ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B82B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B82B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B82B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B82B |
---|---|
管理番号 | 1312725 |
審判番号 | 不服2014-18730 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-19 |
確定日 | 2016-04-12 |
事件の表示 | 特願2009-534036「凹凸層及び凹凸層を作製する刻印方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 8日国際公開、WO2008/053418、平成22年 3月18日国内公表、特表2010-508163、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年10月26日(パリ条約による優先権主張 国際事務局受理 2006年11月1日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、原審において平成25年2月5日付けで拒絶理由が通知され、同年8月1日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年5月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対し、同年9月19日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正(以下、「審判請求時補正」という)がなされ、同年10月27日付けで前置報告がなされ、同年11月25日付けで上申書が提出され、平成27年10月29日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という)が通知され、平成28年1月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正前補正」という)がなされ、同年2月15日付けで当審より再度拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という)が通知され、同年2月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正」という)がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし11に係る発明は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものと認められる。 本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 テンプレート凹凸パターンを含む型押面を持つゴム押型を用いて凹凸層を形成する方法において、 基板面を設けるステップと、 前記基板面及び前記型押面の少なくとも一方に、酸化ケイ素化合物及び溶媒を有する酸化ケイ素化合物溶液を供給するステップと、 前記溶媒を少なくとも部分的に除去して、部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を残存させるステップと、 前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を前記基板面と前記型押面との間に挟み、これにより前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層が前記テンプレート凹凸パターンに従って型形成されるようにするステップと、 前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を、挟まれている間に更に乾燥し、これにより固化された酸化ケイ素層を形成するステップと、 前記型押面を前記固化された酸化ケイ素層から分離し、これにより前記凹凸層を出現させるステップと、 を有し、 前記酸化ケイ素化合物溶液は、前記酸化ケイ素の凹凸層を形成するための前記酸化ケイ素化合物を有し、該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は、4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子、及び、3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子であり、前記ケイ素原子と前記酸素とは異なる1つの原子との間の化学的結合は、当該方法の間において化学的に不活性であり、 前記溶媒は、水とnプロパノールとを有する、方法。 【請求項2】 前記酸化ケイ素化合物がナノ粒子を有する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記酸化ケイ素化合物溶液が酸化ケイ素化合物前駆体と少なくとも1つの単官能化トリアルコキシシランとを混合することにより作製され、該混合物が酸の水溶液と反応されて前記酸化ケイ素化合物を形成する、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記酸化ケイ素化合物前駆体がテトラアルコキシシランである、請求項3に記載の方法。 