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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1313397
審判番号 不服2014-3301  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-21 
確定日 2016-04-13 
事件の表示 特願2009-525855「金属被覆鉄ストリップ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月 6日国際公開、WO2008/025066、平成22年 1月21日国内公表、特表2010-501731〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年8月29日(パリ優先権主張 2006年8月29日,オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月17日付けで拒絶査定がなされ、平成26年2月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年3月31日付けで当審による拒絶理由通知がなされ、同年10月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、平成27年10月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
鉄ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素としてアルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、1重量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60重量%であり、亜鉛の濃度は40?60重量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3重量%であり、マグネシウムの濃度は1.5?3重量%であり、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ100ppm未満であり、前記被覆は平均寸法0.5mm未満のスパングルを有する、鉄ストリップ。」
(以下、「本願発明」という。)

第3 引用刊行物の記載事項
当審による平成27年3月31日付け拒絶理由通知において引用された特開2001-89838号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、国際公開2004/83480号(以下、「引用刊行物3」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付した。)。

(1)引用刊行物1(特開2001-89838号公報)
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)
【請求項2】 重量%で、Mg:0.1?10%を、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。」

(1b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
・・・本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解消し、スパングルの大きさを微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供することにある。」

(1c)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明者らは、原板の板厚や板幅が変化しても細かい均一な大きさのスパングルを得られるめっき鋼板について検討した結果、めっき成分を最適化した上で、めっき直後の冷却速度を比較的速く制御することが有効であることを見出した。アルミニウム-亜鉛めっきの組成は、12?70重量%のAlとAlの含有量の0.5%以上のSiと、残部が亜鉛からなる組成で行う。また、Mgを0.1?10%含有してもよい。めっき層中のAl濃度を12?70%に限定したのは、この範囲以外ではスパングル模様が現れ難いためである。
【0006】また、Siの含有量をアルミニウム含有量の0.5?10%としたのは、0.5%未満では、めっき時に生成するFe-Al合金層の成長を抑制できず、10%超では析出するSiが加工性に悪影響を及ぼすためである。Mgの含有量を0.1?10%と限定したのは、0.1%未満では耐食性向上の効果が現れず、10%超ではめっき層の加工性が劣化するためである。」

(1d)「【0009】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに説明する。表1に示すようなめっき原板を準備し、板温780℃で60秒還元焼鈍し、温度600℃で表1に示すような組成のめっき浴に浸漬し、付着量を片面75g/m^(2)に制御した後冷却した。各試料に対してめっき表面のスパングル指標の測定を行った。スパングル指標の評価は、めっき表面の任意の位置における25mm平方中のスパングルの個数から算出した。なお、スパングル均一性の評価基準は、
◎:スパングル均一、外観優
○:スパングル均一、外観良
×:スパングル一部不均一、外観不良、である。
【0010】
【表1】




(2)引用刊行物2(国際公開2004/83480号)
(2a)「The applicant has observed that "rough coating" and "pinhole - uncoated" surface defects are always associated with small areas where the metal coating has not alloyed with the steel strip.

Whilst not wishing to be bound by the following comments, the applicant believes that oxides on the surface of the strip may be one factor that causes the absence of alloying of the aluminium-zinc-silicon alloy coating and the steel strip in the small areas. The applicant also believes that one major source of the oxides is the surface of the molten bath. The surface oxides are solid oxides that are formed from metals in the molten bath as a result of reactions between molten bath metal and water vapour in the snout above the molten bath. In a molten bath of an aluminium-zinc-silicon. alloy, in addition to aluminium, zinc, and silicon, the molten bath contains minor amounts of other metals including magnesium. The applicant believes that surface oxides are taken up by strip as the strip passes through the oxide layer in order to enter the molten bath. The applicant has established that strontium and calcium minimise the amount of oxides that form on the bath surface and suspects that these elements may reduce the amount of oxides that are available to be taken up by the strip. The applicant also suspects that, alternatively or in combination, strontium and calcium may modify the properties of the surface oxides and, for example, increase the strength of the oxides whereby there is less likelihood that oxides will break away from the bath surface and be taken up by strip.

