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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1312685
審判番号 不服2015-5331  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-20 
確定日 2016-03-23 
事件の表示 特願2009-539513号「領域的に被覆されたフィルター、排気処理システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月9日国際公開、WO2008/121167、平成22年4月15日国内公表、特表2010-511829号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年11月30日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2006年12月1日 米国、2007年11月29日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月29日に国内書面が提出され、平成21年7月29日に国際出願翻訳文提出書が提出され、平成24年6月14日付けで拒絶理由が通知され、平成24年12月12日に意見書及び誤訳訂正書が提出され、平成25年5月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年11月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年5月16日付けで再度、最初の拒絶理由が通知され、平成26年10月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月17日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に誤訳訂正書が提出されたものである。

第2 平成27年3月20日提出の誤訳訂正書による補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月20日提出の誤訳訂正書による補正(以下「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正により、下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項21の記載は、下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項20へと補正された。(なお、本件補正により、補正前の請求項8が削除されたことに伴って請求項8以降の請求項の項番が繰り上がったため、本件補正前の請求項21は本件補正後の請求項20に対応するものである。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項21
「【請求項21】
ディーゼルエンジンからの排気流を処理する方法であって、
粒子状物質を含む排気流内に、壁流モノリスを配置する手順、
NOx還元触媒を前記壁流モノリスより下流側に配置する手順、及び
壁流モノリスの上流で、発熱生成剤を定期的に導入し、前記壁流モノリス内に捕捉した粒子状物質を積極的再生法によって燃焼させるのに十分な発熱を前記壁流モノリス内で発生させる工程を含み、
前記壁流モノリスは、縦方向に伸びる壁部によって境界付けられた、縦方向に伸びる複数の通路を有し、
該通路は、開口入口端と閉鎖出口端を有する入口通路、及び閉鎖入口端と開口出口端を有する出口通路を有し、
前記壁部は、多孔率が少なくとも40%で、その平均孔径は、少なくとも5ミクロンであり、及び
前記壁流モノリスは、貴金属組成物を含む点火燃料酸化触媒組成物を有し、該点火燃料酸化触媒組成物は、前記壁部に浸透し、及び入口端から出口端に向けて、壁部の軸方向長さよりも短い長さで伸びて入口領域を形成しており、及び
前記貴金属組成物が、少なくとも0.706g/Lの積載量で存在し、そして前記貴金属組成物の広がりは、前記フィルターの軸方向長さの50%未満の範囲内であり、
前記貴金属組成物は、PtとPdを含み、このPtとPdの割合Pt:Pdは10:1?4:1の範囲であり、
前記積極的再生は、その上流側に別個の点火酸化触媒を必用とすることなく前記フィルターだけで行うことが可能であることを特徴とする方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項20
「【請求項20】
ディーゼルエンジンからの排気流を処理する方法であって、
粒子状物質を含む排気流内に、壁流モノリスを配置する手順、
NOx還元触媒を前記壁流モノリスより下流側に配置する手順、及び
壁流モノリスの上流で、発熱生成剤を定期的に導入し、前記壁流モノリス内に捕捉した粒子状物質を積極的再生法によって燃焼させるのに十分な発熱を前記壁流モノリス内で発生させる工程を含み、
前記壁流モノリスは、縦方向に伸びる壁部によって境界付けられた、縦方向に伸びる複数の通路を有し、
該通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路、及び入口端に入口プラグが設けられた閉鎖入口端と開口出口端を有する出口通路を有し、
前記壁部は、多孔率が少なくとも40%で、その平均孔径は、少なくとも5ミクロンであり、及び
前記壁流モノリスは、貴金属組成物を含む点火燃料酸化触媒組成物を有し、該点火燃料酸化触媒組成物は、前記壁部に浸透し、及び入口端から出口端に向けて、壁部の軸方向長さよりも短い長さで伸びて入口領域を形成しており、及び
前記貴金属組成物が、少なくとも0.706g/Lの積載量で存在し、そして前記貴金属組成物の広がりは、前記フィルターの軸方向長さの50%未満の範囲内であり、
前記貴金属組成物は、PtとPdを含み、このPtとPdの割合Pt:Pdは10:1?4:1の範囲であり、
前記積極的再生は、その上流側に別個の点火酸化触媒を必用とすることなく前記フィルターだけで行うことが可能であることを特徴とする方法。」(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

