• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B65G
管理番号 1311883
異議申立番号 異議2015-700362  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-28 
確定日 2016-03-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第5743155号「自動倉庫設備」の請求項1、2及び6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5743155号の請求項1、2及び6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5743155号の請求項1ないし6に係る特許(以下、「請求項1ないし6に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年10月26日に特許出願され、平成27年5月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成27年12月28日に特許異議申立人土田裕介(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
請求項1ないし6に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
荷が載置されたパレットを収納対象の物品として収納する収納部を上下方向及び左右方向に複数並べる状態で備えて構成された物品収納棚と、前記物品収納棚の前面側において前記物品収納棚の棚左右方向に沿って設けられる作業通路を走行自在でかつ物品入庫用の入庫口と前記収納部との間で物品を搬送自在なスタッカークレーンと、前記スタッカークレーンの作動を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記入庫口に位置する物品を入庫する場合に、設定選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択する収納部選択処理、及び、前記収納部選択処理にて選択された収納部に当該物品を入庫すべく前記スタッカークレーンの作動を制御する入庫処理を実行するように構成された自動倉庫設備であって、
前記制御手段が、前記物品収納棚における設定高さより低い位置に位置する収納部を下方側収納部として管理するように構成され、かつ、物品における荷の荷姿についての荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定する荷姿条件判定処理を実行し、入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たさない場合は、前記収納部選択処理において、選択対象の収納部を前記下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択するように構成されている自動倉庫設備。
【請求項2】
入庫対象の物品における荷についての前記荷姿情報を人為操作により入力自在な荷姿情報入力手段が設けられ、
前記制御手段が、前記荷姿情報入力手段から入力された前記荷姿情報に基づいて前記荷姿条件判定処理を実行するように構成されている請求項1記載の自動倉庫設備。
【請求項3】
前記物品における荷をピッキング対象とするピッキング作業を行うピッキング箇所が設けられ、
前記制御手段が、入荷箇所から入荷された物品を入庫対象の物品として前記収納部に入庫する新規入庫作業、前記収納部に収納されている物品をピッキング対象の物品として収納部から出庫する出庫作業、及び、前記ピッキング箇所にて前記ピッキング作業が行われたピッキング対象の物品を入庫対象の物品として前記収納部に入庫する再入庫作業の夫々を行うべく前記スタッカークレーンの作動を制御し、かつ、入庫対象の物品について、ピッキング作業が行われた物品であるピッキング済物品であるか、ピッキング作業が行われていない未ピッキング物品であるかを判別用情報に基づいて判別するピッキング有無判別処理を実行するように構成され、且つ、
前記ピッキング有無判別処理において物品が前記ピッキング済物品であると判別した場合には、前記荷姿条件判定処理において当該入庫対象の物品が前記設定荷姿条件を満たさないと判定するように構成されている請求項1記載の自動倉庫設備。
