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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1313423
審判番号 不服2014-21275  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-21 
確定日 2016-04-14 
事件の表示 特願2010-166272号「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開、特開2012- 25280号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成22年7月23日の出願であって、平成26年5月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年10月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において、平成27年8月10日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月6日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成28年1月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
一対のビードコア間にトロイダル状に延びた一層のカーカスをタイヤ幅方向内側から前記ビードコアに巻き付けてタイヤ幅方向外側で折り返した、カーカス折り返し部の、タイヤ幅方向内側に第1スティフナーを、タイヤ幅方向外側に第2スティフナーを、それぞれ有する乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記第1スティフナーは、前記第2スティフナーよりタイヤ径方向内側に配置され、前記カーカス折り返し部の端部を、前記第2スティフナーのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側で、前記第2スティフナーのタイヤ径方向外側端部よりタイヤ径方向内側に位置させ、
前記第1スティフナーのタイヤ径方向高さは、7?15mmの範囲にあり、
前記第1スティフナーと前記第2スティフナーのタイヤ径方向における重なり量が、5?12mmの範囲にあり、
前記第2スティフナーのタイヤ径方向外側端は、タイヤ断面高さの25?40%の範囲にあり、
前記第1スティフナーと前記第2スティフナーは、同一硬度を有するゴム系部材により形成されており、
ビード部補強コード層を有しない、ことを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

2.引用文献
(1)引用文献1に記載の事項及び引用発明
平成27年11月6日付けの当審の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)で引用した、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-182021号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るプライ本体部に前記ビードコアの廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部を一連に設けたカーカスプライからなるカーカスと、前記ビードコアからタイヤ半径方向外方に先細状にのびるビードエーペックスゴムとを具える空気入りタイヤであって、
前記ビードエーペックスゴムは、半径方向外側に向かってタイヤ軸方向外側から内側に傾く斜面を有する断面小三角形状の内側エーペックス部と、前記斜面に沿う底面から半径方向外側にのびる外側エーペックス部とからなり、
かつ前記プライ折返し部は、前記斜面と前記底面と間を通って前記プライ本体部に接するともに、
前記ビード部に、前記プライ本体部の内側面から前記ビードコアの半径方向内方を前記カーカスプライに接してのびる内側部と、前記外側エーペックス部の外側面に接する外側部とからなリかつ補強コードを有するビード補強層を設けたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記プライ折返し部の半径方向外端のビードベースラインからの高さh1は、タイヤ断面高さHの20?70%、前記内側エーペックス部の半径方向外端のビードベースラインからの高さh2は、タイヤ断面高さHの15?30%、かつ前記外側エーペックス部の半径方向外端のビードベースラインからの高さh3は、タイヤ断面高さHの20?60%としたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、小型トラック用タイヤとして好適であり、ビード剛性を確保しながらビード耐久性を向上しうる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術、及び発明が解決しようとする課題】
例えば、ライトトラックおよびバン等に用いる小型トラック用の空気入りタイヤは、タイヤサイズに比べて大きな積載荷重が作用するため、ビード剛性を充分に高めて必要な操縦安定性を確保することが重要となる。そのためこの種のタイヤでは、図3に示すように、カーカスaのプライ本体部a1と折返し部a2との間に、ビードコアbから立上がる硬質のビードエーペックスゴムcを設けるとともに、このビードエーペックスゴムcを大型化することが行われている。
【0003】
しかし、ビードエーペックスゴムcの大型化は、タイヤが曲げ変形する際の曲げ中立線Nからプライ折返し部a2までの距離の増大を招く。その結果、タイヤ走行時、プライ折返し部a2に大きな圧縮応力が繰り返して作用し、カーカスコードに破断やコードルースを早期に発生させるなど、ビード耐久性を損ねるという問題がある。なおビードエーペックスゴムを小型化するものとして、例えば特許文献1,2のものがある。
【0004】
・・・(中略)・・・
【0005】
そこで本発明は、ビードエーペックスゴムを、プライ本体部とプライ折返し部との間に介在する小高さの内側エーペックス部と、プライ折返し部より外側の外側エーペックス部とに区分して前記プライ折返し部をプライ本体部に近づけるとともに、前記ビード部に、補強コードを有するU字状のビード補強層を設けることを基本として、ビード剛性を充分に確保し、優れた操縦安定性を発揮させつつビード耐久性を大幅に向上しうる空気入りタイヤの提供を目的としている。」