本件補正は、本件補正前の請求項21に記載した発明特定事項である「閉鎖出口端」に対して「出口端に出口プラグが設けられた」ことを限定し、同様に、「閉鎖入口端」に対して「入口端に入口プラグが設けられた」ことを限定するものである。
よって、本件補正は、本件補正前の請求項21に記載された発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項21に記載された発明と、本件補正後の請求項20に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正によって補正された請求項20に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.刊行物
(1)刊行物1の記載等
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-42687号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物及び粒子状物質を含有する排気ガスを浄化する装置であって、多孔質セラミックハニカム構造体の所望の流路を目封止したセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持されているフィルタと、SCR触媒とを、この順序で配置したことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記セラミックハニカムフィルタの排気ガス流入側目封止部端面が、セラミックハニカムフィルタの流入側端面から該セラミックハニカムフィルタ全長の0.7倍以下の長さの区間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記セラミックハニカムフィルタに担持される触媒物質が白金族金属を含んでなることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記セラミックハニカムフィルタの排気ガス流入側の隔壁に担持された触媒物質の活性度が、排気ガス流出側の隔壁に担持された触媒物質の活性度に比べ高いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項5】
ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物及び粒子状物質を含有する排気ガスを浄化する装置に配設されたセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持され、前記排気ガス中の粒子状物質を前記セラミックハニカムフィルタ内で燃焼させ、前記フィルタの排気ガス排出側に配設されたSCR触媒中に導入する排気ガス中のNO/NO_(2)のモル比を1/2?2/1にすることを特徴とする排気ガス浄化方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

1b)「【0008】
本発明の排気ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物及び粒子状物質を含有する排気ガスを浄化する装置であって、多孔質セラミックハニカム構造体の所望の流路を目封止したセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持されているフィルタと、SCR触媒とを、この順序で配置したことを特徴とする。」(段落【0008】)

1c)「【0011】
本発明の排気ガス浄化装置及び排気ガス浄化方法の作用、効果について、本発明の排気ガス浄化装置を示すエンジンの排気系の構成図である図1を用いて説明する。
本発明のディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質を含有する排気ガスを浄化する装置は、多孔質セラミックハニカム構造体の所望の流路を目封止したセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持されているフィルタ11と、SCR触媒5とを、この順序で配置している。このため、酸化触媒、フィルタ、還元剤の供給源、SCR触媒を、この順序で配置した従来技術の排気ガス浄化装置の圧力損失が、酸化触媒に用いられるハニカム構造体の圧力損失、セラミックハニカムフィルタ、又はセラミック不織布からなるフィルタの圧力損失、及びSCR触媒に用いられるハニカム構造体の圧力損失の合計となり、装置全体の圧力損失が大きくなっているのに対し、本発明の排気ガス浄化装置の圧力損失は、セラミックハニカムフィルタの圧力損失とSCR触媒に用いられるハニカム構造体の圧力損失の合計にすぎないので、排気ガス通路全体の圧力損失を小さくすることができ、エンジン出力や燃費の低下を防ぐことができるのと共に、排ガス浄化装置全体の小型化が可能となる。
【0012】
ここで、本発明の排気ガス浄化装置において、多孔質セラミックハニカム構造体の所望の流路を目封止したセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持されているフィルタ11を用いる理由と作用、効果について以下説明する。
図2は、本発明の排気ガス浄化装置に用いられるフィルタ11の一例の模式断面図である。フィルタ11は、流路方向垂直断面が略円状又は略楕円状で、外周壁20と、この外周壁20の内周側で隔壁30により囲まれた多数の流路40を有する多孔質セラミックハニカム構造体10の流路40の所望部位に目封止部50、52により交互に目封止している。そして、少なくとも一つの排気ガス流入側の目封止部端面51は、セラミックハニカムフィルタの流入側端面12に対して、排気ガス流出側に離れて配置されており、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部には触媒物質60が担持されている。
【0013】
このような構造を有するハニカムフィルタにおいて排気ガスは、流入側端面12で開口している流路41、及び42から流入する。このうち流路42から流入した排気ガス91は、流入側目封止部50があることから、隔壁31中に形成された細孔(図示せず)を通過して隣接する流路41に排出され、この流路41に流入側端面12から流入した排気ガス90と合流後、流路41を流出側端面13に向かって進行し、この流路の流出側端面には、流出側目封止部52があるために、隔壁32に形成された細孔(図示せず)を通過して隣接する流路である流出側端面13で開口している流路43から排出(矢印92で示す)される。なお、排気ガスのうちの一部は、流入側目封止部50及び流出側目封止部52に形成されている細孔(図示せず)を通過して、排出されるものもある。この間、排気ガス中の粒子状物質は、主に流路41?43、及び隔壁31?32を通過する際に、多孔質隔壁に捕集されると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部には端持された触媒物質の作用により燃焼され効率よく排気ガスが浄化される。
【0014】
従来技術では、排気ガス浄化装置の小型化ができないという問題に加えて、酸化触媒における触媒反応により高温となった排気ガスが、酸化触媒とフィルタ間の排気通路2を通過する際に温度が低下し、低温の排気ガスとなってフィルタに流入し、特に低速走行時のような浄化装置に流入する排気ガス温度自体が低い場合に、フィルタ内の温度が、粒子状物質を十分に燃焼させる温度に達せず、未燃焼の粒子状物質がフィルタに残存、特に未燃焼の粒子状物質が温度の低いフィルタ入口端部に多く残存して、流路を閉塞させることによるフィルタの圧力損失が上昇するという問題もあった。これに対して、本発明の排気ガス浄化装置は、少なくとも一つの流入側目封止部50がセラミックハニカムフィルタ11の流入側端面からフィルタ内部に離れて配置されていることから、排気ガスが流入側目封止部50より流入側に配置された隔壁31に担持された触媒物質による触媒反応により、高温とされるため、フィルタ内部の温度を前記触媒物質の活性下限温度以上に維持し易くなる。このため、本発明の排気ガス浄化装置は、排ガス中の粒子状物質を効率よく燃焼させることができ、特に流入側目封止部での未燃焼粒子状物質の堆積による圧力損失の上昇を防ぐことが出来るという効果も有する。」(段落【0011】ないし【0014】)

