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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1312669
審判番号 不服2014-17688  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-05 
確定日 2016-03-23 
事件の表示 特願2011-519260「CTアプリケーション用Gd2O2S物質」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日国際公開、WO2010/010480、平成23年12月 1日国内公表、特表2011-529111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2009年7月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2008年7月23日、中国(CN))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成23年 1月19日 国内書面(翻訳文)提出
平成25年 7年18日付 拒絶理由通知
平成26年 1月23日 意見書・手続補正書提出
同年 5月 1日付 拒絶査定
同年 9月 5日 審判請求書・手続補正書提出
同年11月20日付 前置報告

第2 平成26年9月5日付け手続補正についての補正却下の決定

1 補正の却下の決定の結論

平成26年9月5日付け手続補正を却下する。

2 理由

(1) 請求項1についてする補正の内容
ア 平成26年9月5日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてする補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示す。)。
・本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
イオン化放射線を検出する検出器用のGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質であって、Nd^(3+)濃度が、10wt.ppm以上2000wt.ppm以下である、Gd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質。」
・本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
イオン化放射線を検出する検出器用のGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質であって、Nd^(3+)濃度が、100wt.ppm以上1000wt.ppm以下である、Gd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質。」
イ 上記の請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「Nd^(3+)濃度」の数値範囲を限定するものであり、また、当該補正は、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 独立特許要件の検討
ア 上記のとおり、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合するか)について検討する。
イ 引用刊行物とその記載事項
原査定において、引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/020373号(以下、単に「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、各摘記事項の後に、上記引用刊行物のパテントファミリーである特表2010-500595号公報を参考にして作成した、当審による仮訳を併記した。
(ア) 「CLAIMS:
1. A method of measuring and/or judging the afterglow in an
Gd_(2)O_(2)S:M fluorescent ceramic material whereby M represents at
least one element selected from the group Pr, Dy, Sm, Ce, Nd
and/or Ho and/or precursor materials of said ceramic material,
whereby the afterglow is measured and/or judged by measuring the
Eu-, Tb- and/or Yb- concentration in said fluorescent ceramic
materials and/or precursor materials.」(12頁1?6行の「CLAIMS:1.」参照)
「特許請求の範囲
1. Gd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質及び/又はその前駆体物質におけるアフターグローの測定及び/又は判断方法であって、ここで、前記Mは、Pr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループから選択される少なくとも1つの成分を表し、ここで、前記アフターグローは、前記蛍光セラミック物質及び/又はその前駆体物質のEu、Tb及び/又はYb濃度を測定することによって測定及び/又は判断される、方法。」
(イ) 「BACKGROUND OF THE INVENTION
・・・
A typical fluorescent ceramic material employed for detecting
X-ray radiation between 10 to 200 keV is doped Gd_(2)O_(2)S, doped with
e.g. Ce^(3+) or Pr^(3+). However, the use of Gd_(2)O_(2)S is somewhat
diminished in case the Gd_(2)O_(2)S shows luminescent characteristics
which are known as "afterglow", i.e. that after the desired prompt
fluorescence (determined by the intrinsic emission time of the
specific activator ion used) a somewhat dimmer, but longer-
lasting"second fluorescence" can be seen, which may also occur at
