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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1313071
異議申立番号 異議2016-700030  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-15 
確定日 2016-04-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5748317号「TNFα関連障害を治療するための複数可変投薬計画」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5748317号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5748317号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成17年4月11日に国際特許出願がされ、平成27年5月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人SK特許業務法人(以下、単に「異議申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
特許第5748317号の請求項1?12の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、順に「本件特許発明1」?「本件特許発明12」ということがある。また、これらをまとめて単に「本件特許発明」ということがある)。
『 【請求項1】 組み換えヒト抗TNFα抗体を含む、クローン病の臨床的寛解を当該寛解を必要とする対象において誘導するための医薬組成物であって、
前記誘導を複数可変投与方法で行い、前記方法が、
前記抗体の160mgの第一の投与量と、
前記抗体の80mgの第二の投与量を皮下投与することを含み、ここで、第二の投与量は第一の投与量の投与から2週間後に投与され、
前記抗体が、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR1と、配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR2と、配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖と、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖を含む、医薬組成物。
【請求項2】 前記重鎖が配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み、前記軽鎖が配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】 前記重鎖がIgG1重鎖定常領域を含み、前記軽鎖がカッパ軽鎖定常領域を含む請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】 前記抗体がアダリムマブである請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】 前記第一の投与量が前記抗体の40mgの4つの投与量のセットとして対象に投与され、前記第二の投与量が前記抗体の40mgの2つの投与量のセットとして対象に投与される請求項1?4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】 前記第一の投与量が、各々前記抗体の40mgの投与量を含有する予め充填されたシリンジ4つの投与によって対象に投与され、前記第二の投与量が、各々前記抗体の40mgの投与量を含有する予め充填されたシリンジ2つの投与によって対象に投与される請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】 前記第一の投与量が前記抗体の80mgの2つの投与量のセットとして対象に投与される請求項1?4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】 前記セットの2つの投与量が1日離れて対象に投与される請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】 前記投与量が、各々前記抗体の40mgの投与量を含有する予め充填されたシリンジの投与によって対象に投与される請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】 前記対象が220?450のクローン病活動性指数(CDAI)を有する請求項1?4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】 前記対象が220?450のクローン病活動性指数(CDAI)を有する請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項12】 前記対象が220?450のクローン病活動性指数(CDAI)を有する請求項7に記載の医薬組成物。 』

3.申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1?6号証を提出し、本件の請求項1?12に係る特許について、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり(申立理由ア)、また、同法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものであり(申立理由イ)、同法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであり(申立理由ウ)、同法第36条第6項2号の規定に違反して特許されたものである(申立理由エ)から、請求項1?12に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

・甲第1号証:国際公開第2002/100330号、及び抄訳
・甲第2号証:臨床薬物動態学、改訂第2版、1998年4月10日、第99-102頁、写し
・甲第3号証:審議結果報告書、一般名 アダリムマブ、平成22年8月6日、写し
・甲第4号証:本件特許出願に係る拒絶査定不服審判(不服2012-9633号)の審理過程において請求人(特許権者)が提出した平成26年3月24日付けの回答書
・甲第5号証:本件特許出願に係る拒絶査定不服審判(不服2012-9633号)の審理過程において当時の合議体が請求人(特許権者)に送付した平成26年8月25日付け拒絶理由通知書
・甲第6号証:European Crohn’s and Colitis Organisation、24-26 Febuary 2011、Dublin、Ireland、写し及び抄訳

4.甲号証の記載
[下線は当審による。]

