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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1314174
審判番号 不服2015-6480  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-06 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2013-195727「絶縁検査方法及び絶縁検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月 5日出願公開、特開2015- 25795〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月20日(優先権主張 平成25年6月20日(以下、「優先日」という。) 日本)の出願であって、平成25年12月17日付け(発送日:平成26年1月7日)で拒絶理由が通知され、平成26年1月30日付けで明細書及び特許請求の範囲についての補正がなされ、同年5月1日付け(発送日:同年同月8日)で拒絶理由が通知され、同年6月4日付けで明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「補正1」という。)がなされ、同年8月6日付け(発送日:同年同月12日)で拒絶理由が通知され、同年10月10日付けで明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「補正2」という。)がなされ、平成26年12月24日付け(発送日:平成27年1月6日)で補正2の却下の決定がなされるとともに、平成26年12月24日付け(送達日:平成27年1月6日)で拒絶査定がなされた。
これに対し、平成27年4月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明細書、特許請求の範囲及び図面についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を次のとおり補正するものである。

(本件補正前)
「【請求項1】
複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットと、この直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子に接続された負荷とを有する発電システムにおける電圧及び電流の計測が可能な装置が実行する方法であって、
前記一対の出力端子から前記負荷を遮断する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子との端子間電圧値を取得する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、当該端子に表れる電圧の振幅を小さくすることにより前記接地部位を通じて流れる漏れ電流を少なくする検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、それぞれ異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程と、
この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする工程とを有する、
絶縁検査方法。
【請求項2】
2回以上供給する前記検査電圧は、いずれも前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる値の電圧であり、それぞれ前記端子に表れる電圧を相殺するように供給される、
請求項1記載の絶縁検査方法。
【請求項3】
複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子から負荷を遮断した状態で前記一対の出力端子の端子間電圧値を取得する端子間電圧値保持手段と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、当該端子に表れる電圧の振幅を小さくすることにより前記接地部位を通じて流れる漏れ電流を少なくする検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、異なる値で供給する電圧供給手段と、
供給された前記検査電圧の値が変化した際に前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出する電流検出手段と、
前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出し、この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする探査手段と、
を有する絶縁検査装置。
【請求項4】
前記経路における前記絶縁不良箇所があるときに当該絶縁不良箇所の相対位置を視覚的に表す表示器をさらに有する、
請求項3記載の絶縁検査装置。
【請求項5】
前記電流差分値と変化した前記検査電圧の差分を表す差分電圧値とに基づいて前記電路の絶縁抵抗値を導出する絶縁抵抗値導出手段をさらに備え、
前記絶縁抵抗値導出手段で導出された絶縁抵抗値を前記相対位置と共に前記表示器に表示させる、
請求項4記載の絶縁検査装置。
【請求項6】
前記一対の出力端子の一方と前記電圧供給手段とを接続する第1プローブと、
前記一対の出力端子の他方と前記電圧供給手段とを接続する第2プローブと、
接地部位と前記電流検出手段とを接続する第3プローブと、
前記第2プローブと前記電圧供給手段との間に挿入接続された開閉スイッチとを有し、
前記開閉スイッチをオンにすることにより前記端子間電圧値の取得を可能とし、
前記開閉スイッチをオフにすることにより前記電路に流れる電流の値の取得を可能とする、
請求項3、4又は5記載の絶縁検査装置。」

