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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1313470
審判番号 不服2015-7505  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-22 
確定日 2016-04-11 
事件の表示 特願2012-517402「アップリンクMIMO伝送において参照信号を伝送する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月29日国際公開、WO2010/151092,平成24年12月10日国内公表,特表2012-531804〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年6月26日 米国,2010年6月28日 大韓民国)を出願日とする出願であって,原審において平成26年8月5日付けで手続補正され,同年9月24日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月1日付けで手続補正され,平成27年1月15日付けで平成26年12月1日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年4月22日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願補正と補正後の発明
上記手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の平成26年8月5日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「 無線通信システムにおいて端末でアップリンク信号を伝送する方法であって,
前記方法は,
複数のレイヤーに対する情報を含む制御情報を受信することと,
前記制御情報を用いて,アップリンクMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送に対する複数の参照信号を生成することと,
空間多重化のために前記複数の参照信号をプリコーディングすることと,
複数のアンテナを通じてアップリンクサブフレームを介して前記複数の参照信号を伝送することであって,前記アップリンクサブフレームは,第1スロットおよび第2スロットを含む,ことと
を含み,
前記複数の参照信号は,前記制御情報に含まれる巡回シフト(CS)値およびOCC(Orthogonal Cover Code)を用いて多重化され,前記アップリンクサブフレームに割り当てられ,
前記複数の参照信号は,1,2,3および4である前記複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングされ,
前記複数のレイヤーの数が2である場合に,前記制御情報は,
第1レイヤーが第1CS値を用いることと,
第2レイヤーが第2CS値を用いることと,
CS値の総数が12である場合に前記第1CS値および前記第2CS値が6の最大CS距離を有することと
を示す,方法。」

という発明(以下「本願発明」という。)を

「 無線通信システムにおいて端末でアップリンク信号を伝送する方法であって,
前記方法は,
複数のレイヤーに対する情報を含む制御情報を受信することと,
前記制御情報を用いて,アップリンクMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送に対する複数の参照信号を生成することと,
空間多重化のために前記複数の参照信号をプリコーディングすることと,
複数のアンテナを通じてアップリンクサブフレームを介して前記複数の参照信号を伝送することであって,前記アップリンクサブフレームは,第1スロットおよび第2スロットを含む,ことと
を含み,
前記複数の参照信号は,前記制御情報に含まれる巡回シフト(CS)値およびOCC(Orthogonal Cover Code)を用いて多重化され,前記アップリンクサブフレームに割り当てられ,
前記複数の参照信号は,1,2,3および4である前記複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングされ,
前記複数のレイヤーの数が2である場合に,前記制御情報は,
第1レイヤーが第1CS値を用いることと,
第2レイヤーが第2CS値を用いることと,
CS値の総数が12である場合に前記第1CS値および前記第2CS値が6の最大CS距離を有することと
を示し,
前記複数のレイヤーの数が4である場合に,前記制御情報は,
第1レイヤーおよび第2レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第1OCC(Orthogonal Cover Code)を用いることと,
前記第1レイヤーおよび前記第2レイヤーが6の最大CS距離を有する第1ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることと,
第3レイヤーおよび第4レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第2OCCを用いることであって,前記第2OCCが前記第1OCCと直交する,ことと,
前記第3レイヤーおよび前記第4レイヤーが6の最大CS距離を有する第2ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることであって,前記第2ペアのCS値が前記第1ペアのCS値から最大オフセットを有する,ことと
を示し,
前記複数の参照信号の前記第1レイヤーは,0のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第2レイヤーは,6のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第3レイヤーは,3のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第4レイヤーは,9のCS値を用いる,方法。」

という発明(以下「補正後の発明」という。)に変更する補正を含むものである。

2.新規事項の有無,シフト補正,補正の目的要件について
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内において,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「制御情報」について,
「前記複数のレイヤーの数が4である場合に,前記制御情報は,
第1レイヤーおよび第2レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第1OCC(Orthogonal Cover Code)を用いることと,
前記第1レイヤーおよび前記第2レイヤーが6の最大CS距離を有する第1ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることと,
第3レイヤーおよび第4レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第2OCCを用いることであって,前記第2OCCが前記第1OCCと直交する,ことと,
前記第3レイヤーおよび前記第4レイヤーが6の最大CS距離を有する第2ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることであって,前記第2ペアのCS値が前記第1ペアのCS値から最大オフセットを有する,ことと
を示」すものであると限定すると共に,
各「レイヤー」が使用する「CS値」に関し,
「前記複数の参照信号の前記第1レイヤーは,0のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第2レイヤーは,6のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第3レイヤーは,3のCS値を用い,前記複数の参照信号の前記第4レイヤーは,9のCS値を用いる」ものに限定して,特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
また,本件補正は,上記補正以外に,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内において,本件補正前の特許請求の範囲の請求項2乃至4を削除する補正(以下「補正1」という。)と,本件補正前の特許請求の範囲の請求項9について,「制御情報」と各「レイヤー」が使用する「CS値」に関し,上記補正と同様の限定を加えて本件補正後の特許請求の範囲の請求項6とする補正(以下「補正2」という。)とを含むものであって,上記補正1は,請求項を削除するものであり,上記補正2は,特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するとともに,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同法同条同項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
本件補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正を含むから,本件補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
補正後の発明は,上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりのものと認める。

