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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F03G
審判 全部申し立て 産業上利用性  F03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  F03G
管理番号 1313069
異議申立番号 異議2015-700287  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-09 
確定日 2016-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5731051号「沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731051号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5731051号の請求項1ないし7に係る特許(以下、「請求項1ないし7に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成26年10月1日(優先権主張 平成26年6月5日)に特許出願され、平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成27年12月9日に特許異議申立人 株式会社エス・ケー・ジー(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年2月8日付けで当審による審尋がされ、平成28年2月29日(書面に記載された日付は平成28年2月25日)に回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
請求項1ないし7に係る特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、それぞれ、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、当該明細書を「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
地中に設けられ地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられ、複数の噴出口を有する蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される沸騰水型地熱交換器であって、地表面に近い低温地帯に接する領域に対して断熱部が形成されており、前記断熱部は、前記水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、前記水注入管の上部に空気層が形成されることによるものであることを特徴とする沸騰水型地熱交換器。
【請求項2】
前記水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項3】
前記水注入管が前記蒸気取出管の外側に配置される場合において、前記水注入管は前記蒸気取出管の外周に沿って前記蒸気取出管の周方向に複数配置されており、それぞれの水注入管に注入された水は、前記蒸気取出管の下方に設けられた底層部へ流れ込む構造であり、水注入管の前記底層部と前記蒸気取出管との境界に噴出口が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項4】
少なくとも1つの前記水注入管と少なくとも1つの前記蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、前記蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項5】
前記地熱井は、既存の設備に付帯するものであることを特徴とする請求項4に記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする沸騰水型地熱発電装置。
【請求項7】
前記発電は、バイナリー方式によるものであることを特徴とする請求項6記載の沸騰水型地熱発電装置。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第6号証(以下、「甲1」ないし「甲6」という。)を提出し、次の異議理由1ないし3を主張している。

・甲1:特開昭49-103122号公報
・甲2:特開2013-164062号公報
・甲3:特表2013-543948号公報
・甲4:特表2004-510920号公報
・甲5:特開2014-84857号公報
・甲6:鑑定書(鑑定日:2015年12月5日)「特許第5731051号の蒸気単相流に関する見解」 鑑定人:国立大学法人京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻 准教授 横峯 健彦

1.異議理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1及び本件発明2は、甲1ないし甲3記載の発明に基いて、本件発明3ないし本件発明6は、甲1ないし甲4記載の発明に基いて、本件発明7は、甲1ないし甲5記載の発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2.異議理由2(特許法第29条柱書)
本件発明1ないし本件発明7は、甲6によれば、実現不可能なものであって産業上利用可能な発明に該当しないから、本件発明1ないし本件発明7に係る特許は、特許法第29条柱書の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

3.異議理由3(特許法第36条第4項第1号)
本件出願における発明の詳細な説明は、甲6によれば、当業者が本件発明1ないし本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1ないし本件発明7に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

第4 当審の判断
[1] 甲1ないし甲6の記載等
1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
甲1には、図面とともに概略以下の記載がある。

1a)「2.特許請求の範囲
耐蝕性の熱良導体よりなる大地より熱を吸収するための熱吸収部を下端に有する外管と、該外管に対して熱絶縁された内管と、前記内管又は前記内外管の間に配置された逆流防止機構とを備えた二重管を地熱吸収用地熱井に挿入し、前記二重管の前記内管及び前記外管の一方から前記逆流防止機構を介して供給した水を前記熱吸収部において地熱により加熱して他方よりとり出すことを特徴とする地熱導出方式。」(第1ページ左下欄第3ないし12行)

