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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1313047
審判番号 不服2013-24212  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-09 
確定日 2016-04-01 
事件の表示 特願2009-274526「X線走査システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月 4日出願公開,特開2010- 48829〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成18年12月15日(パリ条約による優先権主張日 平成17年12月16日,英国)を国際出願日として出願した特願2008-545089号の一部を平成21年12月2日に新たな特許出願としたものであって,平成25年8月5日付けで拒絶査定されたのに対し,同年12月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正がなされ,そして,当審において平成27年3月6日付けで拒絶理由を通知し,これに対し,同年9月9日付けで意見書及び手続補正書が請求人より提出されたものである。
そして,本願の請求項1?13に係る発明は,平成27年9月9日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
走査装置と処理手段を有するX線走査システムであって、
前記走査装置は、複数のX線源ユニットが走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて配置されるX線放射源を有し、
前記複数のX線源ユニットの各々は、異なる物質からなる2つのターゲット領域とエミッタ素子とを有し、前記エミッタ素子は、前記2つのターゲット領域の一方に向けられる電子ビームを生成するように起動され、
前記電子ビームは、前記2つのターゲット領域の間で切り替えられて、前記走査容積を通過するエネルギスペクトルの異なるX線を生成し、
前記走査装置は、さらに、前記ターゲット領域の各々からの前記X線を検出して2つの画像データセットを生成するように構成される検出器を有し、
前記走査装置は対象物の複数の領域を走査するように構成され、
前記処理手段は、複数の断層撮影画像データのセットを生成するために、前記検出器からの信号を処理し、前記処理は前記2つの画像データセットの合成を含み、前記断層撮影画像データのセットを合成して前記対象物の3次元画像を生成するように構成されていることを特徴とするX線走査システム。」

第2 当審の拒絶理由
当審において平成27年3月6日付けで通知した拒絶の理由は,理由1として,本件出願は,特許請求の範囲の記載が不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない,理由2として,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない,理由3として,本件出願の請求項1?13に係る発明は,その優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを通知したものである。
そのうち,理由3は,下記の刊行物を提示した上で,
・国際公開2004/097386号(以下「引用例1」という。)
・特開昭54-27793号公報(以下「引用例2」という。)
・特開昭61-4193号公報(以下「引用例3」という。)
・特開2001-351551号公報(以下「引用例4」という。)
・特開2002-195961号公報(以下「引用例5」という。)
・特表2002-503816号公報(以下「引用例6」という。)
引用例1には,いわゆるデュアルエネルギースキャン方式について記載されていないが,デュアルエネルギースキャン方式は優先日前に周知技術であり,引用例1に記載された発明は,具体的には不審物のセキュリティチェック等に使用するもので,不審物の発見のために画質の向上は当然に必要とされるものであるから,引用例1に記載された発明において,デュアルエネルギースキャン方式を採用することは当業者が容易になし得たことである旨をその概要とするものである。

第3 引用例及びその記載事項
1 引用例1について
(1)引用例1の記載事項
上記引用例1には,次の事項が記載されている。なお,日本語訳については特表2006-524809号公報を参照しており,引用発明の認定に関連する箇所の訳部分に下線を付与した。
(1-ア)
「The present invention relates to X-ray scanning in which X-rays are directed through an object from a number of positions around the object and the X-rays transmitted through the object are detected and used to build up an image of the object. This type of scanning is referred to as computed tomography (CT) scanning.」(1頁3?7行)
(訳:本発明は、X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され、対象物を透過したX線を検出及び使用して対象物の画像を形成するX線走査に関する。このタイプの走査は、コンピュータ断層撮影(CT)走査と呼ばれる。)