(2)引用発明
ア.引用発明1
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった, ETRI,DM RS for SU-MIMO transmission in LTE-A[online], 3GPP TSG-RAN WG1#57bis R1-092301,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_57b/Docs/R1-092301.zip>,2009年 6月24日アップロード(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「1. Introduction
The agreements on the PUSCH demodulation(DM) reference signal(RS) for the uplink SU-MIMO in the last RAN1#57 meeting are as follows:
- Same precoding for DM RS and PUSCH.
- Cyclic shift(CS) separation is the primary multiplexing scheme.
- FFS: Orthogonal cover code(OCC) separation between slots as complementary multiplexing scheme.
レCodes are {+1, +1} and {+1, -1}」(第1/5ページ第7-14行)
([当審仮訳]:
「1.イントロダクション
前回のRAN1#57会議においてなされたアップリンクSU-MIMOのためのPUSCH復調(DM)参照信号(RS)についての合意は,次のとおり:
- DM RSとPUSCHのための同じプリコーディング。
- 巡回シフト(CS)分離は主要な多重化のスキームである。
- FFS: 補助的な多重化のスキームとしてのスロット間の直交カバーコード(OCC)分離。
レ コードは,{+1,+1}と{+1,-1}」)
([当審注]システム上使用できないチェックマークは「レ」で代用した。)

b.「2. Channel Estimation Problems in LTE Release 8 PUSCH DM RS
Fig.1 shows the DM RS structure of LTE Rel.8 PUSCH with the normal cyclic prefix. The DM RS is transmitted in only one DFT-S-OFDM symbol in each slot occupying all the allocated frequency domain resources in the symbol for the UE. The DM RS overhead is 1/7 and 1/6 for the normal and extended cyclic prefix cases, respectively.
To support multi-layer MIMO transmission, diffrent cyclic shifts(CS) can be used to multiplex the DM RSs for multi-layers. Since there are 12 cyclic shitfs in total, the maximum value of the minimum spacing between cyclic shifts is given by 12/(number of layers).

」(第1/5ページ下から5行目?第2/5ページ第3行とFigure 1)
([当審仮訳]:
「2.LTEリリース8のPUSCH DM RSにおけるチャネル推定問題
図1には,ノーマル巡回プレフィクスを有するLTEリリース8におけるPUSCHのDM RS構造が示されている。DM RSは,各スロット内で1つのDFT-S-OFDMシンボルだけにおける伝送であって,UEに割り当てられた当該シンボルの周波数領域リソースのすべてを占める。DM RSのオーバーヘッドは,ノーマル巡回プレフィクスでは1/7であり,拡張巡回プレフィクスでは1/6である。
多層MIMO伝送をサポートするために,多層のDM RSを多重化するための異なる巡回シフト(CS)を使用することができる。全体で12の巡回シフトがあるため,巡回シフト間の最小間隔の最大値は,12/(レイヤー数)である。」)

c.「2.3 Uplink MIMO support up to 4 layers
To support uplink MIMO transmission, each layer is assigned a different cyclic shift of the same base sequence. Since there is a maximum of 12 cyclic shitfs, the maximum of the minimum spacing between cyclic shifts is 12/(number of layers).」(第2/5ページ下から4行目?最下行)
([当審仮訳]:
「2.3 4レイヤーまでのアップリンクMIMOのサポート
アップリンクMIMO伝送をサポートするために,各レイヤーは,同じベースシーケンスの異なる巡回シフトが割り当てられる。総数12の巡回シフトがあるため,巡回シフト間の最小間隔の最大値は12/(レイヤー数)である。」)

d.「3. Some issues on DM RS design for Uplink MIMO transmission
As already mentioned in Section 2, the UE mobility and PUSCH frequency hopping can affect the design of PUSCH DM RS in support of uplink MIMO transmission.
3.1. Low mobility and PUSCH frequency non-hopping mode user
In this case, the channel variation within the subframe may be negligible. Therefore, the orthogonal cover code between the two DM RSs in the subframe can be used as a complementary multiplexing scheme to separate multiple layers. Table 1 and 2 show the DM RS resource allocation options 1 and 2, respectively[2][3].
(…中略…)
In option 2, different layers are assigned different cyclic shifts. A length-2 orthogonal cover code is employed for layers L1 and L3, and the other one for layers L2 and L4. All layers can be separated by using the cyclic shift only in each slot and the orthogonal cover code can be used to improve the channel separation performance when the frequency hopping is not used and the UE mobility is low.

」(第3/5ページ第4行?最下行とTable2)
([当審仮訳]:
「3. アップリンクMIMO伝送のためのDM RS設計についてのいくつかの問題
既にセクション2で述べたように,UE移動性とPUSCH周波数ホッピングは,アップリンクMIMO伝送のサポートにおけるPUSCH DM RSの設計に影響し得る。
3.1. 移動性が低く,PUSCH周波数ホッピングを用いないモードのユーザ
この場合,サブフレーム内のチャネル変化は無視できる。よって,複数のレイヤーを分離するための補助的な多重化スキームとして,2つのDM RS間に直交カバーコードを使用することができる。表1と表2は,DM RSリソース割当のオプション1とオプション2を示す。[2][3]
(…中略…)
オプション2では,異なるレイヤーには異なる巡回シフトが割り当てられる。長さ2の1つの直交カバーコードが,レイヤーL1とL3に適用され,他方の直交カバーコードがレイヤーL2とL4に適用される。周波数ホッピングが使用されておらず,UEの移動性が低い場合,すべてのレイヤーは,各スロットで巡回シフトのみを使用することで分離することができ,直交カバーコードは,チャネルを分離する性能を向上するために使用することができる。
表2 DM RS リソース割当:オプション2
(以下省略)」)

