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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1312560
審判番号 不服2015-2227  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-05 
確定日 2016-04-05 
事件の表示 特願2011-144824「通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日出願公開、特開2013- 12949、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月29日の出願であって、平成26年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成27年2月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、その後、当審において同年12月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年2月1日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年2月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
複数の宛先が記憶される宛先記憶手段と、前記宛先に対応する他の通信装置の現在の状態を示すプレゼンス情報を取得する情報取得手段と、を備えてなる通信装置であって、
前記情報取得手段は、当該通信装置の起動時に、前記宛先記憶手段に記憶されている前記宛先のうち予め定められた特定条件を満たす一部の宛先のみについて前記プレゼンス情報を取得するものであり、前記一部の宛先についての前記プレゼンス情報の取得後に、前記宛先記憶手段に記憶されている前記宛先のうち当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものであることを特徴とする通信装置。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2007/046364号
刊行物2:特開平10-126485号公報

刊行物1には、予め登録されているプレゼンスユーザのうち、当該アドレス帳画面上に表示されているユーザ、または、その後切り替えられる画面上に表示されているユーザについてのみ、プレゼンス情報を受信することで、ユーザが更新を望んでいると思われるプレゼンスのみを受信することが記載されている。また、刊行物2には、電源投入直後に、電話帳データベースから検索した宛先一覧を電話宛先選択画面に表示することが記載されている。そして、引用文献1及び2は、ともに通信装置において、通信相手の一覧情報を表示する技術に関する発明であるので、刊行物1に記載された発明における、予め登録されたプレゼンスユーザが表示されるアドレス帳画面を表示してプレゼンス情報を取得する端末装置において、アドレス帳画面を表示するタイミングとして、刊行物2に記載された発明における、通信装置の起動時のタイミングを採用することは、当業者が容易になし得るものである。

2.当審の判断
(1)刊行物の記載事項
A 原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/046364号(刊行物1)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「技術分野
[0001] 本発明は、プレゼンス機能を備えたプレゼンス表示端末装置、およびプレゼンス管理システムに関するものである。」(1頁)

ロ.「[0014] 図1は、プレゼンスサーバと端末とにより構成されるプレゼンス管理システムを説明するための図である。図1に示すプレゼンス管理システムでは、端末Aは相手の状態を見る側であり、端末Bは自分の状態を見せる側である。サーバCはプレゼンスサーバである。プレゼンスサーバCは、各端末から提供されたプレゼンス情報を保持・管理して、プレゼンス情報を要求する端末に送信する機能を有する。図1に示す例では、プレゼンスサーバCは予め端末Bのプレゼンス情報を有しているものとする。以下、本システムの処理手順の例を説明する。まず、(1)端末AがプレゼンスサーバCに対して端末Bのプレゼンス情報の開示依頼を行う。その後、(2)プレゼンスサーバCは、端末Bのプレゼンス情報を端末Aへ提供する。すると端末Aは端末Bのプレゼンス情報を取得することにより、端末Aの画面上に端末Bのプレゼンス情報を表示させることができるようになる。一方、端末Bのプレゼンス情報を変更する処理が行われると、(3)端末BはプレゼンスサーバCへプレゼンス情報を更新するよう指示を出す。その後、プレゼンスサーバCでは、端末Bに関するプレゼンス情報が更新され、(4)端末Aに対して更新された端末Bに関するプレゼンス情報が提供される。以上が、プレゼンスサーバと各端末とのシステム構成である。なお、図1に示すプレゼンス管理システムでは端末が2つのみ示されているが、例えば、端末Bに対応する端末(すなわち、見せる側の端末)を複数備えて、端末Aにおいて、複数の端末のプレゼンス情報を見ることができるようにすることも可能である。」(5?6頁)

