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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1313430
審判番号 不服2014-24559  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2016-04-13 
事件の表示 特願2012-557299「光電池の用途向けの多層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日国際公開、WO2011/113008、平成25年 6月13日国内公表、特表2013-522075〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2011年3月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年3月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月30日付けの拒絶理由に対して、平成26年1月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年1月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「1つ以上の層を含む機能性部分と;
前記機能性部分の主要表面の上に横たわり、接着剤と紫外線吸収剤とを含む接着剤層であって、少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量の紫外線吸収剤を含む接着剤層と;
前記機能性部分と反対側で前記接着剤層の主要表面の上に横たわり、フルオロポリマーを含むフルオロポリマー層と;
を含み、前記紫外線吸収剤が、前記接着剤の構成要素と相溶性を有し、前記接着剤と分離しない又は前記接着剤中に沈殿しないものである、多層フィルム。」

第3.刊行物に記載された事項
1.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された特開2000-174297号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 太陽電池用セルの透明保護部材として用いられるカバー材であって、透明高耐光フィルムと透明高防湿フィルムとを、紫外線吸収剤を配合した接着剤で積層一体化してなることを特徴とする太陽電池用カバー材。
【請求項2】 請求項1において、前記透明高防湿フィルムが、無機酸化物をコーティングした透明フィルムよりなることを特徴とする太陽電池用カバー材。
【請求項3】 請求項2において、前記透明高防湿フィルムが、2枚の該透明フィルムのコーティング面同士を貼り合わせてなる積層フィルムよりなることを特徴とする太陽電池用カバー材。
【請求項4】 請求項2又は3において、該透明フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであり、該無機酸化物がシリカ又はアルミナであることを特徴とする太陽電池用カバー材。
【請求項5】 請求項1ないし4のいすれか1項において、前記透明高耐光フィルムがフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする太陽電池用カバー材。
【請求項6】 請求項5において、該フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、4-フッ化エチレン-パークロロアルコキシ共重合体、4-フッ化エチレン-6-フッ化プロピレン共重合体、2-エチレン-4-フッ化エチレン共重合体、ポリ3-フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニルよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする太陽電池用カバー材。
・・・」 (【特許請求の範囲】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽電池用セルの透明保護部材として用いられるカバー材、このカバー材を用いた封止膜及び太陽電池に係り、特に、防湿性と耐光性を兼備する透明フィルムよりなり、太陽電池の軽量化、耐衝撃性及び耐久性の向上に有効な太陽電池用カバー材及び太陽電池用カバー材兼用封止膜並びにこの太陽電池用カバー材を表面側及び/又は裏面側透明保護部材として用いた、軽量、高耐衝撃性、高耐久性の太陽電池に関する。」

(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の太陽電池用カバー材は、太陽電池用セルの透明保護部材として用いられるカバー材であって、透明高耐光フィルムと透明高防湿フィルムとを、紫外線吸収剤を配合した接着剤で積層一体化してなることを特徴とする。
【0010】本発明の太陽電池用カバー材であれば、太陽電池の透明保護部材に要求される防湿性を透明高防湿フィルムにより、また、耐光性を透明高耐光フィルムと接着剤中の紫外線吸収剤により確保することができる。
【0011】本発明において、透明高防湿フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等に、シリカ又はアルミナ等の無機酸化物をコーティングした透明フィルム、或いは、この透明フィルム2枚をコーティング面同士を貼り合わせてなる積層フィルムが好適である。
【0012】また、透明高耐光フィルムとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4-フッ化エチレン-パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4-フッ化エチレン-6-フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2-エチレン-4-フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3-フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂フィルム、或いは、アクリル、ポリカーボネート、PET、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂に紫外線吸収剤を練り込んだ樹脂組成物を成膜したものが好適である。」