1d)「【0019】
次に、本発明の排気ガス浄化装置に配設されるセラミックハニカムフィルタに担持される触媒物質が、白金族金属を含んでなることが好ましいのは、白金族金属を含む触媒物質が、主に排気ガスの酸化反応を促進し、排気ガスの温度を上昇させることから、フィルタ内部温度を前記触媒物質の活性下限温度以上に維持することがより確実にできるからである。このため、排ガス中の粒子状物質を効率よく燃焼させることができ、特に流入側目封止部での未燃焼粒子状物質の堆積による圧力損失の上昇を防ぐことが出来る。尚、白金族金属を含む触媒物質は、たとえば、Pt、Pd、Ru、Rh又はその組合せ、白金族金属酸化物等が含まれるが、アルカリ土類金属酸化物や希土類酸化物等を含んでも良い。また、白金族金属を含む触媒物質には、公知のγアルミナ等の活性アルミナからなる高比表面積材料が含まれると、白金族金属等と排気ガスとの接触面積を大きくすることができ、排気ガスの浄化効率を高めることができることから好ましい。」(段落【0019】)

1e)「【0023】
本発明の排気ガス浄化装置に備えられるハニカム構造のフィルタは、隔壁の気孔率が、50%?80%、隔壁の平均細孔径が10?40μmであると好ましい。ハニカムフィルタの隔壁の気孔率が50%未満であると、隔壁を排気ガスが通過する際の通気抵抗が大きくなるため、フィルタの圧力損失が大きくなり、排気ガス浄化装置全体の圧力損失も大きくなるからである。一方、気孔率が80%を超えると、フィルタの強度が低下し、排気ガス浄化用装置として使用された際の、機械的応力や振動により破損するおそれがあるからである。ハニカムフィルタの気孔率は、好ましくは、60?75%である。」(段落【0023】)

1f)「【0026】
上記、排気ガス浄化装置に備えられるハニカムフィルタの隔壁を構成する材料としては、本発明が主にディーゼルエンジンの排気ガスを浄化するために使用されるため、耐熱性に優れた材料を使用することが好ましく、コージェライト、アルミナ、ムライト、窒化珪素、炭化珪素及びLASからなる群から選ばれた少なくとも1種を主結晶とするセラミック材料を用いることが好ましい。中でも、コージェライトを主結晶とするハニカム構造体は、安価で耐熱性、耐食性に優れ、また低熱膨張であることから最も好ましい。」(段落【0026】)

1g)「【0035】
(実施例)
本発明に係わるディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置の実施の形態の排気ガス浄化装置における、フィルター11の製造方法について、模式断面図の図3を用いて説明する。
カオリン、タルク、シリカ、水酸化アルミ、アルミナなどのコージェライト生成原料粉末に、成形助剤と造孔剤を添加し、規定量の水を注入して更に十分な混合を行い、ハニカム構造に押出成形可能な坏土を調整した。そして、公知の押出成形用金型を用い押出成形し、外周壁と、この外周壁の内周側で隔壁により囲まれた断面が四角形状の流路を有するハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後焼成を行い、直径267mm、全長L305mm、隔壁のピッチ1.50mmで、隔壁厚さ0.3mmの隔壁構造を有し、隔壁の気孔率が65%、平均細孔径が20μmのセラミックハニカム構造体10を作製した。」(段落【0035】)

