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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01B
管理番号 1313458
審判番号 不服2014-11489  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-18 
確定日 2016-04-11 
事件の表示 特願2012-519497「街路環境内の3Dモデルを推定するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日国際公開、WO2011/002349、平成24年12月13日国内公表、特表2012-532330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2009年6月30日を国際出願日とする出願であって、平成26年3月5日付け(送達:同年同月7日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての補正がなされたものである。
その後、当審より平成27年4月24日付け(発送:同年同月28日)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年7月21日付けで明細書及び特許請求の範囲についての誤訳訂正がなされるとともに、同日付けで意見書の提出があった。

そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、誤訳訂正によって訂正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1及び3に係る発明は、それぞれ次のとおりである。

「立体センサ技術を使用して街路環境内の3D-モデルを推定するための方法であって、含まれたセンサが対で配置されているものにおいて、含まれた各対のセンサが、画像面内のコントラストの低レベルがセンサ対のセンサを共通の垂直面内の異なるレベルにかつ互いに離れて水平に位置決めすることによって避けられるように、及び対のセンサ間の仮想線が水平面に対して30?60度で傾斜されるように、利用可能なまたは先行する画像からのコントラスト情報に基づいて位置決めされることを特徴とする方法。」
(請求項1に係る発明。以下、「本願発明1」という。)

「立体センサ技術を使用して街路環境内の3D-モデルを推定するための装置であって、ブラケット上に取り付けられたセンサの少なくとも一対を含み、センサの各対が共通の面内に位置されているものにおいて、含まれたセンサ対が、センサ対のセンサが互いに離れて水平に位置され、センサの一方がブラケットの水平面の上に、他方が水平面の下に位置され、かつセンサ対のセンサが、センサ対のセンサ間の仮想線が水平面に対して30?60度で、好ましくは約45度で傾斜されるようにブラケットの水平面に対して位置されるようにブラケットの本質的に水平な面に対して相互に位置されていることを特徴とする装置」
(請求項3に係る発明。以下、「本願発明2」という。)


第2 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、概略、以下のとおりである。

「この出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・国際公開第2009/003529号
・実願昭62-120781号(実開昭64-25713号)のマイクロフィルム
・特開2009-2761号公報」


第3 引用例
1 引用例1
(1)記載事項
当審拒絶理由で引用された国際公開第2009/003529号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項(a)?(g)が図面とともに記載されている。なお、下線は強調のため当審が引いた。

(a)
「In Fig. 1, an arrangement 101 for providing a three dimensional map representation of an area 103 is mounted on a movable carrier 102 in the form of an aircraft. The movable carrier is in an alternative example (not shown) a satellite, a land vehicle, or a watercraft, for example a lorry, ship or submarine.」(4頁16?19行)
(当審訳)
「図1では、航空機の形で移動可能な輸送体102に、領域103の3次元マップ表現を提供するための装置101が搭載されている。代替例(図示せず)では、移動可能な輸送体は、人工衛星、陸上車、又は船舶であり、例えばトラック、船又は潜水艦である。」

(b)
「In Fig. 3, the image generation unit comprises in one example one image capturing unit.‥‥‥Fig 3 can also be seen as it comprises a plurality of image capturing units 310a, 310b fixed mounted in relation to each other. The images of the areas 309a, 309b captured by the respective image capturing units 310a, 310b are then in one example captured at the same time.」(5頁8?24行)
(当審訳)
「図3で、一例では、画像生成ユニットは画像取得ユニットを1つ備える。‥‥‥図3は、互いに対する関係上、固定して搭載された複数の画像取得ユニット310a、310bを備えるものと見ることもできる。一例では、画像取得ユニット310a、310bによってそれぞれ取得された領域309a、309bの画像は、次いで同時に取り込まれる。」