(エ)「【0017】図1は本発明の太陽電池用カバー材の実施の形態を示す断面図、図2,3は本発明に係る透明高防湿フィルムの実施の形態を示す断面図、図4は本発明の太陽電池用カバー材兼用封止膜の実施の形態を示す断面図、図5は本発明の太陽電池の実施の形態を示す断面図である。
【0018】図1に示す太陽電池用カバー材1は、透明高防湿フィルム2と透明高耐光フィルム3とを紫外線吸収剤を配合した接着剤のシート(以下「紫外線吸収接着シート」と称す。)4を介して積層し、接着一体化したものである。
【0019】透明高防湿フィルム2としては、図2に示す如く、PETフィルム等の透明基材フィルム2AにCVD(化学蒸着)、PVD(反応蒸着)法等により、シリカ、アルミナ等の無機酸化物のコーティング膜よりなる防湿膜2Bを形成したものが好ましい。即ち、防湿フィルムとしては、基材フィルムにアルミニウム等の金属のコーティング膜を形成したものも知られているが、アルミニウム等の金属では、太陽電池に適用した場合、電流がリークする恐れがあるため、防湿膜としては、無機酸化物のコーティング膜が好ましい。」

(オ)「【0022】透明高耐光フィルム3としては、耐紫外線性に優れたフッ素樹脂フィルム又は、紫外線吸収剤を練り込んだ樹脂フィルムが挙げられる。
【0023】このうち、フッ素樹脂フィルムとしては、PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE、PVDF、PVFフィルム等が挙げられる。
【0024】また、紫外線吸収剤を練り込んだ樹脂フィルムとしては、アクリル、ポリカーボネート、PET、PENフィルム等が挙げられ、その紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-メトキシ-5-スルフォベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレート、p-t-ブチルフェニルサルシレート等のヒンダートアミン系紫外線吸収材が挙げられ、通常の場合、基材樹脂に対して1?20重量%程度配合される。
【0025】このような透明高耐光フィルム3の厚さは、6?200μm程度であることが好ましい。」

(カ)「【0026】紫外線吸収接着シート4としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、エステル系等の各種の接着剤樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜したものを用いることができる。ここで、紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-メトキシ-5-スルフォベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレート、p-t-ブチルフェニルサルシレート等のヒンダートアミン系紫外線吸収剤が挙げられ、通常の場合、基材樹脂に対して1?50重量%程度配合される。このような紫外線吸収接着シート4の厚さは5?50μm程度であることが好ましい。」

(キ)「【0027】本発明の太陽電池用カバー材1は、上述の透明高防湿フィルム2と透明高耐光フィルム3との間に紫外線吸収接着シート4を介在させて、当該紫外線吸収接着シート4の接着条件で加熱加圧するなどして接着一体化することにより、容易に製造することができる。
【0028】なお、本発明のカバー材は透明高耐光フィルム3が表面側に、透明高防湿フィルム2が内面側に配置されるのが好ましい。」

(ク)図1には、透明高防湿フィルム2と透明高耐光フィルム3と紫外線吸収接着シート4とからなる多層フィルムの太陽電池用カバー材1が図示されている。

(ケ)上記記載事項(カ)の「紫外線吸収接着シート4としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、エステル系等の各種の接着剤樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜したものを用いることができる。ここで、紫外線吸収剤としては・・・が挙げられ、通常の場合、基材樹脂に対して1?50重量%程度配合される。・・・」の記載より、紫外線吸収接着シート4は、接着剤樹脂である基材樹脂に対して1?50重量%程度配合される紫外線吸収剤を含むといえる。

(コ)上記記載事項(キ)及び図1より、太陽電池用カバー材1は、紫外線吸収接着シート4を介在させて、透明高耐光フィルム3と透明高防湿フィルム2とが反対側に配置され、透明高耐光フィルム3が表面側に、透明高防湿フィルム2が内面側に配置されるといえる。

