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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C09D |
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管理番号 | 1313806 |
審判番号 | 不服2014-22393 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-04 |
確定日 | 2016-05-12 |
事件の表示 | 特願2009-287842「塗料組成物及び塗膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日出願公開、特開2011-127026、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年12月18日の出願であって、平成25年8月9日付けの刊行物等提出書が提出され(提出者不明)、平成25年9月17日付けで拒絶理由が通知され、同年11月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年7月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がされたものである。 第2 平成26年11月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物に下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成させた基材に塗装する、鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料及び一次粒子径が20nm以上100nm以下のカーボンブラック顔料を含み、塗装して得られる塗膜に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して15度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*が50以上であって且つ75度の角度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系におけるb*が1.0以下である塗料組成物。」を、 「鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物に下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成させた基材に塗装する、鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料及び一次粒子径が50nmのカーボンブラック顔料を含み、塗装して得られる塗膜に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して15度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*が50以上であって且つ75度の角度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系におけるb*が1.0以下である塗料組成物。」(注:下線は補正箇所。)とする補正を含むものである。 2.補正の適否 上記請求項1についての補正は、本件補正前の発明特定事項である「カーボンブラック顔料」の「一次粒子径」について、「20nm以上100nm以下」を「50nm」と限定するものであるから、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (1)刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2004-351389号公報(以下、「引用例」という。)には、「光輝性塗膜形成方法および塗装物」(発明の名称)について、次の記載がある(注:下線は、当審が付与した。以下、同じ。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、光輝性塗膜形成方法および塗装物に関する。」 イ 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 従って本発明の目的は、第1ベース塗料および第2ベース塗料ともに水性塗料を用いて、第1ベース塗料を塗装後、プレヒートすることなく、高外観の光輝感を与える光輝性塗膜形成方法および塗装物を提供することである。」 ウ 「【0033】 また、上記水性第1ベース塗料は光輝性顔料を含み、必要により着色顔料、体質顔料を用いることができる。上記光輝性顔料としては、アルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、干渉マイカ顔料、着色マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆めっきガラスフレーク顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料からなる群より選ばれた少なくとも一種の顔料が好ましい。 【0034】 また上記着色顔料として、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料等が挙げることができ、また、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。また、上記体質顔料としてはタルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ等が挙げられる。」 