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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1312826
審判番号 不服2014-22971  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-11 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 特願2009-255968「毛髪処理剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月19日出願公開、特開2011-98940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年11月9日に出願されたものであって、平成25年10月23日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年8月7日付けで拒絶査定され、同年11月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年2月27日付けで前置審査の結果が報告されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成26年11月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5にそれぞれ記載される事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「システアミンおよびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(I)と、チオグリコール酸およびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(II)とを含有する毛髪処理剤であって、
成分(II)を還元剤の総モル濃度の1/2以下の量で含有し、
pHが7.0?10.0であり、
前記成分(I)のモル濃度(i)と前記成分(II)のモル濃度(ii)との比[(ii)/(i)]が、0.004?1.0であり、
前記モル濃度(ii)が0.01?0.40mol/lであり、
前記モル濃度(i)および前記モル濃度(ii)の合計[(i)+(ii)]が、
(A)pHが7.0以上8.0未満の場合、1.0?2.4mol/lであり、
(B)pHが8.0以上8.5未満の場合、0.2?2.4mol/lであり、
(C)pHが8.5以上9.3未満の場合、0.2?2.0mol/lであり、
(D)pHが9.3以上9.6未満の場合、0.2?1.6mol/lであり、
(E)pHが9.6以上10.0以下の場合、0.2?1.3mol/lであり、
毛髪に熱を与えながら延伸処理する操作を含むストレートヘア形成のための毛髪変形処理に用いられることを特徴とする毛髪処理剤。」

第3.当審の判断
1.引用刊行物及びその記載事項
(1)刊行物に記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用され、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭57-62217号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。

ア.「1.一般式(I)
HSCH_(2)CH_(2)NH-R (I)
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはヒドロキシエチル基を示す)
で表わされるシステアミンまたはその誘導体を含有することを特徴とするパーマネントウエーブ用第一液。
2.一般式(I)で表わされるシステアミンまたはその誘導体と他種還元剤とを含有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のパーマネントウエーブ用第一液。
3.他種還元剤が、チオグリコール酸、システイン、酸性次亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセリン及びチオ乳酸から選ばれたものである特許請求の範囲第2項記載のパーマネントウエーブ用第一液。」(特許請求の範囲第1?3項)

イ.「髪に所定のウエーブを与える最も一般的な方法としては、まずチオグリコール酸、システイン等の還元剤を主成分とするパーマネントウェーブ用第一液(以下「第一液」と称することもある)を用いて毛髪中のS-S結合を還元開鎖して横方向の結合を解放することによりウエーブの形成を容易にし、次いで臭素酸塩、過ホウ酸塩、過酸化水素水等の酸化剤を主成分とするパーマネントウエーブ用第二液で該結合を酸化閉鎖してウエーブを固定するパーマネントウエーブ法が採用されている。」(1頁右下欄9行?2頁左上欄5行)

ウ.「本発明の第一液はシステアミンまたはその誘導体を単独でその主成分とすることもできるが、これに、従来パーマネントウエーブ用第一液に使用されている公知の還元剤を併用すると、そのウエーブ形成能は相剰的に増大される。」(2頁左下欄4?9行)

