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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1312887
審判番号 不服2015-2310  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-06 
確定日 2016-04-21 
事件の表示 特願2011-545980「放射線検出器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開、WO2011/074249、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)12月15日(優先権主張 平成21年12月18日)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成26年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年5月26日付けで意見書が提出され、同年11月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がされ、同年11月16日付けで当審により拒絶理由が通知され、平成28年1月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成28年1月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本願発明1」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
基板上に蛍光を電気信号に変換する光電変換素子を複数有し、かつ前記基板の最表層に前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜が形成されたアレイ基板と、
前記保護膜上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層からの蛍光を前記アレイ基板側へ反射させる反射層と、
を備える放射線検出器の製造方法において、
光散乱性粒子とバインダ樹脂を主成分とするペーストを前記シンチレータ層上に塗布後乾燥することで前記反射層を形成し、
前記シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂で、前記アレイ基板上の少なくとも前記反射膜が形成される領域に、前記保護膜を形成することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項2】
前記シンチレータ層が柱状構造を有するハロゲン化合物により形成され、かつ前記保護膜の軟化点が200℃未満であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
前記保護膜は、高沸点酸化物を生じない元素を主成分とする請求項1又は2記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項4】
前記保護膜がアクリル系有機樹脂材料であることを特徴とする請求項3記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項5】
蛍光を電気信号に変換する複数の光電変換素子を有するアレイ基板の最表層に、前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる熱可塑性樹脂で形成された保護膜を設ける工程と、
前記保護膜上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度にし、前記保護膜表面が軟化した状態で真空蒸着法により形成し、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる工程と、
前記シンチレータ層上に、塗膜により反射層を形成する工程と、
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜を設ける工程の後に、UV/O_(3)処理または酸素を含むガスのプラズマ処理を施す工程を具備することを特徴とする請求項5記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項7】
前記シンチレータ層を真空蒸着法により形成する工程において、前記シンチレータ層形成時の基板温度を熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度でかつ200℃以下にしたことを特徴とする請求項5又は6記載の放射線検出器の製造方法。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開2006-78471号公報
2.特開2004-186432号公報
3.特開2009-31098号公報
4.国際公開第2009/139215号

放射線検出器において、柱状結晶からなる蛍光体層の接着性を向上させるため、「蛍光体層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記蛍光体層の蒸着時に軟化状態になる熱可塑性樹脂」層を設けることは周知である(周知例1(特開2008-180627号公報)の請求項6、段落【0001】、【0021】?【0025】参照)。

してみると、本願請求項1?5及び7に係る発明は、引用文献1?4及び周知例1の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

