• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04R
管理番号 1311870
異議申立番号 異議2015-700274  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-04 
確定日 2016-02-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5733240号「振動検出装置」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5733240号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5733240号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年2月24日に特許出願され、平成27年4月24日に特許の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 特許業務法人アイザック国際特許商標事務所により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件特許発明
特許第5733240号の請求項1ないし5に係る特許発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一方の面が検出対象物に接触可能な接触面となる第一振動伝達部と、
前記第一振動伝達部の他方の面と空気層を介して設けられた第二振動伝達部と、
前記第二振動伝達部の空気層側と反対側の面に当接する振動部材を有する振動検出素子と、
前記第一振動伝達部と、前記第二振動伝達部と、前記振動検出素子とを保持するケースとを備え、
前記第一振動伝達部が検出対象物と接触することによる変形によって、前記第一振動伝達部と前記第二振動伝達部とが当接する、振動検出装置
【請求項2】
前記ケースには、前記空気層からケース外に到達する空気孔が一つ以上設けられている請求項1に記載の振動検出装置。
【請求項3】
前記第一振動伝達部と前記ケースとが、前記第一振動伝達部よりも柔らかい連結部で連結されている請求項1、又は2に記載の振動検出装置。
【請求項4】
前記ケースが、前記第一振動伝達部と連結され、前記振動部材に対し垂直方向に可動する可動部を有している請求項1?3のいずれか1項に記載の振動検出装置。
【請求項5】
前記振動検出素子が生体音を検出するためのマイクロホン素子である請求項1?4のいずれか1項に記載の振動検出装置。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2ないし5号証を提出し、
(1)本件特許発明1、2及び5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2)本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載の事項及び甲第3号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3)本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載の事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
[証拠]
甲第1号証:実公昭51-50372号公報
甲第2号証:特開2009-182838号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2009/0211838号明細書
甲第4号証:実開昭58-101609号公報
甲第5号証:実公昭50-29351号公報

4.甲第1ないし5号証の記載事項(なお、下線は当審で付与した。)
(1)甲第1号証(実公昭51-50372号公報)
ア.「(57)実用新案登録請求の範囲
静電圧力型電気音響変換器1の振動板2よりも面積の大きい可撓板8を張設したパイプ9により外界に通じさせた前置ケース6を静電圧力型電気音響変換器1の前部に結合して変換器1の振動板2の前方に前置空気室7を形成し、可撓板8の共振周波数50?100HZとし、前置空気室7とパイプ9との共振周波数を10?20HZとし、変換器1の空気室3とその静圧調整用パイプ4との共振周波数を1?5HZとしたことを特徴とする心音マイクロホン。」(1頁左欄14?24行。なお、数字に○を付した記号を、数字に( )を付した記号で代用した。)

イ.「以下図面の実施例について本案を説明すると、1は静電圧力型電気音響変換器であって、例えば電界効果トランジスタを内蔵したコンデンサマイクロホン、自己成極型コンデンサマイクロホン等が使用できる。2は変換器1の振動板、3は変換器1の空気室、4は空気室3の静圧調整用パイプ、5は導線、6は変換器1を接着保持すると共にその前面に前置空気室7を形成する前置ケース、8はケース6の前面に貼着張設されたゴム等の可撓板、9は前置空気室7内の圧力を外へ逃がすパイプ、10は前置ケース6に結合されて変換器1を覆うケースで、変換器1内の静圧を外に逃す孔11を穿設している。」(1頁左欄30行?同頁右欄4行)

ウ.「この心音マイクロホンを可撓板8に於て身体に接触させると、身体に沿って可撓板8が変形してもまた温度が変っても、前置空気室7内はパイプにより外界に通しているため該室内は常に外界と同じ1気圧に保たれる。従って変換器1の振動板2は常に一定位置を占めている。
心音の周波数は60HZ付近であり、この周波数付近では前置空気室7(共振周波数10?20HZ)は密閉状態となるため、可撓板8を身体に押当てた状態に於て前置空気室7内の空気を媒介として心音は変換器1の振動板2により感度よく捕捉される。」(1頁右欄13?24行)