1h)「【0037】
前記のハニカムフィルタに対して、白金(Pt)、酸化セリウム、及び活性アルミナからなる触媒物質を隔壁表面及び隔壁中の細孔内部、更には目封止部表面及び目封止部中の細孔内部に担持させた。担持量はPt量で2g/L(ハニカムフィルタ容積1Lに対して2g担持の意味)とした。
上記のように作成したフィルタ11を、図2に示すように、エンジン1の排気通路2に、フィルタ11、アンモニア等を噴出できる還元剤供給装置6、SCR触媒5を設けて配置する。ここで、SCR触媒5には、直径267mm、全長L200mm、隔壁のピッチ1.06mmで、隔壁厚さ0.11mmの隔壁構造を有し、隔壁の気孔率が30%、平均細孔径が5μmのコージェライト質セラミックハニカム構造体に、V_(2)O_(5)、WO_(3)、TiO_(2)を担持して、形成した。そして、還元剤供給装置6はアンモニア水や液体アンモニアや尿素水溶液を還元剤タンク6aから排気通路2内に噴霧できる還元剤噴射弁6bを備えて形成した。」(段落【0037】)

1i)「【0039】
以上の構成による排気ガス浄化装置は、エンジン1の下流側の排気通路2に、上流側から順に、多孔質セラミックハニカム構造体の所望の流路を目封止したセラミックハニカムフィルタの、少なくとも一つの排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されていると共に、隔壁及び/または目封止部の少なくとも一部に触媒物質が担持されているフィルタ11、アンモニア等を噴出できる還元剤供給装置6、SCR触媒5を設けて構成されていることから、次のように浄化される。フィルタ11への粒子状物質の捕集量が多くなると、フィルタの目詰まりによる圧力損失の上昇を避けるため、ディーゼルエンジン1の運転状態に応じて、触媒物質を担持させたフィルタ上への微粒子の堆積量を推定した上で、フィルタの上流側に燃料を未燃のまま噴射して、前記触媒物質上で、燃料の酸化反応を促し、その反応熱によりフィルタの内部温度を前記触媒物質の活性下限温度以上に維持させ、堆積した微粒子を燃焼させる。この時、セラミックハニカムフィルタ11の排気ガス流入側目封止部が排気ガス流入側端面より離れて配置されているため、目封止部の温度が触媒物質の活性化温度以上に維持され、排気ガス流入側目封止部の流入側端面への微粒子堆積による、流路閉塞を原因とする、フィルタ11の圧力損失上昇を低減させることが可能となる。また、このような構成のフィルタから排出される排気ガス中に、NO及びNO_(2)が含まれ、且つ、このNO及びNO_(2)のモル比をNO/NO_(2)で1/2?2/1とした排気ガスが得られ易いため、これに、還元剤供給装置から還元剤であるアンモニアを添加してガス混合物を形成し、このガス混合物をSCR触媒上に導入させると、NOxからN_(2)への転化率が増加し、NOxがN_(2)に高効率で転化されて浄化される。」(段落【0039】)

上記1a)ないし1i)並びに図1及び図2から次のことが分かる。

1j)上記1a)及び1c)並びに図1の記載から、ディーゼルエンジン1からの排気ガスを浄化する方法において、粒子状物質を含有する排気ガスの流路内にセラミックハニカムフィルタ11を配置し、SCR触媒5をセラミックハニカムフィルタ11の排気ガス排出側に配置することが分かる。

1k)上記1i)の記載から、セラミックハニカムフィルタ11の上流側に未燃のままの燃料を、セラミックハニカムフィルタ11への粒子状物質の捕集量が多くなった時点で噴射し、セラミックハニカムフィルタ11に担持させた触媒物質上で、燃料の酸化反応を促し、その反応熱によりフィルタの内部温度を前記触媒物質の活性下限温度以上に維持させ、堆積した微粒子を燃焼させることが分かる。

1l)図2の記載から、セラミックハニカムフィルタ11は、軸方向に延在する隔壁によって区分された軸方向に延在する複数の流路を有することが分かる。

1m)上記1c)及び図2の記載から、セラミックハニカムフィルタ11の流路は、流入側端部と流出側目封止部52が設けられた流出側端部が設けられた第1の流路と、流入側端部から離れて配置される流入側目封止部50と流出側端部が設けられた第2の流路とを備えることが分かる。

1n)上記1c)、1d)の記載から、セラミックハニカムフィルタ11の隔壁の少なくとも一部には、触媒物質が担持され、触媒物質は白金属金属であって、Pt,Pd、Ru、Rh又はその組合せからなることが分かる。

