトブロー方式のロータリー成形機により、容積が500mlの多層中空プラスチック容器(多層ブロー容器)を成形した。
(1)層構成
外層側より:LDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/リグラインド/LDPE
(2)各層の厚み(μm)
外層側より:163/2.5/20/2.5/70/162(計420μm)
(3)容器の目付け(重量)は、18.4gであった。
(4)使用樹脂
[1]LDPE:密度=0.921g/cm^(3)、MFR=0.8(JIS K-6760)、融点=113℃、曲げ弾性率=1900kg/cm^(2)
[2]接着性樹脂:酸変性ポリエチレン〔三井石油化学(株)製アドマー、密度=0.92g/cm^(3)、融点=110℃〕
[3]EVOH:(株)クラレ製エバールEP-F(エチレン含有量=32モル%、ケン化度=99%、融点=183℃)
[4]リグラインド:内外層(LDPE)、接着性樹脂層、芯層(EVOH)からなるトリミング屑等の粉砕品 」
(当審注:「[1]」等は、「丸囲み数字の1」等を表す。)


第5.当審の判断
1.甲1-1を主たる証拠とする新規性進歩性
(1)申立人1は、本件発明1?3は、甲1-1に記載された発明と同一である、又は、甲1-1に記載された発明に、甲1-2?甲1-5に記載された技術的事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。そこで、まず、甲1-1を主たる証拠とする新規性進歩性について検討する。

(2)甲1-1発明
ア.甲1-1の実用新案登録請求の範囲に記載された発明(考案)は、「5層中空容器」の発明である(上記第4の1(1))が、その実施例1は「ボトル」であり(上記第4の1(3))、内容物を食品とすることが記載されている(上記第4の1(2)、(4))。また、実施例1、2に記載された樹脂の組成及び厚さ構成(上記第4の1(3)?(5))からみて、実施例1、2のボトルは、ガラスボトルなどに比べて可撓性を有する多層樹脂ボトルであることが明らかである。

イ.甲1-1で、ボトルの酸素透過度が示されているのは、実施例1及びその対照例のみであるところ、実施例1と対照例(2)、(4)とでは、接着層に関する構成が異なるものの芯層が同じであり、実施例1と対照例(2)、(4)とは、酸素透過度が同じであることが示されている。そうすると、実施例2(第2表)に示された実施例(A)(B)(C)のボトルは、実施例1と接着層の樹脂組成のみが異なり芯層が同じであるから、それらの酸素透過度は、実施例1の酸素透過度と同じであると推認される。

ウ.ボトルに内容物を収容して、保管、運搬等をする場合に、ボトルの開口部をネジ付きキャップ等で封止することは、周知かつ一般的に行われていることであり、甲1-1の第1図には、口部に雄ネジを設けたボトルが図示されている。すると、甲1-1には、実施例1、2のボトルに内容物である食品を収容した場合に、ボトルの開口部をネジ付きキャップで封止することが示唆されているといえる。

エ.よって、甲1-1に開示された技術的事項を、本件発明1に倣って整理すると、甲1-1には次の発明が記載されている。(以下「甲1-1発明」という。)
《甲1-1発明》
a1’.ボトル入り食品であって、
b1.該ボトルが最外層(A)/接着層(B)/芯層(C)/接着層(b)/最外層(a)の順で構成される可撓性多層樹脂ボトルであり、
c1.該最外層(A)及び(a)がポリエチレン層であり、
d1.該芯層(C)がエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層(エチレン含量32mol%、ケン化度99.5%)であり、
e1.該接着層(B)及び(b)が低密度ポリエチレンに1重量%のマレイン酸をグラフトしたもので構成され、
f1’.ボトル内容積が500ccで、Modern Control 社製 OX-TRAN 100 型にて30℃の条件で測定したボトル自身の酸素透過度が、0.05cc/bottle.day.atm である、
g1’.ボトルの開口部が封止されたボトル入り食品。

(3)本件発明1と甲1-1発明との対比
ア.甲1-1発明の構成a1’及びg1’の「ボトル入り食品」と、本件発明1の構成要件A及びGの「ボトル入りマヨネーズ様食品」とは、「ボトル入り食品」である限りにおいて一致する。

イ.甲1-1発明の構成b1の「最外層(A)」及び「最外層(a)」、「接着層(B)」及び「接着層(b)」、並びに「芯層(C)」は、それぞれ本件発明1の構成要件Bの「主要樹脂層」、「接着樹脂層」、並びに「酸素バリア性樹脂層」に相当する。

ウ.甲1-1発明の構成c1の「該最外層(A)及び(a)がポリエチレン層であり」は、本件発明1の構成要件Cの「該主要樹脂層がポリエチレンからなり」に相当する。

エ.エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化して得るものであるから、ケン化度99.5%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であるといえる(例えば、甲1-2の段落0009、甲2-5の32頁左欄2?9行参照)。すると、甲1-1発明の構成d1の「該芯層(C)がエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層(エチレン含量32mol%、ケン化度99.5%)であり」は、本件発明1の構成要件Dの「酸素バリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体単体からなり」に相当する。

オ.甲1-1発明の構成e1の「低密度ポリエチレンに1重量%のマレイン酸をグラフトしたもの」は、本件発明1の構成要件Eの「(1)マレイン酸-ポリエチレン共重合体」に相当する。したがって、甲1-1発明の構成e1は、本件発明1の構成要件Eの要件を満たす。

カ.甲1-1発明の構成f1’と、本件発明1の構成要件Fとは、「ボトルの酸素透過度が所定値である」限りにおいて一致する。

(4)本件発明1と甲1-1発明との一致点及び相違点
すると、本件発明1と甲1-1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《本件発明1と甲1-1発明との一致点》
A’.ボトル入り食品であって、
B.該ボトルが少なくとも主要樹脂層/接着樹脂層/酸素バリア性樹脂層/接着樹脂層/主要樹脂層の順で構成される可撓性多層樹脂ボトルであり、
C.該主要樹脂層がポリエチレンからなり、
D.該酸素バリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体単体からなり、
E.及び該接着樹脂層が下掲(1)乃至(6)の樹脂のいずれかで構成され、
(1)マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(2)無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(3)エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体:
(4)(3)の共重合体の金属塩:
(5)エチレン-酢酸ビニル共重合体:及び
(6)ビニルアルコール残基比が25%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、ならびに、
F’.ボトルの酸素透過度が所定値である
G’.ボトルの開口部が封止されたボトル入り食品。

《本件発明1と甲1-1発明との相違点》
本件発明1は、(ア)ボトル入りの「食品」が「マヨネーズ様食品」であり(構成要件A、F、G)、(イ)「ボトルの酸素透過度」を、「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり」で特定しており(構成要件F)、(ウ)酸素透過度の測定条件が「ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度」であり(構成要件F)、(エ)測定値が「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上である」(構成要件F)のに対し、
甲1-1発明は、(ア’)ボトル入りの「食品」について「マヨネーズ様食品」であるとは特定しておらず、(イ’)「ボトルの酸素透過度」について「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり」で特定するのではなく、「ボトル内容積」と「ボトル自身の酸素透過度」とで特定しており、(ウ’)測定条件が「ボトル内容積が500ccで、Modern Control 社製 OX-TRAN 100 型にて30℃の条件で測定したボトル自身の酸素透過度」であり、(エ’)測定値が「0.05cc/bottle.day.atm 」である点。

(5)甲1-1に基づく新規性についての判断
ア.本件明細書段落0012の記載によれば、本件発明1の「マヨネーズ様食品」とは、「主として日本農林規格(JAS)でいう乳化型ドレッシングであり、乳化液の粘度の高い(30,000CP以上)半固体状ドレッシング」のことであり、具体的には「マヨネーズ、サラダドレッシング、タルタルソース、その他の半固体状のドレッシング等」である(農林水産省の基準については、甲2-2の258頁右欄3?10行及び259頁の図2.9.2を参照)。
一方、甲1-1には、ボトル内に収容する「食品」について、「食品」以上の具体的説明がない。そして、ボトル内に収容する「食品」としては、「マヨネーズ様食品」すなわち「乳化液の粘度の高い半固体状ドレッシング」以外にも、果汁やお茶等の液体飲料、醤油や酢等の液体調味料、ケチャップ等の流動性食品、砂糖や塩等の粉末状食品、粒状固形スープ等の粒状食品などが広く知られており、また、ボトル内に収容する「食品」として一般的に用いられている。すると、甲1-1発明のボトル入りの「食品」は、これら液体飲料、液体調味料、流動性食品、粉末状食品及び粒状食品などを含むものといえる。
したがって、ボトル入りの「食品」が「マヨネーズ様食品」であるか、そのような特定がされていない「食品」であるかは、単なる表現上の相違ではなく、実質的な技術的相違点といえる。本件発明1と甲1-1発明とは、この点で相違するから、両者が同一発明であるということはできない。

