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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1312843
審判番号 不服2015-9465  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-21 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 特願2011-123452「電子回路及び電子モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月20日出願公開、特開2012-253497〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成23年6月1日の出願であって,平成26年12月15日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月2日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされ,同年3月10日付けで拒絶査定され,同年5月21日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年5月21日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要及び本願補正発明

平成27年5月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項1(以下「本件補正前請求項1」という。)の次の記載,

<本件補正前請求項1>
【請求項1】
アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、
前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタと、を備え、
前記複数の弾性波フィルタのうち第1弾性波フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定され、
前記第1弾性波フィルタおよび前記第2弾性波フィルタはバンドパスフィルタであることを特徴とする電子回路。

を,次の「本件補正後請求項1」の記載にように補正しようとすることを含むものである。

<本件補正後請求項1>
【請求項1】
アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、
前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタと、を備え、
前記複数の弾性波フィルタのうち第1弾性波フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定され、
前記第1弾性波フィルタおよび前記第2弾性波フィルタはバンドパスフィルタであり、
前記第1デュプレクサは第1バンド用デュプレクサであり、前記第2デュプレクサは第2バンド用デュプレクサであり、
前記第1バンドおよび前記第2バンドのキャリアアグリゲーションが実行されることを特徴とする電子回路。
(下線は請求人が付与。)

本件補正後請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は,本件補正により,本件補正前請求項1に記載された発明を特定する事項である「第1デュプレクサ」及び「第2デュプレクサ」それぞれに限定を附されたものであり,そして,本件補正は,特許請求の範囲を減縮することを目的としたものであるといえる。

そこで,本願補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(本件補正が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

2.引用文献及び引用発明

(1) 引用文献及び記載事項
原査定の理由に,引用文献1として引用された「特表2007-525857号公報」(平成19年9月6日公表。以下「引用文献」と呼ぶ。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 記載事項1
【0001】
本発明は、概して、複数の通信バンドを用いた動作用に構成された無線通信装置に関し、より詳しくは、GPS利用可能なマルチバンド無線通信装置に関する。
(4ページ)

イ 記載事項2
【0005】
第2の方法は、GPSバンド信号を適切に受信する無線ハンドセット上の既存のネットワークアンテナを有効にすることによって、無線ハンドセットにGPSの性能を追加する方法である。例えば、典型的なデュアルバンドアンテナは、約1900MHzにおいてPCS信号を受信するように構成され得、約800MHzにおいてセルラー信号を受信するように構成され得る。従って、既存のデュアルバンドアンテナは、約1575MHzにおいてGPS信号を受信することができ得るという可能性はあり得る。しかし、GPS信号は、デュアルバンドアンテナに対して共振しない周波数にあり、受信したGPS信号は、最適のものよりも小さくあり得、それによって、信号転送の質が悪くなる。この点に関して、既知のデュアルバンドアンテナシステムは、無線ハンドセット上に確かなGPS位置決定性能をインプリメントするに十分な強度および質のGPS信号を受信することができ
ない。
(4ページないし5ページ)

ウ 記載事項3
【0012】
例示的な実施形態では、無線通信装置100は、少なくとも2つの異なった通信バンドを用いて無線通信信号を送受信するように適合されたアンテナ110を有する無線ハンドセットである。2つのバンドは、例えば、セルラーバンド(約800MHzのバンド)と、PCSバンド(約1900MHzのバンド)を含み得る。この例示的な実施形態では、アンテナ110は、PCSおよびセルラーバンドにおいて無線信号を送受信するように構成された従来のデュアルバンドアンテナである。既知のアンテナと、それに関連した回路を適切に選択することによって、さらに多くの通信バンドが、またはより少ない通信バンドが適用され得るということは、理解されるであろう。例えば、無線通信装置100は、PCSバンドのみを用いるように構成され得るか、または3つ以上の通信バンドにおいて送受信するように構成され得る。全世界において多くの通信バンドが用いられることは理解されるであろう。また、本明細書において記載するシステムおよび方法は、特定の通信バンドまたは特定の通信バンドのセットに限定されないということは、理解されるであろう。
(5ページないし6ページ)

