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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1312575
審判番号 不服2015-7024  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-14 
確定日 2016-04-05 
事件の表示 特願2012-552571「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日国際公開、WO2012/095970、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)1月12日を国際出願日とする出願であって、平成25年7月9日に国内書面及び特許協力条約第34条補正写し提出書が提出され、平成26年5月28日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年7月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年4月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成26年7月17日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
走行用駆動力源としてのエンジン及び電動機と、該エンジンと該電動機との間の動力伝達経路を断接するクラッチと、該電動機に動力伝達可能に連結されて該走行用駆動力源からの動力を駆動輪側へ伝達する自動変速機とを備え、該クラッチを解放した状態で該電動機のみを走行用駆動力源として走行するモータ走行が可能なハイブリッド車両の制御装置であって、
前記モータ走行中に駆動トルクを増大する要求が為されたときに前記エンジンの始動制御と前記自動変速機のダウンシフト制御とを重ねて実行する場合には、前記クラッチの係合完了を起点として、該自動変速機の入力回転速度を変速後の同期回転速度に向けて回転変化させることを開始するものであり、
前記クラッチが係合完了されるまでの前記自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、前記モータ走行中における該自動変速機の入力トルク以上であって、該クラッチの係合完了時における該自動変速機の入力トルク未満とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」

第3 原査定の理由の概要

1.本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



(1)特開2008-179242号公報(以下、「引用文献」という。)

引用文献には、エンジン始動要求(EV→HEVモードへの切り替え要求)とダウンシフト要求とが同時に発生した時に、モータ/ジェネレータ及びエンジンの差回転が規定値に達した時をもってエンジンが始動したと判定し(本願の「クラッチの係合完了」に相当、特に段落【0054】。)、エンジン始動判定後にモータ回転数及びエンジン回転数を変速後の同期回転数に向けて上昇させるものであり(特に図9。)、その際に、目標第2クラッチ伝達トルク容量を必要な走行駆動トルク(tTc2)とすることが記載されてことから、引用文献には、目標第2クラッチ伝達トルク容量をEV走行中における自動変速機の入力トルク以上としているものが記載されていると認められる(段落【0006】及び【0036】-【0062】,図1-3及び7-9。)。
また、上記必要な走行駆動トルク(tTc2)はモータ/ジェネレータのモータトルク余裕量を算出するときに用いられる値であることから(【0046】等参照)、上記必要な走行駆動トルク(tTc2)はモータ/ジェネレータから出力されるトルク、すなわち、変速機の入力トルクであると認められる。

そして、本願発明は引用文献に記載された発明であるとともに、引用文献に記載された発明に基づいて本願発明を発明することは、当業者が容易に想到し得たものである。

第4 当審の判断
1 引用文献
(1) 引用文献の記載
引用文献には、「ハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0012】
この目的のため、本発明によるハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置は、請求項1に記載した以下の構成とする。
先ず、前提となるハイブリッド車両を説明するに、これは、
動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、これらエンジンおよびモータ/ジェネレータ間に伝達トルク容量を変更可能な第1クラッチを介在させ、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間に、伝達トルク容量を変更可能な第2クラッチ、および、変速機を直列に配置して介在させ、
エンジンを停止させ、第1クラッチを解放すると共に第2クラッチを締結することによりモータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モードを選択可能で、この電気走行モードで第1クラッチを締結することによりモータ/ジェネレータでエンジンを始動することによって、エンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力によるハイブリッド走行モードへのモード切り替えが可能なものである。
【0013】
本発明は、かかるハイブリッド車両において、
前記電気走行モードで前記モード切り替え要求と前記変速機のダウンシフト要求とが同時に発生した時、走行用駆動トルクと、変速機入力側回転数をダウンシフト後回転数へ上昇させるのに必要な変速時回転合わせトルクと、エンジン始動トルクとを、前記モータ/ジェネレータの出力可能最大トルクで賄い得ない場合、先ずエンジン始動を伴う前記モード切り替えを指令し、その後に、前記ダウンシフトに呼応した変速機入力回転数の変速時回転合わせを指令するよう構成したものである。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明によるハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置によれば、
電気走行モードからハイブリッド走行モードへのエンジン始動を伴うモード切り替え要求と、変速機のダウンシフト要求とが同時に発生した時、モータ/ジェネレータの出力可能最大トルクが、走行用駆動トルクと、変速機入力側回転数をダウンシフト後回転数へ上昇させるのに必要な変速時回転合わせトルクと、エンジン始動トルクとを賄い得ない場合、エンジン始動を伴う上記モード切り替えを先ず指令し、その後に、上記ダウンシフトに呼応した変速機入力回転数の変速時回転合わせを指令するため、
これら両者を同時に指令するとモータ/ジェネレータトルクが不足する場合においても、当該トルク不足を生ずることがなく、
当該モータ/ジェネレータトルク不足から第2クラッチがスリップ不能になってエンジン始動ショックや変速ショックが生ずるという前記の問題や、モータ/ジェネレータトルクがアクセル対応トルクになるのに大きな応答遅れを生じて加速性能の低下を招くという前記の問題を解消することができる。」(段落【0013】及び【0014】)