(1-イ)
「As the use of X-ray scanners, for example in security applications, increases, there is an increasing demand for scanners which operate quickly and which have a long lifetime.
Accordingly the present invention provides an X-ray imaging apparatus comprising X-ray production means arranged to produce X-rays from a plurality of source positions spaced around an object location and spaced from each other by a source spacing, a plurality of X-ray sensors arranged to be spaced around the object position so as to detect X-rays emitted from the source positions and passing through the object position, and control means arranged to control the order in which the source positions are active such that the average smallest displacement between an active source position in one emission period and an active source position in the subsequent period is greater than the source spacing.」(1頁16?29行)
(訳:例えばセキュリティ用途でのX線スキャナの使用が多くなるにつれて、迅速に動作し、寿命が長いスキャナに対する需要が高まっている。
したがって、本発明は、対象物の場所の周りで離間しているとともに或る線源間隔で互いに離間している複数の線源位置からX線を発生するように配置されるX線発生手段と、線源位置から放射されて対象物の位置を通過するX線を検出するように対象物の位置の周りで離間しているように配置される複数のX線センサと、1つの放射期間のアクティブな線源位置と次の期間のアクティブな線源位置との間の平均最小変位が線源間隔よりも大きくなるように線源位置がアクティブになる順序を制御するように配置される制御手段と、を備えるX線画像形成装置を提供している。)

