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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1312332
審判番号 不服2014-24419  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-01 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2008-257367「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日出願公開、特開2010- 87403〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年10月2日の出願であって,手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成25年 9月12日(起案日)
意見書 :平成26年 3月14日
手続補正 :平成26年 3月14日
拒絶理由通知(最後) :平成26年 4月 2日(起案日)
意見書 :平成26年 7月 8日
手続補正 :平成26年 7月 8日
補正の却下の決定 :平成26年 7月24日(起案日)
拒絶査定 :平成26年 7月24日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成26年12月 1日
手続補正 :平成26年12月 1日
上申書 :平成27年 3月24日

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,特許請求の範囲については,本件補正の前後で,以下のとおりである。なお,平成26年7月8日に提出された手続補正書による手続補正は原査定と同日に起案の補正の却下の決定により却下されている。
・補正前
「【請求項1】
配線基板と、
前記配線基板上に実装された半導体チップと、
前記半導体チップの前記配線基板に実装される面とは反対の上面中央に第1の方向に沿って形成された複数の電極パッドと、
前記複数の電極パッドに対応して前記配線基板上に形成され、前記半導体チップの辺に対向するように前記第1の方向に配列された複数のワイヤボンドパッドと、を有し、
前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ボンディングワイヤは、前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下していることを特徴とする、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体チップの側面から前記配線基板上の前記ワイヤボンドパッドまでの距離は前記半導体チップの高さよりも短く形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記複数のワイヤボンドパッドが、前記半導体チップの対向する2辺にそれぞれ対向するように前記配線基板上に配列されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置。」
・補正後
「【請求項1】
配線基板と、
前記配線基板上に実装された半導体チップと、
前記半導体チップの前記配線基板に実装される面とは反対の上面中央に第1の方向に沿って形成された複数の電極パッドと、
前記複数の電極パッドに対応して前記配線基板上に形成され、前記半導体チップの辺に対向するように前記第1の方向に配列された複数のワイヤボンドパッドと、を有し、
前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが

、1本のボンディングワイヤを介して接続され、
前記ボンディングワイヤは、前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記半導体チップの側面から前記配線基板上の前記ワイヤボンドパッドまでの距離は前記半導体チップの高さよりも短く形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数のワイヤボンドパッドが、前記半導体チップの対向する2辺にそれぞれ対向するように前記配線基板上に配列されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体装置。」

2 補正事項の整理
本件補正による特許請求の範囲の請求項1についての補正を整理すると次のとおりとなる。
・補正事項
補正前の請求項1に,「前記ボンディングワイヤは、前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下していること」を追加する補正をすること。

3 本件補正の適否
以下,補正事項について,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてされたものであるか否かについて検討する。

