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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1313530 |
審判番号 | 不服2014-19910 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-03 |
確定日 | 2016-04-07 |
事件の表示 | 特願2010-516757「ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日国際公開、WO2009/150831〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年6月10日(優先権主張 平成20年6月11日)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年1月8日付けで拒絶理由が通知され、同年3月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月2日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、同年10月31日付けで前置報告がなされたものである。 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、平成26年10月3日に補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「(A)末端カルボキシル基量が5?25meq/kgであるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、 (B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3?1.2当量となる量 (C)繊維状充填剤;20?100重量部 (D)エラストマー;5?15重量部 を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の理由の概要は、本願発明は、その優先日前に日本国内において、頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 刊行物1:特開2005-290176号公報 刊行物2:特開昭63-3055号公報 刊行物3:特開2001-234046号公報 第4 当審の判断 1.刊行物 特開2005-290176号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.引用文献1の記載事項 以下、下線は当審で付した。 (1)「【請求項1】 ポリブチレンテレフタレート(A)100重量部に対して、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)0.5?40重量部及びエポキシ化合物(C)0.1?20重量部を含有し、且つ、前記ポリブチレンテレフタレート(A)のチタン含有量がチタン原子として33ppmより多く、90ppm以下であり、末端カルキシル基濃度が30eq/ton以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 【請求項2】 ポリブチレンテレフタレート(A)100重量部に対し、更に150重量部以下の強化充填剤(D)を含有することを特徴とする請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1及び2) (2)「本発明の目的は、機械的性質に優れ、特に、耐ヒートショック性を向上させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。」(段落0008) (3)「本発明に使用されるポリブチレンテレフタレート(A)は、チタン含有量がチタン原子として33ppmより多く、90ppm以下であることが必要である。チタンは、通常、ポリブチレンテレフタレートの重合触媒に由来するが、チタンの量が33ppm以下でも、90ppmより多くても耐ヒートショック性が低下する。その理由は定かではないが,触媒由来のチタン含量が多いと高温でのポリブチレンテレフタレートの分解が促進され、耐ヒートショック性が低下すると考えられる。また一般に、エポキシ化合物を配合することによりヒートショック性は向上するが、チタンがエポキシの反応性に関与し、チタンが少なすぎるとエポキシの反応性が低下しヒートショック性も低下すると考えられる。 本発明に規定するチタン含量のポリブチレンテレフタレートは、例えばテレフタル酸と1,4-ブタンジオールに、触媒であるテトラブチルチタネートをポリブチレンテレフタレートの理論収量に対しチタン原子として33?90ppmとなる分量添加し、温度180?240℃の範囲で常圧でエステル交換反応させてオリゴマーを得て、それを230?270℃、減圧下で重縮合を進めて得ることができる。」(段落0015) (4)「また、本発明に使用されるポリブチレンテレフタレート(A)は、末端カルボキシル基濃度が30eq/ton以下であり、更に好ましくは27eq/ton以下である。本発明に規定する末端カルボキシル基濃度のポリブチレンテレフタレートを得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを溶融重縮合して比較的分子量の小さい、例えば固有粘度0.1?0.9のポリブチレンテレフタレートを製造し,次いで所望の分子量となるまで固相重縮合する方法により得ることができる。末端カルボキシル基は、低い方が耐ヒートショック性の点では好ましいが,樹脂の生産性にも影響するので、実用的には,末端カルボキシル基濃度の下限は10eq/ton程度である。」(段落0016) (5)「本発明の樹脂組成物は、上記(A)?(C)を必須成分とするが,更に強化充填材(D)を含有することが好ましい。強化充填材(D)を配合することにより,成形品の剛性や寸法安定性等が向上する。使用される強化充填材(D)としては繊維状、板状、粒状物およびこれらの混合物が挙げられる。具体的にはガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維、金属繊維、セラミックスウイスカー、ワラストナイト等の繊維状物;ガラスフレーク、マイカ、タルク等の板状物;シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、カーボンブラック、炭酸カルシュウム等の粒状物等周知のものが挙げられる。」(段落0039) (6)「本発明の樹脂組成物においては、さらに、耐ヒートショック性をより効率的に改善するために、ペンタエリスリトールエステル化合物やカルボジイミド化合物の配合を制約するものではない。」(段落0045) (7)「以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。 なお、以下の例では次の材料を使用した。 *ポリブチレンテレフタレート樹脂; テトラブチルチタネート触媒を用い、テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを溶融重合し更に固相重合し,その際、チタン重合触媒の配合量および固相重合条件を調整することにより、以下のポリブチレンテレフタレート樹脂を試作した。 PBT-1:固有粘度=0.85dl/g、チタン原子の含有量=50ppm、末端カルボキシル基濃度18eq/ton。 PBT-2:固有粘度=0.85dl/g、チタン原子の含有量=100ppm、末端カルボキシル基濃度17eq/ton。 PBT-3:固有粘度=0.85dl/g、チタン原子の含有量=50ppm、末端カルボキシル基濃度35eq/ton。 PBT-4:固有粘度=0.85dl/g、チタン原子の含有量=21ppm、末端カルボキシル基濃度11eq/ton *エラストマー 「ボンドファースト2C」:エチレンとグリシジルメタクリレート共重合体、住友化学(株)製、商品名。 