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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25D
管理番号 1311869
異議申立番号 異議2015-700113  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-22 
確定日 2016-03-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第5706026号「配線板用銅箔及び配線板」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5706026号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5706026号(請求項の数8)に係る特許出願(特願2014-146807)は、平成26年 7月17日(優先権主張 平成25年 7月30日,平成26年 6月 2日)に出願され、平成27年 1月16日に特許をすべき旨の査定がされ、同年 3月 6日に特許権の設定の登録がされたものである。
その後、本件特許について、特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」?「本件特許発明8」、請求項1?8に係る発明をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

第3 申立ての理由の概要

特許異議申立人は、甲第1号証?甲第18号証を提出し、以下の理由により、特許を取り消すべきものである旨主張しているものと認める。

1 理由

(1)特許法第17条の2第3項について

平成26年12月26日付けでした請求項1?4、7及び8についての補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(2)特許法第29条第1項第3号について

(2-1)本件特許発明1?5、7及び8は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明である。
(2-2)本件特許発明1?3、5、7及び8は、甲第3号証に記載された発明である。

(3)特許法第29条第2項について

(3-1)本件特許発明1?8は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2)本件特許発明1?8は、甲第3号証に記載された発明と、甲第1号証?甲第12号証、甲第16号証?甲第18号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-3)本件特許発明1?8は、甲第4号証に記載された発明と、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)特許法第36条第4項第1号について

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許発明1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(5)特許法第36条第6項第1号について

本件特許発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(6)特許法第36条第6項第2号について

本件特許発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 甲号証

甲第1号証 :国際公開第2013/108414号
甲第2号証 :国際公開第2013/108415号
甲第3号証 :特開昭61-94756号公報
甲第4号証 :特開2004-244710号公報
甲第5号証 :特開平3-202500号公報
甲第6号証 :特開2010-236058号公報
甲第7号証 :国際公開第2013/065727号
甲第8号証 :特開2005-076091号公報
甲第9号証 :特開2003-309336号公報
甲第10号証:国際公開第2005/079130号
甲第11号証:特開2011-044550号公報
甲第12号証:特開2009-4423号公報
甲第13号証:国際公開第2011/078077号
甲第14号証:大澤直著,図解入門「よくわかる最新「銅」の基本と仕組み」第1版第1刷,秀和システム,2010年8月1日,p.61?63、68?70、212?213
甲第15号証:大久保信彦,「硫酸銅めっきにおける不純物の影響とその対策」,表面技術,Vol. 40 No. 5,1989,p.621?623
甲第16号証:「JIS ハンドブック「色彩」」,日本規格協会,p.284-362
甲第17号証:大山正、斎藤美穂編,「色彩学入門 色と感性の心理」,初版,東京大学出版会,2009,p30-32
甲第18号証:松崎雅則著,「入門色彩学」,第3刷,織研新聞社,2007,p.52

第4 甲号証の記載事項

1 甲第1号証

甲第1号証の[0035]、[0036]、[0043]及び[0044]並びに実施例5に関する[0039]、[0047]及び[0048]の記載を整理すると、
甲第1号証には、「JX日鉱日石金属社製タフピッチ銅(JIS H3100 C1100R)の圧延銅箔を準備し、一方の表面に、粗化処理として、メッキ処理1回目を、Cu:20g/L、H_(2)SO_(4):50g/L、20℃のメッキ浴(硫酸銅溶液)の組成及び温度、65A/dm^(2)の電流密度、0.8secのメッキ時間、52As/dm^(2)のクーロン量、メッキ処理2回目を、Cu:30g/L、H_(2)SO_(4):100g/L、55℃のメッキ浴(硫酸銅溶液)の組成及び温度、8A/dm^(2)の電流密度、5secのメッキ時間、40As/dm^(2)のクーロン量の条件にてめっき処理を行い、
JIS Z8741に準拠した日本電色株式会社製光沢度計ハンディーグロスメーターPG-1を使用し、圧延方向に直角な方向の入射角60度で粗化面について測定した光沢度が5、
銅箔をラミネート用熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム(厚み50μm)の両面に貼り合わせ、銅箔をエッチング(塩化第二鉄水溶液)で除去してサンプルフィルムを作成し、得られた樹脂層に対し、日本分光株式会社製分光光度計V-660を用いて、スリット10mmで、波長620nmの設定により光透過率を測定した光透過率(%T)が48、
である、透過率、視認性及びピール強度が良好である各種のプリント配線板に使用可能な銅箔。」(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書(3(4)イ(ア)欄)において、甲第1号証には、「実質的に純銅で粗化処理された銅箔であって、樹脂と良好に接着し、かつ、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透過性に優れ、粗化処理表面の光沢度が0.5?68である銅箔」の発明が記載されていると主張している。
そこで、この主張について検討する。
甲第1号証の請求項1には「銅箔表面に粗化処理により、粗化粒子が形成され、・・・粗化処理表面の光沢度が0.5?68であり・・・銅張積層板用表面処理銅箔。」と記載されているが、甲第1号証の[0018]?[0020]には、発明を実施するための形態として、粗化処理を銅-コバルト-ニッケル合金めっきにより行なうことが記載され、[0036]?[0048]に記載される実施例1?15では、実質的に純銅で粗化処理されているといえるものは、実施例5のみであって、その光沢度は5であり、その余の実施例には、その光沢度が0.5?67であるものが記載されているが、これらの実施例は、いずれもCu-Co-Ni溶液をめっき浴とする処理を含み、実質的に純銅で粗化処理されているものとはいえない。してみると、甲第1号証に記載された実質的に純銅で粗化処理された銅箔は、実施例5のもののみであって、請求項1に記載される「光沢度が0.5?68」の範囲のものが記載されているとまではいえない。

