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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1313506
審判番号 不服2015-3248  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-20 
確定日 2016-04-06 
事件の表示 特願2013-532075「低NOx燃焼(NAV)を備えた内燃機関エンジンのための操作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日国際公開、WO2012/045460、平成25年10月17日国内公表、特表2013-538984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年10月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年10月7日、ドイツ連邦共和国、2011年3月31日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年4月5日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年6月5日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、同年7月25日に手続補正書が提出され、平成26年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年8月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月14日付けで拒絶査定がされ、平成27年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年2月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年2月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成27年2月20日付けの手続補正の内容
平成27年2月20日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年8月18日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
直接噴射ガソリンエンジン用の排気ガス再循環装置を備えた直接噴射の内燃機関エンジンのための操作方法であり、RZV部分操作方法は低から中速度および/または低から中負荷を持つエンジン特性マップの領域において実行され、圧縮着火により点火され制御された自己点火(RZV)により燃焼する希薄な燃料/排気ガス/空気混合気を持つ当該RZV部分操作方法であり、
圧縮着火を備えた前記エンジン特性マップの領域は高い負荷において、低NOx燃焼(NAV)が実行される別のエンジン特性マップの領域と隣接し、発火点(ZZP)において内燃機関エンジンの所定の燃焼室内の燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気が点火装置により火花点火され、前記火花点火により発生した火炎面燃焼(FFV)は制御された自己点火(RZV)に移行し、
純粋な制御された自己点火(RZV)を持つ前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で交互に切り替えられ、前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で切り替えられる間、充填希釈度範囲は任意に移行されること
を特徴とする操作方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
直接噴射ガソリンエンジン用の排気ガス再循環装置を備えた直接噴射の内燃機関エンジンのための操作方法であり、RZV部分操作方法は低から中速度および/または低から中負荷を持つエンジン特性マップの領域において実行され、圧縮着火により点火され制御された自己点火(RZV)により燃焼する希薄な燃料/排気ガス/空気混合気を持つ当該RZV部分操作方法であり、
圧縮着火を備えた前記エンジン特性マップの領域は高い負荷において、低NOx燃焼(NAV)が実行される別のエンジン特性マップの領域と隣接し、発火点(ZZP)において内燃機関エンジンの所定の燃焼室内の燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気が点火装置により火花点火され、前記火花点火により発生した火炎面燃焼(FFV)は制御された自己点火(RZV)に移行し、
純粋な制御された自己点火(RZV)を持つ前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で交互に切り替えられ、前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で切り替えられる間、充填希釈度範囲は任意に移行され、
前記NAV部分操作方法の前記充填希釈度が、0.03から0.05の間に設定される、
ことを特徴とする操作方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「純粋な制御された自己点火(RZV)を持つ前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で交互に切り替えられ、前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で切り替えられる間、充填希釈度範囲は任意に移行されること」という記載を「純粋な制御された自己点火(RZV)を持つ前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で交互に切り替えられ、前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で切り替えられる間、充填希釈度範囲は任意に移行され、
前記NAV部分操作方法の前記充填希釈度が、0.03から0.05の間に設定される、」という記載にするものであり、「NAV部分操作方法」における「充填希釈度」の設定される数値範囲を具体的に限定したものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載等
ア 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2009-115025号公報(以下、「引用文献」という。)には、「圧縮自己着火式内燃機関の制御装置および制御方法」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1c」という。)がある。

1a 「【0020】
以下、図1?図15を用いて、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を自動車用ガソリンエンジンに適用したエンジンシステムの構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を自動車用ガソリンエンジンに適用したエンジンシステムの構成を示すシステム構成図である。
【0021】
エンジン100は、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼を実施する自動車用ガソリンエンジンである。吸入空気量を計測するエアフローセンサ1と、吸気流量を調整する電子制御スロットル2とが、吸気管6の各々の適宜位置に備えられている。また、エンジン100には、シリンダ7とピストン14とで囲われる燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ3と、点火エネルギーを供給する点火プラグ4と、がシリンダ7の各々の適宜位置に備えられている。また、筒内に流入する吸入ガスを調整する吸気バルブ5aと筒内から排出される排気ガスを調整する排気バルブ5bとから構成される可変バルブ5と、がシリンダ7の各々の適宜位置に備えられている。可変バルブ5を調整することにより、筒内のEGR量を調整する。」(段落【0020】及び【0021】)