エ.「実施例1
本発明のシステアミンまたはその誘導体からなる第一液及び従来品の第一液を使用してパーマネントウエーブ処理を行い、そのウエーブ度を比較した。
長さ20cmのバージンヘアをラウリル硫酸ナトリウム0.5重量%水溶液で洗浄し、充分水洗後風乾した毛髪20本を一束とし、ウエーブ度測定板(直径2mm、長さ1.5cmの細い円柱をちどり状に2列に配列固定した板)の円柱に固定した。これを第1表記載の化合物の7重量%水溶液からなる第一液(pH 9.0)に30℃で所定時間浸漬し、次いで水で充分にすすぎ洗いした。次に、これを臭素酸ナトリウムを6重量%含む第二液に30℃で15分間浸漬した後、水で充分にすすぎ洗いした。
毛髪を上記測定板から取り外し、静止した水中で次式によつてウエーブ度を測定した。
x:ちどり状配列円柱の一方の列のはなれた2点AB間に固定された毛髪の長さ
y:AB間の距離
z:測定板から取りはずした後の静水中での毛髪のA,Bに接していた点間の距離
x-z
ウエーブ度(%)=───×100
x-y
……
実施例2
システアミンと他の還元剤とを併用した第一液を使用して、実施例1と同様にしてパーマネントウエーブ処理を行い、両者の併用による効果を調べた。尚第一液への浸漬時間は15分とした。その結果は第2表のとおりである。
第2表
┌────────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│チオグリコール酸│ 7│ 5│ 3│ 0│ 0│ 0│ 0│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│システイン │ 0│ 0│ 0│ 7│ 5│ 3│ 0│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│システアミン │ 0│ 2│ 4│ 0│ 2│ 4│ 7│
│ (重量%)│ │ │ │ │ │ │ │
├────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│ウエーブ度(%)│61│76│80│46│70│78│72│
└────────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
第2表から明らかな如く、システアミンに他の還元剤を併用すると相剰効果が認められる。」(3頁右上欄6行?4頁左上欄下から3行)

(2)刊行物1に記載された発明
摘示エの実施例2(援用する実施例1も参照のこと。)の第2表の記載からみて、刊行物1には、
「チオグリコール酸3重量%及びシステアミン4重量%を含むpH9.0のパーマネントウエーブ用第一液」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比
(1)
ア.引用発明における「システアミン」、「チオグリコール酸」及び「パーマネント用第一液」は、それぞれ本願発明の「システアミンおよびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(I)」、「チオグリコール酸およびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(II)」及び「毛髪処理剤」に相当する。

イ.引用発明のpH9.0は、本願発明の「pH7.0?10.0」の範囲内である。

ウ.引用発明において、システアミン及びチオグリコール酸の分子量はそれぞれ77.15及び92.11であるから、両成分をモル濃度に換算すると、システアミン(i)は、
4÷77.15×(1000/100)=0.518mol/l
でとなり、一方、チオグリコール酸(ii)は、
3÷92.11×(1000/100)=0.326mol/l
となるから、チオグリコール酸のモル濃度(ii)は、本願発明の「0.01?0.40mol/l」の範囲内にある。(なお、第一液の比重は1kg/lとして計算した。)

エ.引用発明のシステアミンのモル濃度(i)とチオグリコール酸のモル濃度(ii)の合計([(i)+(ii)]:還元剤の総モル濃度)は、
0.518+0.326=0.844mol/l
であり、pHは9.0であるから、本願発明の「(C)pHが8.5以上9.3未満の場合、0.2?2.0mol/l」の範囲内にある。そして、チオグリコール酸の量の還元剤の総モル濃度に対する割合は、
0.326÷0.844=0.386
となるから、チオグリコール酸は還元剤の総モル濃度の1/2以下の量である。

オ.引用発明のシステアミンのモル濃度に対するチオグリコール酸のモル濃度の比[(ii)/(i)]は、
0.326÷0.518=0.629
であり、本願発明の「0.004?1.0」の範囲内にある。

(2)以上のことを踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、
「システアミンおよびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(I)と、チオグリコール酸およびその塩類から選ばれる少なくとも1種からなる成分(II)とを含有する毛髪処理剤であって、
成分(II)を還元剤の総モル濃度の1/2以下の量で含有し、
pHが7.0?10.0であり、
前記成分(I)のモル濃度(i)と前記成分(II)のモル濃度(ii)との比[(ii)/(i)]が、0.004?1.0であり、
前記モル濃度(ii)が0.01?0.40mol/lであり、
前記モル濃度(i)および前記モル濃度(ii)の合計[(i)+(ii)]が、
(C)pHが8.5以上9.3未満の場合、0.2?2.0mol/lである
毛髪処理剤」
の点で一致し、次の点で相違している。