エ 記載事項4
【0034】
再度図4を参照すると、アンテナ110によって受信された1つ以上の信号の受信パスにおける要素の数は、トリプレクサ240を用いることによって低減される、ということは理解されるであろう。これは、トリプレクサ240を用いることによって、スイッチ(例えば、切替モジュール170)の必要性がなくなるためである。要素の数を減らすことによって、回路基板面積への要求と、無線通信装置100の材料コストの請求額とが、低減される。切替モジュール170を除去することによって、受信パスの挿入による損失が低減され、そのことは、無線通信装置100の感度および性能を向上させる。
【0035】
無線通信装置100においてトリプレクサ240をインプリメントする1つの方法が、図10に示されている。ここでは、アンテナ110は、従来のダイプレクサ(例えば、ダイプレクサ140)に結合されている。しかし、さらに、アンテナ110は、GPSバンドの信号に対するバンドパスフィルタとしての機能を果たすように構成されたフィルタ300に結合されている。すなわち、図5を参照すると、図10のダイプレクサ140は、ローパスフィルタ特性210とハイパスフィルタ特性220を示すように構成され得る。その一方で、フィルタ300は、バンドパスフィルタ特性250を示すように構成され得る。
【0036】
従来では、インダクタ・コンデンサ要素(L/C)用いることによって、所望の特性を有するフィルタを構成してきた(例えば図6に示されている)。従って、フィルタ300は、バンドパスフィルタの特性250を提供するように設計されたL/Cフィルタを含み得る。もしくは、そのようなフィルタは、表面音波(SAW)装置を用いてインプリメントされ得る。SAW装置では、電気信号は、装置の表面を伝わり、再び電気信号に変換される、力学的な波に変換される。従って、フィルタ300は、SAWフィルタを含み得る。同様に、ダイプレクサ140は、L/CフィルタまたはSAWフィルタから構成され得る。
【0037】
従って、図11に示されるように、トリプレクサ240は、3つの異なった周波数バンドにおいて動作する3つのフィルタを備えるものとして記述され得る。図11から分かるように、トリプレクサ240は、高周波数バンド(例えば、PCSバンド)において動作するように構成されたフィルタ320を含み得る。フィルタ320は、PCSバンド用デュプレクサ350に結合され得る。トリプレクサ240は、中間周波数バンド(例えばGPS周波数バンド)において動作するように構成されたフィルタ330を備え得る。従って、フィルタ330は、GPS受信器回路360に結合され得る。トリプレクサ240は、低周波数バンド(例えばセルラーバンド)において動作するように構成されたフィルタ340を備え得る。従って、フィルタ340は、セルラーバンド用デュプレクサ370に結合され得る。
【0038】
また、トリプレクサ240は、PCS、GPS、およびセルラー周波数バンドに加えて、別の周波数バンドにおいて動作するように構成され得る、ということに留意されたい。さらに、特定の周波数バンド(例えば、PCSバンドおよびセルラーバンド)にカバーされた周波数は、動作する国または大陸によって変わり得る。従って、トリプレクサ240は、高周波数フィルタ320および中間周波数フィルタ330および低周波数フィルタ340とを含むものとして記述され得る。
【0039】
回路基板面積の視点からは、フィルタ320、330、および340は、L/Cを用いて構成されるのが望ましくあり得る。しかし、L/Cでは、別の周波数バンドの信号の十分な分離、または除去が提供されなくあり得る。例えば、アメリカ合衆国では、PCS送信バンドは、高い1800MHz領域にある。GPS受信バンドは、約1575MHzにあり、セルラー受信バンドは、800MHz領域にある。セルラー受信バンドは、PCSおよびGPS受信バンドと周波数の点では十分に離れており、分離は大きな問題ではない。しかし、PCSおよびGPS受信バンドが比較的近く、それにより、分離がより関連した問題である。十分な分離がないと、受信したGPS信号におけるエネルギーの一部が、PCSフィルタ320を介してシャントされ得、PCSおよびGPS受信器の感度を悪くする。逆に、受信したPCS信号の一部は、GPSフィルタ330を介してシャントされ得、両受信器の感度を悪くする。従って、フィルタ320と330とにL/Cを用いる場合には、結果のクオリティ係数(Q値)が、2つの受信器間に適切な分離を提供するに十分高いことを確保することが重要である。
【0040】
この点について、通常SAWフィルタがより高いQを有しかつよりよい分離を提供するために、フィルタ320および330の一方または両方に対して、SAWフィルタを用いることが、実際には好ましくあり得る。しかし、SAWフィルタは、シンプルなL/Cフィルタ要素に比べて比較的大きい。従って、特定の各インプリメンテーションに対して、フィルタ320、330、および340の各々に対してL/CまたはSAWのいずれを用いるかの決定に、回路基板の面積および分離とを、トレードオフする必要がある。例えば、GPSフィルタ330とPCSフィルタ320との間の分離の必要性が大きいために、SAWフィルタはフィルタ330に用いられ得る。しかし、セルラーバンドはPCSバンドおよびGPSバンドから十分に離れているために、より低いQのL/Cフィルタがフィルタ340に用いられ得る。用途によって、フィルタ320にSAWフィルタまたはL/Cフィルタが用いられ得る。従って、トレードオフと特定のインプリメンテーションに対する要求に依存して、フィルタ320、330、および340のうちの1つ以上が、L/Cフィルタであり得、1つ以上がSAWフィルタであり得る。
【0041】
しかし、好適には、フィルタ320、330および340の設計において、大きさ対分離のトレードオフの必要性はない。幸いにも、Film Bulk Acoustic Resonator(FBAR)と称される新たな装置を用いることによって、非常に小さなフットプリントの高Qのフィルタが得られうる。SAW装置と同様に、FBAR装置は、フィルタ材料を介して共振しかつ電気信号を適切な出力において再変換される力学的な波に、電気信号を変換する。しかし、SAWフィルタとは異なり、力学的な波は、表面のみだけではなく、材料の本体を介して伝播する。これによって、7.5GHzもの高周波数において、優れた電力処理および動作が可能になる。さらに、FBAR装置は、非常に小さく作成され得る。
【0042】
従って、トリプレクサ240の一実施形態では、各フィルタ320、330、および340がFBARフィルタである。別の実施形態では、特定のインプリメンテーションの要求に応じて、フィルタ320、330および340の全てではないいくつかがFBARフィルタであり得る。
【0043】
従って、トリプレクサ240によって、単一のアンテナ110を3つの異なった周波数バンドに用いることが可能になり、それによって、例えば別個のGPSアンテナの必要性がなくなる。余分なアンテナをなくすことによって、無線通信装置100のコストが低減され、無線通信装置100に第2のアンテナを含めることの表面的な不利な点および実用上の不利な点がなくなる。さらに、ダイプレクサ140と1つ以上の切替モジュール170とに対して、トリプレクサ240を用いることによって、コストが低減され、必要な回路基板の面積が減り、無線通信装置100に含まれる1つ以上の受信器の挿入の損失が低減される。さらに、FBAR材料を用いることによって、非常に高いQのフィルタ装置を提供しながら、トリプレクサ240を備えるフィルタ320、330および340の密な集積が可能になる。