以下,上記a.ないしd.の記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例1に記載された技術事項について検討する。

(a)上記a.ないしc.から,引用例1には,LTEにおいて,複数レイヤーのアップリンクMIMO伝送の方法が記載されているといえる。また,アップリンクが,UEから基地局への伝送であることは出願時の技術常識であるところ,当該アップリンクMIMO伝送を,UEが行うことは自明である。また,LTEが,無線通信システムの規約であることは出願時における技術常識である。

(b)上記a.から,アップリンクにより送信するDM RSは,アップリンクMIMO伝送によりUEが送信するPUSCHを基地局が復調するために使用される参照信号である。また,当該DM RSをUE自身が生成することは自明である。

(c)上記b.(特に,Figure 1)には,アップリンクのサブフレームに,slot1(スロット1)とslot2(スロット2)が含まれ,各スロットにおいて,それぞれ1つのシンボルを用いてDM RSを送信することが記載されている。そうすると,当該サブフレームでは,2つのDM RS,すなわち,複数のDM RSを生成し,伝送しているといえる。
また,「MIMO」が,複数のアンテナを通じて送受信を行う手法であることはLTEに係る出願時の技術常識である。

(d)上記a.から,DM RSは,プリコーディングされるものである。そうすると,前記(b)及び(c)から,UEは,生成した複数のDM RSをプリコーディングして送信しているものと解される。

(e)上記a.及びd.並びに前記(c)から,複数のDM RSは,巡回シフト(CS)及び直交カバーコード(OCC)を用いて多重化されて,アップリンクのサブフレームに割り当てられている。

(f)上記c.の冒頭「2.3 4レイヤーまでのアップリンクMIMOのサポート」からして,引用例1においては,複数のレイヤー数として1,2,3及び4である各場合におけるアップリンクMIMO伝送を想定していることから,1,2,3および4である複数のレイヤー数の各場合において,複数のDM RSを生成して伝送することを含んでいる。

(g)上記c.から,各レイヤーに割り当てられる巡回シフトは,異なるものである。また,上記b.及びc.から,総数12の巡回シフトがあり,巡回シフト間の最小間隔(以下,単に「CS最小間隔」という。)の最大値(以下,単に「CS間隔最大値」という。)は,12/(レイヤー数)とされているところ,総数12の巡回シフトを各巡回シフトのシフト量を用いて{0,1,…,11}と表した場合,前記(f)において複数のレイヤー数が2である場合には,CS間隔最大値は,12/2=6となり,CS最小間隔が,CS間隔最大値である6となるように各レイヤーに割り当てられる巡回シフトの組み合わせは,{0,6},{1,7},{2,8},{3,9},{4,10},{5,11}に限られる。また,各組み合わせにおいて,一方のCSを「第1CS」,他方のCSを「第2CS」と称することは任意である。よって,引用例1には,複数のレイヤー数が2の場合に,レイヤーL1が第1CSを用いること,レイヤーL2が第2CSを用いること,CSの総数が12である場合に前記第1CSと前記第2CSとの差が,CS間隔最大値である6であることが実質的に記載されている。

(h)上記a.,b.及びd.から,長さ2の直交カバーコード(OCC)が,スロット1及びスロット2上で用いられることは自明である。
また,上記d.(特に,Table 2)から,引用例1には,複数のレイヤー数が4である場合,レイヤーL1ないしL4に対して,それぞれ異なる巡回シフトであるCS1ないしCS4を割り当て,レイヤーL1とL3に直交カバーコードOCC1{+1,+1}を割り当て,レイヤーL2とL4に直交カバーコードOCC2{+1,-1}を割り当てることが記載されている。ここで,OCC2{+1,-1}がOCC1{+1,+1}と直交することは自明である。
上記(f)及び(g)から,複数のレイヤー数が4である場合,CS間隔最大値は,12/4=3となり,CS最小間隔がCS間隔最大値である3となる各レイヤーに割り当てられる巡回シフトの組み合わせは,{0,3,6,9},{1,4,7,10},{2,5,8,11}のいずれかであり,いずれの組み合わせを用いても得られる効果は同一である。
すると,引用例1には,複数のレイヤー数が4である場合,レイヤーL1とL3には,スロット1及びスロット2上でOCC1を用いること,レイヤーL2とL4にはスロット1及びスロット2上でOCC2を用いることであって,OCC2がOCC1と直交すること,レイヤーL1ないしL4が用いるCSの組み合わせには,{0,3,6,9}を含むこと,が記載されている。そして,レイヤーL1とL3は,当該組み合わせのうち,一組のCSを用い,レイヤーL2とL4は,残りのCSからなる他の組のCSを用いることは自明である。ここで,一組のCSを「第1ペアのCS」,他の組のCSを「第2ペアのCS」と称することは任意である。