2.当審の拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



・請求項1?4について
請求項1は、「放射線検出器」という物の発明であるが、「光散乱性粒子とバインダ樹脂を主成分とするペースト状態で前記シンチレータ層上に塗布後乾燥され前記シンチレータ層からの蛍光を前記アレイ基板側へ反射させる反射層」及び「前記シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂」(下線は、当審が付与。)との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項1及び請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?4に係る発明は明確でない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、「放射線検出装置、シンチレータパネル、これらの製造方法及び放射線検出システム」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は医療診断機器、非破壊検査機器等に用いられる放射線を電気信号として検出する放射線検出装置に係わり、特に柱状結晶構造のシンチレータ層(蛍光体層)を有する放射線検出装置の柱状結晶のシンチレータの保護層に関するものである。なお、本明細書では、X線の他、α線、β線、γ線等の電磁波も、放射線に含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
近年、少なくとも大面積の平面に形成された光電変換素子の表面にX線を照射することによって発光するシンチレータ(蛍光体)層を積層したデジタル放射線検出装置が商品化されている。」
イ 「【0018】
本発明の実施形態として、以下に図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
[第1の実施の形態]
図1は本発明に係わる直接蒸着タイプの放射線検出装置の模式的平面図を示す。図2は、図1のA-A’断面図である。図1または図2において、1はガラス等の基板、2は光電変換素子、3は配線であり、光電変換素子2、配線3、及び薄膜トランジスタ(TFT)によって受光部15が構成されている。4は電気的接続部(取り出し配線)、5はセンサー保護層、6はシンチレータ下地層、11は配線接続部、であり、1?6、11によって光検出器(センサーパネル)16が構成されている。また、7はシンチレータ層、8はシンチレータ保護層、9は反射層、10は反射層保護層であり、8?10によってシンチレータ保護部材が構成されている。また、シンチレータ保護部材の、受光部15またはシンチレータ層7が形成された周囲の領域のセンサーパネル16と接触する領域にホットプレス部14が設けられている。また、12は配線部材、13は封止部材である。
【0020】
基板1は、光電変換素子2、配線3、及びTFT(不図示)からなる受光部15が形成されるものであり、材料として、ガラス、耐熱性プラスチック等を好適に用いることができる。光電変換素子2はシンチレータ層7によって放射線から変換された光を電荷に変換するものであり、例えば、アモルファスシリコンなどの材料を用いることが可能である。光電変換素子2の構成は特に限定されず、MIS型センサー、PIN型センサー、TFT型センサー等適宜用いることができる。配線3は信号配線の一部や光電変換素子に電圧(Vs)を印加するバイアス配線を示し、電気的接続部4は信号配線又は駆動配線を示す。光電変換素子2で光電変換された信号はTFTによって読み出され、信号配線を介して信号処理回路に出力される。また行方向に配列されたTFTのゲートは行ごとに駆動配線に接続され、TFT駆動回路により行毎にTFTが選択される。信号処理回路及びTFT駆動回路は基板1外に設けられ、光電変換素子2やTFTとは電気的接続部4、配線接続部11、配線部材12を介して接続される。センサー保護層5は、受光部15を被覆して保護するためのものであり、SiN,SiO2などの無機膜が好ましい。シンチレータ下地層6はセンサー保護層上に設けられ、材料としては、ポリイミド、パラキシリレン等の有機物質からなる耐熱性の樹脂が好ましい。たとえば、熱硬化型のポリイミド樹脂等を用いることが可能である。センサー保護膜5、シンチレータ下地層6は光電変換素子を保護する機能を有する。またシンチレータ下地層6はセンサーパネル16の表面を平坦化する機能を有する。また、シンチレータ下地層6の表面は、シンチレータ層との密着性を向上させるために、シンチレータ下地層6の表面を大気圧プラズマ処理等の活性化処理を適宜用いてもよい。シンチレータ層7は、放射線を光電変換素子2が感知可能な波長の光に変換するものであり、柱状結晶構造を有するシンチレータが好ましい。