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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1314134
審判番号 不服2014-20150  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-06 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2011-550909「機能素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月28日国際公開、WO2011/090024〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年1月18日(優先権主張2010年1月19日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月10日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月12日に手続補正がなされたが、平成26年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年5月28日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月3日に手続補正がなされ、さらに、同年11月27日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月29日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年1月29日付けの手続補正により補正された請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「窒化物系化合物半導体層積層面側が[0001]方向のc面である六方晶構造の基板を分割して得られる上面形状が四辺形の機能素子であって、
前記基板内部には分割容易部を有し、
前記基板には前記分割容易部から前記基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する一組の側面は、少なくとも一面が、(1-100)面または(01-10)面または(-1010)面であり、
前記対向する一組の側面は、[0001]方向のc面側からみてr面に沿って、各々、[-1100]方向または[0-110]方向または[10-10]方向に5度以上10度以下で傾斜して形成され、
前記基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する他の一組の側面は、[0001]方向に対し略傾斜しておらず、
前記基板はサファイアであることを特徴とする機能素子。」

第3 刊行物の記載
(1)当審拒絶理由に引用した、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開2009/020033号(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「[19] サファイア基板と、
該基板の第1主面に積層された窒化ガリウム系化合物半導体層を有する略四角形状の半導体発光素子であって、
前記サファイア基板の第1主面に、底面形状が多角形の凸部を有し、かつ、
前記サファイア基板の第1主面側からの平面視において、前記凸部底面の多角形の重心から1つの鋭角状の頂点に向う方向Xに対して略垂直な方向Yに延びる、前記半導体発光素子の対向する1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面側に、該第1主面に対して傾斜した面と、前記サファイア基板の第2主面側に、該第2主面に対して略垂直な面とを有し、
他の1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面に対して略垂直であることを特徴とする半導体発光素子。」(第26頁)

イ 「[0008] さらに、予め設定した分離予定面に沿ってレーザ照射を行って斜め方向にウェハを分割する方法においては、サファイア基板の厚み方向のほぼ全体にわたる多段かつ断続的なレーザ照射は、膜厚方向と面内方向での複数のレーザ照射の制御が必要となり、時間がかかるとともに、製造工程が煩雑になる。加えて、サファイア基板の厚み方向全体にわたるレーザ照射による変質部によって、半導体素子から照射される光が吸収されやすくなり、半導体素子の発光効率の低下を招くという課題もある。」

ウ 「発明の効果
[0016] 本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、サファイア基板表面のオフ角に対応して、またはサファイア基板表面に設けた凸部の形状に対応して、サファイア基板裏面からのレーザ照射位置を適所に設定することができる。これにより、サファイア基板を意図する分割面において分割することができ、歩留まりを飛躍的に向上させることが可能となる。その結果、予め分割面を試し割りによって確認する必要がなく、また、サファイア基板の全厚み方向において、面内方向にシフトさせる多段のレーザ照射を行うことなく、製造コストの低減を図ることが可能となる。」

エ 「発明を実施するための最良の形態】
[0018] 本発明の半導体発光素子の製造方法では、まず、サファイア基板を準備する。
サファイア基板は、通常、ウェハとして、略円盤状でオリエンテーションフラット(OF)を有している。サファイア基板は、例えば、六方晶のAl2O3からなる基板、C面、A面、R面、M面のいずれかを主面とするサファイアによる基板、a軸に対してr軸が直交する基板であり得る。オリフラ面は、A面又はC面であることが好ましい。なかでも、C面(0001)を主面とし、オリフラ面をA面(11-20)とするサファイア基板であることがより好ましい。」

オ 「[0032] 本発明者らは、凸部の形状がサファイア基板分割の傾斜に対して規則性を有していることを見出すとともに、さらにサファイア基板分割の傾斜とサファイア基板の表面のオフ角との間にも、規則性の傾向が認められることを見出した。」