(1)当初明細書等の記載
当初明細書等には,本願に係る発明に関連し,以下の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
ア「【0022】
図7に示すように、
・・・・
半導体チップを積層するなどすることが好ましい。
(実施形態2)
図8を参照しながら本発明の半導体装置の実施形態の他例について説明する。図8は、本実施形態に係る半導体装置8の断面図である。なお、実施形態1に係る半導体装置8と同一の構成については、図8中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0023】
本実施形態に係る半導体装置8では、半導体チップ1上の電極パッド4と配線基板2上のワイヤボンドパッド5とを接続するボンディングワイヤ30が図8に示すようにうねっている。具体的には、ボンディングワイヤ30は、電極パッド4から略垂直に立ち上がって回路面1aから離間した後、半導体チップ1の端部に向けて緩やかな下り傾斜で降下して回路面1aに近接し、その後再び立ち上がって回路面1aから離間した後にワイヤボンドパッド5に向けて急角度で降下している。
【0024】
上記のようなボンディングワイヤ30の形状は、ボンディング時のキャピラリ(ボンディングワイヤ用のノズル)を図8に点線で示す軌跡を描くように移動させることで実現することができる。具体的には、一端を電極パッド4にボンディングさせたワイヤを半導体チップ1の端部に干渉しない位置まで近づけ、その後、再度半導体チップ1から離し、次いで急角度でワイヤボンドパッド5へボンディングさせる。」
イ「【0025】
上記構造により、半導体チップ1上の電極パッド4と、配線基板2上のワイヤボンドパッド5とを接続するボンディングワイヤ30が半導体チップ1に干渉することを回避しつつ、半導体チップ1の端部とワイヤボンドパッド5との間の距離D1を小さく(短く)することができる。さらには、半導体チップ1の端部と半導体装置8の端部(配線基板2の端部)との間の距離D2も小さく(短く)することができ、半導体装置8が小型化される。本実施形態においても、上記距離D1は、半導体チップ1の高さ(厚み)Tよりも小さい(短い)。本実施形態における距離D1の数値やその他の数値について図9を参照して説明する。本実施形態では、距離D1は50[um]、ワイヤボンドパッド5の長さLは200[um]、半導体チップ1の高さ(厚み)Tは190[um]である。すなわち、半導体チップ1の高さ(厚み)Tと距離D1との間には、T>(19/20)×D1の関係が成立している。また、半導体チップ1の端部(コーナー)からボンディングワイヤ30までの最短距離Aは20[um]である。この場合、ワイヤボンドパッド5の表面に対するボンディングワイヤ30の傾斜角度θは60度である。傾斜角度θは次の数式によって求めることができる。
【0026】
【数1】
・・・・
【0027】
なお、図11に示す従来の半導体装置8における距離D1は200[um]である。よって、ワイヤボンドパッド5の表面に対するボンディングワイヤ3の傾斜角度θは40度である。また、本実施形態における、半導体チップ1の端部と半導体装置8の端部(配線基板2の端部)との間の距離D2は350[um]である。一方、図11に示す従来の半導体装置8における距離D2は500[um]である。すなわち、本実施形態の半導体装置8は、片側で150[um]、全体で300[um]の小型化が図られている。
【0028】
図10に示すように、図8に示す半導体チップ1の上に、同様の半導体チップ1を積層し、それら複数の半導体チップ1を一括して封止樹脂7で封止することもできる。図10には、2つの半導体チップ1が積層された小型積層パッケージを示したが、積層される半導体チップ1の数は3つ以上であってもよい。複数の半導体チップを積層する際には、上段の半導体チップによって下段の半導体チップのボンディングワイヤなどが押し潰されて変形するなどの不具合を回避するために、上下の半導体チップの間にスペーサを介在させたり、下段の半導体チップを樹脂封止した後に上段の半導体チップを積層するなどすることが好ましい。」