2 甲第2号証

甲第2号証の[0036]、[0037]及び[0044]並びに実施例8に関する[0040]、[0047]及び[0048]の記載を整理すると、
甲第2号証には、「JX日鉱日石金属社製タフピッチ銅(JIS H3100 C1100R)の圧延銅箔を準備し、一方の表面に、粗化処理として、メッキ処理1回目を、Cu:20g/L、H_(2)SO_(4):50g/L、20℃のメッキ浴(硫酸銅溶液)の組成及び温度、65A/dm^(2)の電流密度、0.8secのメッキ時間、52As/dm^(2)のクーロン量、メッキ処理2回目を、Cu:30g/L、H_(2)SO_(4):100g/L、55℃のメッキ浴(硫酸銅溶液)の組成及び温度、8A/dm^(2)の電流密度、5secのメッキ時間、40As/dm^(2)のクーロン量の条件にてめっき処理を行い、
銅箔をラミネート用熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム(厚み50μm)の両面に貼り合わせ、銅箔をエッチング(塩化第二鉄水溶液)で除去してサンプルフィルムを作成し、得られた樹脂層に対し、日本分光株式会社製分光光度計V-660を用いて、スリット10mmで、波長620nmの設定により光透過率を測定した光透過率(%T)が48、
である、透過率、視認性及びピール強度が良好である各種のプリント配線板に使用可能な銅箔。」(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書(3(4)イ(イ)欄)において、甲第2号証には、「実質的に純銅で粗化処理された銅箔であって、樹脂と良好に接着し、かつ、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透過性に優れ、粗化処理表面側から厚さ50μmの樹脂基板の両面に貼り合わせた後、エッチングで前記銅箔を除去したとき、前記樹脂基板の光透過率が30%以上となる銅箔」の発明が記載されていると主張している。
そこで、この主張について検討する。
甲第2号証の請求項10には「前記銅箔を、粗化処理表面側から厚さ50μmの樹脂基板の両面に貼り合わせた後、エッチングで前記銅箔を除去したとき、前記樹脂基板の光透過率が30%以上となる請求項1?6のいずれかに記載の銅張積層板用表面処理銅箔。」と記載されているが、甲第2号証の[0020]?[0022]には、発明を実施するための形態として、粗化処理を銅-コバルト-ニッケル合金めっきにより行なうことが記載され、[0037]?[0048]に記載される実施例1?15では、実質的に純銅で粗化処理されているといえるものは、実施例8のみであって、その光透過率は48であり、その余の実施例には、その光透過率が38?81であるものが記載されているが、これらの実施例は、いずれもCu-Co-Ni溶液をめっき浴とする処理を含み、実質的に純銅で粗化処理されているものとはいえない。してみると、甲第2号証に記載された実質的に純銅で粗化処理された銅箔は、実施例8のもののみであって、請求項10に記載される「光透過率が30%以上」の範囲のものが記載されているとまではいえない。

3 甲第3号証

甲第3号証の第5ページ右上欄第10行?第15行、第8ページ左上欄第17行?同ページ右上欄第12行、第10ページ右上欄第4行?同ページ左下欄第1行、第7図の記載を整理すると、
甲第3号証には、「液温25℃、無撹拌条件で還元析出させ、1.25mA/cm^(2)で還元を行い、外観が焦茶色(5YR3.2/2)無光沢であり、波長が600nmにおける拡散反射率が約2.5%である金属銅層。」(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書(3(4)イ(ウ)欄)において、甲第3号証の第7図では、600nmにおける拡散反射率及び全光線反射率が共に約5%であることが記載されていると主張しているが、甲第3号証の第7図を確認すると、600nmにおける拡散反射率及び全光線反射率は、50/約20=約2.5%であると認める。

4 甲第4号証

甲第4号証の【0001】、【0010】、【0011】、【0013】、【0016】?【0023】の記載を整理すると、
甲第4号証には、「銅箔の少なくとも片面に合金組成が銅に対しコバルト、ニッケルの含有量が同等かそれより多い銅-コバルト-ニッケル合金からなる合金微細粗化粒子層を設けてなる、ハンダボールを載せる処理に際して銅箔と樹脂基板との接着力の低下を引き起こすことがなく、視認性に優れ、ファインパターン上にICを搭載するのに優れたチップオンフィルム用銅箔。」(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

第5 判断

1 特許法第17条の2第3項について

(1)平成26年12月26日付けの手続補正書による特許請求の範囲に係る補正によって、本件特許の請求項1に「銅箔」を特定する「実質的に純銅で粗化処理された」という発明特定事項が付け加えられ、本件特許の請求項2、3、4、7及び8に「銅箔」を特定する「前記粗化処理された」という発明特定事項が付け加えられたが、特許異議申立て人は、このような補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満足していない旨を主張している。

(2)まず、本件特許の請求項1に付け加えられた「銅箔」を特定する「実質的に純銅で粗化処理された」という発明特定事項が、当初明細書等から導出できる事項であるか否かについて検討する。

ア 当初明細書等の【0032】?【0039】の記載をみてみると、そこには、
「【0032】
以下本発明の一実施形態につき詳細に説明する。
・・・
上記銅箔の少なくとも片面(電解銅箔の場合は、M面またはS面の少なくとも一方の面、圧延銅箔の場合は圧延面の少なくとも一方の面)に粗化処理を行う。
無粗化の状態の銅箔では、視認性と樹脂密着性を両立することは難しい。以下に述べる後処理で箔表面を適切な状態に調整することが重要となる。
【0033】
粗化処理の代表例としてはCu粗化めっきである。Cu粗化めっきには硫酸銅めっき液を用いる。・・・。
・・・
【0038】
次に、銅箔の少なくとも粗化処理した方の片面にPRパルス電解による処理を行う。PRパルス電解を施すことで粗化粒子の溶解、析出が繰り返され、粗化粒子の小型化、粗化粒子数の増大、粗化粒子表面の平滑化などが行われ、視認性を向上する粗化粒子形状となる。
【0039】
PRパルス電解液は硫酸銅めっき液を用いる。・・・。
・・・
・・・。10A/dm^(2)を超えると電着性が悪くなる。
・・・。」
と記載されている。