(1-ウ)
「The source 10 is enclosed in a housing 24 of an emitter unit 25 with the former 12 being supported on the base 24a of the housing. The focusing wires 22 are supported on two support rails 26a, 26b which extend parallel to the emitter element 18, and are spaced from the former 12, the support rails being mounted on the base 24a of the housing. The support rails 26a, 26b are electrically conducting so that all of the focusing wires 22 are electrically connected together. One of the support rails 26a is connected to a connector 28 which projects through the base 24a of the housing to provide an electrical connection for the focusing wires 22. Each of the grid wires 20 extends down one side 16 of the former and is connected to a respective electrical connector 30 which provide separate electrical connections for each of the grid wires 20.
An anode 32 is supported between the side walls 24b, 24c of the housing. The anode extends parallel to the emitter element 18. The grid and focusing wires 20, 22 therefore extend between the emitter element 18 and the anode 32. An electrical connector 34 to the anode extends through the side wall 24b of the housing.
The emitter element 18 is supported in the ends of the former and is heated by means of an electric current supplied to it via further connectors 36, 38 in the housing. In order to produce a beam of electrons from one position, a pair of adjacent grid wires 20 can be connected to an extracting potential which is positive with respect to the element 18 while the remaining grid wires are connected to a blocking potential which is negative with respect to the element 18. By selecting which pair of wires 20 is used to extract electrons, the position of the beam of electrons can be chosen. As the X- rays will be emitted from the anode 32 at a point where the electrons strike it, the position of the X-ray source can also be chosen by choosing the extracting pair of grid wires. The focusing elements 22 are all kept at a positive potential with respect to the grid wires 20 so that electrons extracted between any pair of the grid wires will also pass between, and be focussed by, a corresponding pair of focusing elements 22.
Referring to Figure 2, an X-ray scanner 50 is set up in a conventional geometry and comprises an array of emitter units 25 arranged in an arc around a central scanner axis X, and orientated so as to emit X-rays towards the scanner axis X. A ring of sensors 52 is placed inside the emitters, directed inwards towards the scanner axis. The sensors 52 and emitter units 25 are offset from each other along the axis X so that X-rays emitted from the emitter units pass by the sensors nearest to them, through the object, and are detected by a number of sensors furthest from them. The number of sensors 52 that will detect X-rays from each source depends on the width of the fan of X-rays that is emitted from each source position in the tubes 25. The scanner is controlled by a control system which operates a number of functions represented by functional blocks in Figure 5. A system control block 54 controls, and receives data from, an image display unit 56, an X-ray tube control block 58 and an image reconstruction block 60. The X-ray tube control block 58 controls a focus control block 62 which controls the potentials of the focus wires 22 in each of the emitter units 25, a grid control block 64 which controls the potential of the individual grid wires 20 in each emitter unit 25, and a high voltage supply 68 which provides the power to the anode 32 of each of the emitter blocks and the power to the emitter elements 18. The image reconstruction block 60 controls and receives data from a sensor control block 70 which in turn controls and receives data from the sensors 52.
In operation, an object to be scanned is passed along the axis X, and X- ray beams are directed through the object from the X-ray tubes 25. In each scanning cycle each source position in each tube 25 is used once, the scanning cycle being repeated as the object moves along the axis X.」(4頁10行?6頁10行)
(訳:線源10は、エミッタユニット25のハウジング24に囲まれ、フォーマ12がハウジングのベース24a上に支持される。集束ワイヤ22は、2つの支持レール26a、26bに支持され、支持レール26a、26bは、エミッタ素子18と平行に延び、フォーマ12から離間しており、ハウジングのベース24a上に取り付けられている。支持レール26a、26bは、電気的に導通しているため、集束ワイヤ22の全てが互いに電気的に接続される。支持レール26aの一端は、ハウジングのベース24aから突出して集束ワイヤ22のための電気的接続部を提供するコネクタ28に接続される。グリッドワイヤ20はそれぞれ、フォーマの一方の側部16に沿って下方に延び、グリッドワイヤ20それぞれに個別の電気接続部を提供する各電気コネクタ30に接続される。
アノード32が、ハウジングの側壁24bと24cとの間に支持される。アノードは、エミッタ素子18と平行に延びる。したがって、グリッドワイヤ20及び集束ワイヤ22は、エミッタ素子18とアノード32との間に延びる。アノードに対する電気コネクタ34が、ハウジングの側壁24bから延びる。
エミッタ素子18は、フォーマの両端に支持され、ハウジングのさらなるコネクタ36、38を介して供給される電流により加熱される。
1つの位置から電子ビームを発生させるために、一対の隣接するグリッドワイヤ20を、素子18に対して正の引き出し電位に接続することができ、残りのグリッドワイヤは素子18に対して負の阻止電位に接続される。電子を引き出すために使用するワイヤ20の対を選択することにより、電子ビームの位置を選択することができる。X線は、電子が衝突する位置でアノード32から放射されるため、X線源の位置も、引き出しに使用するグリッドワイヤの対を選択することにより選択することができる。集束素子22は全て、グリッドワイヤ20に対して正の電位で維持されるため、グリッドワイヤの任意の対間で引き出された電子はまた、それに対応する集束素子22の対間を通過し、且つその対により集束される。
図2を参照すると、X線スキャナ50が従来の形状で設置され、中心スキャナ軸Xの回りに弧状に配置されるとともにスキャナ軸Xに向けてX線を放射するような向きのエミッタユニット25のアレイを備える。センサ52の輪が、スキャナ軸に向かって内方を向いて、エミッタの内側に配置される。センサ52及びエミッタユニット25は、軸Xに沿って互いにオフセットしているため、エミッタユニットから放射されるX線は、そのエミッタユニットから最も近いセンサを通って対象物を通過し、そのエミッタユニットから最も遠い複数のセンサにより検出される。各線源から放射されるX線を検出するセンサ52の数は、管25の各線源位置から放射されるX線のファン(fan:扇形)の幅に応じて変わる。スキャナは、図5の機能ブロックにより表される複数の機能を実行する制御システムにより制御される。システム制御ブロック54は、画像表示ユニット56、X線管制御ブロック58、及び画像再構成ブロック60を制御し、これらからデータを受け取る。X線管制御ブロック58は、エミッタユニット25それぞれの集束ワイヤ22の電位を制御する集束制御ブロック62と、エミッタユニット25それぞれの個々のグリッドワイヤ20の電位を制御するグリッド制御ブロック64と、エミッタブロックそれぞれのアノード32への電力及びエミッタ素子18への電力を供給する高電圧供給源68とを制御する。画像再構成ブロック60は、センサ制御ブロック70を制御してそこからデータを受け取り、センサ制御ブロック70はさらに、センサ52を制御してそこからデータを受け取る。
動作時には、走査すべき対象物を軸Xに沿って通過させ、X線ビームをX線管25から対象物に通す。各走査サイクルにおいて、各管25の各線源位置が一度使用され、走査サイクルは、対象物が軸Xに沿って移動するごとに繰り返される。」

(1-エ)Fig.1,Fig.2として,以下の図面が記載されている。


(2)引用発明
ア 上記摘記事項における「エミッタユニット」と「X線管」は,ともに図面における参照番号が「25」であることから同じものであり,それらは「X線発生手段」である。してがって,下記の引用発明においては「X線管」を「エミッタユニット」と記載している。
イ 上記摘記事項における「X線」と「X線ビーム」,「センサ」と「X線センサ」は同じものであるから,下記の引用発明においては「X線ビーム」を「X線」,「センサ」を「X線センサ」と記載している。
ウ 上記摘記(1-エ)のFig.1には,エミッタユニット(25)がエミッタ素子(18)及びアノード(32)を備えていることが図示されている。
エ 上記摘記(1-エ)のFig.2には,エミッタユニット(25)が,走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて複数配置されるていることが図示されている。
オ 上記摘記事項(1-イ)における「線源位置がアクティブになる順序を制御するように配置される制御手段」は,摘記(1-ウ)における「X線管制御ブロック」に含まれるものである。

