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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01T |
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管理番号 | 1312458 |
審判番号 | 不服2015-3801 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-27 |
確定日 | 2016-03-17 |
事件の表示 | 特願2011-523570「放射線画像検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日国際公開、WO2011/010482〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年2月23日(優先権主張2009年7月24日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日付けで意見書が提出されたが、同年11月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成27年2月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 本願発明について 1 本願発明 本願の特許請求の範囲は、平成27年2月27日付けの手続補正により、該手続補正前の(本願の出願当初の)特許請求の範囲の請求項1が削除され、請求項2?10が新たに請求項1?9とされたものであって、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、該手続補正により請求項の削除を目的として補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「光電変換素子を備えた光電変換パネルと、蛍光体層を備え且つ前記光電変換パネルと貼り合わされるシンチレータパネルとを有する放射線画像検出器であって、 前記シンチレータパネルは、一方の面に前記蛍光体層が形成される樹脂フィルムを主成分とする支持体と、前記支持体の他方の面と接合される剛性板とを備え、前記剛性板は前記光電変換パネルとの熱膨張係数の差が4.0ppm以内であり、前記支持体と前記剛性板とが、接着剤である接着剤層により接合されていることを特徴とする放射線画像検出器。」 2 引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第2008/129473号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(日本語訳を記載する。翻訳は、ファミリー文献である特表2010-525359号公報を参考にして、当審で作成した。また、下線は、当審が付した。) ア 「図1は、それぞれの電子部品と共に検出器フロントエンドの模式図を示す。図1から分かるように、シンチレータ基板213、CsIシンチレータ201(基板213とシンチレータ201との間に部分的に透明な、不透明/反射層206が図2に描かれている(が、図1には描かれていない)ように配置されている)及びセンサアレイ205が、例えば鉛で作られた放射シールド301上に配置される。 参照符号30,304は、電子部品ハウジングを表す。検出器の電子部品は、ハウジング302,304内に配置されて、プリント回路基板303を有し、その上に対応する電子素子(例えば素子305)が配置される。 検出器フロントエンド213,201,205は、結線216を介して電子回路に接続される。図1に示される説明は単に模式図であって、詳細な又はスケーリングされた説明ではないことに留意すべきである。 さらに、Xに対して透明な検出器カバー214が設けられており、裏面カバー又はグラウンドプレート215と共に、検出器のケーシングを提供する。 図2は、検出器フロントエンド200の模式図を示す。図2から分かるように、フロントエンド200は、とりわけ、シンチレータ層201、及び、X線によってシンチレータ中で生成される電磁放射を検出するように適応される検出素子又はピクセル202,203,204を有するセンサアレイ205を有する。 さらにフロントエンド200は、複数の小さなホール207,208,209,210,211及び212を有する反射層206を含む。 反射層206は、シンチレータ基板213上に配置される。 それぞれのレイヤ201,202,206は、保護層によって又は検出器カバー214によって覆われることができる。