したがって,上記(a)ないし(h)より,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「無線通信システムにおいて,UEが行う複数レイヤーのアップリンクMIMO伝送の方法であって,
前記方法は,
前記アップリンクMIMO伝送によりUEが送信するPUSCHを基地局が復調するための参照信号である複数のDM RSを生成することと,
前記複数のDM RSをプリコーディングすることと,
複数のアンテナを通じてアップリンクのサブフレームを介して前記複数のDM RSを伝送することであって,前記アップリンクのサブフレームは,スロット1およびスロット2を含む,ことと
を含み,
前記複数のDM RSは,巡回シフト(CS)および直交カバーコード(OCC)を用いて多重化され,前記アップリンクのサブフレームに割り当てられ,
前記複数のDM RSは,1,2,3および4である複数のレイヤーの数の各場合に対して生成され,
前記複数のレイヤーの数が2である場合に,
レイヤーL1は,第1CSを用い,
レイヤーL2は,第2CSを用い,
CSの総数が12である場合に前記第1CSおよび前記第2CSとの差が,CS間隔最大値である6であり,
前記複数のレイヤーの数が4である場合に,
レイヤーL1とレイヤーL3が,前記アップリンクサブフレームの前記スロット1と前記スロット2でOCC1{+1,+1}を用い,
前記レイヤーL1及び前記レイヤーL3が第1ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,
レイヤーL2とレイヤーL4が,前記アップリンクサブフレームの前記スロット1と前記スロット2でOCC2{+1,-1}を用い,前記OCC1が前記OCC2と直交し,
前記レイヤーL2及び前記レイヤーL4が第2ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,
レイヤーL1,レイヤーL2,レイヤーL3及びレイヤーL4が用いるCSの組み合わせには{0,3,6,9}を含む,方法。」

イ.引用発明2
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,Nokia Siemens Networks, Nokia: UL DM RS for Multi-bandwidth Multi-user MIMO,3GPP TSG RAN WG1 Meeting #51bis R1-080293,2008年1月(以下「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

i.「Signaling:
The dynamic selection of used orthogonal cover is signaled to UE in the UL scheduling grant. For example RRC message is sent to UE indicating a set of cyclic shifts and orthogonal cover codes that are allowed to be used by the UE to differentiate demodulation reference signals in MU-MIMO transmissions. UL scheduling grant can then dynamically indicate the selected pair of cyclic shift and orthogonal cover code from the set defined by RRC message. 」(「3. Proposed sheme」の欄参照。)
([当審仮訳]:
シグナリング:
直交カバーの使用についての動的な選択は,UEに対し,ULスケジューリンググラントにおいて通知される。例えば,巡回シフトと直交カバーコードとの組を含むRRCメッセージが,UEに送信されると,UEは,巡回シフトと直交カバーコードを用いて,MU-MIMO伝送における復調参照信号に差異を生じさせることができるようになる。その後,ULスケジューリンググラントは,RRCメッセージによって予め定義された組から巡回シフトと直交カバーコードのペアを選択して,これを動的に指示する。」)

上記i.において,「MU-MIMO伝送における復調参照信号に差異を生じさせること」により,複数のUE又は複数のアンテナにより構成される複数のレイヤーにおけるDM RSを多重化することは明らかである。

したがって,引用例2には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

「MIMO伝送において,UEが,巡回シフトと直交カバーコードのペアを指示する情報を含むULスケジューリンググラントを受信して,当該ペアに基づいてDM RSを多重化すること。」

ウ.引用発明3
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,LG Electronics,Consideration on DMRS design for UL SU-MIMO in LTE-A,3GPP TSG-RAN WG1#57 R1-092133,2009年4月28日(以下「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

j.「

」(第2ページのTable 2)

引用例3のタイトル「Consideration on DMRS design for UL SU-MIMO in LTE-A」(LTE-AにおけるアップリンクSU-MIMOのためのDMRS設計の検討)から,引用例3は,MIMO伝送に関するものであることは自明である。
上記j.から,ランクが,1乃至4のいずれの場合であってもプリコードされたDM RSを使用することが見て取れる。また,「ランク」は,「レイヤーの数」と同義である。

したがって,引用例3には,以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認める。

「MIMO伝送において,DM RSを,1,2,3及び4である複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングすること。」

エ.引用発明4
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,Nokia Siemens Networks, Nokia: Reference Signal structure for LTE-Advanced UL SU-MIMO,3GPP TSG RAN WG1 Meeting #57 R1-091772,2009年5月(以下「引用例4」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

k.「 DM RS Configuration
・Rel'8 dynamic signaling (CS field included in DCI Format 0) is enough also with SU-MIMO
(…中略…)
・Orthogonal Cover Codes can be tied to the reserved CS resources or antenna/layer index →no need for additional dynamic signalling due to use of orthogonal cover codes.
・Two strategies (configurable?) exist with orthogonal cover code
1. prioritize DM RS orthogonality
2. prioritize CS consumption
- Examples for both shown」(5枚目のスライド)
([当審仮訳]:
「 DM RSの構成
・リリース8の動的シグナリング(DCIフォーマット0に含まれるCSフィールド)は,SU-MIMOにおいてもそのまま使用することができる(enough)。
(…中略…)
・直交カバーコードは,CSのために予約されたリソース又はアンテナ/レイヤーのインデックスに結合される。→ 直交カバーコードを使用するために,追加的に動的シグナリングすることは不要
・直交カバーコードに関して,2つの戦略(変更可能?)が存在する。
1.DM RSの直交性を優先する戦略
2.CSの消費を優先する戦略
-両方の例を示す」)

l.「

」(5枚目のスライド)