ウ「【0008】
(実施形態1)
図1、図2を参照しながら本発明の半導体装置の実施形態の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る半導体装置8の断面図、図2は平面図である。
【0009】
本実施形態に係る半導体装置8は、配線基板2と、配線基板2の実装面2aにフェイスアップで実装された半導体チップ1とを少なくとも有する。
【0010】
半導体チップ1の回路面1aの中央には、複数の電極パッド4が第1の方向に沿って配列されている。ここで、半導体チップ1の回路面1aとは、配線基板2に実装される面とは反対の上面を意味している。さらに、半導体チップ1の回路面1aの端部には、中継基板(ボンドパッド中継基板10)が設けられている。換言すれば、半導体チップ1の上面端部には、中継基板10が設けられている。具体的には、第1の方向に沿って形成された電極パッド4の列(電極パッド列)の両外側に、帯状のボンドパッド中継基板10が電極パッド列と平行に配置されている。換言すれば、複数の電極パッド4に対向して、半導体チップ1の2辺に沿って複数のボンドパッド中継基板10が設けられている。
【0011】
図2に示すように、ボンドパッド中継基板10は、帯状の絶縁部10aと、該絶縁部10aの長手方向に沿って設けられた複数のワイヤボンドパッド10bとを有する。
【0012】
各電極パッド4は、対応するボンドパッド中継基板10の対応するワイヤボンドパッド10bに第1のボンディングワイヤ3Aを介して接続されている。さらに、各ボンドパッド中継基板10の各ワイヤボンドパッド10bは、配線基板2上の対応するワイヤボンドパッド5に、第2のボンディングワイヤ3Bを介して接続されている。
【0013】
図1に示されているように、第2のボンディングワイヤ3Bは、ボンドパッド中継基板10から上方に向けて略垂直に立ち上がった後に、配線基板2上のワイヤボンドパッド5に向けて急角度で降下している。換言すれば、第2のボンディングワイヤ3Bは、配線基板2上のワイヤボンドパッド5からボンドパッド中継基板10よりも高い位置まで急角度で立ち上がった後に、ボンドパッド中継基板10に向けて略垂直に降下している。
・・・
【0015】
次に、図3?図6を参照しながら本実施形態に係る半導体装置8の製造方法の一例について説明する。図3?図6は、各製造工程における断面図である。
【0016】
まず、図3に示すように、半導体チップ1を配線基板2の実装面2a上の実装領域にフェイスアップで実装する。なお、配線基板2の上記実装領域の周囲には、予めワイヤボンドパッド5が形成されている。さらに、ワイヤボンドパッド5の位置は、該ワイヤボンドパッド5から上記実装領域に実装された半導体チップ1の端部までの距離D1が半導体チップ1の高さTよりも小さい所定距離D1となるように設定されている。
【0017】
次に、図4に示すように、半導体チップ1の回路面1aの端部にボンドパッド中継基板10を実装する。
【0018】
その後、図5に示すように、半導体チップ1の電極パッド4とボンドパッド中継基板10とを第1のボンディングワイヤ3Aによって接続(ボンディング)する。次に、図6に示すように、ボンドパッド中継基板10と配線基板2のワイヤボンドパッド5とを第2のボンディングワイヤ3Bによって接続(ボンディング)する。
・・・
【0022】
図7に示すように、図1に示す半導体チップ1の上に、同様の半導体チップ1を積層し、それら複数の半導体チップ1を一括して封止樹脂7で封止することもできる。図7には、2つの半導体チップ1が積層された小型積層パッケージを示したが、積層される半導体チップ1の数は3つ以上であってもよい。なお、複数の半導体チップを積層する際には、上段の半導体チップによって下段の半導体チップのボンディングワイヤなどが押し潰されて変形するなどの不具合を回避するために、上下の半導体チップの間にスペーサを介在させたり、下段の半導体チップを樹脂封止した後に上段の半導体チップを積層するなどすることが好ましい。
(実施形態2)
・・・」

