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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1313493
審判番号 不服2014-16230  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-15 
確定日 2016-04-06 
事件の表示 特願2012-167374「ウルケニア(Ulkenia)由来のPUPA-PKS遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月25日出願公開、特開2012-205595〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)4月8日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年4月8日 ドイツ)とする特願2007-506732号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成25年8月5日付で手続補正がなされたが、平成26年4月10日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年8月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年8月15日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成26年8月15日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、補正前の請求項1は、
「【請求項1】
a.配列番号6(ORF1)において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、かつ、PUFA-PKSの生物活性を有するアミノ酸配列、あるいは、
b.配列番号32において表されるアミノ酸配列に対して99%?100%の配列同一性を有し、かつ、βケトアシルシンターゼの生物活性を有するアミノ酸配列、あるいは、
c.配列番号33において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有する配列、配列番号34において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有する配列、及び配列番号45において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有する配列のうちの少なくとも1つを含み、かつ、配列番号33、34、45のそれぞれに対応して、マロニルCoA-ACPトランスフェラーゼ、ACPドメインの10個の繰り返しを有するアラニンに富む配列およびケトレダクターゼに部分的に一致する配列による生物活性を有するアミノ酸配列、
を有することを特徴とするPUFA-PKS。」から、
「【請求項1】
a.配列番号6(ORF1)において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、かつ、PUFA-PKSの生物活性を有するアミノ酸配列、あるいは、
b.以下の(i)?(iv)のアミノ酸配列の組合せ、
(i)配列番号32において表されるアミノ酸配列に対して99%?100%の配列同一性を有し、かつ、βケトアシルシンターゼの生物活性を有するアミノ酸配列、
(ii)配列番号33において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、マロニルCoA-ACPトランスフェラーゼの生物活性を有するアミノ酸配列、
(iii)配列番号34において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、ACPドメインの10個の繰り返しを有するアラニンに富むアミノ酸配列、及び
(iv)配列番号45において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、ケトレダクターゼに部分的に一致する配列による生物活性を有するアミノ酸配列、
を有することを特徴とするPUFA-PKS。」(下線部は、補正箇所を表す。)へと補正された。

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前のb.及びcにおいて特定された各ドメインのアミノ酸配列を、全て組合わせで含むものに限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前の2002年10月24日に頒布された刊行物である、国際公開第02/083870号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(翻訳は対応する国内公表公報である、特表2005-510203号公報によるものであり、下線は当審にて付記したものである。)
(1-a)「本発明は一般に、非細菌生物から単離または誘導された高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系、それらの相同体、このようなPUFA PKS系の生物活性ドメインをコードしている単離核酸分子および組換え核酸分子、対象とする生物活性分子を生成するためのこのような系の作成および使用法、並びにこのようなPUFA PKS系を有する新規の細菌および非細菌微生物を同定する新規方法に関する。」(要約)

(1-b)「好ましくは、本発明の単離された核酸分子は、組換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)または化学的合成を用いて作製される。・・・核酸分子相同体は、当業者に公知の多数の方法を用いて作製されうる(例えば、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989を参照)。」(34頁29行目?35頁7行目)