上記k.の「直交カバーコードは,CSのために予約されたリソース又はアンテナ/レイヤーのインデックスに結合される。」より,上記l.の表の第1列にある「DM RS Index」は,レイヤーのインデックスと読み替えることができる,また,各レイヤーにおいて,複数のDM RSが,CSと直交カバーコードにより多重化されることは自明である。
すると,上記l.は,レイヤー数が4である場合における,レイヤーのインデックスが,0,1,2及び3である各レイヤーに対する,CSと直交カバーコード(OCC)の組み合わせを示したものであり,上記l.の表の第2列にある「CS Index」が,CSのシフト量を示すことは明らかである。ここで,レイヤーのインデックス0,1,2及び3に対する各レイヤーを,それぞれ,「第1レイヤー」,「第2レイヤー」,「第3レイヤー」及び「第4レイヤー」と称すること,また,[1,1]のOCCを「第1OCC」,[1,-1]のOCCを「第2OCC」と称することは任意である。
そうすると,引用例4には,MIMO伝送において,第1レイヤーは,CSとして0,OCCとして第1OCCを用い,第2レイヤーは,CSとして3,OCCとして第2OCCを用い,第3レイヤーは,CSとして6を,OCCとして第1OCCを用い,第4レイヤーは,CSとして9を,OCCとして第2OCCを用いることが記載されている。
そして,第1OCCを用いる第1レイヤーと第3レイヤーのそれぞれは,CSとして0と6のそれぞれを用い,同様に,第2OCCを用いる第2レイヤーと第4レイヤーのそれぞれは,CSとして3と9のそれぞれを用いている。ここで,第1レイヤーと第3レイヤーのそれぞれが用いるCSである0と6とを「第1ペアのCS」,第2レイヤーと第4レイヤーのそれぞれが用いるCSである3と9とを「第2ペアのCS」と称することは任意である。
上記l.の表に記載されたCSが,DM RSの直交性を優先していることに鑑みれば,第1ペアのCSである0と6は,CSの総数を12とした場合における任意の2つのCS間の最大距離(差)であり,第2ペアのCSである3と9は,CSの総数を12とした場合における任意の2つのCS間の最大距離である。ここで,任意の2つのCS間の最大距離を,「最大CS距離」と称することは任意である。

したがって,引用例4には,以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認める。

「MIMO伝送において,レイヤー数が4である場合に,第1レイヤー及び第3レイヤーが第1OCCを用い,第1レイヤー及び第3レイヤーが6の最大CS距離を有する第1ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,第2レイヤー及び第4レイヤーが第2OCCを用い,第2レイヤー及び第4レイヤーが6の最大CS距離を有する第2ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,第1レイヤーは,0のCSを用い,第3レイヤーは,6のCSを用い,第2レイヤーは,3のCSを用い,第4レイヤーは,9のCSを用いること,により,複数のDM RSを4つのレイヤーに多重化すること。」

(3)対比・判断
ア.対比
補正後の発明と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「無線通信システムにおいて,UEが行う複数レイヤーのアップリンクMIMO伝送の方法」は,補正後の発明の「無線通信システムにおいて端末でアップリンク信号を伝送する方法」に相当する。

(イ)引用発明1の「DM RS」は,補正後の発明の「参照信号」に相当する。よって,引用発明1の「前記アップリンクMIMO伝送によりUEが送信するPUSCHを基地局が復調するための参照信号である複数のDM RSを生成すること」は,後述する相違点を除いて,補正後の発明の「アップリンクMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送に対する複数の参照信号を生成すること」に対応する。

(ウ)LTE等の無線通信システムにおいて,「プリコーディング」が空間多重化のために行われることは出願時の技術常識である。
すると,引用発明1の「前記複数のDM RSをプリコーディングすること」は,補正後の発明の「空間多重化のために前記複数の参照信号をプリコーディングすること」に相当する。

(エ)引用発明1の「アップリンクのサブフレーム」,「スロット1」及び「スロット2」はそれぞれ,補正後の発明の「アップリンクサブフレーム」,「第1スロット」及び「第2スロット」に相当する。よって,引用発明1の「複数のアンテナを通じてアップリンクのサブフレームを介して前記複数のDM RSを伝送することであって,前記アップリンクのサブフレームは,スロット1およびスロット2を含む」は,補正後の発明の「複数のアンテナを通じてアップリンクサブフレームを介して前記複数の参照信号を伝送することであって,前記アップリンクサブフレームは,第1スロットおよび第2スロットを含む」に相当する。

(オ)引用発明1の「巡回シフト(CS)」及び「直交カバーコード(OCC)」はそれぞれ,補正後の発明の「巡回シフト(CS)値」及び「OCC(Orthogonal Cover Code)」に相当する。よって,引用発明1の「前記複数のDM RSは,巡回シフト(CS)および直交カバーコード(OCC)を用いて多重化され,前記アップリンクのサブフレームに割り当てられ」は,補正後の発明の「前記複数の参照信号は,前記制御情報に含まれる巡回シフト(CS)値およびOCC(Orthogonal Cover Code)を用いて多重化され,前記アップリンクサブフレームに割り当てられ」に相当する。

(カ)「複数のレイヤーの数が2である場合」において,引用発明1の「レイヤーL1」,「レイヤーL2」,「第1CS」及び「第2CS」はそれぞれ,補正後の発明の「第1レイヤー」,「第2レイヤー」,「第1CS値」及び「第2CS値」に相当する。また,引用発明1において,「前記第1CSおよび前記第2CSとの差が,CS間隔最大値である6」は,CSの総数が12である場合における,CS間の最大距離に等しい。そうすると,引用発明1の「前記複数のレイヤーの数が2である場合に,レイヤーL1は,第1CSを用い,レイヤーL2は,第2CSを用い,CSの総数が12である場合に前記第1CSおよび前記第2CSとの差が,CS間隔最大値である6」であることは,後述する相違点を除いて,補正後の発明において,「前記複数のレイヤーの数が2である場合」に「第1レイヤーが第1CS値を用い」,「第2レイヤーが第2CS値を用い」,「CS値の総数が12である場合に前記第1CS値および前記第2CS値が6の最大CS距離を有する」ことに対応する。

