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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E21B
管理番号 1313336
審判番号 無効2013-800230  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-17 
確定日 2016-04-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第2981164号発明「掘削装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2981164号(請求項の数[5]、以下、「本件特許」という。)は、平成8年1月18日に特許出願された特願平8-6900号に係るものであって、その請求項1?5に係る発明について、平成11年9月17日に特許権の設定登録がなされた。
その後、平成16年10月7日付けで本件特許に対して、訂正審判〔訂正2004-39229号〕の請求がされ、平成16年11月24日に「特許第2981164号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされた。
そして、平成25年12月17日に、本件特許の請求項1?5に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2013-800230号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の平成26年3月14日付けで審判事件答弁書が提出され、同年5月7日付けで請求人より上申書が提出され、同年6月11日付けで請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年6月16日及び同年6月25日付けで被請求人より上申書が提出され、同年6月25日に口頭審理が行われ、同年7月9日付けで請求人より上申書が提出され、同年7月24日付けで被請求人より上申書が提出されたものである。


第2 当事者の主張
1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許2981164号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、審判請求書、平成26年5月7日付け上申書、同年6月11日付け口頭審理陳述要領書、同年7月9日付け上申書及び、同年6月25日の口頭審理において、甲第1?8号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願日前に頒布された甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

なお、平成26年7月9日付け上申書では、「『ダウンザホールハンマ工法』の技術要素を『アースオーガ工法』の技術要素に転用して組み合わせることが当業者にとって容易であることを示す」として甲第7号証が、『ケーシングによって孔壁の崩壊防止を行わせながら、このケーシングによって回転反力を得る技術』が本件特許の出願前から公知であることを示す」として甲第8号証が提出されたが、平成26年6月25日の口頭審理で確認した上記無効理由を変更するとはされていないので、請求人の主張する無効理由は、口頭審理調書に記載されている、上記のものとして取り扱う。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭63-219787号公報
甲第2号証:特開昭63-219786号公報
甲第3号証:「建設機材・工法ハンドブック」株式会社建設産業調査会(昭和47年8月15日第3刷発行)の表紙、1-6頁、奥付の写し
甲第4号証:特開昭50-9907号公報
甲第5号証:特開平5-202687号公報
甲第6号証:特開平2-85495号公報
甲第7号証:日本建設機械化協会出版、土木雑誌「建設の機械化」1995年9月号(平成7年9月25日発行)の部分複写物
甲第8号証:特開昭55-78786号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、平成26年3月14日付け審判事件答弁書、同年6月11日付け口頭審理陳述要領書、同年6月16日付け上申書、同年6月25日付け上申書、同年7月24日付け上申書及び、同年6月25日の口頭審理において、乙第1号証を提示し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
請求人の主張する無効理由には理由がない。

[証拠方法]
乙第1号証:「土木施工」平成13年(2001年)8月号 発行元インデックス出版 第3頁?第11頁「下部工における新しい桟橋・構台の構築方法」の記事の写し

第3 本件に係る発明
本件特許の請求項1?5に係る発明は特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(「A.」?「L.」の文字は当審で付与。)
「【請求項1】
A.昇降可能に支持される回転駆動装置と、
B.先端に掘削ビットを有し、回転駆動装置下部の回転駆動軸に一体回転可能に連結される掘削軸部材と、
C.掘削軸部材に套嵌されると共に、回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される固定ケーシングと、
D.掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され、固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔を有するケーシング回り止め部材と、からなる
E.掘削装置。
【請求項2】
F.固定ケーシングは円筒状のケーシングからなり、
G.この円筒状固定ケーシングの外周面に係合用突条部が長手方向全長に亘って条設されており、
H.ケーシング回り止め部材は、前記円筒状固定ケーシングが挿通可能な円形孔部と、この円形孔部の内周部に凹設されていて前記係合用突条部が挿通可能な係合用凹部とからなるケーシング挿通孔を備えてなる請求項1に記載の掘削装置。
【請求項3】
I.ケーシング回り止め部材は、平板状に形成されていて、掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定されるようになっている請求項1または2に記載の掘削装置。
【請求項4】
J.ケーシング回り止め部材は、前記支持部材の長手方向と直交する方向の分割線に沿って2分割された一対の半割板からなる請求項3に記載の掘削装置。
【請求項5】
K.前記一対の支持部材の上面には、ケーシング回り止め部材を両支持部材間の中心位置に位置決めするための複数の位置決め突起が、掘孔箇所ごとに支持部材長手方向所定ピッチで突設されており、
L.ケーシング回り止め部材には前記位置決め突起が係合可能な係合部が設けられている請求項3または4に記載の掘削装置。」(以下、「本件特許発明1」等という。)


