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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1314154
審判番号 不服2015-82  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-05 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2012-516720「潤滑用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月29日国際公開、WO2010/149706、平成24年12月 6日国内公表、特表2012-530830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2009年6月24日、欧州特許庁(EP)及び米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成24年 2月24日 翻訳文提出
平成26年 1年22日付 拒絶理由通知
同年 7月23日 意見書提出
同年 8月23日付 拒絶査定
平成27年 1月 5日 審判請求書・手続補正書提出
同年 2月13日 手続補正書提出(方式:理由補充)
同年 4月 8日付 前置報告
同年 5月26日 上申書提出

第2 平成27年1月5日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論

平成27年1月5日付け手続補正を却下する。

2 理由

(1) 請求項1についてする補正の内容
ア 平成27年1月5日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてする補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示す。)。
・本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
基油と1種以上の添加剤とを含む、エンジンのクランクケースにおいて使用するための潤滑用組成物であって、
該基油が50重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み、
該潤滑用組成物が、100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)と、2.6cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する、上記潤滑用組成物。」
・本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
基油と1種以上の添加剤とを含む、エンジンのクランクケースにおいて使用するための潤滑用組成物であって、
該基油が80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み、
該潤滑用組成物が、100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)と、2.0cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する、上記潤滑用組成物。」
なお、上記【請求項1】には、「該基油が50重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み」あるいは「該基油が80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み」という記載がみられるところ、当該「重量%」の数値は、本願明細書の段落【0024】、【0025】の記載(後記「第2 2(2)カ(ア)」参照)からみて、基油の総重量に対する割合である(潤滑用組成物の総重量に対する割合ではない。)と解される。
イ 上記請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の含有量を「50重量%より多い」から「80重量%より多い」に限定するとともに、高温高せん断粘度の数値範囲を「2.6cP未満」から「2.0cP未満」に限定するものであり、また、当該補正は、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 独立特許要件の検討
ア 上記のとおり、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合することを要する。)。
そこで検討するに、当審は、本願補正発明は原査定にて引用された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである、と判断する。
その理由は以下のとおりである。
イ 主となる引用刊行物とその記載事項
原査定において引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-24845号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍におけるせん断粘度が1.5mPa・s以上、2.9mPa・s未満であり、且つ(B)温度150℃、せん断速度6×10^(4)?9×10^(4)sec^(-1)におけるせん断粘度が4.5mPa・s未満であることを特徴とするエンジン油。
【請求項2】
エンジン油中のりん濃度が0.1質量%以下、又は硫黄濃度が0.4質量%以下であり、さらに有機モリブデン化合物を含み、モリブデン濃度で200?1000ppmである請求項1に記載のエンジン油。
【請求項3】
エンジン油のNOACK蒸発量が15質量%以下に調整してなる請求項1又は2に記載のエンジン油。
【請求項4】
エンジン油のSAE粘度グレードが0W-20又は5W-20、或いはそれら以下の粘度特性を有する請求項1?3のいずれかに記載のエンジン油。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた燃費低減効果を有するエンジン油に関する。」
・「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定のせん断速度領域でのせん断粘度を特定の範囲にすることで、流体潤滑領域での摩擦低減効果を発揮させ、優れた省燃費効果を発現できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。」
・「【0010】
・・・さらに、本発明は、上記エンジン油において、SAE粘度グレードが0W-20、5W-20又はそれら未満の粘度特性を有するエンジン油を提供するものである。
それら以下の粘度特性とはSAE J300規定の粘度グレード20を下回る100℃動粘度(ASTM D 445における動粘度が5.6以下)、又はHTHS粘度(ASTM D 4683における粘度が2.6未満)を示すことをいう。」
・「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエンジン油は、(A)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍におけるせん断粘度が1.5mPa・s以上、2.9mPa・s未満であり、好ましくは1.6mPa・s以上、2.9mPa・s未満であり、さらに好ましくは1.7mPa・s以上、2.9mPa・s未満である。このせん断粘度は、ASTM D4683又はASTM D5481によって得られるせん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍でのせん断粘度である。なお、近傍とは、ASTM D4683の場合は、好ましくは±3%以内であり、より好ましくは±2.5%以内であることを意味し、ASTM D5481の場合は、好ましくは1.35×10^(6)?1.45×10^(6)sec^(-1)であり、より好ましくは1.38×10^(6)?1.42×10^(6)sec^(-1)であることを意味するものとする。特に、SAE粘度グレードが0W-20及び5W-20未満の粘度特性を有するエンジン油においては、1.7mPa・s以上、2.5mPa・s未満が好ましく、さらに1.8mPa・s以上、2.4mPa・s未満が好ましい。」
・「【0020】
上記の本発明を達成する方法は、エンジン油の実用性能を確保するために基油に添加される各種添加剤による粘度増加をできるだけ少なくし、本発明の(A)および(B)の範囲になるように粘度指数向上剤の添加量と基油の粘度によって調整すればよい。」