イ この記載によれば、本件特許発明の実施形態として、銅箔の粗化処理に当たり、まず、硫酸銅めっき液を用いCu粗化めっき処理を行い、次に、硫酸銅めっき液を用いて粗化粒子の小型化、粗化粒子数の増大、粗化粒子表面の平滑化などが行われるPRパルス電解による処理を行う、という処理がなされる場合があるといえる。

ウ ここで、硫酸銅めっき液には、不可避的に不純物が含まれることは、甲第14号証の記載等からも明らかであるから、上記粗化めっき処理や、PRパルス電解による処理において、電着する粗化粒子は、この不可避的不純物が含まれる銅、すなわち、「実質的な純銅」であるということができる。

エ そうすると、銅箔が実質的に純銅で粗化処理されたものであることを明記する記載は見当たらないものの、本件特許の請求項1における「銅箔」を限定する「実質的に純銅で粗化処理された」という発明特定事項を付け加える補正は、上記イの場合に限定したものにすぎないから、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

オ なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3(4) 具体的理由」欄の「エ 特許法第17条の2第3項の理由」欄において、「実質的に純銅で粗化処理された」という補正事項が「当初明細書等の記載から自明な事項に該当しない理由として、甲第13号証、甲第14号証(それぞれ、「甲第14号証」及び「甲第15号証」の誤記であると認め、以下、それぞれ「甲第14号証」及び「甲第15号証」と記載する。)を提示し、甲第14号証の記載からは、本件特許発明の電解処理により得られた銅が純銅であるとはいえず、また、甲第15号証に記載されるように、本件特許発明の電解処理に用いる硫酸銅めっき液は、不純物が問題となることから、「硫酸銅めっき液」によって、純銅の膜が形成されるとはいえないことを主張している。

カ しかしながら、上記ア?ウで検討したように、「実質的に純銅で粗化処理された」ことは、不純物を含有する硫酸銅めっき液によるCu粗化めっき(電解)処理を許容する発明特定事項であるから、この主張は、妥当とはいえない。

キ よって、上記主張は採用しない。

(3)次に、本件特許の請求項2、3、4、7及び8に付け加えられた「前記粗化処理された」という発明特定事項が、当初明細書等から導出できる事項であるか否かについて検討する。

ア 請求項2、3、4、7及び8に付け加えられた「銅箔」を特定する「前記粗化処理された」という発明特定事項における、「前記粗化処理」とは、請求項1に付け加えられた「実質的に純銅で表面粗化された」という発明特定事項を指すものである。

イ してみると、請求項2、3、4、7及び8における「銅箔」を特定する「前記粗化処理された」という発明特定事項を付け加える補正は、上記(2)で検討したものと同様の理由により、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

(4)したがって、平成26年12月26日付けの手続補正書による特許請求の範囲に係る補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

2 特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について

(1)甲第1号証に記載された発明に対して

(1-1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と、甲1発明とを対比すると、銅箔の被接着面側表面において、本件特許発明1が「波長600nmにおける拡散反射率(R_(d))(以下、単に「拡散反射率」という。)が5?50%の範囲内で、かつ彩度(C^(*))(以下、単に「彩度」という。)が50以下である」のに対し、甲1発明では、「JIS Z8741に準拠した日本電色株式会社製光沢度計ハンディーグロスメーターPG-1を使用し、圧延方向に直角な方向の入射角60度で粗化面について測定した光沢度(以下、単に「光沢度」という。)が5、
銅箔をラミネート用熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム(厚み50μm)の両面に貼り合わせ、銅箔をエッチング(塩化第二鉄水溶液)で除去してサンプルフィルムを作成し、得られた樹脂層に対し、日本分光株式会社製分光光度計V-660を用いて、スリット10mmで、波長620nmの設定により光透過率を測定した光透過率(%T)(以下、単に「光透過率」という。)が48」であるものの、拡散反射率と彩度とがそれぞれどのような値であるのか明らかでない点で相違(以下、「相違点1」という。)し、その余の点では一致している。

イ そこで、この相違点1について検討する。

ウ はじめに、本件特許発明1において、相違点1に係る彩度及び拡散反射率のもつ技術的意義についてみてみる。

本件特許明細書には、「本発明は、配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線板用銅箔を提供することにある。」(段落【0018】)と記載されており、本件特許発明1の課題は、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線板用銅箔を提供すること」であるといえる。

ここで、拡散反射率、彩度について、本件特許明細書には、以下の記載がある。

「拡散反射率」について
「樹脂フィルムの全光線透過率は樹脂の種類および厚さによっておおよそ定まり、樹脂形状で少しは変化するもののその変化の程度は小さい。そのため、視認性を評価するHazeは拡散透過率に大きく影響される。樹脂の拡散透過率はその表面形状に大きく影響される。樹脂の表面形状は銅箔の表面形状を転写したものとなる。そのため、銅箔の形状が樹脂の拡散透過率および視認性に大きく影響する。
銅箔表面の拡散反射率が50%より大きいと、転写された表面形状を持つ樹脂は拡散透過率が上昇し、密着力は優れるが視認性が悪くなる。一方、拡散反射率が5%より小さいと、極めて良好な光沢を持つ銅箔表面となるが、平滑すぎるために視認性は優れるが樹脂との密着性は低下する。」(段落【0026】)