(キ)「複数のレイヤーの数が4である場合」において,引用発明1の「レイヤーL1」,「レイヤーL3」,「レイヤーL2」,「レイヤーL4」,「第1ペアのCS」,「第2ペアのCS」,「OCC1{+1,+1}」及び「OCC2{+1,-1}」はそれぞれ,補正後の発明の「第1レイヤー」,「第2レイヤー」,「第3レイヤー」,「第4レイヤー」,「第1ペアのCS値」,「第2ペアのCS値」,「第1OCC」及び「第2OCC」に相当する。
そうすると,「複数のレイヤーの数が4である場合」において,引用発明1の「レイヤーL1とレイヤーL3が,前記アップリンクサブフレームの前記スロット1と前記スロット2でOCC1{+1,+1}を用い」及び「レイヤーL2とレイヤーL4が,前記アップリンクサブフレームの前記スロット1と前記スロット2でOCC2{+1,-1}を用い,前記OCC1が前記OCC2と直交」はそれぞれ,後述する相違点を除いて,補正後の発明の「第1レイヤーおよび第2レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第1OCC(Orthogonal Cover Code)を用い」及び「第3レイヤーおよび第4レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第2OCCを用いることであって,前記第2OCCが前記第1OCCと直交」に対応する。
また,引用発明1と補正後の発明は,「前記第1レイヤーおよび前記第2レイヤー」が「第1ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値」を用いること,及び,「前記第3レイヤーおよび前記第4レイヤー」が「第2ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値」を用いることにおいて共通する。

(ク)引用発明1と補正後の発明は,複数の参照信号の各レイヤーが,{0,3,6,9}のうちの一つであって互いに異なるCS値を用いる点において共通する。

イ.一致点・相違点
前記ア.から,補正後の発明と引用発明1とは,以下の点で一致ないし相違している。

[一致点]
「 無線通信システムにおいて端末でアップリンク信号を伝送する方法であって,
前記方法は,
アップリンクMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送に対する複数の参照信号を生成することと,
空間多重化のために前記複数の参照信号をプリコーディングすることと,
複数のアンテナを通じてアップリンクサブフレームを介して前記複数の参照信号を伝送することであって,前記アップリンクサブフレームは,第1スロットおよび第2スロットを含む,ことと
を含み,
前記複数の参照信号は,巡回シフト(CS)値およびOCC(Orthogonal Cover Code)を用いて多重化され,前記アップリンクサブフレームに割り当てられ,
前記複数の参照信号は,1,2,3および4である前記複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングされ,
前記複数のレイヤーの数が2である場合に,
第1レイヤーが第1CS値を用い,
第2レイヤーが第2CS値を用い,
CS値の総数が12である場合に前記第1CS値および前記第2CS値が6の最大CS距離を有し,
前記複数のレイヤーの数が4である場合に,
第1レイヤーおよび第2レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第1OCC(Orthogonal Cover Code)を用い,
前記第1レイヤーおよび前記第2レイヤーが第1ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用い,
第3レイヤーおよび第4レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第2OCCを用いることであって,前記第2OCCが前記第1OCCと直交し,
前記第3レイヤーおよび前記第4レイヤーが第2ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用い,
複数の参照信号の各レイヤーが,{0,3,6,9}のうちの一つであって互いに異なるCS値を用いる,方法。」

[相違点1]
補正後の発明は,「複数のレイヤーに対する情報を含む制御情報を受信すること」を有し,「複数の参照信号」が,当該「制御信号」に含まれる「巡回シフト(CS)値およびOCC(Orthogonal Cover Code)を用いて多重化され,前記アップリンクサブフレームに割り当てられ」ること,詳細には,「制御情報」は,「前記複数のレイヤーの数が2である場合」に,「第1レイヤーが第1CS値を用いることと,第2レイヤーが第2CS値を用いることと,CS値の総数が12である場合に前記第1CS値および前記第2CS値が6の最大CS距離を有すること」を示し,「前記複数のレイヤーの数が4である場合」に,「第1レイヤーおよび第2レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第1OCC(Orthogonal Cover Code)を用いることと,前記第1レイヤーおよび前記第2レイヤーが6の最大CS距離を有する第1ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることと,第3レイヤーおよび第4レイヤーが前記アップリンクサブフレームの前記第1スロットおよび前記第2スロット上で第2OCCを用いることであって,前記第2OCCが前記第1OCCと直交する,ことと,前記第3レイヤーおよび前記第4レイヤーが6の最大CS距離を有する第2ペアのCS値のうちのそれぞれのCS値を用いることであって,前記第2ペアのCS値が前記第1ペアのCS値から最大オフセットを有する,ことと」を示すものであること,すなわち,補正後の発明は,制御情報を受信して,当該制御情報が,各レイヤーが複数の参照信号の多重化に用いるCS値及びOCCを示すものであるのに対し,引用発明1は,複数のDM RSの多重化に用いるCS値及びOCCを示す制御信号を受信することについて言及がない点。

[相違点2]
補正後の発明は,「前記複数の参照信号は,1,2,3および4である前記複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングされ」るのに対し,引用発明1は,複数のDM RSをプリコーディングすることまでは言及があるものの,「1,2,3及び4」である「複数のレイヤーの数の各場合」に対して「プリコーディング」するかどうか不明である点。