第4 無効理由についての当審の判断
1.甲第1?甲第6号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、削孔装置に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「本発明の削孔装置7は第2図、第3図に示すようにクレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と、この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と、この回転出力軸9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と、前記回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部8の上部から前記削孔用具部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と、この固定スリーブ管12の下端外周に例えば互いに180°離間した位置から水平方向に延びるように設けた一対の固定アーム13と、前記固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と、前記固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう例えば互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と、この帯状突起15の側面に係合するよう前記回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成する。」(第2頁右上欄1?20行)
(イ)「本発明の削孔装置は上記のような構成であるからその使用に際しては先ず斜面1の削孔地点に固定スリーブ管12が鉛直に立つ程度のスペースを手掘りし更に固定アーム13を斜面lの等高線上で収容出来る程度の幅で係合溝を手掘りする。
次にクレーン4によってロープ6を介して削孔装置7を吊下し、削孔用具10を削孔地点に設置し、前記係合溝内に削孔装置7の固定アーム13を係合せしめ、この状態で回転駆動部8を駆動せしめる。
この結果回転出力軸9の回転と共に回転駆動部8も一体に回転するが、回転駆動部8のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で回転駆動部8の回動が停止し、回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになる。」(第2頁左下欄1?17行)
(ウ)「削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し、固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される。」(第2頁右下欄2?6行)
(エ)「本発明の他の実施例においては第4図、第5図に示すように一対の固定アーム13を固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定し、このリング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19に係合することによって前記リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにする。
この実施例によれば固定アーム13を固定スリーブ管12に相対的に軸方向に所定長さだけ移動出来るので斜面1に対する削孔装置7の初期設定が容易となる。」(第2頁右下欄10行?第3頁左上欄2行)
(オ)「上記のように本発明削孔装置によれば仮設桟橋等を構築する必要がなく、又如何なる地点にも極めて容易に削孔することが出来る大きな利益がある。」(第3頁左上欄4?7行)
(カ)第2図には、固定スリーブ管12の、上端側に回転駆動部8が、下端側に削孔用具10が、その間に回転出力軸9が位置したものが記載されている。
そして、上記(ウ)を参酌すると、当該状態は削孔前の状態といえる。

