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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05H
管理番号 1313325
審判番号 不服2014-21295  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-22 
確定日 2016-04-25 
事件の表示 特願2009-252458「プラズマ表面処理装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日出願公開、特開2011- 96616、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年11月2日の出願であって、原審において平成25年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年12月17日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成26年2月24日付けで意見書が提出されたが、同年7月10日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対し、同年10月22日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同時に手続補正(以下、「審判請求時補正」という。)がなされ、平成27年1月22日付けで前置報告がなされ、同年10月23日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、平成28年1月8日付けで意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正前補正」という。)がなされ、同年1月26日付けで当審より最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年2月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項8につき、本件補正前補正の請求項8の
「請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面が切削加工によって形成されていることを特徴とするプラズマ表面処理装置の製造方法。」

「請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置の製造方法において、前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面を切削加工によって形成することを特徴とするプラズマ表面処理装置の製造方法。」
に補正するものである(下線は、請求人が付したとおりのものである。)。

2 補正の適否
2-1 本件補正は、本件補正前補正の請求項8における、「・・・プラズマ表面処理装置において、・・・が切削加工によって形成されている」「プラズマ表面処理装置の製造方法」との記載が、何が方法の発明の構成であるのか不明確であるとの、当審拒絶理由2に対応して補正したものであって、本件補正により、「・・・プラズマ表面処理装置の製造方法において、・・・を切削加工によって形成する」「プラズマ表面処理装置の製造方法」となり、「切削加工によって形成する」ことが方法の発明の構成であることが明確となった。
したがって、上記補正事項は、当審拒絶理由2に係る拒絶の理由に示す事項に対するものであって、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法17条の2第3項に違反するところはなく、さらに、同条第2項に違反するところもない。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は適法である。

第3 本件発明
上記のとおり、本件補正は適法であるので、本願請求項1ないし8に係る発明(以下、請求項1ないし8に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、次の各請求項に記載されたとおりのものと認められる。
「【請求項1】
大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて前記被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置であって、
前記電圧印加電極は、筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、円筒状の外周面を有し、
前記接地電極は、前記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する一対の金属電極で構成され、これら一対の金属電極の電極対向面がそれぞれ前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置されることにより、前記電圧印加電極の頂上側に処理ガスの導入口が形成されるとともに、電圧印加電極の底部側に処理ガスの吹出口を形成し、かつ、前記電圧印加電極の外周面と前記接地電極の電極対向面との間に形成された放電空間で発生する紫外線が、前記接地電極によって前記被処理基板に直接照射されないように構成した
ことを特徴とするプラズマ表面処理装置。
【請求項2】
前記電圧印加電極を構成する固体誘電体としてセラミックス製の円筒パイプが用いられていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項3】
前記電圧印加電極を構成する金属電極として金属製の円筒パイプが用いられていることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項4】
前記電圧印加電極を構成する筒状の固体誘電体と該固体誘電体内に挿入される金属電極との間には、その隙間を埋める充填材が充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項5】
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面は陽極酸化処理された面で構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項6】
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面にはステンレス製の部材が装着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項7】
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面にはセラミックス製の部材が装着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置の製造方法において、前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面を切削加工によって形成することを特徴とするプラズマ表面処理装置の製造方法。」

第4 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)平成25年6月6日付けで原審において通知された拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「理由 1
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由 2
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-109799号公報
2.特開平6-65739号公報
3.特開2007-59385号公報
4.特開2004-103423号公報

理由 1
請求項1について
引用文献1参照
請求項1に係る発明は引用文献1に記載されている(全文、図1?6及び10参照)。

理由 2
請求項1について
引用文献1参照

請求項2について
引用文献1及び2参照
プラズマ表面処理装置において、電極は「断面円弧状の形態」であることは周知である(引用文献2段落【0001】、【0025】、図3及び4参照)。
してみると、引用文献1記載の発明に前記周知技術を適用して、本願請求2に係る発明とすることは、当業者にとってよういである。

請求項3?5について
引用文献1?3参照
プラズマ表面処理装置において、「固体誘電体としてセラミックス製の円筒パイプ」であることは周知である(引用文献3段落【0001】、【0007】?【0020】、図2及び3参照)。
してみると、引用文献1記載の発明に前記周知技術を適用して、本願請求3?
5に係る発明とすることは、当業者にとってよういである。