wavelengths differing from the prompt fluorescence. In other words,
afterglow can be defined as a non-instantaneous reaction of the
stationary scintillator signal after having switched-off the X-ray
photon exposure of the scintillator. This residual signal is
sometimes called lag or often also afterglow. The afterglow is
given as relative value to the stationary signal of the scintillator
material under investigation and is normally evaluated as a
function of time after the end of the X-ray pulse. In CT the
relevant time domain of the afterglow signal is between 0.1ms and
2s, while the value should be well below 300ppm at 5ms and 20
ppm at 0.5s to guarantee artifact free CT images. Afterglow is one
of the key performance criteria for scintillators in CT applications.」(1頁9行?2頁2行の「BACKGROUND OF THE INVENTION」参照)
「発明の背景
・・・
10?200keVのX線放射線を検出するために用いられる代表的な蛍光セラミック物質は、例えばCe^(3+)又はPr^(3+)がドープされたGd_(2)O_(2)Sである。しかしながら、そのドープされたGd_(2)O_(2)Sが、「アフターグロー」として知られるルミネセンス特性を示す場合、すなわち、所望の即発蛍光の後(使用される特定の活性体イオンの固有の発光時間によって決定される)、幾分より暗いが、より長く持続し、また即発蛍光と異なる波長で発生しうる「第2の蛍光」が見られる場合、そのドープされたGd_(2)O_(2)Sの使用は幾分減らされる。換言すれば、アフターグローは、シンチレータへのX線光子照射がオフにされた後の、シンチレータの定常信号の非瞬間的な反応と規定できる。この残留信号は、ラグと呼ばれることがあり、又はしばしばアフターグローとも呼ばれる。アフターグローは、検査中のシンチレータ物質の定常信号に対する相対値として与えられ、通常、X線パルスの終了後の時間の関数として評価される。CTにおいて、アフターグロー信号に関連する時間領域は、0.1msから2sの間であり、他方、その値は、アーチファクト(ノイズ)のないCT画像を保証するために、5msでは300ppmよりも、0.5sでは20ppmよりも十分低くなければならない。アフターグローは、CTアプリケーションにおいて、シンチレータの重要な性能基準の1つである。」
(ウ) 「During the operation of the fluorescent ceramic
material, part of the metal M in the Gd_(2)O_(2)S, which is usually
present in the form of trivalent ions is oxidized as represented by
the equation I:
M ^(3+) -> M ^(4+ ) + e^(-) (I)」(2頁29行?3頁2行参照)
「蛍光セラミック物質の動作中、三価イオンの形で通常存在するGd_(2)O_(2)Sにおける金属Mの部分は、式Iによって表されるように酸化される:
M^(3+) -> M^(4+) + e^(-) (I)」
ウ 引用発明
引用刊行物には、上記摘記事項(ア)のとおり、Gd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質及び/又はその前駆体物質のアフターグローの測定及び/又は判断方法が記載されており、当該「Gd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質」中のMは、Pr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループから選択される少なくとも1つの成分であることが示されている。ここで、上記摘記事項(ウ)のとおり、当該Mは三価イオンの形で存在することが理解できる。
そして、当該「Gd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質」は、上記摘記事項(イ)によると、10?200keVのX線放射線を検出するX線検出器用の蛍光セラミック物質(シンチレータ)であることが分かる。
そうすると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「10?200keVのX線放射線を検出するX線検出器用のGd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質(ここで、Mは、三価イオンの形で存在するPr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループから選択される少なくとも1つの成分である。)。」
エ 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明における「10?200keVのX線放射線を検出するX線検出器」は、本願補正発明における「イオン化放射線を検出する検出器」に相当するものであるから、本願補正発明と引用発明とは、「イオン化放射線を検出する検出器用の、Gd_(2)O_(2)S系の蛍光物質」である点で一致し、次の点で相違するといえる。
・相違点:本願補正発明に係るGd_(2)O_(2)S系の蛍光物質は、賦活剤(賦活イオン)として、Nd(Nd^(3+))を用い、その濃度を「Nd^(3+)濃度が、100wt.ppm以上1000wt.ppm以下である」と特定しているのに対して、引用発明は、賦活剤(賦活イオン)を「三価イオンの形で存在するPr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループから選択される少なくとも1つの成分である」とし、その濃度についての明示はない点。
オ 相違点についての検討
(ア) Gd_(2)O_(2)S系の蛍光物質における賦活剤(賦活イオン)について
まず、Gd_(2)O_(2)S系の蛍光物質において、一般に、どのような賦活剤(賦活イオン)が用いられているのかにつき、当該蛍光物質の技術分野を俯瞰してみる。
