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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1312215
審判番号 不服2015-9009  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-14 
確定日 2016-03-07 
事件の表示 特願2011- 75735「化粧板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月25日出願公開、特開2012-206473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年3月30日の出願であって、平成26年10月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年12月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月13日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、平成27年5月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.平成26年12月9日付けの手続補正の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について
(1)本願発明は、以下のとおりのものである。
「メラミン樹脂含浸紙と、樹脂含浸紙コア紙と、熱圧着可能なアクリルフィルムとからなり、前記アクリルフィルムが、ポリメチルメタクリレート(PMMA)とフッ素樹脂との共押し出しであり、前記アクリルフィルムのPMMA側をメラミン樹脂含浸紙に当接させて、前記メラミン樹脂含浸紙と前記アクリルフィルムとを接着剤を介することなく積層し、熱圧成形してなることを特徴とする化粧板。」

(2)引用文献記載の発明及び技術的事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、特公昭39-344号公報(以下、原査定と同じく「引用文献1」という。)には、「装飾的積層物」(発明の名称)について、以下の技術的事項及び発明が記載されている。
(ア)「本発明は新規独特の熱および圧縮で固結した装飾的積層物に関するものであり、またかかる物品の製法に関するものである。もつと詳しくいえば本発明は新規な、熱および圧力で固結し、熱硬化性樹脂で結着した装飾的多重積層物であつて最上部の装飾面がメタクル酸メチル重合体の実質的に非多孔性層より成る特に戸外用に適するものに関する。」(1頁左欄下から16行?9行)
(イ)「この種の積層物の装飾面、特に横に平でなければならない面として使用される積層物の装飾面は通常すり減るまでも使い古されるものである。これらの表面に見た目の良さを損うことなしになおもつと耐久性を附与するには、従来からよく行われていることであるが、積層物中の最上層の構成部分として透明な表紙、あるいは時には保護用きせ紙と呼ばれるものを使つたこの種の積層物がつくられる。」(1頁右欄5?13行)
(ウ)「従来公知の技術において、一般によく保護用きせ紙の含浸に用いられているアミノトリアジン-アルデヒド樹脂、特にメラミン-ホルマルデヒド樹脂は各種の高圧熱硬化積層物の装飾面に対して堅さ、透明性および耐久性を与える点で全くこの種のものとして適していることがしばしばいわれている。しかしながら戸外用積層物の場合には、このことは部分的に真実でしかないこと、およそ積層物の装飾面特にそのプリント紙の部分を戸内使用時においては常に見られる摩耗作用から十分に保護するに足るだけの厚さの樹脂層になるようにたつぷりメラミンホルマルデヒド樹脂の使用されたきせ紙を用いてつくつた積層物ですらも戸外条件に曝露すると急速に劣化する。すなわちそれらは小さなひびが入つたり割れたりするばかりでなく、ついにはくもつてきて完全に不透明にすらなるものであることが経験上判明している。」(1頁右欄下から6行?2頁左欄11行)
(エ)「我々の新規な積層物をつくる際の積層技術は在来から行われている通りのものである。プリント紙および台紙または中核紙を構成している紙層は最初浸漬法、ロール掛け法、噴霧法などの方法によつてそれぞれの樹脂の溶液あるいは分散液により含浸される。一たんこれらの紙層が含浸されたら、温度を上げて乾燥するが、そのためには加熱空気を送り込む乾燥炉、赤外線加熱法などを用いて揮発性成分の含有量が所望の量になるまで・・・・乾燥を行なう。プリント紙と台紙または中核紙は次ぎにメタクリル酸メチル重合体の実質的非多孔性層と一しよにして積層プレス板の間に重ね合わされる。・・・・熱および圧力をかけて固結させ、単一な装飾用構造物に仕上げる。台紙または中核紙に直接結着しているプリント紙へさらにまた直接単一な実質的非多孔性ポリメチルメタクリレート層が結着してできている積層物以外に台紙または中核紙の両面にプリント紙と着せ紙とを結着してできている体裁のよい積層物もまたつくられる。」(5頁右欄16行?下から2行)
(オ)「使用される温度は約130ないし160℃で、好ましくは約135ないし150℃であり、また圧力は約300ないし1500P.S.i(21?105Kg/cm^(2))、好ましくは約800ないし1400P.S.i(56?98Kg/cm^(2))である。温度および圧力を上記の範囲内に保つてプリント紙と台紙または中核紙の熱硬化性樹脂成分を実質的完全に硬化させ、また実質的非多孔性重合体層をプリント紙と結着させるために要する時間は通常約15分ないし25分である。得られる積層物はその実質的非多孔性着せ紙が少なくとも熱によつてゆがめられる温度以下に放冷され、好ましくは約50℃以下の温度にまで放冷されてからプレスの中から取り出される。」(5頁右欄下から1行?6頁左欄12行)
(カ)「実施例1
市販品の噴霧乾燥メラミン-ホルマルデヒド樹脂(ホルマルデヒド:メラミンのモル比が2:1)の所要量を95%の水および5%のイソプロパノールの混液に溶解し樹脂固形分含量50%の樹脂シロツプをつくつた。
市販α-セルローズプリント紙で厚さ1000分の5インチ(0.13mm)、木目印刷したもの1枚をメラミンホルマルデヒド樹脂シロツプ中に浸して樹脂含量42%になるように含浸し、ついで揮発性分4.3%になるまで炉中乾燥を行つた。
各、厚さ1000分の10インチ(0.25mm)で樹脂含量が30%、揮発性分7.7%の標準フエノール樹脂含浸の中核紙5枚からなる台紙の上に乾燥した含浸プリント紙を先ず載せて積層材料1組をつくる。次にこのプリント紙の上へさらに、ダイヤコンLO(Diakon LO)ポリメチルメタクリレートから平坦押出法でつくられた厚さ1000分の5インチ(0.13mm)のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層をかぶせる。ついでこの組合わせたもの全体を鏡面仕上げに研摩された一対のステンレススチールプレス板の間に挿んで140℃の温度、1100P.S.iの圧力(77Kg/cm^(2))の下で15分間積層化する。得られた積層物は室温まで放冷してから、プレスより取出す。このものは平滑で光沢ある装飾面を持つていた。」(6頁左欄20行?下から1行)