(2)新規事項の追加の有無について
ア 上記2のとおり,補正事項は,補正前の請求項1に,「前記ボンディングワイヤは、前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下していること」を追加するものであり,また、補正後の請求項1には「前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続され」という記載もあるから,補正事項による補正で,「1本のボンディングワイヤ」について,「前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間」(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)することが,補正前の請求項1に追加されると認められる。
イ 他方,上記(1)アより,当初明細書等には、「前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続され」る発明に対応する実施形態である「(実施形態2)」において,「ボンディングワイヤ30は、電極パッド4から略垂直に立ち上がって回路面1aから離間した後、半導体チップ1の端部に向けて緩やかな下り傾斜で降下して回路面1aに近接し、その後再び立ち上がって回路面1aから離間した後にワイヤボンドパッド5に向けて急角度で降下している」ことが記載されていると認められる。
そして,上記(1)アによれば,補正事項のうち,「ボンディングワイヤ」が,「前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し,その後再び」「立ち上がって前記半導体チップから離間」する点についての記載はあるものの,「その後再び略垂直に立ち上が」る点についての記載はなく,また,本願の出願時の技術常識に照らしても,上記(1)アの記載により,「ボンディングワイヤ」が,「その後再び略垂直に立ち上が」ることが当業者に自明であるとも言えない。
また,上記(1)イによれば,「半導体チップ1の高さ(厚み)Tと距離D1」や「ワイヤボンドパッド5の表面に対するボンディングワイヤ30の傾斜角度θ」についての記載はあるものの,「ボンディングワイヤ」が,「前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間」する旨の記載はなく,また,本願の出願時の技術常識に照らしても,上記(1)イの記載により,「ボンディングワイヤ」が,「その後再び略垂直に立ち上が」ることが当業者に自明であるとも言えない。
さらに,本願の当初明細書等の図8?10を参照すると,「ボンディングワイヤ」が,「前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し,その後再び」「立ち上がって前記半導体チップから離間」することは窺えるものの、「ボンディングワイヤ」が「その後再び」「立ち上が」る際の角度は,補正後の請求項1において,「略垂直」とされる「電極パッド」からの立ち上がり(上記(1)アの段落【0023】)の角度に比して,緩やかであることが上記図8?10の記載から窺えるから,これら図面に「ボンディングワイヤ」が「その後再び略垂直に立ち上が」る点についての記載があるとは認められず,また,本願の出願時の技術常識に照らしても,「ボンディングワイヤ」が,「その後再び略垂直に立ち上が」ることが,上記図8?10に接した当業者に自明であるとも言えない。
ウ 上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7によれば,当初明細書等には,「(実施形態1)」として,「半導体チップ1」に「ボンドパッド中継基板10」及び「ワイヤボンドパッド10b」を設けた上で,「電極パッド4」と「ワイヤボンドパッド10b」とを「第1のボンディングワイヤ3A」により接続し,また,「ワイヤボンドパッド10b」と「ワイヤボンドパッド5」とを「第2のボンディングワイヤ3B」により接続することが記載されている。
そして,上記(1)ウの段落【0018】及び図5?6より,「第1のボンディングワイヤ3A」による接続(ボンディング)を行った後に,「第2のボンディングワイヤ3B」による接続(ボンディング)を行うことが記載されているから,「第1のボンディングワイヤ3A」と「第2のボンディングワイヤ3B」は,1本のワイヤではなく,別々のワイヤであると解するのが自然である。
さらに,上記(1)ウには,「第1のボンディングワイヤ3A」と「第2のボンディングワイヤ3B」を,同一の,すなわち1本のボンディングワイヤとしてもよい旨の記載も示唆もなく,また,当初明細書等の図1?図7の記載を併せて考慮しても,上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7の記載から「第1のボンディングワイヤ3A」と「第2のボンディングワイヤ3B」を,同一の,すなわち1本のボンディングワイヤとすることが当業者に自明であるという事情も窺えない。
そうすると,上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7には,補正前の請求項1及び補正後の請求項1に係る発明のような「前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続され」る「半導体装置」が記載されているとは認められず,また,上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7の記載を総合しても,「前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続され」る点が,当業者にとって自明であるという事情も窺えない。
してみると,「1本のボンディングワイヤ」について,「前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下している」という技術事項は,上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7に記載されておらず,また,上記(1)ウ及び当初明細書等の図1?図7から当業者に自明であるとも言えない。
エ そして,上記イ及びウにおいて検討した以外の箇所の記載を参照しても,「前記ボンディングワイヤは、前記電極パッドから略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後、前記半導体チップの端部に向けて斜めに降下して前記半導体チップに接近し、その後再び略垂直に立ち上がって前記半導体チップから離間した後に前記ワイヤボンドパッドに向けて降下していること」という事項の記載は見当たらず,また,当該事項が当業者にとって自明であるとも認められない。
オ 以上より,補正事項は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ないから,補正事項による補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められない。