(イ)「【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の変速時モード切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えたフロントエンジン・リヤホイールドライブ式ハイブリッド車両のパワートレーンを示し、1はエンジン、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設ける。
【0016】
モータ/ジェネレータ5は、モータとして作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間に、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0017】
モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間に、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および自動変速機3間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0018】
自動変速機3は、2003年1月、日産自動車(株)発行「スカイライン新型車(CV35型車)解説書」第C-9頁?第C-22頁に記載されたと同じものとし、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放組み合わせにより伝動経路(変速段)を決定するものとする。
従って自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
但し自動変速機3は、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0019】
自動変速機3は、図4に示すごときもので、以下にその概略を説明する。
入出力軸3a,3bは同軸突き合わせ関係に配置し、これら入出力軸3a,3b 上にエンジン1(モータ/ジェネレータ5)の側から順次フロントプラネタリギヤ組Gf、センタープラネタリギヤ組Gm、およびリヤプラネタリギヤ組Grを載置して具え、これらを自動変速機3における遊星歯車変速機構の主たる構成要素とする。」(段落【0015】ないし【0019】)

(ウ)「【0026】
上記した自動変速機3を具える図1のパワートレーンにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7を締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
【0027】
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0028】
高速走行時や、大負荷走行時や、バッテリの持ち出し可能電力が少ない時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第1クラッチ6および第2クラッチ7をともに締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
この状態では、エンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。」(段落【0026】ないし【0028】)

(エ)「【0031】
また、図1および図2では第2クラッチ7として専用のものを自動変速機3の前、若しくは、後に追加することとしたが、
この代わりに第2クラッチ7として、図3に示すごとく自動変速機3内に既存する前進変速段選択用の変速摩擦要素、例えばハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cを流用するようにしてもよい。
この場合、第2クラッチ7が前記したモード選択機能を果たすのに加えて、この機能を果たすよう締結される時に自動変速機を対応変速段への変速により動力伝達状態にすることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。」(段落【0031】)

(オ)「【0038】
統合コントローラ20は、電気走行(EV)モードからハイブリッド走行(HEV)モードへのモード切り替え(エンジン始動)要求と、自動変速機3のダウンシフト要求とが同時に発生した時、図7に示すブロック線図に基づき、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)を決定すると共に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを決定する。」(段落【0038】)

(カ)「【0042】
目標第2クラッチ伝達トルク容量選択部34は、上記のクラッチスリップ変速時用目標第2クラッチ伝達トルク容量csTc2を入力されるほか、第2クラッチ7を解放させた状態で前記の変速判定に呼応した自動変速機3の変速を行わせる時における第2クラッチ7の伝達トルク容量、つまりクラッチ解放変速用目標第2クラッチ伝達トルク容量0を入力され、後述する信号から判定可能なクラッチスリップ変速かクラッチ解放変速かに応じ、クラッチスリップ変速なら前者のクラッチスリップ変速時用目標第2クラッチ伝達トルク容量csTc2を目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2として選択し、クラッチ解放変速なら後者のクラッチ解放変速用目標第2クラッチ伝達トルク容量0を目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2として選択する。
かように決定した目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2は、車輪への駆動トルクを決定することになるから、車輪の走行用駆動トルクに相当する。」(段落【0042】)