ハ.「[0022] 以下、アドレス帳202に登録されているユーザの中からプレゼンスユーザを登録する際の手順について、図5のフローチャートに基づいて説明する。なお、ここでは、松田さんの端末装置10のアドレス帳202に登録されている足利さんをプレゼンスユーザとして登録する場合について説明する。また、以下に参照する図面の画面表示は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はそれらの表示形態に限定されるものではない。
[0023] 図18は、ステップS101において、所定の操作によりアドレス帳202を開いたときに表示されるアドレス帳画面である。アドレス帳画面は、アドレス帳に登録されているユーザのリスト表示である。アドレス帳画面では、通常、ユーザは所定の方法(例えばイニシャルのアルファベット)で分類され、カテゴリー毎に表示される。図18には、苗字のイニシャルが母音(A、I、U、E、O)であるユーザがリスト表示されている。
[0024] 図18のアドレス帳画面から足利さんを選択すると(ステップS102)、図6のアドレス詳細画面が表示される(ステップS103)。この実施形態では、アドレス詳細画面がプレゼンス情報も表示できるように構成されている。しかし、足利さんはプレゼンスユーザとしては未だ登録されていないため、図6ではプレゼンス情報の代わりに「プレゼンス未登録」と表示されている。
[0025] 次にアドレス詳細画面右下の「メニュー」を選択すると、図7のアドレス帳メニュー画面が表示される。メニュー画面から「プレゼンス登録」を選択すると、プレゼンスの相互開示を足利さんに申し込むかどうかを確認するための図8の確認画面が表示される。確認画面で「YES」を選択すると、足利さんの端末装置10へプレゼンス相互開示の要求が送信される(ステップS104)。要求を受けた足利さんの端末装置10は、その要求を許可するかどうかを決定するための図9の画面を表示する。
[0026] 要求が許可されると(ステップS105:YES)、次にプレゼンスユーザ登録に必要な情報がアドレス帳データベースに含まれているか否かが確認される(ステップS106)。プレゼンスユーザ登録に必要な情報は、例えば、ユーザ名、電話番号、メールアドレスなどであり、これらの情報はアドレス帳データベースに既に登録されていることが多い。その場合には(ステップS106:YES)、ステップS107に進み、プレゼンスユーザ登録に必要な情報はアドレス帳データベースから取得される。アドレス帳データベースに必要な情報が含まれていない場合には(ステップS106:NO)、ステップS108に進み、通信により相手方(すなわち、足利さん)の端末10から必要な情報が取得される。ステップS107又はS108にて登録に必要な情報が取得されると、次に取得した情報をプレゼンス情報データベースが保持するリストに記録することによってプレゼンスユーザ登録が行われ(ステップS109)、次いで登録完了を知らせる図10の画面が表示される。
[0027] 以上の様な処理によって、アドレス帳に登録されているユーザをプレゼンスユーザに登録することができる。なお、図19は足利さんがプレゼンスユーザのリストに登録された後のアドレス詳細画面である。登録前の図6の画面とは異なり、プレゼン情報が表示されている。
[0028] なお、プレゼンス対象のリストは、プレゼンス情報データベース206に備えられていてもよいし、端末装置10内の他の場所に備えられていてもよい。
[0029] 更新通知情報管理部204bは、端末装置10がプレゼンスサーバより通知され、受信した更新情報(図1の従来例参照。プレゼンスサーバCにより通知されるプレゼンス情報の更新にかかる情報)を管理する機能を有する。
[0030] 更新プレゼンス情報取得部204cは、受信した更新情報に基づいて更新プレゼンス情報を取得すべきかどうかを判断して、更新プレゼンス情報を取得する機能を有する。本発明の実施形態によれば、更新情報に含まれるプレゼンスユーザが、端末装置10の表示画面上に表示されているプレゼンスユーザであれば、或いは更新情報に含まれるプレゼンスユーザのプレゼンス情報が、端末装置10の表示画面上に表示されているプレゼンス情報であれば、その更新プレゼンス情報を取得する。」(7?9頁)