上記記載事項から、甲第1号証には、第4図、第5図に示す実施例に着目して、次の発明が記載されているものと認められる。
「クレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と、この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と、この回転出力軸9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と、前記回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部8の上部から前記削孔用具部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と、この固定スリーブ管12の下端外周に例えば互いに180°離間した位置から水平方向に延びるように設けた一対の固定アーム13と、前記固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と、前記固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう例えば互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と、この帯状突起15の側面に係合するよう前記回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成する削孔装置7であって、
一対の固定アーム13を固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定し、このリング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19に係合することによって前記リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにされ、
削孔前は、固定スリーブ管12の、上端側に回転駆動部8が、下端側に削孔用具10が、その間に回転出力軸9が位置し、
クレーン4によってロープ6を介して削孔装置7を吊下し、削孔用具10を削孔地点に設置し、係合溝内に削孔装置7の固定アーム13を係合せしめ、この状態で回転駆動部8を駆動せしめ、この結果回転出力軸9の回転と共に回転駆動部8も一体に回転するが、回転駆動部8のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で回転駆動部8の回動が停止し、回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになり、
削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し、固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される、
削孔装置7。」(以下、これを「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、削孔装置に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「(従来装置)
従来平坦地を除く斜面状の地形部に基礎杭や山留め杭等を打ち込む目的で削孔を必要とする場合には第6図に示すように斜面1に仮設桟橋2を構築するか或いは第7図に示すように斜面lの土砂を段切り掘削してその上に回転式又は回転打撃式の削孔機3を搭載固定して削孔している。
この削孔の為の仮設工事は削孔機3の大きさ、削孔仕様等により規模の大小はあるが工事量全体の20?30%を占める場合があり、特に1本当たりの削孔長が比較的浅い場合はこの割合が更に増加することになる。
(発明の目的)
本発明の目的は上記のような欠点を除去した削孔装置を得るにある。」(第1頁右下欄第8行?第2頁左上欄3行)
(イ)「本発明の削孔装置7は第2図、第3図に示すようにクレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と、この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と、この回転出力軸9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と、前記回転駆動部8の回転出力軸9の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部8から所定ストローク長さだけ下方に延びる非回転外筒11と、・・・」(第2頁右上欄第5?13行)
(ウ)「上記のように本発明削孔装置によれば仮設桟橋等を構築する必要がなく、・・・」(第3頁左上欄第13?14行)

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、OGB工法に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「アウターカッターは既製の中空杭を用いる場合に、その径に合わせて拡縮できるようになっている。」(1-6頁第21?22行)
(イ)1-6頁中段には、「切削状況」及び「No.1大口径掘削機」の写真が掲載されている。

(ウ)図-2には、施工方法図が記載されている。


(4)甲第4号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、鋼管矢板の建込み方法に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「第3図図示の鋼管矢板1両側にガイドリング3を配設してこれにまたがつて回転止め4を設けるなどで、鋼管矢板の位置のずれ、回転等を防止して・・・」(第1頁右下欄第3?6行)

(5)甲第5号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、大口径竪孔の掘削工法及びその装置に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0011】そして1ストローク(単位ケーシングチューブ長さ)分の掘削が終わると、筒状アダプタ4を大口径ケーシングチューブ2の上端部から取外し、次いで昇降駆動装置6により筒状アダプタ4を架台3に干渉しない位置まで上昇させ、次いで水平移動装置12により筒状アダプタ4を横行させ、次いでクレーン10により新たな大口径ケーシング2を持込み、これを下側の大口径ケーシング2に継ぎ足し、次いで水平移動装置12により筒状アダプタ4を元の位置に戻し、次いで昇降駆動装置6により筒状アダプタ4を下降させ、これを新たな大口径ケーシング2の上端部に取付けて、掘削を続行する。」

(6)甲第6号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、掘削装置に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「第9図は本発明の第3実施例を示すもので、前記反力フレーム25の係合孔25aは掘削予定孔24の連続ピッチlに合わせて同ピッチ2の間隔で形成するものとした。
このようにすれば、レベルジャッキ7を係合孔25aに順次差入れていくことにより、掘削装置自体をピッチ1で移動でき、該係合孔25aを削孔の定規として利用することができる。」(第4頁左上欄第10?17行)
(イ)第9図には、一対の反カフレーム25に、ケーシングが挿通される部材12を両反カフレーム25の間の中心位置に位置決めするための複数の係合孔25aが、掘孔箇所ごとに反カフレーム25の長手方向に所定ピッチで設けられ、係合孔25aにレベルジャッキ7が係合される構成が記載されている。

