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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1312676 |
審判番号 | 不服2014-23034 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-12 |
確定日 | 2016-03-23 |
事件の表示 | 特願2013-541218「流動する不均質材料の中赤外線スペクトル分析」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月 7日国際公開,WO2012/072143,平成25年12月12日国内公表,特表2013-544364〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は,平成22年12月3日を国際出願日とする出願であって,平成26年3月12日付けで拒絶理由が通知され,同年5月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年7月30日付で拒絶査定がされたのに対し,同年11月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして,その請求項1?7に係る発明は,上記平成26年5月16日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 材料のサンプルを得るステップと、 前記サンプルの中赤外線減衰値を計測し、且つ、データ処理ユニット内で、前記計測された中赤外線減衰値から前記サンプル内の前記対象成分の通知を算出するステップと、 を有する、流動する不均質なサンプルの成分を判定する方法において、 前記サンプルを流動させるステップと、 同時に、中赤外線放射を計測領域内で前記流動するサンプルと相互作用させ、且つ、その後に、前記サンプルを通じて送られた前記相互作用した放射の1つ又は複数の周波数帯域で前記中赤外線減衰値を計測するステップとを更に有し、 前記1つ又は複数の周波数帯域で中赤外線減衰値を計測するステップが、前記対象成分が中赤外線減衰値に対して影響を及ぼす少なくとも1つの波長領域内における前記相互作用した放射のスペクトル光度計測分析において、同一の1つ又は複数の周波数帯域で前記中赤外線減衰値の複数回の計測を実施するステップを有することを特徴とする方法。」 第2 引用刊行物及びその記載事項 1 本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表平11-503236号公報(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記において,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。 (1-ア) 「【特許請求の範囲】 ・・・ 27.1又は複数の光信号を流体サンプルに通過させ、 複数のサンプル光信号通路からのサンプル光信号を検出し、 検出出力を処理装置による後続の評価に利用可能にすることを特徴とする流体中の1又は複数の粒子のレベルを定量的に決定する方法。 ・・・ 33.牛乳及び他の乳製品をベースにした流体、 流動化した脂肪粒子、小球、及び懸濁液、 血液、血漿、精液、尿及び他の生物学的流体、 油及び潤滑油、及び インク、塗料及び液体顔料 のうち少なくとも何れかの粒子レベルを決定することを特徴とする請求項27から30の何れかに記載の方法。 34.牛乳及び他の乳製品をベースにした流体に適用するときには、脂肪、たん白質、乳糖及び体細胞数の少なくとも何れかのレベルを指示することを特徴とする請求項33に記載の方法。」 (1-イ) 「本発明の好ましい実施例は牛乳その他の流体中における脂肪の決定に向けられているが、本発明は、乳濁液や懸濁液、インク、血液のほか、油圧油や機械油その他の油等の流体中の粒子の決定にも適用される。 流体中の異なる粒子の概算レベルを決定し又は少なくとも提供するために同一の装置を使用することができることが試行により分かった。これは、異なるタイプの粒子は吸収と反射の度合いが異なる(反射/分散の角度が異なる)という事実に依存しているようにもみえる。検出器セットから収集された信号は、各成分の反射と吸収の特性の組合わせの関数となる。参照値と比較することによって各成分粒子タイプの寄与(contribution)を決定することができ、またさらなる数学的解析により量的な値が得られる。例えば、牛乳のような流体に対しては、乳糖、脂肪、たん白質のほか、体細胞数のレベルの示度(indication)を得ることができるとともに、存在する粒子全体の示度も得ることができる。」