さらに、シンチレータ201、反射層206及び検出層202,203,204,205を保護するために、センサアレイ基板205とシンチレータ基板213との間にハードシールが設けられていることができる(図2には描かれていない)。 さらに、電子回路は図2に示されていない。 X線フラット検出器に用いられるシンチレータのシンチレータ基板(又は基板と反射層との組み合わせ)は、可視放射線及びUFに対して不透明であることができる。これは、X線で生成された光を、ガラス上のa-Siによって一般に形成されるセンサマトリクスによって読み出されることができるように変換層中に保つための要件である。 センサアレイとその基板上の(CsIで形成されることができる)X線変換層との組み合わせは、通常、フラット検出器のフロントエンドを形成する密封されたユニットである。 a-Siフォトダイオードの又はCsIシンチレータの特性を変えるためにX線フラット検出器のこのフロントエンドに光が適用される場合、これは、a-Siガラスプレートの裏面から光を適用することによって実行されることができる。リフレッシュ光は、ピクセルマトリクス中の開いた領域を介してアレイを通過する。 他のタイプのフラットX線検出器において、センサアレイの基板は、リフレッシュ光の意図された波長に対して不透明である場合がある。その場合、シンチレータの光収率及びMTFが必要とされるレベルに維持されることができるように、リフレッシュ光は半透明のシンチレータ基板を用いて適用されることができる。 そのような半透明のシンチレータ基板は、参照符号206,213に関して図2に示される。 シンチレータ基板206,213の機能は、以下のとおりである。 -必要とされる特性を獲得するように制御された成長プロセスでシンチレータ材料がその上に堆積される基板。 -基板の表面特性は、堆積されるシンチレータ層の構造にとって重要である。 -さらに、シンチレータ基板206及び213は、それが検出器フロントエンドの一部であるときに、シンチレータ層のためのキャリアプレートを提供しなければならない。 -またさらに、デポジションプロセスの後、後処理の後、又はフラット検出器の寿命の間の、シンチレータの基板からの剥離は回避されなければならない。基板の特性及び準備はこの能力にとって重要である。 -さらに、基板は、反射体を提供しなければならず、そこから、シンチレータによって生成される光のうちの予定された割合が、センサアレイの方へ反射される。 -さらに、基板材料は、一次X線のうちのわずかな割合のみを吸収又は散乱させなければならない。 用いられることができる基板材料は、アルミニウム及び/若しくはアモルファス炭素又は銀からなることができ、又はそれらを含むことができる。これらの層は、光に対して不透明である。 CsI層がその上に成長される図2に示される基板213は、CsIの挙動を「リフレッシュする」又は変化/改善するために用いられる光に対して透明である。 部分的に透明である不透明な反射層206は、CsIのためのベース層(すなわちCsIの基板)を形成する。 参照符号202,203,204は、センサアレイ205のピクセルを示す。 図3は、本発明の例示的な実施の形態による方法のフローチャートを示す。この方法はステップ1から始まり、ガラスプレートが出発材料として用いられる。種々の種類のガラスが利用可能である。ほうけい酸塩ガラスのようなa-Si基板として使用されるのと同じ材料が特に適用可能である。 ステップ2において、CsI(ヨウ化セシウム)が成長する側のガラス基板の表面構造は、その上に成長する必要があるCsI層が以降の処理の間又は検出器の耐用期間の間に離層しないように、表面にある程度の粗さを与えるために、化学エッチングやサンドブラスチング、又は適切な任意の方法によって変更される。この表面構造はさらに、シンチレータ層の柱状成長を促進するように適応されなければならない。 ステップ3において、反射層(例えばアルミニウム又は銀)は、例えば蒸着つまり化学蒸着プロセスの助けを借りて、粗くされたガラス表面上に堆積される。この層は、ガラスとCsI層との間の不透明な反射型の又は非反射型の分離を形成する。 そして、ステップ4において、多数の小さなホールが、例えばレーザ除去によって反射層中に作成される。これは、ホール毎に又は多数のホールが設けられたマスクによって実行されることができ、このマスクを用いると、基板の一部が一度に加工されることができる。 あるいは、必要とされるホールは、例えばリフトオフ技術を用いて作成される。 ホールは、シンチレータがその上で用いられるセンサのピクセルサイズより非常に小さい(好ましくは、ホール径は、ピクセルサイズの5?10%より小さい)。ピクセルサイズは、アプリケーションや検出器のデザインに依存する。それは、高分解能検出器では、例えば20μm?200μmの範囲であることができ、例えばコンピュータ断層撮影法に用いられる検出器のためのピクセルでは200μm?2mmの範囲であることができる。 