(本件補正後)
「【請求項1】
複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットと、この直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子に接続された負荷とを有する発電システムにおける電圧及び電流の計測が可能な装置が実行する方法であって、
前記一対の出力端子から前記負荷を遮断する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子の端子間電圧値を取得する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程と、
この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする工程とを有する、
絶縁検査方法。
【請求項2】
複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子から負荷を遮断した状態で前記一対の出力端子の端子間電圧値を取得する端子間電圧値保持手段と、
前記負荷を遮断した状態で前記一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給する電圧供給手段と、
供給された前記検査電圧の値が変化した際に前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出する電流検出手段と、
前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出し、この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする探査手段と、
を有する絶縁検査装置。
【請求項3】
前記経路における前記絶縁不良箇所があるときに当該絶縁不良箇所の相対位置を視覚的に表す表示器をさらに有する、
請求項2記載の絶縁検査装置。
【請求項4】
前記差分電流値と変化した前記検査電圧の差分を表す差分電圧値とに基づいて前記電路
の絶縁抵抗値を導出する絶縁抵抗値導出手段をさらに備え、
前記絶縁抵抗値導出手段で導出された絶縁抵抗値を前記相対位置と共に前記表示器に表
示させる、
請求項3記載の絶縁検査装置。
【請求項5】
前記一対の出力端子の一方と前記電圧供給手段とを接続する第1プローブと、
前記一対の出力端子の他方と前記電圧供給手段とを接続する第2プローブと、
接地部位と前記電流検出手段とを接続する第3プローブと、
前記第2プローブと前記電圧供給手段との間に挿入接続された開閉スイッチとを有し、
前記開閉スイッチをオンにすることにより前記端子間電圧値の取得を可能とし、
前記開閉スイッチをオフにすることにより前記電路に流れる電流の値の取得を可能とする、
請求項2、3又は4記載の絶縁検査装置。」
(下線は補正箇所。)

本件補正のうち請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、当該端子に表れる電圧の振幅を小さくすることにより前記接地部位を通じて流れる漏れ電流を少なくする検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、それぞれ異なる値で供給し」を、「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給し」と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2 引用例記載の事項・引用発明
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2013/018797号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項(a)ないし(j)が記載されている。なお、下線は当審が付与した。

(a)
「[0018] [第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る地絡検出装置を備えた太陽光発電システムを示す概略構成図である。図1に示すように、地絡検出装置1は、太陽光発電システム100において太陽電池110内の地絡を検出するものである。そこで、まず、この太陽光発電システム100について説明する。
[0019] 太陽光発電システム100は、太陽光エネルギを利用して発電を行う発電システムであり、太陽電池110としての太陽電池アレイ101と、パワーコンディショナ(負荷装置)102と、を備えている。太陽電池アレイ101は、太陽光エネルギを電気エネルギへ変換し、直流出力としてパワーコンディショナ102へ供給する。太陽電池アレイ101は、複数の太陽電池ストリング103が並列接続されて構成されている。つまり、太陽電池アレイ101においては、第1?第n太陽電池ストリング1031?103nが並列接続されている(nは2以上の整数:ここではn=3)。
[0020] 複数の太陽電池ストリング103のぞれぞれは、複数(ここでは、10個)の太陽電池モジュール104が直列接続されて構成されている。これら複数の太陽電池ストリング103の正極及び負極は、集約され並列接続されて正極母線及び負極母線が構成され、当該正極母線及び負極母線は、パワーコンディショナ102に接続されている。」

(b)
「[0024] 図2,3は、地絡検出方法の原理を説明するための図である。図2,3に示すように、本実施形態では、例えば太陽電池110内の地絡箇所Tで地絡が発生している場合、以下の原理により地絡箇所Tの絶縁抵抗値RL及び電位VL(地絡位置,漏れ電圧値)をも検出する。
[0025] すなわち、まず、例えばパワーコンディショナ102の絶縁トランス102aによって太陽電池110を大地Gに対し絶縁化する。絶縁化された太陽電池110の所定箇所(第1及び第2所定箇所)Oを、電圧源(第1及び第2直流電源,直流電圧生成部)111を介して大地Gに接地する。そして、第1直流電圧値V1を印加して第1電流値I1を測定する。また、第2直流電圧値V2を印加して第2電流値I2を測定する。
[0026] 第1及び第2直流電圧値V1,V2は、互いに異なる2種の印加電圧である。抵抗22は、電圧源111の大地G側に設けられている。ここでは、一般化のため、図2中の抵抗22と図3中の抵抗22とは、互いに異なる抵抗値Rd1,Rd2を有するものとする。第1及び第2直流電圧値V1,V2は、抵抗22と電圧源111との間にB点を設定し、太陽電池110と電圧源111との聞にA点を設定したとき、B点に対するA点の電位とされている。なお、第1及び第2直流電圧値V1,V2は、電圧源111が抵抗22の大地G側に設けられた場合(電圧源111及び抵抗22の配置が逆の場合)、電圧源111と大地Gとの間の点に対するB点の電位とされる。
[0027] 第1及び第2電流値I1,I2は、大地Gから太陽電池110に向って流れ電圧源111を通過する電流である。地絡箇所Tの電位VLは、電圧印可点である所定箇所Oに対する地絡箇所Tの電位である。
[0028] ここで、キルヒホッフの法則より、下式(2),(3)が成立する。よって、測定した第1及び第2電流値I1,I2を下式(2),(3)に代入することで、地絡箇所Tの絶縁抵抗値RL及び電位VLを求められることとなる。
RL=(V1-V2)/(I1-I2)-(Rd2×I2-Rd1×I1)/(I1-I2)…(2)
VL=(V1・I2-V2・I1+I1・I2×(Rd2-Rd1))/(I1-I2)…(3)
[0029] なお、Rd1=Rd2=Rdの場合、上式(2)は下式(2)’に簡略化でき、上式(3)は下式(3)’に簡略化できる。
RL=(V1-V2)/(I1-I2)-Rd …(2)’
VL=(V1・I2-V2・I1)/(I1-I2) …(3)’」
(当審注:「電圧印可点」は「電圧印加点」の誤記であると認める。)