請求項6?8について
引用文献1?4参照
プラズマ表面処理装置において、「アルミニウム製の電極に陽極酸化処理が施されている」ことは周知である(引用文献4段落【0001】、【0021】?【0023】、図1及び2参照)。
してみると、引用文献1記載の発明に前記周知技術を適用して、本願請求6?8に係る発明とすることは、当業者にとってよういである。」

(2)平成25年12月17日付けで原審において通知された最後の拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「理 由

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-109799号公報
2.特開平6-65739号公報
3.特開2007-59385号公報
4.特開2004-103423号公報
5.特表2008-529243号公報

理由
請求項1?8について
引用文献1?5参照
プラズマ表面処理装置において、分割された外部電極を用いることは周知である(引用文献5段落【0001】、【0020】?【0023】及び図4参照)。
してみると、引用文献1?5の記載に基づいて、本願請求項1?8に係る発明とすることは当業者にとって容易である。」

2 原査定の理由についての当審の判断
(1)刊行物の記載及び引用発明(下線は当審が付した。以下同じ。)
ア 原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-109799号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、プラズマ化されたガスを対象物に照射して洗浄処理や表面処理をするプラズマ処理装置に関する。・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のような従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。例えば、図11(a)に示すような大気圧プラズマ処理装置は、直径約10cm以下の半導体ウエハなどの処理に広く採用されている。また、図11(b)に示すような装置は、スポット状の局部的な基板洗浄や、ライン状の部分の洗浄に適する。」

(イ)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を具体例を用いて説明する。
〈具体例1〉図1は、具体例1のプラズマ処理装置の主要部縦断面図である。図より、具体例1のプラズマ処理装置は、外部誘電体1、外部電極2、内部誘電体3、内部電極4、交流電源5とからなり、上記外部誘電体1は、プラズマ噴出口6、ガス供給口7とを備える。具体例1のプラズマ処理装置では、棒状の内部電極4のまわりに筒状の内部誘電体3が配置されている。その外側に、筒状の外部誘電体1が配置され、この外部誘電体1の外側に外部電極2が配置されている。内部電極4と内部誘電体3と外部誘電体1と外部電極2とは、それぞれ互いに同軸的に配置されている。外部誘電体1に設けられたガス供給口7から導入されたガスは、内部誘電体3と外部誘電体1との間を流れる。このガスは、内部電極4と外部電極2との間に印加される交流電源によってプラズマ化される。このプラズマ化されたガスは、外部誘電体1に設けられた多数の噴出口6から噴出されて被処理基板8に照射され、表面洗浄や表面処理がなされる。
【0016】外部誘電体1と内部誘電体3とは、両者の間にプラズマ化されるガスの通路を形成している。外部誘電体1と内部誘電体3とは、石英ガラス管などの絶縁体の筒から構成される。外部電極2は、内部電極4と共に、上記外部誘電体1と内部誘電体3との間の隙間に高周波高電界を励起する電極である。この高周波高電界によって、隙間を通るガスがプラズマ化される。外部電極2は、内部電極4は、上記外部誘電体1の外周面に導体を密着して形成される。これらの電極は、例えば、外部誘電体1の外周面に真空蒸着法や無電解メッキ法などを用いて形成された金属薄膜からなる。また、例えば、外部誘電体1の外周面に貼り付けられた金属箔からなる。尚、この実施例では、外部電極2は、外部誘電体1の外周面のうち、プラズマ噴出口6の周辺を除外した部分に形成されている。
【0017】内部誘電体3は、内部電極4の外周面にかぶせられた石英ガラス管などの絶縁体の筒からなる。内部誘電体3の外周面と外部誘電体1の内周面との間の距離は、プラズマ化されるガスの通路を確保し、かつ、この隙間にプラズマを発生させるために必要とされる適正な電界を形成する条件に基づいて選定される。
【0018】内部電極4の周りに内部誘電体3のチューブを密着させるようにかぶせてもよいし、内部誘電体3のパイプの中に適当な寸法の金属棒状の内部電極4をはめ込むようにしてもよい。また、内部誘電体3のパイプの内周面に無電界メッキ法を用いて内部電極4を形成してもよい。いずれの場合にも、内部電極4周辺や内部電極4と内部誘電体3との間に空気等が存在しないほうがよいため、内部誘電体3の両端を密封しておくことが好ましい。・・・
【0020】プラズマ噴出口6は、外部誘電体1と内部誘電体3との間に発生したプラズマを、被処理基板8側に噴出させるために設けられたもので、外部誘電体1に多数個設けられた貫通穴である。プラズマは、ガス供給口7から供給されるガスの圧力により、プラズマ噴出口6から押し出されるように噴出する。ガス供給口7は、内部誘電体3と外部誘電体1との間の隙間にガスを導入するための吸入口である。
【0021】図2は、図1の装置の主要部を示し、(a)は、プラズマ処理装置の主要部を拡大して分解したところを示す斜視図、(b)は、プラズマ処理装置の拡大横断面図である。図2(a)に示すように、棒状の内部電極4は、内部誘電体3の内側にほぼ密着するように挿入されている。また、内部誘電体3と外部誘電体1との間には、ガスを導入しプラズマを発生させるための一定の隙間が設けられている。外部誘電体1の外側には、外部電極2が密着するように配置されている。内部電極4と内部誘電体3と外部誘電体1とは、図示していない支持金具によって同軸的に支持されている。
【0022】図2の(b)に示すように、外部電極2は外部誘電体1の外周のほぼ全面を覆うように配置されている。また、外部誘電体1の下側に多数個のプラズマ噴出口6が配置されており、この周辺部は、外部電極2が設けられていない。安定したプラズマの維持を図るために、図に示すように、プラズマ噴出口6の周辺は一定の面積だけ、外部電極2の無い緩衝地帯を設けている。プラズマ噴出口6の部分での沿面放電等を防止するためである。このプラズマ噴出口6からは図のように広がりを持ったガスが噴出することが好ましい。その理由とそのための構成等を図3と図4を用いて説明する。」