1b 「【0034】
火花点火式燃焼モード(SI:Spark Ignition)は、図4に示すように、エンジン回転速度Neの低回転速度から高回転速度まで、また、エンジントルクTeの低トルクから高トルクまでの広い領域で、実現可能である。
【0035】
一方、圧縮自己着火式燃焼モード(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)を実現する方法としては、吸気加熱、高圧縮化、および内部EGR導入などの方法がある。この中で、コストおよび火花点火式燃焼モードでの運転を考慮すると、バルブタイミングの操作による内部EGR導入が実現性の高い方法である。内部EGR導入による圧縮自己着火式燃焼時には、燃焼室内の内部EGR量を多量とする必要がある。これによって筒内に流入する新気量が制限されることと、混合気形成から燃焼に至るまでの化学反応に有限の時間が必要であることから、自然吸気エンジンでは、図4に示すように、低負荷・低回転速度の作動状態において、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIが実現可能である。」(段落【0034】及び【0035】)

1c 「【0050】
次に、図5を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による燃焼モードに切替について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による燃焼モードに切替の説明図である。
【0051】
図5において、横軸は空燃比A/Fを示している。空燃比A/F=14.7よりも右側が、リーンLeであり、左側がリッチRiである。また、縦軸は内部EGR率RI-EGRを示している。縦軸の上側が内部EGR率が高く、下側が低いものである。
【0052】
図5は、内部EGR導入による圧縮自己着火式燃焼を実現する自然吸気エンジンにおける、筒内の空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGRに関して注目した場合の、火花点火式燃焼領域と圧縮自己着火式燃焼領域を示す。ただし、領域全体において、エンジントルクおよびエンジン回転速度はほぼ一定であるものとする。
【0053】
図5において、火花点火式燃焼領域SIは、空燃比A/Fが比較的リッチ側であり、内部EGR率RI-EGRが比較的低い領域において安定して実施可能である。これに対して、圧縮自己着火式燃焼HCCIは、空燃比A/Fが比較的リーンであり、内部EGR率RI-EGRが比較的高い領域において、安定して実施可能である。それぞれの燃焼領域の間には双方の燃焼も安定して実施困難となる燃焼不安定領域CISが存在する。
【0054】
本実施形態では、例えば、点Aのように、空燃比A/Fが14.7付近で、内部EGR率RI-EGRが低い状態の火花点火式燃焼領域SIで、エンジンが燃焼している状態で、内部EGR率RI-EGRを高めて、点Bの状態で、エンジンを燃焼させる。その後、点Cで、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIで燃焼できるように、燃焼モードを切り替える。ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。そして、火花点火式燃焼領域SIの点Bから、混在燃焼領域CCを経て、点Cの圧縮自己着火式燃焼領域HCCIに切り替える。さらに、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIの中で、空燃比A/Fをリーン側の点Dとする。
【0055】
次に、図6?図8を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、火花点火式燃焼モードSIと、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIと、混在燃焼モードCCにおける、エンジンの作動概要について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、火花点火式燃焼モードSIにおけるエンジンの作動概要を示すタイミングチャートである。図7は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIにおけるエンジンの作動概要を示すタイミングチャートである。図8は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、混在燃焼モードCCにおけるエンジンの作動概要を示すタイミングチャートである。
【0056】
最初に、図6を用いて、火花点火式燃焼モードSIにおけるエンジンの作動概要について説明する。
【0057】
図6において、図6(A)はシリンダ内圧力Pを示し、図6(B)は燃焼噴射信号Finjを示している。横軸は、膨張行程EXP,排気行程EXH,吸気行程INT,圧縮行程COMの各行程を示している。
【0058】
図における排気バルブ開期間EX-V-opnが排気バルブが開いている期間を示している。火花点火式燃焼モードSIでは、排気バルブは、排気行程EXHを挟んで、膨張行程EXPの終わりの頃から、吸気行程INTの最初の頃まで開いている。
【0059】
吸気バルブ開期間IN-V-opnは、吸気バルブが開いている期間を示している。火花点火式燃焼モードSIでは、吸気バルブは、排気行程EXHを挟んで、膨張行程EXPの終わりの頃から、吸気行程INTの最初の頃まで開いている。
【0060】
火花点火式燃焼SIを実施する際には、図1に示した吸気管6から吸気バルブ5aを経てシリンダ7内に流入した空気に対し、図6(B)に示すように、吸気行程の所定の時期に、燃料を噴射し(主燃料噴射INJ-Mn)、混合気を形成する。混合気は、図6(A)に示すように、圧縮行程の所定の点火時期(図6(A)の点火SPKのタイミング)で、点火プラグ4から発生される火花により爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。更に、爆発後の排気ガスは排気管8を経て、三元触媒10に送りこまれ、排気成分は三元触媒10により浄化され、外部へと排出される。
【0061】
次に、図7を用いて、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIにおけるエンジンの作動概要について説明する。図7において、図7(A)はシリンダ内圧力Pを示し、図7(B)は燃焼噴射信号Finjを示している。横軸は、膨張行程EXP,排気行程EXH,吸気行程INT,圧縮行程COMの各行程を示している。
【0062】
図における排気バルブ開期間EX-V-opnが排気バルブが開いている期間を示している。圧縮自己着火式燃焼モードHCCIでは、排気バルブは、排気行程EXHの途中において閉じる。
【0063】
吸気バルブ開期間IN-V-opnは、吸気バルブが開いている期間を示している。圧縮自己着火式燃焼モードHCCIでは、吸気バルブは、吸気行程INTの途中から開き始める。
【0064】
従って、吸気上死点TDC-iを挟んで、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLを有している。ここで、排気バルブと吸気バルブの両方が開いている状態を、プラスオーバーラップ期間と称するのに対して、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLと称する。マイナスオーバーラップ期間M-OVLでは、排気は完全には行われてないため、内部EGRがシリンダ7の内部に残留している。したがって、図7(A)に示すように、シリンダ内圧力Pは、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの排気行程EXHの後半において上昇する。
【0065】
そして、図7(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。
【0066】
更に、吸気行程にて、吸気バルブが開くことで、吸気管6より吸気バルブ5aを経てシリンダ7内に空気が流入し、このタイミングで、再度、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。そして、ピストンの圧縮により自己着火SIして、混合気が爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。その後は、火花点火式燃焼と同様に、排気ガスは三元触媒10により浄化され、外部へと排出される。
【0067】
次に、図8を用いて、混在燃焼モードCCにおけるエンジンの作動概要について説明する。図8において、図8(A)はシリンダ内圧力Pを示し、図8(B)は燃焼噴射信号Finjを示している。横軸は、膨張行程EXP,排気行程EXH,吸気行程INT,圧縮行程COMの各行程を示している。
【0068】
図における排気バルブ開期間EX-V-opnが排気バルブが開いている期間を示している。圧縮自己着火式燃焼モードHCCIでは、排気バルブは、排気行程EXHの途中において閉じる。
【0069】
吸気バルブ開期間IN-V-opnは、吸気バルブが開いている期間を示している。圧縮自己着火式燃焼モードHCCIでは、吸気バルブは、吸気行程INTの途中から開き始める。
【0070】
従って、吸気上死点TDC-iを挟んで、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLを有している。なお、図7と比較するわかるように、図7の圧縮自己着火式燃焼モードHCCIに比べて、排気バルブが閉じるタイミングが遅くされ、また、吸気バルブが開くタイミングを早くすることで、マイナスオーバーラップ期間M-OVLは短くなっている。マイナスオーバーラップ期間M-OVLでは、排気は完全には行われてないため、内部EGRがシリンダ7の内部に残留している。マイナスオーバーラップ期間M-OVLは短くなっているため、シリンダ内に残留する内部EGRの量は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIに比べて少ないものである。図8(A)に示すように、シリンダ内圧力Pは、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの排気行程EXHの後半において上昇する。
【0071】
そして、図8(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。
【0072】
吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。その後は、火花点火式燃焼と同様に、排気ガスは三元触媒10により浄化され、外部へと排出される。」(段落【0050】ないし【0072】)