1b)「以下図面により詳細に説明する。
第1図は本発明を地熱発電に適用した実施例を示す系統図で地上から掘削された加熱井に挿入された二重管の断面をも示している。ハツチングされた部分は大地断面を示す。この加熱井の深さは地中の温度分布にも依存するが、現在の技術で1000米乃至1500米掘削することはそれ程困難ではないので、前もつて地熱分布を測定し、比較的浅い井戸で所要熱量が得られ、かつ地下水や地中の天然蒸気が噴出しない場所を選定する方が好ましい。
加熱井に挿入される二重管の外管(4)は下部に耐蝕性の熱良導体よりなる大地より熱を吸収するための中空形地熱吸収部を有し、上部は熱絶縁処理をほどこした管からなるものである。図中太黒線にて示した部分(5)が地熱吸収管部を表わしている。熱絶縁処理をほどこされた内管(3)は給水ポンプ(1)よりバルブ(23)を介して加圧給水タンク(2)に供給された水を地熱吸収管部(5)に給水するためのもので、下端部に蒸気の逆流防止機構(7)が附加されている。内管(3)は熱絶縁材料よりなる通気性又は通気孔付の適宜の支持材により外管(4)に支持され相互間の間隔を均一に保持している。この逆流防止機構(7)を通過した水は地熱吸収部(5)の底に貯えられ地熱によって蒸気化し点線矢印にて示すごとく内管(3)と外管(4)の間に形成される中空部を通りバルブ(20)を経て蒸気だめ(8)に貯えられる。
蒸気だめ(8)に貯えられた蒸気は、手動バルブ(12)あるいは電動バルブ(11)を通して内圧が規定値を超えた場合に大気中に放出される。
蒸気だめ(8)に貯えられた蒸気はバルブ(21)を通して蒸気タービン(9)に印加され、発電機(10)を回転せしめて発電が行なわれる。
この場合の発電系の構成に関しては通常のシステムと同じであり、第1図においては詳細は省略されているが、タービンは復水タービンを用い、復水された水は当然乍ら給水ポンプ系に再び給水される。
第2図は本発明の他の実施例を示すもので、原理的には第1図の場合と同様であるが、給水を外管より行い内管から蒸気を取り出す構成をとつている。蒸気の給水系への逆流防止のための逆流防止機構(7)は内管と外管との中空部に配置されている。図中で表示した記号は、第1図の場合と同じであるからここで詳細な説明は省略する。(22)はバルブである。
第1図および第2図の方式において、蒸気だめから蒸気タービンに与える蒸気圧を常に一定に保つために消費される蒸気量と給水する水の量との間に最適な関係が存在することは直ちに理解されるところであり、これら諸量の自動検出とその結果に基づく自動制御系を附加することが望ましい。」(第2ページ左上欄第13行ないし右下欄第3行)

(2)上記(1)及び第2図の記載から分かること。
1c)上記1b)及び第2図の記載からみて、二重管の外管(4)は地中に設けられており、地上から水が供給されるものであることが分かる。

1d)上記1b)及び第2図の記載からみて、二重管の内管(3)は、下端の開口端から蒸気を取り出して蒸気だめ(8)に送るためのものであることが分かる。

1e)上記1b)における「蒸気だめ(8)に貯えられた蒸気は、手動バルブ(12)あるいは電動バルブ(11)を通して内圧が規定値を超えた場合に大気中に放出される。」及び「第1図および第2図の方式において、蒸気だめから蒸気タービンに与える蒸気圧を常に一定に保つために消費される蒸気量と給水する水の量との間に最適な関係が存在することは直ちに理解されるところであり、これら諸量の自動検出とその結果に基づく自動制御系を附加することが望ましい。」の記載からみて、二重管の内管(3)内の圧力は、蒸気タービン(9)が必要とする圧力近くに減圧されていることが分かる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「地中に設けられ地上から水が供給される外管(4)と、外管(4)の内部にあって、地中に設けられており下端において開口部を有する蒸気を地上に取り出すための内管(3)とを備え、内管(3)内の圧力は、蒸気タービン(9)が必要とする圧力近くに減圧されている、地熱導出装置。」

2.甲2の記載等
(1)甲2の記載
甲2には、図面とともに概略次の記載がある。

2a)「【請求項1】
高圧給水ポンプによって加圧された処理水が供給される加圧水注入管と、前記加圧水注入管中を地熱帯まで下降する処理水に対して、地熱帯から熱が供給されて生成される熱水が蒸気を含まない状態で上昇する熱水取出管とを有し、前記熱水取出管から取出された前記熱水が蒸気発生器に送られて、蒸気発生器内のみで蒸気として取り出される地熱交換器であって、前記加圧水注入管が前記熱水取出管の外周側に配置されており、前記熱水は前記加圧水注水管の下部を通って前記熱水取出管に移る構造を有していることを特徴とする地熱交換器。」

2b)「【請求項5】
前記熱水取出管の外側に直接、前記加圧水注入管が形成される2重管構造となっている区間では、前記熱水取出管の外周に導入穴が複数設けられており、この導入穴によって、前記加圧水注入管の下部付近に存在する熱水が前記熱水取出管に取りこまれることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の地熱交換器。」

2c)「【0030】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る地熱交換器1は、地熱井2に挿入され、加圧水注入管11と熱水取出管12とを有しており、加圧水注入管11が熱水取出管12の外周側に配置されている。加圧水注入管11と熱水取出管12とはいずれも地中に埋設されており、加圧水注入管11と熱水取出管12の下部寄りの所定の区間が、地下深部に存在する地熱帯10に接するように、加圧水注入管11と熱水取出管12の深さが設定されている。この構造とすることにより、地熱帯10を熱源として加熱されて生成された高圧熱水は、加圧水注入管11の下部を通って熱水取出管12に移る構造を有している。」

2d)「【0033】
上述した3重管構造となっている区間よりも下側では、熱水取出管12の外側に直接、加圧水注入管11が形成される2重管構造となっている。この区間では、熱水取出管12の外周に導入穴15が複数設けられており、この導入穴15によって、加圧水注入管11の下部付近に存在する熱水が熱水取出管12に取りこまれる。加圧水注入管11の下端11bは、強度を確保するために厚い構造とし、熱水取出管12の下端12bを支える構造となっている。」