(1-c)「本発明のさらにもう一つの態様は、スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つの生物活性を有するドメインまたはその生物活性を有する断片をコードする核酸配列を含む単離された核酸分子に関する。上記で考察されているように、本発明者らは、PUFA PKS系を有する非細菌の微生物を同定するための方法を用いて、PUFA PKS系を含んでいるスラウストキトリアレスの追加のメンバーを同定することに成功した。3つのそのような微生物の同定は、実施例2に記載されている。具体的に言うと、本発明者らは、本発明のスクリーニング方法を用いて、PUFA PKS系を含むことが高度に予想されるスラウストキトリウム種(Thraustochytrium sp.)23B(ATCC20892)を同定し、続いて、本明細書に開示されるシゾキトリウムPUFA PKS遺伝子にハイブリダイズするスラウストキトリウム種23Bゲノムにおける配列を検出した。シゾキトリウム・リマシウム(Schizochytrium limacium)(IFO32693)およびウルケニア(Ulkenia)(BP-5601)もまた、PUFA PKS系を含んでいる有力な候補として同定された。これらのデータおよびヤブレツボカビ目のメンバー間の類似性に基づき、多くの他のスラウストキトリアレスPUFA PKS系が、本発明により提供される方法および道具を用いて現在容易に同定されうると考えられる。それゆえ、スラウストキトリアレスPUFA PKS系および部分および/またはそれらの相同体(例えば、タンパク質、ドメインおよびそれらの断片)、そのような系および部分および/またはそれらの相同体を含む遺伝的に改変された生物、ならびにそのような微生物およびPUFA PKS系を用いる方法が本発明に含まれる。」(56頁17行目?57頁4行目)

(1-d)「実施例1
下記実施例は、シゾキトリウム由来のPKS関連配列の更なる分析を説明している。
本発明者らは、国際公開公報第0042195号および米国特許出願第09/231,899号からの、実施例8および9において概説された一般的方法を使用し、シゾキトリウムPUFA PKS系において、3個のオープンリーディングフレーム(Orf)の全長を全て含む、ゲノムDNAを配列決定した。シゾキトリウムPKSタンパク質の生物活性ドメインは、図1に図示した。シゾキトリウムのPUFA PKS系のドメイン構造は、以下により詳細に説明する。
オープンリーディングフレームA(OrfA):
OrfAの完全なヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:1として示される。OrfAは、8730個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、これは本明細書においては配列番号:2として示されている2910個のアミノ酸配列をコードしている。OrfAは、下記の12個のドメインがある: (a)1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;
(b)1個のマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン;
(c)9個のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;
(d)1個のケトレダクターゼ(KR)ドメイン」(85頁13?30行目)

(1-e)「実施例2
下記実施例は、本発明のPUFA PKS系を含む3種の他の非細菌の生物を同定するための、本発明のスクリーニング法の使用を説明している。
スラウストキトリウム種23B(ATCC 20892)は、米国特許仮出願第60/298,796号に開示されており、本明細書において詳細に説明するスクリーニング法により、培養された。
PUFA生成PKS系を含む微生物を検出するために開発された生物学的に合理性のあるスクリーニング(振盪フラスコ培養を用いる)を、下記に説明する:
試験される菌株/微生物の2mLの培養物を、培養培地50mLと共に、250mLのバッフル付き振盪フラスコに入れ(好気的処理)、別の同じ菌株の培養物2mLを、培養培地200mLと共に、250mLのバッフル無し振盪フラスコに入れた(嫌気的条件)。両方のフラスコを、200rpmの振盪台上に配置する。培養時間48?72時間後、これらの培養物を、遠心により収集し、かつ細胞を、ガスクロマトグラフィーにより、脂肪酸メチルエステルについて分析し、各培養物について下記のデータを測定した:(1)脂肪酸プロファイル;(2)PUFA含量;(3)脂肪含量(総脂肪酸量として算出(TEA))。
次にこれらのデータを、下記の5つの質問について分析する:
選択基準:低O2/嫌気性フラスコ、対、好気性フラスコ(はい/いいえ)
(1)DHA(または他のPUFA含量)(%FAMEとして)は、低酸素培養において、好気性培養と比べ、ほぼ同じであるか、または好ましくは増加したか?
(2)嫌気性培養において、C14:0+C16:0+C16:1は、約40%TFAより大きいかどうか?
(3)嫌気性培養において、通常の酸素依存型エロンガーゼ/デサチュラーゼ経路への前駆体(C18:3n-3+C18:2n-6+C18:3n-6)は、非常にわずかに(FAMEとして>1%)存在するか、または存在しないか?
(4)脂肪含量(総脂肪酸量/細胞乾燥質量として)は、低酸素培養において、好気性培養と比べ、増加したか?
(5)DHA(または他のPUFA含量)は細胞乾燥質量%として、低酸素培養において、好気性培養と比べ、増加したか?
最初の3つの質問の答えが「はい」であるならば、その菌株が、長鎖PUFAの生成のためのPKS遺伝子系を含むことの良好な指標が存在する。答えが「はい」である質問が多いほうが(好ましくは最初の3個の質問の答えは「はい」でなければならない)、その菌株がこのようなPKS遺伝子系を含む指標はより強力である。5つの質問全ての答えが「はい」である場合は、その菌株が、長鎖PUFAの生成ためのPKS遺伝子系を含む非常に強力な指標が存在する。」(92頁15行目?93頁18行目)