(ウ)図1及び2は、次のものである。


(エ)引用発明
上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
「外部誘電体1、外部電極2、内部誘電体3、内部電極4、交流電源5とからなり、上記外部誘電体1は、プラズマ噴出口6、ガス供給口7とを備え、
棒状の内部電極4のまわりに筒状の内部誘電体3が配置され、
その外側に、筒状の外部誘電体1が配置され、この外部誘電体1の外側に外部電極2が配置され、
前記外部電極2は、金属薄膜からなり、
内部電極4と内部誘電体3と外部誘電体1と外部電極2とは、それぞれ互いに同軸的に配置され、
外部誘電体1に設けられたガス供給口7から導入されたガスは、内部誘電体3と外部誘電体1との間を流れ、
前記ガスは、内部電極4と外部電極2との間に印加される交流電源によってプラズマ化され、
前記外部誘電体1の下側に多数個のプラズマ噴出口6が配置され、
プラズマ化されたガスは、外部誘電体1に設けられた多数の噴出口6から噴出されて被処理基板8に照射され、表面処理がなされ、
前記外部電極2は、内部電極4と共に、前記外部誘電体1と内部誘電体3との間の隙間に高周波高電界を励起する電極であって、前記高周波高電界によって、隙間を通るガスがプラズマ化される大気圧プラズマ処理装置であり、
前記内部誘電体3は、内部電極4の外周面にかぶせられた石英ガラス管などの絶縁体の筒からなる、表面処理をするプラズマ処理装置。」

イ 同じく、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-65739号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
プラズマ表面処理装置において、電極は「断面円弧状の形態」である点(段落【0001】、【0025】、図3及び4)。

ウ 同じく、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-59385号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
プラズマ表面処理装置において、「固体誘電体としてセラミックス製の円筒パイプ」である点(段落【0001】、【0007】?【0020】、図2及び3)。

エ 同じく、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-103423号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
プラズマ表面処理装置において、「アルミニウム製の電極に陽極酸化処理が施されている」点(段落【0001】、【0021】?【0023】、図1及び2)。

オ 同じく、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2008-529243号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明はプラズマ浄化、表面変性及び表面被覆のために使用可能なプラズマ処理装置に関する。特に、本願は新規なプラズマジェットに関する。」