イ 引用文献の記載事項
記載1aないし1c及び図面の記載から、引用文献には、次の事項(以下、順に「記載事項1d」ないし「記載事項1k」という。)が記載されていると認める。

1d 記載1a、記載1bの「一方、圧縮自己着火式燃焼モード(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)を実現する方法としては、吸気加熱、高圧縮化、および内部EGR導入などの方法がある。この中で、コストおよび火花点火式燃焼モードでの運転を考慮すると、バルブタイミングの操作による内部EGR導入が実現性の高い方法である。内部EGR導入による圧縮自己着火式燃焼時には、燃焼室内の内部EGR量を多量とする必要がある。これによって筒内に流入する新気量が制限されることと、混合気形成から燃焼に至るまでの化学反応に有限の時間が必要であることから、自然吸気エンジンでは、図4に示すように、低負荷・低回転速度の作動状態において、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIが実現可能である。」(段落【0035】)、記載1cの「従って、吸気上死点TDC-iを挟んで、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLを有している。ここで、排気バルブと吸気バルブの両方が開いている状態を、プラスオーバーラップ期間と称するのに対して、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLと称する。マイナスオーバーラップ期間M-OVLでは、排気は完全には行われてないため、内部EGRがシリンダ7の内部に残留している。」(段落【0064】)及び「従って、吸気上死点TDC-iを挟んで、排気バルブと吸気バルブの両方が閉じているマイナスオーバーラップ期間M-OVLを有している。なお、図7と比較するわかるように、図7の圧縮自己着火式燃焼モードHCCIに比べて、排気バルブが閉じるタイミングが遅くされ、また、吸気バルブが開くタイミングを早くすることで、マイナスオーバーラップ期間M-OVLは短くなっている。マイナスオーバーラップ期間M-OVLでは、排気は完全には行われてないため、内部EGRがシリンダ7の内部に残留している。マイナスオーバーラップ期間M-OVLは短くなっているため、シリンダ内に残留する内部EGRの量は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIに比べて少ないものである。」(段落【0070】)並びに図面によると、引用文献には、直接噴射ガソリンエンジン用の内部EGR導入装置を備えた直接噴射の内燃機関エンジン100のための操作方法が記載されている。