「【0013】
図1において、空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6の外側に配されるベルト層7とを具えるとともに、ビード部4には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外方に先細状にのびるビードエーペックスゴム8を設けている。」

「【0016】
次に、前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して75?90°の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。・・・又前記カーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に具える。」

「【0017】
そして本発明では、
▲1▼ 前記ビードエーペックスゴム8は、図2に拡大して示すように、半径方向外側に向かってタイヤ軸方向外側から内側に傾く斜面S1を有しかつ前記ビードコア5から立ち上がる断面小三角形状の内側エーペックス部8Aと、前記斜面S1に沿う底面S2から半径方向外側にのびる外側エーペックス部8Bとに区分されるとともに、
▲2▼ 前記プライ折返し部6bは、前記斜面S1と前記底面S2との間を通った後、前記プライ本体部6aに接して半径方向外方に延在している。
【0018】
このように、プライ折返し部6bとプライ本体部6aとが、前記内側エーペックス部8Aの外端よりも半径方向外側において互いに接して延在し、しかもこの内側エーペックス部8Aを小高さで形成している。従って、タイヤが曲げ変形する際の曲げ中立線に、前記プライ折返し部6bを近づけることができる。その結果、このプライ折返し部6bに作用する圧縮応力が大幅に緩和され、カーカスコードの破断やコードルース等の発生を抑制しうるなどビード耐久性を向上することが可能となる。またこれと同時に、プライ本体部6aに作用する引張り応力も緩和されるため、タイヤの共振周波数の上昇を抑え、低周波数域におけるロードノイズの改善効果も奏することができる。しかも前記ビードエーペックスゴム8は、高寸な外側エーペックス部8Bを具えるため、ビード剛性の低下を抑え、操縦安定性の維持を図ることができる。
【0019】
又このような効果を充分に発揮させるため、前記内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2を、タイヤ断面高さHの15?30%、かつ外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3を、タイヤ断面高さHの20?60%とすることが好ましい。
【0020】
なお前記高さh2が30%を越えると、内側エーペックス部8Aが大型化し、プライ本体部6aへの圧縮応力が充分に緩和されず、ビード耐久性の向上効果が有効に発揮されなくなる。又ロードノイズにも不利となる。逆に高さh2が15%未満では、プライ折返し部6bの巻き上げが難しくなり生産性の低下を招く。又前記高さh3が60%を越えると、サイド剛性が過大となって乗り心地性を損ねるとともに、ゴムボリュウムが過大となって温度上昇を招くなど耐久性にも不利となる。逆に20%未満では、ビード剛性が過小となって、必要な操縦安定性の確保が難しくなる。
【0021】
又前記プライ折返し部6bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh1は、タイヤ断面高さHの20?70%の範囲が好ましく、70%を越えると乗り心地性を損ねる傾向となり、20%未満では、その外端でコードルースが発生しやすくなる。なおコードルース抑制のためには、h3>h1>h2、即ちプライ折返し部6bの外端を、プライ本体部6aと外側エーペックス部8Bとの間で、狭持して終端させるのが好ましい。」

「【0022】
又本発明では、ビード耐久性をさらに高めるために、ビード部4にビード補強層11を設けている。このビード補強層11は補強コードをタイヤ周方向に対して20?70°の角度で配列した1枚のコードプライから形成される。補強コードとしては、曲げ剛性に優れるスチールコードが好ましいが、要求によりナイロン、レーヨン、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート等の有機繊維コードも採用しうる。
【0023】
又ビード補強層11は、前記プライ本体部6aの内側面から前記ビードコア5の半径方向内方を前記カーカスプライ6Aに接してのびる内側部11iと、前記外側エーペックス部8Bの外側面に接する外側部11oとから形成される。このようなビード補強層11を設けることにより、荷重負荷時におけるビード部4の変形量を減じることができ、プライ本体部6aに作用する前記圧縮応力をさらに緩和せしめ、ビード耐久性をいっそう向上させることができる。又ビード剛性が増加することにより操縦安定性の向上も期待できる。」