(c)
「In one example, wherein the image generating unit comprises a plurality of image capturing units 310a, 310b, the image sets comprises overlapping images captured at substantially the same time (i.e. the images are associated to corresponding time re-cords) by the image capturing units 310a, 310b of the image generating unit. 」(7頁12?15行)
(当審訳)
「画像生成ユニットが複数の画像取得ユニット310a、310bを備える一例では、画像の組は、画像生成ユニットの画像取得ユニット310a、310bによって実質的に同時に取得されたオーバラップする諸画像(すなわち、諸画像が、対応する時間記録に関連づけられる)を備える。」

(d)
「Thereafter, the transformed images of each image pair are used along with the position of the image capturing unit(s) when the two images were captured so as to per- form stereo calculations in a stereo processing step 517. In Fig. 6, the distance between the two image capturing unit positions is defined as a base length B.」(8頁8?11行)
(当審訳)
「その後、立体処理ステップ517で立体計算を実行するために2つの画像が取得されたとき、各画像対の変換された画像が、画像取得ユニット(複数可)の位置と共に用いられる。図6で、2つの画像取得ユニットの位置間の距離は、基線長Bとして定義される。」

(e)
「In Fig. 10, man made objects such as road objects (e.g. road signs, road elements such as lamp posts, bridge pillars etc.) are detected by matching with predefined structure models and thereafter positioned in three dimensions of a geographical coordinate system using the three dimensional stereo modelling technique as described above.」(11頁5?9行)
(当審訳)
「図10で、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体は、前述の3次元立体モデル化技法を用いて所定の構造モデルとマッチングさせ、その後3次元の地理的座標システムの中へ配置することにより検出される。」

(f)
「Arrangement ( 101 ; 201 ) for providing a three dimensional map representation of an area (103) comprising
- an image generating unit (204) arranged to generate time recorded images, said image generating unit being arranged to provide a plurality of at least partly overlapping images each covering at least a part of said area, and
- a processing unit (206) arranged to stereo process an arbitrary number of at least partly overlapping image sets generated by said image generating unit so as to provide said three dimensional map representation,
characterized in that a navigation unit (205; 405) is arranged to output time recorded navigation states related to the image generating unit (204), and in that the processing unit (206) is arranged to, for each time recorded image to be stereo processed, associate the navigation states relating to a corresponding time record.」(13頁2?14行)
(当審訳)
「領域(103)の3次元マップ表現を提供するための装置(101、201)であって、
時間記録画像を生成し、前記領域の少なくとも一部分をそれぞれが覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するように構成された画像生成ユニット(204)と、
前記3次元マップ表現を提供するために、前記画像生成ユニットによって生成された少なくとも部分的にオーバラップする任意数の画像の組を立体処理するように構成された処理ユニット(206)と
を備える装置において、
ナビゲーションユニット(205、405)が、前記画像生成ユニット(204)と関係する時間記録されたナビゲーション状態を出力するように構成され、前記処理ユニット(206)が、立体処理されることになる各時間記録画像に対して、対応する時間記録に関係する前記ナビゲーション状態を関連づけるように構成されていることを特徴とする装置。」

(g)
「Method for providing a three dimensional map representation of an area com- prising the steps of:
- generating (1130) time recorded images,
- providing (1132) a plurality of at least partly overlapping images each covering at least a part of said area, and
- forming (1133) an arbitrary number of at least partly overlapping image sets from said provided at least partly overlapping images,
- and processing (1135) said image sets so as to provide said three dimensional map representation,
characterized by
- outputting time recorded navigation states (1131) comprising position and at- titude, and to, for each time recorded image to be processed by a stereo processor,
- associating (1134) the navigation states relating to a corresponding time record.」(15頁4?18行)
(当審訳)
「領域の3次元マップ表現を提供する方法であって、
時間記録画像を生成するステップ(1130)と、
それぞれが前記領域の少なくとも一部分を覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するステップ(1132)と、
前記供給された少なくとも部分的にオーバラップする画像から、少なくとも部分的にオーバラップする画像の任意数の組を形成するステップ(1133)と、
前記画像の組を処理して前記3次元マップ表現を供給するステップ(1135)と
を含む方法において、
位置及び姿勢を含む時間記録されたナビゲーション状態を出力するステップ(1131)と、
立体プロセッサで処理されることになる各時間記録画像に対して、対応する時間記録に関係する前記ナビゲーション状態を関連づけるステップ(1134)とを備えることを特徴とする方法。」