【請求項4】
荷が載置されたパレットを収納対象の物品として収納する収納部を上下方向及び左右方向に複数並べる状態で備えて構成された物品収納棚と、前記物品収納棚の前面側において前記物品収納棚の棚左右方向に沿って設けられる作業通路を走行自在でかつ物品を入庫する入庫口と前記収納部との間で物品を搬送自在なスタッカークレーンと、前記スタッカークレーンの作動を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記入庫口に位置する物品を入庫する場合に、設定選択条件に基づいて当該物品を収納する収納部を選択する収納部選択処理を実行し、その後、前記収納部選択処理にて選択された収納部に当該物品を入庫すべく前記スタッカークレーンの作動を制御する入庫処理を実行するように構成された自動倉庫設備であって、
前記制御手段が、前記物品収納棚における設定高さより低い位置に位置する下方側収納部と前記設定高さより高い位置に位置する上方側収納部とに区分する形態で前記収納部を管理し、かつ、前記収納部に収納される物品が、前記物品における荷が荷崩れを起こし易い特定物品であるか否かを管理自在に構成され、且つ、
前記特定物品について前記収納部選択処理を実行した場合に前記上方側収納部が選択されたときには、前記入庫処理の実行を保留する特定物品用処理を実行するように構成され、
前記制御手段が、前記特定物品用処理として、前記収納部選択処理において、選択対象の収納部を前記下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて当該特定物品を収納する収納部を選択し、その後、前記特定物品用処理により選択された収納部に当該特定物品を収納すべく、前記入庫処理を実行するように構成されている自動倉庫設備。
【請求項5】
荷が載置されたパレットを収納対象の物品として収納する収納部を上下方向及び左右方向に複数並べる状態で備えて構成された物品収納棚と、前記物品収納棚の前面側において前記物品収納棚の棚左右方向に沿って設けられる作業通路を走行自在でかつ物品を入庫する入庫口と前記収納部との間で物品を搬送自在なスタッカークレーンと、前記スタッカークレーンの作動を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記入庫口に位置する物品を入庫する場合に、設定選択条件に基づいて当該物品を収納する収納部を選択する収納部選択処理を実行し、その後、前記収納部選択処理にて選択された収納部に当該物品を入庫すべく前記スタッカークレーンの作動を制御する入庫処理を実行するように構成された自動倉庫設備であって、
前記制御手段が、前記物品収納棚における設定高さより低い位置に位置する下方側収納部と前記設定高さより高い位置に位置する上方側収納部とに区分する形態で前記収納部を管理し、かつ、前記収納部に収納される物品が、前記物品における荷が荷崩れを起こし易い特定物品であるか否かを管理自在に構成され、且つ、
前記特定物品について前記収納部選択処理を実行した場合に前記上方側収納部が選択されたときには、前記入庫処理の実行を保留する特定物品用処理を実行するように構成され、
作業者に通知情報を通知する通知手段が設けられ、
前記収納部選択処理において、選択対象の収納部を前記下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて当該特定物品を収納する収納部を選択する再選択処理を指令する再選択指令を人為操作によって指令自在な再選択指令手段が設けられ、
前記制御手段が、前記特定物品用処理として、前記収納部選択処理によって前記特定物品について選択された収納部が前記上方側収納部であることを通知手段によって通知するように構成され、かつ、前記再選択指令手段にて再選択指令が指令された場合には、前記再選択処理にて選択された収納部に対して前記入庫処理を実行するように構成されている自動倉庫設備
【請求項6】
前記制御手段が、前記物品収納棚における前記下方側収納部についての物品収納率を管理するように構成され、前記物品収納率が設定収納率以上となった場合には、前記設定高さよりも上方の高さを新たな設定高さとし、その新たな設定高さより低い位置に位置する収納部を前記下方側収納部として管理するように構成されている請求項1?5のいずれか1項に記載の自動倉庫設備。」