上記記載事項、図示内容及び認定事項を総合して、本願発明に則って整理すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「透明フィルムからなる透明高防湿フィルム2と、
前記透明高防湿フィルム2上に配置された、接着剤樹脂に紫外線吸収剤を配合した紫外線吸収接着シート4であって、接着剤樹脂である基材樹脂に対して1?50重量%程度配合される紫外線吸収剤を含む紫外線吸収接着シート4と、
前記透明高防湿フィルム2と反対側で前記紫外線吸収接着シート4の表面側に配置された、フッ素樹脂フィルムからなる透明高耐光フィルム3と、
を含む、多層フィルムの太陽電池用カバー材。」

2.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された特開2000-230077号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(サ)「【請求項1】 下記式(1)で表されるベンゾトリアゾール系プラスチック用紫外線吸収剤。
【化1】(式略)・・・
【請求項2】 プラスチックが、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリアクリル系樹脂から選択された少なくとも1種のプラスチックである請求項1記載のベンゾトリアゾール系プラスチック用紫外線吸収剤。」 (【特許請求の範囲】)

(シ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ベンゾトリアゾール系プラスチック用紫外線吸収剤であり、更に詳細には、ブリードアウト、曇り及び析出がなく、相溶性が優れているプラスチック用紫外線吸収剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、プラスチック用の紫外線吸収剤として種々のものが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のプラスチック用紫外線吸収剤では、ブリードアウトや析出を起こし、プラスチックの表面が変色する場合があり、表面が曇る。すなわち、プラスチックとの相溶性が低く、長期間用いることができない。
【0004】従って、本発明の目的は、相溶性が優れており、ブリードアウト及び析出を抑制することができるプラスチック用紫外線吸収剤を提供することにある。本発明の他の目的は、前記特性に加えて長期間にわたって優れた紫外線吸収能を発揮することができるプラスチック用紫外線吸収剤を提供することにある。」

(ス)「【0019】本発明の紫外線吸収剤は、紫外線吸収能(例えば、300?400nmの波長領域での紫外線吸収能)が優れている。また、プラスチックとの相溶性が良好で、プラスチックに添加されても、長期間にわたってブリードアウトや析出又は溶出が抑制又は防止され、優れた紫外線吸収能を長期間にわたって発揮することができる。そのため、プラスチック用紫外線吸収剤として最適である。このようなプラスチックとしては、特に制限されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが含まれる。
【0020】本発明の紫外線吸収剤は、プラスチックとの相溶性が高いため、多量にプラスチックに添加されても、ブリードアウトや析出又は溶出を抑制又は防止することができる。そのため、包装材料として内容物の光安定化にも寄与することができる。」

(セ)「【0031】(評価)ポリプロピレン粉末(230℃/2.16kgにおけるメルトフローインデックス:24g/10分):100重量部に対して、実施例1?5及び比較例1?2で得られた反応生成物(紫外線吸収剤)、および2,2-メチレンビス(4-ヒドロキシエチル-6-ベンゾトリアゾールフェノール)(MBHB)を表3に示す割合(重量部)で、それぞれドラムミキサー中で混合し、その後押し出し機中で220℃の温度で混練し、T-ダイにより厚さ:0.2mmのシート又はフィルムを作製した。
【0032】(相溶性試験)これらのシートを2週間冷暗所に放置した後、偏光顕微鏡にて濁りの状態を観察し、濁りの度合いを数値化して評価し、表3の「濁度(相溶性)」の欄ににその結果を示した。なお、濁りの度合いである濁度は1?5で表され、数値が大きいほど良好である。
・・・
【0035】ポリウレタン樹脂:100重量部に対して、実施例6?9及び比較例3?4で得られた反応生成物(紫外線吸収剤)、および2,2-メチレンビス(4-ヒドロキシエチル-6-ベンゾトリアゾールフェノール)(MBHB)を表4に示す割合(重量部)で、それぞれ混合し、その後100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャストし、100℃の熱風循環乾燥機で2分間乾燥し、約5μmのポリウレタン皮膜を作製した。
【0036】これらの試験片を、前記と同様にして、相溶性試験及び紫外線透過率試験を行い相溶性及び紫外線透過率の変化率を評価し、表4にその結果を示した。」