光に対して透明である表面の割合(すなわち除去された反射体領域の相対面積密度)は、数%と約30%との間である(例えば2%と20%との間)。これらの条件の下で、ホールを介してシンチレータ材料に導入されることができる光の量は、シンチレータ及び/又はセンサ素子の必要とされる変化を起こすために十分に大きいことができる。同時に、基板中のホールを通して検出器のフロントエンドから失われる光の割合は、予定された小さな値に維持されて、検出器感度は予定されたレベルで影響されるだけである。 CsI基板の上に形成される不透明な層中のホールを光が通過するときに、この光の一部はガラスプレート中及び/又はリフレッシュ光を導入するための光学システム中で反射される。このシンチレータによって生成された光は、不透明層中のホールを通して検出器フロントエンドに部分的に再び入る可能性があり、検出器のMTFを劣化させる可能性がある。またこのために、レーザ除去によって開かれる表面の割合は、シンチレータ層のMTFが著しく低下しないように、小さくなければならない。この条件は、上で説明されたように基板上の光を透過する領域のサイズ及び数を選択することによって達成されることができる。 シンチレータ用の基板としてガラスを使用することの更なる利点は、熱膨張率が、センサアレイ(例えば、ガラス又はシリコン)のそれと整合することができることである。これらの条件の下で、ハードシールが、周囲から検出器のフロントエンドを封じるために、シンチレータ基板とセンサアレイとの間に作成されることができる。 シンチレータ用の基板としてのガラスの代替物として、センサアレイをリフレッシュするため及び/又はシンチレータの挙動を変えるために必要とされる(用いられることができる)放射線(例えばシンチレータの時間挙動及び光収率を変えるための紫外線)に対して透明である他の材料が用いられることができる。 本発明は、X線フラット検出器のフロントエンド中にリフレッシュ光を導入するために用いられることができ、そのようなフロントエンドを有する検出器の感度及びMTFに関する負の影響を及ぼすことはない。このリフレッシュ光は、例えば、時間あたりのその信号遅延に関する検出器の挙動を変更して/改善するために、及び/又はX線露光(ブライトバーン)の後のシンチレータ感度の変化を低減して/改善するために、用いられることができる。」(第6頁第18行?第10頁第29行) イ 「 ![]() 」 上記記載事項アの「シンチレータ基板213、CsIシンチレータ201(基板213とシンチレータ201との間に部分的に透明な、不透明/反射層206が図2に描かれている(が、図1には描かれていない)ように配置されている)」、「反射層206は、シンチレータ基板213上に配置される。」、「この方法はステップ1から始まり、ガラスプレートが出発材料として用いられる。種々の種類のガラスが利用可能である。・・・ステップ2において、CsI(ヨウ化セシウム)が成長する側のガラス基板の表面構造は、」、「ステップ3において、反射層(例えばアルミニウム又は銀)は、例えば蒸着つまり化学蒸着プロセスの助けを借りて、粗くされたガラス表面上に堆積される。この層は、ガラスとCsI層との間の不透明な反射型の又は非反射型の分離を形成する。」、上記記載事項イのFIG.2の記載から、引用文献1には、ガラス基板であるシンチレータ基板213上にアルミニウム又は銀からなる反射層206が堆積され、反射層206上にCsIが成長したシンチレータ層201が配置され、シンチレータ層201とセンサアレイ205が重ね合わされている構成が記載されていると認められる。 また、上記記載事項アの「シンチレータ用の基板としてガラスを使用することの更なる利点は、熱膨張率が、センサアレイ(例えば、ガラス又はシリコン)のそれと整合することができることである。」という記載から、引用文献1には、ガラス基板であるシンチレータ基板213の熱膨張率は、センサアレイ205の熱膨張率と整合する構成が記載されていると認められる。 すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「シンチレータ層201、及び、X線によってシンチレータ中で生成される電磁放射を検出するように適応される検出素子又はピクセル202,203,204を有するセンサアレイ205を有する検出器フロントエンド200であって、 ガラス基板であるシンチレータ基板213上にアルミニウム又は銀からなる反射層206が堆積され、反射層206上にCsIが成長したシンチレータ層201が配置され、シンチレータ層201とセンサアレイ205が重ね合わされており、 ガラス基板であるシンチレータ基板213の熱膨張率はセンサアレイ205の熱膨張率と整合する、検出器フロントエンド200。