(12頁8?19行) (1-ウ) 「本発明の多くの実施例は、赤外領域で動作するが、電磁スペクトラムの他の領域でも可能である。好ましい実施例は、750-1200nm又は3000-10000nmの波長領域(何れも赤外領域)の何れか又は両方で動作する。光発光ダイオード(LED)のような安価な発信器は、赤外及び可視領域で簡単に利用可能である。他のタイプの光発信器も可能である。」(13頁4?8行) (1-エ) 「装置はこのようなデータ収集ステップを連続して反復し、後続の比較及び評価のための広範なデータセットを得ることができる。この情報は、特にサンプルが等質(homogenous)でない、すなわち、流れている場合に、存在粒子の定量決定に向上した値、すなわちより一致した値を与えることができる。異なるデータ収集サイクルは、それらのシーケンス、データ収集ステップ数が同一である必要はない。」(16頁18?23行) (1-オ)「 図1cは、本発明の可能性のある実用的な実施例を示す。ここでは、主流体ライン8が設けられ、該主流体ライン8から連続サンプルがバイ通路導管9を介して導出される。流体の速度を低減するために、導管に、特に発信器と検出器のセットを含むサンプル分析部10に絞り(restriction)を設けてもよい。検出器4の出力はA/D変換器に送信され、該A/D変換器の出力は処理部6に受け入れられる。・・・セルは(図1cの配置では)より遅い速度で通過するサンプルの小部分をつかむだけであるから、主な体積流体(main bulk of the fluid)は50cm/秒までの速度又はそれ以上の速度で流動させることができる。」(26頁22?27頁12行) (1-カ)上記図1cとして,以下の図面が記載されている。 上記図1cには,サンプルが主流体ライン(8)からバイ通路導管(9)に通して流動させられており,発信器と検出器のセットを含むサンプル分析部(10)でその流動しているサンプルを分析することが図示されている。 (1-キ) 「発明者の温度測定によると、熱制御された水槽でサンプルを約20分間加熱した後、30-40℃の間で最も良い結果が得られた。幸い、通常この体温を既に有する乳牛からのストレートの牛乳を処理しているので、脂肪球(globules)/粒子(particle)は最適条件で溶解しており、測定がより正確になる。」(34頁8?11行) (1-ク) 「牛乳のようなサンプルに対しては、種々の成分を測定することができることが分かった。例えば、脂肪含有量、たん白質含有量、体細胞数の他、乳糖含有量も測定することができる。一般に、較正のために、前述の成分(又は分析される他の成分)の含有量が知られている50のサンプルが得られる。参照サンプルは特別に作ることができるが、以前に分析された牛乳サンプルを使用することもできる。次に、50のサンプルからのデータが収集され、検出器の出力値と各成分の公知の含有量との相関がとられる。多くの場合、例えば線形回帰やフーリエ変換等の正当な式を選択することにより、良い相関が得られる。」(38頁3?10行) 2 引用発明について 上記引用例の記載事項を総合すると,引用例には,以下の発明が記載されていると認められる。 「1又は複数の光信号を流体サンプルに通過させ,複数のサンプル光信号通路からのサンプル光信号を検出し,検出出力を処理装置による後続の評価に利用可能にする流体中の1又は複数の粒子のレベルを定量的に決定する方法において, 上記流体サンプルは,牛乳及び他の乳製品をベースにした流体で,定量的な決定が,脂肪,たん白質,乳糖及び体細胞数の少なくとも何れかのレベルを指示することであり, 流体サンプルは,主流体ラインからバイ通路導管に通して流動させられ,その流動している流体サンプルは,上記光信号の発信とその光信号の検出を行うサンプル分析部で分析され, 上記光信号は,赤外領域のもので,検出で収集された信号は,各成分の反射と吸収の特性の組合わせの関数となり,数学的解析により量的な値が得られ,牛乳のような流体に対しては,乳糖,脂肪,たん白質のほか,体細胞数のレベルの示度(indication)を得る,方法。」(以下「引用発明」という。) 第3 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「主流体ラインからバイ通路導管に」「流体サンプル」が「通」されることは,本願発明の「材料のサンプルを得るステップ」に相当し,そして,「流体サンプル」が「流動させられ」ていることは,本願発明の「サンプルを流動させるステップ」に相当する。 (2)引用発明の「処理装置」は,本願発明の「データ処理ユニット」に相当する。 本願発明の「前記サンプルの中赤外線減衰値を計測し、且つ、データ処理ユニット内で、前記計測された中赤外線減衰値から前記サンプル内の前記対象成分の通知を算出するステップ」における「成分の通知」については, 本願明細書に「成分の通知の定量判定」(【0020】)と記載されていることから,成分の量を示す表示と解される。なお,参考までに,国際出願時の原文には「indication of the component」と記載されていることから,成分の「通知」というよりは「示度」等と訳されるものである。 してみれば,引用発明の「赤外領域の」「光信号を流体サンプルに通過させ」「検出で収集された信号は,各成分の反射と吸収の特性の組合わせの関数となり,数学的解析により量的な値が得られ,牛乳のような流体に対しては,乳糖,脂肪,たん白質のほか,体細胞数のレベルの示度(indication)を得る」ことと,本願発明の「前記サンプルの中赤外線減衰値を計測し、且つ、データ処理ユニット内で、前記計測された中赤外線減衰値から前記サンプル内の前記対象成分の通知を算出するステップ」とは,「前記サンプルの赤外線減衰値を計測し,且つ,データ処理ユニット内で,前記計測された赤外線減衰値から前記サンプル内の前記対象成分の通知を算出するステップ」の点で共通する。 (3)引用発明の「流動している流体サンプル」の「乳糖、脂肪、たん白質のほか、体細胞数のレベルの示度(indication)を得る」ことと,本願発明の「流動する不均質なサンプルの成分を判定する」こととは,「流動するサンプルの成分を判定する」ことで共通する。 (4)本願発明の「同時に、中赤外線放射を計測領域内で前記流動するサンプルと相互作用させ、且つ、その後に、前記サンプルを通じて送られた前記相互作用した放射の1つ又は複数の周波数帯域で前記中赤外線減衰値を計測するステップ」における「相互作用」とは,本願明細書全体を参酌すると,光の放射がサンプルを構成する物質に作用して光の減衰(吸収)をもたらすという技術的意味に解されることから,引用発明の「光」の「各成分」における「吸収の特性」があるということは,本願発明における「相互作用」があるといえる。 また,引用発明の「バイ通路導管」にある「サンプル分析部」が,本願発明の「計測領域」に相当し,引用発明の「1又は複数の光信号」は,各光信号は各々の周波数帯域を持っているといえることから,本願発明の「1つ又は複数の周波数帯域」に相当する。 そして,引用発明において「流体サンプルは,主流体ラインからバイ通路導管に通して流動させられ,その流動している流体サンプルは,上記光信号の発信とその光信号の検出を行うサンプル分析部で分析され」ていることから,サンプルを流動させることと,サンプル分析部でサンプルを分析することとは「同時」であるといえる。 してみれば,引用発明の「流体サンプルは,主流体ラインからバイ通路導管に通して流動させられ,その流動している流体サンプルは」「赤外領域の」「1又は複数の光信号を流体サンプルに通過させ、複数のサンプル光信号通路からのサンプル光信号を検出」することで「上記光信号の発信とその光信号の検出を行うサンプル分析部で分析され」ることと,本願発明の「同時に、中赤外線放射を計測領域内で前記流動するサンプルと相互作用させ、且つ、その後に、前記サンプルを通じて送られた前記相互作用した放射の1つ又は複数の周波数帯域で前記中赤外線減衰値を計測するステップ」とは,「同時に,赤外線放射を計測領域内で前記流動するサンプルと相互作用させ,且つ,その後に,前記サンプルを通じて送られた前記相互作用した放射の1つ又は複数の周波数帯域で前記赤外線減衰値を計測するステップ」の点で共通する。 (5)上記(4)で述べたように,本願発明における「相互作用」とは,光の放射がサンプルを構成する物質に作用して光の減衰(吸収)をもたらすという技術的意味に解され,さらに,本願発明における「成分が中赤外線減衰値に対して影響を及ぼす」についても,本願明細書全体を参酌すると,成分によって光の減衰(吸収)がもたらされるという技術的意味に解される。 また,引用発明の「赤外領域の」「1又は複数の光信号を流体サンプルに通過させ」「検出で収集された信号は,各成分の反射と吸収の特性の組合わせの関数となり,数学的解析により量的な値が得られ」ることについて,その数学的解析が上記摘記(1-カ)にフーリエ変換等によって行われることが記載されていることから,本願発明と同様に「スペクトル光度計測分析」を行っていることなる。 してみれば,引用発明の「赤外領域の」「1又は複数の光信号を流体サンプルに通過させ」「検出で収集された信号は,各成分の反射と吸収の特性の組合わせの関数となり,数学的解析により量的な値が得られ」ることと,本願発明の「前記対象成分が中赤外線減衰値に対して影響を及ぼす少なくとも1つの波長領域内における前記相互作用した放射のスペクトル光度計測分析において、同一の1つ又は複数の周波数帯域で前記中赤外線減衰値の複数回の計測を実施するステップ」とは,「前記対象成分が赤外線減衰値に対して影響を及ぼす少なくとも1つの波長領域内における前記相互作用した放射のスペクトル光度計測分析において、1つ又は複数の周波数帯域で前記赤外線減衰値の計測を実施するステップ」の点で共通する。 