(1)甲第1号証
[英語で記載されているため、以下の摘記事項の一部は異議申立人が添付した抄訳([甲1-1]?[甲1-5])を引用した日本語で記し、その他は同号証の対応する日本語の公表公報:特表2005-517629号の記載を参考にした日本語を当審で付した。]
・1A
『 1.ヒト被験者におけるTNFα抗体で治療可能な疾患の治療方法であつて、治療を要するヒト被験体に対し組成物を該疾患が治療されるような隔週投薬レジメンで投与することからなり、該組成物が抗TNFα抗体またはその抗原結合部分を含む、方法。 』[41頁請求項1;参照公表公報【請求項1】]
・1B
『 本発明は、TNFα関連疾患を治療するための、好ましくは皮下ルートを介する隔週投薬レジメンのための方法を提供する。隔週投薬は、毎週投薬に比して、総注射回数がより少ない、注射部位の反応(例えば、局所痛及び腫脹)の数が少ない、患者のコンプライアンスの増大(即ち、注射頻度がより減少したことによる)、及び医療提供者と同様の患者のコスト軽減を含む多くの点で有利であるが、それらに限定されない。皮下投薬は治療薬、例えばヒトTNFα抗体、を患者自身が投与し得るので有利であり、このことは患者及び医療提供者の双方にとり便利である。
本発明はTNFα活性が有害な疾患の治療方法を提供する。該方法は被験体への抗体の隔週皮下注射を含む。抗体は好ましくはヒトTNFαに特異的に結合する組換えヒト抗体である。・・・。本発明の最も好ましい組換え抗体は、D2E7と称されるもので、・・・D2E7抗体は配列番号1のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域(LCVR)及び配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域(HCVR)を有する。これらの抗体は、その全体がここで援用される米国特許第6,090,382号明細書中に記載されている。 』[3頁2?33行;参照公表公報【0008】?【0009】]
・1C
『 1実施態様で、本発明はTNFα活性が有害な疾患の治療方法を提供する。この方法は前記疾患を治療するように抗-TNFα抗体を隔週皮下投与することによりヒトTNFα活性を阻害することを含む。前記疾患は、例えば敗血症、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎及びネフローゼ症候群)、感染症、悪性疾患、移植片拒絶、移植片-宿主病、肺疾患、骨疾患、腸疾患または心疾患であり得る。 』[3頁34行?4頁2行;参照公表公報【0010】。異議申立人による抄訳[甲1-4]]
・1D
『 本発明の抗体及び抗体部分は、本明細書に記載されている方法、例えば隔週皮下投薬、のために患者に投与するのに適した医薬組成物に配合され得る。通常、医薬組成物は本発明の抗体(又は抗体部分)及び/又はメトトレキサートに加えて医薬的に許容され得る担体を含む。・・・
本発明の組成物は各種形態を採り得る。・・・。典型的な好ましい組成物は、他の抗体を用いてヒトを受動免疫するために使用されているものに類似している組成物のような注射液または注入液の形態である。・・・。特に好ましい実施態様では、抗体は皮下注射(例えば隔週皮下注射)により投与される。 』[21頁17行?22頁5行;参照公表公報【0070】?【0071】]
・1E
『 本発明の医薬組成物は「治療有効量」または「予防有効量」の本発明の抗体または抗体部分を含み得る。・・・
投与レジメンは最適な所望応答(例えば、治療又は予防応答)を与えるように調節され得る。例えば、大量用量を1回投与してもよく、分割量を時間をかけて複数回投与してもよく、または用量を治療状況の緊急性に応じて減量または増量させてもよい。投与を容易とし、用量を均一性とするための剤型で非経口組成物を処方することが特に有利である。・・・
本発明の抗体または抗体部分の治療または予防有効量の典型的で非限定的な範囲は10?100mg、より好ましくは20?80mg、最も好ましくは約40mgである。用量値は軽減されるべき状態のタイプ及び重篤度により変更し得ることに注目されたい。更に、特定の患者について、患者の必要性及び組成物を投与するかまたはその投与を監督している人の専門的判断に従って特定の投薬レジメを経時的に調節することができること及び本明細書に記載されている投与レジメは単なる例示に過ぎず、クレーム組成物の範囲を限定することが意図されるものではないことを理解されたい。 』[26頁11行?27頁5行;参照公表公報【0081】?【0083】]
・1F
『 G.腸疾患