カ 「[0039] なお、半導体層は、通常、凸部が形成されたサファイア基板の第1主面に形成することが好ましいが、サファイア基板の第1主面にウェットエッチングで凸部を形成し、その底面形状によって第1破断溝及び第2破断線の最適位置を決定した後、さらにドライ又はウェットエッチング、研磨等により、凸部を部分的に又は完全に除去し、第1主面を平坦化した後、その上に半導体層を積層してもよい。これにより、最終的な半導体発光素子での凸部の有無にかかわらず、半導体発光素子を歩留まりよく製造することが可能となる。」

キ 「[0044] 第1破断溝は、方向Xにも延びるように形成することが好ましい。半導体発光素子を矩形形状に容易にチップ化するためである。
また、サファイア基板の第1主面側からの平面視において、凸部の形状が、例えば、図1B及び図2Bに示すように、略六角形の形状の場合には、凸部21の底面21aの六角形の重心Gから1つの鋭角状の頂点21bに向う方向Xに対して略垂直な方向Yに延びるように形成する。」

ク 「[0061] 本発明の半導体発光素子は、半導体発光素子の側面における傾斜した面が、サファイア基板の第1主面に対する法線方向から8°±5°傾斜していることが好ましい。 また、サファイア基板の第1主面側の傾斜した面が、第2主面側の垂直な面よりも平滑な面であることが好ましい。これにより、サファイア基板内を反射する光を、傾斜した面は効率よく反射させ、垂直な面は意図的に散乱させて、外部への光取出し効率を向上することができる。」

ケ 「[0069] 続いて、サファイア基板10の裏面側から、オフ角が-θの場合には、図5(a)に示すように-Xo方向に、オフ角が+θの場合には、図5(b)に示すようにXo方向に、オリフラ面に対して略垂直方向に延びる第1破断溝15の分割予定線から、第1破断溝15と平行に距離βシフトさせた位置であって、かつ、サファイア基板10の内部に、第2破断線16を形成した。この場合の距離βは、例えば、2?12μm程度、具体的には7μm程度である。
[0070]
また、第2破断線16は、サファイア基板10の裏面から、第1段を半導体層までの距離を65μm程度として形成し、半導体層から離れる方向に35μm程度の深さで、フェムト秒レーザによって合計3段階で形成した。サファイア基板裏面から第2破断線までの距離(第3段目までの距離)は20μm程度であった。」

コ 「[0084] 実施例14
基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を第1主面とするが、実施例1とは異なるサファイア基板を準備し、同様にマスクパターンを形成し、エッチング条件を変更して、硫酸とリン酸との混酸を用いたウェットエッチングによって、サファイア基板10表面をエッチングした。これにより、図2に示したように、サファイア基板10の表面に、凸部21を形成した。この凸部21は、底面21aの形状が変形した略六角錘台形状であり、その底面11aの六角形の鋭角同士を結ぶ一辺の長さが5μm程度、隣接する凸部21の重心G間の距離が7μmであった。また、凸部21側面の傾斜角は120°であった。凸部21の底面11aの六角形の一つの頂点21bは、所定の方向であるX方向を向いている。このX方向は、オリフラに対して平行な方向であった。
[0085] なお、エッチング時間を長く設定することにより、六角形状から、鈍角が削れて三角形状に変わることを確認している。
次に、実施例1と同様に半導体層を形成した。
図4(a)に示すように、n型半導体層12の一部として、例えば、SiドープのGaNまでをエッチングした溝状の第1破断溝15を、実施例13と同様に形成した。
[0086] その後、実施例13と同様にp型半導体層及びn型半導体層に電極を形成した。
続いて、実施例13と同様にサファイア基板を研磨し、粘着シートに貼り合わせた。
図4(a)及び(b)に示すように、サファイア基板10の裏面側から、上述した方向Xと逆方向である-X方向に、オリフラ面に対して略垂直方向の第1破断溝15の分割予定線から、第1破断溝15と平行に距離βシフトさせた位置であって、かつ、サファイア基板10の内部に、第2破断線16を、実施例13と同様に形成した。
[0087] 続いて、実施例13と同様にウェハをチップ状に分割し、一辺が350μm程度の半導体チップを得た。この際、ウェハは、図4(a)に示すように、サファイア基板の表面に対する法線方向から、-X方向、つまり、サファイア基板10の凸部21底面21aにおける頂点21bが向いている方向とは逆の方向に、α°傾斜して、破線に沿って斜めに分割した。この分割面の角度αは、7°程度であった。
これを反射鏡を備えたリードフレームに実装し、砲弾型のLEDを作製した。
このように、得られた半導体発光素子は、実施例13の半導体発光素子と同様の効果が得られるとともに、発光効率も実施例13と同様であった。」

