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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1312334
審判番号 不服2014-25006  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-05 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2012-523285「電流補償チョーク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日国際公開、WO2011/015491、平成25年 1月10日国内公表、特表2013-501369〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成22年7月27日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成21年8月6日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成25年7月2日付けで手続補正がなされ、同年12月4日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成26年6月10日付けで手続補正がなされたが、同年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月5日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年12月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
一体構造型で、環状に閉じたフェライトコアを備える電流補償チョークであって、
前記フェライトコアは、矩形の輪郭を持つと共に電気的絶縁被膜を有し、
前記フェライトコアは、それぞれエッジワイズ巻きされた、丸線よりも高い充填率を有するフラットワイヤからなる少なくとも2つのワイヤコイルを備え、
前記ワイヤコイルは、互いに距離を空けて、巻枠を用いることなく、フェライトコアの短辺部の周りに配置され、
前記ワイヤコイル間で、可能な限り最大限の空間的距離が維持され、
前記フェライトコアの角が面取りされ、前記ワイヤコイルが螺旋状に形成された前記フラットワイヤで構成される電流補償チョーク。」

なお、上記平成26年12月5日付け手続補正により、上記請求項1は、補正前の請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項6を独立形式として補正後の請求項1とするとともに、補正前の請求項1,3を削除したものであり、当該補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するとみることができる。

3.引用例

3-1.引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-308315号公報(以下、「引用例1」という。)には、「インダクタンス要素部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】 磁性体材料によって形成された鉄心に、導体材料によって螺旋状に形成されたコイルを装着したインダクタンス要素部品において、
前記鉄心を、継ぎ目の無い磁路を形成する構造とするとともに、
扁平帯状をなし絶縁皮膜で被覆された平角線導体を、その平面がコイル中心線の方向に対し交叉するようにエッジワイズ状に巻回加工して、前記コイルを形成したことを特徴とするインダクタンス要素部品。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、電気機器や電子機器に使用される変成器(変圧器および変流器)、チョークコイル、リアクトルなどのインダクタンス要素部品に関する。」

(3)「【0011】図1は、この発明に係るインダクタンス要素部品、すなわち変圧器、変流器、チョークコイル、リアクトルなどのコイルの構成例を示す斜視図である。このコイル10は、扁平状をなし絶縁皮膜14で被覆された銅やアルミニウムなどの平角線導体12を用いて製作され、平角線導体12の平面がコイル中心線の方向に対し交叉するように平角線導体12をエッジワイズ状に螺旋状に巻回加工して形成されている。このような形状のコイル10を鉄心に装着して、変圧器やチョークコイルなどが構成される。
【0012】図2は、変圧器またはチョークコイルを、それを構成する鉄心とコイルとに分離した状態で示す斜視図である。鉄心16は、硅性鋼板やフェライトなどの磁性体材料によって継ぎ目無しに形成されている。鉄心16で形成される磁路の横断面形状は、円形に限らず、長楕円形、角形などであってもよい。なお、インダクタンス値の調整のためや磁気飽和を避けるために、継ぎ目の無い鉄心の横断面の一部または横断面の全体にわたってスリットを設けるようにしてもよい。このスリットの形成は、鉄心の状態において行ってもよいし、また変圧器またはチョークコイルの完成品の状態において行ってもよい。
【0013】コイルは、図1に示したコイル10と、そのコイル10と巻き方向が逆であるコイル18との一対を有している。図3は、図2に示した鉄心16と一対のコイル10、18とを組み立てて完成された形態の変圧器またはチョークコイルを示し、(a)が側面図、(b)が平面図である。図3に示したものは、ディスクリート形の変圧器またはチョークコイル20である。図中の符号22、24は、それぞれのコイル10、18の端子である。また、図4は、図3に示したものを表面実装形(チップ形)にしたチップ形変圧器またはチョークコイル26を示し、(a)が側面図、(b)が平面図である。図中の符号28、30は、それぞれのコイル10、18の端子である。なお、コイルは、同心状にあるいは軸線方向に並置させて複数個配設することもできる。また、場合によっては、絶縁ボビンを装着することにより、変圧器またはチョークコイルの耐電圧性を向上させるようにしてもよい。」