The above-described method is characterised by the deliberate inclusion of the elements strontium and/or calcium in the coating aluminium-zinc-silicon alloy.」(本文第4頁第5行-第5頁第1行)
(当審による翻訳、以下、同様である。
「出願人は、「粗コーテング」及び「ピンホール-無コーテイング」欠陥は、金属コーテイングが鋼ストリップと合金化していない小領域に常に発生することに注目した。
以下のコメントによりしばられることは望まないが、出願人は、ストリップ表面上の酸化物が、小領域におけるアルミニウム-亜鉛-シリコン合金コーテイングと鋼ストリップの無合金化の一つの要素あるいは原因であると考えている。出願人は、また、酸化物の一主要源が、溶融浴の表面であると考えている。表面酸化物は、固体酸化物であって、溶融浴金属と溶融浴上のスナウト内の水蒸気との反応生成物として溶融浴の金属から形成される。アルミニウム-亜鉛-シリコン合金浴中では、合金浴は、アルミニウム、亜鉛、シリコンに加え、少量のマグネシウムを含む他の金属を含有する。出願人は、表面酸化物が、溶融浴へ浸漬するためにストリップが酸化物層内を通過する際に、ストリップによって取り込まれるものと考えている。出願人は、ストロンチウムとカルシウムが、浴表面上に形成される酸化物量を最小化することを認め、これらの成分が、ストリップにより取り込まれる酸化物量を減少させるものと思われる。出願人は、また、ストロンチウムとカルシウムのどちらか一方、あるいは両方が表面酸化物の特性を変更し、また、例えば、酸化物の強度を増加させ、それによって浴表面から酸化物が剥がれ、ストリップにより取り込まれることは起こりにくいものと考える。
上述の方法はストロンチウム及び/またはカルシウム成分のアルミニウム
-亜鉛-シリコン合金コーテイングへの意図的な含有により特徴づけられる。」)

(2b)「The applicant has found that the control of strontium and calcium concentrations in the molten bath has a particularly beneficial effect on aluminium-zincs-silicon alloys that contain magnesium.

Preferably aluminium-zinc-silicon alloys have a magnesium concentration of less than 1%.」(本文第6頁第13-19行)
(「出願人は、溶融浴中のストロンチウム及びカルシウム濃度の制御が、特にマグネシウムを含有するアルミニウム-亜鉛-シリコン合金に効果的であることを見出した。
好ましくは、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金は、1%未満のマグネシウム濃度を有する。」)

(2c)「The above-described method is characterised by controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the aluminium- zinc-silicon alloy in the bath to be at least 2ppm, more preferably at least 3ppm, and preferably less than 150ppm and more preferably less than 50ppm.」(本文第10頁第6-11行)
(「上述の方法は、浴中のアルミニウム-亜鉛-シリコン合金内の(i)ストロンチウムあるいは(ii)カルシウムあるいは(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppm、より好ましくは少なくとも3ppm、そして好ましくは150ppm未満、より好ましくは50ppm未満に制御することにより特徴づけられる。」)

第3 引用刊行物記載の発明
引用刊行物1には、「重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%、Mg:0.1?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」が記載され(上記記載事項(1a)の【請求項2】)、その実施例として、「重量%で、Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなり、めっき表面のスパングル指標が9.8であるアルミニウム-亜鉛めっき鋼板 。」(同(1d)の【表1】中、No27)が記載されている。
また、通常、Al-Si-Mg-Zn合金めっきには、不可避不純物として、Feが1%以下含まれるものである(当審による拒絶理由通知において引用刊行物5として引用された、特開2002-12959号公報(【0024】、【表2】参照)。

そうすると、引用刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「重量%で、Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部がZnと1重量%以下であるFeを含む不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標が9.8である、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板 。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」(以下、「引用発明」という。)