イ.本件発明1と甲1-1発明とは、「ボトルの酸素透過度」を「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり」で特定するか否か(相違点のイとイ’)、酸素透過度の測定条件(相違点のウとウ’)、酸素透過度の測定値(相違点のエとエ’)の点でもそれぞれ相違し、これら相違は、単なる表現上の相違ではなく、実質的な技術的相違点といえる。よって、本件発明1と甲1-1発明とは、これらの点でも相違するから、両者が同一発明であるということはできない。

ウ.本件発明2及び3と甲1-1発明とを対比すると、上記《本件発明1と甲1-1発明との一致点》と同じ点で一致し、《本件発明1と甲1-1発明との相違点》の(ア)?(ウ)と同じ点で相違し、さらに(エ)と同様な点(本件発明2及び3は測定値の上限値のみが本件発明1と異なる。)で相違する。そしてこれら相違点は、上記ア、イで述べたとおり、実質的な技術的相違点であるから、本件発明2及び3も、甲1-1発明と同一発明であるということはできない。

(6)甲1-1を主たる証拠とする進歩性についての判断
ア.(ア)本件発明の目的は、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することのできるボトル入りマヨネーズ様食品を提供すること」(本件明細書段落0008)であり、「ボトルの極微量の酸素透過性がマヨネーズ様食品の風味及び賞味期限に大きな影響を及ぼすことを見いだし……酸素透過度の小さい可撓性多層樹脂ボトルを採用することによりマヨネーズ様食品の風味が良好に維持される期間が大幅に改善されることを見いだし本発明を完成させた」(本件明細書段落0009)ものである。そして、製造直後のマヨネーズを所定の酸素透過度(マヨネーズ100g当たりの酸素透過度)を有するボトルに充填し、ヘッドスペースの気体を窒素置換後、口部をアルミニウム・ラミネートフィルムで密封し、温度24℃、相対湿度78%の条件下に暗所で3ヶ月間静置保管し、その後、30人のパネルにより官能評価試験を行った結果が、本件明細書段落0047の第2表(下記参照)に示されている。

第 2 表
┌────┬───────┬────┬─────────┐
│ │ 酸素透過度 │風 味 の│油劣化風│ │
│ │(ml/ボトル内 │好ましさ│味の強さ│総合評価│
│ │ 容物100g・日)│ │ │ │
├────┼───────┼────┼────┼────┤
│比較例 │ 0.060 │ 3.8 │ 1.9 │ 3.7 │
├────┼───────┼────┼────┼────┤
│実施例1│ 0.025 │ 4.3 │ 0.8 │ 4.2 │
│ 2│ 0.012 │ 4.5 │ 0.2 │ 4.4 │
│ 3│ 0.004 │ 4.8 │ 0 │ 4.8 │
└────┴───────┴────┴────┴────┘
本件明細書段落0047の第2表によれば、ボトルの酸素透過度が、本件発明の構成要件Fを満たす実施例1?3は、酸素透過度が0.060(本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度の上限値の2.4倍)である比較例に比べ、「風味の好ましさ」、「油劣化風味の強さ」及び「総合評価」のいずれの点においても顕著に良好であることが示されている。

(イ)本件特許の出願当時、マヨネーズ様食品は酸化の影響を受けやすいこと、マヨネーズ様食品の酸化を抑えるためには、容器の酸素透過度を小さくすべきであることが、周知の技術的事項であった(例えば、甲2-2の261頁左欄22?34行、甲2-4の74頁左欄12行?同頁右欄6行参照)。したがって、本件特許の出願当時、マヨネーズ様食品を充填するボトル等の容器の酸素透過度が、ガラス容器のように「ゼロであるか、ゼロに極めて近い値」であれば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することのできる」顕著な作用効果を得ることができることは、当業者の技術常識、ないしはマヨネーズ様食品の技術分野における一般的技術水準であったといえる。そうすると、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することのできる」ことを目的として、「マヨネーズ様食品を充填するボトル等の容器の酸素透過度」を、ガラス容器のように「ゼロであるか、ゼロに極めて近い値」にすることは、この技術常識ないしは一般的技術水準に基づいて、当業者が容易に推考し得たことといえる。
マヨネーズ様食品を充填するボトル等の容器の酸素透過度について、上限値のみを定めて下限値を定めない構成は、「酸素透過度がゼロであるか、ゼロに極めて近い値」である構成を含むものである。このため、酸素透過度について、上限値のみを定めて下限値を定めない構成は、「酸素透過度がゼロであるか、ゼロに極めて近い値」である構成を含む結果、上記技術常識ないしは一般的技術水準に基づいて、当業者が容易に推考し得たことといえる。
これに対し、本件発明は、ボトルの酸素透過度について「マヨネーズ様食品100g当たり0.004ml/日以上」という下限値を規定し、「酸素透過度がゼロであるか、ゼロに極めて近い値」である構成を除外している。本件発明は、ボトルの酸素透過度の下限値を規定することにより、上記技術常識ないしは一般的技術水準に基づいて当業者が容易に推考し得た構成を除外しているから、本件発明が、ボトルの酸素透過度の下限値を規定したことは、本件発明の進歩性を肯定する上で重要な技術的意義を有するといえる。

(ウ)一方、甲1-1には、甲1-1の実施例1は、内容量500ccのボトルであり、Modern Control 社製 OX-TRAN 100 型にて30℃の条件で測定したボトル自身の酸素透過度が0.05cc/bottle.day.atm であること、対照例1は、ボトル自身の酸素透過度が63cc/bottle.day.atm(当審注:甲1-1の実施例1の酸素透過度「0.05」の1260倍)であること、そのため、「対照例(1)では酸素透過度は極端に大きく食品等の保存性劣悪となる」ことが記載されている。
しかし、甲1-1には、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度、すなわち「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」であることを満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、記載も示唆もされていない。
すると、甲1-1発明及び甲1-1の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえない。さらに、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であるともいえない。よって、甲1-1発明に基づいて、本件発明1を発明することが、当業者に容易であったとはいえない。

(エ)申立人1は、申立書1の11頁8?23行において、次のように主張している。
「甲第1号証の実施例1の中空ボトルは、重量約22gで内容量500ccであり、ボトル自身の酸素透過度は30℃の条件で測定して0.05cc/bottle.day.atm(第1表)であると記載されている。
該容器に、マヨネーズを通常の充填量であるボトル内容積の95?100%を充填すると、一般的なマヨネーズの比重はほぼ0.95(甲第6号証:四訂食品成分表、昭和62年1月女子栄養大学出版部発行参照)であるから、甲第1号証のボトルに充填するマヨネーズ量は500×(0.95?1.00)×0.95=451.25?475gとなる。
したがって、甲第1号証の容器にマヨネーズを充填密封した場合、マヨネーズ100gあたりの酸素透過度は0.0105?0.0110ml/日となる。このことから、甲第1号証のボトルを使用することによって、本発明のボトル入りマヨネーズ様食品より酸化劣化を防止し良好な風味を長く維持することができるボトル入りマヨネーズ様食品を得ることができることは明らかである。
よって、本発明のボトル入りマヨネーズ様食品は、甲第1号証に示す公知のボトルにマヨネーズを充填密封することにより得られるものであり、何ら新規性進歩性を有するものではない。」

(オ)しかしながら、上記(5)で検討したとおり、甲1-1発明(申立人1の甲第1号証に記載の発明)と、本件発明1ないし3とには、実質的な技術的相違点があるから、本件発明1ないし3は、新規性を有する。
次に、進歩性を有しないとの主張について検討すると、甲1-1の実施例1のボトルにマヨネーズを充填密封した場合、甲1-1に記載した酸素透過度に基づけば、申立人1が主張するとおり、マヨネーズ100gあたりの酸素透過度は0.0105?0.0110ml/日となるといえる。
しかし、甲1-1には、酸素透過度の測定方法や、その際の測定条件等が十分に開示されてはいない。例えば、どのような湿度条件で酸素透過度を測定したのかが示されていない。EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体、すなわち、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物)については、「EVOHは湿度に弱く,高湿度状態では気密性が著しく低下する」ことが技術常識である(例えば、新井健司(外1)、“プラスチックフィルム等からなる気密容器の酸素透過度”、関税中央分析所報、44号、63?66頁、財務省関税中央分析所、2004年(http://www.customs.go.jp/ccl_search/info_search/others/r_44_11_j.pd)の3.3.1、甲1-4の1頁右欄3?5行、同頁同欄12行?2頁左欄4行、甲2-5の33頁左欄下から11行?同頁右欄下から5行、33頁左欄の図1、40頁左欄19?27行及び同頁右欄の図10を参照)。この技術常識を考慮すると、湿度条件等が不明な甲1-1の実施例1のボトルの酸素透過度が、本件発明1の測定条件であっても、本件発明1が規定する酸素透過度の要件を満たすことが明らかであるとはいえない。例えば、甲2-5の40頁右欄の図10に示された「変性LDPE/ソアノールE(EVOH)/変性LDPE」という層構成のフィルムの「各種湿度条件における酸素透過度」によれば、湿度60%程度における酸素透過度は、湿度83%における酸素透過度の約3倍である(申立書2の参考資料2によれば「2.00/0.68」である)。すると、仮に、甲1-1の酸素透過度の測定条件が湿度60%であったとすると、本件発明が規定する測定条件「ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%」において測定した酸素透過度は、上記「0.0105?0.0110ml/日」の3倍の「0.0315?0.0330ml/日」である可能性も想定される。この酸素透過度は、本件発明1が規定する上限値「0.025ml/日」を上回る値である。
また、仮に、甲1-1の実施例1のボトルにマヨネーズを充填密封した場合に、本件発明1が規定する酸素透過度の要件を満たすとしても、それは、特殊な条件(特定の条件)において、たまたま、酸素透過度の要件を満たすことになったにすぎない。上記(イ)で検討したとおり、甲1-1の記載から、本件発明1が規定する酸素透過度の要件を満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することが当業者に予測可能であったとはいえない。
したがって、仮に、甲1-1の実施例1のボトルにマヨネーズを充填密封した場合に、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすことになったとしても、「本件発明が規定する酸素透過度にすることにより、マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」という技術的思想、すなわち、本件発明における最も重要な技術的思想を、当業者が得ることができたということにはならない。
よって、本件発明1ないし3は、いずれも甲1-1発明及び甲1-1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。申立人1の上記主張は採用できない。