[相違点3]
「複数のレイヤーの数が4である場合」において,「第1レイヤーおよび第2レイヤー」が用いる「第1ペアのCS値」及び「第3レイヤーおよび第4レイヤー」が用いる「第2ペアのCS値」に関して,補正後の発明は,いずれも「6の最大CS距離を有する」と共に,「第2ペアのCS値」が「第1ペアのCS値」から「最大オフセットを有する」との条件を有するのに対し,引用発明1は,このような条件に言及がない点,具体的には,補正後の発明は,第1レイヤーないし第4レイヤーのそれぞれが0,6,3,9のCS値を用いることにより上記条件を満たしているのに対し,引用発明1は,{0,3,6,9}の組み合わせを用いるに留まり,各レイヤーが用いるCS値の限定がなされていない点。

ウ.判断
前記イ.の各相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明2にあるように,「MIMO伝送において,UEが,巡回シフトと直交カバーコードのペアを指示する情報を含むULスケジューリンググラント(補正後の発明の「制御情報」に相当。)を受信して,当該ペアに基づいてDM RSを多重化すること」は本願の優先日において公知である。
引用発明1と引用発明2とは,MIMO伝送におけるDM RSの多重化に関するものである点において共通するから,引用発明1に,引用発明2に係る技術思想を適用し,引用発明2における,巡回シフト(CS)と直交カバーコード(OCC)のペアを指示する情報を制御情報に含めて受信し,当該受信した情報に基づいて,DM RSの多重化に使用するよう構成することは当業者が容易に想到し得ることである。
よって,引用発明1において,「複数のレイヤーに対する情報を含む制御情報を受信すること」を付加すると共に,当該受信した「制御情報を用いて」「前記アップリンクMIMO伝送によりUEが送信するPUSCHを基地局が復調するための参照信号である複数のDM RSを生成する」よう構成すると共に,「前記複数のDM RS」が,「前記制御情報に含まれる」「巡回シフト(CS)および直交カバーコード(OCC)を用いて多重化され,前記アップリンクのサブフレームに割り当てられ」るように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると,引用発明1に含まれる,各レイヤーが用いるCSとOCCの組み合わせが,受信した制御情報が示すものとなることは自明である。
よって,[相違点1]は格別のものではない。

[相違点2について]
引用発明3にあるように,「MIMO伝送において,DM RS(補正後の本願発明の「参照信号」に相当。)を,1,2,3及び4である複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングすること」は本願の優先日において公知である。
引用発明1と引用発明3とは,MIMO伝送において,複数のレイヤーにおける参照信号に関するものである点において共通する。
よって,引用発明1における「前記複数のDM RSは,1,2,3および4である複数のレイヤーの数の各場合に対して生成」することを,引用発明3に基づいて「前記複数のDM RSは,1,2,3および4である複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディング」するよう構成することは当業者が容易に想到し得たことである。
よって,[相違点2]は格別のものではない。

[相違点3について]
引用発明4にあるように,「MIMO伝送において,レイヤー数が4である場合に,第1レイヤー及び第3レイヤーが第1OCCを用い,第1レイヤー及び第3レイヤーが6の最大CS距離を有する第1ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,第2レイヤー及び第4レイヤーが第2OCCを用い,第2レイヤー及び第4レイヤーが6の最大CS距離を有する第2ペアのCSのうちのそれぞれのCSを用い,第1レイヤーは,0のCSを用い,第3レイヤーは,6のCSを用い,第2レイヤーは,3のCSを用い,第4レイヤーは,9のCSを用いること,により,複数のDM RSを4つのレイヤーに多重化すること」は,本願の優先日において公知である。
引用発明1と引用発明4とは,MIMO伝送において,DM RSをCSとOCCとを用いて4つのレイヤーに多重化する点において共通する。
よって,引用発明1の「レイヤーL1,レイヤーL2,レイヤーL3及びレイヤーL4が用いるCSの組み合わせには{0,3,6,9}を含む」において,各レイヤーが用いるCSを限定又は具体化するにあたり,CSと組み合わせるOCCとの関係に着目して,引用発明4の手法,すなわち,第1OCCを用いる2つのレイヤーが,CSとして0と6の第1ペアを用い,第2OCCを用いる他の2つのレイヤーが,CSとして3と6の第2ペアを用いるよう構成すること,すなわち,引用発明1において第1OCCに対応するOCC1を用いるレイヤーL1とレイヤーL3が,CSとして0と6のペアを用い,第2OCCに対応するOCC2を用いるレイヤーL2とレイヤーL4が,CSとして3と9のペアを用いるよう構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。また,そのように構成すると,必然的に,第1ペアのCS及び第2ペアのCSのそれぞれが,6の最大CS距離を有し,また,第2ペアのCSが,第1ペアのCSから最大オフセットを有するという構成も満たすことになる。
よって,[相違点3]は格別のものではない。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明1ないし引用発明4から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

