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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
管理番号 1313991
審判番号 不服2015-7289  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-17 
確定日 2016-04-28 
事件の表示 特願2009-81351「断熱床用化粧材」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日出願公開、特開2010-229781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年3月30日の出願であって、平成27年1月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月17日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。
そして、本件審判手続において、当審より平成27年11月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成28年1月6日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年1月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「木質系基材の表面に発泡層と床材用化粧シートが順に積層された床用化粧材であって、該発泡層の樹脂成分がポリオレフィン系樹脂であり、厚みが0.5?2.0mm及び大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値が0.007?0.049mm^(3)である床用化粧材。」

3 当審において通知した拒絶の理由
当審より平成27年11月13日付けで通知した拒絶理由(以下「先の拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。

「〔理由1〕
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1について
ア 本願発明1は、優れた床材性能を有し、且つ断熱性にも優れる床用化粧材を提供することを解決すべき課題とし、当該課題を解決する手段として、木質系基材の表面に発泡層と床材用化粧シートが順に積層された床用化粧材において、発泡層の厚みを0.5?2.0mmとするとともに、発泡セル体積を0.004?0.05mm3とするものである。

イ 他方、本願の出願当時の技術常識に照らせば、発泡層の物理的性質は、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等によって異なるものと認められるところ、本願の発明の詳細な説明には、実施例として、特定の発泡セル体積及び厚みのポリエチレン発泡シート(東レペフ加工品株式会社製「5Z005」、「10010」、「10020」、「15020」)からなる発泡層を有する床用化粧材が記載されているが、実施例及び比較例の発泡層の発泡倍率、比重、発泡セル径等が記載されておらず、発泡層の厚み、発泡セル体積を本願発明1の数値範囲とすれば、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等の値に関わらず、上記課題を解決できると認めるに足る記載もない。

ウ よって、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された技術内容を、請求項1に係る発明にまで拡張ないし一般化することができるとは認められない。

エ なお、請求人は、平成27年4月17日付けの手続補足書において、東レペフ加工品株式会社のホームページをダウンロードしたものを参考資料1として提出し、審判請求書において、「参考資料1には、トーレペフの動的緩衝特性が記載されています。詳細には、図1として、トーレペフ及び従来緩衝材として広く使用されているポリスチレンフォームのくり返し衝撃による緩衝性の変化が示されており、図1の実線の結果から、トーレペフは数十回の度重なる衝撃に対しても緩衝性はほとんど変化しないことが分かります。このことは、トーレペフシリーズの発泡体は均一性のある発泡セルで構成されている……ことを意味しています。」、「仮に発泡体中に極端に小さい又は大きい発泡セルが存在又は混在する場合には、図1に点線で示されるポリスチレンフォームのように、くり返し衝撃に対する緩衝性が変化すると考えられるからです。」、「このように、本願発明の発泡層はほぼ均一な発泡セルで構成されていることから、発泡セル体積も実質的に整っていますので、大きいものから順に5つの各2辺を計測し、段落[0025]に記載の方法で計算した発泡セル体積の平均値を算出することにより、発泡層の全体にわたって存在する発泡セル体積の平均的な発泡セル体積を求めることができます。よって、発泡セル体積の平均値は、本願請求項1に係る発明における「発泡層」の性質を正確に定義できておりますので、本願請求項1?3に係る発明は明確です。」と主張しているが、「数十回の度重なる衝撃に対しても緩衝性はほとんど変化しない」からといって、「トーレペフシリーズの発泡体は均一性のある発泡セルで構成されている」とは直ちに解し得ないし、そうであるとしても、本願発明の発泡層が均一性のある発泡セルで構成されていることは、当初明細書に記載された事項ではないから、上記主張は採用できない。

(請求項2及び3については省略)

〔理由2〕
本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 本願の出願当時の技術常識に照らせば、発泡層の物理的性質は、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等によって異なるものと認められるところ、本願の発明の詳細な説明には、実施例として、特定の発泡セル体積及び厚みのポリエチレン発泡シート(東レペフ加工品株式会社製「5Z005」、「10010」、「10020」、「15020」)からなる発泡層を有する床用化粧材が記載されているが、実施例及び比較例の発泡層の発泡倍率、比重、発泡セル径等が記載されておらず、発泡層の厚み、発泡セル体積を本願発明1の数値範囲とすれば、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等の値に関わらず、上記課題を解決できると認めるに足る記載もない。

ウ してみると、本願発明1ないし5は、本願の発明の詳細な説明に実施例として記載された以外の実施形態について、当業者が出願当時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。