イ.甲1-2(甲2-1と同じ)には、スクイズ性とガスバリヤー性とを備えた、「トマトケチャップやマヨネーズなどを充填する容器として好適な多層中空プラスチック容器」(段落0001、上記第4の2(1)参照)の発明が記載されており、その実施例及び比較例として、ガスバリヤー性樹脂である芯層が、厚さ20μmのEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体、(株)クラレ製エバールEP-F、エチレン含有量=32モル%、ケン化度=99%、融点=183℃)である、容積500mlの多層ブロー容器に、トマトケチャップを充填したものが開示されている(段落0014、上記第4の2(6)参照)。しかし、甲1-2には、これら容器の酸素透過度の値が記載されていないし、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度、すなわち「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」であることを満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲1-2の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

ウ.(ア)甲1-3には、保存中に酸化などを受けると困る油、特に食用油等を充填・保存する容器である口栓(スパウト)付きスタンディングパウチ(段落0001?0004参照)の発明が記載されている。そして、充填する食用油等とは、消防法の適用を受ける危険物としての油であり、具体的には、「大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、やし油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、米ぬか油、ごま油、綿実油、ニシン油、ひまわり油、きり油、イワシ油、あまに油、えの油などの動植物油類を初めとして、その他引火点が同程度の保存中に酸化するなどのおそれのある油」であること(段落0008参照)、酸素透過性の小さい層である15μm厚のポリエチレンビィニールアルコールフィルム(EVOHフィルム)に、油脂に対する環境応力耐性が高いリニアー・ローデンシテイ・ポリエチレンフイルム(LLポリエチレンフイルム)等を積層した積層フィルムを用いて約600ml容量のスタンディングパウチを作成したこと(段落0023、0024参照)、このスタンディングパウチに窒素充填後、温度20℃かつ相対湿度65%の環境試験室に1週間保存後容器内酸素を東レ製ジルコニア式酸素濃度計で測定した結果、酸素透過度は2.5ml/day.atm に相当し、この袋に油500g(約500ml)を充填すると、充填した油1g当たり0.00071ml/day.atm に相当すること(段落0039、0040参照)、パウチ全体の酸素透過度がパウチに充填可能な油1g当たり0.0005ml/day.atm 以下が好ましいこと(請求項5)が記載されている。

(イ)ここで、油1g当たり0.0005ml/day.atm は、油100g当たり0.05ml/day.atm に相当するから、本件発明1の構成要件Fが規定するマヨネーズ様食品100g当たりの酸素透過度「0.025ml/日以下、かつ、0.004ml/日以上」と単純に比較しても、甲1-3が好ましいとする酸素透過度は、本件発明1が規定する酸素透過度の上限値の2倍である。
さらに、温度上昇に伴って、プラスチックの酸素透過度が増大することが技術常識であり、EVOHの1種であるエバール-F-タイプでは、23℃における酸素透過度は20℃における酸素透過度の約1.33倍(0.2/0.15)、エバール-E-タイプでは、23℃における酸素透過度は20℃における酸素透過度の約1.63倍(1.3/0.8)であるとされている(例えば、株式会社 富士グローバルネットワークのウェブサイト「EnplaNet.com」の「エバール:EVOH樹脂・フィルム」と題するページ(http://www.enplanet.com/Company/00000029/Ja/Data/p001.html)の表-4を参照。また、甲2-5の33頁の図2には、EVOHの1種であるソアノールの温度と酸素透過度の関係が図示されている)。また、上記ア(エ)で述べたとおり「EVOHは湿度に弱く,高湿度状態では気密性が著しく低下する」ことも技術常識である。
すると、測定条件が「温度20℃かつ相対湿度65%の」である甲1-3の酸素透過度「0.05ml/day.atm 」は、本件発明1の測定条件「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%」の酸素透過度に換算すれば、温度と湿度のいずれの点においても、本件発明1の測定条件とした場合よりも、酸素透過度の値が低く計測されているといえる。そして、本件発明1の測定条件で測定した場合には、温度の相違のみをみても、1.33倍以上、すなわち、「0.0665ml/day.atm 」以上になると推認される。この酸素透過度は、本件明細書で比較例とされているボトルの酸素透過度「0.060ml/day.atm 」を超えている。

(ウ)そうすると、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度、すなわち「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」であることは、甲1-3には、記載も示唆もされていない。さらに、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度を満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することも、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲1-3の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

エ.(ア)甲1-4(甲2-3と同じ)には、食品や飲料などの水を多量に含む内容物の多層プラスチックボトル容器において、酸素バリアー層を薄く形成してコストを削減しつつ(1頁左欄末行?2頁左欄8行参照)、酸素バリアー性と容器の落下に対する強度を向上させるため、多層プラスチックボトル容器中の酸素バリアー層の配置位置を工夫し、胴部ではバリアー層を肉厚中心線よりも容器外周面側に位置させ、底部構成壁部ではバリアー層を肉厚中心線よりも容器内周面側に位置させ(2頁左欄9?29行参照)プラスチックボトル容器の発明が記載されている。そして、容積1.5リットルのプラスチックボトル容器で(2頁左欄33?36行参照)、酸素透過度を測定する条件として、容器1内を湿度100%にし、気温25℃湿度65%に保持された室内に、プラスチックボトル容器1を30日放置後、酸素透過度を測定したこと(2頁右欄37?42行参照)、酸素バリアー層をEVOHとした容器では、容器の1日当たりの酸素透過度が0.033cc/pkg/day であること(3頁左欄10?15行、及び同頁同欄24行?同頁右欄1行参照)が記載されている。

(イ)しかし、甲1-4は、「食品や飲料などの水を多量に含む内容物」を想定している発明であるから、油脂を主要構成成分とする「乳化液の粘度の高い半固体状ドレッシング」(本件明細書段落0012、甲2-4の74頁左欄13?14行の「マヨネーズは前述のように水中油滴型のエマルジョンであり,成分中に60?70%のサラダ油が含まれている」を参照)を内容物とすることを示唆しているとはいえない。したがって、甲1-1発明及び甲1-4の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえない。

(ウ)ところで、甲1-4に記載された測定条件「気温25℃、ボトル内湿度100%、ボトル外湿度65%」は、本件発明の測定条件「気温24℃、ボトル内湿度95%、ボトル外湿度76%」と比べると、温度がやや高く、ボトル内外の湿度の平均値がやや低い。EVOHは、温度又は湿度のいずれが上昇しても、酸素透過度が大きくなる(例えば、甲2-5参照)から、甲1-4の測定条件と、本件発明の測定条件とは、酸素透過度に対する測定条件としては同程度の温度・湿度条件であるといえる。すると、甲1-4の酸素透過度は、本件発明の測定条件で測定した酸素透過度と同程度であると推認される。そこで、仮に、甲1-4記載の発明で、酸素バリアー層をEVOHとした容器にマヨネーズを充填した場合を想定して、マヨネーズ100g当たりの酸素透過度を見積もると、マヨネーズ量は1500cc×(0.95?1.00(充填割合))×0.95(比重)=1353.75?1425gであり(上記ア(ウ)参照)、マヨネーズ100gあたりの酸素透過度は0.033/(13.5375?14.25)=0.00244?0.00232ml/日となる。
この値は、本件発明が規定する酸素透過度の下限値である0.004ml/日を相当程度下回っている。したがって、この点からも、甲1-1発明及び甲1-4の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)なお、甲1-4には、酸素バリアー層がEVOHであるが、甲1-4の特許請求の範囲に記載された条件を満たさない(酸素透過度が良好でないとされる)ボトルでは、酸素透過度が0.086cc/pkg/day であり、酸素バリアー層がEVOHではなくメタキシリレン基含有ポリアミドであり、酸素透過度が良好であるとされるボトルでは、酸素透過度が0.065cc/pkg/day であったことが記載されている(3頁左欄1行?同頁右欄1行参照)。これらのボトルにマヨネーズを充填した場合の酸素透過度を、上記(ウ)と同様に見積もると、それぞれ0.00635?0.00604ml/日、0.00480?0.00456ml/日となる。これら数値は、本件発明が規定する酸素透過度の上下限値の範囲に入っている。
しかしながら、これらボトルにマヨネーズを充填密封した場合に、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすとしても、それは、特殊な条件(特定の条件)において、偶然、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすことになったにすぎない。甲1-4には、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することが記載も示唆もされていないから、甲1-1発明及び甲1-4の記載事項に基づいて、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することが当業者に予測可能であったとはいえない。
したがって、甲1-4の上記ボトルにマヨネーズを充填密封した場合に、偶然、本件発明が規定する酸素透過度の要件を満たすことになるからといって、「本件発明が規定する酸素透過度にすることにより、マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」という技術的思想、すなわち、本件発明における最も重要な技術的思想を、当業者が得ることができたということにはならない。
よって、この点からも、甲1-1発明及び甲1-4の記載事項に基づいて、本件発明1を当業者が容易に発明することができたとはいえない。