2e)「【0036】
加圧水注入管11には、上端11a側から、高圧給水ポンプ17によって加圧された、不純物を除去した高純度の処理水が供給され、この処理水は、加圧水注入管11中を白い矢印で示すように降下して、下端11b付近に達する。下端11b付近では、黒い矢印で示すように地熱帯10から供給される熱によって処理水は加熱され、加熱された処理水は、導入穴15を通って熱水取出管12に移り、加圧状態と高温状態を維持しつつ熱水取出管12中を白い矢印で示すように上昇して、蒸気を含まない熱水のみの状態として上端12aに達して取出される。」

(2)甲2の記載事項
上記(1)並びに図1の記載を総合すると、甲2には次の事項(以下「甲2の記載事項」という。)が記載されていると認める。

「地中に設けられ地上から加圧された処理水を地熱井2に供給する加圧水注入管11と、加圧水注入管11の内側に、外周に複数の導入穴を有する熱水取出管12を設けて、複数の導入穴から加圧水注入管11の下部付近の熱水を熱水取出管12内に取り込むこと。」

3.甲3の記載等
(1)甲3の記載
甲3には、図面とともに概略次の記載がある。

3a)「【0002】
本発明は、概して、エネルギーを抽出するためのシステムおよび方法に関し、具体的には、電気の生成、または他の作業の実行において使用するための高温流体を地表まで送達するために地熱井戸を使用して熱エネルギーを抽出するシステムおよび方法に関する。」

3b)「【0032】
図1を参照すると、入口または注入導管26は、井戸上部28を通って延在し、より低い温度の熱交換流体をエネルギー抽出システム14からチャンバ24の中へと送達する。出口または生成導管30もまた、井戸上部28を通って延在し、大地からのエネルギーを吸収した熱交換流体を井戸12からエネルギー抽出システム14まで送達する。図1に図示されるように、入口導管26は、好ましくは、大地の温度が熱エネルギーを熱交換流体に伝達するために十分に高い区域32まで、井戸12の中まで延在する。好ましい実施形態では、区域32は、大地の温度が井戸12の最大持続可能温度の約40-60%である場所である。井戸12の最大持続可能温度を決定する方法の1つは、井戸12の底部近傍の持続可能温度を決定することである。
【0033】
例えば、一実施形態では、区域32は、井戸12の底部近傍の大地の温度が、約800°Fであるとき、周囲環境の温度が400°Fの範囲内にある深度にほぼ位置する。別の実施形態では、区域32は、井戸12の底部近傍の最高持続可能温度が、約400°Fの範囲内のあるとき、周囲環境の温度が約200°Fの範囲内にある深度に位置する。区域32の場所の決定は、井戸12の底部近傍の最高持続可能温度およびシステム10内の熱交換流体の予期される体積等、いくつかの要因に依存する。したがって、区域32の深度は、その特定の井戸の動作条件に応じて、個々の井戸に対して構成される。
【0034】
図1を参照すると、好ましい実施形態では、入口導管26は、出口導管30より容量が大きい。一実施形態では、入口導管26は、出口導管30の直径より大きい直径を有することによって、より大きな容量を有する。入口導管26と出口導管30との間の容量の差異は、出口導管30を通るより速い加熱された作業流体の速度を可能にし、それによって、井戸12からの熱交換流体の走行時間、その結果、入口導管26からの流入熱交換流体による熱損失を最小にする。加えて、導管26および30のうちの少なくとも1つは、好ましくは、部分的に熱的に絶縁され、出口導管30から入口導管26まで熱伝達を回避または最小にする。例えば、一実施形態では、出口導管30は、熱交換流体から周囲への熱の正味損失が存在するレベルを上回って熱的に絶縁することができる。出口導管30の一部を絶縁する方法の1つは、導管の外径の一部または全部の周囲に熱外被(図示せず)を提供することである。一実施形態では、外被は、低い熱伝導性の材料を備える。別の実施形態では、絶縁は、その長さの少なくとも一部に対して、二重壁導管(図示せず)を備える生成導管30を介して達成される。外側壁と内側壁との間の環状空間は、空気、窒素、アルゴン、他の好適または類似ガス、あるいはそれらの組み合わせ等、壁の間の熱交換を低減させるためのガスを備えることができる。代替として、環状空間は、真空または略真空であることができる。好ましい実施形態では、生成導管のみが絶縁される。加えて、図1を参照すると、入口導管26および出口導管30は、好ましくは、これらの導管26の壁と導管30の壁とが相互に接触せず、さらに、入口導管26の中の比較的に冷たい流入流体と出口導管30の中の比較的に温かい流出流体との間の熱エネルギー交換を低減させるように配列される。
【0035】
図1を参照すると、出口導管30は、入口導管26よりさらに井戸12の中まで延在し、熱交換流体が、井戸12の中において熱エネルギーを大地から吸収することに費やす時間を最適化する。この時間は、熱交換流体の滞留時間と称される。滞留時間を決定するための方法の1つは、液体レベル38の下方のケーシング18の体積を、流体が入口導管26を通って送達される速度で除算することである。他の実施形態では、滞留時間は、他の手段によって決定されることができる。図1では、液体レベル38は、熱エネルギー抽出動作の間、井戸12の中で維持される熱交換流体のレベルである。一実施形態では、液体レベル38は、出口導管30からの温度損失が過剰になる場所またはその周囲にある。熱交換チャンバの中の流体の有効滞留時間はまた、入口および出口導管のサイズおよび場所を構成し、流体が地熱井戸を通って循環する速度を調整することによって、制御されることができる。少なくとも、地層温度および/または地表における所望の流体温度は、滞留時間に影響を及ぼす。例えば、より高い温度を有する地層は、より短い滞留時間を可能にする一方、より低い温度地層は、より長い滞留時間およびより遅い流速を要求し得る。同様に、地表における熱交換流体のより高い所望の温度が、より長い滞留時間を要求し得る一方、より短い滞留時間が、より低い所望の温度を得るために十分であり得るか否かは地層温度に依存する。」