サ 図2(B)は、以下のものである。


シ 図4は、以下のものである。


(2)引用文献に記載された発明
ア 上記(1)アによれば、引用文献には、
「サファイア基板と、
該基板の第1主面に積層された窒化ガリウム系化合物半導体層を有する略四角形状の半導体発光素子であって、
前記サファイア基板の第1主面に、底面形状が多角形の凸部を有し、かつ、
前記サファイア基板の第1主面側からの平面視において、前記凸部底面の多角形の重心から1つの鋭角状の頂点に向う方向Xに対して略垂直な方向Yに延びる、前記半導体発光素子の対向する1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面側に、該第1主面に対して傾斜した面と、前記サファイア基板の第2主面側に、該第2主面に対して略垂直な面とを有し、
他の1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面に対して略垂直である略四角形状の半導体発光素子。」
が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)イないしコの記載を踏まえて、図2(B)及び図4を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)上記アの「サファイア基板」は、「A面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を第1主面とするサファイア基板」であってもよいこと。

(イ)「A面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を第1主面とするサファイア基板」の場合、上記アの「凸部底面の多角形の重心から1つの鋭角状の頂点に向う方向X」は、「オリフラに対して平行な方向X」であること。

(ウ)上記アの「底面形状が多角形の凸部」は、ウェットエッチングにより形成されたものであること。

(エ)上記アの「『対向する1組の側面』の『第1主面に対して傾斜した面』」は、「-X方向」に傾斜していること。

(オ)上記アの「略四角形状の半導体発光素子」は、「サファイア基板の第1主面に積層された窒化ガリウム系化合物半導体層を有するウェハ」を、サファイア基板内部に形成した第2破断線を利用してチップ状に分割して製造されるものであってもよいこと。

ウ 上記ア及びイより、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「A面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を第1主面とするサファイア基板と、
前記サファイア基板の第1主面に積層された窒化ガリウム系化合物半導体層を有するウェハを、サファイア基板内部に形成した第2破断線を利用してチップ状に分割して製造される略四角形状の半導体発光素子であって、
前記サファイア基板の第1主面に、ウェットエッチングにより形成された底面形状が多角形の凸部を有し、かつ、
前記サファイア基板の第1主面側からの平面視において、前記凸部底面の多角形の重心から1つの鋭角状の頂点に向う、オリフラに対して平行な方向Xに対して略垂直な方向Yに延びる、前記半導体発光素子の対向する1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面側に、該第1主面に対して-X方向に傾斜した面と、前記サファイア基板の第2主面側に、該第2主面に対して略垂直な面とを有し、
他の1組の側面は、前記サファイア基板の第1主面に対して略垂直である略四角形状の半導体発光素子。」

第4 対比・判断
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)ア 引用発明の「サファイア基板」は、六方晶構造の基板であることが当業者にとって明らかであることに照らせば、引用発明の「A面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を第1主面とするサファイア基板」は、本願発明の「[0001]方向のc面である六方晶構造の基板」に相当する。

また、引用発明の「略四角形状の半導体発光素子」は、上面形状が略四角形であって、「サファイア基板の第1主面に積層された窒化ガリウム系化合物半導体層を有するウェハ」を「第2破断線を利用してチップ状に分割して製造される」ものである。

してみると、引用発明と本願発明とは、
「窒化物系化合物半導体層積層面側が[0001]方向のc面である六方晶構造の基板を分割して得られる上面形状が四辺形の機能素子」
である点で一致する。

