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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1312971
審判番号 不服2014-20606  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-10 
確定日 2016-03-30 
事件の表示 特願2013-530351「ワイヤレスディスプレイのためのパイプラインスライシングのための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月29日国際公開、WO2012/040565、平成25年11月28日国内公表、特表2013-543311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
1.手続
本願は、2011年(平成23年)9月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2010年9月23日、米国、2011年9月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成26年 1月28日(起案日)
手続補正 :平成26年 5月 2日
拒絶査定 :平成26年 6月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成26年10月10日
手続補正 :平成26年10月10日
前置審査報告 :平成26年12月12日
上申書 :平成27年 3月30日

2.査定
原審での査定の理由は、概略、以下のとおりである。
本願の各請求項に係る発明(平成26年5月2日付け手続補正書による)は、下記刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開2003-209837号公報
刊行物2:特開2000-286716号公報
刊行物3:Jun Yin, et.al., Optimal Packet Size in Error-prone Channel for IEEE 802.11 Distributed Coordination Function, Proceedings of 2004 IEEE Wireless Communications and Networking Conference (WCNC 2004), Vol.3, 2004, p.1654-1659, ISBN:0-7803-8344-3
参考文献:守倉正博監修,「そこが知りたい最新技術 高速無線LAN802.11n入門」,初版,2007年9月1日,株式会社インプレスR&D,第21?25,199?211頁,ISBN:978-4-8443-2433-1

第2 補正却下の決定
平成26年10月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について次のとおり決定する。

《結論》
平成26年10月10日付けの手続補正を却下する。

《理由》

1.本件補正の内容
平成26年10月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は、補正前の請求項1の記載を補正後の請求項1の記載とする、以下のとおりの補正事項を含むものである。

(補正前)
【請求項1】
ワイヤレス通信のための方法であって、
ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、
前記ソースデバイスが、前記選択されたスライス寸法に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割することと、
前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化することと、
前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化することと、
前記ソースデバイスが複数の前記MACデータユニットをアグリゲートすることと、
前記ソースデバイスがアグリゲートされたMACデータユニットをディスプレイシンクに送信することとを備える、方法。

(補正後)
【請求項1】
ワイヤレス通信のための方法であって、
ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される、
前記ソースデバイスが、前記選択されたスライス寸法に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割することと、
前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化することと、
前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化することと、
前記ソースデバイスが複数の前記MACデータユニットをアグリゲートすることと、
前記ソースデバイスがアグリゲートされたMACデータユニットをディスプレイシンクに送信することと
を備え、前記レイテンシは、前記ソースデバイスと前記ディスプレイシンクの両方における処理ステップのエンドツーエンドレイテンシである、方法。

2.本件補正の適合性
(2-1)補正の範囲
上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2-2)補正の目的
上記補正事項は、補正前の請求項1の「スライス寸法を選択する」ことについて、「前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される」ことと、「前記レイテンシは、前記ソースデバイスと前記ディスプレイシンクの両方における処理ステップのエンドツーエンドレイテンシである」ことについての限定事項を付加したものである。
したがって、本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、かつ、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された、特許請求の範囲の減縮に該当する補正事項を含んでいると認められる。

(2-3)独立特許要件
そこで、以下、上記補正後の請求項1に係る発明が独立特許要件を満たすか否かについて検討する。

(ア)補正後発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、以下のとおりである。((A)ないし(I)は当審において付与した。以下「構成要件(A)」等として引用する。)

【請求項1】
(A)ワイヤレス通信のための方法であって、
(B)ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される、
(C)前記ソースデバイスが、前記選択されたスライス寸法に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割することと、
(D)前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
(E)前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化することと、
(F)前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化することと、
(G)前記ソースデバイスが複数の前記MACデータユニットをアグリゲートすることと、
(H)前記ソースデバイスがアグリゲートされたMACデータユニットをディスプレイシンクに送信することと
(I)を備え、前記レイテンシは、前記ソースデバイスと前記ディスプレイシンクの両方における処理ステップのエンドツーエンドレイテンシである、方法。

(イ)引用刊行物の記載
(イ-1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-209837号公報(以下、刊行物1という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スライス構造を用いて動き補償予測フレーム間符号化を行う動画像符号化方法及び動画像符号化装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、MPEG2による動画像符号化は、縦16画素、横16画素から構成されるブロック(以下これをマクロブロックと呼ぶ)を単位に行われる。マクロブロックを画面上水平方向に1または複数個をグループ化したものはスライスと呼ばれ、MPEG2ではスライス構造を用いた符号化処理が行われる。スライス構造を用いる場合、動き補償を行うための動きベクトルの予測値や、量子化係数の予測値などがスライス内で閉じるように符号化を行う。
【0003】スライス構造を用いて符号化処理を行った場合、動画像符号化装置は符号化データにスライスヘッダを付加して復号化装置にデータを送信する。復号化装置は、スライスヘッダの情報からスライス内部に含まれているマクロブロックの位置を特定することができる。また上述したように動き補償を行うための動きベクトルの予測値や、量子化係数の予測値などがスライス内で閉じているため、復号化装置は、シーケンスヘッダやピクチャヘッダの情報が得られていれば、スライス単位に復号を行うことができる。なお、縦16画素、横が画像の幅から構成されるスライスのことをフルスライスと呼ぶことにする。
【0004】ところで、インターネットなどのパケット交換方式を用いた伝送を行う場合には、符号をパケット交換網の伝送単位であるパケットに格納して画像の伝送を行う。この際、一般的にパケットの欠落を避けることができない。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで上述した従来の方法によれば、スライスを短くすれば誤りの伝搬するマクロブロックの長さを短くすることができるので、パケット内に誤りが生じた場合や、パケットが到達しなかった場合の誤り耐性を向上させることができる。しかしながら、スライス長を短くし、パケットの先頭にスライスヘッダを配置するように伝送を行うと、パケット内に不要なスタッフィングビットを配置しなければならず1つのパケットで伝送できる実質的な画像データの伝送量が減少するという問題がある。
【0009】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、実質的な画像データの伝送量を減少させずに誤り耐性を向上し得る動画像符号化方法及び動画像符号化装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するため本発明の動画像符号化方法は、入力画像をスライス構造を用いて符号化するステップと、伝送路のパケットサイズを入力するステップと、ヘッダサイズを入力するステップと、前記伝送路のパケットサイズと前記ヘッダサイズから符号化データを格納可能なパケットサイズを算出するステップと、前記符号化により発生する発生符号量を算出するステップとを有し、符号化データを格納可能な前記パケットサイズと前記発生符号量に応じてスライスの長さを変更して符号化を行うようにする。
【0011】この方法によれば、スライス長を可変とすることによってスタッフィングビットを減らすことができるので、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くすることができるようになる。例えば、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化を行えば、1つのパケット内でスライスを完結させることができ、かつスタッフィングビット量を減らすことができるようになる。この結果、伝送路上で1つのパケットが欠落しても他のパケット内の符号化データの復号にはこの影響を伝搬させずに済み、かつスタッフィングビットによる実質的な画像データの伝送量の減少を抑制できる。