エ.請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,
「引用文献4は,(1)2Txアンテナおよびランク2,(2)4Txアンテナおよびランク3,(3)4Txアンテナおよびランク4の場合にnon-precoded(プリコーディングされていない)DMRSが用いられることを明示的に開示しています(引用文献4の第3スライド,第6スライドをご参照ください)。この開示は,明らかに,補正後の独立請求項1の「・・・空間多重化のために前記複数の参照信号をプリコーディングすることと,・・・前記複数の参照信号は,1,2,3および4である前記複数のレイヤーの数の各場合に対してプリコーディングされ,・・・」という事項から遠ざかる教示をしているものです。
従いまして,上記に鑑みると,引用文献4の教示を引用文献1?3の開示に当業者が容易に適用することができたとはいえません。すなわち,引用文献1?4の組み合わせをもって補正後の独立請求項1に係る発明の特許性を否定することはできないものと思料いたします。」と,引用発明1に,引用発明4を適用することに技術的阻害要因があるか,あるいは,適用したとしても補正後の発明を想到することができない旨主張している。
しかしながら,引用発明1と引用発明4において,CSとOCCを組み合わせることは,各レイヤーの参照信号(DM RS)を多重化(直交化)することを目的としており,多重化(直交化)におけるCSとOCCの組み合わせは,対象とする参照信号が,プリコーディングされたものであるかプリコーディングされていないものであるかには影響しない。
このことは,本願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,Qualcomm Europe, DM-RS in support of UL MIMO and TxD [online], 3GPP TSG-RAN WG1#57bis R1-092715, インタ-ネット<URL: http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_57b/Docs/R1-092715.zip>,2009年6月24日アップロード(以下,「参考文献」という。)においてもサポートされている。(なお,引用例1と当該参考文献は,「3GPP TSG-RAN WG1#57bis」という同じワーキンググループによる文書であり,かつ,MIMO伝送におけるDM RSを題材としたものである点で共通しているから,引用例1に接した当業者は,当然に当該参考文献にも接していると解される。)
すなわち,上記参考文献には,以下の事項が記載されている。

m.「Note: each precoded layer is called a virtual tx antenna」(第3ページ)
([当審仮訳]:
注意:各プリコードされたレイヤーは,「virtual tx antenna」(仮想送信アンテナ)と呼ぶ。」)

n.「Summary: Proposal
□When employing CS and OCC to multiplex DM-RS in UL MIMO:
Both cyclic shifts and time domain orthogonal cover codes should be utilized to provide the largest separation between different multiplexed DM-RS as follows

」(第12ページ)
([当審仮訳]:
「まとめ:提案
□UL MIMOにおいて,DM-RSを多重化するためにCSとOCCを採用する場合:
巡回シフトと時間領域の直交カバーコードの両者が,以下のように,多重化された異なるDM-RS間に最大の分離を提供するように使用されるべきである
(表は省略)」

上記n.の表には,レイヤーの数が2乃至4のいずれの場合においても,仮想送信アンテナ,すなわち,プリコーディングされているレイヤーを用い得ること,及び,各レイヤーの数に対して,各レイヤーと,スロット0及びスロット1において使用するCSとOCCとの対応関係が具体的に規定されている。すなわち,r^(x)(n)は,ベースとなる巡回シーケンスの巡回シフト(CS)としてxを使用したDM RSを意味し,スロット0で使用するDM RSが+r^(x)(n)であり,スロット1で使用するDM RSが+r^(x)(n)である場合には,OCCとして[+1,+1]が使用され,スロット0で使用するDM RSが+r^(x)(n)であり,スロット1で使用するDM RSが-r^(x)(n)である場合には,OCCとして[+1,-1]が使用されることを意味している。
詳細には,プリコーディングされているレイヤーの数が4である場合,仮想送信アンテナ1(レイヤー1)は,CS(0)とOCC[1,1]を使用し,仮想送信アンテナ2(レイヤー2)は,CS(M/4)とOCC[1,-1]を使用し,仮想送信アンテナ3(レイヤー3)は,CS(M/2)とOCC[1,1]を使用し,仮想送信アンテナ4(レイヤー4)は,CS(3M/4)とOCC[1,-1]を使用することが記載されている。ここで,巡回シフトの総数Mを12とすると,レイヤー1ないし4が使用するCSは順に{0,3,6,9}となり,これに組み合わされるOCCは,順に{[1,1],[1,-1],[1,1],[1,-1]}となるから,CSとOCCの組み合わせは,引用発明4と同一である。
そうすると,レイヤー数が4である場合に,プリコードされていないレイヤーと,プリコードされているレイヤーとに対して,同じCSとOCCの組み合わせを用いることできることから,CSとOCCとの組み合わせは,多重化(直交化)の対象とするレイヤーのDM RS(参照信号)がプリコードされているか否かには影響しないといえる。
よって,多重化(直交化)におけるCSとOCCの組み合わせは,対象とする参照信号が,プリコーディングされたものかプリコーディングされていないものかには影響しないことは,本願の優先日において明らかな事項であるから,引用発明4が,プリコーディングされていないことを前提としていることをもって,引用発明1に適用できないということはできない。
すなわち,複数のレイヤーの数が4である場合における各レイヤーが用いるCSとOCCとの組み合わせに係る技術のみを引用例4から抽出して引用発明4として,これを引用発明1に適用することに何らの技術的な阻害要因は存在しない。
したがって,上記請求人の主張は採用しない。

オ.小括
以上のとおり,補正後の発明は,引用発明1ないし引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)結語
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年4月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。

2.引用発明
引用発明1ないし引用発明4は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記補正後の発明から本件補正に係る,「制御情報」及び各「レイヤー」が使用する「CS値」についての限定を省いたものである。
そうすると,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明1ないし引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1ないし引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-17 
結審通知日 2015-11-18 
審決日 2015-12-01 
出願番号 特願2012-517402(P2012-517402)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 篤男藤江 大望  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 アップリンクMIMO伝送において参照信号を伝送する方法及び装置  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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