「彩度」について
「銅箔表面の色相は、表面処理によって大きく異なる。しかしHazeは一般的に波長600nmの値を評価に使用する。
Hazeの評価が一般的に波長600nmの値を採用することに注目した本発明者等は、彩度(C^(*))が50以下、つまり彩度が低いことでどの色相の表面においても波長600nmの反射率は一定以上に保たれ、このような表面を有する銅箔は、表面を転写した樹脂フィルムの視認性と密着性の両立が可能であることを見出した。
また銅箔の表面から視認性が決定されるために樹脂の種類、樹脂の製法、配線板の製法等に左右されにくいことを見出した。」(段落【0028】)

これらの記載と、段落【0048】?【0062】に記載される実施例及び比較例とを併せてみると、本件特許発明1は、銅箔の被接着面側表面において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項である「拡散反射率が5?50%であるとともに、彩度が50以下」により、銅箔の表面形状を転写した樹脂の拡散透過率を抑えることにより樹脂の視認性を確保するとともに、表面形状樹脂との密着性を確保し、さらに、どの色相の表面においても波長600nmの反射率は一定以上に保つことで樹脂の視認性を確保することにより、樹脂の密着性について銅箔/樹脂間のピール強度が0.6N/mm以上を確保しつつ、視認性についてHaze値が90%未満の銅箔の用途として適する程度の視認性を確保することができ、これにより、配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線板用銅箔を提供するという上記課題を解決するものであるといえる。

エ これに対して、甲1発明の解決しようとする課題は、甲第1号証の段落[0005]をみると「樹脂と良好に接着し、且つ、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性に優れた銅張積層基板用銅箔を提供」しようとするものである。

ここで、「銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性に優れること」について、甲第1号証には、
「一方、FPCは液晶基材への接合やICチップの搭載などの加工が施されるが、この際の位置合わせは銅張積層板の銅箔をエッチングした後に残る樹脂絶縁層を透過して視認される位置決めパターンを介して行われるため、樹脂絶縁層の視認性が重要となる。」(段落[0002])
「(5)視認性(樹脂透明性)
銅箔をラミネート用熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム(厚み50μm)の両面に貼り合わせ、銅箔をエッチング(塩化第二鉄水溶液)で除去してサンプルフィルムを作成した。得られた樹脂層の一面に印刷物を貼り付け、反対面から樹脂層越しに印刷物の視認性を判定した。印刷物の輪郭がはっきりしたものを「○」(合格)、輪郭が崩れたものを「×」(不合格)と評価した。」(段落[0045])
と記載されていることから、「銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性に優れ」ることは、銅箔をエッチングした後に残る樹脂絶縁層を透過して視認する際の視認性を確保するものであるといえる。

してみると、甲1発明が解決しようとする課題の「樹脂と良好に接着し、且つ、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性に優れた銅張積層基板用銅箔を提供」しようとすることは、「樹脂と良好に接着し、且つ、樹脂絶縁層と透過して視認する際の視認性を確保する銅張積層基板用銅箔を提供」しようとすることと言い換えることができ、本件特許発明1が解決しようとする課題の「樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線板用銅箔を提供する」点において同じであるといえるが、「回路パターン形成後の視認性」について、本件特許発明1がHaze値が90%未満であることにより評価するのに対して、甲1発明の視認性の評価法は、印刷物を視認したときの条件によって結果が左右される評価法であるといえ、視認性の評価の仕方が、Haze値に基づいて定量的に行う本件特許発明の視認性評価とは質的に異なる。

してみると、甲1発明の視認性と、本件特許発明1の視認性とは、その評価方法が質的に異なるから、両者を比較することは不可能であって、甲1発明の視認性が合格判定であったとしても、甲1発明の拡散反射率及び彩度が、本件特許発明1の拡散反射率及び彩度と一致する蓋然性が高いとすることに合理性があるとはいえない。

オ 次に、甲1発明は、上記課題を解決するために、銅箔の粗化面について測定した光沢度が5、樹脂の光透過率が48である。そこで、この光沢度及び光透過率の値を根拠に、甲1発明が、本件特許発明1の拡散反射率及び彩度の範囲内であるといえるか検討する。

カ まず、銅箔の粗化面の「光沢度」についてみてみると、甲第1号証には、「光沢度」について以下の記載がある。
「 〔光沢度〕
表面処理銅箔の粗化面の光沢度は、上述の樹脂の光透過率に大いに影響を及ぼす。すなわち、粗化面の光沢度が大きい銅箔ほど、上述の樹脂の透過率が良好となる。このため、本発明の表面処理銅箔は、粗化面の光沢度が0.5?68であり、1.0?40であるのが好ましく、4.8?35であるのがより好ましい。」(段落[0030])
この記載からみて、樹脂の光透過率を確保すべく、粗化面の光沢度を調整することが記載されているといえる。

ところで、光の反射は、拡散反射と鏡面反射とに分けられ、鏡面反射率が高くなると拡散反射率は低くなる関係を有し、また、鏡面反射率が高いほど光沢度が大きくなることが知られているから、拡散反射率が低いほど光沢度が小さくなるといえ、光沢度と拡散反射率とは定性的な相関関係を有するといえる。

しかしながら、光沢度と拡散反射率との間に、定量的な関係が存在することは、甲第1?12号証のいずれにも記載されておらず、技術常識ともいえないから、相違点1に係る甲1発明の「光沢度5」を根拠に、甲1発明が、同本件特許発明1の発明特定事項である「拡散反射率が5?50%」の範囲内であると断じることはできない。

また、光沢度と彩度との間に、定量的な関係が存在することは、甲第1?12号証のいずれにも記載されておらず、技術常識ともいえないから、相違点1に係る甲1発明の「光沢度5」を根拠に、甲1発明が、同本件特許発明1の発明特定事項である「彩度が50以下」の範囲内であると断じることはできない。