3c)「【0036】
別の実施形態では、井戸12は、液体レベル38の上方にガスで充填された領域をさらに備えることにより、付加的に、出口導管30を通って地表へと流動する熱交換流体の熱損失を低減させる。図1を参照すると、システム10は、井戸12の中の液体レベル38の場所を決定するための井戸上部26上のセンサ42と、液体レベル38の高さを制御し、液体レベル38を所望のレベルに維持するためのガス注入/放出システム44とを備える。センサ42は、音発生器およびエコー受信機等、任意の好適なタイプであることができる。一実施形態では、センサ42は、弁48を操作し、井戸上部28を通して、源50からガスを送達するために、システム44の一部であるモータ弁48に接続される出力ワイヤまたは導線46を含む。一実施形態では、弁48は、必要または所望に応じて、井戸12からガスを放出するために、大気中に開放されるポート52を有する三方型弁である。弁48の動作は、システム44が井戸12の中の液体レベル38の高さを制御することを可能にする。例えば、センサ42が、液体レベル38が所望のレベルまたは高さを上回ることを検出する場合、システム44にアラートし、弁48を開放し、ガスを井戸12内に注入することができる。井戸12へのガスの添加は、井戸12の中の液体を押し下げ、それによって、液体レベル38を低下させる。一方、センサ42が、液体レベル38が所望のレベルまたは高さを下回ることを検出する場合、アラートシステム44にアラートし、弁48を設定し、ガスを井戸12から大気中に放出させることができる。井戸12からのガスの放出は、井戸12の中の液体に作用する圧力を減少させ、それによって、液体レベル38を上昇させる。液体レベル38の所望の高さは、特定の井戸の種々の動作要因に基づいている。液体レベル38の上方に維持されるガス帯は、好ましくは、井戸12の上側部分の中に、比較的に低速の熱伝達の領域を提供し、それによって、流出熱交換流体の高温を維持する。
【0037】
一実施形態では、井戸12の中へ注入されるガスは、空気、窒素、アルゴン、任意の他の好適または類似ガス組成物、あるいはそれらの組み合わせを備える。注入されるガスのタイプまたは組成は、少なくとも、井戸の特定の条件、周囲環境、および/または利用可能な資源に依存することができる。好ましい実施形態では、注入されるガスは、例えば、大気圧よりも高い高圧力下にあり、液体レベル38の上方の高圧力ガス帯を確立および維持する。圧力は、少なくとも、特定の井戸の動作条件および/または所望の出力温度によって決定されることができる。高圧力区域は、水等の熱交換流体の沸点を上昇させるので、高圧力区域は熱交換液体の早期フラッシングを防止する。したがって、高圧力区域は、出口導管30を通って井戸12から流出するとき、熱交換流体を液相に維持するレベルに維持することができる。高圧力区域が採用される実施形態では、熱交換液体の圧力もまた、所望の領域に液体レベル38を維持するように調節することができる。液体レベル38上方の高圧力ガス帯はまた、熱交換流体を液相に保ち、それによって、流入流体を流出流体と同相に維持することによって、システム10を均衡状態に保つことを支援をする。さらに、液体レベル38上方の高圧力ガス帯はまた、外被(jack)または二重壁部分等、採用され得る任意の他の絶縁機構に加えて、入口導管26と出口導管30との間の熱エネルギー交換を最小にするための絶縁を提供する。最適または所望の圧力は、井戸毎に変動し、動作条件および/または地表における熱交換流体の所望の温度に依存する。」

(2)甲3の記載事項
上記(1)及び図1の記載を総合すると、甲3には次の事項(以下「甲3の記載事項」という。)が記載されていると認める。

「地熱井戸において、ガスを井戸12内に注入して井戸12の中の液体レベル38を低下させることにより、井戸12の上側部分の中に、比較的に低速の熱伝達の領域を設けること。」