1o)上記1e)の記載から、セラミックハニカムフィルタ11の隔壁の気孔率は50ないし80%であって、隔壁の平均細孔径は10ないし40ミクロンであることが分かる。

1p)上記1h)の記載から、白金属金属からなる触媒物質は、隔壁表面及び隔壁中の細孔内部に担持されており、触媒物質の担持量はPt量で2g/Lであることが分かる。

1q)上記1i)及び図1の記載から、セラミックハニカムフィルタ11の上流側に、別途酸化触媒を設けることなく、セラミックハニカムフィルタ11のみで堆積した微粒子を燃焼させることが分かる。

以上の1a)ないし1q)並びに図1及び図2の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ディーゼルエンジン1からの排気ガスを浄化する方法であって、
粒子状物質を含有する排気ガスの流路内にセラミックハニカムフィルタ11を配置する段階、
SCR触媒5をセラミックハニカムフィルタ11の排気ガス排出側に配置する段階、及び
セラミックハニカムフィルタ11の上流で、未燃のままの燃料をセラミックハニカムフィルタ11への粒子状物質の捕集量が多くなった時点で噴射して、
セラミックハニカムフィルタ11に堆積した粒子状物質を燃焼させるための、セラミックハニカムフィルタ11に担持させた触媒物質上で、燃料の酸化反応を促することによる反応熱をセラミックハニカムフィルタ11内において発生させる工程を含み、
セラミックハニカムフィルタ11は、軸方向に延在する隔壁によって区分された軸方向に延在する複数の流路を備え、
セラミックハニカムフィルタ11の流路は、流入側端部及び流出側目封止部52が設けられた流出側端部を有する第1の流路と、流入側端部と流入側端部から離れて配置される流入側目封止部50及び流出側端部を有する第2の流路とを備え、
隔壁の気孔率は50ないし80%であって、隔壁の平均細孔径は10ないし40ミクロンであって、
セラミックハニカムフィルタ11は、白金属金属を含む触媒物質を備えるものであって、触媒物質は隔壁表面及び隔壁中の細孔内部に担持されており、及び白金属金属を含む触媒物質はセラミックハニカムフィルタ11の隔壁の少なくとも一部に担持されており、
触媒物質の担持量はPt量で2g/Lであり、
白金属金属を含む触媒物質は、Pt、Pd、Ru、Rh又はその組合せを含むものであり、
燃料の酸化反応を促することによる反応熱によって、セラミックハニカムフィルタ11に堆積した微粒子を燃焼することを、セラミックハニカムフィルタ11の上流側に別途酸化触媒を設けることなく、セラミックハニカムフィルタ11のみで行うことが可能である方法。」

(2)刊行物2の記載等
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-286758号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

2a)「【請求項1】排ガス流路の上流側に設けられ、貴金属を無機酸化物に担持させて形成された貴金属触媒層を有する3次元構造体(a)と、
前記3次元構造体(a)の下流側に設けられた遷移金属触媒層を有する3次元構造体(b)とを備えたことを特徴とする排ガス浄化材。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【請求項7】前記貴金属触媒層が、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる1種以上の貴金属を含むことを特徴とする請求項1乃至6の内のいずれか1項に記載の排ガス浄化材。」(【特許請求の範囲】の【請求項7】)

2c)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれるパティキュレート(固体状炭素微粒子、液体あるいは固体状の高分子量炭化水素微粒子)を燃焼して排ガスを浄化する排ガス浄化材に関するものである。」(段落【0001】)

2d)「【0117】(実施例46)耐熱性の3次元構造体として、ウォールスルータイプのコージェライトフィルタ(NGK製 5.66インチ、100セル/インチ)の上流側の半分に実施例1で得られたスラリー溶液に含浸させ、余分な溶液をエアーガンにて取り除いた後、液体窒素を用いて付着した触媒溶液を凍結させた。次に、このフィルタを真空凍結乾燥装置(共和真空製)内に設置し、凍結した触媒溶液の水分を昇華させた後、フィルタを電気炉内にて600℃で5時間熱処理することにより、均一にアルミナ担持の白金触媒を担持した。つぎに、この耐熱性の3次元構造体の下流側の半分に実施例3で得られたスラリー溶液に含浸させ、余分な溶液をエアーガンにて取り除いた後、液体窒素を用いて付着した触媒溶液を凍結させた。次に、このフィルタを真空凍結乾燥装置(共和真空製)内に設置し、凍結した触媒溶液の水分を昇華させた後、フィルタを電気炉内にて600℃で5時間熱処理することにより、均一にチタニア担持の銅とバナジウムの複合金属酸化物と、硫酸セシウムを担持した。」(段落【0117】)

