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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1314182
審判番号 不服2015-11148  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-12 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2013- 63396「車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 6日出願公開、特開2014-189032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月26日の出願であって、平成27年1月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年6月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年6月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成27年6月12日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)平成27年6月12日提出の手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてみれば、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年3月10日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1を、イに示す請求項1に補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
エンジンと、該エンジンの始動トルクを出力する第1電動機と、該始動トルクと走行トルクとを出力する第2電動機と、該第1電動機及び該第2電動機に電力を供給する蓄電装置とを備える車両の制御装置であって、
前記エンジンを始動する際に、前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合は、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合は、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動することを特徴とする車両の制御装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
エンジンと、該エンジンの始動トルクを出力する第1電動機と、該始動トルクと走行トルクとを出力する第2電動機と、該第1電動機及び該第2電動機に電力を供給する蓄電装置とを備える車両の制御装置であって、
前記エンジンを始動する際に、前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合は、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合は、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり、
前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力することを特徴とする車両の制御装置。」
なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

(2)本件補正の目的について
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1における「前記第1電動機と該第2電動機とを併用してエンジンを始動する」という発明特定事項に関して、「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」という事項を付加することにより限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の請求項1についての補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-76646号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関にトルクを伝達して該内燃機関をクランキング可能な少なくとも2つの動力機構を備えた車両における内燃機関の始動制御装置において、
前記内燃機関の始動の要求の有無を判断する始動判断手段と、
前記内燃機関を始動することに伴う駆動トルクの低下を抑制するべき状態を判断する駆動トルク低下抑制判断手段と、
前記内燃機関の始動要求に基づく内燃機関の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合に前記少なくとも2つの動力機構を併用して内燃機関をクランキングすることにより該内燃機関を始動させる始動指示手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
(中略)
【請求項4】
前記2つの動力機構は、前記内燃機関に付設されたスタータモータと、前記内燃機関の出力側に直接もしくはクラッチを介して連結されたモータ・ジェネレータとを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項5】
前記始動指示手段は、前記モータ・ジェネレータによって走行のための動力を出力するとともに前記内燃機関を始動する際に内燃機関の始動に伴うトルクを前記スタータモータで補うよう前記少なくとも2つの動力機構を制御する手段を含むことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の始動制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項4】及び【請求項5】)

イ 「【0001】
この発明は、車両に搭載されているガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を始動するための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、この種の内燃機関(以下、エンジンと記す)は、混合気を爆発的に燃焼させて動力を発生するように構成されているから、始動する際には、吸入と混合気の圧縮とをおこなうために、外部からトルクを与えて回転させる必要がある。そのために、従来一般には、出力トルクの大きいスタータモータをエンジンに付設し、エンジンを始動する際には、このスタータモータによってエンジンをアイドリング回転数程度まで一時的に回転させている。
【0003】
一方、最近では、エンジンを搭載した車両の燃費の向上や排気ガスの抑制のために、発電機を兼ねたモータすなわちモータ・ジェネレータをエンジンと共に搭載したハイブリッド車が開発されている。このハイブリッド車の形式として、モータ・ジェネレータが連結された動力伝達系統にエンジンを直接もしくは選択的に連結し、モータ・ジェネレータおよびエンジンのいずれによっても走行することができるように構成したいわゆるパラレルハイブリッド形式が知られている。この種のハイブリッド車では、エンジンをモータ・ジェネレータによって回転させることができるので、モータ・ジェネレータをエンジンの始動のための装置として機能させることができる。その一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
この公報に記載された装置は、トルクコンバータを備えた自動変速機とエンジンとの間にモータ・ジェネレータを配置し、エンジンから自動変速機に到る動力の伝達系統にモータ・ジェネレータに出力トルクを入力することができるように構成されている。したがってこのような構成のハイブリッド車では、エンジンおよびモータ・ジェネレータを自動変速機を主体とする動力伝達系統に連結することができるので、エンジンでモータ・ジェネレータを駆動して発電をおこなうモード、走行慣性力によってモータ・ジェネレータを駆動して回生制動をおこなうモード、エンジンのトルクにモータ・ジェネレータの出力トルクを付加して駆動力を増大させるモード、さらにはモータ・ジェネレータの出力トルクでエンジンを回転させてエンジンを始動するモードなどの各種の駆動モードを設定することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平8-168104号公報」(段落【0001】ないし【0005】)