以上より、引用文献1には、
「厚さ1000分の10インチ(0.25mm)で樹脂含量が30%、揮発性分7.7%の標準フエノール樹脂含浸の中核紙5枚からなる台紙の上に、市販α-セルローズプリント紙で厚さ1000分の5インチ(0.13mm)、木目印刷したもの1枚をメラミンホルマルデヒド樹脂シロツプ中に浸して樹脂含量42%になるように含浸し、ついで揮発性分4.3%になるまで炉中乾燥させた含浸プリント紙を載せ、このプリント紙の上へさらにダイヤコンLO(Diakon LO)ポリメチルメタクリレートから平坦押出法でつくられた厚さ1000分の5インチ(0.13mm)のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層をかぶせ、この組合わせたもの全体を鏡面仕上げに研摩された一対のステンレススチールプレス板の間に挿んで140℃の温度、1100P.S.iの圧力(77Kg/cm^(2))の下で15分間積層化した、装飾的積層物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、特開平6-80794号公報(以下、原査定と同じく「引用文献3」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。
(ア)「【従来の技術】PVDF樹脂は溶融成形が可能であり、しかも耐食性(耐溶剤性)や耐紫外線性に優れるところから簡易倉庫のテントやトラック用幌布等の膜構造体の表面保護用フィルムとして、また電照式看板や主として屋外に設置される機器、装備類の外装フィルムやステッカー、マーキングフィルムの保護用フィルムとして広く使用されるようになって来た。
表面保護用フィルムは各種基材の表面に接着外装されて使用される。そのために長期間使用中に剥離の生じない接着性と基材の表面に施した印刷文字や文様などが充分よく見える程度の透明性が求められるものである。・・・・」(段落【0002】?【0003】)
(イ)「ところでPVDF樹脂はフッ素系樹脂以外の他系樹脂のほとんどの樹脂に対して相溶性、親和性に乏しく、これがPVDF樹脂成形物を他樹脂成形物に接着させて使用しようとする上で解決しなければならない難点のひとつであった。」(段落【0004】)
(ウ)「上記の製法発明で得られる本発明のPVDF樹脂フィルムは、PVDF樹脂の単層フィルムであってもよいが、好ましくはPVDF樹脂層を一外層とする他の熱可塑性樹脂との多層フィルムである。・・・・
本発明のフィルムを構成するPVDF樹脂としては、フッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデンを構成単位として70モル%以上含有する共重合体、さらにこれら重合体の混合物であってもよい。フッ化ビニリデンと共重合されるモノマーとしては、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニルなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらPVDF樹脂は、その融点が146℃から178℃の範囲にあるが、本発明のフィルムを構成するPVDF樹脂はフィルムの状態で基材の膜構造物などに熱ロールなどの手段でラミネートされる場合も多くあり、その際ラミネートロールへの粘着など製品外観を損なう現象を避けるため、融点が165℃以上、好ましくは170℃以上、さらに好ましくは175℃以上のものを用いることが望ましい。・・・・」(段落【0018】?【0019】)
(エ)「また本発明の多層フィルムを構成する他の熱可塑性樹脂としては、通常透明性の良好な非晶性樹脂が用いられる。このような非晶性樹脂としては、PMMA系樹脂や塩化ビニル樹脂が例示される。PMMA系樹脂としては、メタクリル酸メチル単独重合体のほか、メタクリル酸メチル単量体を構成単位として50モル%以上とアクリル酸エステル、あるいはメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステルを50モル%未満含有する共重合、さらにこれら重合体の2種以上の混合物などを例示することができる。・・・・
さらに上記PMMA系樹脂としてPMMA系樹脂とPVDF樹脂との混合物を挙げることができる。両者の混合重量比(PMMA系樹脂/PVDF樹脂)としては、15/85?75/25の範囲にあるものがPVDF樹脂層に対する接着性に優れると共に他の樹脂や基材との接着性が良好であることから特に好ましい。」(段落【0020】?【0021】)
(オ)「本発明で提供される多層フィルムを表面保護用フィルムとして用いる際には、各種基材との接着性を考慮して表面層にPVDF樹脂層を、接着層としてPMMA樹脂系樹脂層を、あるいはさらにその外側に塩化ビニル樹脂層を用いることが好ましく、とくにPVDF樹脂層/PMMA系樹脂層からなるもの、あるいはPVDF樹脂層/PMMA系樹脂層/塩化ビニル樹脂層の順に層構成されているものが好ましい。」(段落【0022】)
(カ)「(実施例1?9,比較例1?2)PVDF樹脂用40mmΦ、L/D=22の押出機とPMMA樹脂用90mmΦ、L/D=26の押出機を用い、PVDF樹脂として呉羽化学工業(株)製KF-1000、PMMA樹脂として三菱レイヨン(株)製HBS001を溶融押出しし、巾1700mmのTダイにて両方の樹脂流を積層合流して二層積層シートを成形した。Tダイのリップクリアランスは0.6mmとした。またダイ温度Tdは240℃とし、ダイ直下に冷却槽を置き、冷媒のレベルを変化させ種々の2層フィルムを製作した。・・・・」(段落【0024】)
(キ)「【発明の効果】本発明により透明性に優れるPVDF樹脂フィルムおよびPVDF樹脂を一外層とする多層フィルムが提供され、これらは透明性、耐食性、さらには耐紫外線性に優れる表面保護用フィルムとして用いることが出来る。」(段落【0032】)