・上記記載(a)より、
ア 「陸上車に、領域103の3次元マップ表現を提供するための装置101が搭載されている」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(b)ないし(d)より、
イ 「画像生成ユニットの画像取得ユニットは対である」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(e)及び第10図より、
ウ 「陸上車で、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体が検出される」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(f)より、
エ 「領域(103)の3次元マップ表現を提供するための装置(101、201)であって、
時間記録画像を生成し、前記領域の少なくとも一部分をそれぞれが覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するように構成された画像生成ユニット(204)と、
前記3次元マップ表現を提供するために、前記画像生成ユニットによって生成された少なくとも部分的にオーバラップする任意数の画像の組を立体処理するように構成された処理ユニット(206)と
を備える装置。」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(g)より、
オ 「領域の3次元マップ表現を提供する方法であって、
時間記録画像を生成するステップ(1130)と、
それぞれが前記領域の少なくとも一部分を覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するステップ(1132)と、
前記供給された少なくとも部分的にオーバラップする画像から、少なくとも部分的にオーバラップする画像の任意数の組を形成するステップ(1133)と、
前記画像の組を処理して前記3次元マップ表現を供給するステップ(1135)と
を含む方法。」との技術的事項が読み取れる。

(2)引用発明1
以上の技術的事項アないしウ、及びオを総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「領域の3次元マップ表現を提供する方法であって、
時間記録画像を生成するステップ(1130)と、
それぞれが前記領域の少なくとも一部分を覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するステップ(1132)と、
前記供給された少なくとも部分的にオーバラップする画像から、少なくとも部分的にオーバラップする画像の任意数の組を形成するステップ(1133)と、
前記画像の組を処理して前記3次元マップ表現を供給するステップ(1135)と
を含む方法であり、
陸上車に、領域(103)の3次元マップ表現を提供するための装置(101)が搭載され、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体が検出され、
画像生成ユニットの画像取得ユニットは対である
方法。」
(以下、「引用発明1」という。)

(3)引用発明2
また、以上の技術的事項アないしエを総合勘案すると、引用例1には次の発明も記載されているものと認められる。
「領域(103)の3次元マップ表現を提供するための装置(101、201)であって、
時間記録画像を生成し、前記領域の少なくとも一部分をそれぞれが覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するように構成された画像生成ユニット(204)と、
前記3次元マップ表現を提供するために、前記画像生成ユニットによって生成された少なくとも部分的にオーバラップする任意数の画像の組を立体処理するように構成された処理ユニット(206)と
を備える装置であり、
陸上車に、領域(103)の3次元マップ表現を提供するための装置(101)が搭載され、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体が検出され、
画像生成ユニットの画像取得ユニットは対である
装置」
(以下、「引用発明2」という。)

2 引用例2
(1)記載事項
当審拒絶理由で引用された実願昭62-120781号(実開昭64-25713号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、次の事項(a)?(d)が図面とともに記載されている。なお、下線は強調のため当審が引いた。

(a)
「対象物を撮像する2台のテレビカメラにより撮像されたそれぞれの画像信号に基いて前記対象物の3次元位置を計測する装置において、前記2台のテレビカメラをそれぞれ撮像レンズの中心を結ぶ直線が床面に対して予定角度傾斜させて設置したことを特徴とする3次元位置計測装置。」(1頁5?10行)

(b)「従来の両眼立体視法による3次元位置計測装置においては、床面に対して平行に2台のテレビカメラ41,42を設置しているため、輪郭や稜が床面に対して平行となるような水平エッジを有する対象物を撮像すると、その画像上では水平走査線と水平エッジが重なるので、こうした水平エッジ上に存在する特徴点を左右の画像上で対応付けるのが困難であった。特に水平エッジの多い人工構造物では不具合が生じる。」(3頁17行?4頁5行)