イ 引用発明の「ウェハ」は、第2破断線を利用してチップ状に分割されるものであるから、引用発明の「第2破断線」は、本願発明の「分割容易部」に相当する。
また、引用発明の「サファイア基板」は、A面(11-20)にオリフラのあることから、「対向する1組の側面」は、m面、つまり、(1-100)面と(-1100)面であることは、当業者にとって明らかである(例えば、特開2008-198743号公報の図3を参照。

)。

してみると、引用発明と本願発明とは、
「基板内部には分割容易部を有し、
前記基板には前記分割容易部から前記基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する一組の側面は、少なくとも一面が、(1-100)面である」
点で一致する。

ウ 引用発明の「対向する1組の側面」は、第1主面に対して「-X方向」に傾斜した面を有し、引用発明の「他の1組の側面」は、第1主面に対して略垂直であることに照らせば、
引用発明と本願発明とは、
「対向する一組の側面は、[0001]方向のc面側からみて所定方向に傾斜して形成され、
基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する他の一組の側面は、[0001]方向に対し略傾斜していない」
点で一致する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「窒化物系化合物半導体層積層面側が[0001]方向のc面である六方晶構造の基板を分割して得られる上面形状が四辺形の機能素子であって、
前記基板内部には分割容易部を有し、
前記基板には前記分割容易部から前記基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する一組の側面は、少なくとも一面が、(1-100)面であり、
前記対向する一組の側面は、[0001]方向のc面側からみて所定方向に傾斜して形成され、
前記基板を分割することにより露出した基板側面のうち、対向する他の一組の側面は、[0001]方向に対し略傾斜しておらず、
前記基板はサファイアである、機能素子。」

(3)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
「対向する一組の側面」に関し、
本願発明は、「r面に沿って、[-1100]方向に5度以上10度以下で傾斜して形成され」ているのに対して、
引用発明は、その方向に、そのような角度で傾斜しているのか明らかでない点。

2 判断
(1)上記<相違点>について検討する。
ア まず、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項が有する技術的意義について、本願明細書を参酌して検討する。

本願明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【0036】
本発明者らは、窒化物系化合物半導体層積層面側が[0001]方向のc面である六方晶構造の基板を分割して上面形状が四辺形のチップを切り出す場合において、図1に記載の様に、結晶軸の方位を、a1軸を[2-1-10]方向、a2軸を[-12-10]方向、a3軸を[-1-120]方向、図1の紙面に対して表面上方に垂直な方向を[0001]方向のc軸と規定した場合、分割により露出する基板側面が(1-100)面、(01-10)面および(-1010)面である場合は、[0001]方向から各々[-1100]方向、[0-110]方向および[10-10]方向に一定の角度θをもってナナメに割れる性質があることを見出した。([0-110]方向および[10-10]方向は図示せず。)またこのナナメ割れの角度θは、サファイア基板の場合、約5?10度、好ましくは6?8度の傾きになることがわかった。上面が長方形のチップの場合、[-1-120]方向(及びその逆方向)に沿った辺3について、基板の下方向(積層構造を有する基板表面を上・裏面を下とする)に行くにつれて[1-100]方向にθの角度を持ってナナメ割れが生じる。一方、[1-100]方向(及びその逆方向)に沿った辺4については、ナナメ割れは生じない。」

(イ)「【0067】
このように改質部34の位置にオフセットXsを設けたのは以下の理由による。本発明者らは、辺26の分割の際、サファイア基板10の下にいくにつれて[1-100]方向に約5?10度、特に6度から8度の傾きを持ってクラックが走っている特徴を見出した。その特徴を生かすことでチップを安定して分割する事が可能となる。……例えば7度、好ましくは5度から10度である。なお、オフ角の向き及びφの記号の正負(オフ方向)に注意する必要がある。」