・「【0022】
本発明のエンジン油は、硫黄濃度(JPI-5S-38-2003)が0.4質量%以下であるのが好ましく、0.01質量%以上、0.4質量%以下であることがより好ましく、特に好ましくは0.05質量%以上、0.35質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上?0.3質量%以下である。また、りん濃度(JPI-5S-38-2003)は0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.01質量%以上、0.1質量%以下である。りん濃度、又は硫黄濃度が低いと耐摩耗性向上剤として機能する、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛などの硫黄系添加剤の配合量が制限され、耐摩耗性の低下が懸念される。また、りん濃度、又は硫黄濃度が高いと、排出ガス中のエンジン油由来の硫黄酸化物が多くなり、排出ガス浄化触媒への悪影響が懸念される。
【0023】
本発明のエンジン油を上記好ましいりん濃度、硫黄濃度範囲にするための好適方法としては、たとえばジアルキルジチオリン酸亜鉛を耐摩耗性能が確保される適量に制限するとともに、硫黄分の少ない基油、例えば米国石油協会が定める基油カテゴリーにおけるグループII、グループIII、グループIVおよびグループVに分類される基油やGTL(Gas to Liquid)などを1種、又は2種類以上を組み合わせて用いる方法が挙げられる。
【0024】
また、例えばグループIのような硫黄分の多い基油であっても、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVやGTL基油の1種類以上と組み合わせて使用することで、上記の好ましい硫黄分範囲にすることができる。
また、排出ガス触媒への被毒となるりん、硫黄の排出量を可能な限り抑えるためにNOACK(ASTM D 5800)蒸発量を15質量%以下に抑えるように基油の選択をすることが好ましい。NOACK蒸発量を抑えるためには上記グループII、グループIII、グループIV、グループVやGTL基油などを1種、又は2種以上を組み合わせて選択することで適正な範囲にすることができる。」
・「【0025】
本発明のエンジン油で境界潤滑域の摩擦低減効果をも両立させるためには有機モリブデン化合物が好適であり、・・・エンジン油中のモリブデン濃度を200質量ppm以上、1000質量ppm以下になるように使用することが好ましい。・・・少なければ十分な摩擦低減効果が期待できず、多すぎればエンジン清浄性に悪影響を及ぼす懸念が生じる。また、摩擦を低減させるために長鎖脂肪族酸、長鎖脂肪族酸エステル、長鎖脂肪族アルコールなどの金属を含まない摩擦調整剤を使用することもできる。」
・「【0026】
基油の粘度は、40℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、通常は5?100mm^(2)/sであればよく、好ましくは10?80mm^(2)/sであり、特に好ましくは12?50mm^(2)/sである。また、100℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、2?8mm^(2)/sが好ましく、より好ましくは3?7mm^(2)/sであり、特に好ましくは3.5?6mm^(2)/sである。基油の粘度指数(JIS-K-2283-6)としては、80?250が好ましく、特に好ましくは90?180である。
【0027】
基油としては、上記動粘度および粘度指数を有する種々の鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油、又はこれらの混合物からなる潤滑油基油を用いることができる。
本発明におけるSAE粘度グレードとは、SAE J300に規定される分類であり、油温が低い状態においても優れた省燃費効果を発揮するためには0W-20又は5W-20であることが好ましい。また、SAE J300の0W-20、5W-20のHTHSの規定外である2.6以下であってもよい。
【0028】
エンジン油としての動粘度は、40℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、通常は10?55mm^(2)/sであればよく、好ましくは15?50mm^(2)/sであり、特に好ましくは18?50mm^(2)/sである。また、100℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、3?10mm^(2)/sが好ましく、より好ましくは3.5?9.5mm^(2)/sであり、特に好ましくは4?9.3mm^(2)/sである。エンジン油としての粘度指数(JIS-K-2283-6)は、100?250が好ましく、特に好ましくは120?250である。」
・「【0030】
本発明のエンジン油には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種公知の添加剤、例えば、・・・リン系、硫黄系、アミン系、エステル系などの各種摩耗防止剤・・・硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、ナフテン酸鉛などの極圧剤・・・などを1種単独で、又は2種以上組み合わせて適宜配合することができる。」
・「【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例と比較例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によっては何等限定されるものではない。
実施例および比較例で用いる評価試験法は以下の通りである。
(1)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)におけるせん断粘度
ASTM D4683によってせん断粘度を測定した。
【0033】
(2)温度150℃、せん断速度6×10^(4)?9×10^(4)sec^(-1)におけるせん断粘度
ASTM D5481によるMulticell Capillary
Viscometerを利用して測定した。使用したキャピラリーセルは、試料容量が8.8235cm^(3)、キャピラリー管半径が0.0075cm、キャピラリー管長が1.72cmのものを使用し、せん断速度が6×10^(4)?9×10^(4)sec^(-1)の範囲に入るよう、試料全量がキャピラリー管を通過する時間tを296?444secの範囲になるように圧力を調整し測定した。せん断速度およびせん断粘度は、それぞれ前述の(1)式、(2)式により算出した。
【0034】
(3)硫黄濃度
JPI-5S-38-2003により、測定した。
(4)りん濃度
JPI-5S-38-2003により、測定した。
(5)モリブデン濃度
JPI-5S-38-2003により、測定した。
(6)NOACK蒸発量
ASTM D 5800により、測定した。
(7)SAE粘度グレード
SAE J300に規定される分類により判定した。
【0035】
(8)燃費試験
日本国内にある660ccのエンジンを用いた。試験条件は次の条件を用いた。条件1はエンジン回転数2100rpm、油温80℃とし、エンジントルクは2N・mとした。条件2はエンジン回転数2600rpm、油温85℃とし、エンジントルクは33N・mとした。条件3はエンジン回転数2900rpm、油温85℃とし、エンジントルクは13N・mとした。各試験条件において基準油の燃料消費率と比較して燃費低減率(%)を求めた。さらに各試験条件での燃費低減率から平均値を求めた。
【0036】
(実施例1?5)
基油として、表2に示した40℃の動粘度、100℃の動粘度、粘度指数を有し、その基油に、粘度指数向上剤を表2に示した量を配合し、さらにその他の添加剤(Ca系清浄剤、アルケニルこはく酸イミド系分散剤、耐摩耗性向上剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン化合物、および酸化防止剤など)を表2に示した量を配合して、エンジン油を製造した。
粘度指数向上剤は実施例1においてはポリメタクリレート、実施例2,3,4,5はポリメタクリレート及びエチレンプロピレン共重合体の混合タイプにより調整した。
【0037】
・・・
本発明の実施例と比較例のエンジン油の組成、性状および試験結果を表2及び表3に示す。燃費試験では比較例3を基準油として燃費低減率を求めた。
【0038】
【表2】