3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証(特開2000-351417号公報)、甲第2号証(無人化技術1995年5月号(第36巻第5号)、流通研究社(平成7年5月1日発行)、第24?26ページ、写し)、甲第3号証(特開2007-153527号公報)、甲第4号証(特開平9-216705号公報)、甲第5号証(特開平5-178403号公報)、甲第6号証(特開平2-169402号公報)、甲第7号証(実願昭61-39098号(実開昭62-153207号)のマイクロフィルム)、甲第8号証(特開2005-119787号公報)及び甲第9号証(国際公開第2010/084542号)を提出し、次の理由を主張している。

<理由(その1)(特許法第29条第2項)>
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に示される周知技術及び甲第7ないし9号証に示される周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、便宜上、「理由(その1)」という。)

<理由(その2)(特許法第29条第2項)>
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、甲第3ないし6号証に示される周知の事項及び甲第7ないし9号証に示される周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、便宜上、「理由(その2)」という。)

4.当審の判断
(1)甲第1ないし6号証の記載等
ア.甲第1号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「自動倉庫」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

1a 「【0002】
【従来技術】自動倉庫は、スタッカークレーン等の搬送装置の走行経路の両側等に、例えば一対のラックを構築して、物品を収容するものである。・・・・・中略・・・・・。
【0003】
【発明の課題】この発明の基本的課題は、棚への物品の入庫先の割付によって、地震時に貴重品(重要物)がラックから落下して損傷することを防止することにある(請求項1?3)。請求項2の発明での追加の課題は、そのための具体的な構成を提供し、特に入庫先の割付を行えるようにすることにある。・・・・・中略・・・・・。
【0004】
【発明の構成】この発明は、搬送装置と高さ方向に複数段の棚を有するラックとを備えた自動倉庫において、前記ラックの下部を重要物ゾーンとして、重要物を該ゾーンに入庫するようにしたことを特徴とする。好ましくは、物品の重要度を指定するための手段を設けて、該手段での指定値に従って物品の入庫先を定める。」(段落【0002】ないし【0004】)

1b 「【0016】図2に、棚30にパレット32を介して荷物34が多段に積まれている状態を示す。・・・・・中略・・・・・。」(段落【0016】)

1c 「【0025】
【重要物ゾーン】このようにして構築した自動倉庫2のラック4に対して重要物ゾーンを設け、重要物をラックの下部に収容することにより、地震時の落下を防止する。図7に重要物ゾーン40を示す。42は重要物以外のその他のゾーンで、ラック4に短期出庫ゾーン43等の他の観点からのゾーンを設ける場合、短期出庫ゾーン43内の重要物ゾーン40aとそれ以外の重要物ゾーン40bとをそれぞれラック4の下部に設けるようにする。図6に示したように、ラック4に対する地震時の物品の変位は、ラック4の下半分では小さく、特に下部1/3では無視できるので、重要物ゾーン40は例えばラック4の最下段を含むように構成し、好ましくはラック4の下半分、特に下部1/3の範囲に含まれるように設ける。」(段落【0025】)

1d 「【0026】図7において、44は搬送機器のスタッカークレーン、46は入庫ステーション、48は入庫設定端末で、図示しない自動倉庫制御部(それ自体としては公知の倉庫コンピュータ)と結合されて、入庫に関する設定を行う。また入庫設定端末48は、キーボード等の入力手段と画面とを備えている。50は出庫ステーションである。」(段落【0026】)

1e 「【0027】図8に入庫端末48での入庫設定画面の例を示し、図9に入庫設定のアルゴリズムを示す。入庫設定では、例えば品番を指定すると、それに対応する品名,自動倉庫2への入荷先,1パレット当たりの標準数量,重要物か否か、あるいは重要度のランク、重量物から否か、あるいは重量などのデフォルト値が、自動倉庫制御部の品番ファイルに記憶されており、入庫設定時にここから読み出される。図8の場合、重要物ではなく、かつ軽量物であるとのデフォルト値が表示され、これに対して重要物であると指定すると、ラック4の重要物ゾーン40へ入庫先が指定される。また重量物であると入力すると、同様に重要物ゾーン40へ入庫先が指定される。これらのデータの入力後に確定アイコンにクリックすると、「設定OK」が表示され、取消アイコンにクリックすると、入庫設定作業をやり直すことになる。」(段落【0027】)

(イ)上記(ア)及び図面の記載より分かること

1f 上記(ア)1a、1b及び1c並びに図面によれば、自動倉庫2は、荷物34が積まれたパレット32を収容対象の物品として収容する棚30を高さ方向に複数段有するラック4を備えることが分かる。また、図7において、ラック4の水平長手方向の寸法が、スタッカークレーン44の同方向の寸法の複数倍となっていることを考慮すると、ラック4において水平長手方向に棚30を複数列有していることは明らかである。

1g 上記(ア)1a、1c及び1d並びに図面を上記(イ)1fとあわせてみると、自動倉庫2は、ラック4の棚30に対して物品を出し入れする側に面して、ラック4の水平長手方向に沿って設けられる走行経路を走行し、入庫ステーション46と棚30との間で物品を搬送するスタッカークレーン44を備えることが分かる。

1h 上記(ア)1c及び1d並びに図面を上記(イ)1f及び1gとあわせてみると、自動倉庫2は、自動倉庫制御部と結合されて、入庫ステーション46から棚30に物品を入庫するための入庫設定を行う入庫設定端末48を備えることが分かる。ここで、自動倉庫の制御部において、物品の入庫設定に基づきスタッカークレーンの作動を制御することは本件出願の出願前に技術常識であることを考慮すると、自動倉庫制御部が、入庫ステーション46から棚30に物品を入庫するための入庫設定端末48での入庫設定に基づいて、スタッカークレーン44の作動を制御するものであることは明らかである。