【0023】図1において、1は全体として本発明の実施の形態に係る動画像符号化装置の構成を示す。動画像符号化装置1は、大きく分けて、MPEG2に準拠した動画像符号化処理を行う符号化部2と、パケットデータ生成部3と、伝送路のパケットサイズに応じて符号化部2でのスライス長を可変制御すると共にパケットデータ生成部3でのパケット生成処理を制御する符号配置部4とを有する。
【0024】符号化部2は、ビデオ信号を入力端子10及び差分回路22を介してDCT部11に入力する。DCT部11は、入力されたビデオ信号に対して8×8画素からなるブロックを単位にDCT変換の行列演算を行い、その変換係数を量子化部12に出力する。量子化部12は入力された変換係数に対して量子化処理を行い、量子化変換係数を出力する。量子化の特性は、レート制御部15によって制御される。量子化変換係数は可変長符号化部13に渡され、可変長符号化部13では可変長符号化、ランレングス符号化などのエントロピ符号化処理が行われる。

【0028】実際上、符号化部2はスライス構造を用いた符号化処理を行う。具体的には、動き検出部19及び動き補償部20での処理や、量子化部12での量子化処理を各スライスで完結させるようになっている。これにより、復号側ではスライスを単位として独立に復号が可能になる。このスライス構造を用いた符号化処理自体は、公知の技術であるため説明を省略する。

【0029】符号配置部4は、ヘッダサイズ入力部30にヘッダサイズを入力すると共に、パケットサイズ入力部31にパケットサイズNを入力する。パケットサイズ算出部32は、パケットサイズNからヘッダサイズを減じることにより、1つのパケット内に格納可能な符号化データ量(以下これを実パケットサイズN1と呼ぶ)を算出し、これを比較判定部33及びスタッフィング信号生成部34に送出する。
【0030】比較判定部33は、実パケットサイズN1に加えて、符号化部2からのフルスライス終了信号E、符号量算出部35からのマクロブロック符号量M及びパケットデータ生成部3からの発生符号量Pを入力する。比較判定部33はこれらの情報を基にスライス終了信号Fを形成する。
【0031】符号化部2はこのスライス終了信号Fが入力されるとスライス終端処理を行う。つまり、スライス終了信号Fが入力される前のマクロブロックとスライス終了信号を入力して以降のマクロブロックは、異なるスライスとして扱って符号化処理を行うようになっている。なお、比較判定部33の詳細な処理については後述する。
【0032】スタッフィング信号生成部34は、実パケットサイズN1に加えて、パケットデータ生成部3からの発生符号量P、比較判定部33からのスライス終了信号F及び符号化部2からのフルスライス終了信号Eを入力する。スタッフィング信号生成部34はこれらの情報を基にスタッフィング信号Gを形成する。このスタッフィング信号生成部34の詳細な処理については後述する。
【0033】パケットデータ生成部3は、パケットの先頭にヘッダを配置し、このヘッダに続いてバッファ部14から出力される符号化データを配置すると共に、末尾にスタッフィング信号Gで示される量のスタッフィングビットを付加することにより、パケットデータを生成しこれを伝送路に出力する。
【0034】次に、動画像符号化装置1の動作について説明するが、先ずその前に、マクロブロック、フルスライス、スライスの関係について説明する。図2は、フレームを構成するマクロブロック101、フルスライス102、スライス103を表したものである。マクロブロック101は、フレーム内の縦16画素、横16画素から構成される画素群であり、マクロブロック101の左上の画素位置は、縦方向、横方向ともに16で割ったときの余りが一定になるように選ばれる。スライス103は、マクロブロック101を横方向に連続して集めたマクロブロックの集合である。フルスライス102は、横方向の全てのマクロブロック101を集めたものをいう。