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され,対象物を透過したX線を検出及び使用して対象物の画像を形成するコンピュータ断層撮影(CT)装置において,
対象物の場所の周りで離間しているとともに或る線源間隔で互いに離間している複数の線源位置からX線を発生するように配置されるX線発生手段と,線源位置から放射されて対象物の位置を通過するX線を検出するように対象物の位置の周りで離間しているように配置される複数のX線センサと,1つの放射期間のアクティブな線源位置と次の期間のアクティブな線源位置との間の平均最小変位が線源間隔よりも大きくなるように線源位置がアクティブになる順序を制御するように配置される制御手段と,を備えるものであって,
上記X線発生手段であるエミッタユニットは,走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて複数配置されており,
エミッタユニットはエミッタ素子及びアノードを備え,そのエミッタ素子の1つの位置から電子ビームを発生させ,電子ビームの位置を選択することができ,X線は,電子が衝突する位置でアノードから放射されるため,X線源の位置も,引き出しに使用するグリッドワイヤの対を選択することにより選択することができ,
システム制御ブロックは,画像表示ユニット、上記制御手段を含むX線管制御ブロック,及び画像再構成ブロックを制御し,その画像再構成ブロックは,X線センサ制御ブロックを制御してそこからデータを受け取り,X線センサ制御ブロックはさらに、X線センサを制御してそこからデータを受け取るもので,
動作時には,走査すべき対象物を軸Xに沿って通過させ,X線をエミッタユニットから対象物に通し,各走査サイクルにおいて,各エミッタユニットの各線源位置が一度使用され,走査サイクルは,対象物が軸Xに沿って移動するごとに繰り返される,
コンピュータ断層撮影(CT)装置。」(以下「引用発明」という。)

2 引用例2について
上記引用例2には,次の事項が記載されている。
(2-ア)
「本発明は、被検体について多方向からの放射線投影を行ない、得られた放射線投影データに基いて前記被検体の断層像を再構成するコンピユータ断層法(Computerized Tomography)を用いたX線断層診断装置(以下「CT装置」と略称する)に関するものである。」(2頁左上欄7?12行)
(2-イ)
「本発明は、このような事情に基いてなされたもので、X線吸収係数μの測定精度を向上することかでき、高精度、高品質の再構成画像を得ることを可能とするCT装置を提供することを目的としている。
すなわち、本発明の特徴とするところは、複数種の異なる陽極材料を使用したX線管装置により異なる複数種の特性X線を発生せしめ、検出器により得られる検出信号を上記各特性X線に対応して弁別して各特性X線についての投影データおよびこれらの相互の関係に基いて画像再構成を行なうことにある。」(2頁右上欄15行?左下欄6行)
(2-ウ)
「また、第5図に示すように、第2図(a)、(b)と同様の構成をなす回転陽極10に対し、陰極12を単一のフィラメント12a及びグリツト12bにより構成し、グリツド12bに制御信号を与えることによつて焦点軌道を適宜切換えてX線X_(1)、X_(2)を発生させることもできる。」(3頁左下欄16行?右下欄1行)
(2-エ)
「以上述べたように、本発明によれば枚数の陽極材料による複数種の特性X線を用いて、それぞれについてX線断層像を再構成するための投影データを得るようにすることにより、高精度の再構成画像が得られる」(3頁右下欄7?11行)

3 引用例5について
上記引用例5には,次の事項が記載されている。
「【0014】・・・この映像記憶部43では、複数のフレーム分の画像を個別に記憶することができ、制御部41からの指令に基づき、銅パターン13bに電子線を照射することにより発生したX線を用いて得た試料WのX線透過像と、タングステンパターン13cに電子線を照射することにより発生したX線を用いて得た同じ試料WのX線透過像をそれぞれ個別に記憶する。
【0015】差分演算部44は、制御部41からの指令に基づき、映像記憶部43に記憶されている上記した同じ試料Wの異なるX線による2種のX線透過像の、互いに対応する各画素の濃淡情報の差を算出して、画像処理部45に供給する。画像処理部45では、差分演算後の画素情報を用いて試料WのX線透過像を構築し、表示器46の画面上に表示する。」