「モディパーA5300」:エチレン-アクリル酸エチル共重合体70重量部とメタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体30重量部とのグラフト共重合体、日本油脂(株)製、商品名。 「エバフレックスEEA A713」:エチレン-アクリル酸エチル共重合体、日本ユニカー(株)製、商品名。 「エポフレンドA1010」:エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(ESBS)、ダイセル化学工業(株)製、商品名。 「ボンドファースト7M」:エチレンとグリシジルメタクリレートとアクリル酸メチルとの共重合体、住友化学(株)製、商品名。 *エポキシ化合物 「アデカサイザー EP-17」:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、旭電化工業(株)製、エポキシ当量=185g/eq当量、分子量=370。 *強化充填剤 ガラス繊維:日本電気硝子(株)製、繊維径13μm、アミノシラン処理剤およびノボラックエポキシ化合物で表面処理されたガラス繊維。 <実施例1?4及び比較例1?4> 各成分を表-1に示す割合で秤量し、ガラス繊維以外は一括混合して、2軸押出機に供給し、ガラス繊維をサイドフィードして通常通りコンパウンドを実施し、ペレットを得た。得られたペレットに対して住友重機械(株)製射出成型機(型式SG-75SYCAP-MIII)を使用して、シリンダ温度250℃、金型温度80℃の条件で、下記の機械的物性測定用ISO試験片を成形し、下記の試験方法により性能評価を行った。また、耐ヒートショック試験を後述する方法にて実施した。結果を表-1に示した。 ・・・ 【表1】 ![]() 」(段落0052?0059) 3.引用文献1に記載された発明 摘示(1)及び(2)の記載から、引用文献1には、機械的性質に優れ、特に、耐ヒートショック性を向上させた以下の発明が記載されているといえる。なお、摘示(1)請求項1の「末端カルキシル基」なる記載は、「末端カルボキシル基」の誤記と認め、以下のとおり認定した。 「ポリブチレンテレフタレート(A)100重量部に対して、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)0.5?40重量部、エポキシ化合物(C)0.1?20重量部及び強化充填剤(D)150重量部以下を含有し、且つ、前記ポリブチレンテレフタレート(A)のチタン含有量がチタン原子として33ppmより多く、90ppm以下であり、末端カルボキシル基濃度が30eq/ton以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」(以下、「引用発明1」という。) 4.対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ポリブチレンテレフタレート(A)」は、本願発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂」に相当する。 引用発明1のポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、30eq/ton(meq/kg)以下で、本願発明の末端カルボキシル基量の範囲と重複一致し、さらに、摘示(4)より実用的に下限を有し、引用文献1の実施例に記載のポリブチレンテレフタレート(摘示(7))は、18eq/ton(meq/kg)であることを踏まえると、末端カルボキシル基濃度は、本願発明と引用発明1とで実質的に一致しているといえる。 引用発明1の「オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種のエラストマー(B)」は、本願発明の「(D)エラストマー」に相当し、さらに、その配合量も本願発明のものと重複一致している。 引用発明1の「強化充填剤(D)」は、摘示(5)から繊維状のものが例示され、摘示(7)から引用文献1の実施例において「ガラス繊維」が使用されていることから、本願発明の「繊維状充填剤」に相当する。また、引用発明1の「強化充填剤(D)」の配合量は150重量部以下であるから、本願発明の配合量と重複一致し、さらに実施例(摘示(7)表1)において50重量部であるから、かかる配合量は、本願発明と引用発明1とで実質的に一致しているといえる。 してみると、本願発明と引用発明1とを対比すると、一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> (A)末端カルボキシル基量が5?25meq/kgであるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、 (C)繊維状充填剤;20?100重量部 (D)エラストマー;5?15重量部 を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。 <相違点1> 本願発明では、ポリブチレンテレフタレートのチタン含有量を特定していないが、引用発明1では、かかるチタン含有量がチタン原子として33ppmより多く、90ppm以下と特定している点。 <相違点2> 本願発明では、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3?1.2当量となる量を配合することを特定しているが、引用発明1では、そのような特定をしていない点。 5.相違点に対する判断 (1)相違点1について 引用文献1には、摘示(3)より、ポリブチレンテレフタレートに含有されるチタンは、重合触媒に由来する旨記載されているが、本願の明細書の記載を検討するに、本願発明においては特定の触媒の使用に限定する記載はなく、チタン触媒を使用して重合されたポリブチレンテレフタレートも包含するものであるといえる。 してみると、本願発明は、チタンの含有量の点で相違するものではないといえるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 (2)相違点2について 引用文献1の摘示(6)の記載からみて、当業者であれば、引用発明1において、耐ヒートショック性をより効率的に改善するために、カルボジイミド化合物を配合することができるといえる。 ここで、引用文献1には、カルボジイミド化合物の配合量について何ら記載されていないが、ポリブチレンテレフタレートの改質のためにカルボジイミド化合物を配合することにより、ポリブチレンテレフタレートが有するカルボキシル基と、カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基とが反応することによりポリブチレンテレフタレートの改質がなされるのであり、また、反応の程度によってかかる改質の効果が影響されるであろうことは、化学反応及びポリマーの技術分野において技術常識といえる。 してみると、必要とされる耐ヒートショック性に応じて、改質の程度、すなわち、反応の程度に直接関与する官能基であるカルボキシル基とカルボジイミド基との量比を特定することは、当業者であれば容易になし得ることに過ぎず、また、このことにより、本願明細書の記載を検討しても、格別予期し難い効果が奏されているものとも認められない。 6.まとめ 本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-08 |
結審通知日 | 2016-02-09 |
審決日 | 2016-02-23 |
出願番号 | 特願2010-516757(P2010-516757) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 亨 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
柴田 昌弘 田口 昌浩 |
発明の名称 | ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 義経 和昌 |