エ 「【0040】 上記ベース塗装ゾーンの第2ステージにおける塗装に用いる上記水性第2ベース塗料は、上述の水性第1ベース塗料の説明で例示したビヒクル、顔料、溶媒および添加剤を用いることができる。」 オ 「【0065】 【実施例】 次に、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は特に断りのない限り質量部を表す。また原材料、塗料、機器の名称は、特に断りのない限り商品名を表す。 【0066】 [実施例1?16、比較例1?5] [被塗膜形成物1?2の調製] ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理した後、カチオン電着塗料(「パワートップV-50」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付け電着塗膜を得た。さらに上記電着塗膜上に、中塗り塗料(「オルガP-5シーラー」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、中塗り塗膜を形成し、これを被塗膜形成物1とした。 【0067】 ・・・(略)・・・。 【0068】 [工程(1):第1ベース塗膜の形成] 次いで被塗膜形成物1?2に、ベース塗装ゾーンの第1ステージにおいて、以下に示す種類と表1に示す量の光輝性顔料、必要により配合する着色顔料を配合した第1ベース塗料を表1に示す乾燥膜厚となるように塗装し、第1ベース塗膜を形成した。ここで、光輝性顔料を配合した水性第1ベース塗料は、アクリル-メラミン樹脂系塗料「アクアレックス・AR2100」(日本ペイント社製)をベースに表1の特数値に調整したものである。ただし、実施例11については、メラミン-カルボジイミドアクリル系水性ベース塗料「KX-0077」(日本ビー・ケミカル社製)をベースに調整した。 【0069】 [工程(2):第2ベース塗膜の形成] 次いで、水性第1ベース塗膜を2分間セッティング後、ウェットオンウェットにて、ベース塗装ゾーンの第2ステージにおいて、以下に示す種類と表1に示す量の光輝性顔料、必要により配合する着色顔料、添加剤を配合した第2ベース塗料を表1に示す乾燥膜厚となるように塗装し、第2ベース塗膜を形成した。ここで、光輝性顔料を配合した水性第2ベース塗料は、アクリル-メラミン樹脂系塗料「アクアレックス・AR2100」(日本ペイント社製)をベースに表1の特数値に調整したものである。ただし、実施例11については、メラミン-カルボジイミドアクリル系水性ベース塗料「KX-0077」(日本ビー・ケミカル社製)をベースに調整した。 【0070】 [工程(3):クリヤー塗膜の形成](第1の光輝性塗膜形成方法) 次いで、第2ベース塗膜を2分間セッティング後、80℃で3分間プレヒートして、クリヤー塗装ゾーンにおいて、以下に示したクリヤー塗料を乾燥膜厚が35μmになるように塗装し、クリヤー塗膜を形成した。クリヤー塗料1はアクリル樹脂系溶媒型クリヤー塗料(商品名:「スーパーラックO-100クリヤー」、日本ペイント社製)であり、クリヤー塗料2はカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーのブレンドからなる溶媒型クリヤー塗料(商品名:「マックフローO-330クリヤー」、日本ペイント社製)である。基材2には、アクリルウレタンクリヤー塗料3(商品名:「R290 クリヤー」、日本ビー・ケミカル社製)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装した。 【0071】 [工程(4):全ての未硬化の塗膜を加熱硬化](第1の光輝性塗膜形成方法) 形成したクリヤー塗膜を室温で10分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けた。基材2の場合、形成したクリヤー塗膜を室温で10分間セッティングし、80℃で20分間焼き付けた。得られた複層塗膜の光輝感を下記評価方法で評価し結果を表1に示した。 【0072】 [工程(5):全ての未硬化の塗膜を加熱硬化](第2の光輝性塗膜形成方法) 形成したベース塗膜を140℃の温度で30分間焼き付けた。得られた複層塗膜の光輝感を下記評価方法で評価し結果を表1に示した。 【0073】 [評価方法] 仕上り外観:試験板をほぼ真正面(ハイライト部)と角度15度程度(シェード部)で見た場合、金属調外観の良否を示すキラキラ感および塗膜外観を目視で評価した。キラキラ感が無い方が良好となる。 【0074】 ◎・・・キラキラ感が全く無く、光輝ムラや配向性低下が認められず、優れた金属調外観に仕上がっている。 ○・・・キラキラ感が無く、金属調外観に仕上がっている。 △・・・シェード部にキラキラ感がある。 ×・・・ハイライト部、シェード部共にキラキラ感がある。通常のメタリック調に仕上がっている。または光輝ムラや配向性低下が認められる。 【0075】 FF効果:試験板をほぼ真正面(ハイライト部)と角度15度程度(シェード部)で見た場合の異なる明度差の大きさを目視で評価した。 【0076】 ◎・・・角度によって異なる明度差が非常に大きい。 ○・・・角度によって異なる明度差が大きい。 △・・・角度によって異なる明度差が小さい。 ×・・・角度によって異なる明度差が僅か。通常のメタリック調に仕上がっている。 【0077】 表1における光輝性顔料、着色顔料、添加剤の種類は、以下のものを使用した。 【0078】 [光輝性顔料] 1:アルミニウムフレーク顔料;アルミペーストMH-8801(旭化成社製)。 2:アルミニウムフレーク顔料;アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製)。 