相違点:
毛髪処理剤について、本願発明が、「毛髪に熱を与えながら延伸処理する操作を含むストレートヘア形成のための毛髪変形処理に用いられる」ことを特定しているのに対し、引用発明には「パーマネントウエーブ用」と特定されているだけである点

3.判断
上記相違点について検討する。

刊行物1には、「髪に所定のウエーブを与える最も一般的な方法としては、まずチオグリコール酸、システィン等の還元剤を主成分とするパーマネントウェーブ用第一液を用いて毛髪中のS-S結合を還元開鎖して横方向の結合を解放することによりウエーブの成形を容易にし、」(摘示イ)と記載されているとおり、還元剤の使用は毛髪中のS-S結合を切断することにより毛髪の変形をし易くすることである。
したがって、引用発明の毛髪処理剤であるパーマネントウェーブ用第一液は、毛髪中のS-S結合を切断する還元剤として作用するものである。

ところで、原査定の拒絶の理由において、周知技術を示すために引用された特開2005-330267号公報(引用文献2)には、
「【0002】
毛髪にウエーブ、カールあるいはストレー卜を形成する等の毛髪の一般的な変形方法としては、以下の二つの手順が挙げられる。
第1の手順
1.還元剤が配合された剤を用いて、毛髪内部のシスチン(SS)結合を切断する。
2.ロッド等でウエーブやカールを形成する、あるいはストレー卜に形成する等の求めるデザインに人工的に毛髪を変形する。
3.酸化剤が配合された剤を用いてシスチン(SS)結合を再結合させ、変形した毛髪を固定する。
第2の手順
1.あらかじめロッド等でウエーブやカールを形成する、あるいはストレー卜に形成する等の求めるデザインに人工的に毛髪を変形する。
2.人工的に毛髪を変形した状態で還元剤が配合された剤を用いて、毛髪内部のシスチン(SS)結合を切断する。
3.酸化剤が配合された剤を用いてシスチン(SS)結合を再結合させ、変形した毛髪を固定する。
【0003】
還元剤として一般的に使用されているものとして、チオグリコール酸(あるいはその塩)、システイン(あるいはその塩)、システアミン(あるいはその塩)等が挙げられる。中でもシステアミンは、チオグリコール酸やシステインに比べ、少量で効果的に毛髪に良好なウエーブ、カールあるいはストレートデザインを形成でき、かつダメージが少ないという特徴を持つ。」
「【0011】
……
本発明の毛髪処理剤を使用してウエーブ、カールあるいはストレートの形成等の毛髪変形(デザイン形成)を行う際には、ロッド、高温整髪用アイロン、こて等のデザイン形成ツールを使用して行われるが、これらのデザイン形成ツールは必ずしも使用しなくてもよい。また、本発明の毛髪処理剤を使用して毛髪変形(デザイン形成)を行った場合、ウエーブもしくはカールあるいはストレート状態を半永久的に持続させる毛髪変形(デザイン形成)を行うことができる。なお、前記半永久的に持続させる毛髪変形(デザイン形成)とは、通常のパーマネントウエーブと同等に、数回の洗髪操作では前記のような毛髪の変形状態が取れない事を意味する。」
と、同じく特開2008-13549号公報(引用文献3)には、
「【0001】
本発明は、ウェーブパーマやストレートパーマの施術の際に毛髪を還元するために用いられる毛髪形状制御剤第1剤に関する。
……
【0005】
本発明は、化学処理による損傷を受けた毛髪を処理した場合でも過収縮を起こすことなく、高いカール形状付与効果や高い縮毛抑制効果を有する毛髪形状制御剤第1剤を提供することを目的とする。」