(キ)「【0050】
ところでこの場合、EV→HEVモード切り替え(エンジン始動)と、変速(ダウンシフト)時回転合わせ制御とを同時に指令すると、上記のモータトルク不足に起因して前記したごとく、第2クラッチ7がスリップ不能になってエンジン始動ショックや変速ショックが生じたり、モータ/ジェネレータトルクがアクセル開度対応トルクになるのに大きな応答遅れを生じて加速性能の低下を招くという問題を発生する。
そこで本実施例においてはこの場合、モータトルク余裕代判定部41からの上記判定結果(ΔesT2≦ΔesT<ΔesT1=0)を受けて目標モータ/ジェネレータ回転数演算部42がモータ/ジェネレータコントローラ22への目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを、先ずEV→HEVモード切り替えのためのエンジン始動用目標値にしてエンジン始動を伴うEV→HEVモード切り替えを先行させ、その後に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを変速(ダウンシフト)時回転合わせ用の目標値にして変速機入力回転数を変速後回転数まで上昇させる変速(ダウンシフト)時回転合わせ制御を行わせるようになす。
これにより、先ずEV→HEVモード切り替え用のエンジン始動が指令され、その後に変速(ダウンシフト)時回転合わせ制御が指令されることとなり、これらが同時に指令されるとモータトルク不足による上記の問題を生ずるところながら、本実施例によればこの問題を回避することができる。」(段落【0050】)

(ク)「【0059】
上記のごとく、モータトルク余裕代判定部41によるモータトルク余裕量ΔesTの判定結果(ΔesT2≦ΔesT<0)を受けて目標モータ/ジェネレータ回転数演算部42が目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを図8に実線で示すごとくに設定した場合における動作は、例えば図9のタイムチャートに示すごときものとなる。
この図9は、瞬時t0にEV→HEV切り替え(エンジン始動)要求と、変速(ダウンシフト)要求とが同時に発生し、アクセルペダルの大きな踏み込みに伴うダウンシフト故に変速前変速機入力回転数と変速後変速機入力回転数との差ΔNで表される変速段間差が大きくてモータトルク余裕量ΔesTがΔesT2≦ΔesT<0の範囲のものである場合の動作タイムチャートである。
【0060】
上記の変速(ダウンシフト)は、解放側摩擦要素を油圧Pc2の低下により解放させると共に締結側摩擦要素を油圧Ponの上昇により締結させることで実行するが、ここでは解放側摩擦要素を第2クラッチ7として兼用するため、その目標油圧を前記のごとくに定めた目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2対応の目標第2クラッチ油圧tPc2とし、解放側摩擦要素油圧Pc2をこれに追従するよう波線図示のように低下させる。
これにより解放側摩擦要素(第2クラッチ7)がスリップするのを検知した瞬時t1に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを、図8につき前述したエンジン始動可能回転数と最大トルク下モータ/ジェネレータ回転数(Nm+ω)との間における回転数αにする。
【0061】
この目標モータ/ジェネレータ回転数tNm=αをモータ/ジェネレータトルクTmの図示する増大により実現し(モータ/ジェネレータ回転数Nm参照)、その後第1クラッチ6の締結によりエンジンを始動させて(エンジン回転数NeおよびエンジントルクTe参照)EV→HEVモード切り替えを行わせる。
モータ/ジェネレータ5およびエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmをαから変速後変速機入力回転数に上昇させ、モータ/ジェネレータ回転数Nmをこれに追従するよう上昇させることにより、変速機入力側回転数を変速後変速機入力回転数に一致させる変速時回転合わせ制御を行う。
かかる変速時回転合わせ制御が終わった後に、解放側摩擦要素油圧(第2クラッチ油圧)Pc2を更に低下させて解放すると共に、締結側摩擦要素油圧Ponを更に上昇させて締結することにより、要求通りの変速(ダウンシフト)を行わせる。」(段落【0059】ないし【0061】)

(2) 引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ク)並びに図1ないし図3、図8及び図9の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていることが分かる。

(サ)上記(1)(ア)ないし(エ)及び図1ないし図3の記載から、引用文献には、動力源としてのエンジン1及びモータ/ジェネレータ5と、エンジン1及びモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する第1クラッチ6と、第2クラッチ7を締結するとモータ/ジェネレータ5と動力伝達状態となり、動力源からの出力回転を後輪2へ伝達する自動変速機3とを備え、第1クラッチ6を解放した状態でモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行させることができる、ハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置が記載されていることが分かる。