【0037】動画像符号化装置1は、図4に示すような手順でスライス単位の符号化処理を行ってパケットデータを生成する。動画像符号化装置1は、フルスライスの符号化を開始すると、ステップS001でフルスライス符号化開始直後に符号化を行うマクロブロックの位置を指定する。図2のフルスライス102について言えば、左上のマクロブロックを1から数えた場合に第61番目のマクロブロックが指定される。
【0038】ステップS002では、スライス先頭の予測値のリセットを行う。この処理は、スライスを独立した復号化の単位として符号化を行うために必要な処理で、既に符号化されているスライス内のマクロブロックの情報とこれから符号化するマクロブロックの情報との関連をなくす。MPEG2の符号化を行う場合には、スライスの先頭処理として、動きベクトルの予測値と、DCT係数のうち直流成分の予測値のリセットを意味する。
【0039】ステップS003では、スライスヘッダを出力する。ここでMPEG2による符号化の場合、フルスライスの先頭においては、フルスライスの垂直位置の出力を行う。続くステップS004では、ステップS001で指定されたマクロブロックの符号化処理を行う。この処理は、符号化方式によって許される任意の符号化方法を利用して、マクロブロックの画素値を符号に変換することを意味し、符号化部2により実行される。
【0040】実際上、動画像符号化装置1においては、動き検出部19が、符号化処理中のピクチャタイプに応じて、前方向または後方向の参照画像と処理中のマクロブロックの原画像とでブロックマッチングを行う。そして差分画像の絶対値の和が最小となる位置を動きベクトルとして選択する。また動画像符号化装置1は、イントラ符号化を行った符号化データと動きベクトルを利用した符号化データのどちらを利用するかを統計量を用いた評価により選択する。さらに動画像符号化装置1は、フレーム構造でDCTを行うか又はフィールド構造でDCTを行うかを選択する。動画像符号化装置1は、以上の選択結果に基づきマクロブロック毎にDCT部11によりDCT処理を施し、量子化部12により量子化を行い、さらに量子化されたDCT係数を可変長符号化部13により可変長符号化する。
【0041】加えて、動画像符号化装置1においては、これと同時に得られるマクロブロック毎の発生符号量Mを符号量算出部35にて算出する。
【0042】ステップS005では、比較判定部33が、現在生成中のパケットに含まれている符号量PとステップS004で算出されたマクロブロックの発生符号量Mとの和(P+M)と、実パケットサイズN1との比較を行う。そして比較判定部33によって、P+M≦N1が成り立つ比較判定結果が得られた場合、すなわちそのマクロブロックについての符号化データが現在生成中のパケットに全て格納可能な場合にはステップS007に処理を進める。
【0043】ステップS007では、パケットデータ生成部3がバッファ14に格納されたマクロブロックの符号化データを出力し、ステップS008では、符号化部2が次のマクロブロック処理を行うためにマクロブロック位置を1つ増やすことによりマクロブロックの位置を更新した後、ステップS009でフルスライスの右端のマクロブロックであるといった判定結果が得られるまで、ステップS004-S005-S007-S008-S009-S004の処理ループを繰り返すことにより、1つのパケットに格納するマクロブロックの符号化処理を繰り返す。
【0044】これに対して、ステップS005で比較判定部33によりP+M>Nといった比較判定結果が得られた場合、すなわちそのマクロブロックについての符号化データが現在処理中のパケットに収まりきらない場合には、ステップS006に移る。ステップS006では、符号化中のマクロブロックがスライス先頭であるか否かを判定し、スライスの先頭マクロブロックである場合には、ステップS007に移り、スライスの先頭ではない場合にはステップS010に移る。
【0045】実際上、この実施の形態の動画像符号化装置1においては、比較判定部33でスライスの終了位置を指定するようにしているので、符号化部2は比較判定部33からスライス終了信号Fが与えられるまで順次マクロブロックに対して同一のスライスとしての符号化処理を行うようになっている。
【0046】動画像符号化装置1は、ステップS006でスライスの先頭であると判定された場合には、ステップS007の処理を行う。ここでステップS005からステップS006を経てステップS007の処理を行うということは、スライス先頭の1つのマクロブロックによってパケットが全て満たされ、さらに次のパケットの先頭から同一のマクロブロックについての残りの符号データを引き続き出力することを意味する。
【0047】ステップS010では、比較判定部33が符号化部2にスライス終了信号Fを出力することにより、スライス終端処理を行う。このスライス終端処理が行われたマクロブロックは、次のスライスの先頭のマクロブロックとされる。
【0048】ステップS011では、パケットデータ生成部3が新たなパケットの先頭でスライスヘッダを出力する。MPEG2による符号化の場合には、この処理はステップS003におけるスライスヘッダ出力とは異なり、スライススタートコードに加えて、マクロブロックの水平位置の出力も行う。
【0049】動画像符号化装置1は、ステップS009で肯定結果を得ると、つまり次のマクロブロックがフルスライスの外に対応する場合には、ステップS012に移る。ステップS012では、符号化部2が比較判定部33及びスタッフィング信号生成部34にフルスライス終了信号Eを送出すると共に、スライス終端処理を行う。一方、ステップS009で否定結果を得ると、つまり次のマクロブロックがフルスライスの内に対応する場合には、ステップS004に戻る。

【0053】次に、1つのマクロブロックMB64の符号化データ量が非常に大きく、パケットサイズからスライスヘッダサイズを引いた値より大きかった場合について説明する。このような場合には、量子化係数などの値を小さくしてマクロブロックMB64についての符号化をもう一度行うことで、1つのパケットに詰め込むこともできるが、この実施の形態では、図11のように、パケットの境界を越えて1つのマクロブロックMB64の符号化データを格納する。
【0054】なお図11では、マクロブロックMB64のデータは、2つのパケット内に収まった図で説明を行っているが3を越えるパケットに格納することも可能である。また図12のように、続くマクロブロックMB65の符号化データが、マクロブロックMB64の符号化データの次に格納できるような量であれば、マクロブロックMB64の符号化データに引き続いて同一パケット内に格納することができる。
【0055】次に、パケットサイズ算出部32におけるパケットサイズの算出方法について説明する。ここでは、データリンク層としてイーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用し、ネットワーク層としてIP(Internet Protocol)を利用し、画像データをUDPのパケットとして伝送する場合について説明する。なおここでは、データリンク層としてイーサーネット(R)を利用し、ネットワーク層としてIPを利用し、トランスポート層のプロトコルとしてUDPを利用して伝送を行う場合について説明するが、他のプロトコルを利用した場合も同様に実施できる。

【0061】以上説明したような本実施の形態の動画像符号化装置1から出力されたパケット化された画像符号化データは、一般的な動画像復号化装置によって復号することができる。この際、パケット内のデータは、1つのマクロブロックのみで実パケットサイズを越えてしまう場合(図11のような場合)以外は、全てのパケットにおいて必ず先頭からスライスヘッダ、当該スライスヘッダに対応するスライスの符号化データの順に配置されており、かつ当該スライスヘッダに対応するスライスの符号化データがパケット内で完結している。
【0062】このため動画像復号化装置は、パケットを受信すると、スライスヘッダによりスライス情報を認識し、このスライス情報に基づき逆量子化部の逆量子化特性等を制御して受信パケット内の符号化データ全てを確実に復号できる。例えば、続くパケットが欠落したとしても、その次のパケットデータは前のパケットの欠落に関係なく復号することができる。因みに、1つのマクロブロックのみで実パケットサイズを越えてしまう場合(図11のような場合)のパケットデータを受信した場合でも、スライスヘッダが付加されたパケットが欠落していなければ復号可能である。

(イ-2)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-286716号公報(以下、刊行物2という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はデータ符号化装置及び方法、特にMPEGなどのデータストリーム中に存在する冗長データ除去に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、MPEGエンコーダなどにおいては画像データや音声データなどをストリームに変換して出力している。データストリームは圧縮・符号化されたデータの列であり、先頭から順番に処理されていく。そして、ノイズなどによりストリームの一部が失われた場合にその後の処理ができなくなることに鑑み、画像の先頭などにはエスケープパターンというデータ列を用意し、ストリームを区別してここから新しいストリームが始まることを明示している。
【0003】一方、1つのストリーム中においても、1フレーム毎、1スライス毎のようにいくつかのデータのまとまりが存在する。エンコーダにおいては、画像入力処理、圧縮処理、データ出力処理などの各処理ステージをパイプライン的に順次処理することが望ましいが、各処理ステージではまとまりの先頭がそろっている必要がある。すなわち、通常、各処理では基本的に8ビットを処理単位としている(1クロック毎に8ビットを入力して処理し、8ビットを出力する)が、演算速度の問題から一部の処理ステージでは並列化を行い、例えば48ビット単位で処理しているので、データのまとまりもこの処理単位に収まる必要がある(つまり、データのまとまりが48の倍数である必要がある)。
【0004】ところが、1ストリーム中の各まとまりのデータ量は任意であるため、必ずしも処理単位に収まるとは限らず、例えばある処理ステージの処理単位が48ビットであるにもかかわらず、まとまりのデータ量の境界が45ビット、あるいは46ビットしか存在しない場合も生ずる。
【0005】一方、MPEG規格においては、フレームやスライス単位のストリームの後に、いくつかの0を冗長データとして挿入することを許容している。
【0006】そこで、従来より、データが存在せず不足している箇所に冗長データとして0を付加することで、処理単位に収めるようにしている。例えば、処理単位が48ビットの場合で、データのまとまりの境界が46ビットしかない場合には、不足の2ビットに0を付加することで48ビットとする如くである。