1i 上記(ア)1a、1c、1d及び1e並びに図面を上記(イ)1g及び1hとあわせてみると、自動倉庫制御部は、入庫ステーション46から棚30に物品を入庫する場合に、入庫対象の物品について入庫設定端末48での入庫設定において入力されたデータに基づいて、棚30への物品の入庫先を指定する入庫先の割付、及び、入庫先の割付にて指定された入庫先である棚30に当該物品を入庫するための処理を実行するものであることが分かる。ここで、入庫先の割付にて指定された入庫先である棚30に当該物品を入庫するための処理が、スタッカークレーン44の作動を制御することを含むことは明らかである。してみると、自動倉庫制御部は、入庫ステーション46から棚30に物品を入庫する場合に、入庫対象の物品について入庫設定端末48での入庫設定において入力されたデータに基づいて、棚30への物品の入庫先を指定する入庫先の割付、及び、入庫先の割付にて指定された入庫先である棚30に当該物品を入庫するための、スタッカークレーン44の作動を制御することを含む処理を実行するものであることが分かる。

1j 上記(ア)1c及び1e並びに図面によれば、自動倉庫制御部は、ラック4の最下段を含むように構成し、好ましくはラック4の下半分、特に下部1/3の範囲に含まれるようにラック4の下部に重要物ゾーン40を設け、物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて、入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40へ入庫先を指定するものであることが分かる。ここで、入庫対象の物品の具体的な入庫先が個別の棚30であることもあわせてみると、重要物ゾーン40に位置する棚30へ重要物又は重量物の入庫先が指定されることとなり、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40に位置する棚30へ当該物品の入庫先が指定されることになるのは明らかである。してみると、自動倉庫制御部は、ラック4の最下段を含むように構成し、好ましくはラック4の下半分、特に下部1/3の範囲に含まれるようにラック4の下部に設けられた重要物ゾーン40に位置する棚30へ重要物又は重量物の入庫先を指定するものとし、物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40に位置する棚30へ当該物品の入庫先を指定するものであることが分かる。

(ウ)甲第1号証記載発明
上記(ア)及び(イ)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証記載発明」という。)が記載されている。

「荷物34が積まれたパレット32を収容対象の物品として収容する棚30を高さ方向に複数段及び水平長手方向に複数列有するラック4と、ラック4の棚30に対して物品を出し入れする側に面してラック4の水平長手方向に沿って設けられる走行経路を走行し、入庫ステーション46と棚30との間で物品を搬送するスタッカークレーン44と、スタッカークレーン44の作動を制御する自動倉庫制御部とが設けられ、
前記自動倉庫制御部が、入庫ステーション46から棚30に物品を入庫する場合に、入庫対象の物品について入庫設定端末48での入庫設定において入力されたデータに基づいて、棚30への物品の入庫先を指定する入庫先の割付、及び、入庫先の割付にて指定された入庫先である棚30に当該物品を入庫するための、スタッカークレーン44の作動を制御することを含む処理を実行する自動倉庫2であって、
前記自動倉庫制御部が、ラック4の最下段を含むように構成し、好ましくはラック4の下半分、特に下部1/3の範囲に含まれるようにラック4の下部に設けられた重要物ゾーン40に位置する棚30へ重要物又は重量物の入庫先を指定するものとし、物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40に位置する棚30へ当該物品の入庫先を指定する自動倉庫2。」

イ.甲第2号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「阪神大震災の被害からみた立体自動倉庫の耐震性」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

2a 「調査対象のほとんど全てで立体自動倉庫からの荷の落下が発生した。現象を整理すると
(1)3,4段より上の段からの落下が多い(図-2)。
・・・・・中略・・・・・
(3)当然ながら棒積みや嵩高品の荷は相対的に荷崩れ落下が多い。」(第25ページ右欄第18行目ないし第26ページ左欄第3行目(空行は数えない。以下、同様。))