1e 記載1a及び記載1bの「自然吸気エンジンでは、図4に示すように、低負荷・低回転速度の作動状態において、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIが実現可能である。」(段落【0035】)並びに図面を記載事項1dとあわせてみると、引用文献には、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIは低負荷・低回転速度の操作状態において実行されることが記載されている。

1f 記載1a、記載1cの「図5において、火花点火式燃焼領域SIは、空燃比A/Fが比較的リッチ側であり、内部EGR率RI-EGRが比較的低い領域において安定して実施可能である。これに対して、圧縮自己着火式燃焼HCCIは、空燃比A/Fが比較的リーンであり、内部EGR率RI-EGRが比較的高い領域において、安定して実施可能である。それぞれの燃焼領域の間には双方の燃焼も安定して実施困難となる燃焼不安定領域CISが存在する。(段落【0053】)、「図7は、本発明の第1の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIにおけるエンジンの作動概要を示すタイミングチャートである。」(段落【0055】)及び「更に、吸気行程にて、吸気バルブが開くことで、吸気管6より吸気バルブ5aを経てシリンダ7内に空気が流入し、このタイミングで、再度、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。そして、ピストンの圧縮により自己着火SIして、混合気が爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。」(段落【0066】)並びに図面を記載事項1d及び1eとあわせてみると、引用文献には、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIは、圧縮着火により着火され制御された圧縮自己着火により燃焼するリーンな空燃比A/Fの混合気を持つことが記載されている。

1g 記載1cの「ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。そして、火花点火式燃焼領域SIの点Bから、混在燃焼領域CCを経て、点Cの圧縮自己着火式燃焼領域HCCIに切り替える。」(段落【0054】)及び図面を記載事項1dないし1fとあわせてみると、引用文献には、混在燃焼領域CCでの燃焼が実行されることが記載されている。

1h 記載1cの「本実施形態では、例えば、点Aのように、空燃比A/Fが14.7付近で、内部EGR率RI-EGRが低い状態の火花点火式燃焼領域SIで、エンジンが燃焼している状態で、内部EGR率RI-EGRを高めて、点Bの状態で、エンジンを燃焼させる。その後、点Cで、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIで燃焼できるように、燃焼モードを切り替える。ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。そして、火花点火式燃焼領域SIの点Bから、混在燃焼領域CCを経て、点Cの圧縮自己着火式燃焼領域HCCIに切り替える。」(段落【0054】)及び「吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。」(段落【0072】)を踏まえると、図5から、混在燃焼領域CC点内の点Bと点Cを結ぶ直線上は、14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気であることが看取される。

1i 記載1cの「ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。」(段落【0054】)及び「吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。」(段落【0072】)並びに図面を記載事項1dないし1hとあわせてみると、混在燃焼領域CCでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼させていることから、制御されているといえるので、引用文献には、混在燃焼領域CCでの燃焼は、点火SPKの点火時期において内燃機関エンジン100のシリンダ7内の14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気が点火プラグ4により火花点火され、制御された圧縮自己着火に移行することが記載されている。

1j 記載1cの「本実施形態では、例えば、点Aのように、空燃比A/Fが14.7付近で、内部EGR率RI-EGRが低い状態の火花点火式燃焼領域SIで、エンジンが燃焼している状態で、内部EGR率RI-EGRを高めて、点Bの状態で、エンジンを燃焼させる。その後、点Cで、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIで燃焼できるように、燃焼モードを切り替える。ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。そして、火花点火式燃焼領域SIの点Bから、混在燃焼領域CCを経て、点Cの圧縮自己着火式燃焼領域HCCIに切り替える。」(段落【0054】)及び図面を記載事項1dないし1iとあわせてみると、引用文献には、制御された圧縮自己着火を持つ圧縮自己着火式燃焼HCCIと混在燃焼領域CCでの燃焼の間で交互に切り替えられることが記載されている。