(c)
「[0030] 図1に戻り、本実施形態の地絡検出装置1は、測定部2と、演算制御部(制御部,コンピュータ)3と、記憶部4と、を備えている。測定部2は、解列された太陽電池ストリング103について地絡検出のための測定を行うものである。この測定部2は、第1接地電路21A、第1抵抗22A、第1直流電源23A及び第1電流計24Aを含む第1測定系20Aと、第2接地電路21B、第2抵抗22B、第2直流電源23B及び第2電流計24Bを含む第2測定系20Bと、を有している。」

(d)
「[0035] 第1直流電圧値V1は、地絡検出の感度向上の観点から所定下限値以上とされ、且つ、測定対象の太陽電池回路を破損防止する観点から所定上限値以下とされている(以下の直流電圧値において同様)。」

(e)
「[0041] 第2直流電圧値V2は、上記第1直流電圧値V1とは異なる電圧値とされている。」

(f)
「[0049] 次に、上述した地絡検出装置1により実施される地絡検出方法(地絡検出プログラムによる動作)の一例について、図5に示すフローチャートを参照しつつ例示して説明する。
[0050] 太陽光発電システム100の通常発電時では、地絡検出装置1において第1及び第2スイッチ部25A,25Bをオフとし、接地電路21A,21Bを太陽電池アレイ101と非接続にしている。そして、太陽電池アレイ101内の地絡を検出する場合、演算制御部3により各種機能を実行して以下の動作を実施する。
[0051] すなわち、まず、第1スイッチ部25Aをオンとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と接続すると共に、第2スイッチ部25Bをオフのままとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と非接続にする(S1)。これと共に、第1直流電源23Aにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧の第1直流電圧値V1を印加する(S2)。この状態で、第1接地電路21Aにて流れる第1電流値I1を電流計24Aにより測定し、記憶部6に記憶する(S3)。
[0052] 続いて、第1スイッチ部25Aをオフとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と非接続にすると共に、第2スイッチ部25Bをオンとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と接続する(S4)。これと共に、第2直流電源23Bにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧の第2直流電圧値V2を印加する(S5)。この状態で、第1接地電路21Bにて流れる第2電流値I2を電流計24Bにより測定し、記憶部6に記憶する(S6)。
[0053] 続いて、第1及び第2電流値I1,I2の変化に基づいて、地絡の有無を判定する。すなわち、上式(2)により第1及び第2電流値I1,I2から絶縁抵抗値RLを演算し検出する(S7)。また、上式(3)により第1及び第2電流値I1,I2から地絡箇所Tの電位VLを演算し検出する(S8)。
[0054] そして、演算した絶縁抵抗値RLと、予め記憶部6に記憶されている基準抵抗値とを比較し、太陽電池アレイ101の地絡判定を行う(S9)。具体的には、絶縁抵抗値RLが基準抵抗値よりも小さい場合、「地絡あり」と判定する一方、絶縁抵抗値RLが基準抵抗値以上の場合、「地絡無し」と判定する。」