(ウ)刊行物1に記載された発明
(ウ-1)
刊行物1の【0001】の記載によれば、刊行物1に記載された発明は「動画像符号化方法」に関するものであり、【0008】、【0009】等の記載によれば、上記動画像符号化方法により動画像データを符号化することにより、動画像データを伝送するものであることが理解できるから、動画像データを伝送する方法が開示されている。
したがって、刊行物1には、動画像データを伝送する方法に関する発明が開示されている。

(ウ-2)
刊行物1の【0023】の記載によれば、刊行物1に記載された伝送する方法に用いられる動画像符号化装置は、動画像符号化処理を行う符号化部2と、パケットデータ生成部3と、伝送路のパケットサイズに応じて符号化部2でのスライス長を可変制御すると共にパケットデータ生成部3でのパケット生成処理を制御する符号配置部4とを有している。
刊行物1の【0029】、【0030】の記載によれば、動画像符号化装置の符号配置部4は、実パケットサイズN1、マクロブロック符号量M、発生符号量Pなどの情報を基にスライス終了信号Fを形成することが開示されている。
上記スライス終了信号Fを形成する際の比較判定部33の動作は、【0042】-【0046】の記載によれば、現在生成中のパケットに含まれている符号量Pと新たに符号化されたマクロブロックの発生符号量Mとの和が、実パケットサイズN1を超えない範囲で、1つのパケットに格納するマクロブロックの符号化処理を繰り返し、上記和が実パケットサイズN1を超えたとき、スライス終了信号Fを出力することが開示されている。
そして、【0031】の記載によれば、符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行っている。
上記構成を採用する目的は、刊行物1の【0011】の記載によれば、「スライス長を可変とすることによってスタッフィングビットを減らすことができるので、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くすることができるようになる。例えば、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化を行えば、1つのパケット内でスライスを完結させることができ、かつスタッフィングビット量を減らすことができるようになる。」ことを目的としているから、スライス長の決定は、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化することにより、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くすることを目的したスライス長となるように決定されることが開示されている。
したがって、刊行物1には、動画像符号化装置の符号配置部4で、実パケットサイズN1、マクロブロック符号量M、発生符号量Pなどの情報を基に、現在生成中のパケットに含まれている符号量Pと新たに符号化されたマクロブロックの発生符号量Mとの和が、実パケットサイズN1を超えない範囲で、1つのパケットに格納するマクロブロックの符号化処理を繰り返し、上記和が実パケットサイズN1を超えたとき、スライス終了信号Fを出力し、符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行うことで、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化することにより、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くする、技術思想が開示されている。

(ウ-3)
刊行物1の【0024】、【0028】の記載によれば、刊行物1の符号化部2は、ビデオ信号を入力しスライス構造を用いた符号化処理を行っていることが開示されている。
上記スライス構造とは、刊行物1の【0034】の記載によれば、フレームをマクロブロックに分割し、上記マクロブロックをいくつかまとめた単位をスライスと称していることが理解できるから、フレームを(マクロブロックよりも大きい単位で)分割したものがスライスである。
そして、【0031】の記載によれば、上記スライス構造は、符号化部2において、スライス終了信号Fが入力されるとスライス終端処理を行い、スライス終了信号Fが入力される前のマクロブロックとスライス終了信号を入力して以降のマクロブロックは、異なるスライスとして扱って符号化処理を行っているから、上記スライス終了信号Fによって、フレームがスライスに分割され、上記分割されたスライス単位で符号化処理を行うことが開示されている。
したがって、刊行物1には、動画像符号化装置の符号化部2で、ビデオ信号を入力し、符号配置部4で形成されたスライス終了信号が入力されると、上記スライス終了信号Fによって、フレームがスライスに分割され、上記分割されたスライス単位で符号化処理を行うことが開示されている。

(ウ-4)
刊行物1の【0033】の記載によれば、動画像符号化装置のパケットデータ生成部3は、パケットの先頭にヘッダを配置し、このヘッダに続いてバッファ部14から出力される符号化データを配置すると共に、末尾にスタッフィング信号Gで示される量のスタッフィングビットを付加することにより、パケットデータを生成することが開示されている。

(ウ-5)
刊行物1の【0033】、【0061】、【0062】の記載によれば、動画像符号化装置のパケットデータ生成部3で生成されたパケットデータは、伝送路に出力され、一般的な動画像復号化装置に送信されることが開示されている。
そして、上記送信に際して【0055】の記載によれば「データリンク層としてイーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用し、ネットワーク層としてIP(Internet Protocol)を利用し、画像データをUDPのパケットとして伝送する」とあるから、イーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用して送信しているといえる。
以上まとめると、刊行物1の動画像符号化装置のパケットデータ生成部3で生成されたパケットデータは、伝送路に出力され、イーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用して、一般的な動画像復号化装置に送信される。

(ウ-6)まとめ
以上(ウ-1)ないし(ウ-5)の記載によれば、刊行物1には以下の発明(以下、刊行物1発明という。)が開示されている。
((a)ないし(e)は当審において付与した。以下「構成要件(a)」等として引用する。)

(a)動画像データを伝送する方法であって、
(b)動画像符号化装置の符号配置部4で、実パケットサイズN1、マクロブロック符号量M、発生符号量Pなどの情報を基に、現在生成中のパケットに含まれている符号量Pと新たに符号化されたマクロブロックの発生符号量Mとの和が、実パケットサイズN1を超えない範囲で、1つのパケットに格納するマクロブロックの符号化処理を繰り返し、上記和が実パケットサイズN1を超えたとき、スライス終了信号Fを出力し、符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行うことで、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化することにより、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くする、
(c)動画像符号化装置の符号化部2で、ビデオ信号を入力し、符号配置部4で形成されたスライス終了信号が入力されると、上記スライス終了信号Fによって、フレームがスライスに分割され、上記分割されたスライス単位で符号化処理を行い、
(d)動画像符号化装置のパケットデータ生成部3は、パケットの先頭にヘッダを配置し、このヘッダに続いてバッファ部14から出力される符号化データを配置すると共に、末尾にスタッフィング信号Gで示される量のスタッフィングビットを付加することにより、パケットデータを生成し、
(e)動画像符号化装置のパケットデータ生成部3で生成されたパケットデータは、伝送路に出力され、イーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用して、一般的な動画像復号化装置に送信される、方法。