「【0026】
次に、前記ビードエーペックスゴム8においては、前記内側エーペックス部8Aのゴム硬度Hs2を75?95°の範囲に、又前記外側エーペックス部のゴム硬度Hs3を70?95°の範囲かつ前記ゴム硬度Hs2より小に設定することが好ましい。前記ゴム硬度Hs2、ゴム硬度Hs3が夫々下限値を下回ると、前記ビード補強層11を設けた場合にも、充分なビード剛性の確保が難しく、又上限値を上回ると、ビード剛性が過大となり乗り心地性を損ねるとともに、ゴムの発熱性が高まり耐久性に不利となる。」

「【0030】
【実施例】
タイヤサイズが225/60R17.5であり、かつ図1に示す基本構成を有する小型トラック用タイヤを表1の仕様に基づき試作するとともに、各試供タイヤのビード耐久性、操縦安定性、乗り心地性、ロードノイズ性をテストし、その結果を表1に記載した。」

段落【0035】の【表1】には、「実施例1」として、
プライ折返し部6bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さである「高さh1<mm>」が「35」であり、そのタイヤ断面高さHに対する比「(h1/H)」が「25.6%」であること、
内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さである「高さh2<mm>」が「25」であり、そのタイヤ断面高さHに対する比「(h2/H)」が「18.3%」であること、
外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さである「高さh3<mm>」が「60」であり、そのタイヤ断面高さHに対する比「(h3/H)」が「43.9%」であること、
が記載されている。

【図1】?【図2】から、プライ折返し部6bの半径方向外端は、外側エーペックス部8Bのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側に位置すること、内側エーペックス部8Aのタイヤ径方向外側端部は、外側エーペックス部8Bのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置の近傍に位置することを、看取しうる。
また【図1】?【図2】からは、内側エーペックス部8Aだけの高さは、内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2から、ビードコア5の高さとベースラインBLからビードコア5までの高さを引いたものであることが分かる。

上記記載事項コに実施例として示されている空気入りタイヤのサイズ「225/60R17.5」の「R」は、ラジアルタイヤを示していると認められる。
以上の記載事項及び図面の記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るプライ本体部6aに前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に設けた1枚のカーカスプライ6Aからなるカーカス6と、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外方に先細状にのびるビードエーペックスゴム8とを具える空気入りラジアルタイヤであって、
前記ビードエーペックスゴム8は、半径方向外側に向かってタイヤ軸方向外側から内側に傾く斜面を有する断面小三角形状の内側エーペックス部8Aと、前記斜面に沿う底面から半径方向外側にのびる外側エーペックス部8Bとからなり、
かつ前記プライ折返し部6bは、前記斜面と前記底面との間を通って前記プライ本体部6aに接するともに、プライ折返し部6bの半径方向外端は、外側エーペックス部8Bのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側に位置し、
前記ビード部4に、前記プライ本体部6aの内側面から前記ビードコア5の半径方向内方を前記カーカスプライ6Aに接してのびる内側部と、前記外側エーペックス部8Bの外側面に接する外側部とからなりかつ補強コードを有するビード補強層11を設け、
前記プライ折返し部6bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh1は、タイヤ断面高さHの20?70%であるうちの、25.6%の35mmであり、
前記内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2は、タイヤ断面高さHの15?30%であるうちの、18.3%の25mmであるとともに、前記内側エーペックス部8Aだけの高さはh2からビードコア5の高さとベースラインBLからビードコア5までの高さを引いたものであり、
かつ前記外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3は、タイヤ断面高さHの20?60%であるうちの、43.9%の60mmとし、
内側エーペックス部8Aのタイヤ径方向外側端部は、外側エーペックス部8Bのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置の近傍に位置し、
外側エーペックス部8Bのゴム硬度Hs3は、内側エーペックス部8Aのゴム硬度Hs2より小に設定した、
空気入りラジアルタイヤ。」