(ソ)上記記載事項(セ)の記載を併せて参照すると、表3(段落【0034】)及び表4(段落【0037】には、プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量(重量部)が10である実施例1?9の相溶性及び紫外線透過率の変化率が示されている。

(タ)「【0038】(結果)表3及び表4より、実施例に係る紫外線吸収剤は、比較例に係る紫外線吸収剤と比べて、ブリードアウトを起こさず又はほとんど起こしていない。また、曇りもほとんどなく、析出又は溶出が抑制又は防止されている。すなわち、実施例にかかる紫外線吸収剤は、プラスチックとの相溶性が優れている。従って、長期間にわたって紫外線吸収能を発揮することができる。もちろん、実施例に係る紫外線吸収剤は紫外線吸収率も優れている。
【0039】
【発明の効果】本発明の紫外線吸収剤は、プラスチックとの相溶性が良好で、プラスチックに添加しても、長期間にわたってブリードアウト、曇り及び析出を抑制又は防止することができる。また、優れた紫外線吸収能を長期間維持することができる。さらに、多量に添加できるため、包装材料としての内容物の光安定化にも寄与することができる。」

第4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
a.本願発明の「多層フィルム」は、段落【0012】からみて、「光電池」を含むから、引用発明の「多層フィルムの太陽電池用カバー材」は、その機能、構造からみて、本願発明の「多層フィルム」に相当する。

b.本願発明の「機能性部分」は、段落【0032】からみて、「水蒸気移動を阻害するための障害層を含む機能性部分」を含むので、引用発明の「透明フィルムからなる」は、本願発明の「1つ以上の層を含む」に相当し、引用発明の「透明高防湿フィルム2」は、水蒸気移動を阻害する、防湿性の機能を有するから、本願発明の「機能性部分」に相当する。

c.引用発明の「接着剤樹脂」は、本願発明の「接着剤」に相当し、引用発明の「接着剤樹脂に紫外線吸収剤を配合した」は、本願発明の「接着剤と紫外線吸収剤とを含む」に相当する。 また、引用発明の「前記透明高防湿フィルム2上に配置された」は、本願発明の「前記機能性部分の主要表面の上に横たわり」に相当し、 引用発明の「紫外線吸収接着シート4」は、本願発明の「接着剤層」に相当する。

d.引用発明の「接着剤樹脂である基材樹脂に対して1?50重量%程度配合される紫外線吸収剤を含む」と、本願発明の「少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量の紫外線吸収剤を含む」とは、「少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量の紫外線吸収剤を含む」である限りにおいて一致する。

e.引用発明の「前記紫外線吸収接着シート4の表面側に配置された」は、本願発明の「前記接着剤層の主要表面の上に横たわり」に相当し、引用発明の「フッ素樹脂フィルムからなる透明高耐光フィルム3」は、本願発明の「フルオロポリマーを含むフルオロポリマー層」に相当する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明とは、
「1つ以上の層を含む機能性部分と、
前記機能性部分の主要表面の上に横たわり、接着剤と紫外線吸収剤とを含む接着剤層であって、少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量の紫外線吸収剤を含む接着剤層と、
前記機能性部分と反対側で前記接着剤層の主要表面の上に横たわり、フルオロポリマーを含むフルオロポリマー層と、
を含む、多層フィルム。」 である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
接着剤層に含まれる紫外線吸収剤について、本願発明では、紫外線吸収剤の量が「少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量」であり、紫外線吸収剤が「接着剤の構成要素と相溶性を有し、前記接着剤と分離しない又は前記接着剤中に沈殿しないものである」のに対して、引用発明では、紫外線吸収剤の量が「接着剤樹脂である基材樹脂に対して1?50重量%程度」であり、紫外線吸収剤が「接着剤の構成要素と相溶性を有し、前記接着剤と分離しない又は前記接着剤中に沈殿しないものである」と特定されていない点。

