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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63H
管理番号 1312832
審判番号 不服2015-2171  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-04 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 特願2013-214425号「電気推進船」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開、特開2015- 77821号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年10月15日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 2月 3日付け 拒絶理由の通知
平成26年 4月14日 意見書及び手続補正書の提出
平成26年 7月 2日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成26年 9月 5日 意見書の提出
平成26年10月24日付け 拒絶査定
平成27年 2月 4日 審判請求書(拒絶査定不服審判)の提出

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年4月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「蓄電池から供給される電力によって駆動し、スクリューを回転させる推進用電動機を備えた電気推進船であって、
前記スクリューを回転させる推進用電動機がACモータからなり、
前記推進用電動機が、前記蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換するDC/DCコンバータ、及び、前記DC/DCコンバータによって一定電圧に変換された直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続されていることを特徴とする電気推進船。」

3 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2013-14222号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開2012-206598号公報(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1について
刊行物1には、「船舶用電気推進装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。

(刊1-1)「【技術分野】【0001】
本発明は、蓄電池に貯めた電力を利用して船舶を推進するようにした船舶用電気推進装置に関するものである。」

(刊1-2)「【0004】
図5は、蓄電池に蓄電された電力で船舶を航行させる船舶用電気推進装置の一例を示す図である。図5において、1は船舶の推進用プロペラ、2はこのプロペラ1を駆動する推進用電動機(誘導電動機)である。推進用電動機2の駆動電源となる蓄電池3は、PWMコンバータ4およびインバータ5間の直流主回路6に遮断器7を介して接続されている。」

(刊1-3)「【0006】
一方、前記インバータ5は、蓄電池3に蓄えられた直流電力を後述するPWM信号27eにより可変電圧・可変周波数(VVVF)の交流電力に変換し、遮断器14を介して前記推進用電動機2の固定子巻線に給電する。(後略)」

(刊1-4)「【0017】
次に、船舶を航行させる際の動作を説明する。
この場合、遮断器9は開となっており、当然、船内母線10は陸上電源8から切離されている状態となっている。
【0018】
まず、遮断器7が投入され蓄電器3からインバータ5に電力が供給される。この状態で推進力指示器25を操作し、トルク分電流指令値Iq*が出力されると前述したベクトル制御手段により推進用電動機のトルク分電流Iqがトルク分電流指令値Iq*となるように制御され、船舶が推進する。」

ここで、上記船舶用電気推進装置は船舶に備えられることが明らかである。

以上の記載によると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「蓄電池に貯めた電力を利用して船舶を推進するようにした船舶用電気推進装置を備える船舶であり、
船舶の推進用プロペラ1、このプロペラ1を駆動する推進用電動機(誘導電動機)2を備え、推進用電動機2の駆動電源となる蓄電池3は、インバータ5が設けられた直流主回路6に接続され、
前記インバータ5は、蓄電池3に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、前記推進用電動機2に給電する船舶用電気推進装置を備える船舶。」

(2)刊行物2について
刊行物2には、「推進加勢装置及び船舶」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(刊2-1)「【技術分野】【0001】
本発明は、モータの駆動力によって船舶のプロペラの駆動をアシストする推進加勢装置及び該推進加勢装置を備える船舶に関する。」

(刊2-2)「【0024】
推進加勢装置5は、太陽光を用いて発電するソーラーパネル(請求項の発電機)52と、該ソーラーパネル52が発電した直流電力を変換するDC/DCコンバータ53と、該DC/DCコンバータ53が変換した直流電力を変換するDC/DCコンバータ54及びDC/ACインバータ56,57と、リチウムイオン電池からなる蓄電池55と、減速機2を介してプロペラ1の駆動を加勢するモータ58とを備える。蓄電池55は双方向のDC/DCコンバータ54と接続されており、モータ58はDC/ACインバータ57と接続されている。(後略)」

(刊2-3)「【0035】
(前略)放電の場合、DC/DCコンバータ54がDC/ACインバータ56,57に対して出力する電圧は、DC/DCコンバータ53が出力するように設定されている電圧より少し低い一定電圧となるように制御される。(後略))」

