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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F04B
管理番号 1311866
異議申立番号 異議2015-700010  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-08-18 
確定日 2016-03-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5695790号「大容量送水システム」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5695790号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5695790号の請求項1?9に係る特許についての出願は,平成26年10月16日に特許出願され,平成27年 2月13日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,平成27年 8月18日に特許異議申立人重富與八郎により特許異議の申立てがされ,当審において平成27年11月30日付けで取消理由を通知し,平成28年 1月26日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件特許発明
【請求項1】
(a)取水用水中ポンプ,油圧ホースを介して該取水用水中ポンプを駆動するディーゼルエンジン,該ディーゼルエンジンの燃料を貯蔵するタンクでありかつ該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を少なくとも積載した大容量送水車輌,
(b)該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タンク,
(c)該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構,
を少なくとも有して構成されてなることを特徴とする大容量送水システム。
【請求項2】
前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が減少したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の該燃料タンクへの供給を開始するように設定されてなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項3】
前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が増加したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の該燃料タンクへの供給を停止するように設定されてなることを特徴とする請求項1または2記載の大容量送水システム。
【請求項4】
請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始方式と,請求項3記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給停止方式を採用するとともに,請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始からの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止するように設定した第二の燃料供給停止方式を採用してなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項5】
請求項4に記載の予め設定された累積燃料供給量が,前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク容量の80%以上100%以下に相当して設定されたものであることを特徴とする請求項4記載の大容量送水システム。
【請求項6】
請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量15%?45%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以下にまで減少したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を開始するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項7】
請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量80%?90%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以上にまで増加したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を停止するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項8】
請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用してなることを特徴とする大容量送水方法。
【請求項9】
請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用し,かつ,請求項6に記載の燃料備蓄タンク内の燃料の燃料タンクへの供給開始を始めたときからの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止する第二の燃料供給停止方法を併用してなることを特徴とする大容量送水方法。

3.取消理由の概要
当審において,請求項1?9に係る特許に対して通知した取消理由は,要旨次のとおりである。
(1)刊行物1(特開2009-291289号公報,甲第1号証)及び周知技術(刊行物2(特開2000-97039号公報,甲第3号証),刊行物3(特開平10-141163号公報,甲第2号証),刊行物4(特開昭58-107868号公報,甲第4号証)により請求項1?5に係る発明は,特許法第29条第2項の規定に違反する。
(2)刊行物1(特開2009-291289号公報,甲第1号証)及び周知技術(刊行物2(特開2000-97039号公報,甲第3号証),刊行物3(特開平10-141163号公報,甲第2号証),刊行物4(特開昭58-107868号公報,甲第4号証),刊行物5(特開2006-248492号公報,甲第5号証), 刊行物6(特開2005-114374号公報,甲第6号証))により請求項6?9に係る発明は,特許法第29条第2項の規定に違反する。