〔理由3〕
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1?3
・刊行物1?3
・備考
(備考の記載内容は省略)

引 用 文 献 等 一 覧
刊行物1:特開平11-182007号公報
刊行物2:特開2002-356980号公報
刊行物3:特開2004-76476号公報 」

4 請求人の主張
請求人は、平成28年1月6日付け意見書において、概ね以下のとおり主張している。

「3.本願発明が特許性を有する理由
(1)理由1(特許法第36条第6項第1号)及び理由2(特許法第36条第4項第1号)について
審判官殿は、今般の拒絶理由通知書の〔理由1〕の(1)のイにおいて、発泡層の物理的性質は、技術常識に照らせば発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等によって異なると認められるところ、本願明細書(特に実施例)には発泡層の発泡倍率、比重、発泡セル径等が記載されておらず、現在の本願請求項1に規定された要件だけで本発明の課題を解決できると認められない旨ご指摘され、また発泡層の厚み及び発泡セル体積について実施例で採用されている数値と本願請求項1で規定されている範囲との間に乖離があるためサポートされていない旨ご指摘されておられます。

本願出願人は、審判官殿の上記ご指摘を受け、本願明細書の実施例の記載に基づき、発泡セル体積の平均値を「0.007?0.049mm^(3)」に限定するとともに、発泡層の樹脂成分を「ポリオレフィン系樹脂」に限定いたしました。よって、当業者であれば、補正後の請求項1に記載された要件を見れば、発泡層の物理的性質を十分に把握することができ、補正後の請求項1に規定された要件だけで本発明の課題を解決できることを容易に理解することができます。

なお、上記拒絶理由通知書の〔理由1〕の(1)のエ(第2頁下から2行目から第3頁第1行)において、審判官殿は『「数十回の度重なる衝撃に対しても緩衝性はほとんど変化しない」からといって、「トーレペフシリーズの発泡体は均一性のある発泡セルで構成されている」とは直ちに解し得ない』旨ご指摘されておられます。しかしながら、当業者であれば、審判請求時に参考資料1として提出した図1(トーレペフの動的緩衝特性の図)を見れば、トーレペフシリーズの発泡体が均一性のある発泡セルで構成されていることは一目瞭然です。
さらに審査官殿は、同〔理由1〕の(1)のエ(第3頁第2行から第3行)において、「本願発明の発泡層が均一性のある発泡セルで構成されていることは、当初明細書に記載された事項ではない」旨ご指摘されておられます。しかしながら、本願請求項1において、発泡セル体積の平均値が「大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値」であることを補正により明確にし、大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値を全体の平均値とみなせることは、本願発明の発泡層が均一性のある発泡セルで構成されていることの証であるといえます。

以上より、補正後の本願出願がサポート要件及び実施可能要件を満たしていることは明らかです。

(2)理由3(特許法第29条第2項)について
刊行物1(特開平11-182007号公報)には、表層側から順に、化粧材2、緩衝材4および基材5で積層構成され、基材5は、ラワンなどの合板、MDFなどで構成され、緩衝材4は、クッション性を改善するため発泡樹脂で構成されている木質床材が記載されています。
刊行物1には、発泡層の厚み及び発泡セル体積の平均値は記載されておりませんが、刊行物2(特開2002-356980号公報)には、クッション性床材の発泡層の厚みが0.5?3mm程度であり、発泡セル径が50?500μmであることが記載されており、刊行物3(特開2004-76476号公報)には、化粧部材の発泡層の厚みが0.5?2.5mm程度であることが記載されています。ここで、刊行物2の発泡セル径50?500μmは、発泡セル体積に換算すると6.5×10^(-5)?6.5×10^(-2)mm^(3)(0.000065?0.065mm^(3))です。
刊行物1発明の発泡樹脂において、刊行物2又は3に記載されている発泡層の厚み及び発泡セル体積を採用すると本願発明の構成と重複することは事実です。しかしながら、刊行物2から換算される発泡セル体積:0.000065?0.065mm^(3)は範囲が広く、本願発明の発泡セル体積:0.007?0.049mm^(3)はその一部にすぎません。そして、本願明細書の比較例6?8及び10の結果から、刊行物2から換算される発泡セル体積の範囲内であっても本願発明の発泡セル体積の範囲より小さい場合には断熱性が×になり、大きい場合には床材性能が×になるため、優れた床材性能を有し、且つ断熱性にも優れるという本願発明の効果が得られないことは明らかです。
よって、本願発明の発泡セル体積:0.007?0.049mm^(3)は、刊行物1と刊行物2又は3の組み合わせに対して選択発明としての特許性があると確信いたします。」