(エ)対比
補正後発明と刊行物1発明とを対比する。

(エ-1)補正後発明の構成要件(A)と刊行物1発明の構成要件(a)とを対比する。
刊行物1発明の動画像データを伝送する方法は、通信のための方法である点で補正後発明と相違がない。
もっとも、補正後発明は、ワイヤレス通信のための方法であるのに対し、刊行物1発明は、「ワイヤレス」の特定事項を有さない点で相違する。

(エ-2)補正後発明の構成要件(B)と刊行物1発明の構成要件(b)とを対比する。
まず、補正後発明の「前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される」の記載について検討する。
上記記載によれば、「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」と「レイテンシ目的」という2つの選択肢が記載されており、スライス寸法は、これらのうちの少なくとも1つに基づいて選択されるのであるから、どちらか一方のみを満たせば、補正後発明の構成を満たすこととなることは明らかである。
また、本願発明をそのように捉えることができることは、本願明細書の【0013】の記載からも明らかである。
したがって、当審では、上記2つの選択肢のうち、「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」の選択肢を用いた構成、すなわち、「ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的に基づいて選択される」の構成について検討する。
刊行物1発明の「動画像符号化装置」は、構成要件(e)にあるように、パケットデータを生成し、上記パケットデータを伝送路に出力し、一般的な動画像復号化装置に送信しているから、画像データを送信する基となる装置(ソースデバイス)といえる。
刊行物1発明では、「動画像符号化装置の符号配置部4で、実パケットサイズN1、マクロブロック符号量M、発生符号量Pなどの情報を基に、現在生成中のパケットに含まれている符号量Pと新たに符号化されたマクロブロックの発生符号量Mとの和が、実パケットサイズN1を超えない範囲で、1つのパケットに格納するマクロブロックの符号化処理を繰り返し、上記和が実パケットサイズN1を超えたとき、スライス終了信号Fを出力し」ている。
そして、刊行物1発明では、符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行っているが、上記スライス終端処理は、上記(ウ-3)で検討したように、フレームをスライスに分割することであるといえるから、スライス終了信号Fを出力することは、フレームをスライスに分割するための位置を選択しているといえる。
一方、補正後発明の「ビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択する」ことも、フレームをスライスに分割するための位置を選択しているから、補正後発明と刊行物1発明とは「フレームをスライスに分割するための位置を選択」する点で共通している。
もっとも、上記「フレームをスライスに分割するための位置を選択」する構成について、補正後発明では、「スライス寸法を選択」しているのに対し、刊行物1発明では、「スライス寸法を選択」しているとはいえない点で相違する。
補正後発明の「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」とは、本願明細書を参酌すると、
「一例として、MACレイヤ肯定応答(ACK)を利用するシステムでは、個々のワイヤレス送信ユニット(たとえば、パイプラインユニット)として極めて小さいスライスを利用すると、著しくWi-Fi MAC効率が劣化し、共有チャネル上のチャネル時間利用が増加し得る。」【0028】、
「いくつかの態様によれば、スライス寸法は、最小理論スライス幅の倍数(たとえば、マクロブロック幅の倍数)として選択され得、この倍数は、Wi-Fi MAC効率目的を満足させるために十分大きく」【0033】、
「MAC効率目的は、シンクデバイスに送られるディスプレイデータの量がメッセージングオーバーヘッドと比較して十分に大きいことを保証するように確立され得る。」【0043】
と記載されるように、媒体アクセス制御(MAC)のプロトコルを用いて送信するとき、十分大きなスライス寸法とすることで、シンクデバイスに送られるディスプレイデータの量がメッセージングオーバーヘッドと比較して十分に大きいことを保証するという目的を得ることであるといえる。
これに対して、刊行物1発明では、「符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行うことで、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化することにより、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くする」ことを目的としているのであるから、パケットサイズに対して十分大きなスライス長とすることで、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くしている。
そして、刊行物1発明のパケットが、補正後発明「媒体アクセス制御(MAC)データユニット」に相当することは、後記の(エ-5)で検討したとおりであるから、上記刊行物1発明の目的が、上記補正後発明のMAC効率目的と同等の目的であることは明らかである。

以上まとめると、刊行物1発明は、「ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのを位置を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的に基づいて選択される」構成を有する点で補正後発明と相違がない。
もっとも、「ビデオフレームをスライスに分割するためのを位置を選択する」ことに関して、補正後発明では、「スライス寸法を選択」しているのに対し、刊行物1発明では、「スライス寸法を選択」しているとはいえない点で相違する。

(エ-3)補正後発明の構成要件(C)と刊行物1発明の構成要件(c)とを対比する。
刊行物1発明では、「動画像符号化装置の符号化部2で、ビデオ信号を入力し、符号配置部4で形成されたスライス終了信号が入力されると、上記スライス終了信号Fによって、フレームがスライスに分割され、上記分割されたスライス単位で符号化処理を行」っており、上記動画像符号化装置は、補正後発明のソースデバイスに相当することは、上記(エ-2)のとおりである。
そして、上記スライス終了信号Fは、上記(エ-2)で検討したように、符号配置部4で選択したスライスの分割位置を示す信号であるから、上記選択されたスライスの分割位置に基づいて前記ビデオフレームを分割しているといえる。
したがって、刊行物1発明は、「前記ソースデバイスが、前記選択されたスライスの分割位置に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割する」点で、補正後発明と相違がない。
もっとも、上記(エ-2)で検討したのと同様、補正後発明では、「前記選択されたスライスの分割位置」が「前記選択されたスライス寸法」であるのに対し、刊行物1発明では、「前記選択されたスライス寸法」とはいえない点で相違する。

(エ-4)補正後発明の構成要件(D)、(E)と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明は、上記構成要件(c)にあるように、動画像符号化装置の符号化部2で、上記分割されたスライス単位で符号化処理を行っているから、前記ソースデバイスが、スライスを符号化する構成を有しているといえる。
もっとも、刊行物1発明の上記動画像符号化装置では、符号配置部4、符号化部2、パケットデータ生成部3等の構成が、パイプライン化されている構成を有していないから、補正後発明の「前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化する」構成を有しているとはいえない点で相違する。