腫瘍壊死因子は炎症性腸疾患の病態生理に関与している(例えばK.J.Tracyら,Science,234:470-474(1986);X-M,Sunら,J.Clin.Invest.,81:1328-1331(1988);T.T.MacDonaldら,Clin.Exp.Immunol.,81:301-305(1990)参照)。キメラマウス抗-hTNFα抗体はクローン病の治療についての臨床試験を受けている(H.M.vanDullemenら,Gastroenterology,109:129-135(1995))。本発明のヒト抗体及び抗体部分はまたクローン病や潰瘍性結腸炎の2つの症候群を含む腸疾患、例えば突発性炎症性腸疾患を治療するためにも使用し得る。 』[31頁18?26行;参照公表公報【0099】。異議申立人による抄訳[甲1-5]]
・1G
『 実施例2:皮下投与した抗TNFα抗体の全身用量
D2E7の毎週皮下投与:
本研究には284人のRA患者が参加し、皮下投与されるD2E7の最適全身用量を決定するために計画された。患者には12週間にわたり毎週20、40または80mgのD2E7またはプラセボの投与群をランダムに割り当て、12週間後にはプラセボ治療患者には40mg D2E7/週の投与に盲検的に切り替えた。
20mgでは患者の約49%がACR20に達し、40mgでは患者の55%がACR20に達し、80mgでは患者の54%がACR20に達したのに対して、プラセボ投与患者では10%のみがACR20に達した(図1A参照)。20mgでは患者の約23%がACR50に達し、40mgでは患者の27%がACR50に達し、80mgでは患者の20%がACR50に達したのに対して、プラセボ投与患者では2%のみがACR50に達した。これらのデータは、D2E7の皮下投与、特に40mg/週の皮下投与により良好な応答が得られることを示している。 』[33頁14?27行;参照公表公報【0107】?【0108】]
・1H
『 実施例3:抗TNFα抗体の隔週皮下投与
D2E7の隔週皮下投与:
MTXに対して部分応答を示したRA患者に対してMTX治療を継続させると共にプラセボまたは異なる用量レベルのD2E7を最高24週間隔週皮下投与した後の臨床効果、安全性、免疫原性及び耐性を調べた。』[33頁28?33行;参照公表公報【0109】。異議申立人による抄訳[甲1-1]]
・1I
『 本研究は2つの部分、すなわち1)第1投薬期間の投与前4週間のDMARD(MTXを除く)を退薬させる“ウオッシュアウト期間”及び2)プラセボまたは(全身用量として)20、40もしくは80mgのD2E7を最高24週間隔週皮下投与するように67人の患者を4群の1つにランダムに割り当てる“プラセボコントロール期間”から構成した。各用量の薬物を1.6mlずつ2回皮下注射して投与した。 』[34頁1?5行;参照公表公報【0111】。異議申立人による抄訳[甲1-2]]
・1J
『 本研究には271人のRA患者が参加した。本研究の集団は北米の中程度乃至重篤なRA患者の代表であり、約70%が女性で、圧倒的に40代を越えている。前記集団は当業者に公知の所定の参加及び除外基準を用いて選択した。例えば、患者はアメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology;ACR)基準(表A参照)の1987年版に規定するRAの診断を受けていなければならない。
結果:
図1B及び図2?4は、24週間でRAの兆候及び症状を軽減させる点でメトトレキサートと組み合わせたD2E7の隔週皮下治療がプラセボに比して非常に優れていることを示している。3種すべての用量のD2E7は毎週投与したプラセボに比して統計上有意に有効であった。更に、40mg及び80mgのD2E7は20mgの用量に比してより有効であった。 』[34頁15?26行;参照公表公報【0112】?【0113】。異議申立人による抄訳[甲1-3]]
・1K
『 図面の簡単な説明
図1A及び1Bは、抗体D2E7を合計で12週間毎週皮下投薬した後(1A)または抗体D2E7及びメトトレキサートを合計で24週間隔週皮下投薬した後(1B)の関節リウマチ(RA)患者のAmerican College Rheumatology 20(ACR20)及びACR50応答を示す。これらのデータは隔週投薬が毎週投薬と同じくらい有効であることを示す。 』[6頁13?19行;参照公表公報【0117】]
・1L
甲第1号証の36頁には、配列番号1、配列番号2として、本件特許発明2に規定される「配列番号1」、「配列番号2」とそれぞれ同一のアミノ酸配列が記載されている。

