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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1314095
審判番号 不服2011-26054  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-02 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2005- 80273「遺伝的ワクチンおよび酵素の非確率論的生成」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-245453〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成17年3月18日の出願であって、平成12年2月4日を国際出願日とする特願2000-597406号(優先権主張 平成11年2月4日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、 平成23年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成27年4月13日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年10月14日に意見書が提出されるともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項1、2に係る発明は、平成27年10月14日に補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

【請求項1】
鋳型ポリペプチドから予め決められた分子構造を有する一組の子孫ポリペプチドを製造する方法であって、該子孫ポリペプチドは、全アミノ酸位に示された非確率論的範囲の単一のアミノ酸置換を含み、該方法は、
(a) コドンを含む、環状二本鎖の鋳型ポリヌクレオチドを、変異すべき各コドンに対する32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いるポリメラーゼに基づく増幅に供し、一組の子孫ポリヌクレオチドを生成するステップ(ここで、該32倍縮重オリゴヌクレオチドの各々は、第1の相同配列、縮重N,N,G/Tトリプレット配列、および第2の相同配列を含む);
および
(b) 上記一組の子孫ポリヌクレオチドを、クローナルな増幅に供し、該子孫ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを発現するステップ;
を含み、それによって、親ポリペプチド鋳型に対して全アミノ酸位において全20種のアミノ酸変化を生成する手段を提供するものであり、上記鋳型ポリヌクレオチドは少なくとも100アミノ酸のポリペプチドをコードする、上記方法。


第2.当審の判断
1.引用例・引用発明
(1)引用例1
本願優先日前に頒布された刊行物である、特表8-503489号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア「2工程特定部位のPCR突然変異
単一アミノ酸置換変異体は,hIL-3の位置17?123において.PCRによる2つの特定部位突然変異法(Bauerら,原稿作成中)によって創製された.
hIL-3の位置94?105における単一アミノ酸置換変異体は以下の記載のようにして創製された.最初の突然変異工程では,hIL-3遺伝子(アミノ酸15?125)を含有するプラスミドをPCR反応における鋳型とした.オリゴヌクレオチドプライマーの一つのDNA配列は,hIL-3遺伝子(アミノ酸15?125)中の12塩基が2つの翻訳停止コドン(5’TAATAA3’)およびそれに続く制限酵素SalIの認識配列(5’GTCGAC3’)をコードする12塩基で置換されるように設計された.この12塩基配列はアミノ酸93,97および101のコドンに続くhIL-3遺伝子中に置換された.これらの突然変異遺伝子を含有すプラスミドが第二の突然変異工程の鋳型として働くいた.第二の突然変異工程では第一の突然変異工程で導入された12塩基の置換が32通りの縮重オリゴヌクレオチドを用いて置換された.縮重オリゴヌクレオチドは縮重位置での縮合反応に際して等モル比の所望のヌクレオシドを機械混合することにより合成された.縮重オリゴヌクレオチドは単一コドンの第一および第二の位置にG,A,TまたはCを,第三の位置にGまたはCを有する.オリゴヌクレオチド中の他の塩基はhIL-3配列に相当する.縮重オリゴヌクレオチドは単一の位置に,理論的には,すべての20のアミノ酸と翻訳停止コドンをコードする32の異なるコドンを含有する.他の9つの塩基では,DNA配列はネイティブなhIL-3タンパク質配列を維持させた.単一位置における単一アミノ酸置換のこのプールは「ライブラリー」と呼ばれる.この2工程PCR特定部位の突然変異法は,単一アミノ酸置換変異体の鑑別DNAハイブリダイゼーションによる同定を容易にするために使用された.
hIL-3(15-125)の位置17?93および106?123における単一アミノ酸置換変異体は以下のようにして創製された.第一の突然変異工程では,hIL-3遺伝子(15-125)を含有するプラスミドDNAをPCR反応における鋳型とした.オリゴヌクレオチドプライマーの一つのDNA配列は,以下のアミノ酸,すなわち17?22,23?28,29?34,35?40,41?46,47?52,53?58,59?64,65?70,71?76,77?82,83?88,88?93,106?111,112?117および118?123をコードするhIL-3遺伝子中の18塩基が欠失するように設計された.
第二の突然変異工程では,第一工程で作られた18塩基欠失が32通りの縮重オリゴヌクレオチドを用いて修復された.縮重オリゴヌクレオチドは単一コドンの第一および第二の位置にG,A,TまたはCを,第三の位置にGまたはCを有する.オリゴヌクレオチド中の他の塩基はhIL-3配列に相当する.縮重オリゴヌクレオチドは単一の位置に,理論的には,すべての20のアミノ酸と翻訳停止コドンをコードする32の異なるコドンを含有する.他の9つの塩基については,DNA配列はネイティブなhIL-3タンパク質配列を維持させた.単一位置における単一アミノ酸置換のこのプールは「ライブラリー」と呼ばれる.この2工程PCR特定部位の突然変異法は,単一アミノ酸置換変異体の鑑別DNAハイブリダイゼーションによる同定を用意にするために使用された.」(第147頁10行?第148頁25行)