・上記甲第1号証には「心音マイクロホン」について記載され、当該「心音マイクロホン」は、上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び図面によれば、振動板2を有する静電圧力型電気音響変換器1と、静電圧力型電気音響変換器1の振動板2よりも面積の大きい可撓板8と、可撓板8が前面に張設され、静電圧力型電気音響変換器1を保持すると共に静電圧力型電気音響変換器1の振動板2の前方に前置空気室7を形成する前置ケース6と、前置空気室7内の圧力を外へ逃がすパイプ9と、を備える心音マイクロホンに関するものである。
・上記「イ.」の記載事項によれば、静電圧力型電気音響変換器1は、コンデンサマイクロホン等である。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、心音マイクロホンの可撓板8を身体に接触させると、身体に沿って可撓板8が変形するが、前置空気室7内はパイプにより外界に通しているため該室内は常に外界と同じ1気圧に保たれ、静電圧力型電気音響変換器1の振動板2は常に一定位置を占めており、心音は、可撓板8を身体に押当てた状態において前置空気室7内の空気を媒介として静電圧力型電気音響変換器1の振動板2により感度よく捕捉される。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「振動板を有するコンデンサマイクロホン等の静電圧力型電気音響変換器と、
前記静電圧力型電気音響変換器の振動板よりも面積の大きい可撓板と、
前記可撓板が前面に張設され、前記静電圧力型電気音響変換器を保持すると共に前記静電圧力型電気音響変換器の振動板の前方に前置空気室を形成する前置ケースと、
前記前置空気室内の圧力を外へ逃がすパイプとを備え、
前記可撓板を身体に接触させると、身体に沿って該可撓板が変形するが、前記前置空気室内は前記パイプにより外界に通しているため該室内は常に外界と同じ1気圧に保たれ、前記静電圧力型電気音響変換器の振動板は常に一定位置を占めており、心音は、前記可撓板を身体に押当てた状態において前記前置空気室内の空気を媒介として前記静電圧力型電気音響変換器の振動板により感度よく捕捉される心音マイクロホン。」

(2)甲第2号証(特開2009-182838号公報)
ア.「【請求項1】
下部電極を有する基板と、
該基板の上に形成された支持体と、
該支持体によって保持され、上部電極を有するメンブレンと、
を有する弾性波トランスデューサであって、
前記メンブレンは、前記支持体と接触している第1領域と、前記支持体と接触しておらず弾性波を受けることにより変形する第2領域とからなり、
前記メンブレンの第2領域は、該第2領域のかさ密度が前記メンブレンの第1領域からの距離が大きくなるほど小さくなる領域を有することを特徴とする弾性波トランスデューサ。」

イ.「【0002】
弾性波の送受信を行なうトランスデューサとしては、超音波の送受信を行なうものが存在する。超音波の送受信を行なうトランスデューサとしては圧電素子を用いるものが一般的である。また一方では、メンブレン(振動膜ともいう)構造の振動によって超音波の送受信を行なうトランスデューサであるCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)やPMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が注目されている。これらのトランスデューサは半導体製造技術を用いて形成されており、アレイ数増加の可能性や回路との集積化の容易性などが長所となっている。」

ウ.「【0029】
図1に示すように、メンブレン103は、支持体102と接触している第1領域105と、支持体102と接触しておらず弾性波(超音波)を受けることによりU字型に変形する第2領域106と、を備えている。本実施例では、メンブレン103の中央部に第2領域106が形成され、第2領域106の周囲(メンブレン103の周辺部)に第1領域105が形成されている。」

エ.「【0040】
(トランスデューサの動作)
次にトランスデューサの動作を説明する。基板101は図示しない下部電極を有する低抵抗の基板であり、電気的に接地されている。下部電極としては、リンやホウ素などをドープし低抵抗になったシリコン基板そのものや、Al,Auなどの導電体が用いられる。ここで、メンブレン103の上に形成されている図示しない上部電極に直流的な電圧を印加すると、静電引力によりメンブレン103が基板101側に変形する。メンブレン103は、静電引力と復元力とのつりあいの位置でとまる。この状態で交流的な電圧を電極へ印加すると、メンブレン103がつりあいの位置を中心に振動し、超音波を発生する。また、つりあいの位置にあるメンブレン103に対して超音波が入力されると、メンブレン103が振動し基板101とメンブレン103との間の容量が変化する。この変化を測定することで超音波が検出できる。なお、上部電極は、メンブレン103の基板102側の面またはその反対側の面に形成されている。上部電極としては、Al,Auなどの導電体が用いられる。」