・・・
【0040】
表2および表3から明らかなように、実施例1?5のエンジン油は、基準油である比較例3のエンジン油とくらべ、条件1?3の全ての燃費試験条件下において省燃費効果に優れることがわかる。一方、比較例1や比較例2のエンジン油のように、温度150℃におけるせん断速1×10^(6)sec^(-1)および6×10^(4)?9×10^(4)sec^(-1)でのせん断粘度が本発明の範囲を外れると、実施例1?5に示されるような大きな省燃費効果が見出せない。条件1?3の平均でも実施例1?5に劣ることが分かる。
以上のように本発明を満たすことにより初めて優れた省燃費効果が実現できるものである。」
ウ 周知文献とそこから理解できる周知技術
(ア) 周知文献
・周知文献A:特表2004-528427号公報
(本願明細書の【0049】において引用されているWO02 /070631の日本語パテントファミリー)
・周知文献B:特表2008-531813号公報
(原審における引用文献2)
・周知文献C:特開2008-274237号公報
(原審における引用文献4)
(イ) 周知技術
本願明細書の段落【0049】には、「“基油1”と“基油2”は、100℃にて約4cSt(mm^(2)s^(-1))の動粘度(ASTM D445)を有する類似のフィッシャー・トロプシュ誘導基油(“GTL4”)である。これらのGTL4基油は、例えば国際特許出願第WO02/070631号(該特許出願の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載の方法によって適切に製造することができる。」と記載されており、当該記載から明らかなとおり、100℃にて約4cSt(mm^(2)s^(-1))の動粘度を有するフィッシャー・トロプシュ誘導基油(GTL基油)を製造する方法は当業者間においてよく知られていたものということができ、確かに、当該「WO02/070631」の日本語パテントファミリーである周知文献Aをみると、その【請求項1】、【請求項12】、【0016】及び【0031】には、「100℃での動粘度が3.5?4.5cStで、揮発度が11重量%未満で、且つ流動点が-15?-60℃である第一基油が製造され」(【請求項12】)などの記載が認められることから、100℃での動粘度(「K100」)が約4(3.5?4.5)であって揮発度及び流動点に関する特性に優れたフィッシャー・トロプシュ誘導基油(GTL基油)の製造方法は、本願優先日前において既に確立されていたことを理解することができる。
そして、具体例としては、周知文献Bの段落【0126】の【表5】に記載された「FT-4A」及び周知文献Cの段落【0120】の【表6】に記載された「実施例3」には、それぞれ「K100」が「3.94」、「3.900」(ともに3.9程度である。)であって、その「Noack値」が15質量%未満のフィッシャー・トロプシュ誘導基油(GTL基油)が開示されている。
なお、周知文献B、Cに記載された具体例の諸特性は、後記「カ(ア)」において整理した、引用発明における基油に求められている動粘度及び粘度指数の数値を満足するものである。
さらに、周知文献Cの段落【0071】に記載されるとおり、フィッシャー・トロプシュ誘導基油(GTL基油)は、硫黄分を含まないものであることがよく知られている。
エ 引用発明
(ア) 引用刊行物には、優れた燃費低減効果を有するエンジン油の発明が記載されているところ(【0001】)、当該エンジン油の特性につき、【特許請求の範囲】には、次の点が記載されている。
・(A)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍における
せん断粘度が1.5mPa・s以上、2.9mPa・s未満であり、 且つ(B)温度150℃、せん断速度6×10^(4)?9×10^(4)
sec^(-1)におけるせん断粘度が4.5mPa・s未満であること(
【請求項1】)。
・NOACK蒸発量が15質量%以下であること(【請求項3】)。
・SAE粘度グレードが0W-20又は5W-20、或いはそれら以下 の粘度特性を有すること(【請求項4】)。
同じく【特許請求の範囲】には、当該エンジン油の組成につき、次の点が記載されている。
・エンジン油中のりん濃度が0.1質量%以下、又は硫黄濃度が0.4 質量%以下であり、さらに有機モリブデン化合物を含み、モリブデン 濃度で200?1000ppmであること。
そうすると、引用刊行物の【特許請求の範囲】には、次の事項が記載されているといえる。
「エンジン油中のりん濃度が0.1質量%以下、又は硫黄濃度が0.4質量%以下であり、さらに有機モリブデン化合物を含み、モリブデン濃度で200?1000ppmであるエンジン油であって、次の特性を具備するもの。
・(A)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍における
せん断粘度が1.5mPa・s以上、2.9mPa・s未満であり、 且つ(B)温度150℃、せん断速度6×10^(4)?9×10^(4)
sec^(-1)におけるせん断粘度が4.5mPa・s未満であること。
・NOACK蒸発量が15質量%以下であること。
・SAE粘度グレードが0W-20又は5W-20、或いはそれら以下 の粘度特性を有すること。」
(イ) ここで、引用刊行物には、上記したエンジン油の各特性の評価試験法(【0032】ないし【0034】)及び「SAE粘度グレードが0W-20又は5W-20、或いはそれら以下の粘度特性」の意味(【0010】)につき、以下のように記載されている(下線は当審が付したもの。)。