(c)「本考案による3次元位置計測装置にあっては、それぞれの撮像レンズの中心を結ぶ直線が床面に対して予定角度Θとなるように設置された2台のテレビカメラで対象物が撮像されるので、その画像も対象物の水平エッジが水平走査線と重なるようなことがなくなり、対象物の水平エッジ上の点の3次元位置をも確実に計測できることになる。」(5頁14?20行)

(d)「対象物が人工構造物の場合、水平・垂直エッジが多いが、この装置ではそれらのエッジが画面上で水平走査線に対してそれぞれ角度Θ,90°-Θとなり、Θ=45°程度に設定しておけば、両方のエッジ上の点の3次元位置が検出できる。」(10頁1?5行)

(2)引用例2記載発明
上記記載(a)ないし(d)より、引用例2には、「対象物の3次元位置計測装置において、対象物が人工構造物の場合、水平・垂直エッジが多いという知識に基づいて、2台のテレビカメラをそれぞれ撮像レンズの中心を結ぶ直線が水平面である床面に対して予定角度、例えば、45°程度傾斜するように設置する。」という発明(以下、「引用例2記載発明」という。)が記載されていると認められる。

3 引用例3
(1)記載事項
当審拒絶理由で引用された特開2009-2761号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項(a)、(b)が図面とともに記載されている。なお、下線は強調のため当審が引いた。

(a)
「【0020】
以上ここまでは、測距装置10の各構成について説明したが、以下において撮像部20の配置構成について説明する。撮像部20は、図2に示すように、4つのカメラ21、22、23、24が、XY平面と平行な面上に配置され、紙面に対して手前側もしくは奥側にある被測定物(図示せず)までの距離を測距可能となっている。また、カメラ21、22はX軸と平行な直線上に配置されて平行等位となっており、一方、カメラ23および24はY軸と平行な直線上に配置されて平行等位となっている。さらに、4つのカメラは平行等位中心25を中心とする同一円弧上に、各測距エリア21b、22b、23b、24bの各中心が位置するように配置されている。このとき、カメラ21と22とは、測距エリア21b、22bの中心同士が基線長L1だけ離れて位置しており、一方、カメラ23、24も同様に基線長L2だけ離れて位置している。また、カメラ21と23とは、X軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有している。」