4.各刊行物に記載された事項
(1)刊行物1に記載された事項
刊行物1には,消防ポンプ車に搭載された車輌エンジン26が記載されているが,消防ポンプ車が車輌エンジンの駆動に必要な燃料を貯蔵した燃料タンクを搭載していることは技術常識である。したがって,消防ポンプ車が燃料タンクを備えることは刊行物1に記載されているに等しい事項である。
そうすると,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる(段落【0012】?【0017】,図1?8参照。以下,この発明を「引用発明」と言う。)。
「取水ポンプ13,油圧駆動系によって該取水ポンプ13を駆動する車輌エンジン26,該車輌エンジン26の燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水ポンプ13により取水した水を給送するメインポンプ11およびホース17を搭載した,大量の水を給送することができる消防ポンプ車。」
(2)刊行物2に記載された事項
刊行物2には,以下の事項が記載されていると認められる。
ア.タンク内の燃料油の油面を検出するためのフロートスイッチFH1,FH2,FL1,FL2が配置された内部燃料タンク6,エンジン作業機の外部に配置された外部燃料タンク43,及び,外部燃料タンク43と内部燃料タンク6の間に設けられ,かつ,上位フロートスイッチFH1,FH2及び下位フロートスイッチFL1,FL2からの信号に基づいて,外部燃料タンク43内の燃料油の内部燃料タンク6への給油と停止をオン・オフ制御により自動的に行う給油ポンプ42を備えた,ポンプ等のエンジン作業機の燃料供給装置(段落【0002】,【0021】?【0026】,図9?13参照)。
イ.燃料油の油面が下位フロートスイッチFL1よりも低くなった場合に外部燃料タンク43から内部燃料タンク6へ燃料油の補給を行い,油面が上位フロートスイッチFH1の設定油面よりも上昇すると内部燃料タンク6への給油を停止すること(段落【0025】参照)。
(3)刊行物3に記載された事項
刊行物3には,以下の事項が記載されていると認められる。
ア.燃料小出槽3内の油面のレベルを検出する油面レベル検出器6,7,8,9が設けられた燃料小出槽3,燃料小出槽3と別個に設けられたメインタンク1,及び,燃料小出槽3とメインタンク1の間に設けられ,かつ,油面レベル検出器6,7,8,9から送られるレベル検出信号に基づいて,メインタンク1内の燃料の燃料小出槽3への補給と停止をオン・オフ制御により自動的に行うポンプ2Aを備えた,エンジン発電装置等の燃料の供給システム(段落【0005】?【0006】,図1?2参照)
イ.燃料小出槽3内の油面5が低位レベル(L)まで低下したことを示す油面レベル検出器8からの検出信号に基づいて,汲み上げ量が時間と比例する容積形のポンプ2Aを駆動してメインタンク1の燃料を燃料小出槽3に補給し,高位レベル(H)まで回復したことを示す油面レベル検出器7からの検出信号に基づいて,ポンプ2Aの運転を停止し,さらに,ポンプ2Aの駆動時間が設定時間を超過した場合にも,ポンプ2Aの運転を停止すること(段落【0006】,図1?2参照)。
(4)刊行物4に記載された事項
刊行物4には,以下の事項が記載されていると認められる。
ア.燃料タンク1内の燃料2の液位を検知するフュエルゲージ3が設けられた燃料タンク1,車両の外部に設けられた大容量タンク13,大容量タンク13と燃料タンク1の燃料注入口7の間に設けられ,かつ,フュエルゲージ3により検知されて送られる電気信号に基づいて,大容量タンク13内の燃料の燃料タンク1への補給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う電磁ポンプ12を備えた車両の燃料自動補給装置(第2頁右上欄第9行?第3頁左下欄第17行,図1?2参照)。
イ.フュエルゲージ3からの燃料タンク1内の燃料2の液位を示す電気信号が,燃料タンク1内の燃料レベルが下がったことを示すと電磁ポンプ12が駆動され,大容量タンク13から燃料が燃料タンク1内に補給され,電気信号が,燃料レベルがある一定レベルを越えたことを示すと電磁ポンプ12が解除されること(第2頁右上欄第9行?第3頁左下欄第17行,図1?2参照)。
(5)刊行物5に記載された事項
刊行物5には,以下の事項が記載されていると認められる。
ア.燃料タンク10のタンク本体12内燃料の最小残量を,タンク本体12内に貯留可能な設計上の最大容量の15%として設定すること(段落【0027】参照)。
(6)刊行物6に記載された事項
刊行物6には,以下の事項が記載されていると認められる。
ア.仕切り板の下面が,タンクの液体貯蔵量が最大時の90%時の液面位置近傍に設けられる構成とすることにより,燃料残量が,100%から90%くらいあるときには,運転者が燃料補給等について考慮する必要をなくすこと(段落【0017】?【0019】,【0061】参照)。