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2005-164312号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) ア 「【0007】 最近では、CsBrなどのハロゲン化アルカリを母体にEuを賦活した輝尽性蛍光体を用いた放射線パネルが提案され、特にEuを賦活剤とすることで従来不可能であったX線変換効率の向上が可能になり、医療用のX線画像診断機器等にも多く用いられている。 【0008】 放射線画像変換パネルは、上記の輝尽性蛍光体を基板上に蒸着させることにより輝尽性蛍光体層を設けている。放射線画像変換パネルに用いられる基板としては、各種高分子材料、硝子、金属等が知られている(例えば、特許文献2参照)。 【0009】 基板の素材によっては、表面に凹凸があり、輝尽性蛍光体を蒸着させる際に成形性が悪いという問題があった。また基板として熱に弱い樹脂を用いた場合には、輝尽性蛍光体を蒸着する際に、基板が蒸気流の熱により変形する恐れがあった。このため、輝尽性蛍光体を蒸着する基板には、その蒸着面の表面性の改善や基板の保護のために表面に樹脂層を設けることが本出願人により実施されている。 【特許文献1】特開2003-028995号公報 【特許文献2】特開2001-83299号公報(第5頁) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 しかし、基板と輝尽性蛍光体層との間に樹脂層を設けた場合でも、放射線画像変換パネルを急激な温度変化を加えると、基板から輝尽性蛍光体層がはがれたり、割れたりする場合があった。 【0011】 本発明の課題は、高輝度、高鮮鋭性を示し、輝尽性蛍光体層の膜割れがない放射線画像変換パネルを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0012】 以上の課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、例えば図1に示すように、基板11aと該基板11aの少なくとも一方の面に塗設された耐熱性樹脂層11bとからなる支持体11の前記耐熱性樹脂層11b側に輝尽性蛍光体層12が気相堆積法により形成されてなる放射線画像変換パネルにおいて、前記耐熱性樹脂はポリイミドまたはポリアミドイミドであり、そのイミド化率が20?70%であることを特徴とする。」 イ 「【0024】 以下に、本発明の実施の形態例について詳細に述べる。本発明の実施の形態例の放射線像変換パネルは、図1に示すように、基板11aの少なくとも一方の面に耐熱性樹脂層11bの塗設された支持体11と、支持体11の耐熱性樹脂層11b側の面に形成された輝尽性蛍光体層12と、輝尽性蛍光体層12を被覆して保護する保護層20とからなる。 【0025】 基板11aとしては、例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス、結晶化ガラスなどの板ガラス、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、エポキシフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ビスマレイイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、シロキサンフィルム、アクリルフィルム、ポリウレタンフィルム等の熱硬化性プラスチックフィルム、ナイロン12、ナイロン6、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂からなるシートや、これらを貼り合わせたもの、炭素繊維強化樹脂板、アルミニウム、鉄、銅、クロム等の金属シートあるいは親水性微粒子の被覆層を有する金属シート等があげられる。この中では炭素繊維強化樹脂板が好ましい。 【0026】 これら基板11aの厚みは用いる材質等によって異なるが、一般的には80μm?5000μmであり、取り扱い上の観点から、更に好ましいのは250μm?4000μmである。 【0027】 基板11aの少なくとも輝尽性蛍光体層12を形成する面には、耐熱性樹脂層11bを設ける。耐熱性樹脂層11bを設けることで、基板11aの表面を平滑にすることができ、輝尽性蛍光体層12を平滑に形成することができる。なお耐熱性樹脂層11bは基板の両面に設けてもよい。耐熱性樹脂層11bを両面に設けることで、加熱したときに基板11aと耐熱性樹脂層11bとの熱膨張率の差によって支持体11がひずむことを防止することができる。 【0028】 耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミドまたはポリアミドイミドのうち少なくとも1つを用いることができる。