・「実施例および比較例で用いる評価試験法は以下の通りである。
(1)温度150℃、せん断速度1×106sec^(-1)におけるせん断粘度
ASTM D4683によってせん断粘度を測定した。
・・・
(6)NOACK蒸発量
ASTM D 5800により、測定した。
(7)SAE粘度グレード
SAE J300に規定される分類により判定した。」
・「さらに、本発明は、上記エンジン油において、SAE粘度グレードが0W-20、5W-20又はそれら未満の粘度特性を有するエンジン油を提供するものである。
それら以下の粘度特性とはSAE J300規定の粘度グレード20を下回る100℃動粘度(ASTM D 445における動粘度が5.6以下)、又はHTHS粘度(ASTM D 4683における粘度が2.6未満)を示すことをいう。」
(ウ) 以上を総合し、特に、SAE粘度グレードが0W-20又は5W-20以下の粘度特性を有するものに着目すると、引用刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「エンジン油中のりん濃度が0.1質量%以下、又は硫黄濃度が0.4質量%以下であり、さらに有機モリブデン化合物を含み、モリブデン濃度で200?1000ppmであるエンジン油であって、次の特性を有するもの。
・(A)温度150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍における
せん断粘度(ASTM D4683による)が1.5mPa・s以上 、2.9mPa・s未満であり、且つ(B)温度150℃、せん断速 度6×10^(4)?9×10^(4)sec^(-1)におけるせん断粘度が4.5
mPa・s未満であること。
・NOACK蒸発量(ASTM D5800による)が15質量%以下 であること。
・SAE J300規定の粘度グレード20を下回る100℃動粘度( ASTM D445における動粘度が5.6以下)、又はHTHS粘 度(ASTM D4683における粘度が2.6未満)を有すること 。」
オ 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
ここで、引用発明に係るエンジン油が、実際上想定ないし予定している(内包している)組成及び特性については、当該エンジン油を具現したもの、すなわち、引用刊行物の段落【0038】の【表2】に記載された実施例4及び実施例5、を参酌して理解するのが合理的である。したがって、以下、当該実施例の各種指標の数値をも考慮しながら、本願補正発明と引用発明を対比していくこととする。
(ア) 用途について
エンジン油(エンジンオイル)は、一般にエンジンのクランクケース内のオイルパンなどに溜められて使用される潤滑油組成物のことをいうから、引用発明におけるエンジン油は、本願補正発明における「エンジンのクランクケースにおいて使用するための潤滑用組成物」に相当し、両者の用途に差異はない。
(イ) 組成について
引用発明に係るエンジン油は、その組成について、「りん濃度が0.1質量%以下、又は硫黄濃度が0.4質量%以下であり、さらに有機モリブデン化合物を含み、モリブデン濃度で200?1000ppmである」ことを特定するものの、基油については明示していない。しかし、一般に、エンジン油が基油をベースにし、各種添加剤を加えて調整されるものであることは自明な事項であって、実際、引用発明に係るエンジン油を具現した、上記実施例4及び実施例5においても、エンジン油中、基油は88.1質量%あるいは89.1質量%配合されている。そうすると、両者は、基油と、有機モリブデン化合物などの添加剤を含む点において一致しているといえる。
(ウ) 特性について
本願補正発明は、潤滑用組成物の「100℃における動粘度(ASTM D445による)」、「Noack揮発性(ASTM D5800による)」及び「高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)」の3つの特性(以下、これらの指標をそれぞれ「K100」、「Noack値」及び「HTHS」と略して呼称することがある。)について特定するものであるから、これらの特性に着目して引用発明をみるに、引用発明は、エンジン油についてのこれら3つの特性について、「K100」は5.6以下、「Noack値」は15質量%以下、「HTHS」は2.6未満、と特定している(なお、いずれも本願補正発明と同じ評価試験法によるものであり、単位も「mm^(2)/s」=「cSt」、「mPa・s」=「cP」であるから、単純に本願補正発明の数値との比較が可能である。以下、これらの単位を省略して数値のみ記載することがある。)。
ここで、「HTHS」について、引用発明は「2.6未満」と特定しているが、上記実施例4、5の数値のとおり、実際上、「1.91」あるいは「1.70」といった「2.0未満」の数値範囲をも想定(内包)していることは明らかである。
そうすると、両者は、潤滑用組成物の特性につき、「100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)と、2.0cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する」点において一致していると解するのが相当である。
(エ) 一致点・相違点
上記(ア)ないし(ウ)の点を踏まえると、両者の一致点及び相違点は次のように整理することができる。
・一致点