(g)
「[0061] ところで、上式(2)による絶縁抵抗値RLの検出を精度よく行うためには、第1及び第2電流値I1,I2が互いに異符号であることが好ましい。異符号であれば、I1-I2は、実質的に絶対値の加算となるため、演算に伴う桁落ち(丸め誤差をもつ数値同士が減算を行った場合に有効数字が減少する現象)によって検出感度(検出精度)が低下することを回避できる。また、演算に伴う桁落ちによる精度低下以外に、I1,I2の差の絶対値が小さいと、ノイズの影響によって精度低下し易いという問題もある。」

(h)
「[0067] パワーコンディショナ102がトランスレス(非絶縁)型の場合、絶縁化処理として太陽電池-パワーコンディショナ102間の解列、パワーコンディショナ102-電力系統間の解列、及びパワーコンディショナ102の停止のうち、少なくとも1つを実施することが必要である。絶縁化処理として、太陽電池110-パワーコンディショナ102間の解列を実施した場合、サージアブソーバ102bの動作が地絡検出を妨げる虞は無い。しかし、太陽電池110-パワーコンディショナ102間を解列しない場合には、後述するように直流電圧印加によってサージアブソーバ102bが動作し、正確な測定を行うことができない虞がある。」

(i)
「[0098] また、上記実施形態は、上記第1及び第2接地電路21A,21Bと同様な接地電路をさらに備えてもよい、すなわち、異なった3種類以上のDC電圧を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出してもよい。」

また、引用例1には、背景技術として、次のとおり記載されている。
(j)
「[0002] 従来、一般的な太陽光発電システムとして、太陽光が利用して発電を行う太陽電池と、この太陽電池で発電された電力を消費又は変換するパワーコンディショナ等の負荷装置と、を備えたものが知られている。このような太陽光発電システムにおいて太陽電池内に絶縁不良があると、例えば人や物が絶縁不良箇所に触れたときや、絶縁不良箇所と金属架台等とが接触したとき、電気回路が外部と意図しない形で接触する地絡が生じる場合がある。」

・上記記載(a)より、
ア 「地絡検出装置1は、太陽光発電システム100において太陽電池110内の地絡を検出するものである」、及び「太陽光発電システム100は、太陽電池110としての太陽電池アレイ101と、パワーコンディショナ(負荷装置)102と、を備え、太陽電池アレイ101は、太陽光エネルギを電気エネルギへ変換し、直流出力としてパワーコンディショナ102へ供給し、複数の太陽電池ストリング103が並列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103のぞれぞれは、複数の太陽電池モジュール104が直列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103の正極及び負極は、集約され並列接続されて正極母線及び負極母線が構成され、当該正極母線及び負極母線は、パワーコンディショナ102に接続されている」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(c)より、
イ 「地絡検出装置1は、測定部2と、演算制御部(制御部,コンピュータ)3と、記憶部4と、を備え、測定部2は、解列された太陽電池ストリング103について地絡検出のための測定を行うものであり、第1接地電路21A、第1抵抗22A、第1直流電源23A及び第1電流計24Aを含む第1測定系20Aと、第2接地電路21B、第2抵抗22B、第2直流電源23B及び第2電流計24Bを含む第2測定系20Bと、を有している」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(b)、及び(d)ないし(f)より、Rd1=Rd2=Rdの場合、
ウ 「地絡検出装置1により実施される地絡検出方法は、まず、第1スイッチ部25Aをオンとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第1直流電源23Aにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1を印加し、第1接地電路21Aにて流れる第1電流値I1を電流計24Aにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第2スイッチ部25Bをオンとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第2直流電源23Bにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1と異なる値の第2直流電圧値V2を印加し、第1接地電路21Bにて流れる第2電流値I2を電流計24Bにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第1及び第2電流値I1,I2の変化に基づいて、地絡の有無を判定、すなわち、RL=(V1-V2)/(I1-I2)-Rd …(2)’により第1及び第2電流値I1,I2から地絡箇所Tの絶縁抵抗値RLを演算し検出し、また、VL=(V1・I2-V2・I1)/(I1-I2) …(3)’により第1及び第2電流値I1,I2から電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出する。」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(h)より、
エ 「太陽電池-パワーコンディショナ102間の解列を実施する」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(i)より、
オ 「上記第1及び第2接地電路21A,21Bと同様な接地電路をさらに備えてもよく、すなわち、異なった3種類以上のDC電圧を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出してもよい。」との技術的事項が読み取れる。