(エ-5)補正後発明の構成要件(F)と刊行物1発明の構成要件(d)とを対比する。
まず、補正後発明の「1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニット」の記載について検討する。
上記記載の「1つまたは複数」は、上記(エ-2)で検討したように、本願明細書の【0013】の記載によれば、1つでもよいし、複数でもよいし、1つと複数の両方でもよいことを示しているから、結局、数に関係なく「媒体アクセス制御(MAC)データユニット」であればよいといえる。
刊行物1発明では、「動画像符号化装置のパケットデータ生成部3は、パケットの先頭にヘッダを配置し、このヘッダに続いてバッファ部14から出力される符号化データを配置すると共に、末尾にスタッフィング信号Gで示される量のスタッフィングビットを付加することにより、パケットデータを生成し」ている。
上記「パケットの先頭にヘッダを配置し、このヘッダに続いてバッファ部14から出力される符号化データを配置すると共に、末尾にスタッフィング信号Gで示される量のスタッフィングビットを付加することにより、パケットデータを生成」することをカプセル化と称してもよいことは技術常識である。
そして、刊行物1発明の構成要件(e)にあるように、パケットデータを生成した後に送信されるから、送信よりも前に符号化出力をカプセル化している。
また、同構成要件(e)には、送信プロトコルとして「イーサーネット(R)(IEEE802.3)を利用して」いることも特定しており、上記プロトコルでは、パケットが、宛先MACアドレス、送信元MACアドレスを有する、すなわち、「媒体アクセス制御(MAC)データユニット」であることは技術常識であるから、刊行物1発明では「媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化」している。
以上のことから、刊行物1発明は「前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化する」構成を有している点で、補正後発明の構成要件(F)と相違がない。

(エ-6)補正後発明の構成要件(G)と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明は、アグリゲートする構成を有していないから、補正後発明の構成要件(G)を有していない。

(エ-7)補正後発明の構成要件(H)と刊行物1発明の構成要件(e)とを対比する。
補正後発明の「ディスプレイシンク」とは、一般的に、画像データを送受信するとき、送信側(の装置)を「ソース(デバイス)」、受信側(の装置)を「シンク(デバイス)」と称するから、「ディスプレイシンク」とは、受信装置としてのディスプレイ(表示装置)の意味であると認める。
そして、刊行物1発明の「一般的な動画像復号化装置」は、伝送路を介して送信された画像データを受信する装置であるから、補正後発明の「シンク」といえる。
また、刊行物1発明の構成要件(e)における送信されるパケットデータが、MACデータユニットであることは、上記(エ-5)のとおりであるが、上記(エ-6)にあるとおり、刊行物1発明は、アグリゲートする構成を有していないから、アグリゲートされたMACデータユニットではない点で補正後発明と相違する。
したがって、刊行物1発明は、「前記ソースデバイスがMACデータユニットをシンク(デバイス)に送信する」構成を有している点で、補正後発明と相違がない。
もっとも、
上記(エ-6)と同様、補正後発明では送信する「MACデータユニット」が「アグリゲートされた」MACデータユニットであるのに対し、刊行物1発明では、「アグリゲートされた」の特定事項を有さない点、および、
補正後発明では送信する相手が、「ディスプレイシンク」であるのに対し、刊行物1発明では、「シンク(デバイス)」であって、ディスプレイであることが特定されていない点、
で相違する。

(エ-8)補正後発明の構成要件(I)と刊行物1発明との対比について。
補正後発明の構成要件(I)は、「前記レイテンシは、前記ソースデバイスと前記ディスプレイシンクの両方における処理ステップのエンドツーエンドレイテンシである」との記載であるから、構成要件(B)の「レイテンシ」について限定する構成である。
ところで、上記(エ-2)で検討したように、構成要件(B)の択一的記載の一方の特定事項である媒体アクセス制御(MAC)効率目的の特定事項を補正後発明の特定事項とし、択一的記載の他方の特定事項であるレイテンシ目的の特定事項については、補正後発明の特定事項とはしないこととしたから、上記構成要件(B)のレイテンシ目的の特定事項についてさらに限定する構成である構成要件(I)についても、補正後発明の特定事項とはならず、刊行物1発明と対比しない。
したがって、構成要件(I)については検討しない。

(エ-9)まとめ(一致点・相違点)
以上まとめると、補正後発明と刊行物1発明とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。

(一致点)
通信のための方法であって、
ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのを位置を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的に基づいて選択される、
前記ソースデバイスが、前記選択されたスライスの分割位置に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割することと、
前記ソースデバイスが、スライスを符号化することと、
前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化することと、
前記ソースデバイスがMACデータユニットをシンク(デバイス)に送信することと、
を備え、た方法。

(相違点)
相違点1
補正後発明は、ワイヤレス通信のための方法であるのに対し、刊行物1発明は、「ワイヤレス」の特定事項を有さない点。

相違点2
「ビデオフレームをスライスに分割するためのを位置を選択する」ことに関して、補正後発明では、「スライス寸法を選択」しているのに対し、刊行物1発明では、「スライス寸法を選択」しているとはいえない点。

相違点3
刊行物1発明は、補正後発明の
「前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化する」構成を有しているとはいえない点。

相違点4
刊行物1発明は、補正後発明の「前記ソースデバイスが複数の前記MACデータユニットをアグリゲートすること」の構成を有していない点。

相違点5
「シンク(デバイス)」に関して、補正後発明では「ディスプレイシンク」であるのに対し、刊行物1発明では、ディスプレイであることが特定されていない点。

(オ)判断
(オ-1)相違点1について
刊行物1には、刊行物1に記載された発明が属する分野として「本発明は、スライス構造を用いて動き補償予測フレーム間符号化を行う動画像符号化方法及び動画像符号化装置に関するものである。」(【0001】)との記載があり、また、【0061】、【0062】等の記載によれば、当該符号化された動画像を復号化装置に送信することを前提としていることも開示されている。ここで、上記符号化された動画像を復号化装置に送信するとき、ワイヤレスの伝送路を利用することは、例えば特開2010-33268号公報にもあるとおり、本願出願前周知の技術事項であり、刊行物1に明示されていなくとも、上記刊行物1記載の発明において、その送信に用いられる伝送路をワイヤレスとすることは、当業者であれば普通に実施できるから、相違点1に係る構成は、刊行物1の記載に基づき当業者が容易に為しえたことである。