下記周知例Aには、1ミクロンレーザ処理用のNd^(3+)でドープされたオキシ硫化物光学セラミックが記載されており、Fig.1(b)の記載などから、Gd_(2)O_(2)S系の蛍光物質の賦活剤(賦活イオン)としてNd(Nd^(3+))を用いること、及び、当該Nd(Nd^(3+))を0.1wt%でドープすることを把握することができる。
また、下記周知例Bにも同様に、レーザ装置に使用するオキシ硫化物物質として3価のNd(Nd^(3+))をドープした「Gd_(2)O_(2)S:Nd」が開示されており、Claim 1.の記載などから、該Nd(Nd^(3+))のドープ量は0.01?10atom%であることが理解できる。
さらに、下記周知例Cには、中性子ラジオグラフイに使用するのに特に好適なリン光体として、一般式Gd_((w-n))・M_(n)O_(w)X(Mは、・・・ネオジム(当審注:Nd)・・・の少なくとも一つであり、Xは硫黄(当審注:S)・・・であり、nは0.0002?0.2であり、wは、・・Xが硫黄の時2である。)なる化合物が開示されており、当該リン光体は、Gd_(2)O_(2)Sに賦活剤(賦活イオン)としてNd(Nd^(3+))をドープした蛍光体(「Gd_(2)O_(2)S:Nd」と表記される蛍光体)に相当するものであるし、その際のNd(Nd^(3+))のモル比nは、0.0002?0.2の範囲で調整し得ることを理解することができる。
そうすると、当業者は、Gd_(2)O_(2)S系の蛍光物質において、Nd(Nd^(3+))を賦活剤(賦活イオン)として用いれば相当程度の発光特性が得られることを既に認識しているといえ、当該Nd(Nd^(3+))の濃度については、0.1wt%(1000wt.ppmに相当)、0.01?10atom%(おおよそ38?38000wt.ppmに相当)、モル比0.0002?0.2(おおよそ76?76000wt.ppmに相当)といった数値範囲にて調整することが可能であることを理解していると解するのが合理的である。
<周知例>
A.Journal of Luminescence,Vol.125(2007), pp.201-215
(原査定における引用文献1)
『周知例Aは「Oxysulfide optical ceramics doped by Nd^(3+) for one
micron lasing 」(1ミクロンレーザ処理用のNd^(3+)でドープされたオキシ硫化物光学セラミック)と題し、その202頁の「3. Optical properties」(3.光学特性)の項には、「Gd_(2)O_(2)S:Nd^(3+) (0.1 wt%) oxysulfide optical ceramics」(Gd_(2)O_(2)S:Nd^(3+)(0.1wt%)オキシ硫化物光学セラミック)の光学特性について記載され、具体的には、203頁のFig.1(b)に、77Kにおける812nmのCWレーザー励起下での^(4)F_(3/2)→^(4)I_(9/2)遷移の際の蛍光発光スペクトルが図示されている。同様に205頁のFig.4(a)には、77Kと300Kにおける812nmレーザー励起下での^(4)F_(3/2)→^(4)I_(11/2)遷移における蛍光発光スペクトルが図示されている。』
B.米国特許第3833862号明細書
(国際調査報告書に列記された文献)
『周知例Bのclaim1.には、ホスト金属イオンの約0.01?10%が三価のネオジムイオンにより置換されている、ランタンオキシ硫化物、イットリウムオキシ硫化物、ガドリニウムオキシ硫化物及びルテチウムオキシ硫化物からなる群から選択される少なくとも一つのオキシ硫化物から実質的になる単結晶レーザー物質が記載されている。なお、この「%」は、周知例Bの7欄59?61行の記載に照らすと「atom%」と解される。』
C.特公昭57-17476号公報
『周知例Cの6欄6?16行には、中性子ラジオグラフイに使用するのに特に好適なリン光体として、一般式Gd_((w-n))・M_(n)O_(w)X(Mは、・・・ネオジム、・・・の少なくとも一つであり、Xは硫黄・・・であり、nは0.0002?0.2であり、wは、・・Xが硫黄の時2である。)なる化合物が開示されている。』
(イ) 本願補正発明における賦活剤Nd(賦活イオンNd^(3+))の作用効果について
次に、本願補正発明における賦活剤Nd(賦活イオンNd^(3+))につき、本願明細書及び図面を仔細にみると、以下のような記載を認めることができる。
・「【0017】
Ndイオンの導入は、NdCl_(3)、NdBr_(3)、NdI_(3)、Nd(NO_(3))_(3)、Nd_(2)(SO_(4))_(3)等の対応する塩の水溶液を使用して実施されることができる。代替として、ドーパントイオンの導入は、例えばGd_(2)O_(2)Sのようなガドリニウム含有粉体の機械的混合物を準備する間に、実施されることができ、不溶性組成物は、例えばNd_(2)O_(3)のような酸化物のようなドーパントを含む。
【0018】
更に代替として、例えばGd_(2)O_(2)S粉体のようなガドリニウム含有粉体は、NdF_(3)、Nd_(2)S_(3)、Nd_(2)O_(2)S、Nd2(CO_(3))_(3)、Nd2(C_(2)O_(4))_(3)等の、Ndの非水溶性塩と機械的に混合されることができる。」
・「【0020】
本発明の好適な実施形態によれば、Nd^(3+)ホスト物質の濃度は、10wt.ppm以上2000wt.ppm以下、好適には100wt.ppm以上1000wt.ppm以下、最も好適には500wt.ppm以上1000wt.ppm以下である。これらのマージンは、実際、本発明において適切であることが示された。」
・「【0021】
本発明の好適な実施形態によれば、本発明によるGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光セラミック物質は、CdWO_(4)の光出力の、120%より大きい、好適には230%より大きい相対光収率を示す。」
・「【0023】
本発明の好適な実施形態によれば、Gd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質は透明である。Ceが存在する場合、Gd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質は黄色でありうることに注意すべきである。」
・「【0027】
本願発明者は、驚くべきことに、上述のようなNdを含むガドリニウム含有色素粉体が使用される場合、低減されたアフターグローを有するGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質が得られることができることを見いだした。」
・「【0052】
図1は、例I(実線)及び例II(点線)の物質の発光スペクトルを示す。230nmのX線放射線が、入射光として使用された。活性剤としてのNdが、CT及びX線アプリケーションにおける成功裏の使用の基準を満たすことが非常に良く分かる。
【図1】