柱状結晶構造を有するシンチレータは、発生した光が柱状結晶内を伝搬するので光散乱が少なく、解像度を向上させることができる。ただし、シンチレータ層7として柱状結晶構造を有するシンチレータ以外の材料を用いてもよい。柱状結晶構造を有するシンチレータ層7の材料としては、ハロゲン化アルカリを主成分とする材料が用いられる。たとえば、CsI:Tl、CsI:Na、CsBr:Tlが用いられる。その作製方法は、たとえばCsI:Tlでは、CsIとTlIを同時に蒸着することで形成できる。シンチレータ保護層8は、シンチレータ層7に対して、外気からの水分の侵入を防止する防湿保護機能及び衝撃により構造破壊を防止する衝撃保護機能を有するものである。シンチレータ保護層8の厚さは20?200μmが好ましい。20μm以下では、シンチレータ層7表面の凹凸、及びスプラッシュ欠陥を完全に被覆することができず、防湿保護機能が低下する恐れがある。一方、200μmを超えるとシンチレータ層7で発生した光もしくは反射層で反射された光のシンチレータ保護層8内での散乱が増加し、取得される画像の解像度及びMTF(Modulation Transfer Fanction)が低下する恐れがある。本発明において、シンチレータ保護層8としてホットメルト樹脂を用いることを特徴としている。ホットメルト樹脂を用いたシンチレータ保護層に関する説明は別途後述する。
【0021】
反射層9は、シンチレータ層7で変換して発せられた光のうち、光電変換素子2と反対側に進行した光を反射して光電変換素子2に導くことにより、光利用効率を向上させる機能を有するものである。また、反射層9は、光電変換素子2にシンチレータ層7で発生された光以外の外部光線を遮断し、光電変換素子2にノイズが入ることを防止する機能を更に有する。反射層9としては、金属箔または金属薄膜を用いることが好ましく、反射層9の厚さは1?100μmが好ましい。1μmより薄いと反射層9の形成時にピンホール欠陥が発生しやすく、また遮光性に劣る。一方、100μmを超えると、放射線の吸収量が大きく被撮影者が被爆する線量の増加につながる恐れがあり、また、シンチレータ層7とセンサーパネル16の表面との段差を隙間無く覆うことが困難となる恐れがある。反射層9の材料としては、アルミニウム、金、銅、アルミ合金、などの特に限定されない金属材料を用いることができるが、反射特性の高い材料としては、アルミニウム、金が好ましい。反射層保護層10は、反射層9の衝撃による破壊、及び水分による腐食を防止する機能を有し、樹脂フィルムを用いることが好ましい。反射層保護層10の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、などのフィルム材料を用いることが好ましい。反射層保護層10の厚さは10?100μmが好ましい。
【0022】
配線接続部11は、電気的接続部4と配線部材12とを電気的に接続するための部材であり、異方導電性接着剤などにより配線部材12と電気的に接続される。配線部材12は、光電変換素子2で変換された電気信号を読み出すためのIC部品などを搭載した部材であり、TCP(Tape Carrier Package)などが好適に用いられる。封止部材13は、配線部材12及び電気的接続部4に対して、水分による腐食を防止する機能、衝撃による破壊を防止する機能、及び製造時に発生する受光部15の破壊の原因となる静電気を防止する機能を有するものである。
【0023】
ホットプレス部14は、ホットメルト樹脂からなるシンチレータ保護層8のシンチレータ層7周辺の領域とセンサーパネル16との接触界面における防湿性を向上させるために設けられているものである。本実施形態では、シンチレータ層7の周辺部において、ホットメルト樹脂からなるシンチレータ保護層8はシンチレータ下地層6と接している。ホットプレス部14はシンチレータ保護部材の周辺部の一部または全体に設けることが可能である。本実施形態では、図1に示すようにシンチレータ保護部材の周辺部全体に設けられている。ホットプレス部14は、加熱加圧手段34(図14に示す)によってホットメルト樹脂の厚さが他の部分より薄くなるよう部分的に加熱加圧処理され圧着(加圧により密着)された領域である。図14(a)、(b)に示すように、加熱加圧手段34によりシンチレータ保護層8をホットプレス処理した後、反射層9と光反射保護層10を形成し、ホットプレス処理することでホットプレス部14が形成される。シンチレータ保護層8、反射層9と反射層保護層10をまとめてホットプレスしてもよい。図3(a)に図2のX方向から見たC-C’断面図を、図3(b)にX方向から見たD-D’断面図を示す。4a?4eは電気的接続部4の配線パターンを示す。シンチレータ下地層6のシンチレータ層7が形成された周囲の領域において、取り出し配線4の存在によりセンサー保護層5の表面には凹凸が生じる。