・上記引用例1に記載の「インダクタンス要素部品」は、上記(2)、(3)の記載事項によれば、チョークコイルなどのインダクタンス要素部品であり、
具体的には、上記(1)、(3)の記載事項、及び図1?図4によれば、磁性体材料によって形成された鉄心16に、導体材料によって螺旋状に形成されたコイル10,18を装着したインダクタンス要素部品であって、鉄心16を、継ぎ目の無い磁路を形成する構造とするとともに、扁平帯状をなし絶縁皮膜14で被覆された平角線導体12を、その平面がコイル中心線の方向に対し交叉するようにエッジワイズ状に巻回加工してコイル10,18を形成したインダクタンス要素部品に関するものである。
・上記(3)の段落【0012】の記載事項によれば、鉄心16は、フェライトなどの磁性体材料によって形成されるものであり、図2によれば、略矩形(長方形)の輪郭を有する。
・上記(3)の段落【0012】の記載事項、及び図2?4によれば、鉄心16におけるコイル10,18が装着される部分は、その磁路の横断面形状が円形である。
・上記(3)の段落【0013】の記載事項、及び図2によれば、一対をなすコイル10とコイル18とは巻き方向が逆である。
・上記(3)の段落【0013】の記載事項、及び図2によれば、コイル10,18は、絶縁ボビンを装着せずに鉄心16に巻回することができるものであると理解できる。
・図2?図4によれば、コイル10とコイル18とは、互いに距離を空けて、鉄心の短辺部の周りに装着され、空間的距離が維持されているといえる。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「フェライトからなる磁性体材料によって形成され、継ぎ目の無い磁路を形成する構造とされた鉄心に、導体材料によって螺旋状に形成された2つのコイルを装着したチョークコイルであって、
前記鉄心は、略矩形(長方形)の輪郭を有し、前記2つのコイルが装着される部分は、その磁路の横断面形状が円形であり、
前記鉄心の短辺部の周りに、扁平帯状をなし絶縁皮膜で被覆された平角線導体をその平面がコイル中心線の方向に対し交叉するように、絶縁ボビンを装着することなくエッジワイズ状に螺旋状に巻回加工して、前記2つのコイルを空間的距離が維持されるように互いに距離を空けて形成し、
一対をなす前記2つのコイルは巻き方向が逆であるチョークコイル。」

3-2.引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-330704号公報(以下、「引用例2」という。)には、「コイル製品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】 閉ループ部材に、平角線の単線又は平角線を多数本平行に重ねた複数線が縦捲状態で捲かれたことを特徴とするコイル製品。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項5】 前記閉ループ部材は、カットレスコアであることを特徴とする請求項1又は2のコイル製品。
【請求項6】 前記カットレスコアは樹脂でコーティングされていることを特徴とする請求項5のコイル製品。」

(2)「【0016】上記コアは、カットされたコアでもよいが、カットレスコアが望ましい。漏れ磁束がなくなるので、より性能の向上が図れるからである。また、そのカットレスコアは、樹脂でコーティングされていると、直接コイルを捲いた場合など、より性能が良くなる。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「カットレスコアに平角線の単線が縦捲状態で捲かれたコイル製品において、
前記カットレスコアは、直接コイルを捲いた場合などに、より性能が良くなるように樹脂でコーティングされていること。」

4.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「フェライトからなる磁性体材料によって形成され、継ぎ目の無い磁路を形成する構造とされた鉄心に、導体材料によって螺旋状に形成された2つのコイルを装着したチョークコイルであって」によれば、
引用発明の「鉄心」は、継ぎ目の無い磁路を形成する構造であることから、本願発明でいう「一体構造で、環状に閉じた」ものであるといえ、また、フェライトからなる磁性体材料によって形成されるものであるから、本願発明でいう「フェライトコア」に相当するといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「一体構造型で、環状に閉じたフェライトコアを備えるチョークであって」の点で共通する。
ただし、引用発明の「チョークコイル」は、「電流補償」チョークである旨の明確な特定がない点で一応後述の相違点がある。

(2)引用発明における「前記鉄心は、略矩形(長方形)の輪郭を有し、・・」によれば、
本願発明と引用発明とは、「前記フェライトコアは、矩形の輪郭を持」つ点で共通する。
ただし、引用発明の「鉄心」には電気的絶縁被膜が施される旨の特定を有していない点で後述の相違点がある。

(3)引用発明における2つの「コイル」、コイルを形成する扁平帯状をなし絶縁皮膜で被覆された「平角線導体」は、それぞれ本願発明でいう「ワイヤコイル」、「フラットワイヤ」に相当し、
引用発明における「前記鉄心の短辺部の周りに、扁平帯状をなし絶縁皮膜で被覆された平角線導体をその平面がコイル中心線の方向に対し交叉するように、絶縁ボビンを装着することなくエッジワイズ状に螺旋状に巻回加工して、前記2つのコイルを空間的距離が維持されるように互いに距離を空けて形成し」によれば、
引用発明においても、2つのコイルそれぞれは、絶縁ボビン(本願発明でいう「巻枠」)を用いることなく鉄心にエッジワイズ巻きされたものであり、しかも、略矩形(長方形)の輪郭を有する鉄心の「短辺部」の周りに巻回されるのであるから、本願発明と同様、2つのコイル間には「可能な限り最大限の」空間的距離が維持されているということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記フェライトコアは、それぞれエッジワイズ巻きされた、丸線よりも高い充填率を有するフラットワイヤからなる少なくとも2つのワイヤコイルを備え、前記ワイヤコイルは、互いに距離を空けて、巻枠を用いることなく、フェライトコアの短辺部の周りに配置され、前記ワイヤコイル間で、可能な限り最大限の空間的距離が維持され」るものである点で一致するといえる。