【請求項5】 前記テトラアルコキシシランにおけるアルコキシ基の少なくとも1つが、前記少なくとも1つの単官能化トリアルコキシシランにおけるアルコキシ基の少なくとも1つと同一である、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 前記単官能化トリアルコキシシランの単官能は、該単官能が前記ケイ素原子と化学的に結合される炭素原子を含む、請求項3ないし5の何れか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記炭素原子が4未満の炭素原子を持つアルキル基の一部である、請求項6に記載の方法。 【請求項8】 4つの酸素原子に化学的に結合されたケイ素/3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素のモル比が、前記酸化ケイ素化合物溶液及び/又は前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層内で3/2より小さい、請求項1に記載の方法。 【請求項9】 前記押型が前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層の構成物質に対して透過的であり、これにより前記挟むステップの間において更なる乾燥を達成する、請求項1に記載の方法。 【請求項10】 前記凹凸層に加熱ステップが施こされる、請求項1に記載の方法。 【請求項11】 前記凹凸パターンの凹部及び凸部が、前記基板面と平行な面を有する、請求項1に記載の方法。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 平成25年2月5日付けで原審において通知された拒絶理由の概要は以下のとおりである。 「理 由 1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1,3,4,6,7,11,12/引例1/理由1,2 (備考) 引例1(図1を参照)には、「テンプレート凹凸パターンを含む型押面を持つ押型11を用いて凹凸層10を形成する方法において、 - 基板面を設けるステップと(図1(b)を参照)、 - 前記基板面及び前記型押面の少なくとも一方に、酸化ケイ素化合物及び溶媒を有する酸化ケイ素化合物溶液を供給するステップと(図1(b)、[0033]を参照)、 - 前記溶媒を少なくとも部分的に除去して、部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を残存させるステップと([0034]を参照)、 - 前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を前記基板面と前記型押面との間に挟み、これにより前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層が前記テンプレート凹凸パターンに従って型形成されるようにするステップと(図1(d)、[0036]を参照)、 - 前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を、挟まれている間に更に乾燥し、これにより固化された酸化ケイ素層を形成するステップと(図1(d)、[0037]を参照)、 - 前記型押面を前記固化された酸化ケイ素層から分離し、これにより前記凹凸層を出現させるステップと(図1(e)、[0037]を参照) を有し、 - 前記酸化ケイ素化合物溶液は前記酸化ケイ素の凹凸層を形成するための酸化ケイ素化合物を有し、該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子(テトラアルコキシシラン:[0068]を参照)又は3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子(メチルトリエトキシシラン:[0065]を参照)の何れかであり、前記ケイ素原子と前記酸素とは異なる1つの原子との間の化学的結合が当該方法の間において化学的に不活性である方法。」 が記載されているから、本願請求項1に係る発明は、引例1から新規性、進歩性を有しない。 ・請求項2/引例1/理由2 (備考) ゾルゲル法を用いて被インプリント材料にナノ粒子を分散させることは周知である(特開2004-314238号公報の[0021][0022]を参照)。 ・請求項5/引例1/理由2 (備考) テトラアルコキシシランにおけるアルコキシ基とトリアルコキシシランにおけるアルコキシ基とを敢えて異なるものとする必要はなく、同じものとするか異なるものとするかは、当業者が適宜に決定し得る事項である。 ・請求項8,13?18/引例1/理由1,2 (備考) 引例1に記載の発明は、メチルトリエトキシシランに対してテトラアルコキシシラン類を追加して加えるものであるから([0068]を参照)、4つの酸素原子に結合されたケイ素の割合が、3つの酸素原子に結合されたケイ素の割合よりも小さい場合は当然に想定されている。 ・請求項9/引例1/理由2 (備考) 引例1に記載の発明における酸溶液を、2種類の溶液を混合して得ることに格別の困難はない。 ・請求項10/引例1/理由2 (備考) インプリント用モールドを、シリコーンゴムから成形することは周知である(特開2006-287192号公報の[0030]を参照)。 ・請求項19?22/引例1/理由1,2 (備考) 引例1の[0072][0073]の記載を参照。