2b 「・・・・・中略・・・・・なお、不安定な荷の保管エリアを限定するなどの運用面での工夫は,従来から行われている。」(第26ページ右欄第11ないし13行目)

ウ.甲第3号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、「物品収納棚」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

3a 「・・・・・中略・・・・・地震等により物品収納棚が揺れる際は、上方側の物品収納部は大きく揺れるものの下方側の物品収納部は大きく揺れないものである。・・・・・中略・・・・・。」(段落【0007】)

エ.甲第4号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、「自動倉庫の入庫管理システム」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

4a 「【0018】前記格納棚10A、10Bの各棚部11は、図2に示すように、底面寸法が同一で高さ寸法が異なるように設定したA部、B部に区分されている。即ち、A部の各棚部11の高さをh1、B部の各棚部11の高さをh2とするとき、h1<h2の関係に設定している。」(段落【0018】)

オ.甲第5号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、「自動倉庫の入庫管理方法」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

5a 「・・・・・中略・・・・・自動倉庫において、前記物品が入庫されるに際し、重量の小さい物品ほど高いゾーンに位置する収納部に収納するようにしたことをその要旨とする。
【0009】
【作用】上記の構成によれば、物品が入庫されるに際し、重量の小さい物品ほど高いゾーンに位置する収納部に収納される。従って、重量の大きい物品は低いゾーンに位置する収納部に収納され、棚全体のバランスが保たれる。・・・・・中略・・・・・。」(段落【0008】及び【0009】)

5b 「・・・・・中略・・・・・別途に認識してある物品の重量に基づき、前記ゾーンα,β,γのうち適切なゾーンを認定する。すなわち、所定値a以上の重量を有する物品(高重量物品)は第1ゾーンαに、所定値b以上で所定値a未満の重量を有する物品(中重量物品)は第2ゾーンβに、そして、所定値b未満の重量を有する物品(軽重量物品)は第3ゾーンγに認定される。」(段落【0017】)

カ.甲第6号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、「自動倉庫」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

6a 「・・・・・中略・・・・・最上段の荷受け部5への大きな荷6の昇降の際、この荷6がパレット上に小物を積み重ねて構成されている場合など、昇降キャレッジ3の振動により荷くずれを生じ易いという問題があった。」(第2ページ左上欄第18行目ないし同ページ右上欄第2行目)

6b 「前記ラックの下段部を大きな荷が収納可能な単数あるいは複数の荷受け部、上段部を小さな荷を収納する単数あるいは複数の荷受け部で構成し、」(第2ページ右上欄第14ないし16行目)

(2)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲第1号証記載発明を対比する。

甲第1号証記載発明における「荷物34が積まれたパレット32」、「収容」、「物品」、「棚30」、「高さ方向に複数段及び水平長手方向に複数列有する」、「ラック4」、「ラック4の棚30に対して物品を出し入れする側に面してラック4の水平長手方向に沿って設けられる走行経路」、「走行し」、「入庫ステーション46」、「搬送する」、「スタッカークレーン44」、「作動」、「制御する」、「自動倉庫制御部」、「入庫先の割付」及び「自動倉庫2」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明1における「荷が載置されたパレット」、「収納」、「物品」、「収納部」、「上下方向及び左右方向に複数並べる状態で備えて構成された」、「物品収納棚」、「物品収納棚の前面側において物品収納棚の棚左右方向に沿って設けられる作業通路」、「走行自在で」、「物品入庫用の入庫口」、「搬送自在な」、「スタッカークレーン」、「作動」、「制御する」、「制御手段」、「収納部選択処理」及び「自動倉庫設備」に相当する。

ここで、前述の相当関係を踏まえると、甲第1号証記載発明における「入庫ステーション46から棚30に物品を入庫する場合に」、「入庫対象の物品について入庫設定端末48での入庫設定において入力されたデータ」、「棚30への物品の入庫先を指定する入庫先の割付」及び「入庫先の割付にて指定された入庫先である棚30に当該物品を入庫するための、スタッカークレーン44の作動を制御することを含む処理を実行する」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明1における「入庫口に位置する物品を入庫する場合に」、「設定選択条件」、「当該物品を収納する収納部を選択する収納部選択処理」及び「収納部選択処理にて選択された収納部に当該物品を入庫すべく前記スタッカークレーンの作動を制御する入庫処理を実行するように構成された」に相当する。