オ.甲1-5には、改良されたガスバリヤー性を有する熱可塑性コポリエステル(発明の名称参照)であって、良好な酸素及び炭酸ガスバリヤー性を要求される食品包装製品、食品トレイ、フィルム及び飲料ボトルの製造に特に有用な発明(3頁4?7行参照)が記載されている。甲1-5には、酸素透過率を「ASTM D 3985 によって、1ミル厚で100インチ平方の試料を、MOCON Oxtran 10-50 器具を用いて30℃及び68%相対温度で酸素分圧差1気圧で24時間で測定する」(8頁末行?9頁2行参照)ことが記載されている。
しかし、甲1-5には、内容物をマヨネーズ様食品とすること、酸素バリヤー層としてエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いること、酸素透過度の測定条件を本件発明1の構成要件Fのようにすること、酸素透過度が構成要件Fを満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏すること、のいずれも、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲1-5の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

カ.甲1-6には、計量カップ又はスプーンで計量した食品の容積と重量との関係を記載した表が示されており、マヨネーズについては、200ccの重量が190gであることが記載されている。しかし、甲1-6には、食品を保管しておくボトル等の容器については、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲1-6の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

キ.申立人2が提出した甲2-2には「マヨネーズ・ドレッシングの包装」について記載されているので、甲1-1発明に甲2-2の記載事項を適用することについても検討する。
甲2-2には、「酸素透過度の異なる各種プラスチック容器にマヨネーズを充填し保存したときのマヨネーズの酸化度合(過酸化物価)」が、容器の酸素透過度を小さくすると、酸化度合が小さくなること(261頁左欄13?34行、同頁右欄図2.9.5参照)、「マヨネーズ・ドレッシングの包装」として低密度ポリエチレンとエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)との多層ブロー容器を用いること(262頁左欄22?28行参照)が記載されている。
しかし、甲2-2が示す容器の酸素透過度と酸化度合との関係は、酸素透過度が小さくなるほど酸化度合が小さくなる傾向があるという、一般的かつ周知の技術的事項を示すにとどまる。甲2-2には、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度、すなわち「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」であることを満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲2-2の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

ク.申立人2が提出した甲2-4には「マヨネーズの包装技術と品質保全」について記載されているので、甲1-1発明に甲2-4の記載事項を適用することについても検討する。
甲2-4には、上記甲2-2の図2.9.5と同様な図である図2(74頁左欄)、プラスチック容器に入れた場合、プラスチック表面積に対するマヨネーズの総重量の比率が過酸化物価(マヨネーズの酸化度合)の上昇に大きな影響を及ぼすため、内容量の大きいチューブ入りのものの方が、内容量の小さいものより酸化の受け方が少ないこと(76頁右欄ニ)項(27?36行))が記載されている。
しかし、甲2-4の図2等が示す、容器の酸素透過度と酸化度合との関係は、酸素透過度が小さくなるほど酸化度合が小さくなる傾向があるという、一般的かつ周知の技術的事項を示すにとどまる。また、甲2-4が示すプラスチック容器表面積に対するマヨネーズの総重量の比率が、マヨネーズの酸化度合に影響を及ぼす等の記載は、マヨネーズ容器としての酸素透過量との関係で、マヨネーズの重量当たりの酸素透過量が少ないほど、酸化度合が小さくなる傾向があるという一般的かつ周知の技術的事項を示すにとどまる。
甲2-4には、本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度、すなわち「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」であることを満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲2-4の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

ケ.申立人2が提出した甲2-5には「ハイバリヤー性樹脂“ソアノール(R)”」について記載されているので、甲1-1発明に甲2-5の記載事項を適用することについても検討する。
甲2-5には、「ソアノール(R)」は、日本合成化学工業が開発したエチレン・ビニルアルコール共重合体、すなわち、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)であり、ガスバリヤー性や耐油性を有すること(32頁左欄2?14行参照)、多層パリソンを型に入れて吹き込み成形する共押出ブローボトルが製造可能であること(39頁右欄10?11行参照)、食品包装用途としてマヨネーズやサラダドレッシングなどの調味料が想定されること(40頁右欄下から10行?41頁左欄1行参照)などが記載されている。
しかし、甲2-5には、ボトルの酸素透過度と内容物の重量との関係については記載されておらず、酸素透過度の測定条件を本件発明1の構成要件Fのようにすること、酸素透過度が構成要件Fを満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1-1発明及び甲2-5の記載事項に基づいて、甲1-1発明に「本件発明1と甲1-1発明との相違点」に係る構成(構成要件F)を適用する動機付けがあるとはいえないし、該相違点に係る構成を適用すると、本件発明1が奏する顕著な作用効果が得られることが当業者に予測可能であったともいえない。

コ.以上のとおり、甲1-1発明に、申立人1が提出した甲1-1ないし甲1-6の記載事項、並びに申立人2が提出した甲2-1ないし甲2-5の記載事項のいずれを組み合わせても、上記《本件発明1と甲1-1発明との相違点》に係る本件発明1の構成にする動機付けがあるとはいえない。さらに、《本件発明1と甲1-1発明との相違点》に係る本件発明1の構成(構成要件F)にした場合に、本件発明1が奏する「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」という顕著な作用効果を実現できることを、当業者が予測可能であったともいえない。
よって、本件発明1が、甲1-1発明と、申立人1が提出した甲1-1ないし甲1-6の記載事項、並びに申立人2が提出した甲2-1ないし甲2-5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

サ.本件発明2及び3と甲1-1発明とを対比すると、上記《本件発明1と甲1-1発明との一致点》と同じ点で一致し、《本件発明1と甲1-1発明との相違点》の(ア)?(ウ)と同じ点で相違し、さらに(エ)と同様な点(本件発明2及び3は測定値の上限値のみが本件発明1と異なる。)で相違する。そしてこれら相違点は、上記ア?コで検討したのと同様に、相違点に係る本件発明2又は3の構成にする動機付けがあるとはいえないし、本件発明2又は3が奏する顕著な作用効果を実現できることを、当業者が予測可能であったともいえない。
よって、本件発明2又は3が、甲1-1発明と、申立人1が提出した甲1-1ないし甲1-6の記載事項、並びに申立人2が提出した甲2-1ないし甲2-5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.甲1-2を主たる証拠とする新規性進歩性
(1)申立人1は、詳細な理由を説明していないものの、本件発明1は、甲1-2に記載された発明と同一であると主張している(申立書1の13頁17?24行)。
申立人2は、本件発明1ないし3は、甲2-1(甲1-2)に記載された発明に、甲2-2ないし甲2-4に記載された事項を適用することによって、当業者が容易に発明することができたものであると主張している。
そこで、甲1-2を主たる証拠とする新規性進歩性について検討する。

(2)甲1-2発明
ア.甲1-2に記載された主たる発明は、「多層中空プラスチック容器」の発明であるが、マヨネーズなどを充填する容器として好適であること及びスクイズボトルであることが記載されている(上記第4の2(1)、同(2))から、「多層プラスチックスクイズボトル」にマヨネーズが充填された「ボトル入りマヨネーズ」の発明が記載されているも同然である。

イ.甲1-2には、容器の層構成の例として「外層/接着樹脂層/芯層/接着樹脂層/内層」の構成、及び「外層/接着樹脂層/芯層/接着樹脂層/リグラインド層/内層」が記載されている(上記第4の2(5)、(6))。

ウ.甲1-2には、「外層」及び「内層」がLDPE(低密度ポリエチレン)であることが記載されている(上記第4の2(6))。

エ.甲1-2には、芯層がガスバリヤー性樹脂であるEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)であることが記載されている(上記第4の2(2)、(3)、(6))。

オ.甲1-2には、接着性樹脂として、無水マレイン酸でグラフト変性された酸変性ポリオレフィンが例示されており(上記第4の2(4))、また、接着性樹脂として、酸変性ポリエチレンを用いることが示唆されている。よって、甲1-2には、接着性樹脂として、「無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体」を用いることが記載されているも同然である。

カ.スクイズボトルにマヨネーズを充填した場合に、ボトルの開口部を封止することは、一般的かつ周知の技術的事項である。よって、甲1-2には、「ボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ」の発明が記載されているも同然である。