(2)甲第2号証
・2A
『 反復投与の場合
実際の薬物療法においては単回の投与で治療が終わることは少なく、むしろ反復投与されることが多い。 』[99頁5?7行]
・2B
『 昔から長い半減期をもつ薬の反復投与ではその作用の発現を早め、初回に比較的大量を投与することが好ましいとされてきた。 』[100頁下から2?1行]
・2C
『 この図から明らかなように初回量を2倍にして負荷(飽和)投与量(loading dose)とした場合には、初回量=維持量の場合よりも早く定常状態に近いレベルに導くことが可能であり、経験的事実とも一致している。 』[101頁下から5?3行]

(3)甲第3号証
・3A
『 (6)用法・用量について
1)投与時期(投与2週時まで)について
申請者は、寛解導入時の用法・用量について、以下のように説明している。
寛解導入について検討した海外臨床試験(M02-403)の用量は、本薬のRAに対する臨床試験成績を基に、本薬40mgを中心用量とし、高用量の80mg及び低用量の20mgを設定した。また、初期段階では本薬の血中濃度を早期に上昇させて安定させるために、初回投与量は投与2週時の2倍量とし、それぞれ40mg、80mg及び160mgとした。その結果、主要評価項目である投与4週時の寛解率について、初回に160mg、2週後に80mgを投与した160/80mg群のみ、プラセボ群に対する優越性が認められた。 』[43頁下から7行?44頁2行]
・3B
『 (4)海外寛解導入試験(5.3.3.2-1及び5.3.5.1-2:試験番号M02-403<2002年7月?・・・> 』[7頁2?3行]
・3C
『 機構は、以下のように考える。
海外寛解導入試験(M02-403及びM04-691)における投与4週時の寛解率について、プラセボ群に対する160/80mg群の優越性が認められ、国内寛解導入試験(M04-729)でも同様の傾向であったこと(・・・の項参照)、両試験において、各群の有害事象の発現状況に特段の差異は認められず、160/80mg群の安全性は許容可能と考えられることから(・・・の項参照)、本邦における本薬の寛解導入時の用法・用量を、初回投与量160mg、初回投与2週後に80mgをそれぞれ皮下投与とすることに問題はないと考える。 』[44頁22?30行]

(4)甲第4号証
・4A
『 ここで、上述した、特定の組み換えヒト抗TNFα抗体を160mgの第一の投与量で対象に皮下投与してから2週間後に、当該抗体を80mgの投与量で皮下投与することによって達成される本願発明の効果をさらに強く裏付ける証拠として、参考資料1(Colombel et al, European Crohn’s and Colitis Organisation Poster 182 (2011))と、参考資料2(対応米国出願の審査において提出されたMould博士のデクラレーション)を提出します。
本願の優先日当時、すなわち、2004年4月において、当業者は、本願請求項に記載の投与計画(すなわち、0週において160mg、2週目において80mg投与)に続いて40mgの投与量を隔週で投与することによって治療されたクローン病患者が、0週で80mg、2週目で40mg投与の投与計画に続いて40mgの投与量を隔週で投与することによって治療されたクローン病患者よりも3.7?4.8倍寛解を達成する可能性が高いことを予測できませんでした。
・・・
具体的な研究では、治験責任医師らは、[1]0週に160mg投与、2週目に80mg投与、4週目およびその後隔週に40mg投与、[2]0週に80mg投与、2週目に40mg投与、4週目およびその後隔週に40mg投与というクローン病を治療するための異なるアダリムマブの2つの投与計画を比較しました(参考資料1参照)。
・・・、160/80mgのアダリムマブの投与計画で治療された患者が、80/40mgのアダリムマブの投与計画で治療された患者よりも1年の寛解を達成する可能性が4.8倍高かったことを発見しました(・・・)。
・・・、160/80mgのアダリムマブの投与計画で治療された患者が、80/40mgのアダリムマブの投与計画で治療された患者よりも1年の寛解を達成する可能性が3.7倍高かったことを発見しました(・・・)。 』[4頁17行?5頁22行]
・4B
『 特許請求の範囲 (案)
[書類名]特許請求の範囲
[請求項1]
組み換えヒト抗TNFα抗体を含む、・・・
・・・、医薬組成物。
・・・
[請求項5]
前記方法が、さらに、前記第二の投与量の投与から2週間後に、前記抗体の少なくとも1つの40mgのその後の投与量を対象に皮下投与することを含む請求項1に記載の医薬組成物。 』[7頁下から6行?8頁22行]

(5)甲第5号証
『 (平成26年3月24日付け回答書に記載の補正案のとおりの補正を行えば、上記の拒絶理由は解消する。ただし、該補正案の請求項5に記載されている事項は、出願当初の明細書に記載されていない事項である。・・・該補正案の請求項5に記載されている事項は、160mgの第一の投与、80mgの第二の投与の後に、さらに40mgの投与を行うというものであるところ、そのような事項の記載は、上記段落をはじめ、出願当初の明細書には見いだせない。 』[2頁1?8行]

(6)甲第6号証
[英語で記載されているため、以下の摘記事項は異議申立人が添付した抄訳([甲6-1]?[甲6-3])を引用した日本語で記した。]
・6A
『 要約
目的:アダリムマブの2つの誘導レジュメがクローン病(CD)に使用される:0および2週目において160/80mgおよび0および2週目において80/40mg。誘導治療としての160/80mg vs.80/40mgに続いて、隔週維持治療を受けている患者に対する長期治療効果の比較は、なされていない。 』[1頁左欄1?6行。異議申立人による抄訳[甲6-1]]
・6B
『 二重盲検維持期間に、隔週で40mgのアダリムマブを投与された患者における、長期有効性の結果に対する、これらの異なる誘導レジュメの効果の比較研究は、今までなされていない。 』[1頁右欄1?4行。異議申立人による抄訳[甲6-2]]
・6C
『 目的
誘導治療として160/80mg vs.80/40mgアダリムマブを投与された患者の長期臨床結果を比較すること 』[1頁右欄5?8行。異議申立人による抄訳[甲6-3]]