そして、前述の相当関係を踏まえると、甲第1号証記載発明における「ラック4の最下段を含むように構成し、好ましくはラック4の下半分、特に下部1/3の範囲に含まれるようにラック4の下部に設けられた重要物ゾーン40に位置する棚30へ重要物又は重量物の入庫先を指定するものとし」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本件発明1における「物品収納棚における設定高さより低い位置に位置する収納部を下方側収納部として管理するように構成され」に相当する。

さらに、前述の相当関係を踏まえると、甲第1号証記載発明における「物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40に位置する棚30へ当該物品の入庫先を指定する」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本件発明1における「物品における荷の荷姿についての荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定する荷姿条件判定処理を実行し、入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たさない場合は、収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択するように構成されている」に、「収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、物品を収納する収納部を選択するように構成されている」という限りにおいて、相当する。

したがって、本件発明1と甲第1号証記載発明とは、次の点で一致する。
「荷が載置されたパレットを収納対象の物品として収納する収納部を上下方向及び左右方向に複数並べる状態で備えて構成された物品収納棚と、前記物品収納棚の前面側において前記物品収納棚の棚左右方向に沿って設けられる作業通路を走行自在でかつ物品入庫用の入庫口と前記収納部との間で物品を搬送自在なスタッカークレーンと、前記スタッカークレーンの作動を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記入庫口に位置する物品を入庫する場合に、設定選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択する収納部選択処理、及び、前記収納部選択処理にて選択された収納部に当該物品を入庫すべく前記スタッカークレーンの作動を制御する入庫処理を実行するように構成された自動倉庫設備であって、
前記制御手段が、前記物品収納棚における設定高さより低い位置に位置する収納部を下方側収納部として管理するように構成され、かつ、収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、物品を収納する収納部を選択するように構成されている自動倉庫設備。」

そして、次の点で相違する。
<相違点>
「収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、物品を収納する収納部を選択するように構成されている」ことに関し、本件発明1においては、「物品における荷の荷姿についての荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定する荷姿条件判定処理を実行し、入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たさない場合は、収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択するように構成されている」のに対して、甲第1号証記載発明においては、「物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合は、入庫先の割付において、重要物ゾーン40に位置する棚30へ当該物品の入庫先を指定する」点(以下、「相違点」という。)。

イ.判断
(ア)理由(その1)について
理由(その1)について検討する。

上記相違点の判断にあたり、まず、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項である「物品における荷の荷姿についての荷姿情報」について検討する。
本件出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】には、「上記設定荷姿条件として、物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿であるか、荷崩れを起こし難い荷姿であるかを荷姿情報とし、その荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定するようにすることによって」と記載されている。(当審注:下線は当審において理解の一助とするために付した。)
この点を踏まえると、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項である「物品における荷の荷姿情報」とは、「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿であるか、荷崩れを起こし難い荷姿であるか」についての情報であると解される。

特許異議申立人は、本件発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかし、甲第2号証には、「3,4段より上の段からの落下が多い」こと、「棒積みや嵩高品の荷は相対的に荷崩れ落下が多い」こと、及び「不安定な荷の保管エリアを限定するなどの運用面での工夫は,従来から行われている」こと(以下、「甲第2号証の各記載事項」という。)が、それぞれ記載されているにすぎない。
ここで、特許異議申立人が主張するように、「甲第2号証のこれらの記載事項から、物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿である場合、或いは物品における荷が荷崩れを起こし易い性質である場合に、当該物品の収納先として荷崩れ落下のリスクが少ない下方側の収納部を選択することは、当業者であればごく自然に思いつく事項」であるといえるとしても、それぞれ独立に記載された甲第2号証の各記載事項には記載も示唆もされていない、「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿である場合、或いは物品における荷が荷崩れを起こし易い性質である場合に、当該物品の収納先として荷崩れ落下のリスクが少ない下方側の収納部を選択すること」が、当該技術分野における周知技術であるとまでいうことはできない。