(1-f)「スラウストキトリウム23Bに関するスクリーニング結果は下記のようであった:
%FAMEとしてのDHAは増大したか? はい(38->44%)
C14:0+C16:0+C16:1は、約40%TFAよりも大きいか? はい(44%)
C18:3(n-3)またはC18:3(n-6)は存在しないか? はい(0%)
脂肪含量は増加したか? はい(2倍増加)
DHA(または他のHUFA含量)は増加したか? はい(2.3倍増加)
これらの結果、特に低酸素条件下でのDHA含量(%FAMEとしての)の有意な増加は、このスラウストキトリウム株におけるPUFA生成PKS系の存在を強力に示している。
PUFA PKS系の存在を確認する追加のデータを提供するために、スラウストキトリウム23Bのサザンブロットを、PUFA生成PKS系(すなわち、前記配列番号:1?32)を有することが既に決定されているシゾキトリウム株20888由来のPKSプローブを用いて行った。PKS PUFA合成遺伝子からのハイブリダイゼーションプローブと相同であるスラウストキトリウム23BゲノムDNAの断片は、サザンブロット技術を用いて検出した。スラウストキトリウム23BゲノムDNAは、ClaIまたはKpnI制限エンドヌクレアーゼのいずれかにより消化し、アガロースゲル電気泳動(0.7%アガロース、標準のTris-酢酸-EDTA緩衝液中)により分離し、Schicicher & Schuell Nytran Supercharge膜に、キャピラリートランスファーによりブロティングした。2種のジゴキシゲンインで標識したハイブリダイゼーションプローブを用いた。即ち、ひとつはシゾキトリウムPKS OrfBのエノイルレダクターゼ(ER)領域(OrfBのヌクレオチド5012?5511;配列番号:3)に特異的であり、他方はシゾキトリウムPKS OrfCの始まりの保存領域(OrfCのヌクレオチド76?549;配列番号:5)に特異的である。
OrfB-ERプローブは、スラウストキトリウム23BゲノムDNAにおける約13kb ClaI断片および約3.6kb KpnI断片を検出した。OrfCプローブは、スラウストキトリウム23BゲノムDNAにおける約7.5kb ClaI断片および約4.6kb KpnI断片を検出した。
最後に、ベクターλFIX II(Stratagene社)に挿入されたスラウストキトリウム23BゲノムDNAのDNA断片からなる組換えゲノムライブラリーを、下記のシゾキトリウム20888 PUFA-PKS遺伝子のセグメントに相当するジゴキシゲニン標識プローブを用いて、スクリーニングした:OrfAのヌクレオチド7385?7879(配列番号:1)、OrfBのヌクレオチド5012?5511(配列番号:3)、およびOrfCのヌクレオチド76?549(配列番号:5)。これらの各プローブは、スラウストキトリウム23Bライブラリーから陽性プラークを検出し、これはシゾキトリウム PUFA-PKS遺伝子と、スラウストキトリウム23Bの遺伝子の間の強度の相同性を示している。まとめると、これらの結果は、スラウストキトリウム23BゲノムDNAは、シゾキトリウム20888由来のPKS遺伝子と相同である配列を含むことを示している。」(94頁9行目?95頁14行目)