そうすると、本願補正発明においてGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質を採用する理由(賦活剤(賦活イオン)としてNd(Nd^(3+))を採用する理由)は、その発光強度(段落【0021】に記載された「相対光収率」と【図1】の縦軸は、ともに発光強度特性を示すものと解される。)、光透過性(段落【0023】)、アフターグロー特性(段落【0027】)といったCTアプリケーションのX線検出器において一般に要求される特性を考慮してのことと理解できる。そして、当該Nd(Nd^(3+))の濃度限定の理由については、上記本願明細書の段落【0020】にその数値範囲が記載され、【図1】に具体的な実験データが示されているところ、当該【図1】には、Nd(Nd^(3+))濃度が0.1%(1000wt.ppmに相当)と2%(20000wt.ppmに相当)という特定の数値の場合の発光スペクトル(発光強度)が比較されているにとどまり、それ以外の数値のデータをはじめ、上記アフターグロー特性や光透過性といった他の諸特性については何ら検証されていないのであるから、本願補正発明が規定するNd(Nd^(3+))濃度の数値範囲(100wt.ppm以上1000wt.ppm以下)には、単に所望の発光スペクトル(発光強度)が得られる範囲を確認した程度の意味合いしかないというほかなく、その数値範囲が有する臨界的意義を認めることは到底できない。
(ウ) 賦活剤Nd(賦活イオンNd^(3+))の選択とその濃度調整の容易想到性について
上記したオ(ア)、(イ)の点を踏まえて、上記相違点に係る賦活剤Nd(賦活イオンNd^(3+))の選択とその濃度調整の容易想到性について検討する。
そもそも引用発明は、「Gd_(2)O_(2)S:M蛍光セラミック物質」の賦活剤Mを、三価イオンの形で存在するPr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループの中から選択するとしているのであるから、当然にNd(Nd^(3+))を選択する態様をも予定されていると解すべきことは明らかであるし、また、Nd(Nd^(3+))は、Gd_(2)O_(2)Sにおける賦活剤(賦活イオン)として使用されることがよく知られていた(上記オ(ア)の周知例A?C)ものであるから、当業者ならば上記グループの中からNd(Nd^(3+))を選択することに特段の困難性は認められない。
そうすると、引用発明における賦活剤Mとして、三価イオンの形で存在するPr、Dy、Sm、Ce、Nd及び/又はHoのグループの中からNd(Nd^(3+))を選択することは、当業者にとって容易なことといわざるを得ないものである。
また、引用発明において賦活剤(賦活イオン)としてNd(Nd^(3+))を用いるにあたっては、その濃度を適宜検討するものであるところ、本願補正発明が規定するNd(Nd^(3+))濃度の数値範囲(100wt.ppm以上1000wt.ppm以下)に調整することにも、以下のとおり格別の創意は認められない。
すなわち、引用発明に係るGd_(2)O_(2)S系蛍光物質は、CTのX線検出器にて使用されることを前提とするものであるから、当然のことながら、当業者が上記Nd(Nd^(3+))濃度を決定するにあたっては、発光強度はもとより、アフターグロー特性や光透過性といった当該検出器に一般に要求される諸特性についての配慮を要すると解すべきである(実際、引用刊行物の上記摘記事項イ(イ)には、アフターグローについて言及されており、引用発明においてアフターグローが考慮されていることは明らかである。)。加えて、当業者は、Gd_(2)O_(2)S系蛍光物質において、Nd(Nd^(3+))濃度を、0.1wt%(1000wt.ppmに相当)、0.01?10atom%(約38?38000wt.ppmに相当)、モル比0.0002?0.2(約76?76000wt.ppmに相当)といった数値範囲に調整し得ることを既に認識しているのであるから(上記オ(ア)参照)、これらを併せ考えると、引用発明において、賦活剤(賦活イオン)としてNd(Nd^(3+))を採用し、その濃度を検討するに際し、当業者が認識する上記数値範囲を参考にしながら、上記諸特性が所期のものとなるようNd(Nd^(3+))濃度を調整することは、単なる当業者の通常能力の発揮にすぎないといえる。