3:干渉マイカ顔料;Xirallic T60-23WIII(メルクジャパン社製)。 【0079】 [着色顔料] 1:カーボンブラック顔料;MA-100(三菱化学社製)。 2:フタロシアニンブルー顔料;シアニンブルーG314(山陽化成社製)。 【0080】 [添加剤] 1:フッ素化アルキルカルボキシレート;フロラード FC-129(住友スリーエム社製)。 2:有機変性ポリシロキサン;BYK-341(ビックケミー・ジャパン社製)。 【0081】 【表1】 【0082】 表1の結果から明らかなように、本実施例は、本発明の光輝性塗膜形成方法により光輝性塗膜を形成したもので、粒子感が非常に少なく、金属性の光沢を有するアルミニウムフレーク顔料等では光輝ムラのない金属外観を示し、また、干渉性を有するマイカ顔料等ではフリップフロップ性の向上が得られた。一方、比較例は、目的の意匠を発現しなかった。」 カ 上記オの【0081】の【表1】と【0066】、【0078】及び【0079】の記載から、「実施例9」は、 「基材」は「被塗膜形成物1」であり、 「第1ベース塗膜」を形成する「第1ベース塗料」の「光輝性顔料」の「種類」は「2:アルミニウムフレーク顔料;アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製)」であり、 「第2ベース塗膜」を形成する「第2ベース塗料」の「光輝性顔料」の「種類」は「2:アルミニウムフレーク顔料;アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製)」であって、「第2ベース塗料」には、さらに、「その他の顔料」として、「着色顔料」である「1:カーボンブラック顔料;MA-100(三菱化学社製)」を含むことが示されている。 (2)引用発明の認定 引用例の実施例9について、次のア?ウがいえる。 ア 上記(1)オの【0066】の記載から、「基材」の「被塗膜形成物1」は、「ダル鋼板」に「電着塗膜」を形成し、その上に、「中塗り塗膜」を形成したものである。 また、「電着塗膜」は、「ダル鋼板」のすぐ上であって、「中塗り塗膜」の下に形成されるものであるから、下塗り塗膜と呼べることは明らかである。 イ 同【0068】及び上記(1)カから、該「被塗膜形成物1」には、光輝性顔料であるアルミニウムフレーク顔料(アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製))を含む第1ベース塗料によって第1ベース塗膜が形成されるものである。 ウ 同【0068】及び上記(1)カから、該「第1ベース塗膜」が形成された該「被塗膜形成物1」には、さらに、光輝性顔料のアルミニウムフレーク顔料(アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製))と着色顔料のカーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製))とを含む第2ベース塗料によって第2ベース塗膜が形成されているものである。 エ 上記ア?ウより、引用例の実施例9について、「第2ベース塗料」に着目すると、 「電着塗膜である下塗り塗膜、中塗り塗膜が形成されたダル鋼板に、光輝性顔料のアルミニウムフレーク顔料(アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製))を含む第1ベース塗料によって第1ベース塗膜が形成され、第1ベース塗膜上に塗装する、光輝性顔料のアルミニウムフレーク顔料(アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製))及び着色顔料のカーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製))を含む第2ベース塗料。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「ダル鋼板」、「電着塗膜である下塗り塗膜」、「中塗り塗膜」及び「第2ベース塗料」は、本件補正発明の「鉄」「等の金属」「を含む合金」「による」「成型物」、「下塗り塗膜」、「中塗り塗膜」及び「塗料組成物」にそれぞれ相当する。 そして、「電着塗膜である下塗り塗膜、中塗り塗膜が形成されたダル鋼板」は、本件補正発明の「鉄」「等の金属」「を含む合金」「による」「成型物」に「下塗り塗膜」及び「中塗り塗膜」を形成させた「基材」に相当するものであるから、該「電着塗膜である下塗り塗膜、中塗り塗膜が形成されたダル鋼板」は、本件補正発明の「鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物に下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成させた基材」に相当する。 イ 引用発明の「第2ベース塗料」が含む「光輝性顔料のアルミニウムフレーク顔料(アルペースト91-0562(東洋アルミニウム社製))」及び「着色顔料のカーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製))」は、本件補正発明の「鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料」及び「カーボンブラック顔料」にそれぞれ相当する。 ウ 本件補正発明では、「塗料組成物」が「基材」に直接、塗装される点は限定されていないことから、本件補正発明の「塗料組成物」は、「基材」に他の塗膜が形成された部材に塗装することも排除するものではないといえる。 エ 上記ア?