上記相違点について検討する。
本願発明において、接着剤層に含まれる紫外線吸収剤の量を「少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量」とすること及び「紫外線吸収剤が「接着剤の構成要素と相溶性を有し、前記接着剤と分離しない又は前記接着剤中に沈殿しないものである」ことについて、本願の発明の詳細な説明の段落【0027】には、「接着剤層208は、0.5wt%?20wt%の範囲内、例えば0.5wt%?10wt%の範囲内の量で紫外線吸収剤を含むことができる。詳細には、接着剤層208は、少なくとも5.5wt%の紫外線吸収剤、例えば少なくとも7.0wt%の紫外線吸収剤を含むことができる。さらなる実施例において、接着剤層208は20.0wt%超の紫外線吸収剤を含まない。一実施例において、接着剤層208は5.0wt%?20wt%、例えば5.0wt%?10wt%、さらには5.5wt%?10wt%の量で紫外線吸収剤を含む。対照的に、典型的な市販の接着剤調合物は一般に、2wt%超の紫外線吸収剤添加剤を含まない。レベルが2wt%を超えると、市販の接着剤調合物は典型的に、接着剤から添加剤が沈殿または分離する徴候を示す。本発明の例示的一実施形態においては、たとえレベルが5.0wt%を超えても、紫外線吸収剤は沈殿せず、すなわち接着剤層208中の接着剤構成要素と相溶性を有する。」との記載がある。また、段落【0050】? 【0061】の実施例(参考例も含む。)として、「少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量」の範囲にある接着剤層に含まれる紫外線吸収剤の量は、10wt%(実施例2、実施例4の表3の試料3と試料5と試料6)だけが、試験結果ともに示されている。接着剤層に含まれる紫外線吸収剤の量が20.0wt%を超える範囲のもの例(参考例)は、何ら示されていない。さらに、表3を参考にすると、接着剤層に含まれる紫外線吸収剤の量が、5.0wt%の試料1や試料2や、3.3wt%の試料7は、10wt%(実施例4の表3の試料3と試料5と試料6)のものに比べて、デルタ-b指数の評価でやや劣るものの、格別の差を示していない。
これに対して、引用刊行物2には、上記記載事項(ス)の「【0019】本発明の紫外線吸収剤は、紫外線吸収能(例えば、300?400nmの波長領域での紫外線吸収能)が優れている。また、プラスチックとの相溶性が良好で、プラスチックに添加されても、長期間にわたってブリードアウトや析出又は溶出が抑制又は防止され、優れた紫外線吸収能を長期間にわたって発揮することができる。そのため、プラスチック用紫外線吸収剤として最適である。・・・
【0020】本発明の紫外線吸収剤は、プラスチックとの相溶性が高いため、多量にプラスチックに添加されても、ブリードアウトや析出又は溶出を抑制又は防止することができる。そのため、包装材料として内容物の光安定化にも寄与することができる。」の記載及び上記記載事項(セ)、(ソ)の「プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量(重量部)が10である実施例1?9」について「実施例に係る紫外線吸収剤は、比較例に係る紫外線吸収剤と比べて、ブリードアウトを起こさず又はほとんど起こしていない。また、曇りもほとんどなく、析出又は溶出が抑制又は防止されている。すなわち、実施例にかかる紫外線吸収剤は、プラスチックとの相溶性が優れている。」の記載より、 「プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量(重量部)が10である実施例1?9」について「紫外線吸収剤が、プラスチックとの相溶性を有し、プラスチックと析出しない又はプラスチックに溶出しないものであること」が記載されている。「析出」は、「ある物質の溶液から固体が現れること」を意味するので、「分離」又は「沈殿」に相当するものである。「プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量(重量部)が10である実施例1?9」の紫外線吸収剤の配合割合(10重量部)は、引用発明の紫外線吸収剤の配合割合(基材樹脂に対して1?50重量%程度)の範囲に含まれるものであり、紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止するという相溶性の課題は、紫外線吸収剤を含む樹脂層の分野で一般的課題であるので、引用発明においても「相溶性」が良いことは当然求められるから、引用刊行物2に記載された、プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量が10(10wt%に相当)であり、プラスチックとの相溶性を有する紫外線吸収剤を引用発明に適用して、接着剤層の含む紫外線吸収剤の量として、少なくとも5.5wt%で、かつ20.0wt%を超えない量の範囲に含まれる10wt%とすること及び紫外線吸収剤が「接着剤の構成要素と相溶性を有し、前記接着剤と分離しない又は前記接着剤中に沈殿しないものである」ようにすること、すなわち、相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明による作用効果も、引用発明及び引用刊行物2に記載された技術から当業者が予測し得た程度のものである。