と、同じく特開2006-347970号公報(引用文献4)には、
「【技術分野】
【0001】
本発明はパーマネントウエーブ剤組成物に関する。さらに詳しくは、優れたウェーブ効果または縮毛矯正効果を有し、優れた弾力のウェーブを付与し、ウェーブ効果または縮毛矯正効果を長期間保持することができるパーマネントウェーブ剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪のパーマネントウェーブ処理は、チオグリコール酸またはその塩、チオ乳酸またはその塩、システインまたはその塩等の還元剤とアンモニア水、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム等のアルカリ剤を含有するパーマネントウェーブ用第1剤を毛髪に塗布することで、毛髪内の構成蛋白に存在するジスルフィド結合を還元開裂し、毛髪を所望の形状にした上で、臭素酸ナトリウムあるいは過酸化水素等の酸化剤を主成分とする第2剤で処理して、新たな位置でジスルフィド基を再形成させ、ウェーブ効果または縮毛矯正効果を発現させている。
……
【0006】
本発明の目的は、期待した通りの優れたウェーブ効果と縮毛矯正効果を有し、満足できる弾力のウェーブが得られ、しかもウェーブ効果および縮毛矯正効果が長期間保持できるパーマネントウェーブ剤組成物を提供することである。」
との記載がある。
さらに、日本パーマネントウェーブ液工業組合技術委員会編著、「サイエンス オブ ウェーブ 改訂版」(新美容出版)、2002年4月10日発行(平成24年6月14日付け刊行物等提出書の刊行物3参照)には、
「こうした間充物質におけるウェーブ形成の理論を次にまとめました。
(1)シスチン結合の還元切断によって、フィブリルを結合している間充物質(マトリックス)が軟化し、フィブリルがカールの形に並びかわる。(2)この状態で酸化すると、間充物質は再びシスチン結合に戻り硬化するので、フィブリルは固定され、毛髪は新しくカールされた状態となります(……)。
いずれにしても、1剤中の還元剤やアルカリ剤が毛髪組織中の側鎖結合を切断し、2剤の酸化剤で再結合する考えに変わりはありません。なおこの考え方は、チオグリコール酸およびシステインのパーマ剤のみならず、コールド式、加温式のパーマネントウェーブ剤あるいは縮毛矯正剤のいずれにも共通しています。」(17頁左欄下から5行?右欄13行)
「◆縮毛矯正剤
ストレートパーマとも呼ばれ、縮毛を直毛に、あるいはウェーブヘアをストレートへアにする薬剤です。
……。さまざまな製品がありますが、毛髪との反応理論はパーマネントウェーブとまったく同じで、施術法が異なるだけです。パーマネントウェーブではロッドに巻くワインディングを、縮毛矯正では、コームで伸ばしてまっすぐにするということです。」(59頁右欄19?32行)
と記載され、日本パーマネントウェーブ液工業組合技術委員会執筆、「BASIC CHEMICAL ベーシック・ケミカル」(新美容出版)、2006年11月8日発行、58?59頁(平成24年6月14日付け刊行物等提出書の刊行物4、平成26年4月16日付け刊行物等提出書の刊行物1及び平成27年3月6日付け刊行物等提出書の刊行物3参照)には、
「ストレートパーマ剤(正式には縮毛矯正剤といいます)も、通常のウェーブを得るパーマ剤も、基本的にはその理論や組成は同じで、1剤で毛髪内部の結合を還元切断し、2剤で酸化再結合します。この再結合の際に、曲がった状態か、伸ばした状態かによって、得られる形が違うだけです。そして、ストレートパーマの場合には、伸ばした状態を保ちやすいように、液状や乳液状ではなく、高粘度のクリーム状やジェル状のものが一般的です。
