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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B05C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B05C
管理番号 1314197
審判番号 不服2015-11264  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2016-05-24 
事件の表示 特願2011- 11686「描画装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-152661、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月24日の出願であって、平成26年8月5日付けで拒絶理由(以下、「原審拒絶理由」という。)が通知されたのに対し、平成26年9月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月20日付けで拒絶査定(以下、「原審拒絶査定」という。)がされ、これに対し、平成27年6月16日に拒絶査定不服審判が請求された後、当審において平成28年2月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年3月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年3月30日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)。

「 【請求項1】
重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから前記液状体を被描画媒体に向けて吐出し、前記被描画媒体上に前記液状体を配置する描画装置であって、
前記液状体を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクと接続部とに接続されており、前記液状体が前記貯留タンクから前記接続部に送られる経路である第一供給路と、
前記貯留タンクと前記接続部とに接続されており、前記液状体が前記接続部から前記貯留タンクに送られる経路である循環流路と、
前記接続部と前記吐出ヘッドとに接続されており、前記液状体が前記接続部から前記吐出ヘッドに供給される経路である第二供給路と、
前記液状体の溶存気体を脱気する脱気手段と、を備え、
前記脱気手段は、前記第二供給路に配設され、
前記接続部は、前記第一供給路に連通する流路を、前記循環流路又は前記第二供給路に切り替えることを特徴とする描画装置。
【請求項2】
前記液状体は、ラジカル重合型の紫外線硬化型のインクであることを特徴とする、請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記第一供給路及び前記循環流路内の前記液状体の前記溶存気体の溶存気体濃度が、前記吐出ヘッド内の前記溶存気体濃度より高いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の描画装置。
【請求項4】
前記吐出ヘッドにおける前記液状体の圧力を調整する圧力調整手段をさらに備え、
前記圧力調整手段は、前記第二供給路における前記脱気手段と前記吐出ヘッドとの間に配設されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の描画装置。」

第3 原審拒絶査定の理由について
1.原審拒絶査定の理由の概要
1.1 原審拒絶理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1
・引用文献1及び2
・備考
引用文献1に記載されている「レジスト液」、「レジスト液供給ノズル65」、「ウェハW」、「レジスト塗布装置17」、「リキッドエンドタンク83」、「第1の弁96と第2の弁94」、「リキッドエンドタンク83から第1のポンプ82を経て、第1の弁96と第2の弁94に至る管路」、「第3の管路95」、「第2の弁94からバッファタンク90、第4の管路105、第2のポンプ106、フィルタ107及び弁108を経て、ノズル65に至る管路」及び「バッファタンク90」は、各々請求項1に係る発明の「液状体」、「吐出ヘッド」、「被描画媒体」、「描画装置」、「貯留タンク」、「第一供給路」、「循環流路」、「第二供給路」及び「脱気手段」に相当又は対応する。
また、引用文献1の段落【0045】の記載「溶存気体が析出されたレジスト液がバッファタンク90内に移送される。この時析出した溶存気体はバッファタンク90の補助管路97から排気され,溶存気体が除去されたレジスト液だけが,バッファタンク90に貯留される」に接した当業者にとって、バッファタンク90により、レジスト液の溶存気体が脱気されることは、記載されているに等しい事項である。
また、引用文献2には、インクを吹き付けるインクジェットヘッド40が記載されている(段落【0018】及び図1を参照)。
引用文献1及び2は、描画装置の点で共通の技術分野に属するので、引用文献1に記載されている装置に、引用文献2に記載されているものを適用することは、当業者にとって容易である。

・請求項2及び3
・引用文献1、2及び3
・備考
(請求項2に係る発明について)
引用文献3には、活性光線硬化型インクジェットインクとしては、ラジカル重合性のものを含む各種インクが適用可能である事項が記載されており(段落【0082】を参照)、このものを被吐出材料として選択することは、当業者であれば困難無くなし得る事である。

(請求項3に係る発明について)
引用文献1に記載されている装置において、ノズル65は脱気装置であるバッファタンク90の下流にあることに鑑みれば、ノズル65内の溶存気体濃度は、第2の弁94より上流側部分のそれよりも低い(換言すれば、前記上流側部分の溶存気体濃度は、ノズル65内のそれよりも高い)ことは、当業者にとって自明である。

・請求項4
・引用文献1ないし5
・備考
引用文献4には、脱気装置50とスリットノズル12との間に圧力調整バルブ56を設ける事項が記載されている(段落【0027】及び図1を参照)。また、引用文献5には、気泡除去装置18とノズル7との間に薬液液面高さ調整装置13を設け、当該調整装置13は、ノズル7の先端からの垂れ落ちを防止するために負圧をかけて吸引するサックバック機能を有する事項が記載されている(段落【0014】ないし【0016】及び図1を参照)。負圧は、圧力調整に含まれることは、当業者にとって自明である。
引用文献1に記載されている装置において、ノズル65の圧力調整を行うという自明な課題を解決する目的で、引用文献4又は5に記載されているものを適用することは、当業者にとって容易である。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-137766号公報
2.特開2005-059476号公報
3.特開2008-207425号公報
4.特開2006-247531号公報
5.特開2004-327638号公報