オ 記載事項5

(2) 引用発明
以上によると,引用文献には,次の発明(以下「本願補正発明」という。)が記載されているといえる。

トリプレクサ240は,3つの異なった周波数バンドにおいて動作する3つのフィルタを備え,
トリプレクサ240は,高周波数バンド(例えば,PCSバンド)において動作するように構成されたフィルタ320を含み,フィルタ320は,PCSバンド用デュプレクサ350に結合され得る,
トリプレクサ240は,中間周波数バンド(例えばGPS周波数バンド)において動作するように構成されたフィルタ330を備え,フィルタ330は,GPS受信器回路360に結合され得る,
トリプレクサ240は,低周波数バンド(例えばセルラーバンド)において動作するように構成されたフィルタ340を備え,フィルタ340は,セルラーバンド用デュプレクサ370に結合され得る,
回路基板面積の視点からは,フィルタ320,330,及び340は,L/Cを用いて構成されるのが望ましく,
フィルタ320,330,及び340のうちの1つ以上が,L/Cフィルタであり得,1つ以上がSAWフィルタであり得る,
トリプレクサ240によって,単一のアンテナ110を3つの異なった周波数バンドに用いることが可能になる
回路基板。

3.参考技術

(1) 参考技術1(「キャリアアグリゲーション」について)
本件出願の出願日前に,次の文献(以下「参考文献1」という。)が公知であった。

3GPP TSG RAN WG1 #54bis Meeting,R1-083733,Prague, Czech Republic, September 29- October 3, 2008,Title: Algorithms and results for autonomous component carrier selection for LTE-Advanced

上記参考文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。

2. Basic assumptions and motivation

As discussed in several other contributions, the LTE-Advanced system bandwidth is assumed to consist of a number of separate component carriers (see for instance [1]). For the case with 100 MHz system bandwidth, 5 component carriers of 20 MHz are generally assumed as illustrated in Figure 1.


Figure 1: Basic illustration of component carriers to form LTE-Advanced system bandwidth.

However, other configurations such as e.g. 4 component carriers of 10 MHz, or sets of component carriers with different bandwidth sizes could potentially be configured as well (exact configurations are FFS). A Rel'8 terminal is assumed to be served by a single component carrier, while LTE-Advanced terminals can be served simultaneously on multiple component carriers.

It is proposed that each cell automatically selects one of the component carriers as its primary carrier (also some-times called the base carrier). The primary/base carrier is assumed to be used for initial connection of terminals in the cell. Depending on the offered traffic in cell and the mutual interference coupling with the surrounding cells, transmission/reception on all component carriers may not always be the best solution. It is therefore proposed that each cell dynamically selects additional component carriers for transmission/reception as well. The latter is referred to as selection of secondary component carriers (also some-times called extended carriers). All component carriers not selected for primary or secondary are completely muted (uplink/downlink) and not used by the cell.