4 引用例6について
上記引用例には,次の事項が記載されている。
(4-ア)
「【発明の分野】
本発明は概ねコンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、特にCT技術を使用する手荷物走査システムの標的検出装置および方法に関する。
【0028】
【発明の背景】
手荷物を商用飛行機に搭載する前に荷物または旅行用携行品内に爆発物および他の禁止品目が存在するか検出するため、種々のX線手荷物走査システムが知られている。」
(4-イ)
「【0071】
本発明は、前述した利点に加え、前述した先行するシステムに対して実質上の利点を提供する。例えば、本発明のシステムは、バッグの完全なCT走査を提供し、したがってバッグの完全な3次元画像データを分析することができる。」
(4-ウ)
「【0100】
本明細書を通して、「3次元画像」という用途およびC(i,j,k)という記号は、1組のCTスライス画像を表すのに使用される。」

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,以下のとおりである。
(1)本願発明の「走査装置」は「X線放射源を有し」「検出器を有」するものであり,「X線走査システム」は「走査装置と処理手段を有する」ものである。
一方,引用発明の「X線発生手段」,「X線センサ」は,各々本願発明の「X線放射源」,「検出器」に相当するから,引用発明の「X線発生手段」及び「X線センサ」は,本願発明の「走査装置」に相当する。そして,引用発明の「システム制御ブロック」は本願発明の「処理手段」に相当するといえることから,引用発明の「X線発生手段」及び「X線センサ」と「システム制御ブロック」を有する「コンピュータ断層撮影(CT)装置」は,本願発明の「走査装置と処理手段を有するX線走査システム」に相当する。

(2)引用発明の「X線発生手段」及び「X線センサ」は,その「X線発生手段」から発生した「X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され,対象物を透過したX線を」「X線センサ」で「検出」するものであるから,本願発明の「対象物の複数の領域を走査するように構成され」る「走査装置」に相当する。

(3)引用発明の「エミッタユニット」は,本願発明の「X線源ユニット」に相当し,引用発明の「エミッタユニット」が「走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて複数配置されて」いる「X線発生手段」は,本願発明の「複数のX線源ユニットが走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて配置されるX線放射源」に相当する。

(4)引用発明の「エミッタ素子」及び「アノード」は,本願発明の「エミッタ素子」及び「ターゲット領域」に相当するから,引用発明の「複数」の「エミッタユニットはエミッタ素子及びアノードを備え,そのエミッタ素子の1つの位置から電子ビームを発生させ」「アノード」に「電子が衝突する」ことと,本願発明の「複数のX線源ユニットの各々は、異なる物質からなる2つのターゲット領域とエミッタ素子とを有し、前記エミッタ素子は、前記2つのターゲット領域の一方に向けられる電子ビームを生成するように起動され」ることとは,「複数のX線源ユニットの各々は,ターゲット領域とエミッタ素子とを有し,前記エミッタ素子は,前記ターゲット領域に向けられる電子ビームを生成するように起動され」ることで共通する。

(5)引用発明は「電子ビームの位置を選択すること」で「X線源の位置も」「選択」できる,すなわち「電子が衝突する」「アノード」の「位置」を選択することができるものであるから,電子ビームはアノード領域で切り替えられるといえる。そして,「アノードから放射される」「X線」がエネルギスペクトルを持っていることは自明のことである。
してみれば,引用発明の「対象物の周りの複数の位置から対象物に通され」る「X線」が「電子ビームの位置を選択すること」で「電子が衝突する位置でアノードから放射される」ことと,本願発明の「電子ビームは、前記2つのターゲット領域の間で切り替えられて、前記走査容積を通過するエネルギスペクトルの異なるX線を生成」することとは,「電子ビームは,前記ターゲット領域で切り替えられて,前記走査容積を通過するエネルギスペクトルのX線を生成」することで共通する。