オ.「【0071】
<実施例5>
図11を参照して、本発明の実施例5に係るトランスデューサを説明する。本実施例のトランスデューサは、メンブレンの振動部分(第2領域)の少なくとも一部が基板と接触したコラプスモードで動作する。
【0072】
初めにコラプスモードについて簡便に説明する。コラプスモードとは,メンブレンが下部の基板に接触した状態で送受信を行なうモードのことである。まずメンブレンと下部の基板との接触について説明する。トランスデューサに与える直流的な初期電位差を大きくしていくと、静電引力が増大しメンブレンが下部の基板に引き付けられる。この引き付けられる位置は静電引力とメンブレンの復元力のつりあいによって決定される。さらに初期電位差を大きくし静電引力を増大させると、メンブレンの復元力を静電引力が超え、メンブレンが下部の基板に接触する。この動作はプルインと呼ばれ、このときの電位差はプルイン電圧Vpと呼ばれる。ところで,初期電位差とメンブレンの位置にはヒステリシスが存在し、メンブレンが下部の基板に接触した状態から脱し、メンブレンと下部の基板が離れるためには、プルイン電圧よりも小さい電位差まで下げなくてはいけない。このときの電位差をスナップバック電圧Vsと呼ぶ。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0076】
前述した実施例1?4のいずれの構造のトランスデューサもコラプスモードで動作させることが可能である。以下、実施例4のトランスデューサを例にとり、コラプスモードの動作を説明する。
【0077】
図11は、コラプスモードで動作しているときのトランスデューサの断面形状を示している。初期の電位差を増大させていくことで、メンブレン803を下部の基板801に接触させる。通常メンブレンの中で最大のたわみの部分が下部の基板に最初に接触するため、本実施例ではメンブレン803の領域803Aの一部が下部の基板801に接触する。この接触状態を保持したまま送受信を行なうことでコラプスモードでの動作が可能となる。」

・上記甲第2号証には「弾性波トランスデューサ」について記載され、当該「弾性波トランスデューサ」は、上記「ア.」?「オ.」の記載事項、及び図1、図11によれば、下部電極を有する基板101,801と、該基板101,801の上に形成された支持体102,802と、該支持体102,802によって保持され、上部電極を有するメンブレン(振動膜)103,803と、を有し、メンブレン(振動膜)構造の振動によって弾性波(超音波)の送受信を行う弾性波トランスデューサに関し、メンブレン(振動膜)103,803は、支持体102,802と接触しておらず弾性波(超音波)を受けることにより変形する第2領域106を備えている。
・上記「オ.」の記載事項、及び図11によれば、トランスデューサに与える直流的な初期電位差を大きくすることによって、静電引力によりメンブレン(振動膜)803を基板801側に引き付けてメンブレン(振動膜)803の第2領域の少なくとも一部を基板801と接触させ、この接触状態を保持したまま受信を行うコラプスモードで動作させることが可能である。

したがって、特に図11に示される実施例5に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
「下部電極を有する基板と、
前記基板の上に形成された支持体と、
前記支持体によって保持され、前記支持体と接触しておらず弾性波(超音波)を受けることにより変形する第2領域を備え、上部電極を有するメンブレン(振動膜)と、
を有し、メンブレン(振動膜)構造の振動によって弾性波(超音波)の送受信を行う弾性波トランスデューサにおいて、
当該トランスデューサに与える直流的な初期電位差を大きくすることによって、静電引力により前記メンブレン(振動膜)を前記基板側に引き付けて当該メンブレン(振動膜)の前記第2領域の少なくとも一部を前記基板と接触させ、この接触状態を保持したまま受信を行うコラプスモードで動作させるようにしたこと。」

(3)甲第3号証(米国特許出願公開第2009/0211838号明細書)
ア.「[0133] FIG.14 is a stylized half section of another electronic stethoscope shest piece(302) which embodies the present invention and which includes a capacitive sound transducer (identified below as capacitive sensor)coupled to an electronic assembly(295). ・・・」
〔図14は、本発明を具体化し、電子アセンブリ(295)に結合された容量音響変換器(容量センサとして以下に特定されている)を含む、他の電子聴診器チェストピース(302)の様式化された断面図である。・・・〕