そうすると,本願発明と引用発明とは, (一致点) 「材料のサンプルを得るステップと, 前記サンプルの赤外線減衰値を計測し,且つ,データ処理ユニット内で,前記計測された赤外線減衰値から前記サンプル内の前記対象成分の通知を算出するステップと, を有する,流動するサンプルの成分を判定する方法において, 前記サンプルを流動させるステップと, 同時に,赤外線放射を計測領域内で前記流動するサンプルと相互作用させ,且つ,その後に,前記サンプルを通じて送られた前記相互作用した放射の1つ又は複数の周波数帯域で前記赤外線減衰値を計測するステップとを更に有し, 前記1つ又は複数の周波数帯域で赤外線減衰値を計測するステップが,前記対象成分が赤外線減衰値に対して影響を及ぼす少なくとも1つの波長領域内における前記相互作用した放射のスペクトル光度計測分析において,1つ又は複数の周波数帯域で前記赤外線減衰値の計測を実施するステップを有することを特徴とする方法。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1) 赤外線が,本願発明では,「中」赤外線と特定されているのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点。 (相違点2) サンプルが,本願発明では「不均質な」サンプルであり,計測が,本願発明では,「同一の」1つ又は複数の周波数帯域で「複数回」の計測を実施するのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点。 2 当審の判断 (1)相違点1について 本願発明における中赤外線とは,本願明細書に「中赤外線スペクトル分析(ここでは、2.5μm?10μmのスペクトル領域の波長を利用するものと規定される)」(【0001】)と記載されているものである。 一方,引用例の摘記(1-ウ)には「好ましい実施例は、750-1200nm又は3000-10000nmの波長領域(何れも赤外領域)の何れか又は両方で動作する」と記載されており,ここで3000-10000nm(3?10μm)の波長領域は,本願発明の中赤外線に他ならない。 してみれば,引用例には赤外線として「750-1200nm又は3000-10000nmの波長領域(何れも赤外領域)の何れか」を選択できることが記載されているのであるから,その後者である中赤外線を選択することは当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 引用例の(1-オ)を参照すると,加熱しない牛乳は脂肪球が溶解していないため,不均質なものといえることから,引用発明の「流体サンプルは,牛乳及び他の乳製品をベースにした流体」も,「不均質な」ものといえる。してみると,相違点2のサンプルが「不均質な」点については実質的な相違点とはいえない。そして,引用例の摘記(1-エ)には,サンプルが等質(homogenous)でない場合には,データ収集ステップを連続して反復すると,定量決定が向上した値になることが記載されていることから,引用発明における「不均質な」流体サンプルに対して,その精度を向上させようとして,それぞれの周波数帯域で「複数回」の計測を実施すること,すなわち,「同一の」1つ又は複数の周波数帯域で「複数回」の計測を実施することは当業者が容易になし得たことである。 (3)本願発明の効果について 本願発明の効果として,本願明細書には「流動するサンプルに対して計測を実施することにより、計測が効果的に簡便に平均化され、且つ、これにより、得られる精度が改善されることになろう。」(【0012】)と記載されているが,当該効果も引用例の記載から当業者の予期し得る範囲のことである。 3 小括 したがって,本願発明は,引用発明及び引用例に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり,審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-22 |
結審通知日 | 2015-10-27 |
審決日 | 2015-11-10 |
出願番号 | 特願2013-541218(P2013-541218) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横尾 雅一 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 信田 昌男 |
発明の名称 | 流動する不均質材料の中赤外線スペクトル分析 |
代理人 | 特許業務法人北青山インターナショナル |