(シ)上記(1)(オ)及び(ク)並びに図9の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置は、電気走行中にアクセルペダルの大きな踏み込みがされたときに、エンジン始動要求と、ダウンシフト要求とが同時に発生した場合には、モータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmをαから変速後変速機入力回転数に上昇させ、モータ/ジェネレータ回転数Nmをこれに追従するよう上昇させることにより、変速機入力側回転数を変速後変速機入力回転数に一致させる変速時回転合わせ制御を行うことが分かる。

(ス)上記(1)(カ)ないし(ク)並びに図8及び図9の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置は、エンジン始動とダウンシフト時回転合わせ制御とを同時に指令すると、モータトルク不足に起因して、第2クラッチ7がスリップ不能になってエンジン始動ショックや変速ショックが生じたり、モータ/ジェネレータトルクがアクセル開度対応トルクになるのに大きな応答遅れを生じて加速性能の低下を招くという問題を発生することから、第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを、図8のようにエンジン始動可能回転数と最大トルク下モータ/ジェネレータ回転数(Nm+α)との間における回転数αにするものである。
また、特に図9の記載を上記(シ)とあわせてみると、第2クラッチがスリップを検知した(開始する)瞬時t1からモータ/ジェネレータ5およびエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間全域において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2はt1時の値以下であることから、t1からt2の期間において目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2は第2クラッチ7がスリップする値であることが理解できる。
したがって、引用文献に記載されたハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置は、第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2を第2クラッチ7がスリップする値とすることが分かる。

(3) 引用文献記載発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図3、図8及び図9の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載発明」という。)が記載されていると認める。

「動力源としてのエンジン1及びモータ/ジェネレータ5と、エンジン1及びモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する第1クラッチ6と、第2クラッチ7を締結するとモータ/ジェネレータ5と動力伝達状態となり、動力源からの出力回転を後輪2へ伝達する自動変速機3とを備え、第1クラッチ6を解放した状態でモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行させることができる、ハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置であって、
電気走行中にアクセルペダルの大きな踏み込みがされたときに、エンジン始動要求と、ダウンシフト要求とが同時に発生した場合には、モータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2に、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmをαから変速後変速機入力回転数に上昇させ、モータ/ジェネレータ回転数Nmをこれに追従するよう上昇させることにより、変速機入力側回転数を変速後変速機入力回転数に一致させる変速時回転合わせ制御を行うものであり、
第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2を第2クラッチ7がスリップする値とするハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置。」

2 本願発明についての対比・判断
(1) 本願発明と引用文献記載発明との対比
本願発明と引用文献記載発明とを対比すると、引用文献記載発明における「動力源」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「走行用駆動源」に相当し、以下同様に、「エンジン1」は「エンジン」に、「モータ/ジェネレータ5」は「電動機」に、「間を切り離し可能に結合する」は「との間の動力伝達経路を断接する」に、「第1クラッチ6」は「クラッチ」に、「第2クラッチ7を締結するとモータ/ジェネレータ5と動力伝達状態となり」は「電動機に動力伝達可能に連結されて」に、「出力回転を後輪2へ伝達する」は「動力を駆動輪側へ伝達する」に、「自動変速機3」は「自動変速機」に、「モータ/ジェネレータ5のみによって電気走行させることができる」は「電動機のみを走行用駆動力源として走行するモータ走行が可能な」に、「ハイブリッド車両の変速時モード切り替え制御装置」は「ハイブリッド車両の制御装置」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載発明における「電気走行中」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「モータ走行中」に相当し、以下同様に、「アクセルペダルの大きな踏み込みがされたときに」は「駆動トルクを増大する要求が為されたときに」に、「エンジン始動要求と、ダウンシフト要求とが同時に発生した場合には」は「エンジンの始動制御と自動変速機のダウンシフト制御とを重ねて実行する場合には」に、「変速機入力側回転数を変速後変速機入力回転数に一致させる変速時回転合わせ制御を行う」ことは「自動変速機の入力回転速度を変速後の同期回転速度に向けて回転変化させる」ことに、それぞれ相当する。
そして、引用文献記載発明における「第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間」は、引用文献の図9の記載から、自動変速機3におけるダウンシフト制御中であることが理解できるから、本願発明における「自動変速機におけるダウンシフト制御中」に相当し、引用文献記載発明における「目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「伝達トルク容量」に相当する。
さらに、引用文献記載発明における「第2クラッチ7がスリップする値」はスリップをする以上、スリップをしないトルク未満の伝達容量の値であることが理解できるから、引用文献記載発明における「第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2を第2クラッチ7がスリップする値とする」は、本願発明における「クラッチが係合完了されるまでの自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、モータ走行中における自動変速機の入力トルク以上であって、クラッチの係合完了時における自動変速機の入力トルク未満とする」と、「自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、あるトルク未満とする」という限りにおいて一致する。