ポリイミド、ポリアミドイミドの熱膨張係数は、後述する輝尽性蛍光体層12の熱膨張係数と近いため、輝尽性蛍光体層12のひび割れが発生する恐れがなく好ましい。 【0029】 ポリイミドまたはポリアミドイミドのイミド化率は20?70%であることが好ましく、30?60%であることがより好ましい。イミド化率が高すぎると、輝尽性蛍光体層12の形成時に輝尽性蛍光体の結晶の耐熱性樹脂層11bに対する接着力が低下し、輝尽性蛍光体層12の膜はがれや割れを引き起こす。また、イミド化率が低すぎると輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差が大きくなり、やはり膜割れを引き起こす。 【0030】 基板11a上に耐熱性樹脂層11bを設ける方法としては、樹脂製のシートを貼り合わせる方法や、樹脂を基板11a上に塗布した後に乾燥することで設ける方法があるが、後者が好ましい。これは塗布により耐熱性樹脂層11bを設けることにより、基板11a表面の凹凸を覆い、輝尽性蛍光体層12の形成面を平坦にすることができるからである。 【0031】 耐熱性樹脂の塗布方法としては、スプレーコーターやバーコーター、ダイコーター等を用いる方法があるが、スプレーコーターを用いることが好ましい。スプレーコーターを用いて耐熱性樹脂層11bを設けるには、基板11aを固定し、スプレーガン(図示せず)を一定スピードで動かす方法、基板11aを一定スピードで動かし、一個または複数の固定スプレーノズルで行う方法、いずれでもよいが、基板11aサイズが350mm四方以上の大きなものになる場合は、基板11aを一定スピードで動かし、複数の固定スプレーノズルで行う方法が好ましい。基板11aとスプレーガン(図示せず)との距離は約20cmとし、ノズル圧は約4kgf/cm2とすることが好ましい。 【0032】 耐熱性樹脂を基板11aに塗布したら、基板11aを、70?90℃で20?40分と、120?180℃で20?60分の2段階で乾燥する。乾燥時の温度と時間を調整することにより、耐熱性樹脂層11bを構成するポリイミドまたはポリアミドイミドのイミド化率を適当な値に調整することができる。 【0033】 耐熱性樹脂層11bの乾燥膜厚としては10?150μmが好ましく、特に20?100μmが好ましい。薄すぎると基板11aの凹凸が表面で顕著にわかり、厚すぎると重ね塗りになるために膜厚分布が悪くなる。 【0034】 以上のようにして基板11aに耐熱性樹脂層11bを設けたら、その耐熱性樹脂層11bの基板11aと反対側の面に、輝尽性蛍光体層12を設ける。」 ウ 「【図1】 ![]() 」 すると、上記引用文献2の記載事項から、引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。 「輝尽性蛍光体を基板上に蒸着させることにより輝尽性蛍光体層を設けた放射線画像変換パネルにおいて、放射線画像変換パネルに用いられる基板としては、各種高分子材料、硝子、金属等が知られているが、基板の素材によっては、表面に凹凸があり、輝尽性蛍光体を蒸着させる際に成形性が悪いという問題や、また基板として熱に弱い樹脂を用いた場合には、輝尽性蛍光体を蒸着する際に、基板が蒸気流の熱により変形する恐れがあったため、輝尽性蛍光体を蒸着する基板には、その蒸着面の表面性の改善や基板の保護のために表面に樹脂層を設けることが実施されている。 しかし、基板と輝尽性蛍光体層との間に樹脂層を設けた場合でも、放射線画像変換パネルを急激な温度変化を加えると、基板から輝尽性蛍光体層がはがれたり、割れたりする場合があった。 そこで、高輝度、高鮮鋭性を示し、輝尽性蛍光体層の膜割れがない放射線画像変換パネルを提供するために、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス、結晶化ガラスなどの板ガラスである基板11aの輝尽性蛍光体12を形成する面に、イミド化率が20?70%であるポリイミドまたはポリアミドイミドのうち少なくとも1つを用いた耐熱性樹脂製のシートを貼り合わせて、耐熱性樹脂層11bを設け、その耐熱性樹脂層11bの基板11aと反対側の面に、輝尽性蛍光体層12を設ける。」 3 対比 (1)本願発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「X線によってシンチレータ中で生成される電磁放射を検出するように適応される検出素子又はピクセル202,203,204を有するセンサアレイ205」、「CsIが成長したシンチレータ層201」及び「検出器フロントエンド200」が、それぞれ、本願発明の「光電変換素子を備えた光電変換パネル」、「蛍光体層」及び「放射線画像検出器」に相当する。 イ 引用発明の「ガラス基板」が剛性を有することは明らかであるから、「ガラス基板であるシンチレータ基板213」は、本願発明の「剛性板」に相当する。 