(2)引用文献2に記載の事項
当審拒絶理由で引用した、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-131815号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、操縦安定性を確保しながら、車内のこもり音とロードノイズとを同時に低減した乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ビードコアの外周側に配置するビードフィラーを下部ビードフィラーと上部ビードフィラーとの2層構造にし、ビードフィラー全体の断面高さや下部ビードフィラーの断面高さ等を特定の範囲に設定することにより操縦安定性を向上するようにした乗用車用ラジアルタイヤが知られている。 一方、昨今の高級化指向に伴ってタイヤが発生する騒音の一層の改善が要請されるようになってきたが、上述した2層構造のビードフィラーを有する乗用車用ラジアルタイヤでは、40Hz付近の低周波数域の車内騒音の、所謂こもり音と160Hz付近の高周波数域のロードノイズを同時に低減させることが難しく、上述の要請に十分に対応することができないでいた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、操縦安定性を損なうことなく車内の騒音とロードノイズを共に低減した乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」

「【0011】また、本発明タイヤでは、上部ビードフィラー4uと下部ビードフィラー4dとのタイヤ径方向のオーバーラップ長さaを3?7mmの範囲してある。このような範囲にすることにより、こもり音とロードノイズとを共に低減させることができる。・・・」

「【0013】このように、上下部両ビードフィラーの上下端のオーバーラップ長さaを特定することによりサイドウォール部の周方向剛性を大きくすると共に横方向剛性を低減し、40Hz付近の低周波数域のこもり音と160Hz付近の高周波数域のロードノイズを同時に減少させることができる。」

3.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

後者の「トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るプライ本体部6aに前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に設けた1枚のカーカスプライ6Aからなるカーカス6」は、カーカスが一対のビードコア間にトロイダル状に延びていることは技術常識であるので、前者の「一対のビードコア間にトロイダル状に延びた一層のカーカス」に相当し、後者の「カーカスプライ6A」のうちの「ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6b」は、前者の「タイヤ幅方向内側から前記ビードコアに巻き付けてタイヤ幅方向外側で折り返した、カーカス折り返し部」に相当する。

後者の「半径方向外側に向かってタイヤ軸方向外側から内側に傾く斜面を有する断面小三角形状の内側エーペックス部8A」と、内側エーペックス部8Aの「斜面に沿う底面から半径方向外側にのびる外側エーペックス部8B」とは、前記斜面と前記底面との間を前記プライ折返し部6bが通るので、前者のカーカス折り返し部の、タイヤ幅方向内側の「第1スティフナー」と、タイヤ幅方向外側の「第2スティフナー」とにそれぞれ相当し、後者は前者の「第1スティフナーは、第2スティフナーよりタイヤ径方向内側に配置され」る構成を有している。

後者の「プライ折返し部6bの半径方向外端は、外側エーペックス部8Bのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側に位置」すること、及び、プライ折返し部6bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh1(35mm)が、内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2(25mm)と、外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3(60mm)との間にあることは、前者の「カーカス折り返し部の端部を、第2スティフナーのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側で、第2スティフナーのタイヤ径方向外側端部よりタイヤ径方向内側に位置させ」ることに相当する。

上記イで述べたとおり、後者の外側エーペックス部8Bは内側エーペックス部8Aの斜面に沿っているので、径方向において重なる部分があるといえる。
そうすると、後者の外側エーペックス部8Bは内側エーペックス部8Aの斜面に沿っていることは、前者の「第1スティフナーと第2スティフナーのタイヤ径方向における重なり量が、5?12mmの範囲」にあることと、「第1スティフナーと第2スティフナーのタイヤ径方向における重なりがある」限りにおいて一致する。

後者の「空気入りラジアルタイヤ」は、前者の「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」と、「空気入りラジアルタイヤ」である限りにおいて一致する。