(3)小括
以上のとおり,本件補正における補正事項による補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められないから,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものとはいえず,特許法第17条の2第3項に規定に違反するものと認める。

4 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の新規性及び容易想到性について

1 本願発明について
平成26年12月1日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下され,また,平成26年7月8日に提出された手続補正書による手続補正は原査定と同日に起案の補正の却下の決定により却下されているので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成26年3月14日に提出された手続補正書に記載されたとおりのものであり,その請求項1の記載は,再掲すると次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】
配線基板と、
前記配線基板上に実装された半導体チップと、
前記半導体チップの前記配線基板に実装される面とは反対の上面中央に第1の方向に沿って形成された複数の電極パッドと、
前記複数の電極パッドに対応して前記配線基板上に形成され、前記半導体チップの辺に対向するように前記第1の方向に配列された複数のワイヤボンドパッドと、を有し、
前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続されていることを特徴とする半導体装置。」

2 引用発明
(1)引用文献の記載と引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2001-185576号公報(以下「引用文献」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置、特に、配線技術に関し、例えば、マルチチップ・ファインピッチ・ボール・グリッド・アレイパッケージ(以下、BGAという。)を備えた半導体集積回路装置(以下、ICという。)に利用して有効な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、128M(メガ)のSDRAM(シンクロナス・ダイナミックRAM)・ICを構成する手段として、64メガのSDRAMが作り込まれた半導体ペレットを二個、配線基板に機械的かつ電気的に接続して一つのパッケージに構成する方法が、考えられる。
【0003】さらに、その128MのSDRAM・ICのパッケージを薄い表面実装形パッケージに構成したい場合にはBGAに構成することが、考えられる。
【0004】なお、BGAを述べてある例としては、株式会社日経BP社1993年5月31日発行「VLSIパッケージング技術(下)」P173?P174がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記した128MのSDRAM・ICにおいては、従来のBGAのRAM・ICの場合と同様に配線したのでは次のような問題点があることが本発明者によって明らかにされた。第一に、電源電位用パッドと接地電位用パッドとを配線基板の両側に振り分けた場合には信号線のボンディングワイヤにおけるインダクタンスの偏りが発生する。第二に、二つの半導体ペレットの電源を共用した場合には同時動作時のノイズの合成時間が早いため、ピークノイズが大きくなる。第三に、配線基板に形成された配線の疎密が発生するため、設計幅が同一であっても仕上がり線幅に相違が発生したり、反りが発生したりする。
【0006】本発明の目的は、前記問題点を回避することができる半導体装置を提供することにある。」
(イ)「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図面に即して説明する。
【0012】本実施形態において、本発明に係る半導体装置は、用途的には128MのSDRAM・ICとして構成されており、パッケージ的にはサイズを小さくかつ薄く抑制しながら狭ピッチ化を回避可能な表面実装形パッケージであるBGAに構成されている。
【0013】図3および図4に示されているように、BGAを備えたIC(以下、BGA・ICという。)1のBGA2はガラス含浸エポキシ樹脂によって形成されたコア4を核とする配線基板3を備えており、コア4は長方形の平板形状に形成されている。コア4の半導体ペレットがボンディングされる側の第一主面は、コントロール・アドレス・エリア(以下、制御部という。)5と、メモリーエリア(以下、メモリー部という。)6とに長軸に平行に仮想的に二分割されている。コア4の第一主面における短辺側両端部および中央部には四列のパッド配列ライン部7がそれぞれ設定されており、各パッド配列ライン部7には長方形の平板形状に形成された信号線用パッド8が複数個ずつ配置されている。
【0014】そして、左端側パッド配列ライン部7と中央部の左側パッド配列ライン部7との間のエリアによって、一方の半導体ペレットを搭載するための左側搭載部Lが設定されており、右端側パッド配列ライン部7と中央部の右側パッド配列ライン7との間のエリアによって、他方の半導体ペレットを搭載するための右側搭載部Rが設定されている。
【0015】メモリー部6に配置された各信号線用パッド8の両脇には電源電位(本実施形態においては、VDDとする。)用パッド9と、接地電位(本実施形態においては、VSSとする。)用パッド10とがそれぞれ配置されており、電源電位用パッド9と接地電位用パッド10との配置関係は信号線用パッド8を挟んで交互になるようになっている。」
(ウ)「【0021】図1、図2および図3に示されているように、コア4の第一主面の上には絶縁被膜であるソルダレジスト21が第一配線11や線幅補正用配線13および反り防止用配線14を被覆し、かつ、信号線用パッド8、電源電位用パッド9および接地電位用パッド10をそれぞれ露出させた状態で被着されている。
・・・
【0024】図1および図2に示されているように、コア4の第二主面には絶縁被膜であるソルダレジスト21が第二配線18を被覆し、かつ、信号線用端子15、電源電位用端子16および接地電位用端子17をそれぞれ円形に露出させた状態で被着されている。そして、信号線用端子15、電源電位用端子16および接地電位用端子17には半田バンプ27がBGA・ICの組立工程の終わりの段階で、半田ボールを半田付けすることによってそれぞれ突設される。