(3)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「含浸プリント紙」は、「市販α-セルローズプリント紙で厚さ1000分の5インチ(0.13mm)、木目印刷したもの1枚をメラミンホルマルデヒド樹脂シロツプ中に浸して樹脂含量42%になるように含浸し、ついで揮発性分4.3%になるまで炉中乾燥させた」ものであり、一方、本願発明の「メラミン樹脂含浸紙」は、本願明細書(段落【0009】)によれば「化粧板用の化粧紙にメラミン-ホルムアルデヒド樹脂を含浸、乾燥したもの」であるから、引用発明の「含浸プリント紙」は、本願発明の「メラミン樹脂含浸紙」に相当し、
引用発明の「台紙」は、「厚さ1000分の10インチ(0.25mm)で樹脂含量が30%、揮発性分7.7%の標準フエノール樹脂含浸の中核紙5枚からなる」一方、本願発明の「樹脂含浸紙コア紙」は、本願明細書(段落【0010】)によれば「化粧板用のコア紙、例えばクラフト紙、不織布、織布、にフェノール-ホルムアルデヒド樹脂やメラミン-ホルムアルデヒド樹脂或はこれらの混合物を主成分とする樹脂液や、これらの樹脂をバインダー成分として無機充填材、例えば水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムを含むスラリーを含浸、乾燥したもの」であるから、引用発明の「台紙」は、本願発明の「樹脂含浸紙コア紙」に相当する。