審判請求人は、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】の(3)の(3-2)」において、「しかしながら、特開2000-230077号公報(当審注「引用刊行物2」)の実施例において、実際に相溶性が良好であることが確認されているのは、プラスチック(ポリプロピレン粉末又はポリウレタン樹脂)100重量部に対して、紫外線吸収剤を「10重量部」の割合で配合した場合のみです(段落[0031]、[0035]、[表3]、[表4]参照)。
一方、引用文献2(当審注「引用刊行物1」)に記載されている紫外線吸収剤の配合割合の上限は、基材樹脂に対して「50重量%程度」であり(段落[0026]参照)、これは、特開2000-230077号公報の実施例において、実際にプラスチックとの相溶性が良好であることが確認されている紫外線吸収剤の配合割合(10重量部)と比べて、非常に大きな値となっております。
そして、引用文献2に記載された発明において、紫外線吸収剤の配合割合をそのような非常に大きな値とした場合には、たとえ特開2000-230077号公報に開示された紫外線吸収剤を使用したとしても、その紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止することは、常識的に考えて、到底不可能であると思料いたします。
すなわち、引用文献2に記載された発明における紫外線吸収剤の配合割合の全範囲(基材樹脂に対して1?50重量%程度)に渡って、紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止することができるような、基材樹脂と紫外線吸収剤との相溶性の高い組み合わせは、本願出願時には存在していなかったと言えます。
・・・また、上記のとおり、引用文献2に記載された発明における紫外線吸収剤の配合割合の全範囲に渡って、紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止することができるような、基材樹脂と紫外線吸収剤との相溶性の高い組み合わせが、本願出願時に存在していたとは言えませんから、引用文献2の接着剤と紫外線吸収剤とにおいて、そのような組み合わせを選択することは、当業者が通常の創作能力を発揮し、適宜なし得る程度のことではありません。 」と主張している。
しかしながら、引用刊行物2の表3(段落【0034】)及び表4(段落【0037】)で、相溶性及び紫外線透過率の変化率の効果が確認されている、「プラスチック100重量部に対しての紫外線吸収剤の配合量(重量部)が10である実施例1?9」の紫外線吸収剤の配合割合(10重量部)は、本願明細書の実施例1(段落【0053】)及び実施例2(段落【0059】)で紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止することができる効果が確認されている10wt%の紫外線吸収剤と同じ配合割合であり、それを引用発明に適用する容易性の判断に際して、引用発明の紫外線吸収剤の配合割合の全範囲(基材樹脂に対して1?50重量%程度)に渡って考慮する必要はなく、その範囲の具体的な紫外線吸収剤の配合割合(例えば10重量部)で組み合わせが可能であれば、当業者は紫外線吸収剤の分離や沈殿を防止することができる効果のものを組合わすことは容易であるから、審判請求人の主張は採用できない。

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用刊行物2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-10 
結審通知日 2015-11-17 
審決日 2015-12-01 
出願番号 特願2012-557299(P2012-557299)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 玲奈久保田 葵  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 蓮井 雅之
千葉 成就
発明の名称 光電池の用途向けの多層フィルム  
代理人 小池 成  
代理人 佐藤 博幸  
代理人 渡邉 一平  

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