ニ.「[0054] 次に、アドレス帳機能により表示されたプレゼンス情報を更新する機能について、図17に示すフローチャートAを用いて説明する。
[0055] ステップS301では、液晶ディスプレイ111にアドレス帳画面が表示される。アドレス帳の表示形態としては、例えば、(A)アルファベット順、(B)グループ順、(C)臨時グループ順、等の様々なソートによる表示が想定される。それらのソートに基づいて、表示画面上にユーザ名が表示される。
[0056] ステップS302では、表示画面上に、更新情報に含まれているプレゼンスユーザのユーザ名(ステップS204において更新されたプレゼンスユーザのユーザ名を除く)が表示されているかどうかを判定する。更新情報に含まれているプレゼンスユーザのユーザ名が表示されていれば(ステップS302:YES)、ステップS303へ進む。更新情報に含まれているプレゼンスユーザのユーザ名が表示されていなければ(ステップS302:NO)、ステップS304へ進む。なお、ステップS302による処理は、アドレス帳機能202により判定されるアドレス帳画面上に表示されているユーザ名に基づいて、更新通知情報管理部204cが判定するものである。
[0057] ステップS303では、ステップS302においてアドレス帳画面上に表示されていると判定された更新情報に含まれているプレゼンスユーザのプレゼンス情報がプレゼンスサーバCから受信されることによりプレゼンス情報が更新される。その後、ステップS304へ進む。なお、ステップS303における処理は、更新プレゼンス情報取得部204cにより行われる。
[0058] ステップS304では、表示画面の切り替えがあったかどうかが判定される。表示画面の切り替えには、例えばユーザによる明示的な表示画面切替指示(例えば、イニシャルがKのユーザのリスト表示からイニシャルがSのユーザのリスト表示への表示切替の操作)や、更新処理の終了指示などが含まれる。また、必要に応じて端末装置が自動的に表示画面を切り替える場合も含まれる。このような表示画面の切り替えがあると(ステップS304:YES)、ステップS302へ戻り、切り替え後の画面に表示されるユーザに対して同様の処理が続けて行われる。切り替えがなければ(ステップS304:NO)、ステップS305へ進む。
[0059] ステップS305では、待ち受け画面へ戻る操作が行われたかどうかを判定する。すなわち、ユーザは、アドレス帳機能202において種々の操作を行うことができるが、端末装置10は、アドレス帳機能202を終了して(或いは起動させたままでもよいが)、待ち受け画面へ戻る指示が出されたかどうかを判定する。待ち受け画面へ戻る場合は(ステップS305:YES)、ステップS306へ進む。待ち受け画面へ戻る操作が行われない場合は(ステップS305:NO)、ステップS304へ戻る。
[0060] ステップS306では、待ち受け画面が表示される。次いで、ステップS307では、未更新のプレセンスユーザがあるかどうかが判定される。未更新のプレゼンスユーザがあれば(ステップS307:YES)、そのまま処理を終了する。未更新のプレゼンスユーザがなければ、すなわち、更新情報に含まれているプレゼンスユーザのプレゼンス情報が全て更新されていれば(ステップS307:NO)、ステップS308へ進み、プレゼンスユーザの更新が未だ行われていないということを示す表示を解除する。その後、プレゼンス情報の更新にかかる本処理は終了する。[0061] 以下、図17に示すステップS301からステップS307までの処理を、画面遷移図を用いて具体的に説明する。なお、以下の図18から図27は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はそれらの表示形態に限定されるものではない。
[0062] 図18は、ステップS301の処理により表示されるアドレス帳画面である。アドレス帳画面には、イニシャルが母音(A、I、U、E、O)のユーザ名が表示されている。表示されているユーザの中で、足利Tは、更新情報に含まれているプレゼンスユーザである。しかし、足利さんのプレゼンス情報は、図13のステップS204において既に更新済みである。したがって、図17のステップS302において判定されるプレゼンスユーザには該当しない。
[0063] 図19は、図18において足利Tを選択した場合に表示されるアドレス詳細画面である。なお、本発明の実施形態ではアドレス詳細画面にプレゼンス情報も表示される。足利さんの場合は、図17のステップS204において更新されたプレゼンス情報が表示されている。すなわち、足利さんのメインステータスが「移動中:通話は不可です」に更新されている。」(14?16頁)