4.甲4の記載等
甲4には、図面とともに概略次の記載がある。

4a)「【0027】
発明を実現する方法
図1は、例えばエネルギ交換機2に供給するために地球エネルギを利用するためのシステムを示す。エネルギ交換機2は、好ましくは電流発生機6を駆動する多段タービン4、およびタービン4の吐出し管路に接続され、かつ例えば暖房用熱ネットワークを構成することのできるエネルギ消費装置8から成る。エネルギ交換機2は、調整可能遮断弁12を持つ前進流管路10を介し、かつ調整可能遮断弁16を持つ戻り流管路14を介して、少なくとも2つの断熱前進流管20および20aをさく井22内に含む地球エネルギ交換機18に接続される。前進流管20および20aは分離管24によって取り囲まれ、分離管24は、それに相接して、さく井壁26まで半径方向に外側に戻り流領域28を有し、そこに戻り流管30が配置される。戻り流管30を受容するさく井領域は、上部領域32では、地表面34から好ましくは2000乃至2500m下の距離T1まで密閉し、下部領域にはさく井の床36まで、多孔性充填物38、例えば円礫が設けられる。戻り流管30から多孔性充填物内に水および/または蒸気が発生し、さらに加熱され、戻り流管30に還流させることができるので、戻り流管30の壁には、多孔性充填物38の領域に、改善された熱交換のための通路オリフィス40がある。遮断弁43を持つ供給管路41は、例えば循環水の漏水または蒸発が発生した場合に、必要に応じて循環プロセスに水を追加するために、戻り流管路14に接続される。
【0028】
システムの効率を高めるために、前進流管20または20aと分離管24との間の領域には断熱材42が充填される。前進流管20および20aはさく井床36より好ましくは400m上の距離T3で終端し、分離管24はそれより下の領域に通路オリフィス44を備える。前進流管20および20aは、それらの下部入口オリフィス46および46aの領域で相互に連通する。
【0029】
地表34で、第1前進流管20は前進流管路10に接続される。第2前進流管20aは調整可能遮断弁48を介して前進流管路10に接続される。接続可能圧力媒体装置50はここでは圧力ポンプ設備として設計され、少なくとも1つの圧力ポンプ52および調整可能接続弁54から構成される。この圧力ポンプ設備は、第1前進流管20と遮断弁12との間の領域で前進流管路10に接続される。圧力ポンプ52は、好ましくは熱水用の水圧ポンプとして設計され、適切な場合は圧縮空気用の圧縮機として設計される。吐出し弁56を有する吐出し管路55は、前進流管路10の第2前進流管20aと遮断弁48との間の領域に配置される。」

4b)「【0030】
図1によるシステムを作動させる前に、地球エネルギ交換機18は一般的に循環水を含む。さく井22の下部領域における戻り流管30と前進流管20および20aとの間の接続の結果、前進流管20および20a内の水位は、戻り流管30内の水位と本質的に同一高さになる。前進流管20および20aおよび戻り流管30に存在する水柱は、高温蒸気の抽出を防止する。図1によるシステムを始動するために、前進流管20および20a間の遮断弁48および前進流管路10および戻り流管路14の遮断弁12および16が閉じている間に、接続弁54を開く結果、接続可能圧力ポンプ設備50が第1前進流管20に接続される。古い循環水はそれによって、開いた吐出し弁56を介して第2前進流管20aを通して前進流管20から吐き出される。古い循環水の熱水による置換が行われた後、または圧縮空気による前進流管20および20aの排水後に、地球エネルギ交換機18で蒸気の生成が始まる。接続弁54を閉じる結果、圧力ポンプ設備50は前進流から分離され、遮断弁48が開き、吐出し弁56が閉じる。戻り流管路14の遮断弁16が開くことによって、遮断弁12が開いた後で前進流管路10を通して地球エネルギ交換機18から吐き出される蒸気と同じ量の循環水が、地球エネルギ交換機18に供給される。したがって、蒸気力によって駆動される循環プロセスが始動する。前進流管路10の蒸気の温度、圧力および/または量は、調整可能遮断弁12によって調整することが有利である。大量の蒸気が抽出されると、蒸気の温度は降下し、逆に、少量の蒸気が抽出されると、蒸気の温度は上昇する。
【0031】
熱交換を改善するために、さく井22は、地表から例えば少なくとも500mとすることのできる距離T1より下の領域に、図示するように、ブラインドボアとして設計され、あるいは破線および点線で示すように、好ましくは通路穴58aとして設計される側方偏向穴58を設けることができる。それらは同様に、適切ならば壁に穴59aを持つ管59を含み、多孔性充填物38aを備えている。そのような偏向穴58aは、地表から500乃至4000mの位置から始まり、2500乃至12000mの位置で再びさく井22に合流し、熱伝達面を増大するのに役立つ。そのような偏向穴は1本だけ存在することができるが、さく井の周囲に配分されるように配設された複数の偏向穴が存在することが好都合である。
【0032】
図2は、地表34から例えば1000乃至12000mの深さでの図1の水平断面II-IIにおける図1によるシステムの線図を示す。さく井は例えば150乃至500mmの直径Dを有する。前進流管20と20aとの間の分離管24内の領域には、断熱材42が充填される。さく井22の分離管24とさく井壁26との間の環状領域60には、周囲全体に配分された例えば4つの戻り流管30が配設される。環状領域60の戻り流管30間のキャビティには、多孔性充填物38が充填される。戻り流管30の壁には通路オリフィス40が設けられる。」