キ.よって、甲1-2に開示された技術的事項を、本件発明1に倣って整理すると、甲1-2には次の発明が記載されている。(以下「甲1-2発明」という。)
《甲1-2発明》
a2.ボトル入りマヨネーズであって、
b2.該ボトルが少なくとも外層/接着樹脂層/芯層/接着樹脂層/内層の順で構成される多層プラスチックスクイズボトルであり、
c2.該外層及び内層がLDPE(低密度ポリエチレン)からなり、
d2.該芯層がEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)からなり、
e2.接着樹脂層が無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体で構成され、
g2.ボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ。

(3)本件発明1と甲1-2発明との対比
ア.甲1-2発明の構成a2及びg2の「ボトル入りマヨネーズ」は、本件発明1の構成要件A及びGの「ボトル入りマヨネーズ様食品」に相当する。

イ.甲1-2発明の構成b2の「外層」及び「内層」、「接着樹脂層」、並びに「芯層」は、それぞれ本件発明1の構成要件Bの「主要樹脂層」、「接着樹脂層」、並びに「酸素バリア性樹脂層」に相当する。また、甲1-2発明の構成b2の「多層プラスチックスクイズボトル」は、本件発明1の構成要件Bの「可撓性多層樹脂ボトル」に相当する。

ウ.甲1-2発明の構成c2の「該外層及び内層がLDPE(低密度ポリエチレン)からなり」は、本件発明1の構成要件Cの「該主要樹脂層がポリエチレンからなり」に相当する。

エ.甲1-2発明の構成d2の「該芯層がEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)からなり」は、本件発明1の構成要件Dの「酸素バリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体単体からなり」に相当する。

オ.甲1-2発明の構成e2の「無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体」は、本件発明1の構成要件Eの「(2)無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体」に相当する。したがって、甲1-2発明の構成e2は、本件発明1の構成要件Eの要件を満たす。

(4)本件発明1と甲1-2発明との一致点及び相違点
すると、本件発明1と甲1-2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《本件発明1と甲1-2発明との一致点》
A.ボトル入りマヨネーズ様食品であって、
B.該ボトルが少なくとも主要樹脂層/接着樹脂層/酸素バリア性樹脂層/接着樹脂層/主要樹脂層の順で構成される可撓性多層樹脂ボトルであり、
C.該主要樹脂層がポリエチレンからなり、
D.該酸素バリア性樹脂層がエチレン-ビニルアルコール共重合体単体からなり、
E.及び該接着樹脂層が下掲(1)乃至(6)の樹脂のいずれかで構成される、
(1)マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(2)無水マレイン酸-ポリエチレン共重合体:
(3)エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体:
(4)(3)の共重合体の金属塩:
(5)エチレン-酢酸ビニル共重合体:及び
(6)ビニルアルコール残基比が25%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体、
G.ボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ様食品。

《本件発明1と甲1-2発明との相違点》
本件発明1は、「ボトルの酸素透過度」を、「ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上である」(構成要件F)と規定しているのに対し、
甲1-2発明は、「ボトルの酸素透過度」を特定していない点。

(5)甲1-2に基づく新規性についての判断
本件発明1と甲1-2発明とは、「ボトルの酸素透過度」を本件発明1の構成要件Fのように特定しているか否かの点で相違し、この相違は、実質的な技術的相違点といえる。よって、本件発明1と甲1-2発明が同一発明であるということはできない。

(6)甲1-2を主たる証拠とする進歩性についての判断
ア.上記1(6)イ、エ、クで述べたとおり、酸素透過度の測定条件を本件発明1の構成要件Fのようにすること、酸素透過度が構成要件Fを満たすと「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、申立人2が提出した甲2-2?甲2-4のいずれにも記載も示唆もされていないし、申立人1が提出した甲1-1?甲1-6のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1が、甲1-2発明と、申立人2が提出した甲2-2ないし甲2-5の記載事項、並びに申立人1が提出した甲1-1ないし甲1-6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.申立人2は、申立書2の15頁下から3行?21頁6行において、大要次のように主張している。
(ア)マヨネーズなどが充填されたボトル(ボトル入りマヨネーズ様食品)において、充填物の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持するという課題認識や、酸素透過度の低い可撓性多層樹脂ボトルを採用することにより、マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化が著しく抑制され、風味が長く維持できるという作用効果は周知の事項である。
(イ)「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件」という測定条件の設定は、流通地域の気候条件などを加味して当業者が適宜設定できる設計的事項にすぎない。
(ウ)「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」という数値範囲は、次のa、bで指摘するように実施再現性が全く欠如しており、技術常識にも反する不明瞭な数値範囲であるから、進歩性が肯定されるような技術的意義が存在しない。
a.多層樹脂材の単位面積当たりの酸素透過度tが同じであっても、ボトルの表面積Aとボトルの容積Vとの比(A/V)が異なれば、「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たりの酸素透過度」は異なる。したがって、「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たりの酸素透過度」が、本件発明1の構成要件Fが規定する数値範囲内であったとしても、ボトルのA/Vが異なれば、多層樹脂材の単位面積当たりの酸素透過度tは様々な値となる。酸素透過度の大小によってマヨネーズ様食品の風味劣化が変わるという技術常識を考慮すれば、多層樹脂材の単位面積当たりの酸素透過度tが様々な値を取るにもかかわらず、「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たりの酸素透過度」が、本件発明1の構成要件Fが規定する数値範囲内であれば、「官能評価試験」の結果が同じになるという根拠が不明である。よって、本件発明1の構成要件Fが規定する数値範囲は、実現再現性が全く欠如しており、技術的意義をもたないことが明らかである。
b.ボトル入りマヨネーズ様食品は、粘度が高く充填物の混合がボトル内でほとんど起こらないため、ボトル壁に近い部分のみが局所的に過酸化物価が高くなる(甲2-4の76頁右欄のホ))。したがって、ボトル壁に近い部分の過酸化物価の上昇が、ボトル入りマヨネーズ様食品の風味劣化の進行に寄与すると考えるのが技術常識である。そして、ボトル壁に近い部分の過酸化物価の上昇を抑えるためには、ボトル壁を構成する多層樹脂材の単位面積当たりの酸素透過度tを小さくすることが必要となる。よって、ボトル入りマヨネーズ様食品の風味劣化を抑止するための指標になり得るパラメータは、「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たりの酸素透過度」ではなく、「単位面積当たりの酸素透過度t」であるべきである。

ウ.申立人2の上記主張(ア)について検討すると、「ボトル入りマヨネーズ様食品において、充填物の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持するという課題認識や、酸素透過度の低い可撓性多層樹脂ボトルを採用することにより、マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化が著しく抑制され、風味が長く維持できるという作用効果は周知の事項である」ことは、申立人2の主張のとおりである。しかしながら、作用効果について周知の事項は、酸素透過度の低いボトルを採用すれば、酸化による経時劣化が抑制される一般的な傾向が周知であるにとどまる。本件発明1の構成要件Fが規定する条件を満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、周知の技術的事項とはいえないし、申立人2又は申立人1が提出した甲各号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
申立人2の上記主張(イ)について検討すると、「温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件」という測定条件の設定は、流通地域の気候条件などを加味して当業者が適宜設定できる設計的事項であるとの主張は、妥当であるといえる。しかしながら、この測定条件を含む、本件発明1の構成要件Fが規定する条件を満たせば、「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」顕著な作用効果を奏することは、周知の技術的事項とはいえないし、申立人2又は申立人1が提出した甲各号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
申立人2の上記主張(ウ)について検討すると、甲2-4の76頁右欄のニ)に「プラスチック容器に入れた場合のマヨネーズの酸化は,主に外側のプラスチック膜を通過してくる酸素によって起こり,プラスチック表面積に対するマヨネーズの総重量の比率が過酸化物価の上昇に大きな影響を及ぼす。したがって、内容量の大きいチューブ入りのものの方が,内容量の小さいものより一般に酸化の受け方は少ない。図5に300g,500g,1kg容量のポリエチレン容器および3層容器入りマヨネーズの容器全体中の平均過酸化物価の経時変化を示す。」と記載されている。
この記載から見て、マヨネーズの劣化を考慮する際に、容器全体中のマヨネーズの平均的劣化度を用いることは周知の技術的事項といえるから、容器内のマヨネーズの劣化を考慮する際に容器全体中の平均的劣化度を用いることは、技術常識の1つといえる。また、その平均的劣化度が「プラスチック表面積に対するマヨネーズの総重量の比率」によることが示されているから、「単位重量(例えば100g)当たりのプラスチック表面積」、すなわち、「単位重量当たりの酸素透過度」が、容器全体中のマヨネーズの平均的劣化度に直接的影響を与えることが、技術常識であるといえる。
申立人2の上記主張(ウ)は、幾つかの技術常識の内、自らの主張に都合の良いもののみを主張し、甲2-4の76頁右欄のニ)などから明らかな、上記技術常識を無視した、申立人2独自の見解にすぎないから、採用することができない。