上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の[0001]における「本発明は、プレゼンス機能を備えたプレゼンス表示端末装置、・・・に関するものである。」との記載、上記ハ.[0023]における「図18は、ステップS101において、所定の操作によりアドレス帳202を開いたときに表示されるアドレス帳画面である。アドレス帳画面は、アドレス帳に登録されているユーザのリスト表示である。」との記載、上記ロ.の[0014]における「図1は、プレゼンスサーバと端末とにより構成されるプレゼンス管理システムを説明するための図である。・・・端末Bのプレゼンス情報を変更する処理が行われると、(3)端末BはプレゼンスサーバCへプレゼンス情報を更新するよう指示を出す。その後、プレゼンスサーバCでは、端末Bに関するプレゼンス情報が更新され、(4)端末Aに対して更新された端末Bに関するプレゼンス情報が提供される。」との記載、上記ハ.[0030]における「更新プレゼンス情報取得部204cは、・・・更新情報に含まれるプレゼンスユーザが、端末装置10の表示画面上に表示されているプレゼンスユーザであれば、或いは更新情報に含まれるプレゼンスユーザのプレゼンス情報が、端末装置10の表示画面上に表示されているプレゼンス情報であれば、その更新プレゼンス情報を取得する。」との記載、及び図1、18によれば、プレゼンス表示端末装置は、複数のユーザが登録されるアドレス帳と、ユーザに対応する他の端末装置のプレゼンス情報を取得する更新プレゼンス情報取得部とを備えている。
また、上記ニ.の[0057]における「ステップS303では、ステップS302においてアドレス帳画面上に表示されていると判定された更新情報に含まれているプレゼンスユーザのプレゼンス情報がプレゼンスサーバCから受信されることによりプレゼンス情報が更新される。その後、ステップS304へ進む。なお、ステップS303における処理は、更新プレゼンス情報取得部204cにより行われる。」との記載、及び図17によれば、プレゼンス表示端末装置は、アドレス帳画面上に表示されていると判定されたプレゼンスユーザのプレゼンス情報が受信されることによりプレゼンス情報が更新されるから、更新プレゼンス情報取得部が、アドレス帳に登録されているユーザのうち予め登録されたユーザのみについてプレゼンス情報を取得していることが読み取れる。

したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「複数のユーザが登録されるアドレス帳と、前記ユーザに対応する他の端末装置のプレゼンス情報を取得する更新プレゼンス情報取得部と、を備えてなるプレゼンス表示端末装置であって、
前記更新プレゼンス情報取得部は、前記アドレス帳に登録されている前記ユーザのうち予め登録されたユーザのみについて前記プレゼンス情報を取得するプレゼンス表示端末装置。」

B 原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-126485号公報(刊行物2)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ファクシミリ通信機能を備えたファクシミリ装置に関する。」(2頁1欄)

ロ.「【0027】図4はカラーLCDに表示される宛先登録/変更画面の一例を示す図、図5は同じくカラーLCDに表示されるファックス送信宛先選択画面の一例を示す図、図6は同じくカラーLCDに表示される電話送信宛先選択画面の一例を示す図である。
【0028】まず、システム制御部23はオペレーションパネル制御ドライバ27によってアナログタッチパネル4から電話番号登録作業を選択する入力を検知すると、システム情報設定ユーティリティ14に制御を移すと共に、カラーLCD3に図4に示した宛先登録/変更画面40を表示する。使用者は宛先登録/変更画面40内の宛先名欄41に詳細な宛先名称を入力し、表示名欄42に図5及び図6にそれぞれ示したファックス送信宛先選択画面50と電話宛先選択画面60に一覧表示するときの表示名称を入力する。
【0029】さらに、ファックス番号欄43に相手先のファックス装置のファックス回線用の電話番号であるファックス番号を入力し、電話番号欄44に相手先の電話機の電話通話用の電話番号を入力する。このファックス番号又は電話番号がないときにはそれぞれの欄への入力は不必要である。そして、上記入力の後に設定キー45を入力する。
【0030】システム制御部23は、オペレーションパネル制御ドライバ27によって上記各入力情報を受け取ると、システム情報設定ユーティリティ14によってその入力された宛先名称に電話番号又はファクシミリ番号を対応させて電話帳データベース19に設定登録させる。その際、未入力部分には未登録用の識別子として、例えば、NUULLコードを登録する。また、システム情報設定ユーティリティ14はこのファクシミリ装置で使用されるシステム情報18の登録及び検索も行なう。
【0031】次に、上記登録の後にシステムの電源投入直後は、システム制御部23は通信ジョブ制御部16を介して電話アプリケーション11によってカラーLCD3に図6に示した電話宛先選択画面60を表示し、システム情報設定ユーティリティ14によって電話帳データベース19から電話通話用の電話番号のみを検索して電話宛先選択画面60に宛先一覧表示する。」(4頁5欄)