1k 記載1cの「本実施形態では、例えば、点Aのように、空燃比A/Fが14.7付近で、内部EGR率RI-EGRが低い状態の火花点火式燃焼領域SIで、エンジンが燃焼している状態で、内部EGR率RI-EGRを高めて、点Bの状態で、エンジンを燃焼させる。その後、点Cで、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIで燃焼できるように、燃焼モードを切り替える。ただし、火花点火式燃焼領域SIと、圧縮自己着火式燃焼HCCIの間には燃焼不安定領域CISが存在するので、ここでは、エンジンの操作量を変えることで、安定に燃焼可能な混在燃焼領域CCを生成する。混在燃焼領域CCは、火花点火式燃焼と、圧縮自己着火式燃焼とが混在して発生する領域である。そして、火花点火式燃焼領域SIの点Bから、混在燃焼領域CCを経て、点Cの圧縮自己着火式燃焼領域HCCIに切り替える。」(段落【0054】)を踏まえると、図5から、制御された圧縮自己着火を持つ圧縮自己着火式燃焼モードHCCIと混在燃焼領域CCでの燃焼の間で切り替えられる間、空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGRは任意に移行されることが看取される。

ウ 引用発明
記載1aないし1c、記載事項1dないし1k及び図面の記載を整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「直接噴射ガソリンエンジン用の内部EGR導入装置を備えた直接噴射の内燃機関エンジン100のための操作方法であり、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIは低負荷・低回転速度の操作状態において実行され、圧縮着火により着火され制御された圧縮自己着火により燃焼するリーンな空燃比A/Fの混合気を持つ当該圧縮自己着火式燃焼モードHCCIであり、
混在燃焼領域CCでの燃焼が実行され、点火SPKの点火時期において内燃機関エンジン100のシリンダ7内の14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気が点火プラグ4により火花点火され、制御された圧縮自己着火に移行し、
制御された圧縮自己着火を持つ前記圧縮自己着火式燃焼モードHCCIと前記混在燃焼領域CCでの燃焼の間で交互に切り替えられ、前記制御された圧縮自己着火を持つ圧縮自己着火式燃焼モードHCCIと前記混在燃焼領域CCでの燃焼の間で切り替えられる間、空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGRは任意に移行される、
操作方法。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「内部EGR導入装置」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「排気ガス再循環装置」に相当し、以下、同様に、「内燃機関エンジン100」は「内燃機関エンジン」に、「圧縮自己着火式燃焼モードHCCI」は「RZV部分操作方法」に、「低負荷・低回転速度の操作状態」は「低から中速度および/または低から中負荷を持つエンジン特性マップの領域」に、「着火され」は「点火され」に、「制御された圧縮自己着火」は「制御された自己点火(RZV)」及び「純粋に制御された自己点火(RZV)」に、それぞれ、相当する。
また、引用文献の図5ないし8によると、引用発明においては、どの燃焼モードにおいても、内部EGRが行われており、混合気に排気ガスが含まれていることは明らかであるから、引用発明における「リーンな空燃比A/Fの混合気」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」に相当する。
さらに、引用発明における「混在燃焼領域CCでの燃焼」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「低NOx燃焼(NAV)」及び「NAV部分操作方法」に相当し、以下、同様に、「点火SPKの点火時期」は「発火点(ZZP)」に、「シリンダ7」は「所定の燃焼室」に、それぞれ、相当する。
さらにまた、上記相当関係及び14.7の空燃比A/Fは燃焼空気比λ=1のことであることを踏まえると、引用発明における「14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」と、「燃焼空気比λ>1を備えた希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」という限りにおいて一致する。
さらにまた、引用発明における「点火プラグ4」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「点火装置」に相当する。
さらにまた、本願明細書の「充填希釈度は、燃料の質量と、各燃焼室内に存在する燃料/排気ガス/空気混合気の総質量の比率である。」(段落【0024】)という記載によると、本願補正発明における「充填希釈度範囲」及び「充填希釈度」は、燃料、排気ガス及び空気混合気の質量により決まる値であり、引用発明における「空燃比A/F」及び「内部EGR率RI-EGR」も、燃料、排気ガス及び空気混合気の質量により決まる値であるから、引用発明における「空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGR」は本願補正発明における「充填希釈度範囲」及び「0.03から005の間に設定される」「前記NAV部分操作方法の前記充填希釈度」と、「燃料、排気ガス及び空気混合気の質量により決まる値」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「直接噴射ガソリンエンジン用の排気ガス再循環装置を備えた直接噴射の内燃機関エンジンのための操作方法であり、RZV部分操作方法は低から中速度および/または低から中負荷を持つエンジン特性マップの領域において実行され、圧縮着火により点火され制御された自己点火(RZV)により燃焼する希薄な燃料/排気ガス/空気混合気を持つ当該RZV部分操作方法であり、
低NOx燃焼(NAV)が実行され、発火点(ZZP)において内燃機関エンジンの所定の燃焼室内の燃焼空気比λ>1を備えた希薄な燃料/排気ガス/空気混合気が点火装置により火花点火され、制御された自己点火(RZV)に移行し、
純粋な制御された自己点火(RZV)を持つ前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で交互に切り替えられ、前記RZV部分操作方法と前記NAV部分操作方法の間で切り替えられる間、燃料、排気ガス及び空気混合気の質量により決まる値は任意に移行される、
操作方法。」
である点で一致し、以下の点で相違または一応相違する。

