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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
管理番号 1313001
審判番号 不服2014-21292  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-22 
確定日 2016-03-31 
事件の表示 特願2008-268487号「IGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月28日出願公開、特開2009-112804号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成20年10月17日(特許法第41条に基づく優先権主張平成19年10月18日)の出願であって、平成25年5月1日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月8日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年2月25日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年7月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成26年10月22日に本件審判の請求と同時に手続補正がなされ、当審において平成27年10月27日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月28日に意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成27年12月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)

「【請求項1】
知覚神経を経皮的に刺激して生体内のIGF-1の産生を促進させる400nmから550nmまでの範囲内の波長を有し1ワット/m^(2)以上の強さを有する刺激光を発生する光発生手段(1)と、
前記光発生手段(1)で発生した前記刺激光を生体の外部から所定の部位に照射する照射手段(2)と、
前記刺激光の出力と、刺激光の出力に応じて変更される照射時間を制御する制御部(4)と、
を備えることを特徴とする、IGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項2】
さらに、生体内のIGF-1の産生を抑制する波長が600nm以上の抑制光を出力する抑制光発生手段を設け、
照射手段(2)から、前記刺激光と前記抑制光を同時に又は交互に生体に照射する交互照射手段を設けたことを特徴とする、請求項1に記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項3】
刺激効果を向上させ、生体の慣れを防止するため、前記の生体に照射する光を断続させるか又は光の強さを変化させるように制御する光強度制御手段を制御部(4)に備えたことを特徴とする、請求項1又は2に記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項4】
前記光発生手段(1)の光源に前記の特定の波長と強さの光を発生するLED(5)を1個又は複数個用いたことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項5】
前記光発生手段(1)の光源に前記の特定の波長と強さの光を含む多波長光を発生する多波長発光源を用いるとともに、前記多波長光の中から前記の特定の波長のと強さの光を取り出して前記刺激光としたことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項6】
前記照射手段から出力する前記刺激光の照射面積を、顔面や腰部などの広い面を前記刺激光で刺激できるように広くしたことを特徴とする、請求項1から5のいずれかの項に記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。
【請求項7】
前記照射手段から出力する前記刺激光の照射面積を小スポットにしたことを特徴とする、請求項1から5のいずれかの項に記載したIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置。」

2 当審の拒絶理由
当審において、平成27年10月27日付けで通知した拒絶の理由の概要は、図5の実施結果その他の本願明細書の記載を検討しても、本願発明に係る装置がIGF-1量増加作用を有することを客観的に確認することができないことから、当業者が発明の詳細な説明の記載から、本願発明の課題を解決できると認識することはできず、また、当業者が本願発明の課題を解決できると認識することを示すような技術常識が存在したものとも認められない。よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない、というものである(特許法第36条第6項第1号違反)。

3 当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)。
そこで、本願特許請求の範囲の記載が、上記規定に適合するか否かについて検討する。

(2)平成27年12月28日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)には、解決すべき課題に関する事項について、以下の記載がある。なお、下線は、当審で付したものである。

a.「本発明は、光刺激、特に青色光刺激によりインスリン様成長因子(以下『IGF-1』という)の体内の産生を促進する光刺激装置とその方法、及び、IGF-1が不足したときに生じる各種疾患の治療器とその治療法に関する。」(段落【0001】)

b.「IGF-1は、各種の疾患との関連が指摘され、これらの疾患の治療に有効であることが知られている。
しかし、生体内でIGF-1の産生を促進する方法及びその装置は存在しなかった。
本発明は、簡単に、安全に、しかも効果的にIGF-1の産生を促進する全く新規の方法及び装置を提示することを目的とする。」(段落【0016】)

c.「知覚神経を刺激するとIGF-1の産生を亢進させることができるという点に着目し、研究を重ねた結果、特定の光を生体に照射すると知覚神経を刺激し、IGF-1の産生を亢進させることができる、という医学的知見を得た。
本発明はこの新しい医学的知見に基づくものである。」(段落【0017】)