(b)
「【0021】
以下において、上述のように構成された測距装置10を用いて、図3(a)に示すようなX軸方向に延びた被測定物3の、撮像領域3aから測距装置10までの距離を測定する測距方法を、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0022】
ステップ1において、出力選択部30からカメラ21、22に対して、選択信号30aが出力されることで、カメラ21、22は、被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像する(図3(b)を参照)。このとき、カメラ21で撮像された画像とカメラ22で撮像された画像とを比較すると、各画像において略同じ位置にX軸方向に延びた被測定物3が撮像されて略同一画像が得られる。そして、撮像素子21c、22cで撮像された画像データ21e、22eは、同期露光可能なイメージセンサ21d、22dにより、別々の2つのバッファメモリ41、42に対して順次出力される。ここで、画像データ21eがバッファメモリ41に入力され、画像データ22eがバッファメモリ42に入力されるとする。
【0023】
ステップ2に進み、バッファメモリ41、42は画像データ21e、22eを入力し、画像データ21e、22eに含まれる光学的な歪みや軸ずれを補正テーブル(図示せず)を参照しながら補正を行う。ステップ3に進み、バッファメモリ41、42において、補正を行った画像データ21e、22eに含まれる被測定物3のデータを抽出する。そして、被測定物3を抽出したデータを補正画像データ41a、42aとして相関演算部43に出力する。ステップ4に進み、カメラ21、22はX軸方向に平行等位に配置されているので、従来技術で述べたように、被測定物3の近傍においてX軸方向に延びたエピポーラ線28aが決定される(図3(b)を参照)。
【0024】
ステップ5に進み、相関演算部43において、ステップ3で得られた補正画像データ41a、42aを基に、ステップ4で形成されたエピポーラ線28aに沿ってステレオ対応点を探索する。例えば、図3(b)に示すように、補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索する。このとき、例えば従来技術で述べた領域の輝度を評価することにより、略同一画像からなり輝度が略同一の領域3c、3d、3eの3つが候補として求められる。ここで、これらは略同一画像となっているため、1つの対応領域を区別して抽出することはできず、よって、正確な視差を得ることができない。
【0025】
ステップ6に進み、補正画像データ42a中の各領域に対応する各対応領域が、補正画像データ41a中に1つに決定されて求められるか否かのマッチングを判断する。もし、補正画像データ42a中に1つに決定されて求められる場合には、距離演算部44に相関画像データ43aを出力してステップ10に進む。一方、補正画像データ41a中に対応領域が複数求められる場合には、相関演算部43が出力選択部30に対して作動信号43bを出力してステップ7に進む。ここで、図3(b)に示す場合には、対応領域が複数求められるのでステップ7に進む。
【0026】
ステップ7に進み、出力選択部30は作動信号43bを入力し、このフローにおいて従前に撮像する2つのカメラを切替えたか否かを判断する。ここで、2つのカメラを切替えている場合はステップ8に進み、2つのカメラを切替えていない場合はステップ9に進む。ここで、図3(b)の場合、このフローにおいて従前に一度もカメラを切替えていないのでステップ9に進む。そして、ステップ9において、出力選択部30からカメラ21、23に対して選択信号30aが出力されることで、カメラ21、23は被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像する(図3(c)を参照)。
【0027】
このとき、カメラ21で撮像された画像とカメラ23で撮像された画像とを比較すると、各画像にはX軸方向に延びた被測定物3が撮像されているが、そのY軸方向の位置は異なっており、全体として異なった画像が得られる。そして、撮像素子21c、23cで撮像された画像データ21e、23eは、同期露光可能なイメージセンサ21d、23dにより、別々の2つのバッファメモリ41、42に対して順次出力される。ここで、画像データ21eがバッファメモリ41に入力され、画像データ23eがバッファメモリ42に入力されるとする。そして、ステップ2に進み、その後さらにステップ3に進むが、この説明は上述と同様なので省略する。
【0028】
ステップ4において、カメラ21と23とは、X軸に対して45度傾斜した方向に等位となっており、よって、被測定物3と交差してX軸に対して45度傾斜した方向に延びたエピポーラ線28cが決定される(図3(c)を参照)。そしてステップ5に進み、相関演算部43において補正画像データ41a、42aを基に、ステップ4で決定されたエピポーラ線28cに沿ってステレオ対応点を検出する。例えば、図3(c)に示すように、補正画像データ42aに含まれる基準領域3fに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索する。このとき、エピポーラ線28cに沿って形成された領域3g、3h、3iが探索されるが、領域3hには被測定物3が撮像されており、一方、領域3g、3iには被測定物3が撮像されていない。ここで、例えば従来技術で述べた手法により輝度差を比較すると、基準領域3fと領域3g、3iとの輝度差は、基準領域3fと領域3hとの輝度差に対して明らかに異なるとともに、基準領域3fと領域3hとの輝度差の方が、より小さな値となる。よって、1つの対応領域3hが決定されて視差が求められる。
【0029】
ステップ6に進み、補正画像データ42a中の各領域に対応する各対応領域が、補正画像データ41a中に1つに決定されて求められるか否かのマッチングを判断する。このカメラ21、23を用いた場合、補正画像データ41a中に1つに決定されて求められるので、相関演算部43は距離演算部44に対して相関画像データ43aを出力してステップ10に進む。ステップ10において、被測定物3の3次元座標を算出することにより、被測定物3の撮像領域3aから測距装置10までの距離が求まり、このフローチャートは終了する。」