5.甲5の記載等
甲5には、図面とともに概略次の記載がある。

5a)「【0034】
まず、本発明の第1実施形態に係る、バイナリー発電システムの概略構成および機能について、図に基づき説明する。
【0035】
図1に示すように、本発明のバイナリー発電システムでは、低沸点媒体の閉ループ循環流路1において、液化した低沸点媒体を循環させる低沸点媒体循環ポンプ2と、地熱流体との熱交換により低沸点媒体を蒸発させる蒸発器3と、発生蒸気を駆動力として発電を行う蒸気タービン4と、蒸気タービン通過後の低沸点媒体を冷却流体との熱交換により凝縮液化させる凝縮器5で構成されるバイナリー発電機を用いる。
【0036】
ここで、前記バイナリー発電機の低沸点媒体を蒸発させる熱源としては、地熱流体または地熱から吸熱して前記バイナリー発電機の蒸発器3で放熱を行い、再び地熱流体または地熱から吸熱を行う熱源流体循環流路6を流れる熱源流体を用いる。本発明では、このように熱源流体の流路を閉ループの循環流路とすることで、温泉の源泉を直接蒸発器に供給しないため、蒸発器等でのスケール付着を防止するとともに、温泉を大量に汲み出さないため、温泉の枯渇リスクを軽減しながら、バイナリー発電を行うことができるようになる。
【0037】
なお、この熱源流体循環流路には、蒸発器通過後に温度低下した熱源流体を循環させるために熱源流体循環ポンプ7を持つほか、必要に応じて循環流の流れ方向や圧力調整を行うために、逆流防止弁やバッファータンクを設けても良い。また、地下で地熱流体または地熱から吸熱して温度上昇した熱源流体が、バイナリー発電機の蒸発器に供給されるまでの流路を流れる過程で放熱によって温度低下することがないよう、さらに蒸発器通過後の熱源流体を再び地熱流体または地熱によって再加熱するにあたっての効率を高めるよう、熱源流体循環流路は、吸熱部と蒸発器を除いて断熱材8で断熱しておくことが望ましい。」

6.甲6の記載
甲6には、概略次のとおり記載されている。

「本発明は、特許第5731051号に記載する沸騰水型地熱交換器にて、蒸気単相流を取り出して発電しようとするものであるが、結論からすると特許第5731051号に記載する沸騰水型地熱交換器の構造では、必要量の蒸気単相流を取り出すことは不可能である。・・・
この方法の一番の難点は、蒸気取出管を所望の圧力に制御することにある。水注入管と蒸気取出管の境界、すなわち噴出口を圧力限界として、蒸気取出管側を低圧に維持する方式であるが、そのための装置が含まれていない。・・・
以下は、何らかの方法で噴出口を圧力限界とすることが可能になった場合についての見解である。たとえば特許第5731051号に記載する高圧側(水注入管・熱水)6.28MPa、低圧側(蒸気取出管・蒸気)が実現された場合であっても、減圧沸騰(フラッシュ)で、高圧水から蒸気への変換効率(フラッシュ率)を100%とすることは不可能である。・・・
要するに、地上より水供給管を通じて供給された水は、噴出口を熱水のまま通過して蒸気取出管に移行、熱水のまま蒸気取出管を上昇し、熱水の温度に依存した飽和蒸気圧に達した時点で沸騰が開始、その時点で気液二相流の状態で上昇する。・・・
なお、本発明は、蒸気にすることにより熱水の場合よりも熱ロスが少ないことを特徴としているが(【0012】、【0034】、【0051】)、熱ロス(おそらく熱損失、すなわち蒸気取出管壁と外部との伝熱量)を熱伝導率で比較することは不適当である。蒸気と水の熱伝達率を比較した場合、蒸気のほうが水の数倍の値を示す。これは、蒸気の場合、凝縮が生じるため、その際の潜熱輸送が熱水の顕熱輸送に比較して数倍大きくなるからである。よって、熱伝導率を根拠に比較した、蒸気を用いることによる本方式の熱ロス低減効果という記述は誤りである。」