キ 次に、甲1発明における「光透過率」についてみてみると、甲1発明における「光透過率」と、本件特許発明1の拡散反射率との間、及び、本件特許発明1の彩度との間にも、定量的な関係が存在することは、甲第1?12号証のいずれにも記載されておらず、技術常識ともいえないから、相違点1に係る甲1発明の「光透過率48」を根拠に、甲1発明が、同本件特許発明1の発明特定事項である「拡散反射率が5?50%」の範囲内であるとも、また、「彩度が50以下」の範囲内であるとも断じることはできない。

ク してみると、相違点1は、実質的なものである。

ケ よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものではない。

コ 次に、相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項が、甲第1?12号証から導き出すことができるかについて検討する。

サ 上記カで述べたように、「光沢度」と「拡散反射率」との間には定性的な関係はあるものの定量的な関係があるとはいえないが、甲1発明の「光沢度5」が、本件特許の「拡散反射率5?50」を満たすと仮定しても、甲第1号証には、「拡散反射率を5?50」とした上で、銅箔の粗化面の「彩度」も所定値とする技術思想はなく、また、上記カで述べたように、甲1発明の銅箔の「彩度」が50以下であるともいえないし、当該「彩度」を50以下とすることについて動機付けとなり得るものも見当たらない。

シ 次に、甲1発明が、樹脂と良好に接着し、かつ、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性に優れた銅張積層基板用銅箔を提供しようとするものであるから、当該課題を解決するために、粗化面の「彩度」に注目して、その値を所定値にしようとする考え方が甲第2号証?甲第12号証から導出できるか検討する。

ス まず、甲第2号証?甲第9号証、甲第12号証の記載をみると、これら各号証のいずれにも、粗化面の「彩度」と銅箔と樹脂との密着性及び銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性との関係について記載されていないし、示唆するものも見当たらないから、上記導出はできない。

セ 次に、甲第10号証及び甲第11号証について検討する。

ソ 甲第10号証には、以下の記載がある。

「本発明は、黒化処理面又は層を有する銅箔、特に電磁波、近赤外線、迷光、外光等を効果的に遮断するシールド特性に優れ、プラズマディスプレーパネル(PDP)に有用な黒化処理面又は層を有する銅箔に関する。」(段落[0001])
「本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電磁波、近赤外線、迷光、外光等を効果的に遮断するシールド特性に優れ、かつコントラストが十分であり、かつ濃黒化色を備え、また外部からの入射光の反射光及びプラズマディスプレーパネルからの出射光の反射光を抑制でき、さらにエッチング性に優れている等の特徴を持つ、特にプラズマディスプレーパネル(PDP)に有用な黒化処理面又は層を有する銅箔を提供することにある。」(段落[0008])
「本発明の黒化処理面又は層を有する銅箔は、銅箔の片面又は両面に黒色になる処理が施されたものである。その黒化処理面又は層は、黒;ΔL*=-100、白;ΔL*=0、で表される色差計で測定された黒色に処理された面の色差ΔL*≦-70であり、彩度C*≦15である。
これによって、電磁波、近赤外線、迷光、外光等を効果的に遮断するシールド特性が得られると共に、コントラストが十分であり、かつ濃黒化色を備え、また外部からの入射光の反射光及びプラズマディスプレーパネルからの出射光の反射光を効果的に抑制できる。」(段落[0012])
「[1]銅箔の片面又は両面に黒色になる処理が施されたものであり、黒;ΔL*=-100、白;ΔL*=0、で表される色差計で測定された黒色に処理された面の色差ΔL*≦-70であり、彩度C*≦15であることを特徴とする黒化処理面又は層を有する銅箔。」(請求の範囲)

これらの記載によれば、甲第10号証には、プラズマディスプレーパネル(PDP)に有用な黒化処理面又は層を有する銅箔に関し、黒色に処理された面の色差ΔL*≦-70、彩度C*≦15とすることにより、電磁波、近赤外線、迷光、外光等を効果的に遮断するシールド特性が得られるとともに、コントラストが十分であり、かつ濃黒化色を備え、また外部からの入射光の反射光及びプラズマディスプレーパネルからの出射光の反射光を効果的に抑制することについて、記載されているといえる。

してみると、甲第10号証は、プラズマディスプレーパネル(PDP)に有用な黒化処理面又は層を有する銅箔に関するものであり、甲1発明の銅箔とは用途が異なり、彩度について、彩度C*≦15との記載はあるものの、外部からの入射光の反射光及びプラズマディスプレーパネルからの出射光の反射光を効果的に抑制するためのものであって、「彩度」と銅箔と樹脂との密着性及び銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性との関係を開示するものではないから、甲第10号証の記載に基づいて「彩度」が50以下とする上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

タ 甲第11号証には、以下の記載がある。

「・・・絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c^(*)=(a^(*2)+b^(*2))^(1/2)が6以下を成すNi-Co合金めっき層を備えるようにしたので、ポリイミドに代表される絶縁性基材を透かして見たときの色(JIS Z8729に基づく)を、例えば黒色との色差でΔE^(*)ab=3以内と観察されるような表面にすることができ、その結果、半導体チップの実装時の位置合わせの際などにおける絶縁性基材を介していわゆる透かし観た状態での十分に高い視認性を備えており、・・・導体パターンを形成することが可能なプリント配線板用銅箔を実現することができる。」(段落【0019】)

この記載によれば、甲第11号証には、絶縁性基材を介して光学的に検知されるプリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c^(*)=(a^(*2)+b^(*2))^(1/2)が6以下を成すNi-Co合金めっき層を備えることにより、半導体チップの実装時の位置合わせの際などにおいて、絶縁性基材を介して透かし観た状態で、プリント配線板用銅箔の表面が十分に高い視認性を備えることができるとの記載がされているといえる。

ここで、甲第1号証に記載される視認性は、上記エで検討したとおり、銅箔をエッチングで除去した後の樹脂の透明性を意味するものである。一方、甲第11号証に記載される視認性とは、ポリイミドに代表される絶縁性基材(樹脂)を透かして観た状態の銅箔の視認性である。すると、両者の「視認性」は、文言は同じものであるものの、その表す事項は異なるものであるといえる。