ウ 上記ア及びイから、引用発明の「シンチレータ基板213上にアルミニウム又は銀からなる反射層206が堆積され、反射層206上にCsIが成長したシンチレータ層201が配置され」た構成は、本願発明の「蛍光体層を備え」「るシンチレータパネル」に相当し、引用発明の「シンチレータ基板213」が「ガラス基板である」ことは、本願発明の「前記シンチレータパネルは、」「剛性板」「を備え」ることに相当する。 エ 上記ア、イ及びウから、引用発明の「シンチレータ層201、及び、X線によってシンチレータ中で生成される電磁放射を検出するように適応される検出素子又はピクセル202,203,204を有するセンサアレイ205を有する検出器フロントエンド200であって、」「シンチレータ層201とセンサアレイ205が重ね合わされて」いることと、本願発明の「光電変換素子を備えた光電変換パネルと、蛍光体層を備え且つ前記光電変換パネルと貼り合わされるシンチレータパネルとを有する放射線画像検出器」とは、「光電変換素子を備えた光電変換パネルと、蛍光体層を備え且つ前記光電変換パネルと重ね合わされるシンチレータパネルとを有する放射線画像検出器」で一致する。 (2)一致点 してみると、両者は、 「光電変換素子を備えた光電変換パネルと、蛍光体層を備え且つ前記光電変換パネルと重ね合わされるシンチレータパネルとを有する放射線画像検出器であって、 前記シンチレータパネルは、剛性板を備える、放射線画像検出器。」 で一致し、次の各点で相違する。 (3)相違点 ア 本願発明では、「光電変換パネルと貼り合わされるシンチレータパネル」であるのに対して、引用発明では、「シンチレータ層201とセンサアレイ205が重ね合わされて」いると特定されるのみで、貼り合わされるか否かが明らかでない点。 イ 本願発明では、「前記シンチレータパネルは、一方の面に前記蛍光体層が形成される樹脂フィルムを主成分とする支持体と、前記支持体の他方の面と接合される剛性板とを備え、」「前記支持体と前記剛性板とが、接着剤である接着剤層により接合されている」のに対して、引用発明では、「ガラス基板であるシンチレータ基板213上にアルミニウム又は銀からなる反射層206が堆積され、反射層206上にCsIが成長したシンチレータ層201が配置され」ている点。 ウ 本願発明では、「前記剛性板は前記光電変換パネルとの熱膨張係数の差が4.0ppm以内であ」るのに対して、引用発明では、「ガラス基板であるシンチレータ基板213の熱膨張率はセンサアレイ205の熱膨張率と整合する」点。 4 判断 (1)相違点アについて シンチレータパネルと光電変換パネルを貼り合わせることは、特開平10-233496号公報(段落【0034】等)、特開2002-116258号公報(段落【0010】等)、特開2007-285709号公報(段落【0036】等)に示されるように周知であるから、引用発明において、「シンチレータ層201」と「センサアレイ205」を貼り合わせることは、当業者が適宜なし得ることである。 (2)相違点イについて 引用発明2の技術事項の「石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス、結晶化ガラスなどの板ガラスである基板11a」が、本願発明の「剛性板」、引用発明の「ガラス基板であるシンチレータ基板213」に相当する。 また、引用発明2の技術事項の「輝尽性蛍光体層12」と、本願発明の「蛍光体層」、引用発明の「CsIが成長したシンチレータ層201」は、蛍光体層である点で一致する。 一般に、輝尽性蛍光体を含む蛍光体を基板上に蒸着したシンチレータパネルにおいて、蒸着した蛍光体を基板から剥離しないようにすることは、当業者には周知の課題であるから、引用発明においても、「CsIが成長したシンチレータ層201」が「アルミニウム又は銀からなる反射層206」が堆積された「ガラス基板であるシンチレータ基板213」から剥離しないようにする課題が存在することは、当業者には自明である。 そして、引用発明の「アルミニウム又は銀からなる反射層206」が堆積された「ガラス基板であるシンチレータ基板213」は、引用発明2の技術事項の「放射線画像変換パネルに用いられる基板としては、各種高分子材料、硝子、金属等が知られている」とされる基板と同材料であるから、引用発明の「ガラス基板であるシンチレータ基板213上にアルミニウム又は銀からなる反射層206が堆積され、反射層206上にCsIが成長したシンチレータ層201が配置され」ている構成に換えて、引用発明2の技術事項のように、「アルミニウム又は銀からなる反射層206」が堆積された「ガラス基板であるシンチレータ基板213」と「CsIが成長したシンチレータ層201」との間に樹脂層を設けること、具体的には、引用発明2の技術事項のように、「アルミニウム又は銀からなる反射層206」が堆積された「ガラス基板であるシンチレータ基板213」の「CsIが成長したシンチレータ層201」を形成する面に、イミド化率が20?70%であるポリイミドまたはポリアミドイミドのうち少なくとも1つを用いた耐熱性樹脂製のシートを貼り合わせて、その耐熱性樹脂製のシートの「アルミニウム又は銀からなる反射層206」が堆積された「ガラス基板であるシンチレータ基板213」と反対側の面に、「CsIが成長したシンチレータ層201」を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、この耐熱性樹脂製のシートが、本願発明の「樹脂フィルムを主成分とする支持体」に相当する。なお、基板に耐熱性樹脂製のシートを貼り合わせる手段として接着剤を用いることは普通に採用される手段にすぎない。 (3)相違点ウについて 引用発明の「ガラス基板であるシンチレータ基板213の熱膨張率はセンサアレイ205の熱膨張率と整合する」は、「シンチレータ基板213」と「センサアレイ205」の熱膨張率が同一であるか、少なくとも、ほぼ同一であることを示すことは明らかであるところ、両者の熱膨張率の差をどの程度にするかは、「シンチレータ基板213」、「センサアレイ205」それぞれの具体的構成や両者を貼り合わせた検出器としての具体的構成を勘案して当業者が適宜設計し得ることであるから、両者の熱膨張率の差を4.0ppm以内とすることは、当業者が適宜設計し得ることである。 (4)効果について 本願発明の「前記剛性板は前記光電変換パネルとの熱膨張係数の差が4.0ppm以内であ」る構成の「4.0ppm」という数値に格別な技術的意義(特に、臨界的意義)は認められない。 すると、本願発明が奏し得る効果は、引用発明、引用発明2の技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (5)請求人の主張について 請求人は、審判請求書の【請求の理由】「3.」「(3)」「(3-2)」において、 「これらのことから、引用文献1に記載された発明では、結局、シンチレータ基板213とセンサアレイ205とが同程度の熱膨張率を持ち、シンチレータ基板213とセンサアレイ205が熱(温度)に対して同じように伸び縮みする際に、シンチレータ基板213やセンサアレイ205とともにシンチレータ層201や検出層202, 203, 204、反射層206も同じように伸び縮みするため、シンチレータ基板213とセンサアレイ205との間に作成されたハードシールが破壊されずに作成された状態が保つことができると理解することができます(下線は強調のため。以下同じ。)。 一方、引用文献2に記載されたパネルでは、「耐熱性樹脂はポリイミドまたはポリアミドイミドであり、そのイミド化率が20?70%である」ように構成されます(請求項1参照)。これは、「イミド化率が低すぎると(支持体11を構成する耐熱性樹脂層11bと)輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差が大きくなり、…膜割れを引き起こす」(同文献の段落[0029]参照)ためであります。それでは、イミド率を高くして耐熱性樹脂層11bと輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差をなくすることができるかというと、そうではなく、「イミド化率が高すぎると、輝尽性蛍光体層12の形成時に輝尽性蛍光体の結晶の耐熱性樹脂層11bに対する接着力が低下し、輝尽性蛍光体層12の膜はがれや割れを引き起こす」ことになります。 すなわち、引用文献2に記載されたパネルでは、耐熱性樹脂層11bと輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差は0ではなく、有意の差が存在します。なお、引用文献2では、耐熱性樹脂層11bと輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差が存在することを認めたうえで、耐熱性樹脂層のイミド化率を20?70%に調整することで輝尽性蛍光体層を支持体上に確実に接着するとともに基板との熱膨張係数の差による輝尽性蛍光体層の膜割れを防ぐことが記載されております(同文献の段落[0013]、[0020]、[0116]等参照)。 以上のように、引用文献1に記載された発明は、シンチレータ基板213やセンサアレイ205、シンチレータ層201、検出層202, 203, 204、反射層206が同じように伸び縮みするため、シンチレータ基板213とセンサアレイ205との間に作成されたハードシールが破壊されずに作成された状態が保つことができるとする発明であるのに対し、引用文献2に記載された発明では、耐熱性樹脂層11bと輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差は0ではなく有意の差が存在します。 