2e)「【0161】貴金属を含む貴金属触媒層と、遷移金属触媒層とを分離して別々の構造体上に置くことで貴金属の必要量を少なくして低いコストで排ガス浄化材を製造することができる。」(段落【0161】)

上記2a)ないし2e)の記載を総合すると、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されている。

「ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるパティキュレートを燃焼して排ガスを浄化する排ガス浄化材であって、ウォールスルータイプのフィルタの上流側半分に貴金属触媒を担持させ、下流側半分に遷移金属触媒を担持させることにより貴金属の必要量を少なくして低コストの排ガス浄化材の製造を可能とする技術。」

3.対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ディーゼルエンジン1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明における「ディーゼルエンジン」に相当し、以下同様に、「排気ガス」は「排気流」に、「浄化する」は「処理」するに、「含有する」は「含む」に、「排気ガスの流路内」は「排気流内」に、「セラミックハニカムフィルタ11」は「壁流モノリス」又は「フィルター」に、「段階」は「手順」に、「SCR触媒5」は「NOx還元触媒」に、「排気ガス排出側」は「下流側」に、「未燃のままの燃料」は「発熱生成材」に、
それぞれ相当する。
また、引用発明における「未燃のままの燃料を、セラミックハニカムフィルタ11への粒子状物質の捕集量が多くなった時点で噴射」することは、セラミックハニカムフィルタ11における粒子状物質の捕集量が多くなる度に、未燃のままの燃料を噴射するということであるから、本件補正発明における「発熱生成材を定期的に導入」することに相当し、引用発明における「燃料の酸化反応を促することによる反応熱」によって、「セラミックハニカムフィルタ11に堆積した粒子状物質を燃焼させる」ことは本件補正発明の「積極的再生法」に相当するから、引用発明における「セラミックハニカムフィルタ11に堆積した粒子状物質を燃焼させるための、セラミックハニカムフィルタ11に担持させた触媒物質上で、燃料の酸化反応を促することによる反応熱」は、本件補正発明における「壁流モノリス内に捕捉した粒子状物質を積極的再生法によって燃焼させるのに十分な発熱」に相当する。
さらに、引用発明における「軸方向に延在する」ことは、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明の「縦方向に伸びる」ことに相当し、以下同様に、「隔壁」は「壁部」に、「区分された」は「境界付けられた」に、「流路」は「通路」に、「流入側端部」は「開口入口端」に、「流出側目封止部52が設けられた流出側端部」は「出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端」に、「第1の流路」は「入口通路」に、「流出側端部を有する第2の流路」は「開口出口端を有する出口通路」に、「平均細孔径」は「平均孔径」に、「白金属金属」は「貴金属組成物」に、「触媒物質」は「点火燃料酸化触媒組成物」に、「隔壁表面及び隔壁中の細孔内部に担持され」ることは、「壁部に浸透」することに、「担持量」は「積載量」に、「別途酸化触媒を設けることなく」は「別個の点火酸化触媒を必用とすることなく」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明における「流路は、流入側端部と流出側目封止部52が設けられた流出側端部が設けられた第1の流路と、流入側端部から離れて配置される流入側目封止部50と流出側端部が設けられた第2の流路とを備え」ると、本件補正発明における「通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路、及び入口端に入口プラグが設けられた閉鎖入口端と開口出口端を有する出口通路を有」するとは、「通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路、及び入口側に入口プラグが設けられた閉鎖入口部と開口出口端を有する出口通路を有」するという限りにおいて一致し、
引用発明における「隔壁の気孔率は50ないし80%であって、隔壁の平均細孔径は10ないし40ミクロン」であることは、本件補正発明における「壁部は、多孔率が少なくとも40%で、その平均孔径は、少なくとも5ミクロン」であることに相当し、
引用発明における「触媒物質の担持量はPt量で2g/L」であることは、本件補正発明における「貴金属組成物が、少なくとも0.706g/Lの積載量」で存在することに相当し、
引用発明における「燃料の酸化反応を促することによる反応熱によって、セラミックハニカムフィルタ11に堆積した微粒子を燃焼することを、セラミックハニカムフィルタ11の上流側に別途酸化触媒を設けることなく、セラミックハニカムフィルタ11のみで行うことが可能である方法」は、本願補正発明における「積極的再生は、その上流側に別個の点火酸化触媒を必用とすることなく前記フィルターだけで行うことが可能である」、「方法」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「ディーゼルエンジンからの排気流を処理する方法であって、
粒子状物質を含む排気流内に、壁流モノリスを配置する手順、
NOx還元触媒を前記壁流モノリスより下流側に配置する手順、及び
壁流モノリスの上流で、発熱生成剤を定期的に導入し、前記壁流モノリス内に捕捉した粒子状物質を積極的再生法によって燃焼させるのに十分な発熱を前記壁流モノリス内で発生させる工程を含み、
前記壁流モノリスは、縦方向に伸びる壁部によって境界付けられた、縦方向に伸びる複数の通路を有し、
該通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路、及び入口側に入口プラグが設けられた閉鎖入口部と開口出口端を有する出口通路を有し、
前記壁部は、多孔率が少なくとも40%で、その平均孔径は、少なくとも5ミクロンであり、及び
前記壁流モノリスは、貴金属組成物を含む点火燃料酸化触媒組成物を有し、該点火燃料酸化触媒組成物は、前記壁部に浸透し、及び
前記貴金属組成物が、少なくとも0.706g/Lの積載量で存在し、
前記積極的再生は、その上流側に別個の点火酸化触媒を必用とすることなく前記フィルターだけで行うことが可能であることを特徴とする方法。」