(2)引用発明1
以上の技術的事項アないしオを総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。

「地絡検出装置1は、太陽光発電システム100において太陽電池110内の地絡を検出するものであって、太陽光発電システム100は、太陽電池110としての太陽電池アレイ101と、パワーコンディショナ(負荷装置)102と、を備え、太陽電池アレイ101は、太陽光エネルギを電気エネルギへ変換し、直流出力としてパワーコンディショナ102へ供給し、複数の太陽電池ストリング103が並列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103のぞれぞれは、複数の太陽電池モジュール104が直列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103の正極及び負極は、集約され並列接続されて正極母線及び負極母線が構成され、当該正極母線及び負極母線は、パワーコンディショナ102に接続されており、地絡検出装置1は、測定部2と、演算制御部(制御部,コンピュータ)3と、記憶部4と、を備え、測定部2は、解列された太陽電池ストリング103について地絡検出のための測定を行うものであり、第1接地電路21A、第1抵抗22A、第1直流電源23A及び第1電流計24Aを含む第1測定系20Aと、第2接地電路21B、第2抵抗22B、第2直流電源23B及び第2電流計24Bを含む第2測定系20Bと、を有しており、
地絡検出装置1により実施される地絡検出方法は、太陽電池-パワーコンディショナ102間の解列を実施し、まず、第1スイッチ部25Aをオンとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第1直流電源23Aにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1を印加し、第1接地電路21Aにて流れる第1電流値I1を電流計24Aにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第2スイッチ部25Bをオンとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第2直流電源23Bにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1と異なる値の第2直流電圧値V2を印加し、第1接地電路21Bにて流れる第2電流値I2を電流計24Bにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第1及び第2電流値I1,I2の変化に基づいて、地絡の有無を判定、すなわち、RL=(V1-V2)/(I1-I2)-Rd …(2)’により第1及び第2電流値I1,I2から地絡箇所Tの絶縁抵抗値RLを演算し検出し、また、VL=(V1・I2-V2・I1)/(I1-I2) …(3)’により第1及び第2電流値I1,I2から電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出し、
上記第1及び第2接地電路21A,21Bと同様な接地電路をさらに備えてもよく、すなわち、異なった3種類以上のDC電圧を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出してもよい、
地絡検出方法。」(以下、「引用発明1」という。)

(3)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-140123号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。
(k)
「【0032】●地絡位置情報の演算
測定された電極間電圧V41および対地電圧V42の比から地絡位置を示すことができる。つまり、演算部43により、単純な割り算を実行しV42/V41=40/600=0.066を得る。これは、太陽電池アレイ1の正極から、アレイ全体の6.6%の位置に地絡位置があることを示している。」。

3 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1における「太陽光発電システム100」は、「太陽電池110としての太陽電池アレイ101と、パワーコンディショナ(負荷装置)102と、を備え、太陽電池アレイ101は、太陽光エネルギを電気エネルギへ変換し、直流出力としてパワーコンディショナ102へ供給し、複数の太陽電池ストリング103が並列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103のぞれぞれは、複数の太陽電池モジュール104が直列接続されて構成され、複数の太陽電池ストリング103の正極及び負極は、集約され並列接続されて正極母線及び負極母線が構成され、当該正極母線及び負極母線は、パワーコンディショナ102に接続されて」いるから、本願補正発明における「複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットと、この直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子に接続された負荷とを有する発電システム」に相当する。

(2)引用発明1において、「地絡検出装置1は、太陽光発電システム100において太陽電池110内の地絡を検出するもの」であり、「地絡検出装置1」の「測定部2」は、「第1電流計24A」及び「第2電流計24B」を有しているから、引用発明1における「地絡検出装置1により実施される地絡検出方法」と、本願補正発明における「発電システムにおける電圧及び電流の計測が可能な装置が実行する方法」とは、共に、「発電システムにおける電流の計測が可能な装置が実行する方法」である点で共通している。