ウから、本件補正発明と引用発明とは、 「鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物に下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成させた基材に塗装する、鱗片状アルミニウム顔料である鱗片状光輝性顔料及びカーボンブラック顔料を含む塗料組成物。」である点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。 (相違点1) 「カーボンブラック顔料」の「一次粒子径」について、本件補正発明は、「50nm」なのに対し、引用発明では、不明な点。 (相違点2) 塗装して得られる塗膜のL*a*b*表色系における明度L*及びb*について、本件補正発明は、「塗膜に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して15度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*が50以上であって且つ75度の角度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系におけるb*が1.0以下である」のに対し、引用発明は、不明な点。 (4)相違点についての判断 相違点1について検討する。 引用発明の「カーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製)」の「一次粒子径」が「50nm」である証拠は見出すことができず、しかも、平成25年8月9日付けの刊行物等提出書の参考文献2(三菱化学ホームページの三菱カーボンブラック製品紹介)によれば、「粒子径」は「24nm」とされており、該「粒子径」が「一次粒子径」又は「粒子」の集合体である「ストラクチャー」を示すものだとすると、該「カーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製)」の「一次粒子径」が「50nm」である蓋然性は低い。 また、上記(1)エの【0040】には、引用発明の「第2ベース塗料」の「着色顔料」について、「上述の水性第1ベース塗料の説明で例示したビヒクル、顔料、溶媒および添加剤を用いることができる。」と記載され、上記(1)ウの【0034】には、該「上述の水性第1ベース塗料」について、「着色顔料として、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料等が挙げることができ、また、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。」という記載があり、引用発明における着色顔料としてのカーボンブラックは、無機系の着色顔料として例示された中の一つにすぎないものであって、引用例には、特定の一次粒子径のカーボンブラックを採用することは記載も示唆もない。 そうすると、引用発明において、「カーボンブラック顔料(MA-100(三菱化学社製))」に代えて、「一次粒子径」が「50nm」のカーボンブラック顔料を採用する、明確な動機付けがあるとはいえない。 一方、本願明細書には、本件補正発明を具体化した実施例1、2と、本件補正発明に含まれない参考例1、2、比較例1、2について、次の記載がある。 「【0034】 【表1】 」 「【0037】 得られた電着塗面に、中塗り塗料「ル-ガベ-ク中塗りグレ-」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗り塗膜を形成した塗板を基材とした。 (塗装) 上記基材に実施例1?4及び比較例1,2にて調製した塗料組成物をエアスプレーを用いて、硬化塗膜として20μmとなるように塗装し、塗装後、室温約20℃の実験室に約15分静置し、その後にクリヤー塗料(ル-ガベ-ククリヤ-、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板を得た。 (評価) 上記試験板の意匠性を以下の要領にて評価し、結果を表1に示した。 (1)スチール調の金属感の評価(目視) 作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、金属感(ハイライト?シェードへの光輝感変化)とシェードにおける青みを目視にて評価した。評価は、色彩開発に3年以上従事するデザイナー2名と技術者3名の計5名が行ない、平均点を採用した。 4:青味の強いスチール調の金属感に優れる。 3:青味でスチール調の金属感がある。 2:黄味でスチール調の金属感が乏しい。 1:黄味が強くスチール調の金属感がない。 (2)金属感の評価 作成した塗板を、L*a*b*表色系における明度LをX-Rite社製のMA-68II(商品名)を使用して、正反射光に対して15度の受光角度で測定した明度L*に対する75度の受光角度で測定した明度L*の比で評価した。」 これらの記載によれば、顔料種として、いずれも、同一の鱗片状アルミニウム顔料を用いた実施例1、2、参考例1、2及び比較例1、2において、カーボンブラック顔料の一次粒子径について、22μmのものを用いた参考例1、2、及び、13nmのものを用いた比較例1、2は、「スチール調の金属感(目視)」の評価が、「3」(青味でスチール調の金属感がある。)(参考例1、2)又は「1」(黄味が強くスチール調の金属感がない。)(比較例1、2)であるのに対して、50nmのものを用いた実施例1、2は、「4」(青味の強いスチール調の金属感に優れる。)という評価であることがわかる。 そうすると、「カーボンブラック顔料」の「一次粒子径」を「50nm」のものを用いることで、それ以外の「一次粒子径」の「カーボンブラック顔料」を用いたものと比較して、スチール調の金属感により優れた塗板が得られることが、本願明細書には記載されていると認められる。 