そして、審査官が認定するように、これらの発明を組み合わせるとどのような事態が生じるでしょうか。熱耐性樹脂層(本願の「樹脂フィルムを主成分とする支持体」に相当)の構成を有しない引用文献1に記載の発明に、引用文献2に記載された熱耐性樹脂層を適用すると、少なくとも熱耐性樹脂層と輝尽性蛍光体層(引用文献1ではシンチレータ(層)201)との間で熱膨張率(係数)に差があり、熱耐性樹脂層とシンチレータ(層)201との間で延び縮みに差が生じますから、熱耐性樹脂層とシンチレータ(層)201の部分に作成されたハードシールは破壊されることは火を見るより明らかです。或いは、ハードシールの方が強ければ、熱耐性樹脂層やシンチレータ(層)201の方に破壊や損傷が生じることになります。 いずれにせよ、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とを組み合わせると、上記のようにシンチレータパネルは使い物にならなくなるという結果しか得られません。そのため、引用文献1、2に記載された発明の内容を理解する当業者であれば、そもそもそれらを組み合わせることは考えないはずであります。このように、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を組み合わせること自体に無理があり、引用文献1に記載された検出器に引用文献2に記載された熱耐性樹脂層を適用することには阻害要因があると思料致します。」 と主張している。(なお、上記主張中の「有意の差」は、「耐熱性樹脂層11b」や「輝尽性蛍光体層12」等に膜割れや膜はがれといった不具合が生じるような熱膨張係数の差を意味すると解される。) 確かに、引用発明については、請求人の主張のとおりであるが、引用文献2の技術事項については、まず、引用文献2の 「【0028】 耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミドまたはポリアミドイミドのうち少なくとも1つを用いることができる。ポリイミド、ポリアミドイミドの熱膨張係数は、後述する輝尽性蛍光体層12の熱膨張係数と近いため、輝尽性蛍光体層12のひび割れが発生する恐れがなく好ましい。 【0029】 ポリイミドまたはポリアミドイミドのイミド化率は20?70%であることが好ましく、30?60%であることがより好ましい。イミド化率が高すぎると、輝尽性蛍光体層12の形成時に輝尽性蛍光体の結晶の耐熱性樹脂層11bに対する接着力が低下し、輝尽性蛍光体層12の膜はがれや割れを引き起こす。また、イミド化率が低すぎると輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差が大きくなり、やはり膜割れを引き起こす。」(下線は、当審が付した。) との記載からは、引用文献2の技術事項の「イミド化率が20?70%であるポリイミドまたはポリアミドイミドのうち少なくとも1つを用いた耐熱性樹脂製のシート」の熱膨張係数は輝尽性蛍光体層12の熱膨張係数と近く、輝尽性蛍光体層12のひび割れが発生する恐れがないのであるから、両者の熱膨張係数の差が必ずしも0ではないとしても、請求人の「0ではなく有意の差が存在する」(特に、下線部)との主張には根拠がない。(なお、請求人の「0ではなく有意の差が存在する」との主張の根拠は、引用文献2の段落【0029】のイミド化率が20%よりも低い、あるいは、70%よりも高い場合の記載に基づくものであって、明らかに引用文献2の記載を誤認するものである。) すると、耐熱性樹脂層11bと輝尽性蛍光体層12との熱膨張係数の差は0ではなく有意の差が存在することを前提とする、上記請求人の主張は、その前提が誤りであって、採用し得るものではない。 (6)結論 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2の技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-14 |
結審通知日 | 2016-01-19 |
審決日 | 2016-02-02 |
出願番号 | 特願2011-523570(P2011-523570) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01T)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村川 雄一 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
伊藤 昌哉 土屋 知久 |
発明の名称 | 放射線画像検出器 |
代理人 | 特許業務法人光陽国際特許事務所 |