The proposed concept uses a distributed and fully scalable approach i.e. selection of primary/base and secondary/extended carriers is done locally by each cell. Hence, in the proposed scheme there is no need for a central network component.
(1ページないし2ページ)
(当審注
[i] 上記の記載のうち「(see for instance [1])」における「[1]」とは,参考文献の「7. References」によれば,「3GPP Tdoc R1-082468, Carrier aggregation for LTE-Advanced, Ericsson, RAN#53-bis」を意味する。
[ii] 上記の記載のうち「(exact configurations are FFS)」における「FFS」は「For Further Study」の略語であることは,3GPPにおいて周知であって,該「FFS」は「更なる検討課題」を意味する。)
(当審訳
2.基本的な仮定と動機

いくつかの他の投稿で説明したように,LTE-Advancedのシステムの帯域幅は,多くの別々のコンポーネントキャリアからなるように想定される(例えば,[1]を参照。)。100MHzのシステム帯域幅を持つ場合には,20MHzのコンポーネントキャリア5つが,図1に示すように一般的に想定される。

(当審注 「図1」及びその訳は省略。)

図1:LTEアドバンストシステムの帯域幅を形成するコンポーネントキャリアについての説明図

しかし,例えば,10MHzのコンポーネントキャリア4つといった他の構成,又は,異なる帯域幅のサイズのコンポーネントキャリアのセットは,潜在的に構成することが同様にできる(正確な構成は,FFSである)。LTE-Advancedの端末が,複数のコンポーネントキャリア上で同時に提供されつつ,Rel'8端末は,単一のコンポーネントキャリアによってサービスされると仮定される。

そのプライマリキャリアとしてコンポーネントキャリアの一つを,各セルは自動的に選択することが提案されている(また,時には,ベースキャリアと呼ばれる)。プライマリー/ベースキャリアは,セル内の端末の初期接続に使用されることが想定される。セル内で提供されたトラフィック及び周囲のセルとの結合相互干渉に依存し,すべてのコンポーネントキャリアでの送信/受信は,必ずしも最善の解決にならないかもしれない。各セルは,送信/受信のため,追加のコンポーネントキャリアを動的に選択することが,したがって,同様に提案される。後者は,セカンダリコンポーネントキャリアの選択と呼ばれる(また,時には,拡張キャリアと呼ばれる)。プライマリ又はセカンダリに選択されないコンポーネントキャリアの全ては,完全にミュートされる(アップリンク/ダウンリンク),そして,セルでは使用されない。

提案された概念は,分散型で,そして,完全に拡張性のある(スケーラブルな)アプローチを使用する,すなわち,プライマリ/ベース及びセカンダリ/拡張キャリアの選択は,各セルによって局所的に行われる。したがって,提案方式では,中心のネットワークコンポーネントを必要としない。)


(2) 参考技術2(「PCS」について)
ア 参考文献2
本件出願の出願日前に公知であった「特開2006-191315号公報」(平成18年7月20日公開。以下「参考文献2」という。)には,次の記載がある。

【0009】
以下、本発明の一実施形態である携帯電話機について図面を用いて説明する。
<携帯電話機の構成>
図1(a)は、携帯電話機の構成を示すブロック図である。
同図に示す携帯電話機は、デュアルバンド対応の携帯電話機であって、PCS(Personal Communication Services)用RF部10、セルラー用RF部20、ベースバンドプロセッサ30、アプリケーションプロセッサ40、液晶ディスプレイ50及びカメラASIC60を備える。
【0010】
PCS用RF部10は、ハードウェアとして、アンテナインターフェース回路、送受信回路、変復調回路等を備えており、基地局とCDMA(Code Division Multiple Access)方式で通信する。
PCSとは、アメリカやカナダ、韓国等で提供されているデジタル携帯電話サービスのことである。PCS用RF部10は、1900MHz帯域のFDD方式に対応している。
【0011】
CDMA方式とは、複数の発信者の音声信号にそれぞれ異なる符号を乗算し、すべての音声信号を合成して1つの周波数を使って送信し、受け手は自分と会話している相手の符号を合成信号に乗算することによって、相手の音声信号のみを取り出す通信方式である。
セルラー用RF部20は、ハードウェアとして、アンテナインターフェース回路、送受信回路、変復調回路等を備えており、CDMA方式で基地局と通信する。
【0012】
セルラー用RF部20は、800MHz周波数帯域のFDD方式に対応している。
図2は、PCS及びセルラーそれぞれの通信帯域を説明するために用いる図である。
同図(a)は、PCS及びセルラーそれぞれが利用する通信帯域を示す表であり、同図(b)は、PCSの通信帯域周波数を示す図であり、同図(c)は、セルラーの通信帯域周波数を示す図である。
【0013】
図2(a)に示すように、PCSの送信周波数帯域は、1850-1910MHzであり、受信周波数帯域は1930-1990MHzである。また、送受信周波数間隔は80MHzである。
一方、セルラーの送信周波数帯域は、824-849MHzであり、受信周波数帯域は869-894MHzである。また、送受信周波数間隔は45MHzである。
(4ページ)

イ 参考文献3
本件出願の出願日前に公知であった「特開2008-199354号公報」(平成20年8月28日公開。以下「参考文献3」という。)には,次の事項が記載されている。