5.当審の判断

(1)申立理由アについて

(1-1)本件特許発明1について
(i) 甲第1号証の摘記1H?1Jによれば、甲第1号証には
組み換えヒト抗TNFα抗体を含む
リウマチの治療のための薬物であって
複数投与方法を行い
前記投与方法が、前記抗体の20、40もしくは80mgの第一の投与量と
前記抗体の20、40もしくは80mgの第二の投与量を皮下投与することを含み
ここで、第二の投与量は第一の投与量の投与から2週間後に投与され
前記抗体がD2E7である
薬物
の発明(以下、甲1発明ということがある)が記載されている。

(ii) 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明のリウマチは、抗TNFα抗体で治療可能である、TNFα活性が有害なTNFα関連疾患である(1A?1C)。
また、甲1発明のD2E7については、可変領域の重鎖及び軽鎖が甲1号証中の配列番号2及び1で表されるアミノ酸配列のものである(1B、1L)ところ、これら配列番号2及び1がこの順に本件特許明細書の「配列番号2」及び「配列番号1」で表されるアミノ酸配列と各々同一であって、該「配列番号2」が本件特許発明1の「配列番号8」、「配列番号6」及び「配列番号4」のアミノ酸配列を含み、該「配列番号1」が本件特許発明1の「配列番号7」、「配列番号5」及び「配列番号3」のアミノ酸配列を含むことは、それら「配列番号2」、「配列番号1」の各アミノ酸配列からみて明らかであること、ならびに、組み換えヒト抗TNFα抗体である点、「D2E7」の名称、及び引用公報「米国特許第6,090,382号」(1B)においても、本件特許明細書の【0080】で説明されている組み換えヒト抗TNFα抗体「D2E7」(「アダリムマブ」)に係る記載と共通すること、からみて、甲1発明の「D2E7」は本件特許明細書の実施例で本件特許発明1の「組み換えヒト抗TNFα抗体」として採用されている「D2E7」と同一の抗体であるものと認められる。

これらのことを踏まえると、両者は
「 組み換えヒト抗TNFα抗体を含むTNFα活性が有害な疾患に対する医薬組成物であって、
投与を複数投与方法で行い、前記方法が、
前記抗体の第一の投与量と、
前記抗体の80mgの第二の投与量を皮下投与することを含み、ここで、第二の投与量は第一の投与量の投与から2週間後に投与され、
前記抗体が、
配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR1と、配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR2と、配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖と、
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖を含む、医薬組成物 」
の点で一致するが、以下の二点:
1) 適用対象である「TNFα活性が有害な疾患」について、前者が「クローン病の臨床的寛解を当該寛解を必要とする対象において誘導するための」ものであるのに対し、後者がリウマチの治療のためのものである点
2) 「複数投与方法」について、前者では「複数可変投与方法」であって「第一の投与量」が「160mg」、即ち「第二の投与量」の2倍量、であるのに対し、後者では「第一の投与量」が80mg、即ち「第二の投与量」と同量、である点
(以下、順に「相違点1」、「相違点2」ということがある)において、相違する。

(iii) 以下、上記相違点1、2について併せて検討する。
甲第1号証には、甲1発明の複数可変投与方法に係る医薬組成物を、上記相違点1、2に係る事項を併せて具備する複数可変投与方法で投与する医薬組成物とすることについては、具体的に記載されていないし、そのようにすることの示唆も見当たらない。以下、この点について詳述する。

甲第1号証には、相違点1に係る、甲1発明の抗TNFα抗体をクローン病の治療のために適用することの示唆はみられる(1F)ものの、甲1発明における複数投与方法をクローン病に対しても同様に適用することが望ましい旨示唆する箇所は甲第1号証中の何処にも見出せないし、ましてやその際、更に第一投与量を2倍の160mgとする投与方法、即ち相違点2に係る複数可変投与方法、として適用することについてまでは、記載も示唆されていない。