(6)引用発明は「画像再構成ブロックは,X線センサ制御ブロックを制御してそこからデータを受け取り,X線センサ制御ブロックはさらに,X線センサを制御してそこからデータを受け取るもので」あるから,X線センサからのデータによって画像再構成を行う,すなわち,画像データセットを生成するといえることから,X線センサは画像データセットを生成するように構成されるものといえる。
してみれば,引用発明の「画像再構成ブロックは,X線センサ制御ブロックを制御してそこからデータを受け取り,X線センサ制御ブロックはさらに,X線センサを制御してそこからデータを受け取る」ところの「線源位置から放射されて対象物の位置を通過するX線を検出するように対象物の位置の周りで離間しているように配置される複数のX線センサ」と,本願発明の「ターゲット領域の各々からの前記X線を検出して2つの画像データセットを生成するように構成される検出器」とは,「ターゲット領域からの前記X線を検出して画像データセットを生成するように構成される検出器」の点で共通する

(7)引用発明は「X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され,対象物を透過したX線を検出及び使用して対象物の画像を形成するコンピュータ断層撮影(CT)装置」であるから,「画像再構成ブロック」では,「X線センサ制御ブロック」を介して「X線センサ」で得た「データ」から複数の断層撮影画像データのセットを生成しているといえる。
してみれば,引用発明の「X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され,対象物を透過したX線を検出及び使用して対象物の画像を形成するコンピュータ断層撮影(CT)装置」における「X線センサ制御ブロックを制御してそこからデータを受け取り,X線センサ制御ブロックはさらに,X線センサを制御してそこからデータを受け取る」「画像再構成ブロック」を「制御」する「システム制御ブロック」と,本願発明の「複数の断層撮影画像データのセットを生成するために、前記検出器からの信号を処理し、前記処理は前記2つの画像データセットの合成を含み、前記断層撮影画像データのセットを合成して前記対象物の3次元画像を生成するように構成されている」「処理手段」とは,「複数の断層撮影画像データのセットを生成するために,前記検出器からの信号を処理し,前記処理は前記画像データセットの処理を含むように構成されている」「処理手段」の点で共通する。

してみれば,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「走査装置と処理手段を有するX線走査システムであって,
前記走査装置は,複数のX線源ユニットが走査容積の周りに実質的に円状に間隔をおいて配置されるX線放射源を有し,
前記複数のX線源ユニットの各々は,ターゲット領域とエミッタ素子とを有し,前記エミッタ素子は,前記ターゲット領域に向けられる電子ビームを生成するように起動され,
前記電子ビームは,前記ターゲット領域で切り替えられて,前記走査容積を通過するエネルギスペクトルのX線を生成し、
前記走査装置は,さらに,前記ターゲット領域からの前記X線を検出して画像データセットを生成するように構成される検出器を有し,
前記走査装置は対象物の複数の領域を走査するように構成され,
前記処理手段は,複数の断層撮影画像データのセットを生成するために,前記検出器からの信号を処理し,前記処理は前記画像データセットの処理を含むように構成されている,X線走査システム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
ターゲット領域,電子ビーム,X線,画像データセット,処理手段について,本願発明では,各々,「異なる物質からなる2つの」ターゲット領域,「2つの」ターゲット領域の間で切り替えられて「2つの」ターゲット領域の「一方」に向けられる電子ビーム,「異なる」エネルギスペクトルのX線,ターゲット領域の「各々からの」前記X線を検出した「2つの」画像データセット,「2つの」画像データセット「の合成」を含む処理手段であるのに対し,引用発明では,それらについて,そのようなものでない点。

(相違点2)
処理手段が,本願発明では,断層撮影画像データのセットを合成して対象物の3次元画像を生成するように構成されているのに対し,引用発明では,そのように構成されているか不明である点。