(2)引用例3記載発明
上記記載(a)、(b)より、引用例3には、「測距装置10において、X軸と平行な直線上に配置されたカメラ21、22でX軸方向に延びた被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像し、補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索し、補正画像データ41a中に対応領域が複数求められる場合にはX軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有するカメラ21、23で被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像し、被測定物3と交差してX軸に対して45度傾斜した方向に延びたエピポーラ線28cに沿ってステレオ対応点を検出し、被測定物3の3次元座標を算出する。」という発明(以下、「引用例3記載発明」という。)が記載されているものと認められる。


第4 対比
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1における「領域の3次元マップ表現を提供する」ことは、空間領域にある物体の形状等の3次元(3D)情報を得ることであるから、本願発明1における「3D-モデルを推定する」ことに相当する。

(2)引用発明1における「時間記録画像を生成するステップ(1130)と、それぞれが前記領域の少なくとも一部分を覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するステップ(1132)と、前記供給された少なくとも部分的にオーバラップする画像から、少なくとも部分的にオーバラップする画像の任意数の組を形成するステップ(1133)と、前記画像の組を処理して前記3次元マップ表現を供給するステップ(1135)」は、「対」となっている「画像取得ユニット」を用いて、立体に関する情報である3次元(3D)情報を得る技術であるから、「画像取得ユニット」は、「立体センサ技術を使用して」いるものと捉えることができる。したがって、本願発明1における「立体センサ技術を使用して」「3D-モデルを推定するための方法」に相当する。

(3)引用発明1における「陸上車に、領域103の3次元マップ表現を提供するための装置101が搭載され、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体が検出され」ることは、車が走行する道路周辺にある物体の形状等の3次元(3D)情報を得ることであるから、本願発明1の「街路環境内の3D-モデルを推定する」ことに相当する。

(4)「画像取得ユニット」はセンサであるから、引用発明1における「画像生成ユニットの画像取得ユニットは対である」ことは、本願発明1における「含まれたセンサが対で配置されている」ことに相当する。

(5)以上の関係を整理すると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「立体センサ技術を使用して街路環境内の3D-モデルを推定するための方法であって、含まれたセンサが対で配置されている方法。」

(相違点1)
本願発明1では、「含まれた各対のセンサが、画像面内のコントラストの低レベルがセンサ対のセンサを共通の垂直面内の異なるレベルにかつ互いに離れて水平に位置決めすることによって避けられるように、及び対のセンサ間の仮想線が水平面に対して30?60度で傾斜されるように、利用可能なまたは先行する画像からのコントラスト情報に基づいて位置決めされる」のに対し、引用発明1では、対である画像取得ユニットに関し、このような特定がない点。

2 本願発明2について
本願発明2と引用発明2とを対比する。
(1)引用発明2における「領域(103)の3次元マップ表現を提供する」ことは、空間領域にある物体の形状等の3次元(3D)情報を得ることであるから、本願発明2における「3D-モデルを推定する」ことに相当する。

(2)引用発明2における「時間記録画像を生成し、前記領域の少なくとも一部分をそれぞれが覆う少なくとも部分的にオーバラップする複数の画像を供給するように構成された画像生成ユニット(204)と、前記3次元マップ表現を提供するために、前記画像生成ユニットによって生成された少なくとも部分的にオーバラップする任意数の画像の組を立体処理するように構成された処理ユニット(206)」は、「画像生成ユニット」の「画像取得ユニット」というセンサを用いて、立体に関する情報を得る技術のための構成であるから、本願発明2における「立体センサ技術を使用して」「3D-モデルを推定するための装置」の構成に相当する。