第4 対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「鋼板」、「合金めっき」は、それぞれ、本願発明における「鉄ストリップ」、「金属合金の被覆」に相当する。
そして、本願発明における「主要元素としてアルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、1重量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60重量%であり、亜鉛の濃度は40?60重量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3重量%であり、マグネシウムの濃度は1.5?3重量%であり、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ100ppm未満であ」る「金属合金」と、引用発明における「Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部がZnと1重量%以下である鉄を含む不可避不純物からなる合金」は、「主要元素としてアルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、1重量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60重量%であり、亜鉛の濃度は40?60重量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3重量%であ」る金属合金の点で共通する。
また、上記記載事項(1d)によれば、引用発明は、めっき付着量を片面75g/m^(2)に制御したものであり、また、スパングル指標9.8で、スパングル均一性が◎(【表1】中、No27)であることから、少なくとも片面上に合金めっきを有すること、ならびに、スパングルを有するものであることは明らかである。

よって、両者は、
「鉄ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素としてアルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、1重量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60重量%であり、亜鉛の濃度は40?60重量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3重量%であり、前記被覆はスパングルを有する、鉄ストリップ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、マグネシウムの濃度が「1.5?3重量%」であるのに対し、引用発明では「1重量%」である点。

(相違点2)
本願発明では、「ストロンチウム及び/又はカルシウム」を含み、「(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ100ppm未満であ
」るのに対し、引用発明ではそれらを含まない点。

(相違点3)
スパングルについて、本願発明では、「平均寸法0.5mm未満」であるのに対し、引用発明では、それが明らかでない点。

上記相違点について検討する。
・(相違点1)について
上記記載事項(1a)、(1c)によれば、引用刊行物1に記載される「重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%、Mg:0.1?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。」において、Mgは耐食性向上のために0.1?10%の範囲で含有するものである。
一方、Al-Mg-Si-Zn合金において、Mgは耐食性向上のために含有されるものの、その含有量が多すぎるとMg_(2)Si等の脆い金属間化合物が晶出するため、問題となることは周知の事項である(例えば、特開2002-129300号公報【0006】には、加工性、長期的防食効果の点から、Mg含有量を2重量%までとすることが記載されている。)。
そうすると、引用発明において、更なる耐食性向上等の観点から、Mg含有量を増加させるとともに、上記金属間化合物晶出による影響も考慮し、その含有量を「1.5?3重量%」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

・(相違点2)について
上記引用刊行物2には、上記記載事項(2a)によれば、アルミニウム-亜鉛-シリコンに加え、少量のマグネシウムを含む他の金属を含む合金コーテイングにおいて、ピンホールや無コーテイングの原因となる浴表面の酸化物がストリップに取り込まれることを防止するために、ストロンチウム及び/又はカルシウムをコーテイングに含有させることが記載され、同(2b)によれば、ストロンチウム及びカルシウムの濃度制御は、特にマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-シリコン合金において効果的であること、また、同(2c)によれば、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金におけるストロンチウム、カルシウムあるいはストロンチウム及びカルシウムの濃度は、少なくとも2ppmであり、好ましくは150ppm未満であることが記載されている。
そうすると、引用発明に係るアルミニウム-亜鉛-シリコン-マグネシウムコーテイングにおいても、ピンホールや無コーテイングの発生は、当然予想されるものであり、そのために、コーテイングに「ストロンチウム及び/又はカルシウム」を含ませるとともに、その濃度を「(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ100ppm未満」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

・(相違点3)について
上記記載事項(1b)によれば、引用発明は、スパングルの大きさが微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板の提供を目的とするものであり、その微小度を「平均寸法0.5mm未満」とすることは、所望に応じて決定すべき設計的事項である(例えば、当審による拒絶理由通知において引用刊行物4として引用された特開2004-43927号公報の、【0015】には、0.05mmから2mmの寸法のスパングルが記載されている。)。

よって、本願発明は、引用発明及び引用刊行物3、4、5の記載事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-04 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-27 
出願番号 特願2009-525855(P2009-525855)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河本 充雄
鈴木 正紀
発明の名称 金属被覆鉄ストリップ  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  

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