5 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号違反(先の拒絶理由の理由1)について
ア 本願発明は、優れた床材性能(跡形が残らない耐性、落下物による凹みが生じない耐性)を有し、且つ断熱性にも優れる床用化粧材を提供することを解決すべき課題とし、当該課題を解決する手段として、木質系基材の表面に発泡層と床材用化粧シートが順に積層された床用化粧材において、発泡層の樹脂成分をポリオレフィン系樹脂とし、発泡層の厚みを0.5?2.0mmとするとともに、大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値を0.007?0.049mm^(3)とするものである(段落【0003】ないし【0008】を参照。)。

イ 他方、本願の出願当時の技術常識に照らせば、発泡層の断熱性や可撓性等の物理的性質は、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等によって異なるものと認められるところ、本願の発明の詳細な説明には、実施例として、特定の発泡セル体積(大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値)及び厚みのポリエチレン発泡シート(東レペフ加工品株式会社製「5Z005」、「10010」、「10020」、「15020」)からなる発泡層を有する床用化粧材が記載されているが、実施例及び比較例の発泡層の発泡倍率、比重、発泡セル径等が記載されておらず、発泡層の樹脂成分、発泡層の厚み、及び発泡セル体積を本願発明の数値範囲とすれば、発泡樹脂の発泡倍率、比重、発泡セル径等の値に関わらず、上記課題を解決できると認めるに足る記載もない。

ウ よって、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された技術内容を、本願発明にまで拡張ないし一般化することができるとは認められない。

エ なお、請求人は、「本願明細書の実施例の記載に基づき、発泡セル体積の平均値を『0.007?0.049mm^(3)』に限定するとともに、発泡層の樹脂成分を「ポリオレフィン系樹脂」に限定いたしました。よって、当業者であれば、補正後の請求項1に記載された要件を見れば、発泡層の物理的性質を十分に把握することができ、補正後の請求項1に規定された要件だけで本発明の課題を解決できることを容易に理解することができます。」と主張する(上記4の「平成28年1月6日付け意見書」3.(1)を参照。)。
しかし、上記イのとおりであり、加えて、請求人は、先の拒絶理由通知の理由1及び2に接しても、発泡層の厚み及び発泡セル体積を本願発明の数値範囲とすれば、発泡樹脂の発泡倍率、比重、発泡セル径等の値に関わらず、上記課題を解決できることを裏付けるための検証を行って、その実験結果等を示すこともしていない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

オ また、請求人は、「当業者であれば、審判請求時に参考資料1として提出した図1(トーレペフの動的緩衝特性の図)を見れば、トーレペフシリーズの発泡体が均一性のある発泡セルで構成されていることは一目瞭然です。
さらに審査官殿は、……『本願発明の発泡層が均一性のある発泡セルで構成されていることは、当初明細書に記載された事項ではない』旨ご指摘されておられます。しかしながら、本願請求項1において、発泡セル体積の平均値が『大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値』であることを補正により明確にし、大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値を全体の平均値とみなせることは、本願発明の発泡層が均一性のある発泡セルで構成されていることの証であるといえます。」と主張する(上記4の「平成28年1月6日付け意見書」3.(1)を参照。)。
しかし、先の拒絶理由(上記「3 平成27年11月13日付け拒絶理由」の理由1(1)エを参照。)で示したとおり、「数十回の度重なる衝撃に対しても緩衝性はほとんど変化しない」からといって、「トーレペフシリーズの発泡体は均一性のある発泡セルで構成されている」とは直ちに解し得ないし、請求人は、先の拒絶理由通知の理由1及び2に接しても、トーレペフシリーズの発泡体は均一性のある発泡セルで構成されていることを裏付けるための検証を行って、その実験結果等を示すこともしていない。また、本願発明は、均一性のある発泡セルで構成されていることを特定事項とするものでもない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第4項第1号違反(先の拒絶理由の理由2)について
ア 本願の出願当時の技術常識に照らせば、発泡層の断熱性や可撓性等の物理的性質は、発泡樹脂の材料、発泡倍率、比重、発泡セル径等によって異なるものと認められるところ、本願の発明の詳細な説明には、実施例として、特定の発泡セル体積(大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値)及び厚みのポリエチレン発泡シート(東レペフ加工品株式会社製「5Z005」、「10010」、「10020」、「15020」)からなる発泡層を有する床用化粧材が記載されているが、実施例及び比較例の発泡層の発泡倍率、比重、発泡セル径等が記載されておらず、発泡層の厚み及び発泡セル体積を本願発明の数値範囲とすれば、発泡樹脂の発泡倍率、比重、発泡セル径等の値に関わらず、上記課題を解決できると認めるに足る記載もない。
なお、請求人の主張については、上記(1)エ及びオのとおりであって、採用できない。