2.本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との対比
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明を対比する。
(a)甲第1号証記載の発明の「回転駆動部8」は、「クレーン4のロープ6により吊下される」ものであるから、本件特許発明1の「昇降可能に支持される回転駆動装置」に相当する。
(b)甲第1号証記載の発明の「回転出力軸9」は、下端に「ボタンビット等の削孔用具10」(本件特許発明1の「掘削ビット」に相当)を有し、「回転駆動部8」(本件特許発明1の「回転駆動装置」に相当)に一体回転可能に連結されているものであるから、本件特許発明1の「先端に掘削ビットを有し、回転駆動装置下部の回転駆動軸に一体回転可能に連結される掘削軸部材」に相当する。
(c)甲第1号証記載の発明の「固定スリーブ管12」は、削孔前は「回転出力軸9」(本件特許発明1の「掘削軸部材」に相当)の外周側に位置し、回転駆動部8を駆動せしめると、「回転駆動部8」(本件特許発明1の「回転駆動装置」に相当)に係合するものであるから、甲第1号証記載の発明の「固定スリーブ管12」と、本件特許発明1の「掘削軸部材に套嵌されると共に、回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される固定ケーシング」とは、「掘削軸部材の外周側に位置すると共に、回転駆動装置駆動時に回転駆動装置の機枠に相対回転しない様に接続される固定ケーシング」である点で共通する。
(d)甲第1号証記載の発明の「固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17」は、「固定スリーブ管12(本件特許発明1の「固定ケーシング」に相当)と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにされ」たものであって、「一対の固定アーム13を・・外周に固定し」、「クレーン4によってロープ6を介して削孔装置7を吊下し、削孔用具10を削孔地点に設置し、係合溝内に削孔装置7の固定アーム13を係合せしめ」て用いるものであるから、甲第1号証記載の発明の「固定アーム13を固定したリング17」と、本件特許発明1の「掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され、固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔を有するケーシング回り止め部材」とは、「ケーシング回り止め部材」である点で共通する。
(e)甲第1号証記載の発明は「本発明は削孔装置、特に斜面に垂直に削孔することが出来る削孔装置に関する」ものであるので、甲第1号証記載の発明の「削孔装置」は本件特許発明1の「掘削装置」に相当する。

一致点:
そうすると、両者は、
「A.昇降可能に支持される回転駆動装置と、
B.先端に掘削ビットを有し、回転駆動装置下部の回転駆動軸に一体回転可能に連結される掘削軸部材と、
C.掘削軸部材の外周側に位置すると共に、回転駆動装置駆動時に回転駆動装置の機枠に相対回転しない様に接続される固定ケーシングと、
D.ケーシング回り止め部材と、からなる
E.掘削装置。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:固定ケーシングが、本件特許発明1は、掘削軸部材に「套嵌され」ると共に、回転駆動装置の機枠に「一体的に垂下連結」されるのに対し、甲第1号証記載の発明の固定スリーブ管12は、「削孔前は、固定スリーブ管12の、上端側に回転駆動部8が、下端側に削孔用具10が、その間に回転出力軸9が位置し、・・・回転駆動部8を駆動せしめ・・・ストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で・・・回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになり、・・・削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し、固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される」ものである点。

相違点2:ケーシング回り止め部材が、本件特許発明1は、「掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され、固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔を有する」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、そうでない点。