【0006】
また、UMTS/GSMやUMTS/PCSのデュアルモード端末を構成する際、UMTSの800MHzの受信(RX)帯(BandV:869-894MHz、BandVI:875-885MHz)とGSM900の送信(TX)帯(880-915MHz)、UMTS1.7GHzのRX帯(BandIII:1805-1880MHz、BandIX:1844.9-1879.9MHz)とPCS(Personal Communication Services)のTX帯(1850-1910MHz)では動作周波数が重なっている。GSMでは、最大出力電力が+33dBmであり、アンテナ切替スイッチ102のピン間アイソレーションが最小20dB程度であったならば、UMTSの受信回路側には最大+15dBm程度の漏洩が起こりうる。UMTS/GSMデュアルモードでは、GSM動作時はUMTSがオフとなるため低雑音増幅器105もオフとなり、強入力(GSM送信電力漏洩)において低雑音増幅器105の破壊/非破壊の保障ができなかった。

ウ 参考文献2及び3に関する小括
上記参考文献2及び3における記載によると,「PCS」とは,「Personal Communication Services」(パーソナル通信サービス)をの略語であって,アメリカやカナダ、韓国等で提供されているデジタル携帯電話サービスを意味し,1900MHz(1.9GHz)帯域のFDD方式に対応しているものであるといえる。

(3) 参考技術3(「デュプレクサ」について)
ア 参考文献4

本件出願の出願日前に公知であった「特開2004-266361号公報」(平成16年9月24日公開。以下「参考文献4」という。)には,次の記載がある。

(ア) 記載事項1
【0013】
なお、特許文献2および特許文献3では、2つの通信方式の受信信号を分離する2つのSAWフィルタを含むものをSAWデュプレクサと称している。しかし、一般的に、デュプレクサは、送信信号と受信信号とを分離するものを指す。本発明の実施の形態においても、送信信号と受信信号とを分離するものをデュプレクサと呼ぶ。従って、特許文献2および特許文献3におけるSAWデュプレクサは、機能上、本発明の実施の形態におけるデュプレクサとは異なるものである。

(イ) 記載事項2
【0027】
デュプレクサ12は、共通端子と送信端子と受信端子とを有している。共通端子はトリプレクサ11の第2のポートに接続されている。送信端子はアイソレータ6Aの出力端に接続されている。受信端子はローノイズアンプ4Aの入力端に接続されている。デュプレクサ12は、AMPS帯域における送信信号(図では、AMPS/TXと記す。)と受信信号(図では、AMPS/RXと記す。)とを分離する。すなわち、デュプレクサ12は、送信端子に入力されたAMPS帯域における送信信号を共通端子より出力すると共に、共通端子に入力されたAMPS帯域における受信信号を受信端子より出力する。
【0028】
デュプレクサ13は、共通端子と送信端子と受信端子とを有している。共通端子はトリプレクサ11の第3のポートに接続されている。送信端子はアイソレータ6Pの出力端に接続されている。受信端子はローノイズアンプ4Pの入力端に接続されている。デュプレクサ13は、PCS帯域における送信信号(図では、PCS/TXと記す。)と受信信号(図では、PCS/RXと記す。)とを分離する。すなわち、デュプレクサ13は、送信端子に入力されたPCS帯域における送信信号を共通端子より出力すると共に、共通端子に入力されたPCS帯域における受信信号を受信端子より出力する。

イ 参考文献5
本件出願の出願日前に公知であった「特開2005-244336号公報」(平成17年9月8日公開。以下「参考文献5」という。)には,次の事項が記載されている。

【0022】
図1は、本発明に係る電子回路モジュールのブロック図である。電子回路モジュール1は、通過帯域の異なる複数の送受信系を各送受信系セルラー(800MHz帯)、PCS(1900MHz帯)に分ける分波回路2と、各送受信系セルラー、PCSを送信系TXと受信系RXとに分波するデュプレクサ3A、3Bと、デュプレクサ3A、3Bの各送信系TX側に設けられた、電力増幅器4A、4Bの出力をモニタするカプラ5A、5Bと、電力増幅器を構成する整合回路6A、6B、電力増幅素子7A、7B、入力の帯域通過フィルタ8A,8Bで構成されている。

ウ 参考文献4及び5に関する小括
上記参考文献4及び5より,「デュプレクサ」とは,「送信信号と受信信号とに分波,分離することにより,送信端子に入力された送信信号を共通端子より出力すると共に,共通端子に入力された受信信号を受信端子より出力する」ものであるといえる。

4.対比

本願補正発明と引用発明を比較すると次のことがいえる。

(1) 引用発明に係る「回路基板」が,「基板」上の「回路」を開示していることは明らかである。
よって,引用発明と本願補正発明はともに,「回路」に係る発明である点で共通するといい得る。