ストレートパーマの技法には、コームスルーによるものとアイロンを用いたものがあり、それぞれ技法に合わせて使用できるパーマ剤が異なります。
まず、コームスルーによるストレートパーマ剤は、……
一方、高温整髪用アイロンを用いるストレートパーマ剤は、あまり粘度の高いものは見受けられず、ややゆるめの粘度のものが多いようです。ストレート効果は主にアイロン熱に頼っていることから、不必要なテンションを毛髪に与えず、垂れ流れない程度の粘度で十分な効果が得られるためのようです。……
アイロンストレートパーマ施術のポイントは、何と言ってもアイロン操作にあり、アイロン操作の“良し・悪し”が、そのまま仕上がりや毛髪損傷へ直結します。」(58頁左欄1行?右欄下から8行)
と記載され、日本化粧品技術者会編、「化粧品事典」(丸善)、平成15年12月15日発行(平成25年8月8日付け刊行物等提出書の刊行物3参照)には、
「ストレートパーマ [straightening perm]
くせ毛を化学的作用により真すぐにさせる施術法のこと.薬事法上,医薬部外品でありパーマネント・ウェーブ用剤の中の“縮毛矯正剤”として指定されているもの.
ストレートパーマ剤1液には主成分(還元剤)としてチオグリコール酸が,2液には酸化剤として臭素酸ナトリウム,または過酸化水素水がそれぞれ使用されており,1液,2液ともに粘調なクリーム状基剤である.1液施術時に加温(60℃以下)するものと,加温しない2タイプがある.ストレートパーマ剤の毛髪に対する化学作用はパーマネント・ウェーブの作用と同じであるが,施術法はまったく異なる.
くせ毛に1液を塗布し,くしで真っすぐにとかして一定時間(10?20分ぐらい)放置させると,くせ毛は物理的矯正力のもとでチオグリコール酸の作用を受けながら軟化して真っすぐになる.つぎによく水洗いしタオルドライ後,2液を1液の場合と同様に施術すると,毛髪は酸化剤の作用でもとの毛髪の硬さに戻り,水洗後にはくせ毛は真っすぐになる.
強いくせ毛については,1液施術水洗後にヘアドライヤーで髪を乾燥させ,ストレートアイロンで加熱操作してから2液施術を行うことで,完全に真っすぐにさせることができる.」(552頁左欄4?32行)
と記載され、さらに、厚生省薬務局長発、各都道府県知事宛、「パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準について(通知)」平成5年2月10日、薬発第111号、平成11年5月17日改正(平成25年8月8日付け刊行物等提出書の刊行物4参照)の別紙「パーマネント・ウェーブ用剤製造(輸入)承認基準」には、
「1 基準の適用範囲
「毛髪にウェーブをもたせ、保つ。」、「くせ毛、ちぢれ毛又はウェーブ毛髪をのばし、保つ。」の効能、効果をうたう頭髪用(手足等の体毛及び眉毛・まつ毛は除く。)の外用剤(以下「パーマネント・ウェーブ用剤」という。)は、その成分の如何にかかわらずこの基準が適用されること。
2 基準
パーマネント・ウェーブ用剤の製造(輸入)承認基準(以下「承認基準」という。)は、次のとおりとする。なお、本承認基準に適合しないパーマネント・ウェーブ用剤にあっては、有効性、安全性及び配合理由等についての資料を求め、それに基づき審査する。
(1)有効成分の種類
使用できる有効成分は別表2に掲げるものとし、その使用区分は別表1のとおりとする。」