2 当審の判断
(1)相違点1について
上記引用例2の摘記(2-ア)?(2-エ)にも記載されているように,複数種の異なる陽極材料(本願発明の「異なる物質からなる2つのターゲット領域」に相当)を使用し,陽極に対し,陰極を単一のフィラメント及びグリッドにより構成し,グリッドに制御信号を与えることによって焦点軌道を適宜切換えて(本願発明の「電子ビームは、2つのターゲット領域の間で切り替えられて」「2つのターゲット領域の一方に向けられる」ことに相当),異なる複数種の特性X線であるX線X_(1),X_(2)(本願発明の「エネルギスペクトルの異なるX線」に相当)を発生させ,検出器により得られる検出信号を上記各特性X線に対応して弁別して各特性X線についての投影データ(本願発明の「ターゲット領域の各々からの前記X線を検出して2つの画像データセット」に相当)を得て,これらの相互の関係に基いて画像再構成を行なう(本願発明の「前記2つの画像データセットの合成」に相当)こと,いわゆるデュアルエネルギースキャン方式は優先日前に周知であり,当該方式は,同じ引用例2の摘記(2-ア),(2-イ)及び(2-エ)に記載されているように,コンピュータ断層法(Computerized Tomography)を用いたX線断層診断装置において,高精度、高品質の画像を得るために行われることも優先日前に周知である。また,このようなデュアルエネルギースキャン方式が優先日前に周知であることは,引用例2以外にも上記引用例5にも記載されている。
引用発明は,コンピュータ断層撮影(CT)装置についての発明であり,それは引用例1の摘記(1-イ)に「セキュリティ用途」と記載されているように,不審物のセキュリティチェック等に使用するものであるから,不審物の発見のために画像の高精度化,高品質化は当然に望まれることである。してみれば,引用発明において,画像の高精度化,高品質化を図るために,上記周知技術に鑑みて,周知のデュアルエネルギースキャン方式を採用すること,すなわち,アノード,電子ビーム,X線,画像再構成するセンサからのデータ,システム制御ブロックについて,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は,「X線が対象物の周りの複数の位置から対象物に通され,対象物を透過したX線を検出及び使用して対象物の画像を形成するコンピュータ断層撮影(CT)装置」において,「動作時には,走査すべき対象物を軸Xに沿って通過させ,X線をエミッタユニットから対象物に通し,各走査サイクルにおいて,各エミッタユニットの各線源位置が一度使用され,走査サイクルは,対象物が軸Xに沿って移動するごとに繰り返される」ものであるから,「対象物が軸Xに沿って移動するごとに」,「断層撮影」「画像」である「再構成」「画像」を得ているものである。引用例6の摘記(4-ア)?(4-ウ)に記載されているように,手荷物を検査するコンピュータ断層撮影(CT)において3次元画像を得ることは優先日前に周知のことであるから,セキュリティ用途として用いる引用発明において,「対象物が軸Xに沿って移動するごとに」得る「再構成」「画像」を合成して対象物の3次元画像を生成することは当業者が容易になし得たことである。

(3)効果について
本願発明の本願明細書に記載されている効果は,上記引用例1の記載及び周知技術に鑑みて,格別顕著なものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は,平成27年9月9日付け意見書で,
「確かに、審判官殿が認定なさるように、マルチエネルギアノードそのものは、例えば引用例2に開示されるように、本願の優先日前の1977年には既に周知の技術です。また、X線走査システムに係る分野においては、不審物の発見のための画質の向上は、終わりなき課題です。
しかしながら、引用例1に開示されるシステムにおいて、ターゲットをマルチエネルギアノードに置換しただけでは、当業者といえども、デュアルエネルギシステムを容易に実現できるわけではありません。例えば、X線放射源を構成する複数のX線源ユニット間の動作シーケンスや、一連のシーケンスにおける1のX線源ユニットにおける2つのターゲット領域の切り替えタイミングなど、対象物のより優れた画質を有する画像データセットを生成するためには、アノードに置換だけで達成し得るものではなく、アノードの置換によってシステムに生じる多様な要因やパラメータの検討が必要になります。」と主張しているが,「動作シーケンス」,「一連のシーケンスにおける1のX線源ユニットにおける2つのターゲット領域の切り替えタイミング」,「システムに生じる多様な要因やパラメータ」に関する技術的事項が本願発明の発明特定事項とされておらず,本願発明において,それらについてどのような創意工夫がなされているのか不明であるから,上記主張は,本願発明に基づかないものであり,当を得たものではない。

3 小括
したがって,本願発明は,引用発明並びに引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-05 
結審通知日 2015-11-09 
審決日 2015-11-20 
出願番号 特願2009-274526(P2009-274526)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越柴 洋哉  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 X線走査システム  
代理人 北澤 一浩  

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