してみると、「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿であるか、荷崩れを起こし難い荷姿であるか」についての「荷姿情報」に着目し、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項である「物品における荷の荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定する荷姿条件判定処理を実行し、入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たさない場合は、収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択する」ことは、甲第2号証には記載されていない。

以下、仮に、「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿である場合、或いは物品における荷が荷崩れを起こし易い性質である場合に、当該物品の収納先として荷崩れ落下のリスクが少ない下方側の収納部を選択すること」が周知技術であるとして検討する。

特許異議申立人は、「物品における荷の荷姿についての荷姿情報」に関連して、次のとおり主張している。

「・・・・・中略・・・・・段落0083記載の物品の属性情報は、物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿である特定物品であるか否かを示す情報であり、その内容からして、物品における荷の荷姿についての荷姿情報の一態様であると解し得る。
以上のことから、本件特許発明1における荷姿条件判定処理には、入庫対象の物品(或いは入庫対象の物品における荷)の属性に基づいて、当該入庫対象の物品の収納先を選択する態様が含まれているといえる。一方、甲1発明も、入庫対象の物品の属性(重要物であるか否か)に基づいて当該入庫対象の物品の収納先を選択するものである」(特許異議申立書第14ページ第20ないし27行目。なお、下線は特許異議申立人による。)

しかし、かかる主張を認めるとしても、甲第1号証記載発明は、「物品が重要物か否か又は重量物か否かのデータに基づいて入庫対象の物品が重要物であるか否か又は重量物であるか否かを判定し、入庫対象の物品が重要物又は重量物である場合」に「入庫先を指定する」技術であって、甲第1号証記載発明に対し、判定すべき入庫対象の物品の属性(重要物であるか否か)と直接の関連性がない、周知技術であると仮定した「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿である場合、或いは物品における荷が荷崩れを起こし易い性質である場合に、当該物品の収納先として荷崩れ落下のリスクが少ない下方側の収納部を選択すること」をあえて適用する動機付けが存在するともいえない。

してみると、「本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」(特許異議申立書第16ページ第1及び2行目)とする特許異議申立人の主張は採用することはできない。

したがって、甲第1号証記載発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者にとって容易であったとはいえない。

(イ)理由(その2)について
また、理由(その2)について検討すると、特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。しかしながら、「物品における荷が荷崩れを起こし易い荷姿であるか、荷崩れを起こし難い荷姿であるか」についての「荷姿情報」に着目し、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項である「物品における荷の荷姿情報に基づいて入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たすか否かを判定する荷姿条件判定処理を実行し、入庫対象の物品が設定荷姿条件を満たさない場合は、収納部選択処理において、選択対象の収納部を下方側収納部に制限した制限選択条件に基づいて、当該物品を収納する収納部を選択する」ことは、甲第3ないし6号証のいずれにも記載も示唆もされていない。

ここで、特許異議申立人は、本件発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点について、甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づき「当業者にとって適宜なし得る設計的事項に過ぎない」(特許異議申立書第16ページ第24及び25行目)と主張するが、甲第3ないし6号証のいずれにも上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項が記載も示唆もされていないことを踏まえると、かかる主張は具体的な根拠に乏しいものであるといわざるを得ず、採用することはできない。

したがって、甲第1号証記載発明及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づいて上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者にとって容易であったともいえない。

ウ.まとめ
したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証記載発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、また、当業者が甲第1号証記載発明及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2及び6について
請求項2及び6は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明2及び6は、本件発明1をさらに限定したものである。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様に、当業者が甲第1号証記載発明及び甲第2号証に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、当業者が甲第1号証記載発明及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。同様に、本件発明6も、当業者が甲第1号証記載発明、甲第2号証に示される周知技術及び甲第7ないし9号証に示される周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、当業者が甲第1号証記載発明及び甲第3ないし6号証に示される周知の事項及び甲第7ないし9号証に示される周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

5.結語
上記4.のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-03 
出願番号 特願2011-235220(P2011-235220)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B65G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 八板 直人  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
嶋田 研司
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5743155号(P5743155)
権利者 株式会社ダイフク
発明の名称 自動倉庫設備  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 北村 修一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