ウ 「【0006】
走行のための駆動力源として内燃機関と併せてモータ・ジェネレータを搭載したハイブリッド車では、モータ・ジェネレータが出力する動力のみによって走行もしくは発進することが可能であるが、搭載可能なモータ・ジェネレータやバッテリには限度があるから、より大きい駆動力が要求される場合には、内燃機関をも動作させる必要がある。また、バッテリの充電量(SOC:State of Charge)が低下した場合には、モータ・ジェネレータを発電機として機能させるために内燃機関を動作させる必要がある。
【0007】
停止状態の内燃機関を始動する場合、前述したように、外部からトルクを与えて回転させる必要があり、しかもその際に内燃機関によって吸入と混合気の圧縮とをおこなわせることになるので、かなり大きいトルクを必要とする。そのクランキングトルクは、モータ・ジェネレータの動力で走行する場合は、モータ・ジェネレータが出力するトルクの一部を使用してもよく、あるいは走行慣性力を使用することも可能である。しかしながら、発進もしくは走行のための駆動力の一部をクランキングトルクとして使用すれば、その分、駆動トルクが低下するので、発進加速性が低下したり、あるいは減速感が生じるなど、ドライバビリティや乗り心地が悪化する可能性がある。
【0008】
この発明は、上記の事情を背景としてなされたものであり、内燃機関を始動することに伴う駆動トルクの低下やそれに起因するドライバビリティの悪化などを防止することのできる始動制御装置を提供することを目的とするものである。」(段落【0006】ないし【0008】)

エ 「【0009】
この発明は、上記の課題を解決するために、内燃機関を始動させることに伴う駆動トルクの低下を避ける必要がある場合には、搭載されている2つ以上の動力機構を併用して内燃機関を始動するように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、内燃機関にトルクを伝達して該内燃機関をクランキング可能な少なくとも2つの動力機構を備えた車両における内燃機関の始動制御装置において、前記内燃機関の始動の要求の有無を判断する始動判断手段と、前記内燃機関を始動することに伴う駆動トルクの低下を抑制するべき状態を判断する駆動トルク低下抑制判断手段と、前記内燃機関の始動要求に基づく内燃機関の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合に前記少なくとも2つの動力機構を併用して内燃機関をクランキングすることにより該内燃機関を始動させる始動指示手段とを備えていることを特徴とするものである。
(中略)
【0012】
またさらに、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記2つの動力機構は、前記内燃機関に付設されたスタータモータと、前記内燃機関の出力側に直接もしくはクラッチを介して連結されたモータ・ジェネレータとを含むことを特徴とする内燃機関の始動制御装置である。
【0013】
そして、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記始動指示手段は、前記モータ・ジェネレータによって走行のための動力を出力するとともに前記内燃機関を始動する際に内燃機関の始動に伴うトルクを前記スタータモータで補うよう前記少なくとも2つの動力機構を制御する手段を含むことを特徴とする内燃機関の始動制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
したがってこの発明では、少なくとも2つの前記動力機構が、内燃機関に連結されるから、いずれかの動力機構が出力する動力によって走行することが可能である。また、これらいずれの動力機構からも内燃機関にトルクを伝達して内燃機関を回転させることができる。その内燃機関を回転させて始動することに伴う駆動トルクの低下を抑制する必要があることが判断されると、前記少なくとも2つの動力機構から内燃機関にトルクが伝達されて内燃機関が始動させられる。したがっていずれかの動力機構が出力する動力によって発進もしくは走行している際に内燃機関を始動する場合、内燃機関が接続されている動力伝達系統に入力される総トルクが、他のいずれかの動力機構が出力するトルクによって補われて増大するので、内燃機関を始動するためにトルクが消費されても走行のための駆動トルクの低下が防止もしくは抑制される。」(段落【0009】ないし【0014】)