イ「リゲーション混合物からの組換えプラスミドの回収,および組換えプラスミドDNAによる大腸菌細胞の形質転換
・・・・
大腸菌細胞が産生した細胞質中のhIL-3タンパク質の分画
大腸菌培養液からの,hIL-3ムテインを産生するプラスミドが繋留された細胞をナリジキシン酸で誘導した.3時間後,hIL-3ムテインは屈折小体に蓄積した.hIL-3ムテインの精製の第一工程は細胞の超音波処理であった.細胞ぺレットから培養液のアリコートを超音波処理緩衝液:10mMトリスpH8.0,1mM EDTA,50mM NaClおよび0.1mM RMSF中に再懸濁した.これらの再懸濁細胞を,Heat Systems-Ultrasonics Inc.(Farmingdale,New York)製超音波処理細胞破壊装置W-375型のマイクロチップを用い,数回反復して超音波バーストに付した.超音波処理の程度は光学顕微鏡下にホモジネートを検査してモニタリングした.ほぼすべての細胞が破壊されたならば,ホモジネートを遠心分離によって分画した.大部分の屈折小体を含有するぺレットにhIL-3ムテインが高度に濃縮される.」(第148頁26行?第153頁15行)

ウ「1?3個のアミノ酸置換を含有し,(1-133)hIL-3からなる配列番号:15,16,17,18および129に相当するポリペプチドは,上述の操作および以下の例の操作を使用して,適当なオリゴヌクオチドに出発し,ついでポリペプチドをコードするDNAを構築して,それを適当な宿主細胞中で発現させることによって作成することができる.同様にして,配列番号:19,20,21,22および130に相当し,また1?3個のアミノ酸置換を有し,さらにN-末端より1?14のアミノ酸が順次欠失しているか,もしくはC-末端より1?15のアミノ酸が欠失しているか,またはN-末端およびC-末端両者にアミノ酸の欠失があるポリペプチドもまた,適当な出発原料から開始し,上述のおよび以下の例における操作によって作成することができる.」(第202頁下から10?末行)

エ「好ましいhIL-3(15-125)変異遺伝子を創製する一つの方法にカセット突然変異誘発がある[Wellsら(1985)].これはプラスミド中のhIL-3のコード配列の一部分を,2つの制限部位の間の遺伝子部分における所望のアミノ酸置換をコードする合成オリゴヌクレオチドによって置換する方法である.同様にして,アミノ酸置換は,完全長hIL-3遺伝子,またはN-末端から1?14個のアミノ酸の欠失および/もしくはC-末端から1?15個のアミノ酸の欠失を有するhIL-3の変異体をコードする遺伝子中に行うことができる.適正に組み立てれば,これらのオリゴヌクレオチドは,所望のアミノ酸置換ならびに/またはN-末端および/もしくはC-末端からの欠失を有するhIL-3変異体をコードすることになる.これらのおよび他の突然変異は,本技術分野の熟練者によれば,他の突然変異誘発法たとえばオリゴヌクレオチド特異的突然変異[Zoller&Smith(1982,1983,1984),Smith(1985),Kunkel(1985),ならびにTaylorら(1985),Deng&Nickoloff(1992)],またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Saiki(1985)]によって創製することが可能であろう.」(第134頁10?25行)