(3)引用発明1において、「パワーコンディショナ102」は「負荷装置」であり、「太陽電池アレイ101」の正極及び負極の端子は「パワーコンディショナ102」に接続されているから、引用発明1における「太陽電池-パワーコンディショナ102間の解列を実施」することは、本願補正発明における「前記一対の出力端子から前記負荷を遮断する工程」に相当する。

(4)引用発明1においては、「測定部2は、解列された太陽電池ストリング103について地絡検出のための測定を行うものであ」り、「まず、第1スイッチ部25Aをオンとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第1直流電源23Aにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1を印加し、第1接地電路21Aにて流れる第1電流値I1を電流計24Aにより測定し」、「続いて、第2スイッチ部25Bをオンとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第2直流電源23Bにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1と異なる値の第2直流電圧値V2を印加し、第1接地電路21Bにて流れる第2電流値I2を電流計24Bにより測定し」ており、さらに「上記第1及び第2接地電路21A,21Bと同様な接地電路をさらに備えてもよく、すなわち、異なった3種類以上のDC電圧を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出してもよい」とされているから、引用発明1は、負荷装置であるパワーコンディショナ102が遮断された一対の出力端子のうちの正極側の端子と接地部位との間の電路に地絡を検出するための電圧である第1直流電圧(値V1)及び第2直流電圧(値V2)を所定の時間間隔で2回、あるいは、3種類以上のDC電圧で3回以上、異なる値で供給しているといえる。

(5)引用例1の段落[0061](上記「2」「(1)」「(g)」参照。)における「第1及び第2電流値I1,I2が互いに異符号であることが好ましい」、「丸め誤差をもつ数値同士が減算を行った場合」等の記載は、第1直流電圧(値V1)を印加したときも第2直流電圧(値V2)を印加したときにも電流が流れることを前提とした記載であるから、引用発明1において、第1直流電圧(値V1)及び第2直流電圧(値V2)は、正極側の端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超える検査電圧であるといえる。

(6)引用発明1においては、「RL=(V1-V2)/(I1-I2)-Rd」「により第1及び第2電流値I1,I2から地絡箇所Tの絶縁抵抗値RLを演算し検出し」、また、「VL=(V1・I2-V2・I1)/(I1-I2)」「により第1及び第2電流値I1,I2から電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出」しているから、絶縁抵抗値RLを演算し検出するために、電路を流れる電流の差分を表す差分電流値I1-I2と異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値V1-V2を検出しているといえる。また、「電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VL」を演算するための式(3)’は、2点(V1,I1)、(V2,I2)を通る直線の電流値がゼロ値になるときの電圧値を演算するための式であるから、差分電圧値V1-V2と差分電流値I1-I2の一方に対する他方の変化勾配に基づいて電流の値がゼロ値になる電圧値(電位)VLを導出しているといえる。

(7)上記(4)ないし(6)で検討した事項をまとめると、
引用発明1における「まず、第1スイッチ部25Aをオンとし、第1接地電路21Aを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第1直流電源23Aにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1を印加し、第1接地電路21Aにて流れる第1電流値I1を電流計24Aにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第2スイッチ部25Bをオンとし、第2接地電路21Bを太陽電池アレイ101の正極側と接続し、第2直流電源23Bにより、太陽電池アレイ101の正極側に正電圧で、第1直流電圧値V1と異なる値の第2直流電圧値V2を印加し、第1接地電路21Bにて流れる第2電流値I2を電流計24Bにより測定し、記憶部6に記憶し、続いて、第1及び第2電流値I1,I2の変化に基づいて、地絡の有無を判定、すなわち、RL=(V1-V2)/(I1-I2)-Rd …(2)’により第1及び第2電流値I1,I2から地絡箇所Tの絶縁抵抗値RLを演算し検出し、また、VL=(V1・I2-V2・I1)/(I1-I2) …(3)’により第1及び第2電流値I1,I2から電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出し、上記第1及び第2接地電路21A,21Bと同様な接地電路をさらに備えてもよく、すなわち、異なった3種類以上のDC電圧を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出してもよい」ことと、
本願補正発明における「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程」とは、
共に、「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超える検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程」である点で共通している。