イ.「[0134] Diaphragm assembly 297-301 comprises a thin, relatively stiff membrane portion 301, a rim portion 298, and annular convolutions 299 and 300, as well as extension cup 297.・・・」
(ダイヤフラム部品297-301は、薄く、相対的に堅いメンブレン部301、縁部298、環状窪み部299及び300、並びに拡張カップ297からなる。・・・)

(4)甲第4号証(実開昭58-101609号公報)
ア.「(57)実用新案登録請求の範囲
1 被検診体に接触し該被検診体内部で発生されている鼓動音、呼吸音等の音を音響-電気変換する音響-電気変換器を有する集音部と、該音響-電気変換器より取り出された音声信号を互いに異なる複数の周波数帯別に互いに独立して任意にレベル調整し得る周波数特性補正回路と、該周波数特性補正回路の出力音声信号が供給されこれを電気-音響変換する電気-音響変換器及び/又は該出力音声信号を表示する表示器とより構成した電子式聴診器。」(1頁左欄1?11行。なお、数字に○を付した記号を、数字に( )を付した記号で代用した。)

イ.集音部13は、マイクロホン18が設けられた固定部15と、固定部15に対して相対的に移動可能な可動部14とから構成され、固定部15と可動部14との間にはコイルばね17a,17bが設けられている。(第1図)

(5)甲第5号証(実公昭50-29351号公報)
ア.「(57)実用新案登録請求の範囲
体表面に接触するペロッテと、このペロッテと接触し且つ前記ペロッテの振動を電気信号に変換する板バネと、この板バネを固定するケースと、このケースに固着され前記ペロッテ方向に延在する筒状の蓋体と、この蓋体と螺合し前記ペロッテとの間の高さを調整できるおさえと、このおさえと前記蓋体との間に設けられこの間隙を常に押し開くように作用するフィンガーワッシャーとから成る脈波ピックアップ。」(2頁右欄1?10行。なお、数字に○を付した記号を、数字に( )を付した記号で代用した。)

イ.「脈波ピックアップを上記のような構成とすれば脈波測定時にはおさえ19を調整することによって、その脈波抽出部位に応じてペロッテ11の相対的な高さを変えることができるので、その脈波抽出部位に適した圧力をペロッテ11に加えられる。」(1頁右欄36行?2頁左欄3行)

5.当審の判断
(5-1)本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
ア.甲1発明における「前記静電圧力型電気音響変換器の振動板よりも面積の大きい可撓板と、・・・・前記可撓板を身体に接触させると、身体に沿って該可撓板が変形するが、前記前置空気室内は前記パイプにより外界に通しているため該室内は常に外界と同じ1気圧に保たれ、前記静電圧力型電気音響変換器の振動板は常に一定位置を占めており、心音は、前記可撓板を身体に押当てた状態において前記前置空気室内の空気を媒介として前記静電圧力型電気音響変換器の振動板により感度よく捕捉される・・」によれば、
甲1発明の「可撓板」は、一方の面が検出対象物である身体に接触可能な接触面となり、検出対象物である身体と接触することによって変形するものであって、心音を前置空気室の空気に伝達するものであるといえることから、本件特許発明1でいう「第一振動伝達部」に相当するということができ、
本件特許発明1と甲1発明とは、「一方の面が検出対象物に接触可能な接触面となる第一振動伝達部と」を備える点で一致し、さらに、「前記第一振動伝達部が検出対象物と接触することにより変形する」といえるものである点で共通する。

イ.甲1発明における「振動板を有するコンデンサマイクロホン等の静電圧力型電気音響変換器と」によれば、
甲1発明の「振動板」、コンデンサマイクロホン等の「静電圧力型電気音響変換器」は、それぞれ本件特許発明1でいう「振動部材」、「振動検出素子」に相当し、
本件特許発明1と甲1発明とは、「振動部材を有する振動検出素子と」を備える点において共通する。