その凹凸を緩和するために平坦化層として機能するシンチレータ下地層6を形成するが、シンチレータ下地層6の表面も完全に平坦とはならず、若干の凹凸を有する。そのような表面上にホットメルト樹脂からなるシンチレータ保護層8を形成しても、図3(b)に示されるように若干の隙間31が生じる可能性がある。つまり、ホットプレス(加熱加圧)を行わない断面を示す図3(b)の部分では、配線パターン4a?4eの凸凹へのホットメルト樹脂の進入が不十分で、配線パターンとホットメルト樹脂の間に空隙が生じる場合がある。この隙間31により、1)シンチレータ下地層6とシンチレータ保護層8との密着力の低下、2)隙間31より侵入する大気中の水分によるシンチレータ層7の潮解、3)シンチレータ保護層8の防湿性の低下、を引き起こす可能性がある。そこで、シンチレータ下地層6とシンチレータ保護層8が接する領域Sにおいてシンチレータ層7が形成された領域を取り囲むように加熱加圧手段34を用いてホットプレス処理(加熱加圧処理)を行うことにより、加熱により溶融したホットメルト樹脂が加圧によりシンチレータ下地層6の表面上の凹部に入り、冷却により硬化されてシンチレータ下地層6上の隙間31を埋めて密着する。つまり、ホットプレス処理を行った断面を示す図3(a)の部分では、ホットメルト樹脂の溶融が十分に行われるため隙間31の発生は抑制され、その結果密着力が向上し、周辺部の防湿性が向上する。ホットプレス処理としては、例えば圧力1?10kg/cm2、温度はホットメルト樹脂の溶融開始温度より10?50℃以上の温度で1?60秒間行われる。」
ウ 「【0045】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0046】
本実施例は、第1の実施の形態及び図1に示される直接蒸着タイプの放射線検出装置の例である。
【0047】
厚さ0.7mmのガラス基板1上の430mm×430mmの領域に、アモルファスシリコンからなるフォトダイオード(光電変換素子)2、TFT(不図示)、及びAlの配線3からなる、画素サイズ160μm×160μmの画素を2次元的に配置して受光部15を設けた。また、ガラス基板1の周囲の領域には、受光部15から読み出される光電変換情報を読み出すIC等の配線部材12と電気的に接続するための、Alの取り出し配線4、及び配線接続部11を設けた。その後SiNからなるセンサー保護層5及びポリイミドからなるシンチレータ下地層(パッシベーション膜)6を配線接続部11が形成された領域を除いて形成し、センサーパネル16を得た。
【0048】
得られたセンサーパネル16の受光部15上のシンチレータ下地層6上に、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)が添加された、柱状結晶構造のCsI:Tlを、真空蒸着法により成膜時間4時間で厚さ550μm形成した。Tlの添加濃度は0.1?0.3mol%であった。CsI:Tlの柱状結晶の頂面側(蒸着終了表面側)の柱径は平均約5μmであった。形成されたCsI:Tlを200℃の窒素雰囲気下のクリーンオーブン内で2時間熱処理することによって、シンチレータ層7を得た。
【0049】
次に、図4(a)?(c)に示されるように、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分とするホットメルト樹脂を160℃で溶融し、ダイコータ17を用いてシンチレータ層7が設けられた領域の周囲の領域(シンチレータ層7の端部とシンチレータ下地層6の端部との間の領域)におけるシンチレータ下地層6の表面、シンチレータ層7の側面及び頂面を被覆する、厚さ100μmのホットメルト樹脂を形成した。形成されたホットメルト樹脂を室温まで放熱して固化し、ホットメルト樹脂からなるシンチレータ保護層8を得た。本実施例では、上記エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とするホットメルト樹脂として、ヒロダイン7544(ヒロダイン工業製)を用いた。
【0050】
次に、厚さ40μmのAlからなる反射層9と、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる反射層保護層10と、が積層して設けられた積層フィルムを、反射層9をシンチレータ保護層8側に向けて準備し、熱ラミネートローラ27を用いて上記フィルムシートを、熱ラミネートローラ27のローラ温度を120℃、ロール回転速度を0.2m/minの条件でシンチレータ保護層8に接着し、シンチレータ保護層8、反射層9、及び反射層保護層10からなるシンチレータ保護部材を得た。
【0051】
次に、ICが設けられたTCP(テープキャリアパッケージ)からなる配線部材12を、ACF(異方性接着材)を用いて150℃で圧着して配線接続部11に接続し、図1に示される放射線検出装置を得た。」
図1