(2)引用例2
本願優先日前に頒布された刊行物である、国際公開98/54311号(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、英文であるため、引用例2のパテントファミリーである特表2002-502249号公報の記載を翻訳として援用する。)
オ「突然変異誘発を行うためには任意の部位特異的突然変異誘発の方法を採用できるが、修飾されるジンクフィンガータンパク質のセグメントをランダム化するのに使用される方法は、好ましくは式NNSまたはNNK(及びその相補物NNM)(ここでSはGまたはCであり、KはGまたはTであり、MはCまたはA(NNKの相補物)であり、NはA、C、GまたはTである)を持つ複数のトリプレットコドンを含む縮重オリゴヌクレオチドプライマーのプールを利用する。縮重トリプレットコドンに加え、縮重オリゴヌクレオチドプライマーは、少なくとも1つの末端で野性型ジンクフィンガータンパク質をコードするDNAにハイブリダイズするように設計された少なくとも1つのセグメントを含み、当分野においてオーバーラップ延長PCRとして知られるPCR増幅の連続的なラウンドに使用してプライマープール中のプライマーの非縮重領域によって挟まれた縮重の特定の領域を生成する。」(第30頁3?13行)

(3)引用発明
引用例1の上記アより、引用例1には、hIL-3タンパク質の単一アミノ酸置換変異体を『2工程PCR特定部位の突然変異法』により製造することが記載されており、この『2工程PCR特定部位の突然変異法』の第二の工程は、32通りの縮重オリゴヌクレオチド(N,N,G/Cトリプレット配列)プライマーを用いる方法であると認められる。そして、hIL-3タンパク質は親タンパク質であり、単一アミノ酸置換変異体は子孫タンパク質であるといえ、この単一アミノ酸置換は、hIL-3タンパク質の「位置94?105」、「位置17?93および106?123」、つまり「位置17?123」の範囲のアミノ酸について行うことが記載されていると認められる。
さらに、上記アには、単一アミノ酸置換を有し、他のDNA配列はネイティブなhIL-3タンパク質配列が維持された「ライブラリー」と呼ばれるプラスミドのプール(これを「プラスミド変異体ライブラリー」と呼ぶ。)が製造されたことが記載されていると認められる。
そして、上記アに続く上記イには、組換えプラスミドを用いて大腸菌を形質転換し、タンパク質を製造することが記載されており、上記ウの記載も合わせると、引用例1には、hIL-3タンパク質を親タンパク質とし、この親タンパク質の位置17?123の範囲のアミノ酸を対象として上記の『2工程PCR特定部位の突然変異法』を行い、複数の子孫タンパク質を製造する方法が記載されていると認められる。
したがって、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「hIL-3タンパク質を親タンパク質とし、hIL-3タンパク質の位置17?123における単一アミノ酸置換変異体からなる、複数の子孫タンパク質を製造する方法であって、
(1)hIL-3遺伝子を含有するプラスミドをPCR反応の鋳型として、プラスミド変異体ライブラリーを製造する工程、
該工程は、第一、第二の工程からなる2工程PCR特定部位の突然変異法であり、該第二の工程は32通りの縮重オリゴヌクレオチド(N,N,G/Cトリプレット配列)プライマーを用いてPCR増幅することによって、単一アミノ酸置換変異体である複数の子孫タンパク質をコードするプラスミド変異体ライブラリーを製造する工程を含み、及び、
(2)プラスミド変異体ライブラリーを用いて大腸菌を形質転換し、該プラスミド変異体ライブラリーがコードするhIL-3タンパク質変異体を発現する工程、を含む上記方法。」