イ また、引用発明の「ポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層」は、「ダイヤコンLO(Diakon LO)ポリメチルメタクリレートから平坦押出法でつくられた厚さ1000分の5インチ(0.13mm)」の層であり、「含浸プリント紙」と「台紙」とともに「鏡面仕上げに研摩された一対のステンレススチールプレス板の間に挿んで140℃の温度、1100P.S.iの圧力(77Kg/cm^(2))の下で15分間積層化」されるものであり、加熱・加圧されて下層の「含浸プリント紙」に積層化されるものであるから、「熱圧着可能」であるといえ、本願明細書(段落【0007】)によれば「本発明に係わるアクリルフィルムは、アクリル樹脂をベースとする透明なラミネートフィルムで、メラミン樹脂含浸紙と熱圧着が容易なようにアクリル樹脂にはポリメチルメタクリレート(PMMA)が用いられ」ることからみて、引用発明の「ポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層」は、本願発明の「アクリルフィルム」に相当する。

ウ さらに、前記2.(2)ア(オ)に摘記した引用文献1の「温度および圧力を上記の範囲内に保つてプリント紙と台紙または中核紙の熱硬化性樹脂成分を実質的完全に硬化させ、また実質的非多孔性重合体層をプリント紙と結着させるために要する時間は通常約15分ないし25分である。」との記載、前記2.(2)ア(カ)に摘記した引用文献1の「次にこのプリント紙の上へさらに、ダイヤコンLO(Diakon LO)ポリメチルメタクリレートから平坦押出法でつくられた厚さ1000分の5インチ(0.13mm)のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層をかぶせる。」の記載からみて、引用発明の「含浸プリント紙」と「ポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層」とは、接着剤を介することなく積層されるものといえる。

エ そして、引用発明の「装飾的積層物」は、「標準フエノール樹脂含浸の中核紙5枚からなる台紙」と、装飾のために木目印刷がされた「含浸プリント紙」と、「厚さ1000分の5インチ(0.13mm)のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層」を積層して、「この組合わせたもの全体を鏡面仕上げに研摩された一対のステンレススチールプレス板の間に挿んで140℃の温度、1100P.S.iの圧力(77Kg/cm^(2)(当審注:約7.6MPaに相当))の下で15分間積層化した」ものであるところ、本願明細書の実施例の記載(段落【0017】)によれば、本願発明の「化粧板」は、「下から順に、メラミン樹脂含浸紙を1枚、樹脂含浸コア紙を5枚、メラミン樹脂含浸紙を1枚、アクリルフィルム(A)のPMMA側がメラミン樹脂含浸紙に当接するように積層し、温度140℃、圧力10MPa、時間60分の条件で熱圧成形」することにより製造されるものであるから、引用発明の「装飾的積層物」は、積層した「台紙」、「含浸プリント紙」及び「ポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層」を熱圧成形したものであり、本願発明の「化粧板」に相当するものといえる。

オ そうすると、本願発明と引用発明は、
「メラミン樹脂含浸紙と、樹脂含浸紙コア紙と、熱圧着可能なアクリルフィルムとからなり、前記アクリルフィルムをメラミン樹脂含浸紙に当接させて、前記メラミン樹脂含浸紙と前記アクリルフィルムとを接着剤を介することなく積層し、熱圧成形してなることを特徴とする化粧板。」で一致し、以下の点で相違する。