図2

図3

図4


(2)引用発明の認定
ア 上記(1)アとイの【0020】より、引用文献1には、蛍光体層であるシンチレータ層によって、入射する放射線を蛍光に変換し、変換された蛍光を電気信号に検出する放射線検出装置が記載されていることがわかる。
イ 上記(1)ウの【0047】の、「画素」は、「2次元的に配置」されていることから、光電変換素子2、薄膜トランジスタ及びAlの配線3は、いずれも、複数であることがわかる。
ウ ガラス基板1上の受光部15には、センサー保護層5、シンチレータ下地層6が積層されていることは明らかである。
エ 「Alからなる反射層9」の「Al」は、箔であることは明らかである。

オ そうすると、上記ア?エ及び上記(1)イ、ウの記載から、引用文献1には、
「ガラス基板1と、ガラス基板1上に設けられた、受光部15、光検出器16、入射する放射線を蛍光に変換する蛍光体層であるシンチレータ層7、シンチレータ保護部材8?10、ホットプレス部14、配線接続部11、配線部材12及び封止部材13とを有する放射線検出装置の製造方法において、
受光部15は、上記蛍光を電気信号に変換する複数の光電変換素子2、配線3及び薄膜トランジスタから構成され、
光検出器16は、受光部15、取り出し配線4、センサー保護層5、取り出し配線4によってセンサー保護層5の表面に生じる凹凸を緩和するための平坦化層として機能するシンチレータ下地層6及び配線接続部11から構成され、
シンチレータ保護部材8?10は、シンチレータ保護層8、反射層9及び反射層保護層10で構成され、
ガラス基板1上の受光部15には、センサー保護層5、シンチレータ下地層6が積層され、
ホットプレス部14は、シンチレータ保護部材の、受光部15又はシンチレータ層7が形成された周囲の領域のセンサーパネル16と接触する領域に設けられており、
ガラス基板1上の領域に、光電変換素子2、薄膜トランジスタ及びAlの配線3からなる画素を、2次元的に配置して受光部15を設ける工程と、
ガラス基板1の周囲の領域には、受光部15から読み出される光電変換情報を読み出すICの配線部材12と電気的に接続するための、Alの取り出し配線4、及び配線接続部11を設ける工程と、
SiNからなるセンサー保護層5及びポリイミドからなるシンチレータ下地層6を配線接続部11が形成された領域を除いて形成して、センサーパネル16を得る工程と、
得られたセンサーパネル16の受光部15上のシンチレータ下地層6上に、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)が添加された、柱状結晶構造のCsI:Tlを、真空蒸着法により形成し、形成されたCsI:Tlを200℃の窒素雰囲気下のクリーンオーブン内で熱処理することによって、シンチレータ層7を得る工程と、
ホットメルト樹脂を溶融し、ダイコータ17を用いてシンチレータ層7が設けられた領域の周囲の領域(シンチレータ層7の端部とシンチレータ下地層6の端部との間の領域)におけるシンチレータ下地層6の表面、シンチレータ層7の側面及び頂面を被覆して、ホットメルト樹脂を形成する工程と、
形成されたホットメルト樹脂を室温まで放熱して固化し、ホットメルト樹脂からなるシンチレータ保護層8を得る工程と、
Al箔からなる反射層9と、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる反射層保護層10とが積層して設けられた積層フィルムを、反射層9をシンチレータ保護層8側に向けて準備し、熱ラミネートローラ27を用いて上記フィルムシートを、シンチレータ保護層8に接着し、シンチレータ保護層8、反射層9、及び反射層保護層10からなるシンチレータ保護部材を得る工程と、
ICが設けられたTCP(テープキャリアパッケージ)からなる配線部材12を、ACF(異方性接着材)を用いて圧着して配線接続部11に接続する工程を備えた、放射線検出装置の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用文献2
引用文献2には、「放射線撮像装置およびその駆動方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の放射線撮像装置は、入射された放射線を光に変換して出射する放射線-光変換層と、画素ごとに薄膜トランジスタと該薄膜トランジスタのドレイン電極に接続された蓄積容量とを有するアクティブマトリクスアレイとを備えるとともに、上記薄膜トランジスタは、オフ状態において上記放射線-光変換層が出射した光が照射された時、上記蓄積容量に充電された電荷を放電させるものであることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明の放射線撮像装置は、上記放電後、オン状態の上記薄膜トランジスタを介して、上記蓄積容量に残存する電荷を読み出す電荷読み出し回路を具備することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の放射線撮像装置の駆動方法は、入射された放射線を光に変換して出射する放射線-光変換層と、画素ごとに薄膜トランジスタと該薄膜トランジスタのドレイン電極に接続された蓄積容量とを有するアクティブマトリクスアレイとを備えた放射線撮像装置の駆動方法であって、上記蓄積容量に電荷を所定量充電する充電ステップと、上記放射線-光変換層に放射線を照射して出射させた光をオフ状態の上記薄膜トランジスタに照射して、上記充電ステップで充電した電荷を上記蓄積容量から放電させる放電ステップと、上記放電ステップの後、オン状態の上記薄膜トランジスタを介して、上記蓄積容量に残存する電荷を読み出す電荷読み出しステップとを含むことを特徴としている。」