(イ)「【0020】
図4は本発明による平行プラズマジェット装置の可能な特別な形状を示す。この形状では、プラズマジェットの前記開放端に中心金属電極15の全長に沿って丸い延長部30がある。図4に示されるように、特別に形成された誘電材料(18,19)と外部金属電極(16,17)の両者は中心電極の外表面と電気絶縁体の内表面の間の一定(±1mm)の距離を保証するために特別な形を持つ。参照番号60はプラズマジェットの高さ、5は均質な有効プラズマ残光の幅を示し、そして61は平行電極間のプラズマ領域の長さを示す。丸い延長部30のため、残光の濃度及び従って残光内のプラズマ密度は増加される。
【0021】
一般的に、本発明によるプラズマジェットを用いるとき次の動作特性が使用されることができる:
- 10cmの電極高さ50を持つ管状装置(以下、管状装置と称する)のための電力:20-750ワット;
- 10cmの電極高さ(50,60)と10cmの電極長さ(61)を持つ平行装置(一つの外部電極を持つ平行装置を含む)(以下、平行装置と称する)のための電力:100-5000ワット。付与される電力は用途に依存する。
- 電圧(8):1-100kV
- プラズマガス流(6):管状装置に対しては1-400 l/分、平行装置に対しては10-4000 l/分。
- 予熱プラズマガスの温度:20-400℃(これはプラズマガスがプラズマジェット内に挿入される前に400℃迄予熱されることができることを意味する)。
- プラズマガス:N_(2),空気,He,Ar,CO_(2)+これらのガスとH_(2),O_(2),SF_(6),CF_(4),飽和及び不飽和炭化水素ガス、フッ素化炭化水素ガスの混合物。
- モノマー流:1-2000g/分(中心電極内の導管7を通して直接プラズマ残光中に)。
- 供給ガス流:0.1-30 l/分(中心電極内の導管7を通して直接プラズマ残光中に)。
- 内部間隙距離(4):0.1-10mm(プラズマガス及び用途に依存して)。
- 均質なプラズマ領域の直径(管状装置に対して)または幅(5)(平行装置に対して):6-80mm。
- 有効プラズマ残光の長さ:5-100mm(用途に依存して)。
【0022】
高電圧ACまたはパスルDC電力が電極の一つにかけられると、誘電遮断体放電が誘電体と内部電極の間に起こる。プラズマからの活性種がプラズマガス流によりプラズマジェットから吹き出される。この残光は試料に向けられ、この方式で3-D対象物がプラズマ処理されることができる。パルスDC電力が使用される場合、周波数は好ましくは1?200kHzから、有利には50?100kHzである。
【0023】
本発明によるプラズマジェット装置から半径方向または外向きに延びる誘電体の利点は次の三つの概念:プラズマ源への距離、活性化の幅及びプラズマガスの消費、によりまとめられることができる。」

(ウ)図4は、次のものである。


(2)対比・判断
ア 引用発明と本件発明1との対比・判断
(ア)引用発明と本件発明1を対比する。
a 引用発明の「プラズマ処理装置」は、「外部誘電体1、外部電極2、内部誘電体3、内部電極4、交流電源5とからなり、上記外部誘電体1は、プラズマ噴出口6、ガス供給口7とを備え」、「前記ガスは、内部電極4と外部電極2との間に印加される交流電源によってプラズマ化され、前記外部誘電体1の下側に多数個のプラズマ噴出口6が配置され、プラズマ化されたガスは、外部誘電体1に設けられた多数の噴出口6から噴出されて被処理基板8に照射され、表面処理がなされ、前記外部電極2は、内部電極4と共に、前記外部誘電体1と内部誘電体3との間の隙間に高周波高電界を励起する電極であって、前記高周波高電界によって、隙間を通るガスがプラズマ化される大気圧プラズマ処理装置であ」るから、本件発明1の「プラズマ表面処理装置」と、「大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて前記被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置であ」る点で一致する。