[2] 異議理由1について
1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「外管(4)」は、地上から水を供給するためのものであるから、本件発明1における「水注入管」に相当し、甲1発明における「内管(3)」が「外管(4)の内部にあ」ることは、「内管(3)」自体が「外管(4)」内部との境界をなすことからみて、本件発明1における「蒸気取出管」が「水注入管に接する」ことに相当し、甲1発明における「内管(3)」は蒸気を取り出すためのものであるから、本件発明1における「蒸気取出管」に相当し、甲1発明における「蒸気タービン(9)」は、その機能、構成又は技術的意義から、本件発明1における「タービン」に相当し、甲1発明における「地熱導出装置」は、その機能、構成又は技術的意義から、本件発明1における「沸騰水型地熱交換器」に相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「地中に設けられ地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられた蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されている沸騰水型地熱交換器。」

[相違点1]
本件発明1においては、「複数の噴出口を有する蒸気取出管」を備えており、「水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される」のに対して、甲1発明においては、蒸気を地上に取り出すための内管(3)は、複数の噴出口を有するものではなく、さらに、地中に設けられ地上から水が供給される外管(4)内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が該複数の噴出口を介して地中に存在する内管(3)内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出されるものでもない点。(以下、「相違点1」という。)

[相違点2]
本件発明1においては、「地表面に近い低温地帯に接する領域に対して断熱部が形成されており、断熱部は、水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、水注入管の上部に空気層が形成される」のに対して、甲1発明においては、そのような断熱部を有するか不明である点。(以下、「相違点2」という。)

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
甲2の記載事項は、「地中に設けられ地上から加圧された処理水を地熱井に供給する加圧水注入管と、加圧水注入管の内側に、外周に複数の導入穴を有する熱水取出管を設けて、複数の導入穴から加圧水注入管の下部付近の熱水を熱水取出管内に取り込むこと」である。しかしながら、甲2の記載事項における熱水取出管の外周に設けられた複数の導入穴は、加圧水注入管の下部付近の熱水を熱水取出管内に取り込むのみであって、複数の導入穴を介して加圧注入管からの熱水を熱水取出管内で蒸気単相流に変換するものであるとはいえない。
そうすると、甲2の記載事項は、上記相違点1に係る本件発明1における「水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される」ことについて示唆するものではないから、甲1発明及び甲2の記載事項に基いて上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
仮に、甲1発明及び甲2の記載事項に加えて、甲2ないし甲5の明細書及び図面全体に記載された事項を参酌したとしても、甲2ないし甲5において上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項についての記載や示唆がなされているとはいえないから、上記相違点1に係る本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲5の明細書及び図面全体に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

[相違点2について]
甲3の記載事項は、「地熱井戸において、ガスを井戸12内に注入して井戸12の中の液体レベル38を低下させることにより、井戸12の上側部分の中に、比較的に低速の熱伝達の領域を設けること。」であって、それによって、「流出熱交換流体の高温を維持する」([1]、3.(1)、3c)、段落【0036】)という課題を解決するものであり、甲1発明における地熱導出装置においても同様の課題を有することは明らかであるから、甲1発明において、そのような課題を解決するために、甲3の記載事項を適用して、水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、水注入管の上部に空気層を形成することによる断熱部を形成することにより、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そうすると、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項が甲1発明及び甲3の記載事項に基いて当業者が容易になし得たものであるが、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び甲2の記載事項に基いて当業者が容易になし得たとすることはできないのであるから、本件発明1は、甲1発明、甲2の記載事項及び甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2.本件発明2ないし本件発明6について
本件特許の特許請求の範囲における請求項2ないし請求項6は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明2ないし6は、本件発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲2の記載事項ないし甲4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.本件発明7について
本件特許の特許請求の範囲における請求項7は、請求項1の記載を間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明7は、本件発明1と同様の理由で、甲1発明及び甲2の記載事項ないし甲5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

[3] 異議理由2について
特許異議申立人は、特許異議申立書第18ページ第11ないし16行において、
本件発明1ないし本件発明7が産業上利用可能な発明に該当しない理由として、「甲第6号証で示す通り、水注入管と蒸気取出管の境界、すなわち噴出口を圧力境界として、蒸気取出管側を低圧に維持するための装置が含まれておらず、噴出口を境に要求される圧力差を設けることが不可能であり、必要量の蒸気単相流を取り出すことができないため、この特許発明は、実現不可能なものであり、産業上利用可能な発明に該当しないことは明らかである。」と主張している。

以下、この主張について検討する。
1.噴出口を境に要求される圧力差を設けることについて
本件特許明細書の段落【0052】の記載によれば、蒸気取出管3の下部領域に設けられる複数の噴出口5は、小径の穴であって、2mm径の噴出口5を100個設けたものである。そして、本件特許明細書の段落【0039】の記載によれば、噴出口5から高温圧力水が噴霧状態となって蒸気取出管3内へ噴き出すものであるから、噴出口5は絞りの作用を行うものと認められる。
そうすると、噴出口5は、絞りの作用をもって、噴出口5を境に圧力差を設けるものであって、さらに、本件特許明細書の段落【0044】には、蒸気取出管の上部に位置するD点(図2の記載を参照)において、蒸気を圧力調整弁によって155℃の飽和蒸気圧0.543MPaに設定することが記載されていることから、噴出口5の絞りの作用による減圧と圧力調整弁による調圧とによって、噴出口5を境に要求される圧力差を設けることが不可能であるとまではいえない。