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2005-053006号公報」 2 原査定の理由の判断 (1)刊行物の記載及び引用発明 ア 原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-53006号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載がある。 (ア)「【0029】 [一実施形態] 本発明の一実施形態に係る回折格子の製造方法を図1に基づいて説明する。 この製造方法は、ゾルゲル法による回折格子の製造方法で、以下の工程を含む。 【0030】 なお、一般的な「ゾルゲル法」は、含水酸化物ゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを加熱して無機酸化物をある一定の形状、または基板上の被膜として、調製する方法をいう。 【0031】 (工程1)まず、微細な形状である微細な溝形状10を有する樹脂製の回折格子成形型11(図1(a)参照)を作製し、微細な溝形状10の表面に離型膜(図示略)を成膜する。 【0032】 (工程2)基材としてのガラス基板12の表面(基材表面)に有機無機複合材料からなるゲル膜14を形成する。 この工程2は、次の手順で行われる。 【0033】 ・図1(b)に示すように、メチル基が直接Siに結合した材料(有機無機複合材料)であるメチルトリエトキシシランおよび酸水溶液を主成分とするゾル液13をガラス基板12の表面に塗布する。 【0034】 ・塗布したゾル液13を脱水処理してゲル膜14を形成する。 (工程3)上記工程2で形成されたゲル膜14に、回折格子成形型11の微細な溝形状10を転写して、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形する。 【0035】 この工程3は次の手順で行われる。 ・上記工程2で得られたゲル膜14が柔らかい状態で、表面にゲル膜14が形成されたガラス基板12をプレス機15内に入れ(図1(c)参照)、プレス機15内を真空にして成形の準備をする。 【0036】 ・次に、プレス機15に取り付けた回折格子成形型11の微細な溝形状10をゲル膜14に押し当てて、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形する(図1(d)参照)。 【0037】 ・次に、プレス機15内を60℃に保持して成形構造体14Aを硬化させる。 ・この後、プレス機15内部を大気圧に戻し、回折格子成形型11をゲル膜14から離型する(図1(e)参照)。 【0038】 こうして、回折格子成形型11の微細な溝形状10がゲル膜14に転写されて微細な溝形状10を有する成形構造体(ゲル状の回折格子)14Aが形成される。 【0039】 (工程4)微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを350℃で熱処理する(図1(f)参照)。 (工程5)次に、工程4で熱処理された成形構造体14Aの微細な溝形状10の表面に金(Au)を成膜して反射膜16を形成し(図1(g)参照)、反射膜16付の成形構造体14Aの光学特性を評価する。 【0040】 (工程6)次に、反射膜16を剥離する(図1(h)参照)。 (工程7)次に、反射膜16が剥離された成形構造体14Aを、脱水縮合反応および未反応成分の脱離が起こる温度(例えば350℃)と、成形構造体14Aを構成する物質の骨格構造が熱分解する温度(例えば600℃)との間の温度で熱処理する。本実施形態では、反射膜16が剥離された成形構造体14Aを600℃で1時間熱処理を行う(図1(i)参照)。 【0041】 (工程8)次に、上記工程7で熱処理された成形構造体14Aの微細な溝形状10の表面に再度金(Au)を成膜して反射膜16を形成する(図1(j)参照)。これにより、微小成形体としての回折格子20の作製が完了する。」 (イ)「【0065】 ・上記一実施形態では、メチル基が直接Siに結合した材料(有機無機複合材料)であるメチルトリエトキシシランおよび酸水溶液を主成分とするゾル液13を用いているが、本発明はこれに限定されない。 【0066】 メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、メチルトリエトキシシラン以外に、例えば、ジメチルジエトキシシランなどを用いることができる。ここで、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシランの一般式は、次のとおりである。 【0067】 メチルトリアルコキシシラン類:CH_(3)Si(OR)_(3)R=CH_(2)または C_(2)H_(5)、 ジメチルジアルコキシシラン類:(CH_(3))_(2)Si(OR)_(2)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)。 【0068】 これらの材料に、 テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えた組成を有する有機無機複合材料を、ゾル液13に用いることができる。」 (ウ) 図1は、次のものである。 イ 引用発明 上記アによれば、(工程2)「基材としてのガラス基板12の表面(基材表面)に有機無機複合材料からなるゲル膜14を形成する」(【0032】)前に、「基材としてのガラス基板12の表面」を用意するステップがあることは明らかであるから、引用文献には次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。 