(ウ)「【0070】
また、チップ形状は長方形状に限らず、向かい合う辺が平行である2組の辺からなる形状であればよく、例えば平行四辺形であってもよい。その時、(1-100)面、(01-10)面及び(-1010)面(サファイア基板の場合、これらの面は結晶内に存在するr面と交わるm面に対応する。r面とは、六方晶であるc面サファイア基板に存在する3回対称の面である。例えば、Χ=57.6°、2θ=25.59°にて、φを360°回転させたx-ray測定により、3箇所のr面を示す信号が現れる。これら3箇所の信号が現れる結晶面をr面(1-102),(01-12),(-1012)と定義するサファイア基板がr面に反って割れるモデルとして、結晶的に割れ易いr面とm面が複合した割れ方が推察できる。これら、28.8°の角度に割れるr面と、垂直に割れるm面とが組み合わさることで、5?10度の角度で割れると考えられる。)に対して、……長方形状型にチップを分割する場合と比較してさらに分割歩留を向上する事が出来る。」

上記記載からして、
サファイア基板におけるr面の方位に着目することでサファイア基板の割れやすい方向を特定することができること、また、r面と交わるm面が所定方向にナナメに傾斜することが理解できる。
つまり、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項の技術的意義は、r面と交わるm面の一つである(1-100)面の、傾斜方向及び傾斜角度を明示的に示したものである。

イ 一方、引用発明の「-X方向」は、ウェットエッチングにより形成された「凸部底面の多角形」の形状により特定され、引用文献の記載によれば(摘記オ及びカを参照。)、その方向は、サファイア基板の割れやすい方向であると認められる。

ウ してみると、本願発明と引用発明は、サファイア基板の割れやすい方向を特定している点で、同様の技術的意義を有し、その割れやすい方向は同じであると解される。
よって、引用発明の「対向する1組の側面」も、サファイア基板の割れやすい方向である「r面に沿って、[-1100]方向」に傾斜しているものと認められる。

エ また、引用文献には「半導体発光素子の側面における傾斜した面が、サファイア基板の第1主面に対する法線方向から8°±5°傾斜していることが好ましい。 」(摘記クを参照。)及び「この分割面の角度αは、7°程度であった。」(摘記コを参照。)と記載されていることから、引用発明の「(ウェハをチップ状に分割した際に露出する)対向する1組の側面」を5度以上10度以下に傾斜するようになすことは、当業者が容易になし得たことである。

オ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)効果
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

(3)請求人の主張
平成28年1月29日提出の意見書の「(h)拒絶理由7について」において、「実施例14は(おそらく実施例13のエッチング条件に対し)エッチング条件を変更して、サファイア基板10表面をエッチングし凸部21を形成すると読み取れるものの、エッチング条件の変更とは如何なるものか具体的には何ら記載されず、未知のままとなっております。
一方で、実施例14が引用する実施例13においては、分割面の角度αは、19°程度であった旨記載されます(段落[0081])。
つまり、実施例13の製造方法の如何なる部分を変更して、分割面の角度αは、19°程度から7°程度になったのかは全く記載されず未知のままであり、出願当時の当業者が理解できるものではありません。」(第5頁中段を参照。)と主張しているので、この点について検討する。

ア 実施例13の「凸部」は「略三角錘台形状」であり、実施例14の「凸部」は「略六角錘台形状」である。
そして、実施例14の説明に、「[0085] なお、エッチング時間を長く設定することにより、六角形状から、鈍角が削れて三角形状に変わることを確認している。」(摘記コを参照。)と記載されていることから、両者は、「エッチング時間」が異なるものと解される。

イ そして、引用発明の「略四角形状の半導体発光素子」は、サファイア基板内部に形成した第2破断線を利用してチップ状に分割して製造されるものであることに照らせば、実施例13では、第2破断線を利用して分割した結果、19°程度に傾斜し、実施例14では、第2破断線を利用して分割した結果、7°程度に傾斜したに過ぎない。

ウ よって、請求人の上記主張は、採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-07 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2011-550909(P2011-550909)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間中 耕治岩瀬 昌治  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 ▲高▼ 芳徳
星野 浩一
発明の名称 機能素子およびその製造方法  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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