イ してみると、本願の発明の詳細な説明は、実施例として記載された以外の本願発明の実施形態について、当業者が出願当時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。

(3)特許法第29条第2項違反(先の拒絶理由の理由3)について
ア 刊行物の記載
(ア)刊行物1の記載
先の拒絶理由の理由3において引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物1(特開平11-182007号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

a 「【請求項1】 基材と、
この基材よりも低い剛性を有し、その表面側に積層された緩衝材と、
この緩衝材の表面に積層された化粧材と、を備えていることを特徴とする木質床材。
【請求項2】 省略。」

b 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明を適用した木質床材(以下、単に「床材」という)を分解状態で示している。同図に示すように、この床材1は、表層側から順に、化粧材2、裏打ち材3、緩衝材4および基材5の計4層で構成されている。」

c 「【0011】緩衝材4は、クッション性を改善するためのものであり、軟質塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂やポリウレタン樹脂などから成る発泡樹脂などで構成されている。また、基材5は、ラワンなどの合板、MDFなどの木質繊維板や、低発泡の樹脂板などで構成されている。以上の構成の材料2?5を順に積層し、接着することによって、床材1が形成される。」

d 「【0014】・・・実施形態では、化粧材2と緩衝材4の間に裏打ち材3を設けているが、この裏打ち材3を省略した床材も、本発明の範囲内のものである。・・・」

e 上記aないしdの摘記事項からみて、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「表層側から順に、化粧材2、緩衝材4および基材5で積層構成され、基材5は、ラワンなどの合板、MDFなどで構成され、緩衝材4は、クッション性を改善するため、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂から成る発泡樹脂で構成されている木質床材。」

(イ)刊行物2について
先の拒絶理由の理由3において引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物2(特開2002-356980号公報)には、次の事項が記載されている。

a 「【請求項1】熱可塑性樹脂を主成分とする無発泡の表面層と、この表面層に溶着され且つ熱分解性発泡剤によって発泡された裏面層とからなる床材であって、裏面層は熱可塑性樹脂を主成分とし、他の成分として少なくとも発泡改良剤を含んでいることを特徴とするクッション性床材。
【請求項2】?【請求項11】省略。」

b 「【0015】表面層1は、熱可塑性樹脂を主成分とし、これに無機質充填材、着色剤、安定剤等を含有させた厚さ0.5?3mm程度の無発泡の層であり・・・」

c 「【0016】一方、裏面層2は、熱分解性発泡剤によって発泡された厚さ0.5?3mm程度の層であって、表面層1と同様の熱可塑性樹脂を主成分とし、無機質充填材、着色剤、安定剤等の他に、発泡改良剤が含まれている。・・・」

d 「【0020】このような発泡改良剤を熱分解性発泡剤と併用すると、発泡セル径が50?500μmと微細で均一な独立発泡セルが形成され、この独立発泡セルによって良好なクッション性が裏面層2に付与されるため、歩行感のソフトな高品質のクッション性床材を得ることができる。発泡セル径が500μmより大きくなると、発泡セルが壊れやすくなって裏面層2が連続発泡体に近づき、クッション性(弾力性)が低下してヘタリが生じやすくなる。一方、50μmより小さい発泡セルは、発泡改良剤を併用しても形成することは容易でない。」

(ウ)刊行物3について
先の拒絶理由の理由3において引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物3(特開2004-76476号公報)には、次の事項が記載されている。

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、床材、壁材、天井材等の建築内装材、建具、家電製品の表面材等に用いられる化粧材において、木質感、切削性や釘打ちなどの加工性が良く、且つ優れた意匠とリサイクル性を併せ持つ化粧部材に関する。特に、床材として使用したときの耐キャスター性、耐水性に優れ、遮音効果もあり、触感や歩行感も良好な化粧部材に関する。」

b 「【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の化粧部材は、図1に示す様に、基材1の表面に化粧シート2が積層されてなり、該基材1は熱可塑性合成樹脂と木質系充填剤との配合組成物からなる木質樹脂成形体であって、該基材1のうち前記化粧シート2が積層される表面側部分は発泡層12となっている。なお、該発泡層12を除く該基材の裏面側部分は、非発泡層又は前記発泡層12よりも低発泡倍率の低発泡層11となっている。
【0017】
この様に、基材1の表面側に発泡層12が設けられていることにより、クッション性が得られ、歩行時の足の裏面に掛かる衝撃を和らげるので歩行感が向上すると共に、歩行や器物の落下などによる衝撃を吸収するので遮音性(防音性)が得られる。・・・」