(1-g)「前述のスクリーニング法は、PUFA PKS系を含む他の可能性のある候補菌株の同定に使用される。本発明者らによりPUFA PKS系を有することが同定された2種の追加の菌株は、シゾキトリウム・リマシウム(SR21) Honda & Yokochi (IFO32693)およびウルケニア(BP-5601)である。両方とも、前述のようにスクリーニングされているが、これはN2培地においてであった(グルコース:60g/L;KH2PO4:4.0g/L;酵母抽出物:1.0g/L;コーン浸漬リカー:1ml/L;NH4NO3:1.0g/L;人工海水塩(Reef Crystals):20g/L;前記濃度は全て脱イオン水に混合した)。シゾキトリウム株およびウルケニア株の両方について、スラウストキトリウム23Bに関し先に考察した最初の3個のスクリーニング質問の回答は、「はい」(シゾキトリウム-DHA(%FAME) 32->41% 好気性対嫌気性、58% 14:0/16:0/16:1、0% 前駆体)および(ウルケニア-DHA(%FAME) 28->44% 好気性対嫌気性、63% 14:0/16:0/16:1、0% 前駆体)であり、これは、これらの株はPUFA PKS系を含むことの良好な候補であることを示している。各菌株について、「いいえ」の回答は、最後のふたつの質問で得られた:S.リマシウムにおいて、脂肪は61乾燥質量%から22乾燥質量%へ減少し、DHAは21?9乾燥質量%であり、ウルケニアにおいて、脂肪は59から21乾燥質量%へ減少し、DHAは16?9乾燥質量%であった。これらのスラウストキトリド微生物も、前記態様における使用のための遺伝子の追加供給源として、本明細書において主張されている。」(95頁24行目?96頁7行目)

摘記事項(1-a)及び(1-d)の下線部分を整理すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
「配列番号2(OrfA)において表されるアミノ酸配列を有することを特徴とするシゾキトリウム由来のPUFA-PKS。」

(2)対比
本願補正発明はa、あるいは、bの選択肢からなるから、aに対応する発明である、「配列番号6(ORF1)において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、かつ、PUFA-PKSの生物活性を有するアミノ酸配列を有することを特徴とするPUFA-PKS。」(以下、「本願補正発明a」という。)と引用発明を対比する。
そうすると両者は、「1つのORFのアミノ酸配列を有することを特徴とするPUFA-PKS。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:PUFA-PKSが、本願補正発明aは、ウルケニア由来の配列番号6(ORF1)において表されるアミノ酸配列に対して、90?100%の配列同一性を有するものであるのに対して、引用発明は、シゾキトリウム由来の配列番号2(OrfA)において表されるアミノ酸配列を有するものである点。