《相違点》
メラミン樹脂含浸紙に当接させるアクリルフィルムについて、本願発明が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)とフッ素樹脂との共押し出しであり、アクリルフィルムのPMMA側をメラミン樹脂含浸紙に当接させるのに対し、引用発明は、ポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層を、メラミン樹脂を含浸させた「含浸プリント紙」にかぶせたものである点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
一般に、樹脂材料は、戸外で日光に晒すと劣化がすすむため、日光の当たる最上面に、耐紫外線性の優れた材料であるPVDF(フッ化ビニリデン)樹脂フィルムからなる層を、表面保護用フィルムとして被覆することが広く行われている(引用文献3(前記2.(2)イ(ア)))。
また、引用文献3には、フッ素樹脂フィルムであるPVDF樹脂フィルムを、フッ素系樹脂以外の他系樹脂の基材に取り付けやすくする課題(前記2.(2)イ(イ))のために、PVDF樹脂とポリメチルメタクリレート(PMMA)とをTダイにて押し出し、積層合流(共押し出し)させて2層フィルムを作成し(前記2.(2)イ(カ))、作成した2層フィルムのPMMA側を接着層として、基材に積層し(前記2.(2)イ(オ))、それらを熱ロールなどの手段により熱圧成形すること(前記2.(2)イ(ウ))が記載されている。
そして、引用発明のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層が、下地の装飾面の見た目の良さを損なうことがないように、透明に構成されて積層されるのと同様に、引用文献3の表面保護用フィルムも、基材表面に接着外装され、基材表面に施した印刷文字や文様などが充分よく見える程度の透明性が求められるものである(前記2.(2)イ(ア))。
引用発明の装飾的積層物は、本願発明の「化粧板」と同様(本願明細書段落【0006】)、戸外(屋外)での使用も想定されるところ(前記2.(2)ア(ア))、装飾的積層物の装飾面である「含浸プリント紙」の劣化を防ぐために、耐紫外線性の優れた材料であるPVDF樹脂からなるフッ素樹脂フィルムを最上面に被覆することは、容易に想到し得るものであり、被覆するにあたり、引用発明のポリメチルメタクリレートの実質的非多孔性層に換えて、引用文献3に記載されるように、PVDF樹脂とポリメチルメタクリレート(PMMA)とを共押し出しして作成した2層フィルムとし、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を接着層として熱圧成形することは、当業者が容易に成し得たものである。

請求人は、審判請求書(「3.引用文献との対比」)において、
「引用文献3には、本願実施例における経時での耐光性向上に相当する効果が開示されています。本願実施例における評価結果において、フィルムを積層した実施例の方が、フィルムを積層していない比較例よりも、耐光性に優れる結果となっています。当該効果は、耐光性試験におけるUV照射について、フィルムを積層することにより、耐光性が向上するという、一般的な技術常識から導かれる結果といえます。
その一方で、製造時の高温高圧条件の耐性ともいえる、本願実施例における鮮明性及び鏡面性に関する効果は、引用文献には開示されておらず、また技術常識から予想される結果であるともいえません。」と主張している。
ここで、本願明細書の実施例1?6及び比較例の実験結果をまとめた表1を参照すると、PMMA樹脂とPBA樹脂を共押し出しして形成したアクリルフィルムをメラミン含浸紙に熱圧成形した実施例、及び、PMMA樹脂とPVDF樹脂を共押し出しして形成したアクリルフィルムをメラミン含浸紙に熱圧成形した実施例のいずれも、アクリルフィルムを装飾面であるメラミン樹脂含浸紙に積層しない比較例と比べて、鮮明性及び鏡面性が良好であるとの結果が示されている。このことからすると、鮮明性及び鏡面性の改善という効果は、装飾面であるメラミン樹脂含浸紙表面に、保護のためのフィルムを積層して熱圧成形したこと自体によるものと理解できる。
一方、引用文献1の装飾的積層物も、装飾面である含浸プリント紙表面に、透明なアクリルフィルムを積層するものであり、熱圧成形後、積層物は「平滑で光沢のある装飾面」を有する旨(前記2.(2)ア(オ))記載されている。また、引用文献3のPVDF樹脂(フッ素樹脂)フィルムも、基材とともに熱圧成形する「透明性、耐食性、さらには耐紫外線性に優れる表面保護用フィルム」(前記2.(2)イ(キ))として用いることができるものである。
そうすると、本願発明により得られる、熱圧成形後の、装飾面の鮮明性及び鏡面性の改善という効果は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3記載の技術的事項から、当業者であれば容易に予測し得るものといえ、格別とはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-12 
結審通知日 2016-01-14 
審決日 2016-01-26 
出願番号 特願2011-75735(P2011-75735)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 井上 茂夫
三宅 達
発明の名称 化粧板  

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