そうすると、両者は、
「一対のビードコア間にトロイダル状に延びた一層のカーカスをタイヤ幅方向内側から前記ビードコアに巻き付けてタイヤ幅方向外側で折り返した、カーカス折り返し部の、タイヤ幅方向内側に第1スティフナーを、タイヤ幅方向外側に第2スティフナーを、それぞれ有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記第1スティフナーは、前記第2スティフナーよりタイヤ径方向内側に配置され、前記カーカス折り返し部の端部を、前記第2スティフナーのタイヤ幅方向最大厚みを有するタイヤ径方向位置よりタイヤ径方向外側で、前記第2スティフナーのタイヤ径方向外側端部よりタイヤ径方向内側に位置させ、
前記第1スティフナーと前記第2スティフナーのタイヤ径方向における重なりがある、
空気入りラジアルタイヤ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1〕
本願発明は、「第1スティフナーのタイヤ径方向高さは、7?15mmの範囲にあり」との事項を有しているのに対して、引用発明の内側エーペックス部8Aだけの高さは、内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2からビードコア5の高さとベースラインBLからビードコア5までの高さを引いたものであるものの、その数値範囲が特定されていない点。
〔相違点2〕
本願発明は、第1スティフナーと第2スティフナーのタイヤ径方向における重なり量が、「5?12mmの範囲」にあるとの事項を有しているのに対して、引用発明の内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bとはタイヤ径方向に重なりがあるものの、その量が特定されていない点。
〔相違点3〕
本願発明は、「第2スティフナーのタイヤ径方向外側端は、タイヤ断面高さの25?40%の範囲にある」との事項を有しているのに対して、引用発明は、「外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3は、タイヤ断面高さHの20?60%であるうちの、43.9%」である点。
〔相違点4〕
本願発明は、「第1スティフナーと第2スティフナーは、同一硬度を有するゴム系部材により形成されており」との事項を有しているのに対して、引用発明は、「外側エーペックス部のゴム硬度Hs3は、内側エーペックス部8Aのゴム硬度Hs2より小に設定した」ものである点。
〔相違点5〕
本願発明は、「ビード部補強コード層を有しない」との事項を有しているのに対して、引用発明は、「補強コードを有するビード補強層11を設け」ている点。
〔相違点6〕
本願発明は、「乗用車用」の空気入りラジアルタイヤであるのに対して、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(2)判断
上記各相違点について以下検討する。
ア 相違点1について
(ア)
引用発明においては、「内側エーペックス部8Aだけの高さ」は「h2」から「ビードコア5の高さ」と「ベースラインBLからビードコア5までの高さ」を引いたものである。
一般に乗用車や小型トラック用のラジアルタイヤにおけるビードコアの高さは5?10mm程度であるから(例えば、特開平7-179105号公報の段落【0019】、【0020】、特開平10-230715号公報の段落【0008】、特開2005-53251号公報の段落【0030】の【表1】の注釈、それぞれを参照)、引用発明の「内側エーペックス部8Aだけの高さ」は、「h2(25mm)」から一般的な「ビードコアの高さ(5?10mm)」を引いた「15?20mm程度」から、さらに「ベースラインBLからビードコアまでの高さ」を引いたものとなり、「内側エーペックス部8Aだけの高さ」は「15?20mm程度」より小さいものといえる。
(イ)
上述のとおり、引用発明の「内側エーペックス部8Aだけの高さ」は、「h2(25mm)」から一般的な「ビードコアの高さ(5?10mm)」を引いた「15?20mm程度」から、さらに「ベースラインBLからビードコアまでの高さ」を引いたものといえるが、引用文献1の【図1】を参照すると、「15?20mm程度」から、さらに「ベースラインBLからビードコアまでの高さ」を引いたものは、相違点1に係る数値範囲に入る蓋然性は高く、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
そうしてみると、引用発明は、実質的に相違点1に係る本願発明の構成を有しているといえる。
(ウ)
仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、以下に説示するとおり、当業者が容易に想到し得たといえる。
刊行物1には次のとおり記載されている。
「【0020】
なお前記高さh2が30%を越えると、内側エーペックス部8Aが大型化し、プライ本体部6aへの圧縮応力が充分に緩和されず、ビード耐久性の向上効果が有効に発揮されなくなる。又ロードノイズにも不利となる。逆に高さh2が15%未満では、プライ折返し部6bの巻き上げが難しくなり生産性の低下を招く。・・・
【0021】
・・・なおコードルース抑制のためには、h3>h1>h2、即ちプライ折返し部6bの外端を、プライ本体部6aと外側エーペックス部8Bとの間で、狭持して終端させるのが好ましい。」(上記2.(1)オを参照)
タイヤの軽量化は周知の課題であり、その解決手段の1つとしてカーカスの長さを短くすることは周知の事項であり、引用発明においても当該周知の課題及び解決手段が考慮されることは十分に予測しうることといえる。
引用発明においては、「プライ折返し部6bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh1」が、「内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2」よりも大きくなるものであるので、「プライ折返し部6bの半径方向外端」は「内側エーペックス部8Aの半径方向外端」より半径方向外側に位置し、「プライ折返し部6b」の長さは「内側エーペックス部8A」の高さに依存するといえる。
引用発明において、上記周知の課題及び解決手段に鑑みて、プライ折返し部6bの長さを短くするために、内側エーペックス部8Aの高さを小さくすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際、上記段落【0020】に記載されているように生産性に鑑み下限値を定めることは、当業者が適宜になし得ることといえる。
そうしてみると、引用発明の「内側エーペックス部8Aだけの高さ」を「15?20mm程度」より小さい範囲で、プライ折返し部6bの軽量化のためにさらに小さくするとともに、生産性の観点から下限値を定め、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
(エ)
以上のとおりであるから、引用発明は、実質的に相違点1に係る本願発明の構成を有しているといえるか、あるいは、引用発明を、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