c 「【0019】
発泡層12の発泡倍率は、低すぎると上記した各種効果が十分に得られないが、逆に高すぎると、柔らかすぎて却ってクッション効果が薄れたり、耐キャスター性や耐凹み傷性が悪化したりする原因ともなるので、1.2?20倍の範囲内とすることが好ましく、1.6?15倍の範囲内とすればさらに好ましい。・・・」

d 「【0022】
本発明において、・・・発泡層12の厚みは、・・・0.5?2.5mm程度とすることが望ましい。」

イ 対比・判断
(ア)本願発明と刊行物1発明とを対比すると、
刊行物1発明の「木質床材」は、本願発明の「床用化粧材」に相当し、以下同様に、「化粧材2」、「ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂から成る発泡樹脂で構成されている」「緩衝材4」、及び「ラワンなどの合板、MDFなどで構成され」ている「基材5」は、それぞれ、「床材用化粧シート」、「樹脂成分がポリオレフィン系樹脂であ」る「発泡層」、及び「木質基材」に相当する。

(イ)すると、両者は、
「木質系基材の表面に発泡層と床材用化粧シートが順に積層された床用化粧材であって、該発泡層の樹脂成分がポリオレフィン系樹脂である床用化粧材。」で一致し、

(ウ)本願発明は、発泡層の厚みが0.5?2.0mmであり且つ大きいものから順に5つ計測したセル体積の平均値が0.007?0.049mm^(3)であるのに対して、刊行物1発明は、いずれも不明である点で相違する。

(エ)上記相違点について検討する。
先の拒絶理由の理由3において引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物2及び3には、歩行感の良好な床材に用いる発泡層の厚さを0.5?3mm程度及び0.5?2.5mm程度とすることが記載されており、さらに、刊行物2には、「発泡改良剤を熱分解性発泡剤と併用すると、発泡セル径が50?500μmと微細で均一な独立発泡セルが形成され、この独立発泡セルによって良好なクッション性が裏面層2に付与されるため、歩行感のソフトな高品質のクッション性床材を得ることができる。」との事項が記載されており、該セルが球であると仮定して体積を求めると、6.5×10^(-5)?6.5×10^(-2)mm^(3)となる(上記ア(イ)、(ウ)を参照。)。
そして、刊行物1発明において、緩衝材4の厚さ及び発泡セルの大きさを如何にするかは、所望のクッション性等に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項というべきところ、本願明細書の実施例及び比較例をみても、発泡層の厚み及び発泡セル体積を本願発明の如くすることに設計上の適宜の範囲を定めた以上の意義は認められないこと、及び刊行物2、3に記載の上記技術事項を踏まえると、刊行物1発明の発泡樹脂において、上記相違点に係る本願発明の発泡層の厚み及び発泡セル体積を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(オ)そして、本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、刊行物1発明及び刊行物2、3に記載された事項から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(カ)よって、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2、3に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものである。

(キ)なお、請求人は、「刊行物2から換算される発泡セル体積:0.000065?0.065mm^(3)は範囲が広く、本願発明の発泡セル体積:0.007?0.049mm^(3)はその一部にすぎません。そして、本願明細書の比較例6?8及び10の結果から、刊行物2から換算される発泡セル体積の範囲内であっても本願発明の発泡セル体積の範囲より小さい場合には断熱性が×になり、大きい場合には床材性能が×になるため、優れた床材性能を有し、且つ断熱性にも優れるという本願発明の効果が得られないことは明らかです。」と主張する(上記4の「平成28年1月6日付け意見書」3.(2)を参照。)。
しかし、上記(エ)のとおりであって、請求人の主張は採用できない。
加えて、床材において所望のクッション性や断熱性等を得るために、緩衝材の厚さや発泡セルの大きさを最適化・好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえるものであって、本願発明の発泡層の厚さや発泡セルの大きさは、刊行物2、3に開示されているように格別なものではない。

6 むすび
以上のとおりであって、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
さらに、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2、3に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2及び3について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-23 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-15 
出願番号 特願2009-81351(P2009-81351)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (E04F)
P 1 8・ 536- WZ (E04F)
P 1 8・ 121- WZ (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南澤 弘明渋谷 知子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中田 誠
住田 秀弘
発明の名称 断熱床用化粧材  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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