【0025】以上のように構成された配線基板3の第一主面におけるソルダレジスト21上の左側搭載部Lおよび右側搭載部Rには、いずれも64メガのSDRAMが作り込まれた二個の半導体ペレット(以下、ペレットという。)23、23がボンディング層22によってそれぞれボンディングされている。この二個の64メガのSDRAMのペレットによって128メガのSDRAMが構成されるようになっている。
【0026】図1および図3に示されているように、ペレット23の信号線用電極パッド(以下、信号線用電極という。)24aと信号線用パッド8との間には信号線用ワイヤ25aが橋絡されている。ペレット23の電源電位用電極パッド(以下、電源電位用電極という。)24bと電源電位用パッド9との間には電源電位用ワイヤ25bが橋絡されている。ペレット23の接地電位用電極パッド(以下、接地電位用電極という。)24cと接地電位用パッド10との間には接地電位用ワイヤ25cが橋絡されている。これら電源電位用ワイヤ25bおよび接地電位用ワイヤ25cにより、二個のペレット23、23には駆動電力がそれぞれ供給されるようになっている。
【0027】図2(a)に示されているように、配線基板3の上には樹脂封止体26がトランスファ成形法によって成形されており、樹脂封止体26によってペレット23、23やワイヤ25a、25b、25c、信号線用パッド8、電源電位用パッド9および接地電位用パッド10等は樹脂封止された状態になっている。
【0028】以上のように構成されたBGA・IC1はプリント配線基板に半田バンプ27側を向けられた状態で当接され、半田バンプ27群がリフロー半田付けされることにより表面実装される。BGA・IC1の運転に際しては、二個のペレット23、23には駆動電力が電源電位用端子16と接地電位用端子17、第二配線18、スルーホール導体20、第一配線11、電源電位用ワイヤ25bと接地電位用ワイヤ25cによってそれぞれ供給される。制御信号やアドレス信号および入出力(I/O)信号は信号線用ワイヤ25aを伝送されて、信号線用電極24aと信号線用パッド8との間で交信される。
・・・
【0030】しかし、本実施形態においては、図1に示されているように、電源電位用パッド9と接地電位用パッド10とが信号線用パッド8の両脇において交互に配置されているため、信号線用ワイヤ25aの相互インダクタンスは最大値が半分に低減される。すなわち、信号線用ワイヤ25aと電源電位用ワイヤ25bおよび接地電位用ワイヤ25cとの間の相互インダクタンス値をそれぞれA、Bと仮定すると、A、A-B、Bの三種類の相互インダクタンス値が発生し、相互インダクタンス値が二倍になる状態を廃止することができるため、最大値が従来例に比べて半分に低減することになる。」
イ 引用発明
(ア)上記ア(ア)(段落【0001】及び【0006】),上記ア(イ)(段落【0012】及び【0013】,並びに図3及び図4)より,引用文献には,半導体装置の発明が記載されていることは明らかである。
(イ)上記ア(ウ)(段落【0025】及び【0026】,並びに図1及び図3)によれば,配線基板3上にボンディングされた半導体ペレット23の,配線基板3にボンディングされる面とは反対の上面の中央に,所定の方向に沿って信号線用電極パッド24a,電源電位用電極パッド24b及び接地電位用電極パッド24cが形成されていることが窺えるから,引用文献に記載の半導体装置は,配線基板3と,配線基板3上にボンディングされた半導体ペレット23と,半導体ペレット23の配線基板3にボンディングされる面とは反対の上面中央に所定の方向に沿って形成された複数の電極パッド24a?24cとを有すると認められる。
(ウ)上記ア(イ)(段落【0013】?【0015】,並びに図3及び図4),上記ア(ウ)(段落【0021】及び【0026】,並びに図1?図3)より,信号線用パッド8,電源電位用パッド9及び接地電位用パッド10は,(i)半導体ペレット23に形成された,信号線用電極パッド24a,電源電位用電極パッド24b及び接地電位用電極パッド24cに,それぞれ対応して配線基板3上に形成されていること,(ii)半導体ペレット23の辺に対向するように配置されていること,(iii)信号線用電極パッド24a,電源電位用電極パッド24b及び接地電位用電極パッド24cの配列方向と同一の方向に配列されていることが窺えるから,引用文献に記載の半導体装置は,複数の電極パッド24a?24cに対応して配線基板3上に形成され,前記半導体ペレット23の辺に対向するように複数の電極パッド24a?24cの配列方向と同一の方向に配列された複数のパッド8?10を有すると認められる。
(エ)上記ア(ウ)(段落【0026】及び,並びに図1及び図3)より,信号線用パッド8と,信号線用パッド8に対応する信号線用電極パッド24aとの間には,一本の信号線用ワイヤ25aが橋絡されていること,電源電位用パッド9と,電源電位用パッド9に対応する電源電位用電極パッド24bとの間には,一本の電源電位用ワイヤ25bが橋絡されていること,接地電位用パッド10と,接地電位用パッド10に対応する接地電位用電極パッド24cとの間には,一本の接地電位用ワイヤ25cが橋絡されていることが窺えるから,引用文献に記載の半導体装置において,複数の電極パッド24a?24cと,複数の電極パッド24a?24cに対応するパッド8?10とは,それぞれ,1本のワイヤを介して接続されていると認められる。
(オ)上記ア及び上記(ア)?(エ)より,引用文献には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「配線基板3と、
前記配線基板3上にボンディングされた半導体ペレット23と、
前記半導体ペレット23の前記配線基板3にボンディングされる面とは反対の上面中央に所定の方向に沿って形成された複数の電極パッド24a?24cと、
前記複数の電極パッド24a?24cに対応して前記配線基板3上に形成され、前記前記半導体ペレット23の辺に対向するように前記所定の方向に配列された複数のパッド8?10と、を有し、
前記複数の電極パッド24a?24cと、該複数の電極パッド24a?24cに対応するパッド8?10とが、1本のワイヤを介して接続されていることを特徴とする半導体装置。」

