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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1313781
審判番号 不服2015-16314  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-04 
確定日 2016-05-10 
事件の表示 特願2011-166506「透明導電膜作成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 30399、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月29日の出願であって、平成27年1月23日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月27日付けで手続補正がされ、平成27年6月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年9月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年3月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「透明基板にGZO膜とNTO膜とをこの順に形成したのちにアニール処理し、同基板にGZO単層膜を形成してアニール処理したものより低抵抗化した膜を得ることを特徴とする透明導電膜の作成方法。」

第3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(1)国際公開第2006/016608号
(2)特開2010-080740号公報

上記引用文献1(特に、段落【0011】乃至【0019】、【0032】乃至【0034】、【0059】、【0081】、【0106】乃至【0108】、【0123】の記載を参照)には、
(Gaが有効なドーパントとされる)ZnO膜からなる配向膜をあらかじめ基板(例:ガラス、水晶、プラスティック)の上につけておき、その上にアナターゼ型TiO2:Nbを製膜することによって、ITOに匹敵する低抵抗率(10^(-4)Ωcm台の電導度)を得る技術が開示されている。
(すなわち、本願発明のようなアニールをするまでもなく、本願発明と同等の低抵抗率を達成している。)

一方、上記引用文献2(特に、段落【0008】、【0017】、【0033】、【0036】乃至【0038】の記載を参照)には、
ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を酸化亜鉛膜上に形成した後、アニール処理(例:真空、550度以下、1分?1時間)を施すことによって、アナターゼ結晶相を安定化させて、高い導電性を発現させることが開示されている。

そうすると、より高い導電性を発現させるべく、上記引用文献1に開示された発明に対して、上記引用文献2に開示されたアニール処理を適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2006/016608号(以下、「刊行物」という。)には、次の技術事項が記載されている(なお、下線は当審により付与した)。

「[0001]本発明は、液晶パネルや太陽電池、有機ELの電極等に適用される透明伝導体に関する。
背景技術
[0002]近年において、液晶表示パネルの大型化や小型携化へのニーズが高くなってきている。これを実現するためには、表示素子の低消費電力化が必要となり、可視光線透過率が高く、抵抗値が低い透明電極の適用が不可欠になる。
[0003]特に最近開発されつつある、有機エレクトロルミネッセンス素子に関しては、自発光タイプであり、小型携端末への適用においては有効であるが、電流駆動で消費電力が大きいという問題点がある。また、現在において市場に広まりつつあるプラズマディスプレイパネル(PDP)や次世代のディスプレイとして開発されつつあるフィールドエミッションディスプレイ(FED)に関しても、それらが高消費電力な構造であるという問題点がある。このため、透明導電性薄膜の低抵抗化への期待は大きい。
[0004]このため、透明導電性薄膜の抵抗値を更に下げるべく、ガラス板等の透明基材表面上にスズを数%ドープした酸化インジウムからなるインジウム・ティン・オキサイド膜(以下、ITO膜という)を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
[0005]しかしながら、このITO膜は、透明性に優れ、高い導電性を有するものの、Inの地殻含有率が50ppbと少なく、資源の枯渇とともに原料のコストが上昇してしまうという欠点を有する。
[0006]また、特に近年において、耐プラズマ性が高く廉価な材料として酸化亜鉛系材料が提案されている。
[0007]しかしながら、酸化亜鉛系材料は、酸やアルカリに弱く、二酸化炭素雰囲気中においても徐々に浸食されてしまうため、液晶パネルへの適用のみならず、特に太陽電池への適用が困難になるという。また、かかる耐薬品性を改善すべく酸化亜鉛表面をコーティング加工することで対処することも考えられるが、コーティングの工程を1つ増やさなければならず、製造コストが増加してしまうという問題点もある。
[0008]即ち、透明伝導体の適用範囲を拡大させるためには、安定して供給可能な素材でこれを構成するとともに、耐薬品性や耐久性をも兼ね備えた素材でこれを構成する必要がある。
特許文献1: 特開2004-95240号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0009]本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透明かつ導電性のある透明伝導体につき、安定して供給可能であって、かつ耐薬品性等に優れた素材で構成した透明伝導体を提供することにある。」

「[0039]本発明では、アナターゼ型TiO2のTiサイトを他の金属原子など(Nb, Ta, Mo, As, Sb, Wなど)で置換した結果得られるM:TiO2を作製することにより、透明度を維持しつつ、電気伝導度を著しく向上させることが出来る。この物質の結晶の形態は、単結晶はもちろん、多結晶体であってもよい。」

「[0040]特に、この金属酸化物において、Nbの置換量を0.1%?20%(Ti原子数比)とした場合に、抵抗率を10^(-4)Ωcm台まで抑えることが可能となる。
[0041]また、この金属酸化物においてNbの置換量を1%?20%(Ti原子数比)とした場合に、内部透過率を高く維持しつつ抵抗率を10^(-4)Ωcm台まで抑えることが可能となる。
[0042]また、この金属酸化物においてNbの置換量を1%?6%(Ti原子数比)とした場合に、内部透過率を95%?98%に至るまで向上させることが可能となる(薄膜試料にした場合。膜厚は50nm前後)。
[0043]また、この金属酸化物においてNbの置換量を2%?6%(Ti原子数比)とした場合に、内部透過率をより向上させつつ、さらに抵抗率を室温において5×10^(-4)Ωcm程度まで、また極低温(5K前後)で1×10^(-4)Ωcmまで下げることが可能となる。」