[相違点1]
壁流モノリスの「通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路及び入口側に入口プラグが設けられた閉鎖入口部と開口出口端を有する出口通路を有」することに関して、本件補正発明においては、「通路は、開口入口端と出口端に出口プラグが設けられた閉鎖出口端を有する入口通路、及び入口端に入口プラグが設けられた閉鎖入口端と開口出口端を有する出口通路を有」するものであるのに対して、引用発明においては、「流路は、流入側端部及び流出側目封止部52が設けられた流出側端部が設けられた第1の流路と、流入側端部と流入側端部から離れて配置される流入側目封止部50及び流出側端部が設けられた第2の流路とを備え」るものである点。

[相違点2]
本件補正発明においては、「貴金属組成物を含む酸化触媒組成物」は、「入口端から出口端に向けて、壁部の軸方向長さよりも短い長さで伸びて入口領域を形成」するのに対して、引用発明においては、「白金属金属を含む触媒物質はセラミックハニカムフィルタ11の隔壁の少なくとも一部に担持」されているものの、白金属金属を含む触媒物質がセラミックハニカムフィルタ11の隔壁の軸方向長さよりも短い長さで伸びて入口領域を形成しているか不明である点。

[相違点3]
本件補正発明においては、「貴金属組成物の広がりは、前記フィルターの軸方向長さの50%未満の範囲内」であるのに対して、引用発明においては、「白金属金属を含む触媒物質はセラミックハニカムフィルタ11の隔壁の少なくとも一部に担持」されているものの、白金属金属を含む触媒物質がセラミックハニカムフィルタ11の軸方向長さの50%未満の範囲内に存在するものか不明である点。