3.相違点についての判断
(1)上記相違点1について
ア.構成要件Cに関しての両当事者の主張
(ア)請求人は、審判請求書、平成26年6月11日付け口頭審理陳述要領書等で、以下の主張をしている。
(a)「甲第1号証に記載の『固定スリーブ管12』は、『回転出力軸9』(本件発明1の掘削軸部材に相当)に套嵌されており、『回転駆動部8』(本件発明1の『回転駆動装置」に相当)に垂下連結されている」(審判請求書第8頁)、
「甲第2号証の第2図より、『非回転外筒11』(本件発明1の『固定ケーシング』に相当)が『回転駆動部8』(本件発明1の『回転駆動装置』に相当)の機枠に一体的に垂下連結されていることは明らかである。
上述した通り、相違点1に係る構成は甲第2号証に記載されている。・・・
甲第1号証記載の発明に対して甲第2号証に記載された構成を適用して相違点1に係る構成とすることは当業者にとって容易になし得ることである。」(審判請求書第10?11頁)
(b)「本件特許発明の請求項において、ケーシングの長さは特定されていない(掘削軸部材の全長に亘って套嵌するとの特定がない)から、被請求人の主張は請求項の記載に基づかないものであり失当である。
また、仮に本件特許発明の『ケーシング』を、掘削軸部材の全長に亘って套嵌する構成を備えたものであると解釈したとしても、甲第1号証の『固定スリーブ管12』はこの構成を備えているものであるから、この点に進歩性が認められる余地は全くない。」(口頭審理陳述要領書第11?12頁)
「本件特許発明は『掘削装置』の発明であるから、掘削完了時という『掘削方法』における特定の一時点を取り出して論じる被請求人の主張は妥当性を欠くものである。装置の構成としては、甲第1号証、甲第2号証のいずれの装置も『固定スリーブ管』が『掘削軸部材』(回転出力軸)を套嵌していることは、第2図から明らかである。」(口頭審理陳述要領書第11?12頁)
(c)「甲第8号証を提出する。・・『ケーシングを地中に挿入させ孔壁の崩壊防止を行わせながら、このケーシングを回転反力を取る部材として利用する』技術は、本件特許が出願される前から公知であったものである。」(平成26年7月9日付け上申書第2?3頁)

(イ)一方、被請求人は、答弁書、平成26年6月11日付け口頭審理陳述要領書等で、以下の主張をしている。
(a)「甲第1号証、甲第2号証は、掘削開始直前までには一時的に、『固定スリーブ管』が『掘削軸部材』(回転出力軸)を掘削軸部材に套嵌される』ことはあっても、リーダーとして地盤上に設置されていて『回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される』ことはないため地中に貫入することがなく、掘進完了時においては地中の『掘削軸部材』は『固定スリーブ管』の下端からほば完全に突出した状態、すなわち『掘削軸部材』を『套嵌する』しない状態となる方法が示されているのであり、当然に上記本件特許発明【0025】後段記載の崩れやすい地盤の孔壁を掘削中に保護することなどできないのであるから、本件特許発明の構成とは技術思想が異なることは明白である。」(答弁書第8頁)
(b)「套嵌の定義は、掘削軸部材全体を覆う状態、即ち掘削の際、孔壁の崩壊を防止できる状態をいう。」(平成26年6月25日口頭審理)