上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0001】における「この発明は、ファクシミリ通信機能を備えたファクシミリ装置に関する。」との記載、上記ロ.の【0031】における「上記登録の後にシステムの電源投入直後は、システム制御部23は通信ジョブ制御部16を介して電話アプリケーション11によってカラーLCD3に図6に示した電話宛先選択画面60を表示し、システム情報設定ユーティリティ14によって電話帳データベース19から電話通話用の電話番号のみを検索して電話宛先選択画面60に宛先一覧表示する。」との記載、及び図6によれば、ファクシミリ装置は、電源投入直後に、電話宛先選択画面を表示している。

したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「電源投入直後に、電話宛先選択画面を表示するファクシミリ装置。」

(2) 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「ユーザ」と、本願発明の「宛先」とは、後述する相違点を除いて、「通信に関する情報」という点で一致する。
b.引用発明1の「アドレス帳」は、ユーザの宛先を記憶する機能を有するから、「宛先記憶手段」ということができる。
c.引用発明1の「他の端末装置」は、端末装置が通信装置に相当するから、本願発明の「他の通信装置」ということができる。
d.引用発明1の「プレゼンス情報」は、他の端末装置の現在の状態を示すから、本願発明の「現在の状態を示すプレゼンス情報」ということができる。
e.引用発明1の「更新プレゼンス情報取得部」は、プレゼンス情報を取得するから、本願発明の「情報取得手段」ということができる。
f.引用発明1の「予め登録されたユーザ」と、本願発明の「予め定められた特定条件を満たす一部の宛先」とは、後述する相違点を除いて、「特定の条件を満たす通信に関する情報」という点で一致する。
g.引用発明1の「プレゼンス表示端末装置」は、他の端末装置と通信するから、本願発明の「通信装置」ということができる。

したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「複数の通信に関する情報が記憶される宛先記憶手段と、前記通信に関する情報に対応する他の通信装置の現在の状態を示すプレゼンス情報を取得する情報取得手段と、を備えてなる通信装置であって、
前記情報取得手段は、前記宛先記憶手段に記憶されている前記通信に関する情報のうち特定の条件を満たす通信に関する情報のみについて前記プレゼンス情報を取得するものである通信装置。」

<相違点1>
一致点の「通信に関する情報」に関し、
本願発明は、「宛先」であるのに対し、引用発明1は、「ユーザ」である点。

<相違点2>
一致点の「プレゼンス情報を取得する」タイミングに関し、
本願発明は、「当該通信装置の起動時に」プレゼンス情報を取得するのに対し、引用発明1は、その様な特定がない点。

<相違点3>
一致点の「特定の条件を満たす通信に関する情報」に関し、
本願発明は、「予め定められた特定条件を満たす一部の宛先」であるのに対し、引用発明1は、「予め登録されたユーザ」である点。

<相違点4>
本願発明は、「前記一部の宛先についての前記プレゼンス情報の取得後に、前記宛先記憶手段に記憶されている前記宛先のうち当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものである」のに対し、引用発明1は、その様な構成を備えない点。

(3)判断
そこで、まず、上記相違点4について検討する。
引用発明1は、「前記更新プレゼンス情報取得部は、前記アドレス帳に登録されている前記ユーザのうち予め登録されたユーザのみについて前記プレゼンス情報を取得する」に過ぎず、そもそも、「更新プレゼンス情報取得部」(情報取得手段)のプレゼンス情報を取得するタイミングが、「当該通信装置の起動時」ではないから、上記相違点4における本願発明の発明特定事項である「当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものである」点を、引用発明1から導き出すことはできない。
また、上記「(1)刊行物の記載事項」の項Bのとおり、刊行物2には、「電源投入直後に、電話宛先選択画面を表示するファクシミリ装置。」との引用発明2が記載されている。
しかしながら、上記引用発明2は、上記相違点4における本願発明の発明特定事項である「当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものである」点を開示も示唆もしていないから、例え、上記引用発明2があったとしても、引用発明1及び2に基づいて、本願発明を導き出すことはできない。
そして、本願発明は、上記発明特定事項を備えることにより、「当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものである」ことから、初期処理を含む他の処理が行われない時間帯に特定条件を満たさなかった未取得の宛先についてのプレゼンス情報が取得されるため、通信装置における処理負担は大きくならず、しかも、起動時後、未取得のプレゼンス情報が取得されるようになるので、ユーザーは無駄に待ち時間を費やすことなく、所望する宛先のプレゼンス情報を知ることができるという作用効果を奏するものである。