ウ.甲1発明における「前記可撓板が前面に張設され、前記静電圧力型電気音響変換器を保持すると共に前記静電圧力型電気音響変換器の振動板の前方に前置空気室を形成する前置ケースと、前記前置空気室内の圧力を外へ逃がすパイプとを備え」によれば、
甲1発明の「前置ケース」は、可撓板を前面に張設することによって保持するとともに、静電圧力型電気音響変換器も保持するものであることから、
本件特許発明1と甲1発明とは、「前記第一振動伝達部と、前記振動検出素子とを保持するケースと」を備える点において共通するといえる。

エ.そして、甲1発明における「心音マイクロホン」は、本件特許発明1でいう「振動検出装置」に相当するものであることは明らかである。

よって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「一方の面が検出対象物に接触可能な接触面となる第一振動伝達部と、
振動部材を有する振動検出素子と、
前記第一振動伝達部と、前記振動検出素子とを保持するケースとを備え、
前記第一振動伝達部が検出対象物と接触することにより変形する、振動検出装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本件特許発明1では、ケースに保持され、「前記第一振動伝達部の他方の面と空気層を介して設けられた第二振動伝達部と」を備え、振動検出素子が有する振動部材は「前記第二振動伝達部の空気層側と反対側の面に当接する」旨特定するのに対し、甲1発明では、このような第二振動伝達部を備えていない点。

[相違点2]
第一振動伝達部が検出対象物と接触することによる変形によって、本件特許発明1では、「前記第一振動伝達部と第二振動伝達部とが当接」する旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
甲2号証には、下部電極を有する基板と、前記基板の上に形成された支持体と、前記支持体によって保持され、前記支持体と接触しておらず弾性波(超音波)を受けることにより変形する第2領域を備え、上部電極を有するメンブレン(振動膜)と、を有し、メンブレン(振動膜)構造の振動によって弾性波(超音波)の送受信を行う弾性波トランスデューサにおいて、当該トランスデューサに与える直流的な初期電位差を大きくすることによって、静電引力により前記メンブレン(振動膜)を前記基板側に引き付けて当該メンブレン(振動膜)の前記第2領域の少なくとも一部を前記基板と接触させ、この接触状態を保持したまま受信を行うコラプスモードで動作させるようにした技術事項が記載(前記「4.(2)」を参照)されている。
しかしながら、上記甲2号証に記載の「メンブレン(振動膜)」、当該メンブレン(振動膜)を有する「弾性波トランスデューサ」は、それぞれ本件特許発明1でいう「振動部材」、「振動検出素子」に相当するというべきものであり、そもそも甲2号証に記載のものは、メンブレン(振動膜)を有する弾性波トランスデューサに加えて、その前方に本件特許発明1でいう「一方の面が検出対象物に接触可能な接触面となる第一振動伝達部」や「前記第一振動伝達部の他方の面と空気層を介して設けられた第二振動伝達部」を備えるものではない。
したがって、甲1発明及び甲2号証に記載の技術事項からは、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

[相違点2]について
上記「[相違点1]について」で検討したとおり、甲1発明及び甲2号証に記載の技術事項から相違点1に係る構成を導き出すことはできないのであるから、当然ながら、甲2号証にメンブレン(振動膜)の少なくとも一部を基板と接触させることが記載されているとしても、「前記第一振動伝達部と第二振動伝達部とが当接」するようにするという相違点2に係る構成を導き出すこともできない。
さらに言えば、甲1発明は、心音を、可撓板を身体に押当てた状態において前置空気室内の空気を媒介として静電圧力型電気音響変換器の振動板により捕捉するようにしたものであって、本件特許発明1のように第一振動伝達部と二振動伝達部とを当接させ、あえて振動を空気層を介さないようして伝達する構成を採用することには技術的に阻害要因があるといえる。

よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5-2)本件特許発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1に従属する請求項であり、本件特許発明2ないし5 は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断(上記「(5-1)(2)」を参照)と同様の理由により、甲1発明及び甲第2ないし5号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5-3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし5は、甲1発明及び甲第2ないし5号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-03 
出願番号 特願2012-38147(P2012-38147)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H04R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 圭一郎  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5733240号(P5733240)
権利者 株式会社JVCケンウッド
発明の名称 振動検出装置  
代理人 家入 健  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