(3)当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例1の摘記事項(1-c)には、PUFA PKS系を含んでいるスラウストキトリアレスの追加のメンバーとして、PUFA PKS系を含むことが高度に予想されるスラウストキトリウム種23B(ATCC20892)を同定し、さらにシゾキトリウム・リマシウム(IFO32693)およびウルケニア(BP-5601)を、PUFA PKS系を含んでいる有力な候補として同定したことが記載されている。
具体的には、まずスラウストキトリウム種23B(ATCC20892)に関して、既に取得しているシゾキトリウム20888 PUFA-PKS遺伝子のセグメントに相当する、OrfAのヌクレオチド(配列番号:1)における7385?7879の配列を含むジゴキシゲニン標識プローブを用いてスクリーニングを行った結果、当該プローブはスラウストキトリウム23Bライブラリーから陽性プラークを検出したことが記載されており、このことはシゾキトリウム PUFA-PKS遺伝子と、スラウストキトリウム23Bの遺伝子の間の強度の相同性を示していると記載されている(摘記事項(1-e)?(1-f))。さらに、上記スクリーニング法が、PUFA PKS系を含む他の候補菌株の同定に使用され、その結果としてシゾキトリウム・リマシウム(SR21)(IFO32693)およびウルケニア(BP-5601)が同定されたことが記載されており、これらのスラウストキトリド微生物もPUFA PKS系における使用のための遺伝子の追加供給源であることも記載されている(摘記事項(1-g))。
引用例1の上記記載より、スラウストキトリウム23Bのみならずウルケニア(BP-5601)についても、シゾキトリウム PUFA-PKS遺伝子との間の強度の相同性を有するPUFA-PKS遺伝子を含むことは当然に予測できることであり、ウルケニア(BP-5601)、さらには他の既知のウルケニアについても、それらに由来するPUFA-PKS遺伝子を追加的に得ようとする動機付けは十分に存在したといえる。
そして、引用例1の摘記事項(1-b)にも記載されているように、組換えDNA技術により目的の遺伝子をPCR増幅及びクローニングしてその配列を決定することは本願優先日前当業者の周知技術であるから、引用例1に記載のウルケニア(BP-5601)又は他の既知のウルケニアについてゲノムDNAを調製し、引用例1の摘記事項(1-d)に記載のシゾキトリウム由来のPUFA-PKSをコードする配列番号1のDNA配列を元にプライマーを作製して、調製したゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行った後、その増幅産物を切り出してベクターに組み込むことで、引用発明のシゾキトリウム由来の配列番号2(OrfA)に対応するウルケニア由来のPUFA-PKS遺伝子をクローニングすること、さらにクローニングされた遺伝子のDNA配列、並びに当該DNA配列によってコードされるアミノ酸配列を決定することは当業者であれば容易になし得るものであり、そのようにして、本願補正発明aの配列番号6において表されるアミノ酸配列に対して90%?100%の配列同一性を有し、かつ、PUFA-PKSの生物活性を有するアミノ酸配列を有するPUFA-PKSは得られるものである。

なお、特表2000-513575号公報に「ドコサヘキサエン酸およびドコサペンタエン酸含有油脂を生産する能力を有するウルケニア属SAM2179株(FERM BP-5601)。」(請求項5)と記載されているように、引用例1に記載のウルケニア(BP-5601)は、本願補正発明aのPUFA-PKSの取得に用いたウルケニア種SAM2179と同一の微生物であるから、引用例1に記載のウルケニア(BP-5601)由来のPUFA-PKSは必然的に本願補正発明aの配列番号6(ORF1)のアミノ酸配列自体を有することとなる。

また、本願の発明の詳細な説明にはウルケニアに由来するPUFA-PKS遺伝子のゲノム上の位置や当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列が記載されているのみであって、当該アミノ酸配列を有するPUFA-PKSを用いることで、PUFAが高い収率で得られるといったような効果は記載されておらず、本願補正発明aの効果についても、引用例の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、実際には、ウルケニアに特異的なプライマー(PSF2:配列番号83及びPSR2:配列番号84)を用いたPCRスクリーニングで得られた配列番号1を得てもPUFA-PKS遺伝子の全容を解析することはできず、種々のプライマーの選択を行うという試行錯誤を経て到達したCFOR1(配列番号:85)及びCREV(配列番号:86)をPCR用として転用するという工夫を行うことでPUFA-PKS遺伝子の全容が明らかとされたことを主張している。
しかしながら、上記主張はPUFA-PKS遺伝子を構成するORF1?3の全容を明らかにすることの困難性を述べているに過ぎず、本願の特許請求の範囲はそのうちの1つであるORF1に関する部分のみであるから、特許請求の範囲に基づいた主張とは認められないので、採用することはできない。

(5)むすび
以上検討したところによれば、本願補正発明aは、引用例1に記載された発明及び本願優先日当時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成26年8月15日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成25年8月5日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に記載したとおりのものである。
そして、本願発明は本願補正発明aを包含するものであることが明らかであり、本願補正発明aは、上記第2 2.で述べたとおり、引用例1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-28 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2012-167374(P2012-167374)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 昌男北村 悠美子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 飯室 里美
高堀 栄二
発明の名称 ウルケニア(Ulkenia)由来のPUPA-PKS遺伝子  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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