(8)引用発明1における「第1及び第2電流値I1,I2から電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出」することと、本願補正発明における「この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする工程」とは、共に、「この仮想電圧値により、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所の電圧を求める工程」である点で共通している。

(9)地絡を検出することは、引用例の背景技術(上記「2」「(1)」「(j)」参照。)にも記載されているとおり、「絶縁」を検査することであるといえるから、引用発明1における「地絡検出方法」は、本願補正発明における「絶縁検査方法」に相当する。

(10)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下の通りである。

(一致点)
「複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットと、この直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子に接続された負荷とを有する発電システムにおける電流の計測が可能な装置が実行する方法であって、
前記一対の出力端子から前記負荷を遮断する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超える検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程と、
この仮想電圧値により、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所の電圧を求める工程とを有する、
絶縁検査方法。」

(相違点)
ア 本願補正発明は、「電圧及び電流の計測が可能な装置が実行する方法」であって、「前記負荷が遮断された一対の出力端子の端子間電圧値を取得する工程」を有し、「仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより」「絶縁不良箇所を判別可能にする」のに対し、引用発明1は、「第1電流計24A」及び「第2電流計24B」を有する「測定部2」を備える「地絡検出装置1」が実行する方法であって、電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算しているものの、「測定部2」が電圧の計測が可能な装置であることも、太陽電池-パワーコンディショナ102間の解列が実施されたときの太陽電池アレイ101の正極側と負極側の極間電圧値を取得することも、電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位と、前記極間電圧値とを比較することにより、絶縁不良箇所を判別可能にすることも示されていない点。