『基油と1種以上の添加剤とを含む、エンジンのクランクケースにおいて使用するための潤滑用組成物であって、
該潤滑用組成物が、100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)と、2.0cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する、上記潤滑用組成物である点。』
・相違点
『本願補正発明は、「該基油が80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み」と特定しているのに対して、引用発明はこの点の明示がない点。』
カ 相違点についての検討
(ア) 引用発明の基油に求められている組成・特性について
引用発明は、基油について特に限定するものではないから、当該基油に求められている組成・特性を把握すべく、引用刊行物を俯瞰して関連する記載を抄出してみると、段落【0023】ないし【0027】には次の記載がある。
・「【0023】
本発明のエンジン油を上記好ましいりん濃度、硫黄濃度範囲にするための好適方法としては、たとえばジアルキルジチオリン酸亜鉛を耐摩耗性能が確保される適量に制限するとともに、硫黄分の少ない基油、例えば米国石油協会が定める基油カテゴリーにおけるグループII、グループIII、グループIVおよびグループVに分類される基油やGTL(Gas to Liquid)などを1種、又は2種類以上を組み合わせて用いる方法が挙げられる。
【0024】
また、例えばグループIのような硫黄分の多い基油であっても、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVやGTL基油の1種類以上と組み合わせて使用することで、上記の好ましい硫黄分範囲にすることができる。
また、排出ガス触媒への被毒となるりん、硫黄の排出量を可能な限り抑えるためにNOACK(ASTM D 5800)蒸発量を15質量%以下に抑えるように基油の選択をすることが好ましい。NOACK蒸発量を抑えるためには上記グループII、グループIII、グループIV、グループVやGTL基油などを1種、又は2種以上を組み合わせて選択することで適正な範囲にすることができる。
【0026】
基油の粘度は、40℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、通常は5?100mm^(2)/sであればよく、好ましくは10?80mm^(2)/sであり、特に好ましくは12?50mm^(2)/sである。また、100℃での動粘度(JIS-K-2283-5)が、2?8mm^(2)/sが好ましく、より好ましくは3?7mm^(2)/sであり、特に好ましくは3.5?6mm^(2)/sである。基油の粘度指数(JIS-K-2283-6)としては、80?250が好ましく、特に好ましくは90?180である。
【0027】
基油としては、上記動粘度および粘度指数を有する種々の鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油、又はこれらの混合物からなる潤滑油基油を用いることができる。」
上記記載によると、引用発明における基油の好ましい組成・特性として、以下の点を挙げることができる。
・硫黄分の少ないもの(【0023】)。
・エンジン油の「Noack値」を15質量%以下に抑えるもの、すな わち、基油自体の「Noack値」がこれに見合う低い値であるもの (【0024】)。
・基油の動粘度及び粘度指数が上記段落【0026】に規定される範囲 内にあるもの(【0027】)。
そして、最終的には、上記の点を踏まえて、グループII、グループIII、グループIV、グループVやGTL基油などを1種、又は2種以上を組み合わせて選択されるものであることが理解できる(【0023】、【0024】)。
なお、上記に列記された「GTL基油」は、本願補正発明におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油に相当するものであるところ、当該GTL基油は、硫黄分がゼロである基油として知られており(上記「ウ(イ)」参照。なお、グループIVのPAO基油も同様)、グループIの基油とは異なり、他のグループの基油と混合して硫黄分の低減を図る必要がないこと(GTL基油を、単独で、すなわち、基油総重量の100重量%として使用し得ること)はいうまでもない(【0024】参照)。
(イ) 引用発明の基油の粘度特性について
上記した基油に求められている組成・特性のうち、基油の粘度特性は、引用発明に係るエンジン油の特性を最適化する上で、重要な役割を果たしているといえる。すなわち、引用発明は特に高温せん断粘度に係る特性(A)、(B)(「HTHS」等)を特定範囲にすることで所期の効果が発現することを見出し完成されたものであり(【0007】参照)、いかにして当該高温せん断粘度特性(A)、(B)の範囲内に調整するかが重要となるところ、引用刊行物の段落【0020】には、「上記の本発明を達成する方法は、エンジン油の実用性能を確保するために基油に添加される各種添加剤による粘度増加をできるだけ少なくし、本発明の(A)および(B)の範囲になるように粘度指数向上剤の添加量と基油の粘度によって調整すればよい。」と説明されていることから、当該特性(A)、(B)(「HTHS」等)は、粘度指数向上剤の添加量と基油の粘度によって調整し得ること(当該特性は、粘度指数向上剤の添加量と基油の粘度に影響されやすいことということもできる。)を理解することができる。したがって、引用発明における基油の選定に際しては、エンジン油の高温せん断粘度「HTHS」に対して影響の大きい基油自体の粘度特性(特に高温側の動粘度「K100」)に着目することが肝要であるといえる。