(3)引用発明2における「陸上車に、領域103の3次元マップ表現を提供するための装置101が搭載され、路上の物体(例えば道路標識、街灯柱、橋支柱などの道路エレメント)など人工の物体が検出され」ることは、車が走行する道路周辺にある物体の形状等の3次元(3D)情報を得ることであるから、本願発明2の「街路環境内の3D-モデルを推定する」ことに相当する。

(4)「画像取得ユニット」はセンサであるから、引用発明2における「画像生成ユニットの画像取得ユニットは対である」も、本願発明2における「ブラケット上に取り付けられたセンサの少なくとも一対を含み」も、共に、「センサの少なくとも一対を含」む点で共通する。

(5)以上の関係を整理すると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「立体センサ技術を使用して街路環境内の3D-モデルを推定するための装置であって、センサの少なくとも一対を含む装置。」

(相違点2)
本願発明2では、「ブラケット上に取り付けられたセンサの少なくとも一対を含み、センサの各対が共通の面内に位置されているものにおいて、含まれたセンサ対が、センサ対のセンサが互いに離れて水平に位置され、センサの一方がブラケットの水平面の上に、他方が水平面の下に位置され、かつセンサ対のセンサが、センサ対のセンサ間の仮想線が水平面に対して30?60度で、好ましくは約45度で傾斜されるようにブラケットの水平面に対して位置されるようにブラケットの本質的に水平な面に対して相互に位置されている」のに対し、引用発明2では、対である画像取得ユニットに関し、このような特定がない点。


第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)上記相違点1について、検討する。
ア 引用例2記載発明
引用例2には、「対象物の3次元位置計測装置において、対象物が人工構造物の場合、水平・垂直エッジが多いという知識に基づいて、2台のテレビカメラをそれぞれ撮像レンズの中心を結ぶ直線が水平面である床面に対して予定角度、例えば、45°程度傾斜するように設置する。」という発明が記載されている(上記「第3 引用例」「2 引用例2」「(2)引用例2記載発明」参照。)。
そして、引用例2記載発明においては、2台のテレビカメラをそれぞれ撮像レンズの中心を結ぶ直線が水平面である床面に対して予定角度、例えば、45°程度傾斜するように設置されているから、2台のセンサであるテレビカメラは垂直面内の異なる高さ(レベル)にかつ互いに離れて水平に位置決めされることになる。また、一般に、人工構造物の水平エッジに沿う方向には画像(の輝度)の変化が小さく、画像面内のコントラストが低いレベルにあるため、特徴点を左右の画像上で対応づけるのが困難であるから、引用例2記載発明における「対象物が人工構造物の場合、水平・垂直エッジが多いという知識」はコントラストに関する情報といえるし、さらに、引用例2記載発明においては、撮像される画像も対象物の水平エッジが水平走査線と重なるようなことがなくなるから、人工構造物の水平エッジに沿う方向における画像面内のコントラストの低レベルを避けることができる。

イ 引用例3記載発明
「測距装置10において、X軸と平行な直線上に配置されたカメラ21、22でX軸方向に延びた被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像し、補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索し、補正画像データ41a中に対応領域が複数求められる場合にはX軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有するカメラ21、23で被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像し、被測定物3と交差してX軸に対して45度傾斜した方向に延びたエピポーラ線28cに沿ってステレオ対応点を検出し、被測定物3の3次元座標を算出する。」という発明が記載されている(上記「第3 引用例」「3 引用例3」「(2)引用例3記載発明」参照。)。
そして、引用例3記載発明においては、2台のセンサであるカメラ21、23は、X軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有するから、垂直方向といえるY軸方向で異なる高さ(レベル)にかつ互いに離れて水平方向といえるX軸方向に位置決めされているといえる。また、引用例3記載発明において、「補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索し、補正画像データ41a中に対応領域が複数求められ」てしまうのは、水平方向といえるX軸方向に延びた被測定物3の画像面内のコントラストの低レベルに起因するところ、「補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域を、補正画像データ41aの中から探索し、補正画像データ41a中に対応領域が複数求められる場合にはX軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有するカメラ21、23で被測定物3の撮像領域3aをそれぞれ撮像」することは、先行する画像である「補正画像データ42a」に含まれる基準領域3bに対応する対応領域が先行する画像である「補正画像データ41a」中に対応領域が複数求められるという、先行する画像からのコントラストに関する情報に基づいて使用するカメラ21、23を決め、撮像することであるといえる。さらに、引用例3記載発明においては、X軸に対して45度傾斜した方向に基線長L3を有するカメラ21、23で撮像した画像を用いることにより、補正画像データ42aに含まれる基準領域3bに対応する対応領域が補正画像データ41a中に複数求められてしまうこと、すなわち、水平方向といえるX軸方向に延びた被測定物3の画像面内のコントラストの低レベルを避けることができる。