(2) 引用発明において,「デュプレクサ」は,「PCSバンド用」のものと,「セルラーバンド用」のものである。そして,「PCSバンド」は「高周波バンド」であって,「セルラーバンド」は「低周波バンド」である。
このことは,引用発明においては,「通過帯域の異なる」2つ,つまり「複数のデュプレクサ」を備えているといえることを示している。
そうすると,引用発明における「PCSバンド用デュプレクサ」及び「セルラーバンド用デュプレクサ」のうち,一方が「第1デュプレクサ」であって「第1バンド用デュプレクサ」であるということができ,また他方が「第2デュプレクサ」であって「第2バンド用デュプレクサ」であるということができることを示し,同様に,上記「PCSバンド用デュプレクサ」に結合される「フィルタ320」及び上記「セルラーバンド用デュプレクサ」に結合される「フィルタ340」のうち,一方が「第1フィルタ」であるということができ,また他方が「第2フィルタ」であるということができることを示している。

(3) 引用発明においては,「トリプレクサ240によって,単一のアンテナ110を3つの異なった周波数バンドに用いることが可能になる」のであるから,引用発明が「アンテナ110」を有することは明白である。
ここで,引用発明において,「フィルタ320は,PCSバンド用デュプレクサ350に結合され得る」こと及び「フィルタ340は,セルラーバンド用デュプレクサ370に結合され得る」ことを踏まえて,引用文献の図11の記載を参照するに,
「アンテナ110」と「PCSバンド用デュプレクサ350」との間に「フィルタ320」が接続され,
「アンテナ110」と「セルラーバンド用デュプレクサ370」との間に「フィルタ370」が接続されているといいうる。
また,上記のような「アンテナ」との接続に際し,「アンテナ端子」を介するようにすることは,例を示すまでもなく周知であり,格別なことでもない。
上記及びより,引用発明においても,「アンテナ端子と複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数のフィルタ」の構成を備えているといい得る。

(4) 上記(3)においても述べたように,「フィルタ320」は,「PCSバンド用デュプレクサ350」に結合され得るものであり,そして,「フィルタ340」は,「セルラーバンド用デュプレクサ370」に結合され得るものである。
ここで,引用発明における「PCSバンド」は,高い1800MHz領域にある「1900MHzのバンド」を意味していると解される。(上記2の「(1) 引用文献及び記載事項」の「イ 記載事項2」おける【0005】,同「エ 記載事項4」における【0037】及び【0039】参照。)
そうすると,上記「PCSバンド」における「PCS」とは「Personal Communication Services」を意味し,アメリカやカナダ、韓国等で提供されているデジタル携帯電話サービスを意味するものであるといえる。(参考文献2及び3参照。)
そして,「PCSバンド用デュプレクサ350」が,「PCS」の利用する送信信号のバンド(「帯域」)及び受信信号の帯域を通過させることは明らかであって,「セルラーバンド用デュプレクサ370」が,「セルラー」通信が利用する送信信号の帯域及び受信信号の帯域を通過させることは明らかである。(上記「3」の(3)における「ア 参考文献4」及び同「イ 参考文献5」,並びに同「ウ 参考文献4及び5に関する小括」参照。)
そうすると,上記にも述べたように,
「フィルタ320」は,「PCSバンド用デュプレクサ350」に結合され得るものであるのだから,該「フィルタ320」が,「PCSバンド用デュプレクサ」を通過する送信及び受信双方の帯域,つまり「通過帯域」の信号を通過させ得る特性を有することは当然であり,同様に,「フィルタ340」は,「セルラーバンド用デュプレクサ370」に結合されうるものであるのだから,該「フィルタ340」が,「セルラーバンド用デュプレクサ」を通過する送信及び受信双方の帯域,つまり「通過帯域」の信号を通過させ得る特性を有することは当然であるといえる。
そして,「フィルタ」が,ある特定の帯域の信号を通過させたり,通過を阻止,つまり「抑圧」するために使用されるものであることは,例をあげるまでもなく周知である。
上記
,及びより,引用発明における「フィルタ320」のフィルタ特性は,該「フィルタ320」に接続された「PCSバンド用デュプレクサ」の送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させるように設定されることは当然であるといい得ることを示し,同様に,引用発明における「340」のフィルタ特性は,該「フィルタ340」に接続された「セルラーバンド用デュプレクサ」の送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させるように設定されることは当然であるといい得ることを示している。

(5) 上記(1)ないし(4)より,本願補正発明と引用発明は,次の点で一致し,相違するといえる。

[一致点]
アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、
前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数のフィルタと、を備え、
前記複数のフィルタのうち第1フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させるように設定され、
前記第1デュプレクサは第1バンド用デュプレクサであり、前記第2デュプレクサは第2バンド用デュプレクサである
回路。