(オ-2)相違点2、相違点3について
まず、補正後発明の構成要件(E)「前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化すること」の記載について検討する。
上記記載は、パイプライン処理の具体的な構成を限定したものと認めることができ、本願明細書の発明の詳細な説明の【0033】-【0037】の構成を特定していると認められるから、当該記載を参酌して検討する。
【0034】の記載では、「406において、処理パイプラインの第2の段階から第2の前に前処理されたスライスを送信しながら、処理パイプラインの第1の段階中で第1のスライスを符号化することが可能になる。」との記載があるから、当該構成が上記補正後発明の構成要件(E)に相当しているといえる。
そして、「処理パイプラインの第2の段階から第2の前に前処理されたスライスを送信」とあるから、第2の段階は「送信」する段階であり、第2の段階の前にスライスが前処理がされているといえる。
また、「処理パイプラインの第1の段階中で第1のスライスを符号化する」とあるから、第1の段階は「符号化」する段階であるといえる。
これを、【0037】及び図6の構成と対応させると、ディスプレイフレーム610を、選択されたサイズのスライス620に分割し、処理パイプラインの第2の段階640において、(第1の段階630においてすでに前処理されている)第2のスライス620_(2)を符号化し、送信構成要素650によって、(すでに前処理され、符号化されている)第1のスライス620_(1)をシンクデバイス660に送信する構成に対応していて、上記記載を参酌すると、符号化の段階と送信の段階とが順にパイプライン化され、符号化が行われたスライスは送信の段階にて送信されること、上記符号化の段階と送信の段階とはパイプライン処理がなされるから、あるスライスを符号化処理しているとき、すでに符号化が終了した他のスライスが送信処理されることが理解できる。
以上のことから、上記請求項の記載は、符号化の段階(第1の段階)と送信の段階(第2の段階)とはパイプライン処理されるように構成され、スライスは順に、符号化の段階で符号化され、送信の段階で送信されること、および、第1の段階で第1の信号が符号化されているとき、第2の段階では第1の段階で符号化の処理が終了した第2の信号を送信処理していることを特定しているといえる。
次に、審査官が拒絶の理由で提示した刊行物2(特開2000-286716号公報)について検討する。
上記刊行物2の記載によれば、刊行物2に記載された事項は、その発明の属する技術分野が「データ符号化装置及び方法、特にMPEGなどのデータストリーム中に存在する冗長データ除去に関する。」とあるから、画像データの符号化に関する事項を前提としている。
そして、【0003】によれば「1つのストリーム中においても、1フレーム毎、1スライス毎のようにいくつかのデータのまとまりが存在する。エンコーダにおいては、画像入力処理、圧縮処理、データ出力処理などの各処理ステージをパイプライン的に順次処理することが望ましいが、各処理ステージではまとまりの先頭がそろっている必要がある。」とあるから、画像データストリームを符号化(エンコーダは符号化装置である。)するとき、1スライスごとのまとまりで「画像入力処理」、「圧縮処理」、「データ出力処理」のような処理を行う時、各処理のステージをパイプライン的に順次処理することが望ましいことが周知であったことが理解できる。
したがって、「画像入力処理」、「圧縮処理」、「データ出力処理」の各処理をパイプライン化して順次処理することは当業者によく知られていたことであるといえる。
ここで、刊行物1発明では、(ウ-2)で検討したように、「動画像符号化装置は、動画像符号化処理を行う符号化部2と、パケットデータ生成部3と、伝送路のパケットサイズに応じて符号化部2でのスライス長を可変制御すると共にパケットデータ生成部3でのパケット生成処理を制御する符号配置部4」を有しているから、これら「符号化部2」、「パケットデータ生成部3」、「符号配置部4」で行われる処理について、パイプライン処理が行えるようにしようとすることは、刊行物2に記載された事項を踏まえれば、当業者が普通に想起し得たことであるといえる。
そして、刊行物1発明において、上記各処理をパイプライン化するときには、まず、スライス長を決めて符号化を行い、上記スライス長に従った符号化処理が終了した信号を、送信のためのパケットデータとする必要があることは、当業者であれば当然考慮することであり、刊行物1発明において、ブロックごとに符号化処理が終了するたびにスライス終了位置を判定する構成に変えて、スライス長を決定して上記スライス長で「符号化」処理、「パケットデータ生成」処理 を行うようにすることは当業者が当然考慮することである。
したがって、刊行物1発明に、上記刊行物2に記載されたパイプライン処理の構成を適用するとき、相違点2、相違点3の構成を採用することは当業者が容易になしえたことである。

(オ-3)相違点4について
無線通信を高速化するとき、アグリゲーションの技術を採用することは、「第1 2.査定」にある参考文献『守倉正博監修,「そこが知りたい最新技術 高速無線LAN802.11n入門」,初版,2007年9月1日,株式会社インプレスR&D,第21?25,199?211頁,ISBN:978-4-8443-2433-1』にもあるように本願出願前周知の事項であり、画像データはデータ量が多いこともよく知られているから、刊行物1発明において、高速通信の必要があれば当然採用し得た構成であり、刊行物1発明に相違点4の構成を採用することは当業者が容易になしえたことである。

(オ-4)相違点5について
刊行物1発明では、送信する相手がディスプレイではないが、送信されるデータが画像データであって、表示されることも当然想定されること、および、刊行物1に記載される「動画像復号化装置」を有したディスプレイは本願出願前周知の構成であるから、刊行物1発明のシンク(デバイス)として「ディスプレイシンク」を採用することは当業者が容易になしえたことである。

(カ)効果
以上のように、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、本願発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記相違点に係る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

(キ)まとめ(独立特許要件)
以上によれば、補正後発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の結論のとおり決定する。

(ク)他の事項についての検討
なお、上記結論に至る合議体の判断等とは別に、合議体が検討した事項について以下に付記する。
(ク-1)
補正後発明の「前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される」の記載を択一的記載として、「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」についてのみ検討したが、一応「媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的」との関連について、以下で検討する。
そもそも、パケット長の決定に際して、1つのパケットに多くの(ヘッダやスタッフィングビットを除いた)実データ(刊行物1発明でいうと画像データ)を含ませることで、その伝送効率を改善すると、上記実データが多くなればなるほどレイテンシの値が悪くなることはよく知られており、したがって、パケットを集約するときは、上記伝送効率の改善とレイテンシの値との相互関係によって決定されることは、例えば国際公開第2010/096726号に

「[0089] Packet aggregation is used to increase the efficiency of the Media Access Control (MAC) layer. In the industry standard known as MoCA 1.1, opportunistic packet aggregation is used, i.e. when a transmitting node within the MoCA network is given the opportunity to make a reservation request, the transmitting node checks the number of packets available for transmission (i.e., the number of packets in its transmit buffer), and aggregates (combines the packets) as much as possible prior to transmission. The Aggregated packets are associated with an AggregationID which is typically a combination of the destination node and the priority of the packets being aggregated. Aggregation is done more or less efficiently depending on the time distribution of packets.