そして、上記オ(イ)のとおり、本願補正発明におけるNd(Nd^(3+))濃度の規定は、CTアプリケーションのX線検出器において一般に要求される諸特性に配慮してのことであって、当業者が予想し得ない定性的な効果をもたらすものではないし、本願明細書及び図面に記載された具体的な実験データをみても単に発光強度の確認程度のものであって、当該濃度規定に当業者の予測を超える定量的効果を認めるに足りる根拠を見出すことはできないから、本願補正発明が規定するNd(Nd^(3+))濃度の数値範囲(100wt.ppm以上1000wt.ppm以下)は、まさに当業者の通常能力を発揮した結果得られたものにすぎないといわざるを得ず、当該数値範囲に引用発明のNd(Nd^(3+))濃度を調整することは、単なる当業者による設計的事項の範疇のことと解するのが妥当である。そうである以上、この数値範囲への調整に格別の創意を認めることはできない。
したがって、本願補正発明の当該相違点に係る技術的事項は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるというほかない。
カ 独立特許要件の検討の小括
以上の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年1月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記2(1)アに記載した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
イオン化放射線を検出する検出器用のGd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質であって、Nd^(3+)濃度が、10wt.ppm以上2000wt.ppm以下である、Gd_(2)O_(2)S:Nd蛍光物質。」

第4 原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成25年 7月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であって、要するに、本願発明は、下記引用文献3に記載された発明に基いて、通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。

<引用文献>
3.国際公開第2008/020373号

第5 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された上記「引用文献3」は、上記「第2 2(2)イ」における「引用刊行物」であり、その記載事項も、上記「第2 2(2)イ(ア)ないし(ウ)」に既に摘記したとおりである。

第6 当審の判断

1 引用発明

上記引用文献3の摘記事項から認定し得る引用発明は、上記「第2 2(2)ウ」に記載したとおりのものである。

2 対比・検討

上記「第2 2(1)イ」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)を特定するために必要な事項である「Nd^(3+)濃度」の数値範囲をさらに限定するもの(数値範囲を狭めるもの)であり、言い換えると、本願発明は、本願補正発明が規定する「Nd^(3+)濃度」の数値範囲を包含するものということができる。
そうすると、本願補正発明が、上記「第2 2(2)」にて検討したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないのであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-22 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-11 
出願番号 特願2011-519260(P2011-519260)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬籠 朋広  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 國島 明弘
日比野 隆治
発明の名称 CTアプリケーション用Gd2O2S物質  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  

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