[相違点]
<相違点1>
本願補正発明が「前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間」に接続され,「複数」備える「フィルタ」が,「弾性波フィルタ」であるのに対し,引用発明にはそのような特定がない点(以下「相違1-1」という。)。
そして,この<相違1-1>により,<相違1-2>「複数のデュプレクサのうち」,「第1デュプレクサ」に接続される「第1フィルタ」が,本願補正発明では「第1弾性波フィルタ」であるのに対し,引用発明にはそのような「第1フィルタ」であるとの特定がない点(以下「相違1-2」という。)で,また,<相違1-3>「複数のデュプレクサのうち」,「第2デュプレクサ」に接続される「第2フィルタ」が,本願補正発明では「第2弾性波フィルタ」であるのに対して,引用発明にはそのような「第2フィルタ」であるとの特定がない点(以下「相違1-3」という。)でも相違する。
更に,<相違1-4>本願補正発明における「第1弾性波フィルタ」に設定される「フィルタ特性」が,「前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタ」に接続された「第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号」を「抑圧する」のに対して,引用発明には「抑圧する」との特定も本願補正発明のように「抑圧する」との特定もない点(以下「相違点1-4」という。)で相違する。
また,<1-5>本願補正発明における「第1弾性波フィルタ」及び「第2弾性波フィルタ」は「バンドパスフィルタ」であるのに対して,引用発明における「第1フィルタ」にも「第2フィルタ」にも,そのような「フィルタ」であるとの特定がない点(以下「相違点1-5」という。)で相違する。

<相違点2>
本願補正発明においては,「前記第1バンドおよび前記第2バンドのキャリアアグリゲーションが実行される」のに対して,引用発明にはそのような「キャリアアグリゲーションが実行される」との特定がない点。

<相違点3>
本補正発明は「電子回路」に係るものであるのに対して,引用発明にはそのような「回路」であるとの特定がない点。

5.検討

(1) 相違点3について
引用発明のように,「デュプレクサ」及び「フィルタ」から成る「回路」を「電子回路」として構成するようにすることは,例えば,参考文献5における「電子回路モジュール」等からみて,格別な技術記困難があるということもできない。
よって,相違点3は格別なものではないといえる。

(2) 相違点2について
ア 「キャリアアグリゲーション」が,所与の帯域幅(例えば,20MHz)から成る「コンポーネントキャリア」(carrier(s))を1つ又は複数集め(aggregate)ることにより所望の帯域幅を構成し,このように構成した「コンポーネントキャリア」の集合体(aggregation)を,所与の時間単位で送受信する通信技術であることは,本件出願の出願日前に周知(例えば,参考文献1等参照。)であった。
イ 一方,引用発明も,「PCSバンド」つまり「PCS」の帯域と,同様に「セルラー」の帯域との複数の帯域を利用し通信しようとするための構成を備えた「回路」であることは明らかである。
ウ 上記ア及びイより,「キャリアアグリゲーション」技術も引用発明もともに,複数の帯域幅を利用し通信することを前提とした技術に関するものである点において共通する技術であるといい得る。
このことは,引用発明においても,本願補正発明のように,「キャリアアグリゲーション」を実行しようとすることが,当業者には,適宜なしえた事項であったといえることを示している。
そうすると,引用発明において,「キャリアアグリゲーションが実行される」ようにする際,「第1バンド及び第2バンド」の「キャリアアグリゲーション」として実行されるようにすることに,格別な技術的困難があったということはできないというべきである。
よって,相違点2のように構成することは,当業者が容易になしえたものである。