5.判断
(1)請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明1」と言う。)と引用発明とを対比すると,引用発明の「取水ポンプ13」,「水を給送する」,「メインポンプ11およびホース17」,「搭載」及び「大量の水を給送することができる消防ポンプ車」は,それぞれ,本件特許発明1の「取水用水中ポンプ」,「水を吐水する」,「吐水機構」,「積載」及び「大容量送水車輌」に相当する。
また,引用発明の「油圧駆動系によって該取水ポンプ13を駆動する」態様と,本件特許発明1の「油圧ホースを介して該取水用水中ポンプを駆動する」態様とは,「油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動する」との概念において一致する。
さらに,引用発明の「車輌エンジン26」は,本件特許発明1の「ディーゼルエンジン」と,「エンジン」である点において一致する。
そうすると,本件特許発明1と引用発明との一致点,相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「取水用水中ポンプ,油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動するエンジン,該エンジンの燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を積載した大容量送水車輌。」
<相違点1>
本件特許発明1は,「油圧ホース」を介して取水用水中ポンプを駆動するものであるが,引用発明は,「油圧ホース」を利用するものであるか否か不明な点。
<相違点2>
本件特許発明1は,「ディーゼルエンジン」を備えるものであるが,引用発明は,車輌エンジンを備えるものの「ディーゼルエンジン」であるか否かは不明な点。
<相違点3>
本件特許発明1は,「該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク」,「該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タンク」及び「該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構」を備えた「大容量送水システム」であるが,引用発明は,それらの構成を備えたシステムではない点。
上記相違点について検討する。
ア.相違点1,2について
油圧駆動系を構成するために「油圧ホース」を利用すること,及び,車輌エンジンとして「ディーゼルエンジン」を採用することは,いずれも例示するまでもない周知技術であって,発明の具現化の際に当業者が適宜採用し得たものにすぎないから,相違点1,2に係る本件特許発明1の発明特定事項は,引用発明においても当業者が容易に想到し得たものである。
イ.相違点3について
(ア)刊行物2?4に記載されているように(上記4.(2)ア.,4.(3)ア.,4.(4)ア.参照),燃料残量系センサーが敷設された燃料タンクと,燃料備蓄タンクと,自動供給ポンプ機構とを備えた燃料自動供給装置は周知技術である。
(イ)ところで,引用発明を開示する刊行物1には,次のような記載がある。
・「本発明は,上記実情に鑑み提案されたもので,取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に供給することのできる消防用ポンプ装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】)
・「請求項1に記載の発明では,・・・(中略)・・・前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを前記クレーンアームで水中に投入するとともに,前記油圧駆動系によって取水ポンプを駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間にメインポンプから供給することができる。」(段落【0008】)
・「本発明は,・・・(中略)・・・前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを油圧駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に取水ポンプから供給することができる。」(段落【0011】)
これらの記載事項をふまえれば,引用発明は,大量の水を短時間に供給することを念頭においたものである。
(ウ)そうしてみると,引用発明において,長時間に渡り給水することは,想定されていない事項である。
また,上記(ア)で指摘した周知技術の例を示す刊行物2?4のいずれも,引用発明が属する消防ポンプ車の技術分野において,長時間に渡り給水することを示すものではない。
したがって,上記(ア)に示した周知技術が存在するといっても,引用発明にそれを結びつける起因を欠くというべきである。
さらに,刊行物5,6に記載された事項を考慮しても,相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項が導き出せるものではない。
よって,相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項は,引用発明及び刊行物2?6に記載された事項から当業者が容易に案出し得たものではない。
(エ)以上のとおりであるから,本件特許発明1が,引用発明及び刊行物2?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明し得たとすることはできない。

(2)請求項2?9に係る発明について
請求項2?9に係る発明は,請求項1に係る発明(本件特許発明1)に対し他の発明特定事項を付加したものであるから,本件特許発明1についての前述した判断をふまえれば,これらも同様に引用発明及び刊行物2?6に記載された事項から当業者が容易に発明し得たものではない。

6.むすび
上記取消理由によっては,請求項1?9に係る特許を取り消すことができない。
また,他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-19 
出願番号 特願2014-211320(P2014-211320)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 所村 陽一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
前田 浩
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5695790号(P5695790)
権利者 帝国繊維株式会社
発明の名称 大容量送水システム  
代理人 清流国際特許業務法人  

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