なお、粘度指数向上剤の添加量の影響についても確認しておくと、実際に、引用刊行物の上記【表2】に記載された実施例4、実施例5、さらには同表中の実施例3の「粘度指数向上剤の配合量(質量%)」、「150℃、せん断速度1×10^(6)sec^(-1)近傍におけるせん断粘度(mPa・s)」(HTHS)の項目の数値を突き合わせてみれば明らかなとおり、エンジン油の「HTHS」の数値は、粘度指数向上剤の添加量によって調整できることが見て取れ、これに連動して、同実施例におけるエンジン油の「100℃の動粘度(mm^(2)/s)」(「K100」)が調整されていることも看取することができる。
(ウ) GTL基油を使用することの動機付けについて
上記「カ(イ)」を踏まえると、当業者は、引用発明において基油を選択するにあたって、まずは、引用発明が規定するエンジン油の高温せん断粘度特性(「HTHS」等)に影響のある、基油の粘度特性に傾注するものと解されるところ、その際には、一つの目安として、引用発明を具現した上記実施例4、5において使用されている基油の、「K100」の数値(「3.9」)を考えるのが合理的である。
さらに、上記「カ(ア)」のとおり、引用刊行物には、引用発明に使用する基油として硫黄分が少なく揮発特性に優れたものが求められていること、及び、そのためにグループII、グループIII、グループIV、グループV、GTL基油といった基油の中から1種又は2種選択して調合し得ることが示唆されており、かつ、このGTL基油やグループIVのPAO基油は硫黄分がゼロであることが知られたものである。
そして、上記「ウ(イ)」のとおり、本願優先日前において既に、「K100」が3.5?4.5であって、揮発度及び流動点に関する特性に優れたGTL基油の製造方法が確立されており、具体的に、当該「K100」が3.9程度であり、引用発明における基油に求められている動粘度及び粘度指数の数値(上記「カ(ア)」参照)にも合致するものが周知である。
してみると、上記引用刊行物には、上記周知技術を熟知する当業者が、硫黄分がゼロであって揮発特性に優れた、「K100」が3.9程度であるGTL基油を、引用発明の基油として、単独(基油全体の100重量%)で使用せしめる、強い動機付けが存するものということができる。
(エ) 容易想到性について
以上を総合すると、引用発明における基油として、その「K100」が3.9程度であるGTL基油を単独(基油全体の100重量%)で使用することは、上記引用刊行物に存する強い動機付けに従って、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。
そして、このように上記GTL基油に想到して得られたエンジン油の特性は、上記実施例4、5が示すエンジン油の「K100」、「Noack値」、「HTHS」の数値とおおよそ同程度の数値を有するもの(引用発明が規定するエンジン油特性を満たすもの)となることが予想される。なぜなら、当該GTL基油は、上記「カ(ア)」にて整理した、基油に求められている組成・特性を満足しているし、上記「カ(イ)」のとおりエンジン油の「HTHS」に影響の大きい、当該GTL基油の「K100」の数値は、上記実施例4、5において使用されている基油のそれと同程度(3.9程度)である上、当該GTL基油は、揮発度に関する特性が優れている(「Noack値」が15質量%未満である)からである。加えて、仮に、当該GTL基油を用いたことによって、得られたエンジン油の特性が、当該実施例4、5の数値とは異なるものとなり、結果として、引用発明が規定する「K100」、「Noack値」、「HTHS」の数値範囲から多少外れてしまうとしても、そもそもこれらの数値は、上記「カ(イ)」のなお書きのとおり、粘度指数向上剤の添加量による調整によって、引用発明が規定する範囲内のものとすることが可能であることから、そのこと(数値のずれ)が当該GTL基油の単独使用を妨げる要因とはならない。
(オ) 本願補正発明の効果について
本願補正発明が「基油が80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含」む旨特定することの技術上の意義(これによる有利な効果)について確認しておくと、本願明細書には、これに関し次の記載が認められる。
・「【0017】
本発明の潤滑用組成物中に使用される基油に関して特定の制限はなく(但し、基油が、少なくともフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含んでいて、本発明の潤滑油組成物についての要件が満たされていれば)、種々の従来の鉱油や合成潤滑油だけでなく天然由来のエステル(例えば植物油)も適切に使用することができる。
【0018】
本発明において使用される基油は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油のほかに、1種以上の鉱油の混合物、及び/又は、1種以上の合成潤滑油の混合物を含むのが好都合である。したがって本発明によれば、“基油”という用語は、少なくとも1種のフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含めて、2種以上の基油を含有する混合物を表わすことがある。・・・
【0019】