b 引用発明の「内部電極4」は、「棒状」であって「まわりに筒状の内部誘電体3が配置され」、「内部電極4と内部誘電体3」「とは、それぞれ互いに同軸的に配置され」るものであって、かつ「前記内部誘電体3は、内部電極4の外周面にかぶせられた石英ガラス管などの絶縁体の筒からなる」ものであるから、筒状の一体成形された内部誘電体3に金属棒状の内部電極4をはめ込んでなる構造からなり、筒状の外周面を有するものであるといえる。
したがって、引用発明の、「棒状」であって「まわりに筒状の内部誘電体3が配置され」、「内部電極4と内部誘電体3」「とは、それぞれ互いに同軸的に配置され」るものであって、かつ「前記内部誘電体3は、内部電極4の外周面にかぶせられた石英ガラス管などの絶縁体の筒からなる」「内部電極4」は、本件発明1の「筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、円筒状の外周面を有」する「電圧印加電極」に相当する。

c 引用発明の「外部電極2」は、「まわりに筒状の内部誘電体3が配置され」た「棒状の内部電極4の」「外側に、筒状の外部誘電体1が配置され、この外部誘電体1の外側に外部電極2が配置され、前記外部電極2は、金属薄膜からなり、内部電極4と内部誘電体3と外部誘電体1と外部電極2とは、それぞれ互いに同軸的に配置され」るものであるから、本件発明1の「前記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する一対の金属電極で構成され、これら一対の金属電極の電極対向面がそれぞれ前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置される」「接地電極」と、「前記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する金属電極で構成され、金属電極の電極対向面が前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置される」「接地電極」の点で一致する。

d 引用発明の「噴出口6」が、「外部誘電体1の下側に多数個」「配置され」、「プラズマ化されたガスは」、「噴出されて被処理基板8に照射され、表面処理がなされ」る点は、本件発明1の「電圧印加電極の底部側に処理ガスの吹出口を形成」る点に相当する。

e 上記aないしdによれば、本件発明1と引用発明とは、
「大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて前記被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置であって、
前記電圧印加電極は、筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、円筒状の外周面を有し、
前記接地電極は、前記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する金属電極で構成され、金属電極の電極対向面が前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置され、電圧印加電極の底部側に処理ガスの吹出口を形成した、プラズマ表面処理装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(a)本件発明1の「接地電極」は、「一対の」金属電極で構成され、「これら一対の」金属電極の電極対向面が「それぞれ」前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置され「ることにより、前記電圧印加電極の頂上側に処理ガスの導入口が形成される」のに対して、引用発明の「外部電極2」及び「ガス供給口7」は、このように構成されない点(以下「相違点1」という。)

(b)本件正発明1の「接地電極」は、「前記電圧印加電極の外周面と前記接地電極の電極対向面との間に形成された放電空間で発生する紫外線が、前記接地電極によって前記被処理基板に直接照射されないように構成した」のに対して、引用発明の「外部電極2」は、このように構成されるものと特定されない点(以下「相違点2」という。)

(イ)判断
a 上記相違点2について検討する。
本件発明1は、「被処理体への紫外線照射の少ない電極構造を低コストで提供できるプラズマ表面処理装置を提供する」(本願明細書 段落【0010】)という課題を解決することを目的とするものであるところ、引用文献1にはそのような課題がなく、引用発明において、上記相違点2の構成となす動機はない。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成となすことは想定できない。
また、上記(1)アないしオに係る、引用文献1ないし5に記載された事項を参酌しても、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成となすことが当業者にとって容易であるとはいえない。