d.「このようにして産生したIGF-1は、前述のような、細胞分化増殖作用、アポトーシスの抑制作用、インスリン様作用、蛋白同化作用、血管拡張、創傷治癒促進作用、抗炎症作用、血管内皮細胞再生、免疫増強作用等の効果を発揮し、IGF-1の不足と関連する各種の疾患を治療することができる。」(段落【0018】)

e.「本発明はこのような発明者による最新の医学的知見をベースにして、知覚神経を刺激し効果的にIGF-1を産生させることができる実用的な光刺激装置、及びこれを用いた治療装置を提供するものである。」(段落【0019】)

f.「従来は、これらの疾患の治療は、成長ホルモンの投与か運動療法以外には無かった。従来法には副作用や治療の持続性等に大きな問題があったが、本発明により、治療可能となり、意義は大である。」(段落【0034】)

以上の記載によれば、本願発明1ないし7の課題は、青色光により知覚神経を刺激して、簡単に安全に効果的に体内でのIGF-1の産生を促進させて、IGF-1の不足と関連する各種の疾患を治療することができる、光刺激装置を提供することにあるものと認められる。

そして、ある装置が体内でのIGF-1の産生を促進させて、IGF-1の不足と関連する各種の疾患を治療するという課題を達成するためには、その装置が、当該疾患の治療に有意な程度までIGF-1量が増加する作用(以下、「IGF-1量増加作用」という。)を有している必要があることは明らかである。

そうすると、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本願発明1ないし7の課題を解決できると認識できるというためには、発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本願発明1ないし7に係る装置がIGF-1量増加作用を有すると認識できることが必要であることになる。

(3)しかしながら、以下に述べるとおり、本願明細書の記載によっては、本願発明1ないし7に係る装置がIGF-1量増加作用を有すると当業者が認識できるものとは認められない。

本願明細書及び図面には、IGF-1量増加作用に関する事項として、以下の記載がある。なお、下線は、当審で付したものである。

g.「IGF-1産生を促進させるための光による知覚神経刺激には、波長依存性があり、特定の波長の光用いると、効果的な知覚神経刺激が可能である。特定の光の波長は400?550nmで、特に、波長が450?500nmの青色光で顕著な効果を示す。
また、これには光の強さも関係し、IGF-1産生の促進効果は1ワット/m^(2)程度から現れ、50ワット/m^(2)程度で効果が明らかになり、100ワット/m^(2)程度で産生が強く促進される。
照射時間は、弱い刺激では長時間、強い刺激では短時間でよい。」(段落【0017】)

h.「請求項1記載の発明は知覚神経を経皮的に刺激して生体内のIGF-1の産生を促進させる400nmから550nmまでの範囲内の波長を有し1ワット/m^(2)以上の強さを有する刺激光を発生する光発生手段(1)と、
前記光発生手段(1)で発生した前記刺激光を生体の外部から所定の部位に照射する照射手段(2)と、
前記刺激光の出力と、刺激光の出力に応じて変更される照射時間を制御する制御部(4)と、
を備える青色光刺激装置である。」(段落【0019】)

i.「上記構成において、出力光の波長を400?550nmとし、さらに好ましくは、出力光の波長を450?500nmとした。
このようにすることで、請求項1記載のIGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置の刺激効果を確実に得ることができる。」(段落【0020】)

j.「また、照射手段(2)の出力光の波長を、上記の400?550nmの波長と、600nm以上の光の波長の2種類とし、これを交互に生体に照射するようにした。青色光は副交感神経を、赤外光は副交感神経活動を抑制し交換神経活動を優位にする。このため、青色と赤外の2つの光を交互に照射することで、副交感神経が刺激される期間と抑制される期間ができ、IGF-1の産生が、より促進される。」(段落【0021】)