「[0059]ちなみに、この基板11は、アモルファス材料、例えばガラスや水晶、もしくはプラスチックを用いても良い。この場合は、アナターゼ多結晶薄膜が形成されるが、基本的な物性(抵抗率など)には殆んど影響を及ぼさない。」

「[0106]ZnOやZrO2、SrTiO3、MgO、LaAlO3、CeO2、ZrO2,、Al2O3の配向膜をあらかじめ基板につけておき、その上にTiO2を成膜することも考えられる。これらは、バッファー膜(バッファー層)として機能する。アナターゼ型膜をガラス上に成膜するには、バッファー層の存在が重要になる。ZnOの場合には、特に容易に配向するため成膜し易いという利点もある。
[0107]透明導電性を出すドーパントとしては、V, Mn, Tc, Re, P, Biなども適用可能である。また、透明導電性を出すドーパントとして他のすべての元素も適用可能性がある。
[0108] 多くの透明導電材料はSn、InまたはZnの酸化物をベースとしており、透明導電膜にはITO,SnO2,ZnOなどの酸化物薄膜がある。また、ZnO膜には,Al又はGaが有効なドーパントとなる。これらの元素は、周期表の右側に位置する元素である。これらはs電子またはp電子による電気伝導機構であることがわかっている。一方、本実施形態で取り扱うTiO2透明伝導体は、d電子が電気伝導に寄与しており、新しいタイプの透明伝導体である。」

以上の記載、特に下線部を参照すると、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「GaをドーパントとしたZnOの配向膜をあらかじめガラス基板につけておき、その上に、アナターゼTiO2のTiサイトをNbで置換した結果得られるNb:TiO2を成膜した透明伝導体の作成方法。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「GaをドーパントとしたZnOの配向膜」、「ガラス基板」、「アナターゼTiO2のTiサイトをNbで置換した結果得られるNb:TiO2」、「透明伝導体」は、それぞれ、本願発明の「GZO膜」、「透明基板」、「NTO膜」、「透明導電膜」に相当するものである。
したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「透明基板にGZO膜とNTO膜とをこの順に形成したことを特徴とする透明導電膜の作成方法。」である点。

[相違点]
本願発明は、「透明基板にGZO膜とNTO膜とをこの順に形成したのちにアニール処理し、同基板にGZO単層膜を形成してアニール処理したものより低抵抗化した膜を得る」ものであるのに対し、引用発明は、アニール処理をするものではない点。

3.判断
相違点について検討する。
上記刊行物自体には、「透明基板にGZO膜とNTO膜とをこの順に形成したのちにアニール処理」をすることについて直接の記載乃至示唆はない。
相違点に係る構成のうち、アニール処理をすることについて、拒絶の理由で引用された特開2010-080740号公報(以下、「刊行物2」という)には次のように記載されている(なお、下線は当審により付与した)。
「(A)チタン化合物に過酸化水素を反応させた反応生成物と(B)ニオブ化合物またはタンタル化合物に過酸化水素を反応させた反応生成物とを含む前駆体液を塗布し、焼成した後、還元雰囲気下にて加熱によるアニール処理を施すことにより、ニオブまたはタンタルがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を形成でき、この酸化チタン系透明導電性膜であれば、良好な導電性を発現すると同時に、長波長領域に光に対して高い透過性を示しうることを見出し、本発明を完成した。」(【0008】)
「前記塗布法においては、焼成後に、さらに還元雰囲気下にて加熱によるアニール処理を施す。これにより、膜を形成するNbまたはTaドープ酸化チタンに酸素欠損を生じさせて導電性を向上させることができる。」(【0036】)
以上の記載から、刊行物2には、NTO膜(Nbドープ酸化チタン系透明導電性膜)にアニール処理を施すことにより導電性を向上させる技術が記載されているといえる。
しかしながら、以下の理由(1)(2)により、引用発明において、導電性を向上させるために、刊行物2に記載された技術を適用し、GZO膜とNTO膜にさらにアニール処理を施して上記相違点に係る構成に至ることが容易であったとはいえない。
(1)引用発明は、抵抗率を室温において10^(-4)Ωcm程度(本願発明の実施例よりも低い程度)まで抑えることが可能なものであり、さらに、抵抗率を下げようとする(導電性を向上させようとする)動機づけは乏しいと考えられる。
(2)本願発明は、「同基板にGZO単層膜を形成してアニール処理したものより低抵抗化した膜を得る」ものであり、このことは、刊行物2のNTO膜にアニール処理を施すことにより導電性を向上させる技術に比べて際だって優れた効果を奏するものであり、この効果は出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2011-166506(P2011-166506)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 山澤 宏
千葉 輝久
発明の名称 透明導電膜作成方法  
代理人 田邊 義博  

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