また、相違点2に関し、甲第2号証には、長い半減期を持つ薬の反復投与(複数投与)ではその作用の発現を早め、初回に比較的大量を投与することが好ましいとされており(2B)、初回量を2倍にして負荷(飽和)投与量とした場合には初回量=維持量の場合よりも早く定常状態に近いレベルに導くことが可能であることも記載されている(2C)ことから、かかる甲第2号証の記載に基づけば、甲1発明において第一投与量80mgの量を2倍にすることでリウマチ(RA)に対する抗TNFα抗体の作用発現を高め、以てRAの治療効果の向上を見込むことについて、当業者が一応の動機付けを得ることができたものといえなくもない。
しかしながら、本件特許発明1は、そもそもクローン病を適用対象とするものであって、甲1発明の適用対象であるRAとは、TNFα活性が有害な疾患という点で共通するとはいえ、患部、症状等において本質的に全く異なる疾患である。そして、同一の薬効成分を含む同一薬剤であっても、適用対象疾患が異なれば、その安全かつ有効な用法・用量の範囲も異なるであろうというのが当業者における通常の認識であるから、上述のように甲第2号証の記載に基づいて甲1発明において第一投与量を160mgとしたものを、RAとは異なる疾患であるクローン病に直接転用することは、例え甲第2号証を併せ参酌したとしても、当業者にとり容易に想到し得たこととはいえない。
実際、甲第1号証には、抗TNFα抗体の用法・用量について、隔週投薬が総注射回数、コンプライアンス等の点で毎週投与より有利であること(1B)や、「投与レジメンは最適な所望応答・・・を与えるように調節され得」ること、大量用量1回でも複数回投与でもよいこと、用量例として「10?100mg、より好ましくは20?80mg、最も好ましくは約40mg」が挙げられることの他、用量値は軽減されるべき状態のタイプ及び重篤度により変更し得ること、といった一般的な事項を含む記載(1E)がなされているのみである。また、薬理試験例の項をみても、例えばRA患者へのD2E7の12週間にわたる毎週20、40または80mgのD2E7皮下投与の結果、特に毎週40mg/週の皮下投与により良好な応答が得られたことや、隔週投薬が毎週投薬と同じくらい有効であったこと、D2E7の40mg隔週投与群及び80mg隔週投与群が共に20mg隔週投与群に比してより有効であったことは把握できるものの、40mg隔週投与群と80mg隔週投与群との間で治療効果において格別の差異は見出せない(1G,1J及び1Jで引用されている図1B,2?4,1K)。そして、これらの試験結果からでは、上記二隔週投与方法(40mg隔週投与及び80mg隔週投与)のうち特に80mg隔週投与を選択し、更にその際の第一投与量を80mgの2倍の160mgとしてみること、及び、そうすることにより更なるRA治療効果の増大が見込まれることまでは、当業者といえども具体的に想起し得たとはいえない。
さらに、これらの甲第1号証の記載によらず、およそあらゆる薬剤の任意の用量に係る隔週投与方法において、初回(第一)投与量を2倍にする方がそ同量の複数回投与を採用する場合より常に安全かつ有効である、ということまでが、甲第2号証により十分に裏付けられていたともいえない。

してみれば、そもそもRAを適用対象とする甲1発明の複数投与方法をクローン病に対しても直接転用してみようとすること、及びその際、併せて第一の投与量を第二の投与量の2倍、即ち160mgとすることでクローン病寛解誘導の更なる向上を見込むことは、甲第1号証及び甲第2号証を併せ参酌しても、当業者にとり容易に想到し得たことであるとは到底いえない。

そして、本件特許明細書の実施例1では、上記相違点1及び2に係る事項を併せて具備する、本件特許発明1の複数可変投与方法による医薬組成物とすることで、4週間の治療期間を経たクローン病患者において優れた臨床的寛解の誘導がもたらされることが具体的な試験結果(表1、図1?6)を以て示されており、特に、本件特許発明1に係る医薬組成物が、第一投与量80mg-第二投与量40mgの隔週投与方法を用いた場合よりも優れた寛解誘導効果をもたらし得たことが、それら試験結果から理解できるものである。

また、甲第3号証?甲第6号証は、いずれも本件特許出願後の日付のものであって、本件特許発明1の進歩性の判断に際し参酌することはできず、少なくとも、上の4.(3)?(6)の摘記事項を含む各証拠の全体を参酌しても、本件特許発明1の容易想到性及び有利な効果の顕著性に係る上述の判断が妨げられるものではない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第6号証に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(1-2)本件特許発明2?12について
また、本件特許発明2?12はいずれも、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記(1-1)での本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証?甲第6号証から当業者が容易になし得たものではない。