k.「また、本発明において、刺激効果を向上させ、生体の慣れを防止するようにするため、生体に照射する光を断続させるか又は光の強さを変化させるよう制御する制御部(4)を設けることが好ましい。
一定強度の光で刺激を持続すると、生体の慣れが生じ、IGF-1の産生が低下する。光を断続したり強度を変化させると、慣れを防止できる。」(段落【0023】)

l.「光発生手段の光源としては、特定の波長と強さの光を発生するLED5を用い、これを1個又は複数個用いて上記の光強度になるようにして、照射するようにすることができる。
LEDは、所望の波長の光を正確に出すことができ、このため波長を制限するフィルタを必要とせず、発光エネルギーが少なくて済み、簡単な構成で装置を実現できるという特長を有する。」(段落【0024】)

m.「また、光源としては、青色光成分を有する蛍光灯やハロゲンランプなどを用いることも可能であり、この光の中から特定の波長の光を取り出すとともに、上記の光の強さになるようにして、生体に照射するようにすることもできる。
必要な波長帯の光を取り出すためのフィルタが必要になる等、やや複雑な構成になるが、光源が安価であるため、装置全体は安価になるという特徴を有する。」(段落【0025】)

n.「本発明において、光発生手段からの光は顔面や腰部などの広い面を刺激できる程度に広い照射面積としてもよく、本発明では、前述のように、照射部の局所反応としてのIGF-1産生と、中枢を介する下降路系の全身反応によるIGF-1産生の和として、効果が発揮される。」(段落【0026】)

o.「照射面積を小スポットにして局所を刺激するようにしてもよい。照射面を狭く絞ると、エネルギーを集中させて強い刺激をおこなうことができる。知覚神経の刺激では、刺激強度を強くするほど強い刺激効果が得られるので、短時間で高い治療効果を得るのに有用である。
・・・本請求項記載の装置を使用すると、ツボや反射点を効果的に刺激できる。
さらに、反射点の刺激に青色光を用いることで、従来の反射点刺激療法とIGF-1増加による治療を相乗的におこなうことができる。」(段落【0027】)

p.「最近の研究で、特定の光を生体に照射すると、知覚神経が刺激され、IGF-1の産生が亢進することを発見した。・・・
知覚神経を刺激してIGF-1産生を促進する光の波長は400?550nmで、特に450?500nmの青色光が適している。
この現象には光の強さも関与する。知覚神経を刺激してIGF-1産生を促進するには、1ワット/m^(2)以上の強さが必要である、数マワット/m^(2)以上である程度の効果的な刺激が可能で、100ワット/m^(2)以上の光で顕著となる。この領域では、光の強さが強くなるに連れて、IGF-1の放出量も増える。」(段落【0030】)

q.「実際にこの特定の光を生体の皮膚表面に照射したときには、照射部近傍の知覚神経が刺激され、局所反応により、照射部近傍のIGF-1が増加する。
一方、知覚神経が刺激されると、その信号は神経を伝達して中枢に伝達され、さらに視床、視床下部、延髄と伝えられて迷走神経を刺激し、全身の末梢組織のIGF-1産生を促進する。
その結果、照射部近傍では、局所反応と全身反応を合わせて大量のIGF-1が産生される。このようにして産生したIGF-1は、前述のような、細胞分化増殖作用、アポトーシスの抑制作用、インスリン様作用、蛋白同化作用、血管拡張、創傷治癒促進作用、抗炎症作用、血管内皮細胞再生、免疫増強作用等の効果を発揮し、IGF-1の不足と関連する各種の疾患を治療することができる。」(段落【0032】)

r.「図1の装置を用いて、ある時間、皮膚の表面を照射すると、知覚神経が刺激され、照射部近傍の組織でIGF-1が産生され、その量が増加する。
一方、知覚神経が刺激されると、その信号は神経を伝達して中枢に伝えられ、この信号はさらに視床、視床下部、延髄と伝えられて迷走神経を刺激し、全身の末梢組織のIGF-1産生を促進する。」(段落【0036】)