したがって、本件補正発明は、「カーボンブラック顔料」の「一次粒子径」が「50nm」のものを用いること、すなわち、上記相違点1に係る構成を採用することで、それ以外の「一次粒子径」の「カーボンブラック顔料」を用いたものと比較して、スチール調の金属感により優れた、「ハイライト(正反射光近傍)においては高明度のグレー且つシェード(斜め方向)においては青みの黒色を呈するスチール調の金属感を発現する塗料組成物及び塗膜形成方法を得ることができる。」(【0007】)という、引用発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである、ということができる。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件補正発明は、引用発明と同一であるとはいえないし、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たとすることもできない。 (5)原査定の拒絶理由で引用された他の引用例について 原査定の拒絶査定では引用されていないものの、平成25年9月17日付けの拒絶理由において、特開2006-182966号公報(以下、「引用例A」という。)、特開2001-164191号公報(以下、「引用例B」という。)が引用されているので、念のため、引用例A、Bに記載された事項について検討する。 ア.引用例Aについて 引用例Aには、「顔料分散体及び塗料」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、着色顔料またはカーボンブラックを媒体中に分散させた顔料分散体及びそれを用いた塗料に関するものである。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、粒子径の小さな凝集しやすい着色顔料またはカーボンブラックを良好な分散状態で含有する顔料分散体及びそれを用いた塗料を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の顔料分散体は、一次平均粒子径が200nm以下の着色顔料またはストラクチャーの平均粒子径が100nm以下のカーボンブラックからなる第1の顔料と、一次平均粒子径が55nm以下の硫酸バリウムからなる第2の顔料とを、一方の顔料の(酸量-塩基量)の値が正で、他方の顔料の(酸量-塩基量)の値が負となるように組み合わせ、顔料分散剤の存在下、第1の顔料と第2の顔料を媒体中に同時に分散させたことを特徴としている。」 「【0016】 本発明において、第1の顔料として用いられるカーボンブラックのストラクチャーの平均粒子径は100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。下限値は特に限定されるものではないが、一般には、製造または入手しやすさの観点から10nm以上のものが用いられる。カーボンブラックの一次粒子の平均粒子径、すなわち平均一次粒子径は、50nm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以下である。また、下限値は特に限定されるものではないが、製造または入手のしやすさの観点から5nm以上のものが用いられる。」 「【0043】 本発明のメタリック塗料は、上記本発明の顔料分散体と、鱗片状光輝性顔料と、バインダーとを含むことを特徴としている。バインダーとしては、顔料分散体の媒体が有機溶媒であるか、水系溶媒であるかに応じて、上記のソリッド塗料と同様のバインダーを用いることができる。 【0044】 鱗片状光輝性顔料としては、アルミフレーク顔料、着色アルミフレーク顔料、マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、シリカフレーク顔料、二酸化チタン被覆ガラスフレーク顔料、グラファイト顔料、ステンレスフレーク顔料、ホログラム顔料、板状酸化鉄顔料及びフタロシアニンフレーク顔料などが挙げられる。」 「【発明の効果】 【0064】 本発明に従う顔料分散体においては、粒子径の小さな凝集しやすい着色顔料またはカーボンブラックを第1の顔料として用いているが、本発明に従い、これらの第1の顔料を、第2の顔料である硫酸バリウムと同時に分散させることにより、着色顔料同士またはカーボンブラック同士の凝集を抑制して、従来より小さな粒子径で分散させることができ、良好な分散状態を得ることができる。 【0065】 本発明の顔料分散体を用いたソリッド塗料は、塗料中での着色顔料またはカーボンブラック顔料の凝集が少ないため、着色力及び透明感に優れ、かつ着色顔料またはカーボンブラックが本来有する鮮明な色相の塗膜を形成することができる。 【0066】 本発明の顔料分散体を含有するメタリック塗料は、透明感に優れ、塗膜を斜めから見たときのシェードに濁りがなく、深みのある色相を呈することができる。」 「【0068】 <第1の顔料> 第1の顔料として、以下のものを用いた。 【0069】 ・カーボンブラックA:カーボンブラック、商品名「ラーベン5000UIII」コロンビア社製、ストラクチャーの平均粒子径32nm ・カーボンブラックB:カーボンブラック、商品名「デクサカーボンFW-200P」、デグサ社製、ストラクチャーの平均粒子径39nm ・キナクリドンマゼンタ:赤色有機顔料、商品名「シンカシャマゼンタBRT-343D」、チバガイギー社製、一次平均粒子径70nm ・ポリ塩素化銅フタロシアニン:緑色有機顔料、商品名「リオノールグリーン6YKP-N」、東洋インキ社製、一次平均粒子径90nm ・フタロシアニン:青色有機顔料、商品名「シャニンブルーG-314NF」、山陽色素社製、一次平均粒子径80nm ・・・(略)・・・」 これらの記載から、引用例Aには、「一次平均粒子径が200nm以下の着色顔料またはストラクチャーの平均粒子径が100nm以下のカーボンブラックからなる第1の顔料と、一次平均粒子径が55nm以下の硫酸バリウムからなる第2の顔料とを、一方の顔料の(酸量-塩基量)の値が正で、他方の顔料の(酸量-塩基量)の値が負となるように組み合わせ、顔料分散剤の存在下、第1の顔料と第2の顔料を媒体中に同時に分散させた顔料分散体と、鱗片状光輝性顔料としてアルミフレーク顔料と、バインダーとを含むメタリック塗料。」について記載されていると認められる。 しかしながら、引用例Aには、「鱗片状光輝性顔料及びカーボンブラック顔料を含む塗料組成物」における「カーボンブラック」として、スチール調の金属感を得るために、「一次粒子径」が「50nm」であるものを採用することについては記載も示唆もない。 イ.引用例Bについて 引用例Bには、「光輝性塗料組成物、塗膜形成方法および塗装物」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、光輝性塗料組成物、塗膜形成方法およびこの方法により塗装された塗装物に関する。 【0002】 【従来の技術】自動車車体などの高い意匠性が必要とされる分野においては、光輝性材料を含有する光輝性塗料組成物を用いた塗膜が必要とされており、このような光輝性材料として、アルミニウムフレーク顔料や干渉マイカ顔料が知られている。この干渉マイカ顔料は、基材である雲母が金属酸化物により被覆され、干渉色はその被覆厚みにより決まってくる。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】従来の干渉性顔料とアルミニウムフレーク顔料とを含む塗膜は、形成された塗板を、垂直に近い状態で見ると干渉色を有する干渉性顔料の発色とハイライト部におけるメタリック感とを発現するが、その塗膜の色相が濃彩色系の場合には、シェード部での白ボケ感が目立ち、深みのある色調が得られないという問題点を有している。 【0004】従って本発明の目的は、形成される上記干渉性顔料とアルミニウムフレーク顔料とを含む塗膜の色相が濃彩色系の場合でも、発色性のある干渉性顔料の粒子感を呈す意匠を発現し、シェード部での白ボケ感が起きずに、深みのある色調を呈し、さらなる効果として隠蔽性をも付与する光輝性塗膜を得ることができる光輝性塗料組成物、塗膜形成方法およびこの方法により塗装された塗装物を提供することである。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者等は上述の課題に鑑み鋭意研究した結果、本発明に至った。 1. (1)アルミニウムフレーク顔料、(2)暗部領域を有する干渉マイカ顔料、(3)前記(2)の暗部領域を有する干渉マイカ顔料以外の干渉性光輝性顔料、および(4)ビヒクルを含有し、下記IおよびIIの条件を満たす光輝性塗料組成物。 I.(1)/(3)=90/10?10/90(質量比) II.(2)/(3)=80/20?20/80(質量比) 2.上記(3)干渉性光輝性顔料が、干渉マイカ顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料の少なくとも1種である請求項1記載の光輝性塗料組成物。 3.基材に、上記の光輝性塗料組成物を用いてベースコート層を形成した後、クリヤー塗料を用いてトップコート層を形成する塗膜形成方法。 4.前記クリヤー塗料が、カルボキシル基含有ポリマーおよびエポキシ基含有ポリマーを含有する上記の塗膜形成方法。 5.上記の塗膜形成方法により塗装された塗装物。」 しかしながら、引用例Bにも、「鱗片状光輝性顔料及びカーボンブラック顔料を含む塗料組成物」における「カーボンブラック」として、スチール調の金属感を得るために、「一次粒子径」が「50nm」であるものを採用することについては記載も示唆もない。 (6)以上のことから、本件補正発明は、引用発明と同一であるとはいえないし、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 また、本件補正発明は、引用発明及び引用例A、Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって、本件補正発明に係る補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 また、平成26年11月4日に提出された手続補正書におけるその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願の請求項2に係る発明は、上記本件補正発明を引用し、本件補正発明の発明特定事項を全て含むものであるから、上記本件補正発明と同様な理由から、引用例に記載された発明とすることはできないし、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 また、本願の請求項2に係る発明は、引用発明及び引用例A、Bの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって、本願については、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-04-28 |
出願番号 | 特願2009-287842(P2009-287842) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(C09D)
P 1 8・ 121- WY (C09D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 服部 芙美、福井 美穂 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
岩田 行剛 川端 修 |
発明の名称 | 塗料組成物及び塗膜形成方法 |