2 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明における「配線基板3」,「ボンディングされた」「半導体ペレット23」,「所定の方向」,「複数の電極パッド24a?24c」,「複数のパッド8?10」,及び「ワイヤ」は,それぞれ,本願発明の「配線基板」,「実装された」「半導体チップ」,「第1の方向」,「複数の電極パッド」,「複数のワイヤボンドパッド」,及び「ボンディングワイヤ」に相当するといえる。

(2)そうすると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致する。
配線基板と、
前記配線基板上に実装された半導体チップと、
前記半導体チップの前記配線基板に実装される面とは反対の上面中央に第1の方向に沿って形成された複数の電極パッドと、
前記複数の電極パッドに対応して前記配線基板上に形成され、前記半導体チップの辺に対向するように前記第1の方向に配列された複数のワイヤボンドパッドと、を有し、
前記電極パッドと、該電極パッドに対応する前記ワイヤボンドパッドとが、1本のボンディングワイヤを介して接続されていることを特徴とする半導体装置。
以上によれば,本願発明と引用発明との間に構成上の差違はないから,本願発明は,引用文献に記載された発明である。

3 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,仮に,本願発明と引用発明との間に構成上の差違があると認められたとしても,当該構成上の差違は,格別なものとは認められないので,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない,又は,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-27 
出願番号 特願2008-257367(P2008-257367)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越本 秀幸  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 長谷川 素直
河口 雅英
発明の名称 半導体装置  
代理人 緒方 和文  
代理人 鷲頭 光宏  
代理人 黒瀬 泰之  

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