b 上記相違点1について検討する。
本件発明1は、「被処理体への沿面放電のおそれがなく、しかも被処理体への紫外線照射の少ない電極構造を低コストで提供できるプラズマ表面処理装置を提供する」(本願明細書 段落【0010】)という課題を解決することを目的として、「金属電極71,71がこのように配置されることにより、このプラズマ表面処理装置1では、図2に示すように、コンベア2の搬送方向Xの前後にそれぞれ半円弧状の放電空間G,Gが形成されることとなり、電圧印加電極6の頂上側の処理ガス導入口75から導入される処理ガスは、この半円弧状の放電空間G,Gを通って(図2の矢符参照)、電圧印加電極6の底部側に設けられた処理ガスの吹出口76からが被処理基板wに向けて吹き出されることとなる。このように放電空間Gが半円弧状に形成されることから、プラズマ放電により放電空間Gで発生する紫外線は、電圧印加電極6側に張り出した電極対向面7aによって遮られ、コンベア2上の被処理基板wに直接照射されることがない。そのため、放電空間Gで発生する紫外線の照射によって被処理基板wが変質する(ダメージを受ける)のが防止され」(同段落【0043】)、また、「金属電極71は、矩形断面を有するアルミニウム製のブロックを所定の形状に加工したものであって、具体的には、アルミニウム製のブロックに上記電極対向面7aとなる断面円弧状の溝や上記処理ガスの導入口75、吹出口76などを切削加工によって形成するとともに、冷却液の流路となる冷却液流路72を穿ったものである。このように、本実施形態では、金属電極71(接地電極7)の形状が一般的な平板電極と比較して複雑なものになるが、金属電極71はアルミニウム製とされているので複雑な形状であって容易かつ安価に加工することができる」(同段落【0044】)ものであるところ、上記(a)で検討したとおり、引用発明は、上記課題を解決するものではないため、引用文献5に記載された構成を引用発明の「外部電極2」及び「ガス供給口7」に適用して、上記相違点1に係る本件発明1の構成となす動機はない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成となすことは想定できない。
また、上記(1)アないしオに係る、引用文献1ないし5に記載された事項を参酌しても、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成となすことが当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、当業者が引用発明及び引用文献1ないし5の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 本件発明2ないし8と引用発明との対比・判断
本件発明2ないし8は、本願請求項1を引用するものであって本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記アのとおり、本件発明1が、当業者が引用発明及び引用文献1ないし5の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない以上、本件発明2ないし8は、当業者が引用発明及び引用文献1ないし5の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

(3)以上(1)及び(2)での検討によれば、本件発明1ないし8は、当業者が引用発明及び引用文献1ないし5の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである

3 まとめ
したがって、本件発明1ないし8は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第5 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1の概要は以下のとおりである。
「理 由

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第1 請求項6(及び請求項6を引用する請求項8)について
請求項6(及び請求項6を引用する請求項8)には、「耐プラズマ性を有する金属製の部材」と記載されているが、「耐プラズマ性」が材料のどのような性質を規定したものであるのか不明であって、結果として、「耐プラズマ製を有する金属製の部材」がどのような部材であるのか不明確である。

第2 請求項5(及び請求項5を引用する請求項8)及び請求項8について
請求項5(及び請求項5を引用する請求項8)は、「プラズマ表面処理装置」という物の発明であるが、「陽極酸化処理が施されている」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
同様に、請求項8は、「プラズマ表面処理装置」という物の発明であるが、「切削加工によって形成されている」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項5(及び請求項5を引用する請求項8)及び請求項8に係る発明は明確でない。」

(2)当審拒絶理由2の概要は以下のとおりである。
「[理由]
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)本願請求項8は、「請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面が切削加工によって形成されている」「プラズマ表面処理装置の製造方法」であることを発明特定事項とするものである。
しかしながら、「・・・プラズマ表面処理装置において、・・・が切削加工によって形成されている」「プラズマ表面処理装置の製造方法」との記載では、何が方法の発明の構成であるのか不明確である。
したがって、請求項8に係る発明は明確でない。」

2 当審拒絶理由の判断
(1)本件補正前補正によって、本願の請求項6において、「耐プラズマ性を有する金属製」は「ステンレス製」と補正された。

(2)また、本件補正前補正によって、本願の請求項5において、「陽極酸化処理が施されている」は、「陽極酸化処理された面で構成されている」と補正された。

(3)さらに、本件補正によって、本願の請求項8において、「前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面は切削加工によって形成されていることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置」は「請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置の製造方法において、前記接地電極を構成する金属電極の前記電極対向面を切削加工によって形成することを特徴とするプラズマ表面処理装置の製造方法」と補正された。

(4)このことにより、本願の請求項5、6、8に係る発明は明確となった。
よって、当審拒絶理由1及び2に係る拒絶の理由は解消した。

(5)したがって、本願の請求項5、6、8は、当審拒絶理由1及び当審拒絶理由2に係る拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

3 まとめ
したがって、本件発明1ないし8は、当審拒絶理由1及び2を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第6 まとめ
したがって、本件発明1ないし8は、原査定の理由及び当審で通知した理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-04 
出願番号 特願2009-252458(P2009-252458)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05H)
P 1 8・ 537- WY (H05H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 靖  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 井口 猶二
松川 直樹
発明の名称 プラズマ表面処理装置およびその製造方法  
代理人 寒川 潔  
代理人 佐野 章吾  

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