2.高圧熱水を噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換することについて
甲6における、「たとえば特許第5731051号に記載する高圧側(水注入管・熱水)6.28MPa、低圧側(蒸気取出管・蒸気)が実現された場合であっても、減圧沸騰(フラッシュ)で、高圧水から蒸気への変換効率(フラッシュ率)を100%とすることは不可能である」との見解について検討すると、甲6における高圧水から蒸気への変換効率(フラッシュ率)は、減圧沸騰を前提として求められたものであるが、本件発明1ないし7における噴出口は、本件特許の図2及び図6の記載等によれば、地熱地帯から熱が供給される場所に位置しており、高圧水が蒸気へと変換されるための十分な熱が地熱地帯から供給されるので、高圧熱水を噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換することが不可能であるとまではいえない。

そうすると、上記1.、2.の検討によれば、本件発明1ないし本件発明7によって、本件特許明細書段落【0078】及び段落【0079】に記載の「【0078】水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプ31が地上に配置されている。水注入管2に供給される水は、地上にて加圧ポンプ31によって加圧されるため、水注入管2の下部においては、この加圧による圧力と、地上からの深さにほぼ比例した圧力を合計した加圧水となる。
【0079】この加圧水に対して、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は矢印で示すように、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービン6が必要とする圧力と、水注入管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービン6との圧力差でタービン6へ移動したのち、タービン6内で膨張してタービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる」ことを実現することが不可能であるとまではいえない。
よって、本件発明1ないし本件発明7は、実現不可能なものであって産業上利用可能な発明に該当しないとまではいえないから、本件発明1ないし本件発明7に係る特許は、特許法第29条柱書の規定する要件を満たしていないとすることはできない。

[4] 異議理由3について
特許異議申立人は、特許異議申立書第18ページ第17行ないし21行において、本件出願の発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1ないし本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない理由として、「甲第6号証で示す通り、水注入管と蒸気取出管の境界、すなわち噴出口を圧力境界として、蒸気取出管側を低圧に維持するための装置が含まれておらず、噴出口を境に要求される圧力差を設けることが不可能であり、当業者が実施できる程度に記載されていないことは明らかである。」と主張している。

以下、この主張について検討する。
上記[3]1.で検討したとおり、本件特許明細書段落【0039】の記載と、段落【0044】の記載とを併せてみると、噴出口5の絞りの作用による減圧と圧力調整弁による調圧とにより噴出口5を境に要求される圧力差を設けることが実質的に記載されているから、上記異議理由3についての特許異議申立人の主張における「噴出口を圧力境界として、蒸気取出管側を低圧に維持するための装置」について、当業者が本件発明1ないし本件発明7を実施できる程度に明確かつ十分に本件特許明細書には記載されていると認められる。
さらに、甲6において、「本発明は、蒸気にすることにより熱水の場合よりも熱ロスが少ないことを特徴としているが(【0012】、【0034】、【0051】)、熱ロス(おそらく熱損失、すなわち蒸気取出管壁と外部との伝熱量)を熱伝導率で比較することは不適当である。蒸気と水の熱伝達率を比較した場合、蒸気のほうが水の数倍の値を示す。これは、蒸気の場合、凝縮が生じるため、その際の潜熱輸送が熱水の顕熱輸送に比較して数倍大きくなるからである。よって、熱伝導率を根拠に比較した、蒸気を用いることによる本方式の熱ロス低減効果という記述は誤りである。」という記載があるが、熱ロスは、蒸気の凝縮がどの程度起こるかによって異なるから本願特許明細書の記載は必ずしも誤りであるとはいえない。また、仮に、本件特許明細書段落【0012】、段落【0034】及び段落【0051】における「熱伝導率を根拠に比較した、蒸気を用いることによる本方式の熱ロス低減効果という記述」が、甲6において指摘されたとおりに誤りであるとしても、本件発明1ないし本件発明7の実施は既に検討したとおり可能であるから、仮に、上記本件特許明細書段落【0012】、段落【0034】及び段落【0051】の記載が誤りであったとしても、本件出願における発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし本件発明7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。

よって、本件出願における発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-17 
出願番号 特願2014-202713(P2014-202713)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F03G)
P 1 651・ 536- Y (F03G)
P 1 651・ 14- Y (F03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 健一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 松下 聡
金澤 俊郎
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731051号(P5731051)
権利者 田原 俊一
発明の名称 沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置  
代理人 江口 基  
代理人 堀田 幹生  
代理人 ▲高▼荒 新一  

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