2.対比、判断
本願発明と引用発明を対比する。
まず、引用発明の「hIL-3タンパク質」は、本願発明の「ポリペプチド」に相当し、引用発明の「PCR反応の鋳型」の「プラスミド」は、本願発明の「環状二本鎖の鋳型ポリヌクレオチド」に相当する。
次に、引用発明の「複数の子孫タンパク質」をコードする「プラスミド変異体ライブラリー」は、hIL-3遺伝子を含有するプラスミドをPCR反応の鋳型とし、この鋳型プラスミドにおいて、hIL-3タンパク質のアミノ酸位置17?123に対応する部分のアミノ酸に対して「32通りの縮重オリゴヌクレオチド(N,N,G/Cトリプレット配列)プライマーを用いてPCR増幅すること」によって製造されるものであるから、『単一アミノ酸置換に対応する32通りの縮重配列を含むセット』となると認められる。
一方、本願発明の「一組の子孫ポリヌクレオチド」は、「(a) コドンを含む、環状二本鎖の鋳型ポリヌクレオチドを、変異すべき各コドンに対する32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いるポリメラーゼに基づく増幅に供し、一組の子孫ポリヌクレオチドを生成するステップ(ここで、該32倍縮重オリゴヌクレオチドの各々は、第1の相同配列、縮重N,N,G/Tトリプレット配列、および第2の相同配列を含む)」というステップにより生成するものであるから、同じく『単一アミノ酸置換に対応する32通りの縮重配列を含むセット』であると認められる。そして、本願発明の非確率論的な単一のアミノ酸置換を含む「一組の子孫ポリペプチド」とは、この32通りの縮重配列を含む「一組のポリヌクレオチド」にコードされるものであると認められる。
そうすると、引用発明の「プラスミド変異体ライブラリー」がコードする、hIL-3タンパク質の「単一アミノ酸置換変異体からなる、複数の子孫タンパク質」は、本願発明の「一組の子孫ポリヌクレオチド」がコードする「非確率論的範囲の単一のアミノ酸置換」を含む「一組の子孫ポリペプチド」に相当すると認められる。そして、引用発明のhIL-3の子孫タンパク質が、hIL-3鋳型タンパク質から製造されることは明らかである。
また、引用発明の「(2)プラスミド変異体ライブラリーを用いて大腸菌を形質転換し、該プラスミド変異体ライブラリーがコードするhIL-3タンパク質変異体を発現する工程」は、本願発明の「(b) 上記一組の子孫ポリヌクレオチドを、クローナルな増幅に供し、該子孫ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを発現するステップ」に相当し、32通りの縮重配列を含むポリヌクレオチドから「全20種のアミノ酸変化」が生成するから、引用発明は、本願発明と同様に、親ポリペプチド鋳型に対して全20種のアミノ酸変化を生成する手段を提供するものであることは明らかである。
さらに、引用発明における鋳型ポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、すなわち鋳型(親)ポリペプチドであるhIL-3タンパク質は、133アミノ酸(アミノ酸置換の対象とされる位置17?123で107アミノ酸)であり、すなわち、少なくとも100アミノ酸からなるものである。

したがって、両者は、
「鋳型ポリペプチドから一組の子孫ポリペプチドを製造する方法であって、該子孫ポリペプチドは、非確率論的な単一のアミノ酸置換を含み、該方法は、
(a) コドンを含む、環状二本鎖の鋳型ポリヌクレオチドを、変異すべき各コドンに対する32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いるポリメラーゼに基づく増幅に供し、一組の子孫ポリヌクレオチドを生成するステップ(ここで、該32倍縮重オリゴヌクレオチドの各々は、第1の相同配列、縮重トリプレット配列、および第2の相同配列を含む);
および
(b) 上記一組の子孫ポリヌクレオチドを、クローナルな増幅に供し、該子孫ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを発現するステップ;を含み、それによって、親ポリペプチド鋳型に対して全20種のアミノ酸変化を生成する手段を提供するものであり、上記鋳型ポリヌクレオチドは少なくとも100アミノ酸のポリペプチドをコードする、上記方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、子孫ポリペプチドが「予め決められた分子構造を有する」のものであるのに対し、引用発明ではこのことが特定されていない点。
(相違点2)
親ポリペプチド鋳型の全20種のアミノ酸変化、子孫ポリペプチドの単一のアミノ酸置換の対象となる位置について、本願発明では「全アミノ酸位」であることが特定されているのに対して、引用発明では「hIL-3タンパク質の位置17?123」である点。
(相違点3)
縮重オリゴヌクレオチドが、本願発明では「N,N,G/Tトリプレット配列」を含むのに対し、引用発明では「N,N,G/Cトリプレット配列」を含む点。