「微細な形状である微細な溝形状10を有する樹脂製の回折格子成形型11を作製し、微細な溝形状10の表面に離型膜を成膜するステップ、 基材としてのガラス基板12の表面を用意するステップ、 メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたものであるゾル液13を基材としてのガラス基板12の表面に塗布するステップ、 前記塗布したゾル液13を脱水処理してゲル膜14を形成するステップ、 前記ゲル膜14が柔らかい状態で、表面にゲル膜14が形成されたガラス基板12をプレス機15内に入れ、プレス機15内を真空にして成形の準備をするステップ、 前記プレス機15に取り付けた回折格子成形型11の微細な溝形状10をゲル膜14に押し当てて、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形するステップ、 前記プレス機15内を60℃に保持して成形構造体14Aを硬化させるステップ、 前記プレス機15内部を大気圧に戻し、回折格子成形型11をゲル膜14から離型するステップ、 前記回折格子成形型11の微細な溝形状10がゲル膜14に転写されて微細な溝形状10を有する成形構造体(ゲル状の回折格子)14Aが形成され、 前記微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを350℃で熱処理するステップ、 前記熱処理された成形構造体14Aの微細な溝形状10の表面に金(Au)を成膜して反射膜16を形成し、反射膜16付の成形構造体14Aの光学特性を評価するステップ、 前記反射膜16を剥離するステップ、 前記反射膜16が剥離された成形構造体14Aを、脱水縮合反応および未反応成分の脱離が起こる温度と、成形構造体14Aを構成する物質の骨格構造が熱分解する温度との間の温度で熱処理するステップ、 前記熱処理された成形構造体14Aの微細な溝形状10の表面に再度金(Au)を成膜して反射膜16を形成し、微小成形体としての回折格子20の作製が完了するステップ、 と有する回折格子の製造方法。」 (2)対比・判断 ア 本願発明1と引用発明との対比・判断 (ア)本願発明1と引用発明を対比する。 a 引用発明の「回折格子の製造方法」は、「微細な形状である微細な溝形状10を有する樹脂製の回折格子成形型11を作製し、微細な溝形状10の表面に離型膜を成膜する」ものであるから、微細な形状である微細な溝形状10(本願発明1の「テンプレート凹凸パターン」に相当。)を有する樹脂製の回折格子成形型11を用いて、微細な溝形状10の離型膜(凹凸層)を成膜するものであるといえる。 したがって、引用発明の「微細な形状である微細な溝形状10を有する樹脂製の回折格子成形型11を作製し、微細な溝形状10の表面に離型膜を成膜する」「回折格子の製造方法」は、本願発明1の「テンプレート凹凸パターンを含む型押面を持つゴム押型を用いて凹凸層を形成する」「方法」と、「テンプレート凹凸パターンを含む型押面を持つ押型を用いて凹凸層を形成する」「方法」の点で一致する。 b 引用発明の「基材としてのガラス基板12の表面を用意するステップ」は、本願発明1の「基板面を設けるステップ」に相当する。 c 引用発明の「ゾル液13」は、「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたものである」でところ、当該「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン」及び「前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたもの」はケイ素化合物であり、酸水溶液は水を含む溶媒であるから、ケイ素化合物及び水を含む溶媒を有するケイ素化合物溶液であるといえる。 そうすると、引用発明の「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたものであるゾル液13を基材としてのガラス基板12の表面に塗布するステップ」は、本願発明1の「前記基板面及び前記型押面の少なくとも一方に、酸化ケイ素化合物及び溶媒を有する酸化ケイ素化合物溶液を供給するステップ」と、「前記基板面に、ケイ素化合物及び溶媒を有するケイ素化合物溶液を供給するステップ」の点で一致する。 d 引用発明の「表面にゲル膜14が形成されたガラス基板12をプレス機15内に入れ、プレス機15内を真空にして成形の準備をするステップ」及び「前記プレス機15に取り付けた回折格子成形型11の微細な溝形状10をゲル膜14に押し当てて、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形するステップ」は、上記cでの検討を踏まえると、本願発明1の「酸化ケイ素化合物層を前記基板面と前記型押面との間に挟み」、「酸化ケイ素化合物層が前記テンプレート凹凸パターンに従って型形成されるようにするステップ」と、「ケイ素化合物層を前記基板面と前記型押面との間に挟み」、「ケイ素化合物層が前記テンプレート凹凸パターンに従って型形成されるようにするステップ」の点で一致する。 e 引用発明の「前記プレス機15内部を大気圧に戻し、回折格子成形型11をゲル膜14から離型するステップ」及び「前記回折格子成形型11の微細な溝形状10がゲル膜14に転写されて微細な溝形状10を有する成形構造体(ゲル状の回折格子)14Aが形成され」る点は、本願発明1の「前記型押面を」「ケイ素層から分離し、これにより前記凹凸層を出現させるステップ」の点に相当する。 