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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1312460 |
審判番号 | 不服2015-9474 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-22 |
確定日 | 2016-03-17 |
事件の表示 | 特願2011-212283「LCP基板用カバー材およびそれを用いたLCP回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月22日出願公開、特開2013- 74129〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年9月28日の出願であって、平成26年9月16日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月18日付け(発送日:同年2月24日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。その後、平成27年9月11日に上申書が提出された。 第2 平成27年5月22日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年5月22日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 平成27年5月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「基板と、この基板の少なくとも一方の表面上に設けられた導体回路とを含む基板構造体、および 前記基板構造体の最外層のうち、少なくとも導体回路側を被覆するカバー材で少なくとも構成された回路基板であって、 前記基板は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルムから形成され、 前記カバー材は、フッ素系樹脂で構成されるとともに、(i)260℃でのハンダ耐熱性を有し、(ii)誘電率が2.0?3.5であり、且つ(iii)誘電正接が0.01以下である、回路基板。」 なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「カバー材」について、当該カバー材を、「ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびフッ素系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種で構成される」ものから、「フッ素系樹脂で構成される」ものに限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開2006-1990号公報(以下「刊行物1」という。)には、「芳香族液晶ポリエステルフィルムおよび積層体」に関し、次の事項が記載されている。 以下、下線は当審で付与するものである。 ア.「【要約】 (修正有) 【課題】誘電損失が小さく、かつ低い加工温度で溶融押出フィルム成形により製造し得る芳香族液晶ポリエステルフィルム、ならびにその用途を提供する。 【解決手段】 溶融時に光学異方性を示す芳香族液晶ポリエステルを溶融成形して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルム。」 イ.「【0002】 芳香族液晶ポリエステルは、吸水性が低く、耐熱性、薄肉成形性などに優れていることから、射出成形して得られるコネクターなどの電子部品に幅広く用いられている。最近では、芳香族液晶ポリエステルは、誘電損失が小さく電気特性にも優れる材料であることから、Tダイ法やインフレーション法等の溶融押出法や、溶液キャスト法などでフィルム状に成形され、金属層との積層体が多層プリント基板などにも利用されるようになり、例えば、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し構造単位を主成分とする芳香族ポリエステルからなる溶液キャストフィルムが提案されている(特許文献1)。」 ウ.「【0042】 本発明の芳香族液晶ポリエステルは、ギガヘルツ帯域およびメガヘルツ帯域のいずれの周波数域においても誘電損失が小さく、かつフィルム成形性に優れるので、該芳香族液晶ポリエステルを溶融成形して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムは、好適にフレキシブルプリント配線板やリジッドプリント配線板、モジュール基盤などの電子基盤用の基板材料、層間絶縁材料および表面保護フィルムなどに使用することができる。また、本芳香族液晶ポリエステルフィルムと金属層との積層体は、コンデンサーや電磁波シールド材として使用することができる。」 エ.記載事項ウからみて、刊行物1に記載された芳香族液晶ポリエステルフィルムは、プリント配線板等の基板材料として利用されるものであり、その場合、基板上の金属層に導体回路が設けられることは言うまでもない。 上記記載事項及び認定事項を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「基板と、基板上に設けられた導体回路とからなり、 前記基板は、溶融時に光学異方性を示す芳香族液晶ポリエステルを溶融成形して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムで構成されている、回路基板。」 (2)本願の出願日前に国内で頒布された特開平7-22741号公報(以下「刊行物2」という。)には、「カバーレイフィルム及びカバーレイフィルム被覆回路基板」に関し、次の事項が記載されている。 オ.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、導体パターンが形成された回路基板表面を被覆するためのカバーレイフィルム及びカバーレイフィルム被覆回路基板に関するものである。」 カ.「【0002】 【従来の技術及びその問題点】電子機器等における回路基板表面には、通常、電気絶縁性の確保、表面保護、防錆、耐折性の向上等を目的として、カバーレイフィルムと称される絶縁性フィルムが被覆される。従来のカバーレイフィルムは、ポリイミドフィルム或いはポリエステルフィルムにエポキシ樹脂、アクリルゴムなどの比較的比誘電率εr の高い樹脂をコーティングした構造となっている。…(略)…。このため、カバーレイフィルム全体の比誘電率εr は4.2?4.5とかなり高いものになっていた。」 キ.「【0004】カバーレイフィルム全体の比誘電率εr を低いものとするために、比誘電率εr が比較的低い充実ポリテトラフルオロエチレンフィルムの片面に接着剤を設けたカバーレイフィルムが特開昭58-108788号公報に提案されている。しかしながら、同公報に開示されているカバーレイフィルムには以下のような問題がある。 (1) 充実ポリテトラフルオロエチレンフィルムは接着性に難点があり、回路基板表面に被覆したときに接着強度が弱く、カバーレイフィルムとしての役割を十分果たすことができない。 …(略)…。」 ク.「【0007】以下本発明のカバーレイフィルムについて詳述する。本発明による第1のカバーレイフィルムは、特定の細孔特性を有する多孔質フッ素樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤からなるコーティング層を設けた構造を有し、かつ該コーティング層のコーティング量が該多孔質フッ素樹脂フィルムの全空孔容積の5?100%に相当する量であることを特徴とするものである。」 ケ.「【0008】本発明において用いる多孔質フッ素樹脂フィルムにおいて、そのフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレンパーフロオロビニルエーテル共重合体(PPFA)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)等が用いられる。これらのフッ素樹脂は、いずれも、その比誘電率が3以下のものである。また、多孔質フッ素樹脂フィルムは多数の連通微細孔を有するものであり、空孔率20?98%、好ましくは40?90%、平均孔径0.1?10μm、好ましくは0.2?5μmの細孔特性を有するものである。多孔質フッ素樹脂フィルムの厚さは5?500μm、好ましくは10?200μmである。」 上記記載事項からみて、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記されている。 