エ.本件発明2及び3と甲1-2発明とを対比すると、上記《本件発明1と甲1-2発明との一致点》と同じ点で一致し、《本件発明1と甲1-2発明との相違点》と同様な点(本件発明2及び3は測定値の上限値のみが本件発明1と異なる。)で相違する。そして、上記アで検討したのと同様に、本件発明2又は3が、甲1-2発明と、甲2-2ないし甲2-5の記載事項、並びに申立人1が提出した甲1-1ないし甲1-6の記載事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.甲各号証の総合的検討
念のため、申立人1及び申立人2が提示した甲1-1ないし甲1-6及び甲2-1ないし甲2-5(以下、総称して「甲各号証」という。)を総合して見た場合に、甲各号証に記載の発明に基づいて本件発明が容易に発明することができたものであるかについても検討する。
甲各号証の記載事項のいずれにも、本件発明の構成要件F(本件発明1?3はそれぞれ酸素透過度の上限値が異なるがこの項では総称して「構成要件F」という。)は記載されていない。また、甲各号証のいずれにも、構成要件Fを採用すべき動機付けは、記載も示唆もされていない。そうすると、平成20年(行ケ)第10096号判決の「発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である」(判決24頁18?22行)との判事事項などに照らせば、「構成要件F」が記載されておらず、かつ「構成要件Fを採用すべき動機付け」が記載も示唆もされていない甲各号証の記載事項(甲各号証記載の発明)をどのように組み合わせたとしても、本件発明が容易想到であるということはできない。したがって、甲各号証の記載事項を総合して見ても、本件発明が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
さらに、構成要件Fが規定する酸素透過度を満たせば「マヨネーズ様食品の酸化による経時劣化を防止し良好な風味を長く維持することができる」という顕著な作用効果を奏し、本件発明の課題を解決できることは、甲各号証のいずれにも記載も示唆もされていない。したがって、甲各号証の記載事項を総合して見ても、本件発明の作用効果が当業者にとって予測可能であったとはいえない。この点からも、甲各号証の記載事項を総合して見ても、本件発明が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.申立人1が主張する明細書及び特許請求の範囲の記載不備について
申立人1は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同条同項第2号の規定に違反していると主張しているので、それら主張について検討する。

(1)36条4項1号違反との主張について
申立人1は、次に示す4つの理由により36条4項1号違反であると主張しているので、以下、順に検討する。
ア.理由1について
(ア)申立人1の主張
酸素透過度は、JIS規格による測定法で求まる[mol/m^(2)・s・Pa]又は[cm^(3)/m^(2)・24h・atm]で表記されるのが一般的であるところ、本件発明は「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり」の酸素透過度で規定している。酸素透過度は、包材(容器)の厚さ・表面積に左右されることが技術常識であるから、そのような条件がなくて単純に内容物重量と酸素透過度の関係を一義的に特定するためには、新たな技術的根拠が示されなければ特定することはできない。しかし、本件明細書には、「ボトルの表面積や形状」については一切説明されていないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(イ)当審の判断
内容物重量と酸素透過度の関係を一義的に特定するための測定方法は、本件明細書段落0033?0039に記載されているから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
さらに指摘すれば、ボトル内容物の単位重量当たりの酸素透過度を規定することは、例えば、甲1-3の請求項5に記載されており、周知の技術的事項である。「包材(容器)の厚さ・表面積」や「ボトルの表面積や形状」が特定されていなければ、本件発明の実施をすることができない旨の申立人1の主張は、請求人独自の見解にすぎないから、採用することができない。

イ.理由2について
(ア)申立人1の主張
本件明細書段落0034に「本測定方法は、酸素バリア性の高いボトルの酸素透過度を精度良く測定することが可能であり、再現性の高い測定が行える」と記載されているが、精度良く測定することができる合理的理由が説明されておらず、かつ、従来の測定方法で得た酸素透過度との比較も示されていないので、本件発明の効果が確認できず、また実施することもできない。

(イ)当審の判断
本件発明は「酸素透過度の測定方法」の発明ではなく、「ボトル入りマヨネーズ様食品」の発明である。本件明細書に記載した「酸素透過度の測定方法」は、「ボトル入りマヨネーズ様食品100g当たり」の「酸素透過度」を測定する際の「測定方法」を特定したものにすぎない。したがって、仮に、本件明細書段落0034に記載したとおり、従来の測定方法に比べて「精度良く測定することが可能であり、再現性の高い測定が行える」かどうかが不明であったとしても、本件発明である「ボトル入りマヨネーズ様食品」について効果が確認できないことにはならないし、本件発明が実施できないことにもならない。申立人1の主張は、本件発明が何であるかを誤解又は曲解したことに基づく主張であるから、採用することができない。
なお、本件明細書段落0034の作用効果についての記載は、測定期間(保存期間)をJIS K 7126-2などに記載されている従来周知の測定方法よりも長期間(段落0035の記載によれば7日間)とし、その間の累積的な酸素透過量を測定することによって奏される作用効果であると、特許権者が主張しているものと推認可能であるといえる。

ウ.理由3について
(ア)申立人1の主張
は、本件明細書には、実施例1?3でどのようなボトルを使用し、どのようにボトルの酸素透過度を測定したか、一切記載されていない。したがって、実施例1?3は、本件発明の構成との関係が不明であり、高度の試行錯誤を繰り返さなければ実施例1?3を実施することは困難である。

(イ)当審の判断
特許明細書において、発明の実施例を説明する場合には、一般に、当該実施例の説明を参考にして、当該発明が規定する構成要件を満たすものを実施でき、かつ、当該発明がその課題ないしは作用効果を達成していることを追試ないしは確認できる程度に説明されていれば足りるのであり、当該実施例の全ての諸元を詳細に説明する必要があるとまではいえない。
本件明細書には、本件発明のボトルは、胴部が柔らかく、手で押すことにより内容量を希望量押し出すことのできる、いわゆるスクイーズ・ボトルであり、一般にブロー成形により製造するものであることが記載されており(段落0015)、主要樹脂層がポリエチレンであり、バリア性樹脂層としてEVOHのみを用い、接着樹脂層により主要樹脂層とバリア性樹脂層とを接着した5層を基本構造とするボトルであること、実施例1?3のボトルは、酸素バリア性層(バリア性樹脂層)の厚みを変化させて酸素透過度を異ならせた3種類のボトルであり、本件明細書に説明した方法に従って酸素透過度を測定したことが記載されている(段落0046)。本件明細書には、実施例1?3の容量や樹脂層の厚さ、接着樹脂層の種類などについて記載されていないが、本件発明の実施例であると説明している以上、実施例1?3のものが、本件特許請求の範囲が規定する構成要件を満たすものであることは明らかといえる。
当業者であれば、発明の詳細な説明の記載及び当業者が通常有する知識に基づいて、本件発明1の構成要件A?E及びGを満たし、本件明細書の実施例1?3と同じ酸素透過度を有する(本件発明1の構成要件Fを満たす)適宜の容量のスクイーズ・ボトル(例えば、甲1-2の段落0014には容積が500mlのボトルが記載されており、甲2-4の76頁右欄ニ)には内容量が300g、500g、1kgのプラスチック容器が記載されている)を実施できると認められる。「高度の試行錯誤を繰り返さなければ実施例1?3を実施することは困難である」との主張は、申立人1の独自の見解であり、採用することができない。

エ.理由4について
(ア)申立人1の主張
本件明細書段落0047の表2の記載が、次の3点で不明なため、本件発明の効果が確認できない。
[1]表2によれば実施例1?3及び比較例の「油劣化風味の強さ」が、各々0.8、0.2、0及び1.9である。しかし、表1によれば「油劣化風味の強さ」に与えられる評点は1?5点であるから、「油劣化風味の強さ」が0点台となることはありえない。よって、官能評価試験の信頼性に疑義があり、本件発明の効果を確認することができない。
[2]表2では、「油劣化風味の強さ」を強く感じるほど、高点数を付け総合評価で美味しいと評価しており、不思議である。
[3]マヨネーズは容器壁面に接している部分の劣化が大きいところ、実施例では、評価サンプルの採集箇所が特定されていないため、効果に疑義がある。