よって、本願発明と引用文献記載発明とは、
「走行用駆動力源としてのエンジン及び電動機と、エンジンと電動機との間の動力伝達経路を断接するクラッチと、電動機に動力伝達可能に連結されて走行用駆動力源からの動力を駆動輪側へ伝達する自動変速機とを備え、クラッチを解放した状態で電動機のみを走行用駆動力源として走行するモータ走行が可能なハイブリッド車両の制御装置であって、
モータ走行中に駆動トルクを増大する要求が為されたときにエンジンの始動制御と自動変速機のダウンシフト制御とを重ねて実行する場合には、自動変速機の入力回転速度を変速後の同期回転速度に向けて回転変化させるものであり、
自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、あるトルク未満とするハイブリッド車両の制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点1>
「モータ走行中に駆動トルクを増大する要求が為されたときにエンジンの始動制御と自動変速機のダウンシフト制御とを重ねて実行する場合には、自動変速機の入力回転速度を変速後の同期回転速度に向けて回転変化させる」ことに関し、本願発明においては「クラッチの係合完了を起点として、自動変速機の入力回転速度を変速後の同期回転速度に向けて回転変化させることを開始するもの」であるのに対し、引用文献記載発明においては、クラッチの係合完了を起点として開始しているか不明な点。(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、あるトルク未満とする」ことに関し、本願発明においては、「クラッチが係合完了されるまでの自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、モータ走行中における自動変速機の入力トルク以上であって、クラッチの係合完了時における自動変速機の入力トルク未満とする」ものであるのに対して、引用文献記載発明においては、「第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2を第2クラッチ7がスリップする値とする」ものである点(以下、「相違点2」という。)。

(2) 本願発明に対する判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
なお、下線は、特に重要な箇所を示すために当審が付したものである。

引用文献においては上記1(2)(ス)のように、エンジン始動とダウンシフト時回転合わせ制御とを同時に指令すると、モータトルク不足に起因して、第2クラッチ7がスリップ不能になってエンジン始動ショックや変速ショックが生じたり、モータ/ジェネレータトルクがアクセル開度対応トルクになるのに大きな応答遅れを生じて加速性能の低下を招くという問題(以下、「引用文献課題」という。)を認識しており、その解決手段として第2クラッチ7がスリップをするように設定するものである。
そして、引用文献記載発明における「第2クラッチ7がスリップするのを検知した瞬時t1からモータ/ジェネレータ5及びエンジン1の差回転が規定値に達するエンジン始動判定時t2までの期間において、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2を第2クラッチ7がスリップする値とする」という構成は引用文献課題を解決するものであり、第2クラッチ7がスリップする以上、目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2は、モータ走行中における自動変速機の入力トルク未満の値である。
そうすると、引用文献には、「クラッチが係合完了されるまでの自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、モータ走行中における自動変速機の入力トルク以上」とする構成が記載されているということはできない。
一方、本願の段落【0056】に、「・・・EV走行中の自動変速機18における伝達トルク容量を、そのEV走行中における変速機入力トルクTAT以上であって、エンジン断接用クラッチK0の係合完了時における変速機入力トルクTAT未満とするので、EV走行中は駆動トルクが適切に伝達される。・・・」と記載されていることから、本願発明においては、「クラッチが係合完了されるまでの自動変速機におけるダウンシフト制御中の伝達トルク容量を、モータ走行中における自動変速機の入力トルク以上」とする構成により、モータ走行中は駆動トルクが適切に伝達されるという効果(以下、「本願効果」という。)が得られるものである。
そして、本願発明は引用文献記載発明には存在しない本願効果を奏するものである。

したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明と引用文献記載発明とは上記相違点2において相違するものであるから、本願発明は引用文献記載発明と同一ではなく、また、本願発明は当業者が引用文献記載発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載発明と同一ではなく、また、当業者が引用文献記載発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2ないし7に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用文献記載発明と同一ではなく、また、当業者が引用文献記載発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2012-552571(P2012-552571)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 梶本 直樹
槙原 進
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 光治郎  

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