本発明の潤滑油組成物に使用するための適切な基油は、グループI-IIIの鉱物基油(好ましいのはグループIII)、グループIVのポリ-α-オレフィン(PAO)、グループII-IIIのフィッシャー・トロプシュ誘導基油(好ましいのはグループIII)、およびこれらの混合物である。
・・・
【0024】
PAOの製造コストが高いことから、PAO基油よりもフィッシャー・トロプシュ誘導基油のほうを使用することが強く好まれている。したがって、基油は、50重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するのが好ましく、60重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するのがさらに好ましく、80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するのがさらに好ましく、90重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するのが最も好ましい。特に好ましい実施態様では、基油の5重量%以下(好ましくは2重量%以下)がフィッシャー・トロプシュ誘導基油ではない。基油の100重量%が1種以上のフィッシャー・トロプシュ誘導基油をベースにしているのがより一層好ましい。
【0025】
本発明の潤滑用組成物中に組み込まれる基油の総量は、潤滑用組成物の総重量を基準として60?99重量%の範囲の量にて存在するのが好ましく、65?90重量%の範囲の量にて存在するのがさらに好ましく、70?85重量%の範囲の量にて存在するのが最も好ましい。
【0026】
一般には、本発明にしたがって使用される基油(または基油ブレンド)は、100℃にて3.0cStより高くて5.6cStより低い動粘度(ASTM D445による)を有する。本発明の好ましい実施態様によれば、基油は、100℃にて3.5?4.5cStの動粘度(ASTM D445による)を有する。基油が、2種以上の基油のブレンドを含有する場合、該ブレンドは、100℃にて3.5?4.5cStの動粘度を有するのが好ましい。」
そうすると、本願補正発明における基油は、少なくともフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含んでいて、潤滑油組成物についての要件(特性)が満たされていれば、特定の制限はないこと(【0017】)、フィッシャー・トロプシュ誘導基油が基油全体に対して「80重量%より多い」と規定しているのは、単にPAO基油と対比したコスト面からの要請によるものであること(【0024】)、及び、本願補正発明において使用される基油(または基油ブレンド)は、「K100」が3.5?4.5であることが好ましいこと(【0026】)を把握することができるものの、特にフィッシャー・トロプシュ誘導基油でなければならない根拠は見当たらない。
また、本願明細書の段落【0062】ないし【0064】には、比較例1ないし4の基油について、「鉱物誘導グループIII基油と12.5重量%の性能添加剤パッケージ・トリートだけを使用して最終潤滑油を製造することは困難である(不可能ではないとしても)、ということを示している。」、「鉱物誘導グループIIおよびグループIIIの基油と12.5重量%の性能添加剤パッケージ・トリートだけを使用して最終潤滑油を製造することは困難である(不可能ではないとしても)、ということを示している。」と記載されており、鉱物誘導グループIIや鉱物誘導グループIIIの基油を使用して最終潤滑油を製造することは困難であるとしながらも、「不可能ではない」とも説明されていることから、本願補正発明において、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を、基油として採用しているのは、単に、鉱物誘導グループIIや鉱物誘導グループIIIの基油を使用するよりも、本願補正発明に係る特性を得ることがたやすいという理由によるものと解するのが相当である。
さらに、本願明細書の段落【0060】の【表3】には、摩擦性能に関する実験結果が示されており、本願補正発明に係る潤滑用組成物の実施例は、従来の摩擦性能を保持していることを一応理解することができる。しかしながら、本願補正発明は、種々の添加剤を追加的に使用することを排除するものではない上、潤滑用組成物に占める基油の割合や添加剤の割合を何ら特定するものではないことから、上記実験結果にみられる摩擦性能の保持という作用効果は、耐摩耗性を向上させる公知の添加剤の使用により、いかようにも調整できるレベルのことというほかなく、引用発明においても当然に見込むことのできる事項というべきである。また、当該【表3】に記載された実験結果は、本願補正発明が規定する上記3つの特性を満足するか否かに起因して生じる結果とみるのが妥当であって、必ずしも、基油の種類をフィッシャー・トロプシュ誘導基油としたことに依拠するものとまではいえない(本願明細書の上記【0024】の記載に照らすと、コスト面を考慮しなければ、PAO基油を採用しても同様の効果を奏するものと解するのが妥当である。)。
以上のとおり、本願明細書を仔細にみても、本願補正発明がフィッシャー・トロプシュ誘導基油でなければならないと理由(これによる有利な効果)を認めることはできない。
(カ) 相違点の検討のまとめ
上記のとおりであるから、上記相違点に係る本願補正発明の技術的事項は、当業者の容易想到の範疇のことといえる。
キ 独立特許要件の検討の小括
以上の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