(イ)当審の判断
上記[1]について検討すると、「油劣化風味の強さ」の評点が1?5点の範囲(表1)であるにもかかわらず、表2に記載された実施例1?3の評点(30人の評点の平均値)が0点台となっており、表1と表2の記載が矛盾しているから、表1と表2の少なくともいずれか一方の記載は誤りであるといえる。しかし、本件明細書の記載全体から見て、表2の記載の意図は、酸素透過度が本件発明の構成要件Fを満たす実施例1?3が、酸素透過度が0.060(本件発明1の構成要件Fが規定する酸素透過度の上限値の2.4倍)である比較例に比べ、「風味の好ましさ」、「油劣化風味の強さ」及び「総合評価」のいずれの点においても顕著に良好であることを示す意図であることが明らかである。そして、表2に記載された「油劣化風味の強さ」の評点は、実施例1?3に比べ比較例の評点が顕著に高いから、表2は、油劣化風味に関して、比較例に比し実施例1?3は油劣化風味が顕著に少ないことを示そうとしていることが明らかといえる。
そうすると、「油劣化風味の強さ」の評点の説明について、表1と表2の間に矛盾があるものの、本件発明の効果を確認することができないというほどのものではないから、本件発明の特許を取り消すほどの記載不備であるとはいえない。
なお、特許権者は、平成28年1月14日付けの上申書において、官能評価試験はいずれも5段階評価で行ったものの、「油劣化風味の強さ」の評点のみ、本件明細書の第1表に示した「5点、4点、3点、2点、1点」ではなく、+2点(非常に強く感じる)、+1点(強く感じる)、0点(感じる)、-1点(わずかに感じる)、-2点(感じない)という評点で評価したが、明細書でその説明をし忘れ、第1表の誤記となってしまった旨述べている。
次に上記[2]について検討すると、表2では、「油劣化風味の強さ」を強く感じるほど、高点数を付け「油劣化風味」が強いことを示している。そして、「油劣化風味」が強いものほど「総合評価」の評点が低い、すなわち「油劣化風味」が強いものほど「美味しくない」と評価している。『「油劣化風味の強さ」を強く感じるほど「総合評価で美味しいと評価」している』との申立人1の認識は誤っているから、申立人1の主張は採用できない。
次に上記[3]について検討すると、複数の試験対象物を比較評価する際には、試験対象となるパラメータを除き、同等の条件にあるサンプルを比較評価の対象とすることが技術常識である(例えば、JIS Z 9080:2004 の 4.6)し、ボトル入りマヨネーズでは、容器壁に近い部分と遠い部分とで酸化の程度が異なることが技術常識である(例えば、甲2-4の76頁右欄ホ)参照)。そうすると、本件明細書には、評価サンプルの採集箇所等についての説明がないものの、技術的に意味のある比較評価を可能とするために、技術常識に従って、対象とするサンプルは互いに同等の条件にあるように選定しているものと認められるし、当業者が追試等を行う場合には、技術常識に従って、対象とするサンプルが互いに同等の条件にあるように選定すれば済むことである(例えば、内容量と容器表面積との関係に基づくマヨネーズの酸化劣化について説明する甲2-4の76頁右欄ニ)では、容器全体中の平均的劣化度で比較することが記載されている。)。本件明細書に、評価サンプルの採集箇所等が特定されていないからといって、本件発明の特許を取り消すほどの記載不備であるとはいえない。

(2)36条6項1号違反との主張について
申立人1は、上記(1)ウ(ア)のとおり、実施例1?3は、本件発明の構成との関係が不明であり、発明の詳細な説明には、出願時の常識に照らして課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例や説明が記載されているとはいえないから、特許請求の範囲に記載した発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない、と主張している。
しかし、上記(1)ウ(イ)で述べたとおり、発明の詳細な説明は、当該記載及び当業者が通常有する知識に基づいて、本件発明を実施できる程度に記載されていると認められる。申立人1の主張は、採用することができない。

(3)36条6項2号違反との主張について
ア.申立人1の主張
平成27年6月5日の最高裁判所判決(平成24年(受)第1204号及び平成24年(受)第2658号)を挙げ、「物の発明」を物の構成でなく、方法や作用で特定できるのは、出願時において当該物の構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非現実的事情)が存在するときに限られる。
そして、本件発明は「ボトル入りマヨネーズ様食品」という物の発明であるが、請求項には「ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度が、当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下(当審注:請求項1の規定。請求項2では0.012ml/日以下、請求項3では0.010ml/日以下)であり、かつ、0.004ml/日以上であることを特徴とするボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ様食品」という記載があり、この記載における「封止し」、「充填する」及び「封止された」は作用的記載であり、さらに、前記記載は「酸素透過度の測定方法」によって発明を特定している。しかしながら、酸素透過度は、容器の形態(樹脂の種類、内容積、表面積等)に起因するものであるので、「酸素透過度の測定方法」で「ボトル入りマヨネーズ様食品」を特定しなければならないという不可能・非現実的事情は見いだせない。よって、請求項1?3の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。

イ.当審の判断
(ア)上記最高裁判所判決は、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。』と判示しているのであり、『「物の発明」を物の構成でなく、方法や作用で特定できるのは、出願時において当該物の構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非現実的事情)が存在するときに限られる』と判示しているのではない。申立人1の主張は、最高裁判所判決の判示事項を誤解又は曲解したことに基づく主張であるから前提において失当であり、採用することができない。

(イ)また、申立人1は、本件発明は「酸素透過度の測定方法」によって発明を特定していると主張するが、その主張は誤っている。「酸素透過度」は、同じ物であっても測定条件によって異なる値となる(例えば、甲2-5の33頁左欄下から11行?右欄下から5行、同頁図1及び図2参照)から、「酸素透過度」という「特性」を用いて「物」の構成を特定する場合には、その「測定条件」を特定する必要があることは、技術常識である。そして、本件請求項の「ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定」なる記載は、「酸素透過度」の「測定条件」を特定する記載であることが当業者に明らかである。つまり、本件請求項の前記記載は、「酸素透過度の測定方法」によって発明を特定する記載ではなく、「酸素透過度」という「特性」を用いて「物(ボトル)」の構成を特定する際の「測定条件」を特定する記載であることが明らかである。

(ウ)また、「酸素透過度」を特定する場合には、「面積当たりの透過度」で特定する方法(例えば、甲1-5の6頁17行参照)、「容器全体としての透過度」特定する方法(例えば、甲1-1の12頁10?13行及び14頁第1表参照)、「容器に充填した内容物の単位重量当たりの透過度」で特定する方法(例えば、甲1-3の請求項5参照)などが周知である。そして、本件請求項1の「当該ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり0.025ml/日以下であり、かつ、0.004ml/日以上」は、「容器に充填した内容物の単位重量当たりの透過度」で「酸素透過度」を特定する記載であることが明らかである。請求項2又は3の同様な記載についても、同様である。

(エ)さらに、「ボトルの開口部が封止されたボトル入りマヨネーズ様食品」という記載は、「開口部が封止された」という「ボトルの状態」ないしは「ボトルの形態」を特定する記載であることが明らかである。
「封止し」、「充填する」及び「封止された」という記載は、それぞれを単独で取り出した場合には「動作」ないしは「作用」の記載であるとも解し得る記載であるが、上記のとおり、「酸素透過度」の「測定条件」、「酸素透過度」の特定の仕方、又は「ボトルの形態」を定める記載の一部として用いられている記載であり、「作用的記載」でないことは明らかである。

(オ)以上のとおり、申立人1は、最高裁判所判決の判示事項を誤解又は曲解しており、本件各請求項の記載事項についても誤解又は曲解している。本件の請求項の記載が36条6項2号違反であるとの申立人1の主張は、これら誤解又は曲解に基づく主張であるから失当であり、採用することができない。

5.申立人2が主張する明細書及び特許請求の範囲の記載不備について
申立人2は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号、及び同条第6項第2号の規定に違反していると主張しているので、それら主張について検討する。

(1)36条4項1号違反との主張について
申立人2は、次に示す2つの理由により36条4項1号違反であると主張しているので、以下、順次検討する。
ア.理由1について
(ア)申立人2の主張
本件明細書段落0046に、酸素バリア性樹脂層の厚みを変化させて、実施例に係る酸素透過度の異なる3種類のボトルを得た旨記載されている。しかし、「酸素透過度(ml/ボトル内容物・日)」は、ボトルのA/V(表面積と容積の比)の値によって異なる値になるので、A/Vの値が不明であると、段落0047の表2の結果になるようにするには、どの程度のt(酸素バリア性樹脂層の厚み、すなわち、単位面積当たりの酸素透過度を決定する値)にすれば良いかが全く不明である。したがって、技術常識を勘案しても、本件明細書の記載では表2の結果を再現することは不可能であり、表2の結果を根拠に設定された数値範囲を含む本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(イ)当審の判断
特許明細書において、発明の実施例を説明する場合には、一般に、当該実施例の説明を参考にして、当該発明が規定する構成要件を満たすものを実施でき、かつ、当該発明がその課題ないしは作用効果を達成していることを追試ないしは確認できる程度に説明されていれば足りるのであり、当該実施例の全ての諸元を詳細に説明する必要があるとまではいえない。
本件発明に用いるボトルは、いわゆるスクイーズ・ボトルであり(本件明細書段落0015)、このようなスクイーズ・ボトルの一般的な容量及び形状は当業者に周知である(例えば、甲1-2の段落0014には容積が500mlのボトルが、甲2-4の76頁右欄ニ)には内容量が300g、500g、1kgのプラスチック容器が記載されている。)。このような当業者に周知のスクイーズ・ボトルのA/Vの値は、当業者が容易に把握できるものであるから、その値に基づいて酸素バリア性樹脂層の厚みtを定めることは、技術常識に基づいて当業者が容易になし得ることである。仮に、そのようにて酸素バリア性樹脂層の厚みtを定めたボトルの「酸素透過度(ml/ボトル内容物・日)」が、本件実施例1?3の値と異なっている場合には、当該厚みtを適宜変更して、本件実施例1?3の酸素透過度と同等になるようにすれば済むことであり、このような変更は、技術常識に基づいて当業者が容易になし得ることである。
本件明細書の記載では、本件明細書の表2の結果を再現することは不可能であるとの申立人2の主張は、請求人独自の見解であるから、採用することができない。