してみると、甲第11号証に、彩度について、プリント配線板用銅箔の表面の十分に高い視認性を備えるために、その彩度を6以下とする記載はあるものの、甲1発明において、プリント配線板用銅箔の表面の十分に高い視認性を得ようとする動機付けはないから、甲第11号証の記載に基づいて「彩度」が50以下とする上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。

チ したがって、銅箔の被接着面側表面の拡散反射率について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と甲第1?12号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(1-2)本件特許発明2?8について

ア 本件特許発明2?8は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものである。

イ してみると、上記(1-1)と同様の理由により、本件特許発明2?8は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明と甲第1?12号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)甲第2号証に記載された発明に対して

(2-1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と、甲2発明とを対比すると、銅箔の被接着面側表面において、本件特許発明1が「波長600nmにおける拡散反射率(R_(d))(以下、単に「拡散反射率」という。)が5?50%の範囲内で、かつ彩度(C^(*))(以下、単に「彩度」という。)が50以下である」のに対し、甲2発明では、「銅箔をラミネート用熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム(厚み50μm)の両面に貼り合わせ、銅箔をエッチング(塩化第二鉄水溶液)で除去してサンプルフィルムを作成し、得られた樹脂層に対し、日本分光株式会社製分光光度計V-660を用いて、スリット10mmで、波長620nmの設定により光透過率を測定した光透過率(%T)が48」であるものの、拡散反射率と彩度とがそれぞれどのような値であるのか明らかでない点で相違(以下「相違点2」という。)し、その余の点では一致している。

イ この相違点2について検討する。

ウ 相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項と、上記(1-1)の相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とは一致しており、上記(1-1)で検討したものと同様の理由により、相違点2は実質的なものである。

エ そして、上記(1-1)で検討した理由と同様の理由により、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項と一致する相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項も同様に甲第1?12号証に記載の発明に基づいて導き出すことができない。

オ してみると、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1?12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(2-2)本件特許発明2?8について

ア 本件特許発明2?8は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものである。

イ してみると、上記(2-1)と同様の理由により、本件特許発明2?8は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明と甲第1?12号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(3)甲第3号証に記載された発明に対して

(3-1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と、甲3発明とを対比する。

イ 甲3発明の金属銅層の外観が「焦茶色(5YR3.2/2)」であるから、甲第16号証?甲第18号証に示された周知技術を踏まえると、彩度が50以下であるといえる。

ウ 甲3発明の金属銅層は、甲第3号証の第6ページ右下欄下から第3行?下から第2行の記載からみて、電気的に還元され金属銅として析出したものであるから、実質的に純銅で粗化処理した層であるといえる。

エ してみると、本件特許発明1と甲3発明とは、波長600nmにおける拡散反射率について、本件特許発明1が「5?50%の範囲内にある」のに対し、甲3発明は「約2.5%」である点(以下「相違点3」という。)で相違し、その余の点では一致している。

イ そこで、相違点3について検討する。

ウ 波長600nmにおける拡散反射率の数値が、本件特許発明1と甲3発明とで異なっているから、この数値の違いが実質的なものであるかをみてみる。

エ 本件特許明細書の【0026】には、「波長600nmにおける拡散反射率を5?50%の範囲内」とするという発明特定事項を有することにより、視認性及び密着性が優れるという作用効果を奏するものであると説明されている。

オ そして、本件特許発明1の実施例及び比較例についての本件特許明細書の表2をみると、Rdすなわち拡散反射率が5?20%の範囲にあるものは、視認性及び密着性がすぐれているものの、甲3発明の拡散反射率近い値である3という拡散反射率を有する比較例3は視認性は優れるものの、密着性は良くなく、上記【0026】の説明が裏付けられている。

カ そうすると、相違点3は実質的なものである。

キ よって、本件請求項1記載の発明は、甲第3号証に記載された発明ではなく、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものではない。

ク 次に、相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項が、甲第1号証?甲第12号証、甲第16号証?甲第18号証から導き出すことができるかについて検討する。

ケ 甲第3号証の請求項3には、「前記無光沢及び色相の程度は直接反射率が600?700nmの波長領域で、20%以下であること」が記載されている。

ここで、甲第3号証の第4ページ右下欄第16行?第5ページ左上欄第15行には、「(直接反射率)・・・ライトトラップを用いて正反射光を除いた測定値(拡散反射率)と、ライトディヒューザを用いて正反射光までを含めた測光値(全反射率,直接反射率)とでかなりの差が出る。・・・。つまり直接反射率とは正反射まで含めたこの反射率の測光値である。」と記載されている。この記載を踏まえると、直接反射率の範囲を定めることは、正反射率と拡散反射率との和の範囲を定めることであるといえる。

さらに、第7図をみると、ivで示される直接反射率と、vで示される拡散反射率とは、ほぼ同様の値であることが見て取れるから、甲3発明において、正反射率は小さい値であるといえ、直接反射率が600?700nmの波長領域で、20%であることを特定することは、拡散反射率が600?700nmの波長領域で、20%であることを特定することと実質的に相違しないものといえる。

しかしながら、甲第3号証には、拡散反射率の下限値を5とすることについて記載されているとはいえないから、甲3発明において、波長600nmにおける拡散反射率を5以上とする動機付けがあるとまではいえない。

さらに、上述のとおり、本件特許発明1は、「波長600nmにおける拡散反射率を5?50%の範囲内」とするという発明特定事項を有することにより、視認性及び密着性が優れるという作用効果を奏するものであり、当該作用効果は、甲第3号証の記載から当業者が予測し得るものでもない。