<相違点1>
本願補正発明においては、「圧縮着火を備えた前記エンジン特性マップの領域は高い負荷において、低NOx燃焼(NAV)が実行される別のエンジン特性マップの領域と隣接し」ているのに対し、引用発明においては、そのようにされているか明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「燃焼空気比λ>1を備えた希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」に関して、本願補正発明においては、「燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」であるのに対し、引用発明においては、「14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気」である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
「低NOx燃焼(NAV)が実行され」ると、本願補正発明においては、「点火装置により火花点火され、前記火花点火により発生した火炎面燃焼(FFV)は制御された自己点火(RZV)に移行」するのに対して、引用発明においては、「点火プラグ4により火花点火され、制御された圧縮自己着火に移行」する点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>
「燃料、排気ガス及び空気混合気の質量により決まる値」に関して、本願補正発明においては、「充填希釈度範囲」であって「0.03から005の間に設定される」「前記NAV部分操作方法の前記充填希釈度」であるのに対し、引用発明においては、「空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGR」である点(以下、「相違点4」という。)。

(3)相違点についての判断
そこで、相違点1ないし4について、以下に検討する。

ア 相違点1について
引用文献の図5によると、本願補正発明における「RZV部分操作方法」に相当する「圧縮自己着火式燃焼モードHCCI」が実行される領域と火花点火式燃焼モードSIが実行される領域に挟まれた部分に本願補正発明における「低NOx燃焼(NAV)」に相当する「混在燃焼領域CCでの燃焼」が実行される領域があることが看取され、このことを踏まえると、引用文献の図4から、引用発明において、「混在燃焼領域CCでの燃焼」が実行される領域は、「圧縮自己着火式燃焼モードHCCI」が実行される領域の高い負荷(図4の右上から左下に向かうハッチングが付され、白抜きの部分に「HCCI」と記載された部分を画成する線の内、上側の線の部分)において、隣接していると解釈することが自然である。
すなわち、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、圧縮着火を備えたエンジン特性マップの領域は高い負荷において、低NOx燃焼(NAV)が実行される別のエンジン特性マップの領域と隣接していることは、本願の優先日前に周知(必要であれば、下記ア-1等を参照。以下、「周知技術」という。)である。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ア-1 特開2008-25534号公報の記載
特開2008-25534号公報には、「予混合圧縮自着火内燃機関」に関して、図面とともにおおむね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。)。

・「【0001】
本発明は、圧縮行程にて燃焼室内の混合ガスを圧縮することにより自着火(自己着火)させ、膨張行程にてこの自着火した混合ガスを燃焼させる予混合圧縮自着火内燃機関(以下、単に「機関」ということがある。)に関する。」(段落【0001】)

・「【0049】
この運転方式の切り替えについてより具体的に説明する。先ず電気制御装置70のROM72には図2に示した運転領域マップが記憶されている。この運転領域マップは上記3つの運転方式と、機関10の負荷及びエンジン回転速度NEとの関係を規定する。機関10は全運転領域において火花点火運転方式による運転が可能である。運転領域マップ中に示した自着火領域R1において自着火運転方式による運転が可能であり、また自着火アシスト領域R2において自着火アシスト運転方式による運転が可能である。火花点火領域R3においては自着火運転方式又は自着火アシスト運転方式によることができず、火花点火運転方式による運転のみが可能である。
【0050】
自着火領域R1は全運転領域のうち、低負荷から中負荷であって且つ低回転速度から中回転速度の領域であり、運転中に大きな燃焼騒音や失火が発生しないこと等に基づいてその範囲が定められる。自着火アシスト領域R2は自着火領域R1よりも高負荷側となる領域であり、この自着火アシスト領域R2での運転時においては、自着火領域R1での運転時に用いられない点火プラグ36の火花点火によって混合ガスGmの自着火がアシストされる。この自着火アシスト領域R2の範囲は自着火領域R1と同様にその運転中に燃焼騒音や失火が発生しないこと等に基づいて定められる。更に、火花点火領域R3は全運転領域から自着火領域R1及び自着火アシスト領域R2を除いた領域であって、全運転領域のうち「極低負荷又は高負荷であって且つ低回転速度から中回転速度の領域」及び「極低負荷から高負荷であって且つ高回転速度の領域」である。」(段落【0049】及び【0050】)