「回路基板表面に、カバーレイフィルムとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を被覆した、回路基板。」 3.対比 本願補正発明と引用発明1とを対比すると、その構造・機能からみて、後者の「基板上に設けられた導体回路」は、前者の「この基板の少なくとも一方の表面上に設けられた導体回路」に相当し、また、後者の「溶融時に光学異方性を示す芳香族液晶ポリエステルを溶融成形して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルム」は、前者の「光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルム」に相当するから、本願補正発明と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものである。 [一致点] 「基板と、この基板の少なくとも一方の表面上に設けられた導体回路とを含む基板構造体で構成された回路基板であって、 前記基板は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルムから形成される、回路基板。」 [相違点] 回路基板に関して、本願補正発明では「前記基板構造体の最外層のうち、少なくとも導体回路側を被覆するカバー材」を備えており、「前記カバー材は、フッ素系樹脂で構成されるとともに、(i)260℃でのハンダ耐熱性を有し、(ii)誘電率が2.0?3.5であり、且つ(iii)誘電正接が0.01以下である」のに対して、引用発明1では、カバー材を備えているか否か明らかでない点。 4.判断 導体回路の保護等を目的として、回路基板上にカバー材を設けることは、刊行物2に【従来の技術】(記載事項カ参照)として記載されるように、周知の技術手段であるから、引用発明1の回路基板をカバー材を備えるものとすることは単なる設計事項にすぎず、また、引用発明2は、カバー材として「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)」を用いるものであるから、引用発明1のカバー材として、「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)」を用いることは、引用発明2に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 ところで、引用発明2は、本願明細書の段落【0091】に記載されている、本願補正発明の実施例3と同じ「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)」を用いるものであるから、本願明細書の段落【0068】に記載された物性を有すると解され、引用発明2は上記(i)?(iii)の物性条件を満たすものといえる。 したがって、相違点に係る発明特定事項とすることは、引用発明2に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願補正発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、審判請求人は、平成27年9月11日付けの上申書において、本願補正発明に「ただし、前記基板および前記カバー材において、連続気孔性の多孔質のものを除く。」との特定事項を追加する補正案を提示していが、刊行物2には、引用発明2の他に、引用発明2の従来技術として、カバーレイフィルム(カバー材)が「充実ポリテトラフルオロエチレンフィルム」であるものも記載されており(記載事項キ参照)、補正案の発明が進歩性を有するとは認められない。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年11月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「基板と、この基板の少なくとも一方の表面上に設けられた導体回路とを含む基板構造体、および 前記基板構造体の最外層のうち、少なくとも導体回路側を被覆するカバー材で少なくとも構成された回路基板であって、 前記基板は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルムから形成され、 前記カバー材は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびフッ素系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種で構成されるとともに、(i)260℃でのハンダ耐熱性を有し、(ii)誘電率が2.0?3.5であり、且つ(iii)誘電正接が0.01以下である、回路基板。」 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は、上記第2、2(1)に記載したとおりである。 3.対比 本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明の「カバー材」について、当該カバー材に係る「フッ素系樹脂で構成される」との特定事項を、「ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびフッ素系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種で構成される」と拡張するものである。 してみると、本願発明と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものである。 [一致点] 「基板と、この基板の少なくとも一方の表面上に設けられた導体回路とを含む基板構造体で構成された回路基板であって、 前記基板は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルムから形成される、回路基板。」 [相違点] 回路基板に関して、本願発明では「前記基板構造体の最外層のうち、少なくとも導体回路側を被覆するカバー材」を備えており、「前記カバー材は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびフッ素系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種で構成されるとともに、(i)260℃でのハンダ耐熱性を有し、(ii)誘電率が2.0?3.5であり、且つ(iii)誘電正接が0.01以下である」のに対して、引用発明1では、カバー材を備えているか否か明らかでない点。 4.判断 回路基板としてカバー材を備えるものとすることは、上記第2、4のとおり単なる設計事項にすぎず、また、回路基板のカバー材を、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびフッ素系樹脂からなる群から選択することは、例えば、特開2010-278168号公報(段落【0024】、【0025】参照)、特開2003-86948号公報(段落【0125】、【0126】参照)、刊行物2(記載事項カ、キ、ケ参照)等に記載されるように周知であり、上記(i)?(iii)の物性条件については、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂が満たすものといえる(本願明細書の段落【0062】、【0064】、【0068】参照)。 したがって、相違点に係る発明特定事項とすることは、周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明による効果も、引用発明1及び周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものである。 4.まとめ したがって、本願発明は、引用発明1及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-13 |
結審通知日 | 2016-01-19 |
審決日 | 2016-02-01 |
出願番号 | 特願2011-212283(P2011-212283) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 遠藤 秀明 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
森川 元嗣 大内 俊彦 |
発明の名称 | LCP基板用カバー材およびそれを用いたLCP回路基板 |
代理人 | 中田 健一 |
代理人 | 野田 雅士 |
代理人 | 杉本 修司 |
代理人 | 堤 健郎 |
代理人 | 小林 由佳 |