コ また、甲第1号証、甲第2号証、甲第4?12号証、甲第16号証?甲第18号証をみても、銅箔の被接着面側表面の拡散反射率を制御し、その値を5?50%の範囲内とすることについて記載も示唆もされていないから、甲3発明において、銅箔の被接着面側表面の拡散反射率を調整し、5?50%の範囲内とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。

サ したがって、本件特許発明1は、甲3発明と甲第1?12号証、甲第16号証?甲第18号証に記載の発明とに基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(3-2)本件特許発明2?8について

ア 本件特許発明2?8は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものである。

イ してみると、上記(3-1)と同様の理由により、本件特許発明2?8は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明と甲第1?12号証、甲第16号証?甲第18号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(4)甲第4号証に記載された発明に対して

(4-1)本件特許発明1について

本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、次の点で相違し、その余の点で一致している。

相違点4-1:本件特許発明1が「拡散反射率が5?50%の範囲内で、かつ彩度が50以下である」のに対し、甲4発明は、かかる事項を特定していない点

相違点4-2:粗化処理について、本件特許発明1が「実質的に純銅で粗化処理された」ものであるのに対し、甲4発明が、「合金組成が銅に対しコバルト、ニッケルの含有量が同等かそれより多い銅-コバルト-ニッケル合金からなる」ものである点

イ これらの相違点について検討する。

ウ 相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項と、上記(1-1)の相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とは一致しており、上記(1-1)で検討したものと同様の理由により、相違点4-1は実質的なものである。

エ そして、上記(1-1)で検討したものと同様の理由によりに、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項と一致する相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項も同様に甲第1?12号証に記載の発明に基づいて導き出すことができない。

オ なお、念のため、相違点4-2についても検討する。

相違点4-2に係る甲4発明の発明特定事項である粗化処理が「銅に対しコバルト、ニッケルの含有量が同等かそれより多い銅-コバルト-ニッケル合金からなる」ことについてみてみる。

甲4発明の解決しようとする課題は、甲第4号証の【0010】の記載からみて、「高いエッチングファクターを持ち、回路パターンのボトムラインの直線性に優れ、なおかつ回路パターンを形成する銅箔の銅粒子が樹脂中に残ることなく、ファインパターンが作成でき、ハンダボールを載せる処理に際して銅箔と樹脂基板との接着力の低下を引き起こすことがなく、視認性に優れ、ファインパターン上にICを搭載するのに優れた銅箔を提供すること」であるといえる。

そして、甲第4号証の【0013】には、「コバルト、ニッケルの含有量が同等かそれより多い銅-コバルト-ニッケル合金からなる合金微細粗化粒子層を設けた時に、・・・高いエッチングファクターを持ち、回路パターンのボトムラインの直線性に優れ、なおかつ回路パターンを形成する銅箔の銅粒子が樹脂中に残ることなく、ファインパターンが作成でき、視認性に優れたCOP用の銅箔を得ることに成功した」と記載されているから、甲4発明は、合金微細粗化粒子層の合金として「銅に対しコバルト、ニッケルの含有量が同等かそれより多い銅-コバルト-ニッケル合金」を選択したことにより、上記課題を解決したものであるといえる。

してみると、甲4発明は、合金微細粗化粒子層の合金として特定の合金を選択したことに技術的意義を有するものであるといえるから、粗化処理が実質的に純銅でされることが周知であるとしても、その合金を実質的に純銅に変更する動機付けがない。

また、甲第1?12号証のその余の記載からみても、相違点4-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を導き出すことができない。

カ してみると、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第1?12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(4-2)本件特許発明2?8について

本件特許発明2?8は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、上記(4-1)と同様の理由により、本件特許発明2?8は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1?12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

3 特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号について

(1)本件特許発明1について

ア 特許異議申立人は、本件特許発明1について、彩度(C^(*))が極めて低いものや、彩度(C^(*))が0のものも包含することになるから、特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

イ 本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書【0018】の記載によれば、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」である。

ウ また、本件特許発明1の発明特定事項である彩度(C^(*))については、同明細書の【0028】に「・・・彩度(C^(*))が50以下、つまり彩度が低いことでどの色相の表面においても波長600nmの反射率は一定以上に保たれ、このような表面を有する銅箔は、表面を転写した樹脂フィルムの視認性と密着性の両立が可能であることを見いだした。・・・。」と記載されており、銅箔の表面の彩度(C^(*))が50以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、表面を転写した樹脂フィルムの視認性と密着性の両立が可能となり、上記課題を解決することができるものであるといえる。

エ そして、本件特許明細書の【0048】?【0062】に記載される実施例及び比較例の記載をみると、【0058】の表2には、拡散反射率(R_(d))が5?50%の範囲内で、かつ彩度(C^(*))が50以下を満たす実施例として彩度(C^(*))が8?49のものが示されており、これらの実施例について、フィルム視認性の評価が、A、B又はCであり、密着力の評価が○であることが示されており、このことは、【0053】及び【0056】の記載からみて、Haze値が90%未満であり本発明の銅箔の用途として適する程度の視認性であり、及び、密着力について、銅箔/樹脂間のピール強度が、0.6N/mm以上であることが示されており、表面を転写した樹脂フィルムの視認性と密着性の両立が可能となることが裏付けられている。

オ さらに、上記実施例及び比較例の記載からみて、特に表1に記載されるように、粗化処理、PRパルス電解、アルカリ浸漬処理の処理条件を調整することにより、彩度を50以下とすることができることが分かる。

カ そうすると、本件特許明細書には、上記課題を解決するために、銅箔の表面の彩度(C^(*))を50以下の範囲とすることについて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要なく、当業者が実施できるように記載されているといえるから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満足している。

キ また、本件特許発明1が有する「彩度(C^(*))が50以下である」という発明特定事項について、発明の詳細な説明において、彩度(C^(*))が50以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、発明の課題が解決できることが当業者が認識できるように記載されているといえるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満足している。