平成27年1月5日付けでなされた上記本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成26年7月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2(1)ア」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
基油と1種以上の添加剤とを含む、エンジンのクランクケースにおいて使用するための潤滑用組成物であって、
該基油が50重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み、
該潤滑用組成物が、100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)と、2.6cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する、上記潤滑用組成物。」

第4 原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成26年 1月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1」であって、要するに、本願発明は、下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2等に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<<引用文献>>
1.特開2008-24845号公報
2.特表2008-531813号公報
・・・・
4.特開2008-274237号公報
・・・・

第5 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された「引用文献1」は、上記「第2 2(2)イ」における「引用刊行物」であり、その記載事項についても、上記「第2 2(2)イ」に摘記したとおりである。
また、原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2及び4は、上記「第2 2(2)ウ(ア)」における「周知文献B」及び「周知文献C」であり、そこには、上記「第2 2(2)ウ(イ)」のとおりの、周知のフィッシャー・トロプシュ誘導基油(GTL基油)が記載されている。

第6 当審の判断

1 引用発明

上記引用文献1の摘記事項から認定し得る引用発明は、上記「第2 2(2)エ(ウ)」にて説示したとおりのものである。

2 対比・検討

上記「第2 2(1)イ」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)を特定するために必要な事項であるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の含有量及び高温高せん断粘度の数値範囲を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明の数値範囲を包含するものということができる。
そうすると、本願発明よりもさらに上記数値範囲を限定した本願補正発明が、上記「第2 2(2)」にて検討したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないのであるから、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 平成27年5月26日提出の上申書について

請求人は、平成27年5月26日提出の上申書において、特許請求の範囲の補正案を示しているところ、その請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
ASTM D4172に従った測定にて60kgの荷重で1.0mm未満の摩耗傷あと(時間:60分;速度:1500rpm;温度:75℃)をもたらしつつ燃費経済性を向上させるための、エンジンのクランクケースにおける潤滑用組成物の使用であって、
該潤滑油組成物が基油と1種以上の添加剤とを含み、
該基油が80重量%より多いフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含み、
該潤滑用組成物が、100℃にて5.6cSt未満の動粘度(ASTM D445による)と、15重量%未満のNoack揮発性(ASTM D5800による)とを有し、該組成物が2.0cP未満の高温高せん断粘度(“HTHS”;ASTM D4683による)を有する、該潤滑用組成物の使用。」
ここで、上記請求項1に係る発明は、「エンジンのクランクケースにおける潤滑用組成物の使用(方法)」の目的につき、「ASTM D4172に従った測定にて60kgの荷重で1.0mm未満の摩耗傷あと(時間:60分;速度:1500rpm;温度:75℃)をもたらしつつ燃費経済性を向上させるため」と特定したものと解される。
しかしながら、「ASTM D4172に従った測定にて60kgの荷重で1.0mm未満の摩耗傷あと(時間:60分;速度:1500rpm;温度:75℃)をもたら」すという事象は、あくまで試験装置におけるものであって、潤滑用組成物をエンジンのクランクケースにおいて使用している状況下での事象ではないから、当該試験装置における事象を、上記「エンジンのクランクケースにおける潤滑用組成物の使用(方法)」の目的とすることは適切ではなく、その意味するところを正確に把握することはできないというほかない。そのため、当該補正案に係る発明が、直ちに特許し得るものとは判断できない。加えて、エンジン内部に摩耗傷あとが生じないようにすることは、エンジン油の主目的ともいうべき事項であるから、引用発明に係るエンジン油(あるいはそこから容易想到とされたもの)をエンジンのクランクケースにおいて使用するにあたり、当該主目的をかんがみ、耐摩耗性を向上させる添加剤(引用刊行物の【0025】、【0030】参照)を所望量添加する程度のことは当業者が容易に想到し得ることといえ、結果として、上記補正案に係る請求項1が規定する試験条件をも満足するものになると考えるのが妥当である。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-10 
結審通知日 2015-12-11 
審決日 2015-12-22 
出願番号 特願2012-516720(P2012-516720)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10M)
P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 菅野 芳男
日比野 隆治
発明の名称 潤滑用組成物  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 山本 修  

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