(4)引用文献3
引用文献3には、「放射線検出器及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0010】
本発明の放射線検出器は、光電変換素子と、この光電変換素子上に形成され、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、このシンチレータ層上に形成され、このシンチレータ層からの蛍光を反射させる光散乱性粒子及びこの光散乱性粒子間を結合するバインダ材を含有し、かつ光散乱性粒子の周辺部にバインダ材が充填されていない空乏部が形成されている反射膜とを具備しているものである。
【0011】
また、本発明の放射線検出器の製造方法は、基板上に光電変換素子を形成する工程と、この光電変換素子上にシンチレータ層を形成する工程と、光散乱性粒子とこの光散乱性粒子間を結合するバインダ材とこのバインダ材を溶解する沸点100℃以上の溶媒とを攪拌混合した塗布液を、前記シンチレータ層上に塗布した後に乾燥させ、光散乱性粒子の周辺部にバインダ材が充填されていない空乏部が形成された反射膜を形成する工程とを具備しているものである。」

(5)引用文献4
引用文献4には、「シンチレータパネル及び放射線画像検出器」(発明の名称)について、次の記載がある。
「[0021] 以下、本発明とその構成要素等について詳細な説明をする。
[0022] <上記手段1について>
本発明は、放射線透過性の基板と、該基板上に設けられた反射層と、該反射層上に設けられた保護層と、該保護層上に設けられたシンチレータ層と、該シンチレータ層を覆う耐湿保護層と、を備えたシンチレータパネルにおいて、該保護層が、ガラス転移温度が5℃以上異なる2種の有機樹脂を少なくとも1組含有することを特徴とする。」
「[0024](保護層)
本発明のシンチレータパネルは、基板上に設けられた反射層と、反射層上に設けられた保護層を有し、当該保護層にガラス転移温度が5℃以上異なる2種の有機樹脂を少なくとも1組含有することが必要である。
[0025] ガラス転移温度が5℃以上異なる2種の有機樹脂が含まれることでヤング率が高くかつ柔軟性もある塗膜が形成され、厳しい条件でパネルを取り扱ったり、高湿下で長期間の保存を行ってもクラック等の発生がなく安定したパネル性能を得ることができる。
[0026] 十分な保存特性が得られ、かつ光の散乱が抑えられる点から、前記保護層の厚みは0.2?5.0μmであるのが好ましく、0.5?4.0μmがより好ましく、0.7?3.5μmであるのが特に好ましい。
[0027] 前記有機樹脂としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラキシリレン、スチレン-ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。
[0028] なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース、ポリイミド、ポリパラキシリレンを使用することが好ましい。
[0029] 本発明に係るガラス転移点の温度は、JIS C 6481の(2)DSC方により求めた値であり、示差走査熱量計を用い(DSC法)、20℃/分で昇温させる条件にて測定して得られたガラス転移温度をいう。
[0030] 即ち、試験片を室温から20℃/分の割合で昇温させ、示差走査熱量計にて発熱量を測定し、吸熱曲線(または発熱曲線)を作成し、吸熱曲線(または発熱曲線)に2本の延長線を引き、延長線間の1/2直線と吸熱曲線の交点からガラス転移温度(Tg)を求める。
[0031] 保護層に少なくとも1組含有される、2種の有機樹脂はガラス転移温度が5℃以上異なることが必要であるが、ガラス転移温度の差は好ましくは5℃?80℃、より好ましくは20℃?80℃、特に好ましくは30℃?70℃である。
[0032] 特にガラス転移温度が50?100℃(より好ましくは60?90℃)である樹脂とガラス転移温度が-20℃?45℃である樹脂(より好ましくは-10℃?35℃である樹脂)を含有することが好ましい。
[0033] これらの樹脂を用いる場合、ガラス転移温度が50?100℃である樹脂の保護層に対する含有量としては、30質量%?95質量%が好ましく、特に50質量%?85質量%が好ましい。
[0034] また、ガラス転移温度が-20℃?45℃である樹脂の保護層に対する含有量としては、5質量%?70質量%が好ましく、特に15質量%?50質量%が好ましい。
[0035] ガラス転移温度が5℃以上異なる2種の有機樹脂の保護層に対する含有量としては(2種の合計で)、80質量%?100質量%が好ましく、特に90質量%?100質量%が好ましい。
[0036] ガラス転移温度が50?100℃である樹脂とガラス転移温度が-20℃?45℃である樹脂の使用比率(質量%)は30:70?90:10であるのが好ましく、50:50?80:20であるのがより好ましい。
[0037] また、保護層は、ガラス転移温度が5℃以上異なる2種の有機樹脂を1組含有することが好ましく、この場合には、下記の保護層に含まれる添加剤を除いた全てがこの1組の有機樹脂である。」
「[0061](反射層)
本発明に係る反射層は、シンチレータ層のシンチレータから発した光を反射して、光の取り出し効率を高めるためのものである。当該反射層は、Al、Ag、Cr、Cu、Ni、Ti、Mg、Rh、Pt及びAuからなる元素群の中から選ばれるいずれかの元素を含む材料により形成されることが好ましい。特に、上記の元素からなる金属薄膜、例えば、Ag膜、Al膜などを用いることが好ましい。また、このような金属薄膜を2層以上形成するようにしても良い。金属薄膜を2層以上とする場合は、下層をCrを含む層とすることが基板との接着性を向上させる点から好ましい。また、金属薄膜上にSiO_(2)、TiO_(2)等の金属酸化物からなる層をこの順に設けてさらに反射率を向上させても良い。
[0062] 反射層は、上記のようにシンチレータ層からの光を反射すると同時に放射線透過性である。本発明に係る反射層は、放射線透過性であり、上記のように所定の光(シンチレータから発した光)を反射する金属薄膜であることが好ましい態様である。
[0063] なお、反射層の厚さは、0.01?0.3μmであることが、発光光取り出し効率の観点から好ましい。
[0064] 本発明においては、基板と保護層の間に中間層を有してもよい。中間層としては、樹脂を含有する層であることが好まし。樹脂としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラキシリレン、スチレン-ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース、ポリイミド、ポリパラキシリレンを使用することが好ましい。」

(5)周知例1
周知例1には、「放射線画像変換パネル及びその製造方法並びにX線撮影システム」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項記載の放射線画像変換パネルを、前記基板の基材もしくは前記基板の表面に加工された下地層の軟化温度もしくは溶融温度の低い方の温度以上に前記基板の温度を制御し、蒸着を行うことにより製造することを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。」
「【0001】
本発明は、輝尽性蛍光体を用いた放射線画像変換パネル及びその製造方法に関し、詳しくは輝尽性蛍光体層の接着性に優れた放射線画像変換パネル及びその製造方法に関する。」
「【0021】
5.前記蛍光体がCsBrを母体とする蛍光体であることを特徴とする前記1?4のいずれか1項記載の放射線画像変換パネル。
【0022】
6.前記1?5のいずれか1項記載の放射線画像変換パネルを、前記基板の基材もしくは前記基板の表面に加工された下地層の軟化温度もしくは溶融温度の低い方の温度以上に前記基板の温度を制御し、蒸着を行うことにより製造することを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
【0023】
7.前記基板の加熱が前記基板の裏面より加温することにより温度を制御し、蒸着を行うことを特徴とする前記6記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【0024】
8.前記1?5のいずれか1項記載の放射線画像変換パネルを可搬性容器に配置し、X線を曝射し、読み取りを行うことを特徴とするX線撮影システム。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、輝度が高く、かつ、輝尽性蛍光体層の接着性に優れた放射線画像変換パネル及びその製造方法を提供することができた。」
「【0029】
〔下地層〕
本発明は、基板と輝尽性蛍光体層との間に、下地層を設けることが好ましい。
【0030】
下地層で用いることのできる樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリビニアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ナイロン、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエステル類、ビニルケトン類、スチレン類、ジオレフィン類、(メタ)アクリルアミド類、塩化ビニル類、塩化ビニリデン類、ニトロセルロース、アセチルセルロース、ジアセチルセルロース等のセルロース誘導体、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。中でも基板と輝尽性蛍光体層との接着性、基板の耐腐食性の観点でポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の疎水性樹脂が好ましい。」