と記載されている。

これらの記載からみて、ストレートヘア形成のための毛髪変形処理、すなわちストレートパーマ(縮毛矯正)は、パーマネントウエーブ形成処理と毛髪成形の原理において相違するものではなく、そのために使用される毛髪処理剤も共通するものであることは、本願出願前に当業者に周知の事項といえる。
また、ストレートヘア形成のための毛髪変形処理、すなわちストレートパーマ(縮毛矯正)の技法としてコームスルーによる技法あるいはアイロンを用いる技法(すなわち、毛髪に熱を与えながら延伸処理する操作を含むもの)についても当業者に周知の手法である。

そうであれば、引用発明のパーマネントウエーブ用第一液(毛髪処理剤)をストレートヘア形成のための毛髪変形処理剤として用いることは、本願出願時の周知技術に基づけば、当業者が容易に想到し得たことといえ、また、ストレートヘア形成の際に毛髪に熱を与えながら延伸処理する操作を採用することは、本願出願時の周知技術であるストレートパーマの技法を参酌すれば、やはり当業者が容易に採用し得ることであるから、前記相違点に係る事項については、当業者が格別の創意工夫を要したものとはいえない。
また、本願発明によって得られる効果についても、引用文献2に記載のとおり、「システアミンは、チオグリコール酸やシステインに比べ、少量で効果的に毛髪に良好なウエーブ、カールあるいはストレートデザインを形成でき、かつダメージが少ないという特徴を持つ」(段落【0003】)ことが本願出願前に周知の事項であったことを踏まえれば、格別予想外の効果を奏したものということもできない。

4.まとめ
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4.請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「したがって、従来の知見からすると、当業者は、システアミン類とチオグリコール酸類とを混合しても、チオグリコール酸類による毛髪の損傷が生じるとともに、システアミン類によるストレートデザイン形成力の低下が生じるであろうと予想すると考えられます。
そうすると、引用文献1の実施例2(3)のパーマネントウェーブ用処理剤では、TG/CAが0.629であることから、システアミン類がチオグリコール酸類の1.6倍の量で用いられておりますので、当業者であれば、このようにシステアミンの配合割合の高い毛髪処理剤では、ストレートデザイン形成力を向上させることは難しく、また、毛髪の損傷が生じる可能性もあると考えるのが自然であります。
しかしながら、実施例88および89に示すように、引用文献1の実施例2(3)のパーマネントウェーブ用処理剤を用いて毛髪処理を行うと、毛髪の損傷を生じることなく、優れたストレートデザイン形成力が発揮されます。このことは、上述した当業者の予想に反することであります。
また、比較例69に示すように、チオグリコール酸類の割合が本願発明の範囲よりも多くなると、毛髪の損傷を抑制する効果を得ることはできませんので、単にシステアミン類とチオグリコール酸類とを混合すればよいというものではありません。
したがって、特定の割合でシステアミン類とチオグリコール酸類とを混合することにより、毛髪の損傷を抑えて優れたストレートデザイン形成力が発揮されるという本願発明の格別な効果が得られることを想到することは、いかに当業者といえども困難であるというべきであります。」
と主張している。

請求人の上記主張について検討する。
引用発明(引用文献1の実施例2の(3))のパーマネントウエーブ用処理剤において、TG/CA、すなわち本願発明における(ii)/(i)が0.629であり(これは、上記したとおり本願発明で特定する範囲内である。)、システアミン類がチオグリコール酸類の1.6倍の量で用いられているとしても、引用文献1には、このようなシステアミン類とチオグリコール酸類とを併用したパーマネントウエーブ用処理剤のウエーブ形成能は向上することが開示されている(実施例2の第2表参照)。
そして、引用文献2に記載のとおり、「システアミンは、チオグリコール酸やシステインに比べ、少量で効果的に毛髪に良好なウエーブ、カールあるいはストレートデザインを形成でき、かつダメージが少ないという特徴を持つ」(段落【0003】)ことは本願出願時の周知技術であることに鑑みれば、システアミン類を還元剤として用いた場合に、ストレートデザイン形成効果は、一層向上するであろうこと、さらに、システアミン類にチオグリコール酸類を併用する場合、システアミン類よりも少ない量のチオグリコール酸を用いれば(すなわち、(ii)/(i)が1.0以下)、システアミン類によるストレートデザイン形成力の低下は生じない上に、チオグリコール酸類による毛髪の損傷も抑制できることは容易に理解できるところである。
したがって、請求人の「当業者は、システアミン類とチオグリコール酸類とを混合しても、チオグリコール酸類による毛髪の損傷が生じるとともに、システアミン類によるストレートデザイン形成力の低下が生じるであろうと予想する」との主張は、採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-19 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2009-255968(P2009-255968)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 駒木 亮一池田 周士郎  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 松浦 新司
齊藤 光子
発明の名称 毛髪処理剤  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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