[0090] For an SD flow of 4Mb/s from a digital video recorder (DVR) to a set top box (STB), with a packet size of 1.5kB, on average there is only one packet of 1.5kB for every 3ms. For a high definition (HD) flow of 20Mb/s, there are on average 2.5kB data per ms, or equivalently 5 packets of 1.5kB for every 3ms. This example illustrates how packet aggregation can be more effective if done over a longer time interval. The longer time interval means a larger latency for the traffic. For non-PQoS traffic, the traffic latency requirement is often not defined. For PQoS flows, there is typically a well-defined latency requirement. The longer time interval also reduces the peak rate of a PQoS flow, so that more flows can be admitted into the PQoS bandwidth (which is up to 80% of the total network bandwidth). The inclusion of the latency parameter can therefore help the layer-2 maximize the packet aggregation efficiency.」
(訳)
「【0089】
媒体アクセス制御(MAC)層の効率を高めるために、パケット集約が用いられる。MoCA1.1として知られている業界標準において、便宜的パケット集約が用いられる。すなわち、MoCAネットワーク内で予約要求をする機会が送信ノードに与えられると、送信ノードは、送信に利用可能なパケット数(すなわち、その送信バッファ内のパケット数)を検査し、送信の前にできる限り多くのパケットを集約する(組み合わせる)。集約されたパケットは、「集約ID」に関連付けられる。この集約IDは、通常、宛先ノードと、集約されているパケットの優先度との組み合わせである。集約は、パケットの時間分布に応じて程度の差こそあれ、効率良く行われる。
【0090】
デジタルビデオレコーダ(DVR)からセットトップボックス(STB)に向かう4Mb/秒の、1.5kBのパケットサイズを有するSDフローでは、平均すると、3ミリ秒毎に1.5kBのパケットが一つあるだけである。20Mb/秒の高品位(HD)フローでは、平均すると、1ミリ秒当たり2.5kBのデータがあり、又は等価的に、3ミリ秒毎に1.5kBのパケットが5個ある。パケット集約を長い時間間隔にわたって行う場合、どのようにより効果的に行うことができるかを、この例は示す。長い時間間隔は、トラフィックについてのより長いレイテンシを意味する。非PQoSトラフィックについて、多くの場合、トラフィックレイテンシ制約は定義されない。PQoSフローについて、通常、明確に定義されたレイテンシ制約が存在する。また、時間間隔がより長いと、PQoSフローのピークレートが減るので、より多くのフローをPQoS帯域幅に対してアドミットすることができる(これは、総ネットワーク帯域幅の80%までである。)。したがって、レイテンシパラメータを含めることで、レイヤ2によるパケット集約効率の最大化を補助することができる。」
とあるとおり、当業者が普通に考慮することであるから、この点に格別の点はない。

(ク-2)
補正後発明の構成要件(F)の「前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化すること」の記載について、「1つまたは複数」の数に格別の意味はないとした点について、上記記載に意味があるとした場合について以下で検討する。
刊行物1の記載(【0036】-【0045】)によれば、マクロブロックごとに符号化を行い、符号化された画像信号の符号量を順次加算し、実パケットサイズN1を超えない範囲で1つのパケットとしてしているから、「前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つの媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化すること」が開示されている。
また、刊行物1の【0053】、【0054】には、1つのマクロブロックMB64の符号化データ量が非常に大きく、パケットサイズからスライスヘッダサイズを引いた値より大きかった場合、一つのマクロブロックを複数のパケットに分割して格納することが開示されているから、「前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化すること」も開示されており、これは、一つのマクロブロックのデータ量に応じて適宜変更されうるのであるから、仮に上記構成要件(F)の「1つまたは複数」に意味があるとしても、当該構成は刊行物1に記載されている。

(ク-3)上申書について
請求人は上申書(平成27年3月30日付け)において、補正案を提示しているので,この点についての見解を述べる。
補正案による補正事項は、補正後発明の構成要件(B)の記載を
「ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、ここにおいて、前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される、ここにおいて、前記MAC効率目的はシンクデバイスに送られるディスプレイデータの量がメッセージングオーバーヘッドと比較して十分に大きいことを保証するように確立され、前記レイテンシ目的は、レイテンシが許容量を超えないことを保証するように設定される」
の記載とするものである。
しかしながら、上記のように補正したとしても、「前記スライス寸法は、少なくとも媒体アクセス制御(MAC)効率目的とレイテンシ目的とのうちの1つに基づいて選択される」の記載であるから、上記(エ-2)のように「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」について検討すればよく、また、上記「媒体アクセス制御(MAC)効率目的」について、「前記MAC効率目的はシンクデバイスに送られるディスプレイデータの量がメッセージングオーバーヘッドと比較して十分に大きいことを保証するように確立され」の限定事項を付加しても、刊行物1の目的「符号化部2で上記スライス終了信号Fを受けてスライス終端処理を行うことで、算出したパケットサイズ以下の範囲で最大のスライス長で符号化することにより、パケット内に格納できる画像データの符号量をより多くする」からみて、補正案に係る請求項の発明は当業者が容易になしえたものであることに相違はない。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年10月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし24に係る発明は、平成26年5月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし24に係る発明のとおりであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年5月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
ワイヤレス通信のための方法であって、
ソースデバイスがビデオフレームをスライスに分割するためのスライス寸法を選択することと、
前記ソースデバイスが、前記選択されたスライス寸法に基づいて前記ビデオフレームをスライスに分割することと、
前記ソースデバイスが、前記スライスの処理をパイプライン化することと、
前記ソースデバイスが前記処理パイプラインの第2の段階から前記ビデオフレームの第2の、前に符号化されたスライスを送信しながら、前記処理パイプライン中で前記ビデオフレームの第1のスライスを符号化することと、
前記ソースデバイスが送信より前に符号化出力を1つまたは複数の媒体アクセス制御(MAC)データユニットとしてカプセル化することと、
前記ソースデバイスが複数の前記MACデータユニットをアグリゲートすることと、
前記ソースデバイスがアグリゲートされたMACデータユニットをディスプレイシンクに送信することとを備える、方法。

2.刊行物1の記載
審査官が拒絶の査定で引用した刊行物1には、上記第2 2.(2-3)(イ)(イ-1)に示したとおりの事項が記載されている。

3.刊行物1記載の発明
上記刊行物1には、上記第2 2.(2-3)(ウ)に示した、刊行物1発明が記載されている。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2 2.(2-3)(ア)で認定した補正後発明から、上記第2 2.(2-2)で検討した付加して限定する構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項の全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正後発明が上記第2 2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項2ないし24に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-30 
結審通知日 2015-11-04 
審決日 2015-11-19 
出願番号 特願2013-530351(P2013-530351)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 小池 正彦
渡邊 聡
発明の名称 ワイヤレスディスプレイのためのパイプラインスライシングのための方法および装置  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 野河 信久  
代理人 福原 淑弘  
代理人 砂川 克  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 峰 隆司  
代理人 井関 守三  
代理人 井上 正  

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