(4)引用発明における「前記鉄心は、・・・・前記2つのコイルが装着される部分は、その磁路の横断面形状が円形であり、前記鉄心の短辺部の周りに、扁平帯状をなし絶縁皮膜で被覆された平角線導体をその平面がコイル中心線の方向に対し交叉するように、絶縁ボビンを装着することなくエッジワイズ状に螺旋状に巻回加工して・・」によれば、
引用発明の「鉄心」は、2つのコイルが装着される部分はその磁路の横断面形状が円形であることから、角が面取りされているとみることができ、
本願発明と引用発明とは、「前記フェライトコアの角が面取りされ、前記ワイヤコイルが螺旋状に形成された前記フラットワイヤで構成される」ものである点で一致するといえる。

よって、本願発明と引用発明とは、
「一体構造型で、環状に閉じたフェライトコアを備えるチョークであって、
前記フェライトコアは、矩形の輪郭を持ち、
前記フェライトコアは、それぞれエッジワイズ巻きされた、丸線よりも高い充填率を有するフラットワイヤからなる少なくとも2つのワイヤコイルを備え、
前記ワイヤコイルは、互いに距離を空けて、巻枠を用いることなく、フェライトコアの短辺部の周りに配置され、
前記ワイヤコイル間で、可能な限り最大限の空間的距離が維持され、
前記フェライトコアの角が面取りされ、前記ワイヤコイルが螺旋状に形成された前記フラットワイヤで構成されるチョーク。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
チョークについて、本願発明では、「電流補償」チョークである旨特定するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定を有していない点。

[相違点2]
フェライトコアについて、本願発明では、「電気的絶縁被膜を有」する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

5.判断

上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用発明におけるチョークコイルは、一対をなす2つのコイルの巻き方向が逆であることからして、電流補償チョーク、いわゆるコモンモードチョークとして用いられるものであると解され、当該相違点1は実質的な相違点でない。
なお仮に、電流補償チョーク(いわゆるコモンモードチョーク)として用いられるものであるとまでは直ちにいえないとしても、引用発明におけるチョークコイルを、電流補償チョーク(いわゆるコモンモードチョーク)として用いることは当業者が適宜なし得ることである〔例えば独国特許出願公開第2600765号明細書、特開平5-175051号公報等を参照。引用発明におけるチョークコイルと同様の構成のものを電流補償チョーク(いわゆるコモンモードチョーク)として用いている。〕。

[相違点2]について
引用例2(上記「3-2.」を参照)には、カットレスコアに平角線の単線が縦捲状態で捲かれたコイル製品において、前記カットレスコアを、直接コイルを捲いた場合などに、より性能が良くなるように樹脂でコーティングするようにした技術事項が記載されており、技術常識からしてコーティングする当該樹脂は電気的絶縁性の被膜であるといえ、引用発明においても、かかる技術事項を採用し、コイルの平角線導体を絶縁皮膜で被覆することに代えて、あるいはそれに加えて鉄心を樹脂でコーティングするようし、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願発明が奏する効果は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

6.予備的見解

なお仮に、本願発明における「前記ワイヤコイル間で、可能な限り最大限の空間的距離が維持され」なる記載について、
請求人が審判請求書において「本願発明によれば、上記構成要件(D)に記載の如くワイヤコイルをフェライトコアの短辺部の周りに配置することで、フェライトコアの長辺部の周りに配置したものに比べてワイヤコイル間の空間的距離が大きくなる。これにより、主インダクタンスの一部を漏れインダクタンスとして意図的に発生させることができ、その結果、漏れインダクタンスが増大する。このように増大させた漏れインダクタンスを、チョークコイル(ワイヤコイル)がもう一つ追加したかのように有効に作用させ、ディファレンシャルノイズを減衰することができる(本願明細書の段落0016参照)。」と述べているように、意図的に漏れインダクタンスを発生させていることを意味していると解釈したとしても、
引用発明における一対をなす2つのコイル間には所定の空間的距離が維持されているといえる(引用例1の図3や図4を参照)ところ、例えば特開平5-175051号公報(特に【請求項1】、段落【0005】、【0011】を参照)、特開平3-227506号公報(特に1頁右下欄8行?2頁左上欄7行を参照)、特開昭64-81305号公報(特に2頁右上欄13行?同頁左下欄7行を参照)に記載のように、コモンモードチョークコイルにおいて、その形状や巻線構造等に起因する漏れインダクタンスを意図的に発生させてこれをノーマルモードノイズ(ディファレンシャルノイズ)等の減衰に用いることは周知の技術事項であり、引用発明においても、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルノイズ)等を減衰させるために、意図的に漏れインダクタンスを発生させるような一対をなす2つのコイル間の空間的距離とすること、すなわち一対をなす2つのコイル間で本願発明でいう「可能な限り最大限の」空間的距離が維持されるようにすることは当業者が容易になし得ることであり、いわゆる進歩性は認められない。

7.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-07 
結審通知日 2015-10-13 
審決日 2015-10-26 
出願番号 特願2012-523285(P2012-523285)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 ゆずりは 広行
井上 信一
発明の名称 電流補償チョーク  
代理人 特許業務法人青莪  

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