s.「知覚神経の光刺激には光の波長依存性が存在する。光で知覚神経を刺激して効果的にIGF-1を産生するには特定の波長が存在する。これには波長が400?550nmの光が適しており、特に波長が450?500nmの青色光が顕著な刺激効果を示すことを確認している。」(段落【0037】)

t.「生体に照射する光は上記の波長400?550nmの光と、600nm以上の光の2種類とし、両者を交互の生体に照射するようにしている。この出力は、青色光源と赤外線光源とを備え、制御部で両光源の電源を制御して、交互に駆動するようにすることで実現できる。
・・・青色光と赤外光を交互に照射すると、副交感神経を活性化させたり休止させたりするため、長時間の刺激が可能であり、慣れによるIGF-1産生の低下を防止することができる。」(段落【0038】)

u.「波長とともに重要な要素は光の強さであり、これによってIGF-1の産生量が規定される。
光の強さは、光源に供給する電力を制御することで、変化させることができる。光源を複数個設け、使用する光源の数を選択することでも、光の強さを変化させることができる。
知覚神経を刺激するのに適した上記の波長400?550nmの光で刺激すると、光の強さが刺激閾値以下では知覚神経を刺激できず、1ワット/m^(2)程度を超えるとIGF-1の産生が認められるようになり、50ワット/m^(2)程度で効果が明らかになり、100ワット/m^(2)程度で産生が強く促進される。
効果を発揮するのに十分な量のIGF-1を得るには、照射時間も重要である。照射時間を長くするとIGF-1の全産生量は増加する。このため、照射時間は、弱い刺激では長時間、強い刺激では短時間でよい。」(段落【0039】)

v.「生体に照射する光は、断続させるか又は強度を変化させて生体の慣れを防止するようにすることができる。これは、光発生手段に使用するランプやLEDの電源をオンオフしたり強さを変化させたりして実現できる。
さらに、青色光源と赤外線光源とを切り替え照射すると、生体の慣れは更に少なくなり、持続してIGF-1の産生を促進することができる。
光発生手段1としては、LEDを用い、これを1個又は複数個用いて上記の光強度とし、この光を生体に照射して生体内のIGF-1の産生を増加させるようにした。」(段落【0041】)

w.「本発明の黄疸治療では、知覚神経を刺激して局所で又は全身性にIGF-1を増やして、肝臓のアポトーシスを抑制し、肝機能を向上させ、肝臓のビリルビン分解を促進して、黄疸の治療をおこなうものである。
・・・図5は、新生児黄疸の症例に本発明の青色光を24時間照射したときの、照射前後の血中IGF-I濃度である。青色光照射で、IGF-Iが有意に増加しており、肝機能が向上し、黄疸が軽快し、中枢等の神経障害は認められなかった。」(段落【0047】)


(3-1)図5の実験以外の記載について(上記g?v)
(ア)本願発明1
本願発明1については、本願明細書に上記g?i、p?s、及びuの記載がある。上記記載事項によれば、本願発明1は、特定の波長で特定の強さを有する刺激光を生体外部の所定部位に所定時間だけ照射する構成を採用することにより、IGF-1の体内産生を促進するという効果を意図したものであると認識することはできる。
しかしながら、IGF-1量増加作用に関しては、上記記載事項には、「IGF-1の放出量も増える」(上記p)、「IGF-1が産生され、その量が増加する」(上記r)、「顕著な刺激効果を示すことを確認している」(上記s)といった抽象的な記述があるにとどまり、本願発明1がIGF-1量増加作用を有することを示す具体的根拠ないし実験結果は何ら見当たらない。
よって、上記記載事項から、本願発明1がIGF-1量増加作用を有すると認識することはできない。