よって、本願発明は、上記相違点1ないし3について検討するまでもなく、引用発明1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)請求項2、3、5について
請求項2、3、5は、請求項1を直接又は間接的に引用する従属項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)請求項4について
請求項4は、請求項1に係る発明の発明特定事項である「特定条件」を、「宛先のうち当該通信装置で実行される通信処理の宛先として使用された使用頻度が予め定められた高頻度以上であるという特定条件」とした発明であるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

1.請求項4には、「前記プレゼンス情報の監視が開始された宛先のうち、前記宛先表示手段による表示画面の遷移により表示されなくなった宛先、又は、該遷移後の表示画面及び該表示画面に連続する予め定められた数の表示画面のいずれにも表示されなくなった宛先について前記プレゼンス情報の監視を停止するものである」との記載があり、プレゼンス情報の監視が開始された宛先に関し、表示されなくなった宛先についてプレゼンス情報の監視を停止していくものである。一方、請求項4が引用する請求項1には、「前記一部の宛先についての前記プレゼンス情報の取得後に、前記宛先記憶手段に記憶されている前記宛先のうち当該通信装置の起動時に取得されなかった残りの宛先についての前記プレゼンス情報を当該通信装置の起動中における処理の空き時間に取得するものである」との記載があり、特定条件を満たす一部の宛先についてのプレゼンス情報を取得後、起動時に取得されなかった残りの宛先についてのプレゼンス情報を起動中における処理の空き時間に取得するものである。してみれば、請求項1では、起動時に取得されなかった残りの宛先についてのプレゼンス情報を取得するのに対して、請求項4では、表示されなくなった宛先についてのプレゼンス情報の監視を停止すること、すなわち、プレゼンス情報の取得を中止するという互いに矛盾する処理となっており、請求項4に係る発明が請求項1に係る発明との関係で不明瞭となっている。よって、請求項4に係る発明は明確でない。また、発明の詳細な説明(段落【0028】?【0035】【0045】、図5)を参酌しても、請求項4に係る発明の態様を含む実施形態は記載されていない。したがって、請求項4に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

2.請求項5において、「前記情報取得手段は、当該通信装置の起動時に、前記宛先記憶手段に記憶されている前記宛先のうち当該通信装置で実行される通信処理の宛先として使用された使用頻度が予め定められた高頻度以上であるという特定条件を満たす一部の宛先のみについて前記プレゼンス情報の監視を開始することにより前記プレゼンス情報を継続して取得し、当該通信装置の起動後であって前記通信処理の宛先が設定された後に、前記プレゼンス情報の監視が開始された宛先のうち前記特定条件を満たさなくなった宛先について前記プレゼンス情報の監視を停止するものである」と記載され「前記通信処理の宛先が設定された後」であれば「いつでも」「前記プレゼンス情報の監視が開始された宛先のうち前記特定条件を満たさなくなった宛先について前記プレゼンス情報の監視を停止する」という態様を含むものである。他方、発明の詳細な説明(段落【0038】?【0044】、図6)では、「表示画面の表示終了」(S18)を条件として「使用頻度の低い宛先のプレゼンス情報の監視を停止」(S19)することしか記載されておらず、「いつでも」「前記プレゼンス情報の監視が開始された宛先のうち前記特定条件を満たさなくなった宛先について前記プレゼンス情報の監視を停止する」ことまでは記載されていない。よって、請求項5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

2.当審拒絶理由の判断
(1)平成28年2月1日付け手続補正書によって、旧請求項4は削除された。また、新請求項4は、当初明細書の段落【0038】?【0044】、図6に記載された事項に基づいて補正され、段落【0043】及び図6のステップS18に基づいて、プレゼンス情報の監視を停止する条件として、「・・・前記通信処理の宛先が設定された後にその宛先の設定に用いられた表示画面の表示が終了したことを条件に、・・・」が追加された。このことにより、新請求項4の記載は、発明の詳細な説明の段落【0038】?【0044】の記載と対応するものとなり、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
よって、当審拒絶理由1.及び2.は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2011-144824(P2011-144824)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04M)
P 1 8・ 537- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松平 英戸次 一夫  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山本 章裕
萩原 義則
発明の名称 通信装置  
代理人 種村 一幸  

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