(6)対比・判断
(本願発明1について)
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ガラス基板1」、「入射する放射線を蛍光に変換する蛍光体層であるシンチレータ層7」及び「放射線検出装置」は、本願発明1の「基板」、「入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層」及び「放射線検出器」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「ガラス基板1」上の「領域」に設けられた、「2次元的に配置」された「蛍光を電気信号に変換する複数の光電変換素子2」は、本願発明1の「基板」上の「複数」の「蛍光を電気信号に変換する光電変換素子」に相当する。
ウ 引用発明の「取り出し配線4によってセンサー保護層5の表面に生じる凹凸を緩和するための平坦化層として機能するシンチレータ下地層6」は「光電変換素子2」を覆うものであって、該「取り出し配線4」は、「光電変換素子2」に対するものであり、その上には、「シンチレータ層7」が設けられているから、該「シンチレータ下地層6」は、本願発明1の「基板の最表層に複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜」に相当する。
そして、引用発明の「ガラス基板1」上に「光電変換素子2」が「2次元的に配置」されているから、引用発明の「ガラス基板1」は、本願発明1の「アレイ基板」にも相当する。
また、引用発明の「シンチレータ層7」は、「前記保護膜上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層」に相当する。
エ 引用発明の「反射層」は、本願発明1の「シンチレータ層からの蛍光を前記アレイ基板側へ反射させる反射層」に相当する。
オ 引用発明の「Alからなる反射層9と、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる反射層保護層10とが積層して設けられた積層フィルムを、反射層9をシンチレータ保護層8側に向けて準備し、熱ラミネートローラ27を用いて上記フィルムシートを、シンチレータ保護層8に接着し、シンチレータ保護層8、反射層9、及び反射層保護層10からなるシンチレータ保護部材を得る工程」と、本願発明1の「光散乱性粒子とバインダ樹脂を主成分とするペーストを前記シンチレータ層上に塗布後乾燥することで前記反射層を形成」することとは、「反射層を形成」する点で共通する。
カ 引用発明の「SiNからなるセンサー保護層5及びポリイミドからなるシンチレータ下地層6を配線接続部11が形成された領域を除いて形成」することと、本願発明1の「前記シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂で、前記アレイ基板上の少なくとも前記反射膜が形成される領域に、前記保護膜を形成すること」とは、「アレイ基板上の少なくとも前記反射膜が形成される領域に、保護膜を形成する」点で共通する。

キ そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「基板上に蛍光を電気信号に変換する光電変換素子を複数有し、かつ前記基板の最表層に前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜が形成されたアレイ基板と、
前記保護膜上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層からの蛍光を前記アレイ基板側へ反射させる反射層と、
を備える放射線検出器の製造方法において、
前記反射層を形成し、
前記アレイ基板上の少なくとも前記反射膜が形成される領域に、前記保護膜を形成する放射線検出器の製造方法。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。
(相違点1)
反射層について、本願発明1は、「光散乱性粒子とバインダ樹脂を主成分とするペーストをシンチレータ層上に塗布後乾燥することで」形成しているのに対し、引用発明は、「Al箔」からなる点。
(相違点2)
保護膜について、本願発明1は、「シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂」であるのに対し、引用発明の「シンチレータ下地層6」は、「ポリイミド」からなる点。

(相違点1、2についての判断)
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
引用発明の「シンチレータ下地層6」は、「ポリイミド」からなり、該「ポリイミド」は、一般的には、熱可塑性樹脂ではない。
また、引用発明は、「得られたセンサーパネル16の受光部15上のシンチレータ下地層6上に、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)が添加された、柱状結晶構造のCsI:Tlを、真空蒸着法により形成し」た後に、「形成されたCsI:Tlを200℃の窒素雰囲気下のクリーンオーブン内で熱処理すること」から、熱可塑性樹脂を採用することは想定されておらず、引用発明において、「シンチレータ下地層6」として、「ポリイミド」に代えて、熱可塑性樹脂を用いることについては、阻害要因があるというべきである。