イ.相違点1の容易想到性の検討
(ア)まず、甲第1号証記載の発明には、固定スリーブ管12を回転駆動部8に固定することに関し、動機がない。
甲第1号証記載の発明の「固定スリーブ管12」(本件特許発明1の「固定ケーシング」に相当するもの)は、「削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し、固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される」もの、すなわち、回転駆動部8と上下方向に相対移動するものであって、回転駆動部8と固定すると固定スリーブ管12の内面で回転駆動部8を案内することができなくなるので、そのような改変は行わないと認められる。つまり、甲第1号証記載の発明において、固定スリーブ管12を回転駆動部8に固定することには、阻害要因がある。
(イ)請求人は、上記「ア.(ア)(a)」において、「甲第1号証記載の発明に対して甲第2号証に記載された構成を適用して相違点1に係る構成とすることは当業者にとって容易になし得る」と主張しているが、仮に甲第2号証の非回転外筒11を適用しても、部材の位置や機能に照らしても甲第2号証の第2図に記載された様な構成に至るだけで、この構成では、固定スリーブ管12が一体的に連結されたことにならない。
(ウ)本願発明の固定ケーシングは、「回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される」であって、本件特許明細書でも「【0025】・・・昇降操作用ワイヤーWを巻取り操作して、固定ケーシング5を掘削軸部材2及びダウンザホールハンマー4と共に引き上げ・・・」、「【0028】・・・固定ケーシング5が円筒状ケーシングからなるため、地盤への固定ケーシング5の打ち込み及び引き抜きが容易となり・・・」等記載されている様に、常に回転駆動装置の機枠と一体的に上下方向に移動するものであって、削孔の進行にともなって地中に移動するものである。
(エ)また、甲第1号証記載の発明における固定スリーブ管12に、甲第2号証の非回転外筒11と固定スリーブ管12とを適用するとことを考える(非回転外筒11及び固定スリーブ管12の全体が、本件特許発明1の「固定ケーシング」に相当するものと解する)余地もないではないが、それらは全体として常に一体的に移動するものではなく、地中に移動することはないから、本件特許発明の「固定ケーシング」に相当する構成となるということはできない。
移動しない固定スリーブ管12は,むしろ,機能的に従来のリーダに当たるといえるから,リーダを使用しないことを課題とする本件特許発明において,リーダ相当の部材も含めて「固定ケーシング」と考えることは妥当ではない。
(オ)さらに、甲第1?6号証、さらに甲第7,8号証のすべてを参酌しても、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明の相違点1に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(2)上記相違点2について
甲第1号証記載の発明は、固定アーム13を斜面に設けた係合溝に固定することで,仮設桟橋等を構築する必要がなくなるというものなので(前記第4・1(1)(オ))、別途、相違点2のような構造を設けることには、阻害要因がある。
さらに、甲第1?6号証、さらに甲第7,8号証のすべてを参酌しても、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明の相違点2に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(3)まとめ
上記(1)(2)の如く、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明1の相違点1、2に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできないので、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本件特許発明2?5に係る判断
本件特許発明2は、本件特許発明1にさらに
「F.固定ケーシングは円筒状のケーシングからなり、
G.この円筒状固定ケーシングの外周面に係合用突条部が長手方向全長に亘って条設されており、
H.ケーシング回り止め部材は、前記円筒状固定ケーシングが挿通可能な円形孔部と、この円形孔部の内周部に凹設されていて前記係合用突条部が挿通可能な係合用凹部とからなるケーシング挿通孔を備えてなる」との限定を付したした発明であり、
本件特許発明3は、本件特許発明1にさらに
「I.ケーシング回り止め部材は、平板状に形成されていて、掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定されるようになっている」との限定を付したした発明であり、
本件特許発明4は、本件特許発明1にさらに
「I.ケーシング回り止め部材は、平板状に形成されていて、掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定されるようになっている」との限定、及び、「J.ケーシング回り止め部材は、前記支持部材の長手方向と直交する方向の分割線に沿って2分割された一対の半割板からなる」との限定を付したした発明であり、
本件特許発明5は、本件特許発明1にさらに
「I.ケーシング回り止め部材は、平板状に形成されていて、掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定されるようになっている」との限定、及び、「K.前記一対の支持部材の上面には、ケーシング回り止め部材を両支持部材間の中心位置に位置決めするための複数の位置決め突起が、掘孔箇所ごとに支持部材長手方向所定ピッチで突設されており、
L.ケーシング回り止め部材には前記位置決め突起が係合可能な係合部が設けられている」との限定を付したした発明であるので、本件特許発明2?5と甲第1号証記載の発明とは、少なくとも上記相違点1,2で相違するものである。
そして、上記3.の如く、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明1の相違点1,2に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできないので、本件特許発明2?5も同様に、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明の1?5に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-02 
結審通知日 2014-12-08 
審決日 2015-01-09 
出願番号 特願平8-6900
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 陽  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 本郷 徹
住田 秀弘
登録日 1999-09-17 
登録番号 特許第2981164号(P2981164)
発明の名称 掘削装置  
代理人 清原 義博  
代理人 西村 直也  
代理人 久保 司  
代理人 北本 友彦  
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