・「【0066】
これに対し、機関10が図2に示した自着火アシスト運転方式によって運転されている場合、即ち自着火運転時よりも負荷が少しだけ大きい場合、直噴弁35から噴射される燃料量が多くなるので、直噴弁35からの燃料噴射のみによっては第1温度層Gmiにおける自着火の時期は安定しない。この場合、圧縮行程後期において直噴弁35から燃料を噴射した直後にクランク角が所定のクランク角度CAiとなったとき、CPU71はイグナイタ37に駆動信号(点火信号)を送出することにより、点火プラグ36がその点火部に火花点火を生じさせる。そして、この火花点火によりその点火部の近傍に噴出されている燃料噴霧Fが着火し、燃料噴霧Fの燃焼が始まる。この燃料噴霧Fの燃焼が元となり混合ガスの第1温度層Gmiにおいて自着火が起こる。更にこの第1温度層Gmiにおける自着火による燃焼がその第2温度層Gmoにおける自着火を誘発する。この点火プラク36による火花点火によって、混合ガスGmの自着火を促すとともに、複数の燃焼サイクルの間にて着火時期のばらつきをなくすことができる。」(段落【0066】)

・図2から、自着火領域R1は高い負荷において自着火アシスト領域R2に隣接していることが看取される。

イ 相違点2について
記載1cの「次に、図7を用いて、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIにおけるエンジンの作動概要について説明する。図7において、図7(A)はシリンダ内圧力Pを示し、図7(B)は燃焼噴射信号Finjを示している。横軸は、膨張行程EXP,排気行程EXH,吸気行程INT,圧縮行程COMの各行程を示している。」(段落【0061】)、「そして、図7(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。」(段落【0065】)、「更に、吸気行程にて、吸気バルブが開くことで、吸気管6より吸気バルブ5aを経てシリンダ7内に空気が流入し、このタイミングで、再度、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。そして、ピストンの圧縮により自己着火SIして、混合気が爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。その後は、火花点火式燃焼と同様に、排気ガスは三元触媒10により浄化され、外部へと排出される。」(段落【0066】)、「次に、図8を用いて、混在燃焼モードCCにおけるエンジンの作動概要について説明する。図8において、図8(A)はシリンダ内圧力Pを示し、図8(B)は燃焼噴射信号Finjを示している。横軸は、膨張行程EXP,排気行程EXH,吸気行程INT,圧縮行程COMの各行程を示している。」(段落【0067】)、「そして、図8(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。」(段落【0071】)及び「吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。その後は、火花点火式燃焼と同様に、排気ガスは三元触媒10により浄化され、外部へと排出される。」(段落【0072】)によると、引用発明において、副燃料噴射及び主燃料噴射の噴射時期・噴射態様は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCI及び混在燃焼領域CCでの燃焼で同じであるから、引用発明において、圧縮自己着火式燃焼モードHCCI及び混在燃焼領域CCでの燃焼における混合気の状態も同じであるといえる。
そして、記載1bの「圧縮自己着火式燃焼モード(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)」(段落【0035】)によると、HCCIは、「Homogeneous」な「Charge Compression Ignition」のことであり、日本語に訳すと、均一な充填圧縮着火のことであるから、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIにおいては、混合気は均一である。
したがって、引用発明において、混在燃焼領域CCでの燃焼における混合気の状態は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIの混合気の状態と同様に、均一であるといえる。
よって、引用発明における「14.7より大きい空燃比A/Fを備えたリーンな混合気」は、「燃焼空気比λ>1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」であるといえ、本願補正発明における「燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」に包含されるから、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献1の段落0054以降は、圧縮自己着火式燃焼領域HCCIと火花点火式燃焼領域SIとの間の混在燃焼領域CCについて開示している。ここで、引用文献1の段落0071?0072には、「そして、図8(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。」と記載されている。したがって、引用文献1に記載の技術では、2つの異なる混合気が存在し、1つは火花により着火するが、他の1つは着火しない。すなわち、引用文献1は、シリンダ内で不均一な混合物が明らかに形成されている。」と主張するが、記載1cの「そして、図8(B)に示すように、マイナスオーバーラップ期間M-OVLの前半,すなわち、排気バルブが閉じた後であって、吸気上死点TDC-Iの前のタイミングで、インジェクタ3より燃料を噴射する(副燃料噴射INJ-Sb)。この副燃焼噴射により、燃料を改質し、着火剤を生成する。」(段落【0071】)及び「吸気行程にて吸気管6より可変バルブ5を経てシリンダ7内に空気を流入させ、図8(B)に示すように、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)を実施して混合気を形成する。」(段落【0072】)によると、副燃焼噴射INJ-Sbにより生成される着火剤は、吸気行程にて空気が流入された後、燃料噴射(主燃料噴射INJ-Mn)が実施されて、混合気を形成するものであり、着火剤が独立して存在するものではなく、2つの混合気を形成するものでもないし、記載1cの「圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。」(段落【0072】)は、燃焼の行程を示すものであって、2つの異なる混合気が存在することを示すものではない。