また、周知例1には、「放射線画像変換パネルを、基板の基材もしくは前記基板の表面に加工された下地層の軟化温度もしくは溶融温度の低い方の温度以上に前記基板の温度を制御し、蒸着を行うことにより製造すること」が開示されているとしても、該基板は光電変換素子を備えておらず、「アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂」が開示されているとは認められない。

また、引用文献2?4にも、「シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂」が開示されているとは認められない。

そうすると、引用発明において、「シンチレータ下地層6」の「ポリイミド」に代えて、熱可塑性樹脂を採用することについては阻害要因があるというべきであり、しかも、「シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態にな」る「熱可塑性樹脂」は、いずれの文献にも開示されておらず、さらに、それを採用することで、「アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる」ことは、引用文献1?4、周知例1の記載からは、当業者が容易に予測し得ないものであるから、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2?4、周知例1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(本願発明2?4について)
本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明、引用文献2?4、周知例1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(本願発明5について)
本願発明5と引用発明とを対比する。
ア 本願発明1と同様に、引用発明の「ガラス基板1」、「光電変換素子2」、「入射する放射線を蛍光に変換する蛍光体層であるシンチレータ層7」、「シンチレータ下地層6」及び「放射線検出装置」は、本願発明5の「アレイ基板」、「光電変換素子」、「入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層」、「保護膜」及び「放射線検出器」にそれぞれ相当する。
ウ 引用発明の「SiNからなるセンサー保護層5及びポリイミドからなるシンチレータ下地層6を配線接続部11が形成された領域を除いて形成して、センサーパネル16を得る工程」と、本願発明5の「複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる熱可塑性樹脂で形成された保護膜を設ける工程」とは、「複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜を設ける工程」である点で共通する。
エ 引用発明の「得られたセンサーパネル16の受光部15上のシンチレータ下地層6上に、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)が添加された、柱状結晶構造のCsI:Tlを、真空蒸着法により形成し、形成されたCsI:Tlをクリーンオーブン内で熱処理することによって、シンチレータ層7を得る工程」と、本願発明5の「保護膜上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度にし、前記保護膜表面が軟化した状態で真空蒸着法により形成し、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる工程」とは、「保護膜上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を真空蒸着法により形成する工程」で共通する。
オ 引用発明の「Alからなる反射層9と、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる反射層保護層10とが積層して設けられた積層フィルムを、反射層9をシンチレータ保護層8側に向けて準備し、熱ラミネートローラ27を用いて上記フィルムシートを、シンチレータ保護層8に接着し、シンチレータ保護層8、反射層9、及び反射層保護層10からなるシンチレータ保護部材を得る工程」と、本願発明5の「シンチレータ層上に、塗膜により反射層を形成する工程」とは、「反射層を形成する工程」である点で一致する。

カ そうすると、本願発明5と引用発明とは、
「蛍光を電気信号に変換する複数の光電変換素子を有するアレイ基板の最表層に、前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜を設ける工程と、
前記保護膜上に、真空蒸着法により形成する工程と、
前記シンチレータ層上に、反射層を形成する工程と、
を具備する放射線検出器の製造方法。」である点で一致し、次の相違点3、4で相違する。
(相違点3)
保護膜について、本願発明5は、熱可塑性樹脂であって、その形成が、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度にし、前記保護膜表面が軟化した状態で前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させるのに対し、引用発明の「シンチレータ下地層6」は「ポリイミド」からなり、その形成は、軟化点よりも高い温度で行われていない点。
(相違点4)
反射層の形成について、本願発明5は、塗膜なのに対し、引用発明は、Al箔を用いている点。

(相違点3、4についての判断)
まず、相違点3について、検討する。
相違点2の検討で述べたように、引用発明において、「シンチレータ下地層6」の「ポリアミド」に代えて、熱可塑性樹脂を採用することについては阻害要因があるというべきであり、しかも、「シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態にな」る「熱可塑性樹脂」を採用することで、「アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる」ことは、いずれの文献にも開示されていないから、上記相違点3は、引用文献1?4、周知例1の記載からは、当業者が容易に予測し得ないものである。引用発明において、上記相違点3に係る本願発明5の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

よって、相違点4について検討するまでもなく、本願発明5は、引用発明、引用文献2?4、周知例1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(本願発明6、7について)
本願発明6、7は、本願発明5をさらに限定するものであるから、本願発明5と同様に、引用発明、引用文献2?4、周知例1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.当審拒絶理由について
請求項1?4は、「放射性検出器の製造方法」に係る発明に補正されたため、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-11 
出願番号 特願2011-545980(P2011-545980)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01T)
P 1 8・ 121- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 靖  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 川端 修
井口 猶二
発明の名称 放射線検出器の製造方法  
代理人 日向寺 雅彦  
代理人 日向寺 雅彦  

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