オ 「【0015】
つぎにこの発明を図に示す具体例を参照して説明する。この発明で対象とする車両は、内燃機関と少なくとも2つの動力機構とを備えており、その一例を図示すれば、図3のとおりである。ここに示す例は、内燃機関(以下、エンジンと記す)1を車両の前後方向に向けて配置したFR車(フロントエンジン・リヤドライブ車)における配置例であり、エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの空気と燃料との混合気を吸入し、これを圧縮した状態で爆発的に燃焼させて動力を出力する機関であり、その始動をおこなうための動力機構としてスタータモータ2が付設されている。このスタータモータ2は、従来から知られている構成のものであり、例えばイグニッションスイッチ(図示せず)がON操作されバッテリ(図示せず)から電力が供給されることにより、その出力軸がエンジン1のフライホイールなどの出力側の部材に連結され、かつその出力軸からエンジン1にトルクを伝達してエンジンを回転(クランキング)するように構成されている。
【0016】
このエンジン1の出力側に他の動力機構としてモータ・ジェネレータ(MG)3が配置されている。このモータ・ジェネレータ3は、一例として永久磁石型同期モータであり、交流電流を供給することにより回転するとともにその周波数によって回転数が制御され、またロータ(図示せず)を外力によって回転させることにより起電力を生じるように構成されている。そのロータに前記エンジン1のクランクシャフトが連結されている。なお、その連結の態様としては、ロータとクランクシャフトとを直接連結してもよく、あるいは両者の間にクラッチを介在させてもよい。
【0017】
上記のモータ・ジェネレータ3の出力側すなわちモータ・ジェネレータ3を挟んでエンジン1とは反対側にトルクコンバータ(T/C)4を備えた自動変速機5が配置されている。この自動変速機5は、トルクコンバータ4を介して入力されたトルクの伝達経路を適宜に変更して所定の変速比を設定する歯車変速機部6とその歯車変速機部6を制御するための油圧制御部7とを備えている。この油圧制御部7は、従来の自動変速機における油圧制御部と同様な構成であって、油圧ポンプで発生した油圧を調圧するバルブ、変速を実行するシフトバルブ、これらのバルブを制御する電磁バルブなどを備え、電気的な指示信号によって調圧および変速を実行するように構成されている。そして、自動変速機5の出力軸8が、図示しないプロペラシャフトやデファレンシャルなどを介して駆動輪に連結されている。なお、トルクコンバータ4および歯車変速機部6の詳細については後述する。
【0018】
したがって上記の図3に示す駆動装置では、エンジン1から自動変速機5を介して駆動輪に到る一連の部材が動力伝達系統を構成しており、この発明における動力機構に相当するスタータモータ2とモータ・ジェネレータ3とが、その動力伝達系統にトルクを伝達できるように構成されている。
【0019】
モータ・ジェネレータ3は一例として永久磁石型同期モータであることにより、このモータ・ジェネレータ3には、インバータ9を介してバッテリ10が接続されている。そのインバータ9は、モータ・ジェネレータ3の制御のために従来使用されているものと同様であって、モータ・ジェネレータ3に対する電流および周波数を制御し、またモータ・ジェネレータ3で発電する際の電流を制御するように構成されている。そして、それらの制御をおこなうためにコントローラ11が設けられている。このコントローラ11は、一例としてマイクロコンピュータを主体とするものであって、エンジン1の始動要求、発進あるいは加速要求、さらには制動要求などに従ってインバータ9およびバッテリ10を制御するように構成されている。」(段落【0015】ないし【0019】)

カ 「【0020】
その制御の例を挙げると、エンジン1の始動要求があると、バッテリ10からモータ・ジェネレータ3に電流を供給してモータ・ジェネレータ3を駆動し、その動力によってエンジン1を回転させ、同時にエンジン1に燃料を供給してエンジン1を始動する。
(中略)
【0021】
上記のエンジン1やモータ・ジェネレータ3ならびに自動変速機5などの各装置は、車両の状態を示す各種のデータに基づいて制御される。例えば図4に示すように、マイクロコンピュータを主体とするハイブリッド制御装置あるいは総合制御装置(ECU)12に各種の信号を入力し、その入力された信号に基づく演算結果を制御信号として出力するようになっている。(以下略)」(段落【0020】及び【0021】)

(2)上記(1)及び図3の記載から、以下のことが分かる。

サ 上記(1)オ及び図3の記載から、引用文献には、エンジン1と、エンジン1の始動を行うための出力トルクを与えるスタータモータ2と、エンジン1の始動のためのトルクと走行のためのトルクとを出力するモータ・ジェネレータ(MG)3と、スタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3に電力を供給するバッテリ10とを備える車両の制御装置が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)アないしカ及び図3の記載から、引用文献に記載された車両の制御装置は、エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべき状態を判断する駆動トルク低下抑制判断手段と、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合にスタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキングすることによりエンジン1を始動させる始動指示手段とを備えていることが分かる。