イ 相違点2について
(ア)
引用文献2には、ビードコアの外周側に配置するビードフィラーを下部ビードフィラーと上部ビードフィラーとの2層構造にした乗用車用ラジアルタイヤにおいて、上部ビードフィラー4uと下部ビードフィラー4dとのタイヤ径方向のオーバーラップ長さaを調整することにより車内の騒音とロードノイズを共に低減できることが記載されている(上記2.(2)を参照)。
空気入りタイヤにおいてロードノイズの低減は一般的な課題であり、引用発明においても、そのような課題を意識している(引用文献1の段落【0018】等を参照)。
そうしてみると、引用発明に、引用文献2に記載の事項を適用し、内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bとの重なり量を調整し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
(イ)
また、本願の明細書には次のとおり記載されている。
「【0030】
また、第1スティフナー17aと第2スティフナー17bのタイヤ径方向における重なり量が、5?12mmの範囲にあることにより、製造ばらつきによる第1スティフナー17a上端と第2スティフナー17b下端との必要以上の重なりを防ぎ故障の核となることを防ぐことができる。・・・」
当該記載によれば、本願発明の第1スティフナー17aと第2スティフナー17bのタイヤ径方向における重なり量の数値範囲は、必要以上の重なりを防ぐために好適な数値範囲を定めたものといえる。
そうしてみると、引用発明の内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bとの重なり量を好適化し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず容易になし得ることともいえる。
(ウ)
いずれにしても、引用発明を、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

ウ 相違点3について
引用発明の外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3は、タイヤ断面高さHの43.9%ではあるものの、引用文献1の記載(上記2.(1)アの【請求項2】、同オの段落【0019】を参照)によれば、引用発明においては、h3はタイヤ断面高さHの20?60%の範囲の値を採り得るものであり、軽量化や剛性等を考慮しつつ好適化を図ることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず適宜になし得ることといえる。
そうすると、引用発明を、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。