(刊2-4)「【0055】
(前略)ソーラーパネル及び蓄電池の何れか一方又は両方からDC/ACインバータを介して電力が供給されるモータの駆動力によって船舶のプロペラの駆動を加勢する。(後略)」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「船舶の推進用プロペラ1」は、本願発明の「スクリュー」に相当し、
引用発明の「インバータ5」は、本願発明の「インバータ」に相当し、
引用発明の「蓄電池3」は、本願発明の「蓄電池」に相当し、
引用発明の「推進用電動機2」は、「蓄電池3」(本願発明の「蓄電池」に相当)を電源として「船舶の推進用プロペラ1」(本願発明の「スクリュー」に相当)を駆動するものであり、また、「(誘導電動機)」と例示されるとともに、インバータで直流から交流に変換された電力で駆動されるため、「ACモータ」であることは明らかであるから、引用発明の「プロペラ1を駆動する推進用電動機(誘導電動機)2」は、本願発明の「蓄電池から供給される電力によって駆動し、スクリューを回転させる」、「ACモータから」なる「推進用電動機」に相当し、
引用発明の「推進用電動機2の駆動電源となる蓄電池3は、インバータ5が設けられた直流主回路6に接続され、前記インバータ5は、蓄電池3に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、前記推進用電動機2に給電する」との電気的接続は、本願発明の「推進用電動機が、前記蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換するDC/DCコンバータ、及び、前記DC/DCコンバータによって一定電圧に変換された直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続されている」と、「推進用電動機が、蓄電池から供給される直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続されている」限りにおいて共通するものであり、
引用発明の「船舶用電気推進装置を備えた船舶」は、本願発明の「電気推進船」に相当する。

したがって、両者は、
「蓄電池から供給される電力によって駆動し、スクリューを回転させる推進用電動機を備えた電気推進船であって、
前記スクリューを回転させる推進用電動機がACモータからなり、
前記推進用電動機が、前記蓄電池から供給される直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続されている電気推進船。」

である点で一致し、次の点で相違する。

相違点
「推進用電動機」と「蓄電池」との電気的接続が、本願発明では、「推進用電動機が、前記蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換するDC/DCコンバータ、及び、前記DC/DCコンバータによって一定電圧に変換された直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続されている」のに対して、引用発明では、「推進用電動機2の駆動電源となる蓄電池3は、インバータ5が設けられた直流主回路6に接続され、前記インバータ5は、蓄電池3に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、前記推進用電動機2に給電する」とされている点。

5 判断
上記相違点について検討する。

刊行物2の「DC/ACインバータ57」は、本願発明の「インバータ」に相当し、
刊行物2の「モータ58」は、本願発明の「推進用電動機」と、「電動機」である限りにおいて共通し、
刊行物2の「DC/DCコンバータ54」は、記載事項(刊2-2)及び(刊2-3)からみて、蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換し、DC/ACインバータ57(本願発明の「インバータ」に相当)に出力するものであるから、本願発明の「DC/DCコンバータ」に相当するものである。

したがって刊行物2には、電動機が、蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換するDC/DCコンバータ、及び、前記DC/DCコンバータによって一定電圧に変換された直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続する技術が記載されている。

また、そもそも、電動機を、蓄電池から供給される直流を一定電圧の直流に変換するDC/DCコンバータ、及び、前記DC/DCコンバータによって一定電圧に変換された直流を交流に変換するインバータを介して、前記蓄電池に電気的に接続することは、本願出願前周知の技術(例えば、特開2005-210873号公報(特に【0015】段落、【0037】段落、【0038】段落、第4図)、特開2004-257294号公報(特に【0013】段落、【0099】段落から【0101】段落、第21図)等を参照)である。

さらに、刊行物2に記載された技術(周知技術ともいえる。)は、「船舶」における「電動機」と「蓄電池」との電気的接続に適用される(記載事項(刊2-1)及び(刊2-4)を参照)ものであるから、「船舶」に係る引用発明における、「推進用電動機」と「蓄電池」の電気的接続手段として適用する動機付けも十分存在する。また、引用発明の「推進用電動機」と「蓄電池」との電気的接続と、刊行物2に記載された技術とは、どちらも直流をインバーターにより交流に変換する点で機能が共通するものである。
したがって、引用発明の「推進用電動機」と「蓄電池」の電気的接続について、「推進用電動機2の駆動電源となる蓄電池3は、インバータ5が設けられた直流主回路6に接続され、前記インバータ5は、蓄電池3に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、前記推進用電動機2に給電する」のに代えて、上記刊行物2に記載された技術を採用して、上記相違点の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明及び刊行物2に記載された技術から予測できる程度のものであって格別のものではない。

よって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審判請求書において、

「蓄電池から供給される直流を変圧する構成を既に有する引用文献1の発明に対して、引用文献3の記載を参考にして、蓄電池から供給される直流を変圧するためのDC/DCコンバータをさらに組み合わせることは、当業者が適宜なし得ることではありません。」(第4ページ第18?22行)との主張をしている。
しかし当審では、前述のとおり、引用発明にさらに「DC/DCコンバータ」を付加的に組み合わせるのではなく、引用発明における、「推進用電動機」と「蓄電池」の電気的な接続について、刊行物2に記載された技術を代替して採用することは容易であると判断したものであるから、上記主張は採用することが出来ない。(なお、上記各周知例には、直流から交流への変換に加えて、電動機制御のために電圧や周波数も変換するインバータへの電力入力に先だってDC/DCコンバータにより昇圧する技術も記載されている。)

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-20 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2013-214425(P2013-214425)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 上尾 敬彦
平田 信勝
発明の名称 電気推進船  
代理人 田村 良介  
代理人 田村 良介  

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