f 上記cないしeでの検討によれば、引用発明の「ゾル液13」は、「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたもの」であって、「前記塗布したゾル液13を脱水処理してゲル膜14を形成」し、「前記プレス機15に取り付けた回折格子成形型11の微細な溝形状10をゲル膜14に押し当てて、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形する」ものであるから、本願発明1の「前記酸化ケイ素化合物溶液は、前記酸化ケイ素の凹凸層を形成するための前記酸化ケイ素化合物を有」する点と、「前記ケイ素化合物溶液は、前記ケイ素の凹凸層を形成するための前記ケイ素化合物を有」する点で一致する。 g 上記aないしfによれば、本願発明1と引用発明とは、 「テンプレート凹凸パターンを含む型押面を持つ押型を用いて凹凸層を形成する方法において、基板面を設けるステップと、前記基板面及び前記型押面の少なくとも一方に、ケイ素化合物及び水を含む溶媒を有するケイ素化合物溶液を供給するステップと、前記ケイ素化合物層を前記基板面と前記型押面との間に挟み、これにより前記ケイ素化合物層が前記テンプレート凹凸パターンに従って型形成されるようにするステップと、前記前記型押面を前記ケイ素層から分離し、これにより前記凹凸層を出現させるステップと、を有し、前記ケイ素化合物溶液は、前記ケイ素の凹凸層を形成するための前記ケイ素化合物を有し、前記溶媒は水を有する、方法。」 である点で一致し、以下の各点で相違する。 (a)本願発明1の「押型」は、「ゴム押型」であるのに対して、引用発明の「回折格子成形型11」は、「樹脂製」である点(以下「相違点1」という。)。 (b)「前記基板面及び前記型押面の少なくとも一方に、ケイ素化合物及び水を含む溶媒を有するケイ素化合物溶液を供給するステップ」における、「ケイ素化合物溶液」と「水を含む溶媒」について、本願発明1の「ケイ素化合物溶液」は、「該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は、4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子、及び、3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子であり、前記ケイ素原子と前記酸素とは異なる1つの原子との間の化学的結合は、当該方法の間において化学的に不活性であ」る「酸化ケイ素化合物溶液」であり、溶媒は、「nプロパノール」を有するのに対し、引用発明の「ケイ素化合物溶液」は、「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたものである」である「ゾル液13」であり、溶媒に、「nプロパノール」を有さない点(以下、「相違点2」という。)。 (c)本願発明1の「酸化ケイ素層」は、「酸化ケイ素化合物溶液」の「溶媒を少なくとも部分的に除去して、部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を残存させるステップと」、「前記部分的に乾燥された酸化ケイ素化合物層を、挟まれている間に更に乾燥し、これにより固化された酸化ケイ素層を形成するステップと」により「固化された酸化ケイ素層」をなすものであるのに対して、引用発明の「成形構造体14A」は、「塗布したゾル液13を脱水処理してゲル膜14を形成するステップ、前記ゲル膜14が柔らかい状態で、表面にゲル膜14が形成されたガラス基板12をプレス機15内に入れ、プレス機15内を真空にして成形の準備をするステップ、前記プレス機15に取り付けた回折格子成形型11の微細な溝形状10をゲル膜14に押し当てて、微細な溝形状10を有する成形構造体14Aを成形するステップ、前記プレス機15内を60℃に保持して成形構造体14Aを硬化させるステップ」と、「反射膜16が剥離された成形構造体14Aを、脱水縮合反応および未反応成分の脱離が起こる温度(例えば350℃)と、成形構造体14Aを構成する物質の骨格構造が熱分解する温度(例えば600℃)との間の温度で熱処理」し「反射膜16が剥離された成形構造体14Aを600℃で1時間熱処理を行う」(上記(1)ア(ア)段落【0040】)ことによって乾燥及び固化させるステップを有している点(以下「相違点3」という。)。 (イ)判断 a 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 引用発明は、ゾル液13をガラス基板12の表面に塗布した後に、「前記塗布したゾル液13を脱水処理してゲル膜14を形成するステップ」において、「メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料であるメチルトリエトキシシラン及び酸水溶液を主成分とし、前記メチル基が直接Siに結合した有機無機複合材料として、テトラアルコキシシラン類:Si(OR)_(4)R=CH_(2)またはC_(2)H_(5)を加えたものである」から、脱水処理によって、酸化ケイ素化合物を含むゲル膜14を形成するものと解される。 そして、引用発明において、ガラス基板12の表面に塗布するゾル液13の粘性は、塗布に適したものとなっていると解されることから、ゾル液13に、ゲル化して、ゾル液13の粘性が上昇するような酸化ケイ素化合物を含ませることは想定されていない。 