ウ 引用例2記載発明及び引用例3記載発明は、いずれも、センサであるカメラを2台用いて、物体の位置や座標などの3次元(3D)情報を得る場合に、2台のカメラを垂直面内の異なるレベルにかつ互いに離れて水平に位置決めし、及び、2台のカメラ間を結ぶ線が水平方向に対して45度傾斜するように位置決めするものである。また、引用例2記載発明は、「対象物が人工構造物の場合、水平・垂直エッジが多いという知識」というコントラストに関する情報に基づいて2台のカメラを位置決めし、それにより人工構造物の水平エッジに沿う方向における画像面内のコントラストの低レベルを避けることができるものであり、引用例3記載発明は、先行する画像である「補正画像データ41a」及び「補正画像データ42a」からのコントラストに関する情報に基づいて使用するカメラ21、23を決め、それにより水平方向といえるX軸方向に延びた被測定物3の画像面内のコントラストの低レベルを避けることができるものである(上記「ア」及び「イ」参照。)。
そして、引用発明1、引用例2記載発明及び引用例3記載発明は、いずれも、2台のカメラなどの撮像手段を用いて物体の3次元(3D)情報を得るものであるから、引用発明1に2台のカメラなどの撮像手段の配置に関する引用例2記載発明、引用例3記載発明を適用し、本願発明1の上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(2)本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1、引用例2記載発明、及び引用例3記載発明から当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。

2 本願発明2について
(1)上記相違点2について、検討する。
ア 引用例2記載発明、引用例3記載発明は、それぞれ、上記「1(1)ア」、上記「1(1)イ」に記載のとおりである。

イ 引用例2記載発明及び引用例3記載発明は、いずれも、センサであるカメラを2台用いて、物体の位置や座標などの3次元(3D)情報を得る場合に、2台のカメラを垂直面内の異なるレベルにかつ互いに離れて水平に位置決めし、及び、2台のカメラ間を結ぶ線が水平方向に対して45度傾斜するように位置決めするものである。
そして、引用発明2、引用例2記載発明及び引用例3記載発明は、いずれも、2台のカメラなどの撮像手段を用いて物体の3次元(3D)情報を得るものであるから、引用発明2に2台のカメラなどの撮像手段の配置に関する引用例2記載発明、引用例3記載発明を適用することは、当業者であれば容易になし得ることである。また、カメラなどの撮像手段をブラケットのような平板状のものに固定することは周知慣用技術であるし、各撮像手段を具体的にどこにどのように位置させるかは、目的に応じて当業者が適宜決定すべき事項であるから、引用発明2における対である画像取得ユニットをブラケットのような平板状のものの面の上と下に位置させるようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(2)本願発明2の奏する作用効果は、引用発明2、引用例2記載発明、及び引用例3記載発明から当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1、引用例2記載発明、及び引用例3記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明2は、引用発明2、引用例2記載発明、及び引用例3記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-30 
結審通知日 2015-11-06 
審決日 2015-11-30 
出願番号 特願2012-519497(P2012-519497)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 健一  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 堀 圭史
関根 洋之
発明の名称 街路環境内の3Dモデルを推定するための方法及び装置  
代理人 浅野 典子  
代理人 風早 信昭  

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