イ 本願補正発明では、検査電圧が、「それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅」が「前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧」であって、「当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給」するのに対し、引用発明1では、第1直流電圧(値V1)及び第2直流電圧(値V2)が、正極側の端子に表れる電圧と合算したときに太陽電池110において発電可能な電圧の振幅未満となる電圧(値)であるのか、また、第2電流値I2の振幅(絶対値)が前回の第1電流値I1の振幅(絶対値)よりも小さくなるように供給されているのか明らかでない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点アについて
地絡が発生したとき、その復旧、修理等のために地絡位置を特定する必要があることは、いうまでもないことである。そして、引用例2には「●地絡位置情報の演算 測定された電極間電圧V41および対地電圧V42の比から地絡位置を示すことができる。つまり、演算部43により、単純な割り算を実行しV42/V41=40/600=0.066を得る。これは、太陽電池アレイ1の正極から、アレイ全体の6.6%の位置に地絡位置があることを示している。」(上記「2」「(3)」「(k)」参照。)と記載されているが、このような例からも明らかなように、太陽電池アレイにおいて、測定された端子間電圧と、電位VL(電圧印加点である正側の電極と地絡箇所Tとの電位差)との比較により地絡位置が特定できることは、電気回路についての基礎的知識を有する当業者にとって自明なことであるといえる。
そして、引用例1段落[0024]に「電位VL(地絡位置,漏れ電圧値)をも検出する。」(上記「2」「(1)」「(b)」参照。)と記載されているとおり、引用発明1においても、「電圧印加点である所定箇所に対する地絡箇所Tの電位である電位VLを演算し検出」するのは、該電位VLを用いて地絡位置を特定するためであると認められるから、引用発明1において、「地絡検出装置1」の「測定部2」が、電圧を測るための周知の電圧計等を備えるようにし、該電圧計等を用いて、パワーコンディショナ102が解列された太陽電池110の極間電圧値を取得し、その取得された太陽電池110の極間電圧値と電位VLを比較して、地絡箇所Tを検出するようにして、上記相違点アに係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点イについて
引用例1には、印加する第1直流電圧(値V1)及び第2直流電圧(値V2)を、地絡検出の感度向上の観点と測定対象の太陽電池回路を破損防止する観点とから決定すべきことが記載されている(前記「2」「(1)」(d)の「[0035] 第1直流電圧値V1は、地絡検出の感度向上の観点から所定下限値以上とされ、且つ、測定対象の太陽電池回路を破損防止する観点から所定上限値以下とされている(以下の直流電圧値において同様)。」参照。)。また、第1直流電圧値V1及び第2直流電圧値V2を印加する際、地絡が発生していれば、大地を通って過電流が流れ、太陽電池が損傷する危険性があることも、電気回路の基礎的知識から当業者が容易に予測し得ることである。そうすると、引用発明1において、測定対象の太陽電池回路の破損防止の観点から、印加する第1直流電圧値V1及び第2直流電圧値V2をできるだけ大きくしないようにし、正極側の端子に表れる電圧と合算したときに太陽電池110において発電可能な電圧の振幅未満となる電圧値とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
さらに、
ア 一般的に、一度電流が流れ、その電流値を取得した後では、電流値の絶対値を小さくする電圧値を見つけやすいといえる点。
イ 本願補正発明には、「当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるよう」にするための検査電圧を見つけるための具体的手段が何ら特定されていない点。
を踏まえれば、引用発明1において、DC電圧(直流電圧)を太陽電池アレイ101に順次印加し、当該DC電圧(直流電圧)印加時それぞれの漏れ電流値の変化を検知して地絡検出する際、過電流が流れて太陽電池が損傷するのを抑制するため、太陽電池を流れる漏れ電流値(絶対値)が、前回よりも小さくなるように次回のDC電圧(直流電圧)を印加して漏れ電流の変化を検知するようにすることも、当業者にとって自然な発想であるといえる。
よって、引用発明1において、上記相違点イに係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)本願補正発明の作用効果も、引用発明1、引用例2に記載された技術及び電気回路についての基礎的知識から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用例2に記載された技術及び電気回路についての基礎的知識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「複数の電力発電体が接続された直流電力発電ユニットと、この直流電力発電ユニットが有する一対の出力端子に接続された負荷とを有する発電システムにおける電圧及び電流の計測が可能な装置が実行する方法であって、
前記一対の出力端子から前記負荷を遮断する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子との端子間電圧値を取得する工程と、
前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、当該端子に表れる電圧の振幅を小さくすることにより前記接地部位を通じて流れる漏れ電流を少なくする検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、それぞれ異なる値で供給し、これにより前記電路に流れる電流の差分を表す差分電流値と前記異なる値の電圧の差分を表す差分電圧値とを検出するとともに、前記差分電圧値と前記差分電流値の一方に対する他方の変化勾配に基づいて前記電流の値が有値からゼロ値になるときの仮想電圧値を導出する工程と、
この仮想電圧値と前記端子間電圧値とを比較することにより、前記出力端子の一方の端子から前記複数の電力発電体を経て前記出力端子の他方の端子に至る経路における絶縁不良箇所を判別可能にする工程とを有する、
絶縁検査方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された発明は、上記「第2 補正却下の決定」「2 引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、それぞれ前記端子に表れる電圧と合算したときにその振幅がゼロを超え、かつ、前記直流電力発電ユニットにおいて発電可能な電圧の振幅未満となる検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、当該電路に流れる電流の振幅が前回よりも小さくなるように異なる値で供給し」と限定されていた事項を「前記負荷が遮断された一対の出力端子のうちいずれかの端子と接地部位との間の電路に、当該端子に表れる電圧の振幅を小さくすることにより前記接地部位を通じて流れる漏れ電流を少なくする検査電圧を、所定の時間間隔で2回以上、それぞれ異なる値で供給し」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項で限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 補正却下の決定」「3 対比」及び「4 判断」に記載したとおり、引用発明1、引用例2に記載された技術及び電気回路についての基礎的知識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1、引用例2に記載された技術及び電気回路についての基礎的知識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用例2に記載された技術及び電気回路についての基礎的知識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2013-195727(P2013-195727)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
P 1 8・ 537- Z (G01R)
P 1 8・ 536- Z (G01R)
P 1 8・ 575- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 誠柳 重幸  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 堀 圭史
関根 洋之
発明の名称 絶縁検査方法及び絶縁検査装置  
代理人 鈴木 正剛  

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