(1-3)異議申立人の主張について
異議申立人は、申立理由アに関し、異議申立書中で概要以下の(ii-1)?(ii-2)のような主張をしている:
(ii-1) 相違点1に関し、甲第1号証の[甲1-4](1C)及び[甲1-5](1F)の記載に基づきアダリムマブ(D2E7)をクローン病の治療のために使用することは当業者にとり容易に想到し得たことである[異議申立書13頁末行?15頁3行]。また、相違点2に関し、甲2号証の[甲2-1]?[甲2-3](2A?2C)の記載からみて、長い半減期をもつ薬の反復投与では、その作用の発現を早めるために第一回投与量を大量にすること、第一回投与量を第二回投与量の2倍にした場合には第一回投与量を第二回投与量と同じにした場合より早くに定常状態にし得ることが記載されており、この投与方法は本件優先日前から周知・慣用の方法であったといえ、また、抗体医薬が長い半減期をもつ薬であることも周知であるのだから、甲第1号証に記載されている第一回投与量を80mgの2倍の60mgにしてみることは、当業者にとり容易に想到し得たことである[同15頁4行?16頁9行]。実際、甲第3号証でも、アダリムマブのクローン病に対する実際の臨床試験において、リウマチ(RA)の投与量を参考にしつつ、第一投与量を第二投与量の2倍量としている[同16頁10行?17頁11行]。
(ii-2) そして、顕著な効果に関し、医薬品は用法用量の違いによって有効性や有害事象の程度が異なることは当業者が当然予測していることであり、用量用量の違いにより生じた有効性の鎖を当業者が予測できない顕著な効果とすることはできない。そもそも、特許権者は甲第4号証中で、「参考資料1」(甲第6号証)に記載の本件優先日後のデータに基づき、アダリムマブの80/40mg投与よりも160/80mg投与の方がクローン病の1年後の寛解可能性が3.7?4.8倍高かったことは予想外の顕著な効果であると主張しているが、そのような第二の投与の後に更に40mgの投与を行うという事項については、甲第5号証でも指摘されているとおり、本件特許出願当初の明細書に記載されておらず、4週目から隔週で40mgのアダリムマブを1年間投与する発明は本件特許発明には含まれていないのだから、上記データは本件特許発明の顕著な効果を裏付けるものとして進歩性の判断にあたり参酌できるデータではない[同18頁下から7行?22頁8行]。

しかしながら、(1-1)(iii)で説示したとおり、同一医薬品であっても適用対象疾患が異なれば安全かつ有効な用法・用量も異なるものであって、そもそもRAを適用対象とする甲1発明の複数投与方法に係る医薬組成物を直接クローン病に転用することが当業者にとり直ちに想起し得たことではなく、ましてやその際、併せて第一の投与量を第二の投与量の2倍、即ち160mgとすることまでも当業者が容易に想起し得た、とは、甲1?6号証の記載を併せて参酌しても到底いえるものではない。そして、これまた上の(1-1)(iii)で述べたとおり、上記相違点1及び2に係る事項を併せて具備した本件特許発明に係る医薬組成物が、クローン病の臨床的寛解誘導において顕著な効果を奏するものであることは、甲6号証の試験データの参酌の可否等について参酌するまでもなく、本件特許明細書の記載から把握し得ることである。
したがって、これらの異議申立人の主張は採用できない。

(1-4)小括
したがって、本件特許発明1?12は、甲第1号証?甲第6号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立人のいう申立理由アは理由がない。

(2)申立理由イ?エについて
(2-1)(i)いわゆる実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
請求項1に係る発明は、組成物の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明であり、その実施にはその物を使用する行為が含まれる。そして、請求項1発明におけるその物の使用とは、上記組成物をクローン病患者に投与し、かつ、同患者においてクローン病の臨床的寛解を誘導するという薬理作用をもたらすことに他ならないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。
この点を踏まえつつ、あらためて発明の詳細な説明の記載をみるに、既に述べたとおり、実施例1の項では、請求項1の医薬組成物を、同項規定の複数可変投与方法に係る抗TNFα抗体(D2E7)の用法・用量でクローン病患者に適用することで、4週間の治療期間を経たクローン病患者において優れた臨床的寛解の誘導がもたらされることが具体的な試験結果(表1、図1?6)を以て示されており、特に、請求項1規定の複数可変投与方法、即ち、第一投与量160mg-第二投与量80mgの複数可変投与方法、を用いたことにより、第一投与量80mg-第二投与量40mgの複数可変投与方法を用いた場合よりも優れた寛解誘導効果をもたらし得たことが、それら試験結果から把握できるものである。そして、これらの試験結果から、請求項1に係る医薬組成物が、クローン病の臨床的寛解を、当該寛解を必要とする対象、即ちクローン病患者、において誘導するという薬理作用をもたらすことが、当業者にとり十分に認識できるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、いわゆる実施可能要件を満たすものである。