エ 相違点4について
引用発明において、外側エーペックス部8Bのゴム硬度Hs3を内側エーペックス部8Aのゴム硬度Hs2より小に設定することは、好ましい一態様に過ぎず(上記2.(1)キを参照)、内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bの両ゴム硬度を等しくすることを除外しているとまではいえない。
カーカスのビードコアで折り返された折り返し部を内側と外側のエーペックス部の間を通ってカーカスの本体部に接する構造のものにおいて、内側と外側のエーペックス部のゴムを同じ硬さのものとすることは周知といえるので(例えば、特開2002-200904号公報の段落【0026】の記載、特開平10-309911号公報の段落【0018】の記載、特開平4-55108号公報の第5頁下欄に記載されている実施例1及び3の「ビードフィラー」と「硬質ゴム層」の硬度の記載、等々を参照)、引用発明の内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bのゴム材料として、軽量化等々の観点から、同一硬度のものを選択することは、当業者が適宜になし得ることといえる。
そうすると、引用発明を、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。

オ 相違点5について
引用文献1には、次のとおり記載されている。
「【0005】
そこで本発明は、・・・ビード剛性を充分に確保し、優れた操縦安定性を発揮させつつビード耐久性を大幅に向上しうる空気入りタイヤの提供を目的としている。」(上記2.(1)イを参照)
「【0018】
このように、プライ折返し部6bとプライ本体部6aとが、前記内側エーペックス部8Aの外端よりも半径方向外側において互いに接して延在し、しかもこの内側エーペックス部8Aを小高さで形成している。・・・その結果、このプライ折返し部6bに作用する圧縮応力が大幅に緩和され、カーカスコードの破断やコードルース等の発生を抑制しうるなどビード耐久性を向上することが可能となる。・・・しかも前記ビードエーペックスゴム8は、高寸な外側エーペックス部8Bを具えるため、ビード剛性の低下を抑え、操縦安定性の維持を図ることができる。
【0019】
又このような効果を充分に発揮させるため、前記内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2を、タイヤ断面高さHの15?30%、かつ外側エーペックス部8Bの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh3を、タイヤ断面高さHの20?60%とすることが好ましい。」(上記2.(1)オを参照)
「【0022】
又本発明では、ビード耐久性をさらに高めるために、ビード部4にビード補強層11を設けている。・・・
【0023】
・・・このようなビード補強層11を設けることにより、荷重負荷時におけるビード部4の変形量を減じることができ、プライ本体部6aに作用する前記圧縮応力をさらに緩和せしめ、ビード耐久性をいっそう向上させることができる。又ビード剛性が増加することにより操縦安定性の向上も期待できる。」(上記2.(1)カを参照)
上記記載によれば、引用発明は、ビード剛性を確保するために、
(ア)カーカスのプライ折返し部6bを、内側エーペックス部8Aと外側エーペックス部8Bとの間を通って前記プライ本体部6aに接するともに、内側エーペックス部8Aの半径方向外端のビードベースラインBLからの高さh2等々の諸元を特定し、
さらにビード耐久性を高め、ビード剛性を増加させるために
(イ)ビード補強層11を設ける
ものであるが、(イ)のビード補強層11は、ビード剛性を高めるための補助的な手段といえる。
引用発明において、前記(ア)の構成で得られるビード剛性で足りるのであれば、前記(イ)のビード補強層を省略することは、当業者が容易に想到し得ることであり、また、ビード部に補強層を設けずに構成することは周知でもあるので(例えば、特開2002-200904号公報の【図1】?【図3】、特開平10-309911号公報の【図1】、【図3】、特開平4-55108号公報の第1図、等々を参照)、そのように構成することに格別の困難性は認められない。
そうすると、引用発明を、相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。

カ 相違点6について
引用発明の空気入りラジアルタイヤは、「小型トラック用タイヤとして好適」(上記2.(1)イの段落【0001】を参照)であるが、そのタイヤサイズ(上記2.(1)クの「225/60R17.5」を参照)や求められる性能などからみて、乗用車用に転用することは当業者が容易に想到し得ることといえる。
引用発明を、相違点6に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものとは認められない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-08 
結審通知日 2016-02-09 
審決日 2016-02-22 
出願番号 特願2010-166272(P2010-166272)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
櫻田 正紀
発明の名称 乗用車用空気入りラジアルタイヤ  
代理人 伊藤 怜愛  
代理人 杉村 憲司  

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