ス 上記(1)アないしカ及び図3の記載から、引用文献に記載された車両の制御装置は、エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断されない場合には、モータ・ジェネレータ3の動力によってエンジン1を始動することが分かる。

セ 上記(1)アないしカ(特にエの段落【0014】)及び図3の記載から、引用文献に記載された車両の制御装置は、モータ・ジェネレータ3の動力によって走行している際にエンジン1を始動する場合に、エンジン1が接続されている動力伝達系統に入力される総トルクが、スタータモータ2が出力するトルクによって補われて増大するので、エンジン1を始動するためにトルクが消費されても走行のための駆動トルクの低下が防止もしくは抑制されるという効果を奏することが分かる。

(3)上記(1)及び(2)並びに図3の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「エンジン1と、エンジン1を始動させるためのトルクを出力するスタータモータ2と、エンジン1を始動させるためのトルクと走行のためのトルクとを出力するモータ・ジェネレータ3と、スタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3に電力を供給するバッテリ10とを備える車両の制御装置であって、
エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合にはスタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキングし、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断されない場合にはモータ・ジェネレータ3の動力によってエンジン1を始動するものであり、
スタータモータ2を用いてエンジン1を始動する際には、スタータモータ2は、バッテリ10からの電力でスタータモータ2の出力トルクを出力する、
車両の制御装置。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン1」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「エンジン1を始動させるためのトルク」は「エンジンの始動トルク」に、「スタータモータ2」は「第1電動機」に、「走行のためのトルク」は「走行トルク」に、「モータ・ジェネレータ3」は「第2電動機」に、「バッテリ10」は「蓄電装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合にはスタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキングし、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断されない場合にはモータ・ジェネレータ3の動力によってエンジン1を始動するものであり」は、「前記エンジンを始動する際に、所定の条件を満たす場合には、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、別の所定の条件を満たす場合には、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり」という限りにおいて、本願補正発明における「前記エンジンを始動する際に、前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合は、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合は、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり」に相当する。
また、引用発明における「スタータモータ2を用いてエンジン1を始動する際には、スタータモータ2は、バッテリ10からの電力でスタータモータ2の出力トルクを出力する」は、「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の出力トルクを出力する」という限りにおいて、本願補正発明における「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」に相当する。

したがって、両者は、
「エンジンと、該エンジンの始動トルクを出力する第1電動機と、該始動トルクと走行トルクとを出力する第2電動機と、該第1電動機及び該第2電動機に電力を供給する蓄電装置とを備える車両の制御装置であって、
前記エンジンを始動する際に、所定の条件を満たす場合には、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、別の所定の条件を満たす場合には、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり、
前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の出力トルクを出力する、
車両の制御装置。」
という点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)「前記エンジンを始動する際に、所定の条件を満たす場合にはには、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、別の所定の条件を満たす場合には、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり」に関して、本願補正発明においては、「前記エンジンを始動する際に、前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合は、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合は、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり」であるに対し、引用発明においては、「エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合にはスタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキングし、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断されない場合にはモータ・ジェネレータ3の動力によってエンジン1を始動するものであり」である点(以下、「相違点1」という。)。
(2)「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の出力トルクを出力する」に関して、本願補正発明においては、「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」のに対し、引用発明においては、「スタータモータ2を用いてエンジン1を始動する際には、スタータモータ2は、バッテリ10からの電力でスタータモータ2の出力トルクを出力する」点(以下、「相違点2」という。)。