[相違点4]
本件補正発明においては、「貴金属組成物は、PtとPdを含み、このPtとPdの割合Pt:Pdは10:1?4:1の範囲」であるのに対して、引用発明においては、「白金属金属を含む触媒物質は、Pt,Pd、Ru、Rh又はその組合せを含む」ものであるが、PtとPdを含み、このPtとPdの割合Pt:Pdは10:1?4:1の範囲であるか不明な点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点1について]
ディーゼルエンジンの排出ガスに含まれる粒子状物質を焼却して再生する機能を有する多孔質であって酸化触媒が担持された壁流タイプの排出ガスフィルタにおいて、流入側の端部と、プラグ材により閉鎖された流出側の端部とを設けた流路、及びプラグ材により閉鎖された流入側の端部と流出側の端部とを設けた流路を有するものは本願の優先日前に周知(例えば、特開2002-102621号公報の図1及び段落【0090】ないし【0097】の記載、特表2005-500147号公報のFig.1及び【特許請求の範囲】【請求項1】の記載、及び特開2003-161138号公報の図6及び図8を参照。以下、「周知技術1」という。)である。
ここで、引用発明に周知技術1を適用することができるか検討する。
上記「第2 2.(1)1c)」の段落【0011】、【0014】における刊行物1の記載によると、引用発明におけるセラミックハニカムフィルタ11の第2の流路が、「流入側端部と流入側端部から離れて配置される流入側目封止部50」を備えることにより、「排気ガスが流入側目封止部50より流入側に配置された隔壁31に担持された触媒物質による触媒反応により、高温とされるため、フィルタ内部の温度を前記触媒物質の活性下限温度以上に維持し易くなる」こと、及び酸化触媒をセラミックハニカムフィルタの前段に設けることがないので、「排ガス通路全体の圧力損失を小さくすること」ができ、「排ガス浄化装置全体の小型化が可能となる」という効果を奏する。
しかしながら、例えば、上記周知技術1を例示する文献の一つである特表2005-500147号公報の記載(【特許請求の範囲】の【請求項1】等の記載参照)によると、上記周知技術1に係る白金属酸化触媒をフィルタに担持させたものにおいて400℃未満程度の低温で捕捉した粒子状物質を燃焼することができることが示唆されており、これによると、排気ガスがプラグ12(流入側目封止部50)より流入側に配置された隔壁に担持された触媒物質により排気ガスを予め高温とするまでもなく、プラグ12(流入側目封止部50)が流入側端部に設けられていてもフィルタ内部の粒子状物質を燃焼することが可能である。
さらに、上記周知技術1を例示する文献の一つである特開2003-161138号公報の記載(段落【0015】及び図8の記載参照)によると、上記周知技術1に係る酸化触媒をフィルタに担持させたものにおいて、別途、酸化触媒をフィルタの上流に設けることなく、350ないし450℃程度の低温で捕捉した粒子状物質を燃焼するものが示されている。
そうすると、引用発明において粒子状物質を燃焼させるために、特段、「流入側目封止部50」を「流入側端部から離れて配置」しないまでも、上記引用発明によって奏される効果が得られることは、上記周知技術1を例示する文献等をみれば明らかであるから、引用発明に周知技術1を適用することは当業者であれば想定し得ることである。
よって、引用発明のセラミックハニカムフィルタ11の第2の流路において、煤を燃焼させるための酸化触媒の性能等に応じて上記周知技術1を適用し、流入側目封止部50を流入側端部に設けて流入側端部を閉鎖することにより、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2及び相違点3について]
刊行物2記載の技術は、「ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるパティキュレートを燃焼して排ガスを浄化する排ガス浄化材であって、ウォールスルータイプのフィルタの上流側半分に貴金属触媒を担持させ、下流側半分に遷移金属触媒を担持させることにより貴金属の必要量を少なくして低コストの排ガス浄化材の製造を可能とする技術」であるから、引用発明において貴金属の必要量を少なくして低コストのセラミックハニカムフィルタ11とするために、刊行物2記載の技術を適用し、白金属金属を含む触媒物質がセラミックハニカムフィルタ11の隔壁の軸方向長さよりも短い長さで伸びて入口領域を形成するようにし、白金属金属を含む触媒物質を施す長さをセラミックハニカムフィルタ11の軸方向長さの50%未満の範囲内のものとすることにより、上記相違点2及び3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点4について]
ディーゼルエンジンの排出ガスを処理するための酸化触媒として、触媒活性や劣化安定性を考慮してPt及びPdを採用したものは本願の優先日前に周知(例えば、特開2005-248787号公報の【特許請求の範囲】、【請求項1】の記載、及び段落【0018】の記載、特に、PtとPdの割合については、【特許請求の範囲】、【請求項1】の記載における「0.15≦Pd/(Pt+Pd)≦0.75」から換算して、Pt:Pdは19:1ないし1:3となること、及び、
国際公開第2006/021337号の第4ページ第25行ないし第32行の記載、日本語訳として特表2008-510605号公報の段落【0015】及び段落【0016】の記載、特にPtとPdの割合については、段落【0016】の記載から、50:1ないし6:1であることを参照。以下「周知技術2」という。)である。
よって、引用発明における白金属金属を含む触媒物質を、上記周知技術2を適用して、触媒活性や劣化安定性等を考慮してPt及びPdを含むものとすること、その際に、PtとPdの割合を、上記周知技術2を示すために例示した文献におけるPt:Pdの割合と重複する10:1ないし4:1程度の範囲として相違点4に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項21に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成26年10月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成25年11月15日に提出された手続補正書及び平成24年12月12日に提出された誤訳訂正書により補正された明細書並びに平成21年7月29日に提出された国際出願翻訳文提出書における図面の翻訳文及び国際出願時の図面の記載からみて、上記「第2[理由]1.(1)」に記載したとおりである。

2.引用例
原査定の理由に引用された刊行物1、2及びそれらの記載事項並びに引用発明及び刊行物2記載の技術は、上記第2の[理由]の2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件発明は、上記第2の[理由]の1.で検討した本件補正発明における、「閉鎖出口端」の限定事項である「出口端に出口プラグが設けられた」旨及び、「閉鎖入口端」の限定事項である「入口端に入口プラグが設けられた」旨を削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2の[理由]の3.に記載したとおり、引用発明及び刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明及び刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-23 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-09 
出願番号 特願2009-539513(P2009-539513)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 領域的に被覆されたフィルター、排気処理システム及び方法  
代理人 江藤 聡明  

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