また、溶媒に水以外の溶媒を含ませた場合に、ゾル液13にどのような変化をもたらすか明らかではないことから、引用発明の溶媒に、nプロパノールを溶媒に含ませることも想定されるものではない。 したがって、引用発明において、本願発明1の上記相違点2に係る構成を備えることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 また、引用文献に記載された事項を参酌しても、引用発明において、上記相違点2の構成となすことが当業者にとって容易であるとはいえない。 b そして、引用発明は、「耐熱性の高い微小成形体を量産性よく作製する」(引用文献 段落【0074】)ものであるが、本願発明1は、上記相違点1、2及び4の構成とすることにより、「本方法により得られた凹凸層は、幾つかの利点を有する。該層は、高い無機酸化ケイ素質量含有率により、低い有機含有率及び低い有孔率を有する。従って、該層は強固であって、以下に考察されるように複数の用途に使用することができる」(本願明細書 段落【0062】)との顕著な効果を奏するものであると認められる。 c してみると、その余の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明ではなく、また、当業者が引用発明及び引用文献の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本願発明2ないし11と引用発明との対比・判断 本願発明2ないし11は、本願請求項1を引用するものであって本願発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記アで検討したとおり、本願発明1が、引用発明ではなく、また、当業者が引用発明及び引用文献の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない以上、本願発明3、4、6ないし8は引用発明ではなく、また、本願発明2ないし11は、当業者が引用発明及び引用文献の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。 ウ 以上ア及びイでの検討によれば、本願発明1、3、4、6ないし8は、引用発明ではなく、また、本願発明1ないし11は、当業者が引用発明及び引用文献の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである 3 まとめ したがって、本願発明1ないし11は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 (1)当審拒絶理由1の概要は以下のとおりである。 「理 由 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願請求項1における、「可撓性押型」との発明特定事項について(特許法第36条第6項第2号) ア 本願明細書には、「シリコーン押型等のゴム押型」等の記載があり「ゴム」程度の硬さとすることが記載されているところ、「可撓性押型」との記載では、「押型」をどの程度の硬さのものと特定するのか明確ではない。 イ これに対して、原査定の引用文献(特開2005-53006号公報)の「成形型」は「樹脂製」とされる(【0031】)ところ、「樹脂」は「可撓性」のものを多く含むため、この点においても「可撓性押型」との発明特定事項では、「樹脂性押型」との差異が明確ではない。 (2)本願請求項1における、「該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は、4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子、又は、3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子の何れかであり」との発明特定事項について(特許法第36条第6項第1号、下線は当審が付した。) ア 上記発明特定事項では、例えばトリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランの「何れか」一方のみである場合を含むこととなるが、このような場合は、「本発明の方法は、これらの問題を同時に解決するような組成を持つ酸化ケイ素化合物を組み合わせる。かくして、本方法は、望ましい高質量含有率(high mass content)及び粘度を得るのに適した程度のSi-O-Si化学架橋結合を有する酸化ケイ素化合物を供給し、上記架橋結合の度合いは、無機架橋を形成するために4の代わりに3の原子価しか有さないような酸化ケイ素前駆体化合物を添加することにより制御される。」(【0010】)及び「テトラアルコキシシラン及び単官能化トリアルコキシシランが、酸化ケイ素化合物前駆体溶液内に存在するモル比に従って当該酸化ケイ素化合物内に含まれることが有利である」(【0017】)との本願の課題を解決できる構成とはいえない。(「・・・ケイ素原子、及び、3つの酸素・・・」とする必要があるのではないか?) したがって、発明特定事項を含む本願請求項1に係る発明は、本願の課題を解決できない発明を含み、本願明細書に記載されたものとはいえない。 イ また、本願明細書では、トリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシラン(及び同派生物)以外は具体的な組成がなく、単なる「酸化ケイ素化合物」に一般化したものまでが、本願の解決すべき課題を解決できるか理解できない したがって、発明特定事項を含む本願請求項1に係る発明は、本願の課題を解決できない発明を含み、本願明細書に記載されたものとはいえない。 (3)本願請求項1における、「所望の質量含有率及び粘度を得るのに適した程度のSi-O-Si架橋」との発明特定事項について(特許法第36条第6項第2号) ア 上記記載では、「所望の質量含有率及び粘度」は、特定されないため、「所望の質量含有率及び粘度を得るのに適した程度のSi-O-Si架橋」がどの程度の架橋を発明特定事項とするのか不明確である。 (4)本願請求項1における、「溶媒は、第1溶媒及び第2溶媒を有し、前記第1溶媒は、前記第2溶媒よりも高い蒸気圧を有する」との発明特定事項について(特許法第36条第6項第2号) ア 複数種類の溶媒を混合する場合、通常溶媒の種類が異なれば蒸気圧が異なることは技術常識であり、かつ、溶媒として複数種類混合したものを用いることも技術常識であるから、上記発明特定事項は、実質的に従来技術との差異がない。 イ ただし、原査定の引用文献(特開2005-53006号公報)との差異を出すために、平成26年11月25日付けの上申書で示された補正案のように溶媒の1つを「nプロパノール」と特定すればこの限りではない。 (5)本願請求項11における、「請求項1ないし10の何れか一項に記載の方法により得られる、凹凸層。」及び本願請求項12における、「前記炭素原子は前記ケイ素原子が前記酸化ケイ素化合物の少なくとも1つの他のケイ素原子に接続される有機基の一部であり、該有機基が前記少なくとも1つの他のケイ素原子に化学的に結合される、請求項11に記載の凹凸層。」との発明特定事項について(特許法第36条第6項第2号) ア 請求項11及び12は、「凹凸層」という物の発明であるが、上記「請求項1ないし10の何れか一項に記載の方法により得られる」及び「請求項11に記載の」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。 したがって、請求項11及び12に係る発明は明確でない。」 (2)当審拒絶理由2の概要は以下のとおりである。 「理 由 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1の「酸化ケイ素化合物溶液」に含まれる「酸化ケイ素化合物」がどのうようなものか明確ではなく、また、請求項11の引用箇所が不明であって、本件の特許請求の範囲は記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」 2 当審拒絶理由の判断 (1)本件補正によって、本願の請求項1において、「可撓性押型」は「ゴム押型」と補正され、「前記酸化ケイ素化合物は、所望の質量含有率及び粘度を得るのに適した程度のSi-O-Si架橋を有し」との記載は削除され、さらに、「前記溶媒は、第1溶媒及び第2溶媒を有し、前記第1溶媒は、前記第2溶媒よりも高い蒸気圧を有する」は「前記溶媒は、水とnプロパノールとを有する」と補正された。このことにより、請求項1に係る発明は明確となった。 よって、当審拒絶理由1における(1)、(3)及び(4)に係る拒絶理由は解消した。 (2)本件補正によって、本願の請求項1において、「該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は、4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子、又は、3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子であり」は「該酸化ケイ素化合物のケイ素原子は、4つの酸素原子と化学的に結合されたケイ素原子、及び、3つの酸素原子及び酸素とは異なる1つの原子と化学的に結合されたケイ素原子であり」と補正された。当該記載は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 よって、当審拒絶理由1における(2)に係る拒絶理由は解消した。 (3)本件補正によって、審判請求時補正における請求項11及び12が削除されたため、当審拒絶理由1における(5)に係る拒絶理由は解消した。 (4)本件補正によって、本願の請求項1において、「の何れかであり」は「であり」と補正された。このことにより、請求項1に係る発明は明確となった。 また、本件補正によって、本件補正前補正における請求項11は削除された。 よって、当審拒絶理由2に係る拒絶理由は解消した。 (5)以上(1)ないし(4)での検討によれば、本件補正は、当審拒絶理由1及び当審拒絶理由2は解消した。 したがって、本願発明1ないし11は、当審拒絶理由1または当審拒絶理由2によって拒絶すべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-03-29 |
出願番号 | 特願2009-534036(P2009-534036) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B82B)
P 1 8・ 536- WY (B82B) P 1 8・ 537- WY (B82B) P 1 8・ 113- WY (B82B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 長井 真一 |
特許庁審判長 |
川端 修 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 土屋 知久 |
発明の名称 | 凹凸層及び凹凸層を作製する刻印方法 |
代理人 | 津軽 進 |
代理人 | 小松 広和 |
代理人 | 笛田 秀仙 |