(イ)本願発明2及び3
本願明細書には、本願発明2について上記j及びtの記載が、本願発明3について上記k及びvの記載がそれぞれある。上記記載事項によれば、本願発明2及び3は、上記(ア)で示した効果に加えて、IGF-1の産生をより促進し、慣れによるIGF-1産生の低下を防止するという効果を意図したものであると認識することはできる。
しかしながら、IGF-1量増加作用に関しては、上記記載事項に、本願発明2及び3がIGF-1量増加作用を有することを示す具体的根拠ないし実験結果が何ら見当たらないのは、本願発明1と同様である。
よって、上記記載事項から、本願発明2及び3がIGF-1量増加作用を有すると認識することはできない。

(ウ)本願発明4?7
本願明細書には、本願発明4について上記lが、本願発明5について上記mが、本願発明6について上記nが、本願発明7について上記oがそれぞれある。上記記載事項によれば、本願発明4?7は、上記(ア)で示した効果に加えて、それぞれ上記l?oに記載されたいずれかの効果を意図したものであると認識することはできる。
しかしながら、IGF-1量増加作用に関しては、上記記載事項に、本願発明4?7がIGF-1量増加作用を有することを示す具体的根拠ないし実験結果が何ら見当たらないのは、本願発明1?3と同様である。
よって、上記記載事項から、本願発明4?7がIGF-1量増加作用を有すると認識することはできない。

(3-2)図5の実験について(上記w.)
上記wのとおり、図5は、「新生児黄疸の症例に本発明の青色光を24時間照射したときの、照射前後の血中IGF-I濃度」を示したものであると記載されている。ここで、上記wには、照射時間以外の実験条件が明記されていないところ、審判請求書の記載も参酌すると、図5の実験は、400?550nmの波長で1ワット/m^(2)以上の強さの条件で行ったものであって、本願発明1に係る装置によるものと一応理解することができる。

そこで、本願発明1に係る装置がIGF-1量増加作用を有するか否かを評価するため、図5の内容を以下に検討する。

図5をみると、図は不鮮明ではあるものの、縦軸については、かろうじて「Serum IGF-1 levels(ng/ml)」という文字と、「0」から「50」までの数字を読み取ることができ、横軸については、「Pre」、「Post」及び「(n=27)」の文字を読み取ることができる。ここで、「(n=27)」については、明示的な説明はないが、技術常識を踏まえると、個体数又はサンプル数を表しているものと認められる。
また、図5に示されたグラフは、「右肩上がり」、「右肩下がり」、「概ね水平」の3種類に分類される複数の直線を示したものである。直線の数は、図が不鮮明で判別不能であるが、横軸の「(n=27)」からすると、27本であると認められる。グラフ中にある「p<0.002」は、標本間に差があるという結果(実際に観察された結果)から、各々の標本に対応する母集団間に差があること(仮説)を導くことが誤りである確率(実際に観察された結果が誤差である確率)が0.2%以下であることを意味するものであると認められる。

図5の上記記載を上記wの記載と併せて検討すると、図5から、以下の事項を読み取ることができる。
(w-1)新生児黄疸の症例では、青色光照射前、血中IGF-1濃度が概ね5?40ng/mlの範囲でデータがばらついていること。
(w-2)青色光照射後の血中IGF-1濃度は、「増加(右肩上がり)」、「減少(右肩下がり)」、「変化なし(概ね水平)」の3つのパターンに分類され、3つのパターンの間に、個体数又はサンプル数において有意な差は認められないこと。
(w-3)血中IGF-1濃度が増加するグラフについては、傾きが「急なもの」と「緩やかなもの」があるが、個体数又はサンプル数において有意な差は認められないこと。
(w-4)肝機能が向上し黄疸が改善するために必要となる血中IGF-1濃度のレベルは示されていないこと。

上記(w-1)?(w-4)によれば、図5の実験結果からいえることは、新生児黄疸の症例において、青色光を照射したとしても、血中IGF-1濃度が増加する場合もあれば、減少する場合やほとんど変化しない場合もあり、一概に黄疸改善の効果があるということはできないことである。
この点、上記wには、「青色光照射で、IGF-Iが有意に増加しており、肝機能が向上し、黄疸が軽快し、中枢等の神経障害は認められなかった」とあるが、図5の実験結果から、かかる事実を客観的に確認することができないのは、上記のとおりである。