(相違点1)について
本願発明にいう「予め決められた分子構造を有する」とは、何を意味するか、必ずしも明確ではないが、この特定の根拠とされる本願明細書の段落【0004】の第6パラグラフには、「以下のような非確率論的突然変異誘発法の開発に対する需要があることは即座に認識されることである。
1)予め決められた分子構造を有する多数の子孫分子を作製するために使用でき、
2)より多くの突然変異の型を容易に作製するために使用でき、
3)対応してより多様な子孫突然変異分子を産生でき、
4)望ましくないバックグラウンド生成物の産生が減少し、
5)全ての可能性を枯渇させるようなやり方で使用でき、そして
6)合成的かつ非反復的な方法で子孫分子を産生できる方法。
本発明はこれらの需要を全て満たすものである。」と記載されており、この記載から、「予め決められた分子構造を有する」とは、「 1)予め決められた分子構造を有する多数の子孫分子を作製するために使用でき」る、という効果を意味しており、この効果は、32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いる「非確率論的突然変異誘発法」なる方法を採用することによってもたらされることが理解される。
一方、引用発明において製造されるプラスミド変異体ライブラリーは、本願発明と同様に、32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いる方法によって製造されるものであるから、引用発明のプラスミド変異体ライブラリーにコードされる複数の子孫タンパク質も、「予め決められた分子構造を有する」と認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2)について
引用例1には、hIL-3の位置17?123以外のアミノ酸位置について、アミノ酸を置換することは記載されていないが、タンパク質の性質を研究したり向上させる目的で、タンパク質にアミノ酸置換等の変異を導入することは、当業者の常套手段であり、変異の対象を「全アミノ酸位」とすることは周知であると認められる(必要であれば、特開平9-131185号公報【0020】【0021】、特開平9-107974号公報【0012】【0013】、特開平8-231412号公報【0011】【0012】、国際公開98/01581号の4、24頁を参照。)。そして、引用発明はhIL-3のほとんどの位置をアミノ酸置換の対象とするものであるから、残りのわずかなアミノ酸位置についても単一アミノ酸置換の対象とする程度のことは、当業者が容易になし得ることである。
しかも、引用例1には、位置17?123以外の部分(位置1?16、位置124?133)のうち、N-末端から1?14アミノ酸(位置1?14)、C-末端から1?15アミノ酸(位置119?133)は、欠失してもよいことが記載されており(上記エ)、位置17?123以外の部分はhIL-3の活性に関与しない部分と考えられるから、そのような部分を有さないhIL-3を親(鋳型)ポリペプチドとすることもできるといえ、そのような場合には、引用例1においてアミノ酸置換の対象とされないのは、わずかに2つのアミノ酸位置(位置15、16)である。
したがって、相違点2は、当業者が容易になし得ることである。

(相違点3)について
引用例2には、突然変異誘発を行うための縮重トリプレット配列として、NNS、NNK(SはGまたはC、KはGまたはT)、すなわち、N,N,G/CとN,N,G/Tが並記されており(上記オ)、両者は置換可能な手段であると認められるから、引用発明の縮重N,N,G/Cトリプレット配列を、縮重N,N,G/Tトリプレット配列に換えることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明において、全アミノ酸位をアミノ酸置換の対象とし、縮重N,N,G/Tトリプレット配列を採用したことによって、引用例1、2の記載から予測できないような効果が奏されたとは認められない。


3.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成27年10月14日付け意見書において、概ね以下の主張をしている。
(1)本願発明の方法では、子孫のセットは、全ての可能性を網羅するやり方で、親鋳型の全長にわたって全アミノ酸位において全20種のアミノ酸変化を有することを必要とします。・・・これに対し、引用例1は特定のタンパク質(すなわち、IL-3)であって、かつ(N末端およびC末端を含まない)該タンパク質の特定の領域の変異に限定されており、全ての可能性のあるアミノ酸置換を有するフルセットの子孫を製造するものではありません。
(2)本願発明は、親鋳型に対して全ての可能性のある変異およびアミノ酸をコードする変異を含む全ての可能性のある子孫を生成する迅速方法に関するものです。引用例1に記載の方法は、IL-3に対して全ての可能性のあるアミノ酸変異体の製造を開示するものではありません。

(1)について
本願発明は「一組の子孫ポリペプチド」を製造する方法に関するものであって、子孫ポリペプチドの「フルセット」に関するものではないから、審判請求人の主張は請求項1の特定に基づかず、失当である。
そして、上記2.で述べたとおり、hIL-3タンパク質の「全アミノ酸位」それぞれに対して、引用発明の方法でそれぞれ「一組の子孫ポリペプチド」を製造することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)について
本願発明には「全ての可能性のある変異およびアミノ酸をコードする変異を含む全ての可能性のある子孫を生成する」こと、すなわち、全ての子孫ポリペプチドを含むもの(これは、上記(1)について、の“子孫ポリペプチドの「フルセット」”と同じであると認められる。)を生成することは特定されていないから、この点を前提とする審判請求人の主張は採用できない。
そして、引用発明の「2工程PCR特定部位の突然変異法」は、本願発明の「(a)工程の方法(非確率論的突然変異誘発法)」と同様に、32倍縮重オリゴヌクレオチドを用いる方法であることから、引用発明の「2工程PCR特定部位の突然変異法」は、本願発明と同様に迅速な方法であると認められ、本願発明において、格別の効果が奏されたとは認められない。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-18 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-09 
出願番号 特願2005-80273(P2005-80273)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
飯室 里美
発明の名称 遺伝的ワクチンおよび酵素の非確率論的生成  
代理人 藤田 節  
代理人 深見 伸子  
代理人 田中 夏夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 新井 栄一  

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