2-3 判断
(1)相違点1について
まず、本願補正発明において、「前記エンジンを始動する際に、前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合は、該第2電動機のみで該エンジンを始動する一方で、該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合は、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものであり」とされていることの技術的意義について考察する。
本願補正発明において、「前記車両に対して要求される要求駆動トルクと、該エンジンの始動に必要な必要始動トルクとの和が、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な前記第2電動機の最大出力トルク以下である場合」には、第2電動機の出力トルクで、車両の駆動トルクとエンジンの始動トルクとをまかなえるため、車両の駆動トルクを低下させずにエンジンの始動をすることができる。
他方、引用発明においては、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが前記駆動トルク低下抑制判断手段によって判断されない場合、つまり、エンジン1の始動をしても車両の駆動トルクが低下しないと判断される場合に、モータ・ジェネレータ3の動力によってエンジン1を始動するものとなっている。
そうすると、どちらも、第2電動機(モータ・ジェネレータ3)の出力トルクで、車両の駆動トルクとエンジンの始動トルクとをまかなうことができ、車両の駆動トルクを低下させずにエンジンの始動をすることができるときには、第2電動機(モータ・ジェネレータ3)のみでエンジンの始動をすることになる。
また、本願補正発明において、「該要求駆動トルクと該必要始動トルクとの和が該第2電動機の最大出力トルクよりも大きい場合」とは、第2電動機の出力トルクでは、車両の駆動トルクとエンジンの始動トルクとを同時にまかなうことができず、第2電動機のみでエンジンを始動すると、車両の走行トルクが低下してしまう場合である。この場合には、前記第1電動機と該第2電動機とを併用して該エンジンを始動するものとなっている。
他方、引用発明においては、「エンジン1を始動する際に、エンジン1の始動による駆動トルクの低下を抑制すべきことが駆動トルク低下抑制判断手段によって判断された場合にはスタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキングし」となっており、モータ・ジェネレータ3のみでエンジンを始動すると、車両の駆動トルクが低下するため、それを避けるために、スタータモータ2及びモータ・ジェネレータ3を併用してエンジン1をクランキング(始動)するものである。
そうすると、どちらも、第2電動機(モータ・ジェネレータ3)の出力トルクで、車両の駆動トルクとエンジンの始動トルクとをまかなえず、エンジンの始動をすると車両の駆動トルクが低下してしまうときには、第1電動機(スタータモータ2)と第2電動機(モータ・ジェネレータ3)の両方を使ってエンジンの始動をするというものである。
したがって、引用発明においても、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を有しているというべきであるし、仮に、そうでないとしても、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
本件補正後の請求項1には、「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」と記載されている。
ここで、本件補正後の請求項1には、「前記第1電動機を用いて前記エンジンを始動する際には、・・・」と記載されているが、審判請求書を参照すると「これに対して、補正後の請求項1に係る発明は、第1電動機と第2電動機とを併用してエンジンを始動する際には、第1電動機の出力トルクを最大出力トルクとします。」(審判請求書の3.(2)(c)欄。下線は当審で付した。)と記載されており、そのように解するのが自然であるから、上記事項は、「第1電動機と第2電動機とを併用してエンジンを始動する際には、・・・」という意味であると解される。
つまり、本願補正発明は、「前記第1電動機と第2電動機とを併用して前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」ものである。
他方、引用発明においては、「前記第1電動機と第2電動機とを併用して前記エンジンを始動する際には、該第1電動機は、前記蓄電装置からの電力にて出力可能な該第1電動機の最大出力トルクを出力する」(下線は当審で付した。)ことは明記されていない。
しかし、引用発明は「内燃機関を始動することに伴う駆動トルクの低下やそれに起因するドライバビリティの悪化などを防止することのできる始動制御装置を提供することを目的とするものである。」(引用文献の段落【0008】)というものであって、
「いずれかの動力機構が出力する動力によって発進もしくは走行している際に内燃機関を始動する場合、内燃機関が接続されている動力伝達系統に入力される総トルクが、他のいずれかの動力機構が出力するトルクによって補われて増大するので、内燃機関を始動するためにトルクが消費されても走行のための駆動トルクの低下が防止もしくは抑制される。」(引用文献の段落【0014】)という効果を奏するものであるから、スタータモータ2(第1電動機)及びモータ・ジェネレータ3(第2電動機)を併用してエンジンを始動する際には、スタータモータの出力トルクが大きい方が良いことは明らかであるから、その場合に、スタータモータ2(第1電動機)の最大トルクを出力するようにすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)効果について
そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明から予測される以上の格別に顕著な効果を奏するものではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成27年6月12日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成27年3月10日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)アの請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項及び引用発明は、前記第2の〔理由〕2 2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明における限定の一部を省いて上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2の〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から上記事項を省いた本願発明も、同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2013-63396(P2013-63396)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 車両の制御装置  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 治幸  

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