(3) 相違点1(相違1-1ないし相違1-5)について
ア 相違1-1ないし相違1-3について
(ア) 引用発明における「フィルタ(320,330,340)」については,「1つ以上が,L/Cフィルタ」であり得,「1つ以上がSAWフィルタ」であり得るものであることは明白である。
このことは,上記「フィルタ」の「少なくとも1つ」が「L/Cフィルタ」であって,「残り」が「SAWフィルタ」である場合,又は,「フィルタ」の「少なくとも1つ」が「SAWフィルタ」であって,「残り」が「L/Cフィルタ」である場合を含んでいることを示しているといえる。
つまり,「フィルタ(320,330,340)」のうち,「1つ」が「L/Cフィルタ」であって「2つ」が「SAWフィルタ」である場合,又は「1つ」が「SAWフィルタ」であって「2つ」が「L/Cフィルタ」である場合を示しているといえる。
ここで,引用文献の【0040】には,「通常SAWフィルタがより高いQを有しかつよりよい分離を提供するために、フィルタ320および330の一方または両方に対して、SAWフィルタを用いることが、実際には好ましくあり得る」との記載がある。一方で,同【0040】には,「しかし、SAWフィルタは、シンプルなL/Cフィルタ要素に比べて比較的大きい。従って、特定の各インプリメンテーションに対して、フィルタ320、330、および340の各々に対してL/CまたはSAWのいずれを用いるかの決定に、回路基板の面積および分離とを、トレードオフする必要がある。例えば、GPSフィルタ330とPCSフィルタ320との間の分離の必要性が大きいために、SAWフィルタはフィルタ330に用いられ得る。しかし、セルラーバンドはPCSバンドおよびGPSバンドから十分に離れているために、より低いQのL/Cフィルタがフィルタ340に用いられ得る。用途によって、フィルタ320にSAWフィルタまたはL/Cフィルタが用いられ得る。従って、トレードオフと特定のインプリメンテーションに対する要求に依存して、フィルタ320、330、および340のうちの1つ以上が、L/Cフィルタであり得、1つ以上がSAWフィルタであり得る」とも記載されている。
これらの記載によれば,トレードオフと特定のインプリメンテーションに対する要求に依存して、引用文献記載の「PCSバンド」用「フィルタ320」及び「セルラーバンド」用「フィルタ340」の2つの「フィルタ320,340」を,「SAWフィルタ」とすることについて,引用文献の記載が,必ずしも排除,阻害するものではないと解される。
(イ) 小活
上記より,相違1-1ないし相違1-3のように,引用発明における「複数」の「フィルタ」を「SAWフィルタ」つまり「弾性波フィルタ」とするとともに,「第1フィルタ」及び「第2フィルタ」の両者をそれぞれ,「第1弾性波フィルタ」及び「第2弾性波フィルタ」とすることは,当業者が適宜なしえた事項であるといえる。
イ 相違1-4及び相違1-5について
(ア) 上記「(2) 相違点2について」においても述べたように,「キャリアアグリゲーション」とは,複数の「コンポーネントキャリア」を「コンポーネントキャリア」の集合体として通信に利用する技術である。
このような「集合体」とする際,複数の「コンポーネントキャリア」のうちの「2つ」に着目した場合,「コンポーネントキャリア」の設定される周波数の帯域が十分に離れる場合もあれば,近接,隣接する場合(例えば,参考文献1の図1等参照。)もあることが想定される。
「コンポーネントキャリア」が,上記のように「近接」,「隣接」した場合,受信側においては,互いの信号が影響し合い,通信が良好に行い得ない状態が生じることが,通信の分野において周知である。
そして,このような互いの影響を低減,排除するため,「フィルタ」を用いて,他方の信号を抑圧し,通信を良好に行いうるようにすることもまた,通信の分野において周知である。
(イ) ここで,引用発明において,「PCSバンド用デュプレクサ」を介して,受信又は送信しようとする信号に対し,「GPS周波数バンド」の信号も「セルラーバンド用デュプレクサ」を介して,受信又は送信しようとする信号も好ましい信号とはいえないことは当然である。
そうすると,「PCSバンド用デュプレクサ」に結合される「フィルタ320」を,「GPS周波数バンド」とともに「セルラーバンド」も「抑圧する」ように設定することも当然であるといい得る。
(ウ) 更に,「弾性波フィルタ」を「バンドパスフィルタ」として構成することは,例を示すまでもなく周知である。
(エ) 小活
上記「ア」において述べた事項を踏まえると,上記(ア),(イ)及び(ウ)より,「第1弾性波フィルタ」に設定する「フィルタ特性」を,「前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧する」ようにすること,そして,「第1弾性波フィルタ」及び「第2弾性波フィルタ」を「バンドパスフィルタ」とすることは,当業者が適宜なしえたものであるといいうる。

6.まとめ

以上のとおりであり,本願補正発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から予測できる程度のものであり,格別のものであるということもできない。
したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願補正発明は,特許法
第29条の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

これにより,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

上記第2に述べたとおり,本件補正は却下された。
したがって,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2の「1.本件補正の概要及び本願補正発明」において,「本件補正前請求項1」に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。(上記「本件補正前請求項1」における記載を再掲。)

【請求項1】
アンテナ端子に接続された、通過帯域の異なる複数のデュプレクサと、
前記アンテナ端子と前記複数のデュプレクサのそれぞれとの間に接続された複数の弾性波フィルタと、を備え、
前記複数の弾性波フィルタのうち第1弾性波フィルタのフィルタ特性は、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタに接続された第1デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を通過させ、前記複数のデュプレクサのうち、前記第1弾性波フィルタとは異なる第2弾性波フィルタに接続された第2デュプレクサの送信及び受信双方の通過帯域の信号を抑圧するように設定され、
前記第1弾性波フィルタおよび前記第2弾性波フィルタはバンドパスフィルタであることを特徴とする電子回路。


第4 当審の判断

1.引用文献及び引用発明
引用文献及びその記載事項,並びに引用発明は,上記第2の「2.引用文献及び引用発明」に記載したとおりである。

2.対比及び検討
本願発明は,本願補正発明から,本願発明を特定する事項に附された限定を省いたものである。
そうすると,本願発明を特定する事項を全て含み,更に,その特定事項に限定を附したものに相当する本願補正発明が,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえるのであるから,本願発明も,同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえる。


第5 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2016-01-19 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2011-123452(P2011-123452)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H03H)
P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 近藤 聡
久松 和之
発明の名称 電子回路及び電子モジュール  
代理人 片山 修平  

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