そして、上記したとおり、引用発明において、副燃料噴射及び主燃料噴射の噴射時期・噴射態様は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCI及び混在燃焼領域CCでの燃焼で同じであるから、混在燃焼領域CCでの燃焼における混合気の状態は、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIの混合気の状態と同様に、均一である。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、当業者であれば、多点の燃料噴射において混合気を均一に調整することができるのであるから、引用発明において、混在燃焼領域CCでの燃焼における混合気の状態を圧縮自己着火式燃焼モードHCCIの混合気の状態と同様に、均一にして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
本願明細書の「本発明の対象であるNAV部分操作方法は、火花点火式オットーサイクルの部分操作方法およびRZV部分操作方法の組み合わせであると考え得る。したがって、NAV部分操作方法には、点火装置によって火花点火される均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気がある。NAV部分操作方法により、次の初期火炎面燃焼(FFV)に続き、均一な燃料/排気ガス/空気混合気の燃焼は、制御された自己点火(RZV)に変化する。」(段落【0015】)によると、本願補正発明における「NAV部分操作方法」は、火花点火した後、火炎面燃焼(FFV)に続いて、自己点火(RZV)を行うものである。
他方、記載1cの「圧縮行程にて、混合気は、図8(A)の点火SPKの点火時期で点火プラグ4から発生される火花により爆発するが、この際の圧力上昇と、内部EGR導入の効果により、火花点火式燃焼に至っていない混合気が自己着火SIして爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの動力となる。」(段落【0072】)とあり、上記第2 2 2-2(3)イのとおり、引用発明においても、本願補正発明と同様の「燃焼空気比λ≧1を備えた均一で希薄な燃料/排気ガス/空気混合気」が火花点火されていることから、引用発明においても、本願補正発明と同様に、火花点火した後、火炎面燃焼(FFV)に続いて、自己着火しているといえる。
したがって、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

エ 相違点4について
引用文献には、混在燃焼領域CCでの燃焼の際に、燃料、排気ガス及び空気混合気の質量の値が具体的にどうなっているかの記載はない。しかし、混在燃焼領域CCでの燃焼は、空燃比A/Fが14.7よりリーンの状態で行われるものであり、空燃比A/Fが14.7の場合、燃焼室内の排気ガスの質量が仮に0であると仮定しても、燃料の質量と、各燃焼室内に存在する燃料/排気ガス/空気混合気の総質量の比率である充填希釈度は、0.0637(=1(燃料の質量)÷(1(燃料の質量)+14.7(空気の質量))であるから、混在燃焼領域CCでの燃焼における充填希釈度は、排気ガスを考慮しなくとも、0.0637以下であり、排気ガスを考慮すれば、より小さい値となる。
したがって、引用発明において、「空燃比A/Fと内部EGR率RI-EGR」を、充填希釈度で表現し、該充填希釈度を0.03から0.05の値に設定するようにして、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

オ 効果について
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明は、引用発明または引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

(4)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいてまたは引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、平成25年6月5日に提出された明細書の翻訳文、平成26年8月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 引用文献の記載等
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2 2-2(1)ア、イ及びウのとおりである。

3 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記第2[理由]2 2-2(2)ないし(4)のとおり、引用発明に基づいてまたは引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明に基づいてまたは引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、引用発明に基づいてまたは引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-27 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2013-532075(P2013-532075)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02B)
P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
加藤 友也
発明の名称 低NOx燃焼(NAV)を備えた内燃機関エンジンのための操作方法  
代理人 赤澤 日出夫  

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