これに対して、請求人は、平成27年12月28日付け意見書において、図5の実験における照射前後の血中IGF-1濃度は、グラフの傾きを確認すると、具体的に概ね増加したサンプル数が17、減少したサンプル数が7、ほとんど変化がみられなかったサンプル数が3であることが判別可能であり、少なくとも6割以上のサンプルについて血中IGF-1濃度が増加している結果が認識可能である旨主張している。しかしながら、図5の実験における血中IGF-1濃度の具体的数値を示す場合は格別、そのような具体的数値を何ら示すことなく、図5の不鮮明なグラフに基づいて6割以上のサンプルについて血中IGF-1濃度が増加していると主張しても、その主張が客観的なものであるとは言い難い。したがって、請求人の主張は失当である。
また、請求人は、同意見書において、グラフ中にある「p<0.002」の記載に基づいて、図5の実験結果は、広く一般的なサンプルに対して、同様の刺激光の照射前後でIGF-1の増加作用がみられることは十分に説明されており、上記(w-2)及び(w-3)については理由がない旨主張している。しかしながら、「p<0.002」の記載は、上記のとおり、標本において実際に観察された結果が誤差である確率が0.2%以下であることを意味するものである(同意見書「(d)IGF-1量増加作用について」の「グラフ中にある『p<0.002』は・・・を意味している」の記載も参照のこと)。かかる記載に基づいて、図5の実験結果を標本に対応する母集団にまで敷衍することが正しいとしても、かかる記載が図5のグラフから読み取ることができる事項の認定を左右することにはならないのであるから、請求人の主張は失当である。
また、請求人は、同意見書において、生体内における血中IGF-1濃度をはじめ、生体内とりわけ血液内に存在する各種成分の含有量に個体差があることは当然のことである、むしろ、この種々の濃度レベルのばらつきは種々の濃度レベルのサンプルに対しても刺激光照射によって概ね血中IGF-1の増加傾向が認められることを示すものであり、上記(w-1)は理由がない旨主張している。しかしながら、個体差によりある程度ばらつきが生じることは請求人の主張するとおりであるとしても、ばらつきが大きすぎるために、血中IGF-1濃度の「増加傾向」を認めることはできない(上記(w-2)参照)。したがって、請求人の主張は失当である。
さらに、請求人は、同意見書において、本願発明は、IGF-1を体内産生させるための光刺激装置に関するものであり、ある特定の疾病の治療を行うための光治療機ではなく、図5において、青色光照射でIGF-1が有意に増加していることが説明されていれば、サポート要件としては必要十分であり、上記(w-4)については理由がない旨主張している。しかしながら、請求人の主張は、本願発明の装置が体内でのIGF-1の産生を促進させて、IGF-1の不足と関連する各種の疾患を治療するという課題を達成するためのものであるという、上記(2)の認定や本願明細書の記載との整合を欠くものであり、失当である。

したがって、図5の記載及びそれに関する本願明細書の記載から、本願発明1に係る装置がIGF-1量増加作用を有することを客観的に確認することができない。

(4)以上のとおり、図5の実験結果及びその他の本願明細書の記載を検討しても、本願発明1ないし7に係る装置がIGF-1量増加作用を有することを客観的に確認することができないことから、本願の発明の詳細な説明の記載を総合しても、当業者が発明の詳細な説明の記載から、本願発明1ないし7の課題を解決できると認識することはできないものと認められる。また、当業者が優先権主張日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できることを示すような技術常識が存在したものとも認められない。
よって、本願特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件を満たしていない。すなわち、本願発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-20 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-17 
出願番号 特願2008-268487(P2008-268487)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥小宮 寛之  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 平瀬 知明
関谷 一夫
発明の名称 IGF-1の体内産生を促進する青色光刺激装置  
代理人 中塚 雅也  
代理人 中塚 雅也  

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