また、請求項2?12は、いずれも請求項1を更に減縮したものであって、しかも、本件特許明細書の各実施例で採用されている抗TNFα抗体であるD2E7は請求項2?4の前記減縮に係る規定を満たすものであるし、第一/第二の投与量を40mg単位或いは80mg単位のセットとしつつ各単位量を予めシリンジに充填して用いることも、要すれば本件特許明細書の段落【0324】の記載に基づき、第一/第二の投与量の各投与を1日置きに行うことも、要すれば同段落【0318】、【0320】の記載に基づき、クローン病患者としてCDAIスコアが220?450の患者を対象とすることも、要すれば同段落【0360】の記載に基づき、いずれも当業者が過度な負担を伴うことなく容易になし得るといえることを踏まえると、請求項2?12に係る発明もまた、請求項1に係る発明と同様、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、よっていわゆる実施可能要件を満たすものである。

(ii)いわゆるサポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ここで、本件特許発明は、上述のとおりの組成物の発明であって、その課題は、本件特許明細書の段落【0006】に記載されているとおりの「TNFα活性が有害であるTNFα関連障害の治療を改善する」ことであり、これを各請求項の規定を踏まえいいかえれば、クローン病患者においてクローン病の臨床的寛解を誘導するという薬理作用をもたらすことに他ならない。
この点を踏まえつつ発明の詳細な説明をみるに、(i)で検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、各請求項に係る医薬組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているといえることから、各請求項の発明は、いずれも発明の詳細な説明の記載により当業者がそれら発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえる。
したがって、請求項1?12に係る発明は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであり、いわゆるサポート要件を満たすものである。

(iii)明確性(特許法第36条第6項第2号)について
請求項1?12の記載をみても、発明を特定する事項において特段不明確な部分が存在するものとは認められないし、各請求項が各々全体として発明を把握する上で明確性を欠いているとする特段の不備を見出すこともできない。

(2-2)異議申立人の主張について
異議申立人は、申立理由イ?エの具体的根拠について、異議申立書において
『 本件特許発明1は、
・・・第一投与量、第二投与量、第二投与の時期は特定され含まれることが記載されているが、それ以外は特定されず、いかなる方法が含まれてもよいということになる。
他方、・・・発明の詳細な説明の実施例には、初回に160mg、2週間後に80mgを投与する方法により、4週時にクローン病を寛解できることは開示されているが、それ以外の投与方法については、何ら記載されていない・・・。4週時以降については、どうような投与方法により、寛解が維持されるのか何ら証明されていないということである。』[異議申立書23頁14?26行。下線は当審による。]
と述べているのみである。
そして、ここでいう「どうような」が、例えば「同様な」の意か、或いは「どのような」の意であるのか判然としないものの、いずれにしても、(2-1)で検討したとおり、また、異議申立人自身「発明の詳細な説明の実施例には、初回に160mg、2週間後に80mgを投与する方法により、4週時にクローン病を寛解できることは開示されている」と認めているとおり、発明の詳細な説明では各請求項に係る発明について当業者が理解かつ実施できるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされていない、とはいえないし、各請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない、ということもできないのであって、単に発明の詳細な説明で4週時以降の寛解効果について具体的に証明されていないからといって、そのことを以て上の(2-1)の判断が左右されるものではない。
さらに、各請求項の複数可変投与方法に係る規定以外の事項、例えば異議申立人のいう4週時以降の投与方法、が不特定であることのみを以て、各請求項の記載が直ちに明確性を欠くものであるとはいえないし、そのようにいえる十分具体的かつ合理的な根拠を異議申立人が示しているわけでもない。

(2-3)小括
したがって、請求項1?12について、申立理由イ?エはいずれも理由がない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-22 
出願番号 特願2007-507540(P2007-507540)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 大久保 元浩
齋藤 恵
登録日 2015-05-22 
登録番号 特許第5748317号(P5748317)
権利者 アッヴィ バイオテクノロジー リミテッド
発明の名称 TNFα関連障害を治療するための複数可変投薬計画  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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