イ.理由2について
(ア)申立人2の主張
EVOHを中間層とする多層フィルムの酸素透過度は、湿度条件によって変化するが、甲2-5の40頁の図10に示されるように、ある湿度条件下に多層フィルムが置かれてから、酸素透過度が安定した値になるまでには10?30日の時間を要する。したがって、本件明細書に説明されているように「ボトル内部を窒素置換した後、これを完全に密封し、一気圧の酸素中に一定期間保管し、その後、ボトルを取り出し、中の気体中に透過した酸素を市販の酸素濃度測定装置等で測定」して、「酸素透過度[ml/日]={(酸素濃度[%]÷100)×容器容量[ml]}÷保存日数[日]」によって「酸素透過度」の値を得る(段落0033)に当たり、湿度及び温度条件を「ボトル内部の相対湿度を95%(24℃)」(段落0037)、「ボトル外部の相対湿度76%(24℃)」(段落0038)、「保存期間を7日間」(段落0035)とした場合でも、保管開始時における多層フィルムのEVOH層の湿度が異なれば、得られる「酸素透過度」の値は異なるものとなる。
本件明細書に説明されたボトル内部の相対湿度95%、ボトル外部の相対湿度76%という条件下で、酸素透過度が安定した値になるときには、EVOH層の湿度は、(95+76)/2=85.5%であるといえる。そこで、甲2-5の40頁の図10において、この湿度85.5%に最も近い湿度である「83%RH」のグラフに基づいて、7日間の酸層透過量を見積もることにする。本件明細書段落0019に主要樹脂層の厚みは200?350μmとの記載があるので、平均肉厚が300μmと仮定すると、この肉厚は、甲2-5の40頁の図10に記載された変性LDPE層の内外層の合計30+30=60μmの約5倍である。すると、湿気(水分)が平均肉厚300μmを通過する時間は、甲2-5の図10の5倍であるといえる。そこで、甲2-5の図10の83%RHのグラフを横軸(時間軸)方向に5倍したグラフから見積もった値が、本件発明の「酸素透過度」の値に近い値を示すといえる。
保管開始時におけるEVOH層の湿度が65%未満であったとすれば、7日間の酸層透過量はおよそ(0.80+0.86+0.92+0.96+1.05+1.10+1.15)=6.84cc/m^(2)となるから、保管開始時におけるEVOH層の湿度が65%未満であった場合、本件明細書に記載の方法で測定した「酸素透過度」は、およそ6.84/7=0.98cc/m^(2)・日となる(申立人2が提出した参考資料2参照)。一方、保管開始時におけるEVOH層の湿度が83%(85.5%)であった場合は、「酸素透過度」は安定してほぼ一定値になっており、その値はおよそ2.0cc/m^(2)・日である(同参考資料2参照)。
そうすると、本件明細書に記載の方法で測定した「酸素透過度」は、保管開始時におけるEVOH層の湿度が65%未満であるか、83%であるかによって、約2倍(≒2.0/0.98)異なる値が得られることになる。
しかし、本件明細書には、「酸素透過度」の測定を行う時の「保管開始時」におけるEVOH層の湿度が説明されていない。したがって、当業者の技術常識を勘案しても、本件明細書の記載では表2の結果を再現することは不可能であるから、表2の結果を根拠に設定された数値範囲を含む本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(イ)当審の判断
「酸素透過度」の測定を行う場合には、信頼性のあるデータを得るために、測定条件と同じ状態で試料のコンディショニング(測定時における試料の初期状態の統一化)をする必要があることが周知の技術的事項である(例えば、三菱樹脂株式会社のウェブサイト「SUPERNYL.com 」の「ラミフィルムのガスバリア性能評価方法」と題するページの「1.酸素透過度測定方法」の「b)コンディショニング」欄(http://www.supernyl.com/techbarrier/tech-sokutei.htm )や、特開昭63-275645号公報の5頁左下欄5?10行を参照。また、甲1-4の2頁右欄37?42行には、プラスチックボトル容器を所定の温度及び湿度状態で30日間コンディショニングした後酸素透過度を測定したことが記載されている。)。この周知の技術的事項を考慮すれば、本件発明では、測定条件と同等若しくは同様の状態になるように試料をコンディショニングして測定を行っているため、特許権者は、本件明細書で試料のコンディショニングについて説明する必要がないと考え、その結果、説明を省略したものと解される。本件明細書に「酸素透過度」の測定を行う時の「保管開始時」におけるEVOH層の湿度が説明されていないからといって、本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。申立人2の主張は採用できない。

(2)36条6項2号違反との主張について
申立人2は、次に示す2つの理由により36条6項2号違反であると主張しているので、以下、順次検討する。
ア.理由1について
(ア)申立人2の主張
マヨネーズ様食品は、粘度が高く充填物の混合がボトル内でほとんど起こらないため、ボトル壁に近い外側の部分で過酸化物価が高くなること、及びマヨネーズの風味の経時変化は過酸化物価が高くなるとそれに応じて劣化が進行することが本件特許の出願時における技術常識である。そして、ボトル入りマヨネーズ様食品における風味の経時変化は、ボトル壁に近い部分での過酸化物価の上昇による劣化そのものを考慮すべきであることが技術常識である。よって、マヨネーズ様食品の場合、単位表面積当たりの酸素透過度tがボトルの酸素バリヤー性を示すのである。単位内容物当たりの酸素透過度Tによって規定する本件発明は、ボトル表面積Aとボトル容積Vとの比A/Vによって、単位表面積当たりの酸素透過度tが異なることになるから、技術常識に反する不明確な記載である。

(イ)当審の判断
ボトル壁に近い部分のマヨネーズ様食品の風味の劣化の程度に基づいて、ボトルの酸素バリヤー性を評価することは、有力な評価方法であるといえる。しかし、容器全体中のマヨネーズの平均的劣化度を指標として酸素バリヤー性を評価することも、周知の技術的事項である(例えば、甲2-4の76頁右欄のニ)参照)。したがって、単位内容物重量当たりの酸素透過度を用いてボトルの酸素バリヤー性を規定する本件発明が、明確でないとはいえない。
単位表面積当たりの酸素透過度tを指標としてボトルの酸素バリヤー性を評価するのでなければ明確な記載ではない旨の申立人2の主張は、客観的な事実に反する申立人2独自の見解であるから、採用することができない。

イ.理由2について
(ア)申立人2の主張
物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非現実的事情)が存在するときに限られると解するのが相当である。
本件発明は「ボトル入りマヨネーズ様食品」という物の発明であるが、請求項1?3には「ボトルの開口部を封止し、温度24℃、ボトル内相対湿度95%、ボトル外相対湿度76%及びボトル内外の酸素分圧差が一気圧の条件で測定したボトルの酸素透過度」という製造方法(計測方法)に係る構成が特定されている。しかしながら、明細書等には不可能・非現実的事情が存在することについて記載がなく、不可能・非現実的事情が存在するとはいえない。よって、本件発明は明確でない。

(イ)当審の判断
本件発明は「ボトル入りマヨネーズ様食品」という物の発明であり、その構成要件の一部として「ボトル内に充填するマヨネーズ様食品100g当たり」の「ボトルの酸素透過度」を規定している発明である。「ボトルの酸素透過度」は、ボトルの「物としての特性」であり、製造方法ではない。また、「酸素透過度」は、同じ物であっても測定条件によって異なる値となるから、「酸素透過度」という「特性」を用いて「物」の構成を特定する場合には、「測定条件」を特定する必要があることが技術常識であり(上記4(3)イ(イ)参照)、上記「ボトルの開口部を封止し……測定したボトルの酸素透過度」という記載が、「測定条件」を特定する記載であることは明らかである。よって、上記「ボトルの開口部を封止し……測定したボトルの酸素透過度」という記載が明確でないということはできない。
上記「ボトルの開口部を封止し……測定したボトルの酸素透過度」という記載が、製造方法に係る構成である旨の申立人2の主張は、当業者の常識に反する申立人2独自の見解であるから、採用することができない。


第6.むすび
以上のとおりであって、申立1及び申立2の申立の理由には、いずれも理由がない。さらに、申立1及び申立2の証拠方法の全てを総合的に見ても、本件発明1ないし3を取り消すべき理由はない。
また、他に本件発明1ないし3を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-23 
出願番号 特願2012-72346(P2012-72346)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B65D)
P 1 651・ 113- Y (B65D)
P 1 651・ 537- Y (B65D)
P 1 651・ 121- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 一郎  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 栗林 敏彦
蓮井 雅之
登録日 2015-03-27 
登録番号 特許第5718843号(P5718843)
権利者 味の素株式会社 クノール食品株式会社
発明の名称 ボトル入りマヨネーズ様食品  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 高島 一  
代理人 高島 一  
代理人 當麻 博文  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  

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