ク さらに、本件特許発明1の「彩度(C^(*))が50以下である」という発明特定事項の記載は、文言上明確であり、また、彩度(C^(*))が50以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」という課題を解決する技術的意義を有しており、明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満足している。

(2)本件特許発明2について

ア 特許異議申立人は、本件特許発明2について、甲第12号証(「甲第13号証」の誤記であると認める。)の記載事項から、実質的に純銅で粗化処理した場合、その粗化表面は赤色の粗化処理面をもたらし、黒色の色調にまで至らないことから、明度指数(L^(*))が0を含む33未満の場合は、特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

イ 本件特許発明が解決しようとする課題は、上記(1)イのとおり、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」である。

ウ また、本件特許発明2の発明特定事項である明度指数(L^(*))については、本件特許明細書の【0029】に「・・・明度指数(L^(*))が75以下である表面を転写した樹脂フィルムは、明度指数(L^(*))が高い白い箔の表面を転写した樹脂フィルムに比べて視認性が高いことを見出した。」と記載されており、銅箔の表面の明度指数(L^(*))が75以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、表面を転写した樹脂フィルムの視認性が高くなるものであるといえる。

エ そして、本件特許明細書の【0048】?【0062】に記載される実施例及び比較例の記載をみると、【0058】の表2には、拡散反射率(R_(d))が5?50%の範囲内で、彩度(C^(*))が50以下であるとともに、明度指数(L^(*))が75以下を満たす実施例として、明度指数(L^(*))が27?67のものが記載されており、明度指数(L^(*))が小さくなるとフィルム視認性を評価するHaze値が小さくなる傾向があると認められるから、上記の明度指数(L^(*))と表面を転写した樹脂フィルムの視認性との相関関係が裏付けられているといえる。

オ さらに、上記実施例及び比較例の記載からみて、特に表1に記載されるように、粗化処理、PRパルス電解、アルカリ浸漬処理の処理条件を調整することにより、明度指数(L^(*))を75以下とすることができることが分かる。

カ そうすると、本件特許明細書には、上記課題を解決するために、銅箔の表面の明度指数(L^(*))を75以下の範囲とすることについて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要なく、当業者が実施できるように記載されているといえるから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満足している。

キ また、本件特許発明2が有する「明度指数(L^(*))が75以下である」という発明特定事項について、発明の詳細な説明において、明度指数(L^(*))が75以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、発明の課題が解決できることが当業者が認識できるように記載されているといえるから、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満足している。

ク さらに、本件特許発明2の「明度指数(L^(*))が75以下である」という発明特定事項の記載は、文言上明確であり、また、明度指数(L^(*))が75以下でさえあれば、0等の特定の値でなくても、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」という課題を解決する技術的意義を有しており、明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満足している。

(3)本件特許発明4について

ア 特許異議申立人は、本件特許発明4について、光沢度Gs(60°)が86を超える場合は、特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

イ 本件特許発明が解決しようとする課題は、上記(1)イのとおり、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」である。

ウ また、本件特許発明4の発明特定事項である光沢度Gs(60°)については、本件特許明細書の【0031】に「本発明の配線板用銅箔は、入射角60°における光沢度(Gs(60°))が5%以上であることが好ましい。光沢度が5%未満のときは視認性が低くなる。・・・」と記載されており、銅箔の表面の光沢度Gs(60°)が5%以上でさえあれば、特定の値でなくても、表面を転写した樹脂フィルムの視認性が高くなるものであるといえる。

エ そして、本件特許明細書の【0048】?【0062】に記載される実施例及び比較例の記載をみると、【0058】の表2には、拡散反射率(R_(d))が5?50%の範囲内で、彩度(C^(*))が50以下であるとともに、光沢度(Gs(60°))が5%以上を満たす実施例として、光沢度(Gs(60°))が5?86のものが記載されており、これらの実施例について、フィルム視認性の評価が、A、B又はCであり、このことは、【0053】の記載からみて、Haze値が90%未満であり本発明の銅箔の用途として適する程度の視認性であることが示されており、表面を転写した樹脂フィルムの視認性が高くなることが裏付けられている。

オ さらに、上記実施例及び比較例の記載からみて、特に表1に記載されるように、粗化処理、PRパルス電解、アルカリ浸漬処理の処理条件を調整することにより、光沢度(Gs(60°))を5%以上とすることができることが分かる。

カ そうすると、本件特許明細書には、上記課題を解決するために、銅箔の表面の光沢度(Gs(60°))を5%以上の範囲とすることについて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要なく、当業者が実施できるように記載されているといえるから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満足している。

キ また、本件特許発明4が有する「光沢度(Gs(60°))が5%以上である」という発明特定事項について、発明の詳細な説明において、光沢度(Gs(60°))が5%以上でさえあれば、特定の値でなくても、発明の課題が解決できることが当業者が認識できるように記載されているといえるから、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満足している。

ク さらに、本件特許発明4の「光沢度Gs(60°)が5%以上である」という発明特定事項の記載は、文言上明確であり、また、明度指数沢度Gs(60°)が5%以上でさえあれば、特定の値でなくても、「配線板の用途に好適な樹脂密着性と回路パターン形成後の視認性を両立させた配線用銅箔を提供すること」という課題を解決する技術的意義を有しており明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満足している。

(4)本件特許発明3及び5?8について
本件特許発明1、2又は4の発明特定事項を有する本件特許発明3及び5?8についても、上記(1)?(3)と同様の理由により、特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号の規定を満足している。

第6 むすび

したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-25 
出願番号 特願2014-146807(P2014-146807)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C25D)
P 1 651・ 113- Y (C25D)
P 1 651・ 536- Y (C25D)
P 1 651・ 121- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧口 博史  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 富永 泰規
小川 進
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5706026号(P5706026)
権利者 古河電気工業株式会社
発明の名称 配線板用銅箔及び配線板  

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