1.2 原審拒絶査定の概要
この出願については、平成26年 8月 5日付け拒絶理由通知書(以下、単に「拒絶理由通知書」とする)に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

● 理由(特許法第29条第2項)について
・請求項1
・引用文献1及び2
特許出願人は上記の意見書において、下記の(イ)、(ロ)及び(ハ)の主張を行っている。
(イ)引用文献1の第1のポンプ82、第1の弁96及び第3の管路95は、液体を循環させるものではないが、本願発明は、接続部(実施例の切替バルブ43)により、液体を循環させる場合と吐出する場合とを切り替えるものである。
(ロ)引用文献2においては、脱気装置は、リターン流路を含めたインクの循環経路の一部に設けられているが、本願発明は、脱気手段(実施例の脱気ユニット71)を介さず循環させるものである。
(ハ)引用文献1と引用文献2を組み合わせても、本願発明の、液体に添加された添加剤を減少させることなく、液体を循環させるというが課題(効果)に繋がらない。
そこで、上記の主張(イ)、(ロ)及び(ハ)について検討する。
(イ)について
引用文献2の記載
(A)「流路切替弁60は、第1流路切替弁61と、第2流路切替弁62とを有しており、それぞれインクの流れる方向を切替える3方弁である」(段落0025)
(B)「インクをヘッド部から吐出させて印刷を行う場合は、まず、第1流路切替弁61をインクがメインタンク10からサブタンク30へ流れる方向に、かつ、第2流路切替弁62をインクがサブタンク30からインクジェットヘッド40へ流れる方向に切替える」(段落0028)
(C)「インクを脱気させる場合は、まず、第1流路切替弁61をインクが第3インクチューブ23から脱気装置50へ流れる方向に、かつ、第2流路切替弁62をインクがサブタンク30から第3インク供給チューブ23へ流れる方向に切替える。これにより、サブタンク30,第2流路切替弁62,第3インク供給チューブ23,第1流路切替弁61,脱気装置50の順で循環させ、再びサブタンク30に戻す循環経路が形成される」(段落0031)
及び図1に接した当業者にとって、上記の第1流路切替弁61及び第2流路切替弁62が、本願発明の接続部に相当することは自明である。つまり、引用文献2には、本願発明の接続部に相当する、第1流路切替弁61及び第2流路切替弁62が記載されている。
(ロ)について
拒絶理由通知書でも指摘したとおり、引用文献1のバッファタンク90は、本願発明の脱気手段に相当又は対応する。そして、引用文献1の図5に接した当業者にとって、上記のバッファタンク90が、循環経路ではない場所(第2の弁94の下流)に設けられていることは自明である。
(ハ)について
液体に添加された添加剤を減少させることなく、液体を循環させるという点については、そもそも、本願の請求項1に係る発明中において、液体に添加剤が添加されることが前提となるが、現在の請求項1に係る発明中には、液体に添加剤が添加されることが発明特定事項として一切記載されていない。よって、主張(ハ)は、請求項1に係る発明中の記載に基づいていないから、採用できない。
以上のとおりであるから、上記の主張(イ)、(ロ)及び(ハ)はいずれも受け入れられないものである。
そのほかの点については拒絶理由通知書の請求項1に対する備考を参照されたい。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項2及び3
・引用文献1、2及び3
拒絶理由通知書の請求項2及び3に対する備考を参照されたい。
よって、請求項2及び3に係る発明は、引用文献1、2及び3に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項4
・引用文献1ないし5
拒絶理由通知書の請求項4に対する備考を参照されたい。
よって、請求項4に係る発明は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、この出願の明細書の段落0007(適用例1)は、現在の請求項1に係る発明に正確に対応していない。

2.原審拒絶査定の理由に対する当審の判断
2.1 引用文献1
2.1.1 引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2001-137766号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「処理液供給方法及び処理液供給装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0028】次に,前記レジスト塗布装置17について説明する。図4に示したように,このレジスト塗布装置17は,ケーシング17a内に処理中のウェハWを収容するカップ60を有している。このカップ60は,上方が開口し、処理中のウェハWの側方及び下方を包囲してウェハWの周縁から周囲へ飛散する処理液としてのレジスト液を回収できるように構成されている。またカップ60の底部には,連通接続された排液及び排気用の管路61などを有している。このカップ60内には,ウェハWを略水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転するスピンチャック62が設けられている。このスピンチャック62は,カップ60外にあるモータ63によって回転駆動される。また,スピンチャック62は,ウェハWを搬入出するために図示しない駆動機構により,上下動自在に構成されている。
【0029】前記レジスト塗布装置17内のカップ60上方には,例えばウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65と,ウェハWにレジスト液の溶剤を供給する溶剤供給ノズル66が備えられている。レジスト液供給ノズル65は,レジスト液供給装置80に連絡されており,このレジスト液供給装置80から供給されたレジスト液が,レジスト液供給ノズル65から吐出されウェハW上に塗布されるように構成されている。
【0030】次に,前記レジスト液供給装置80について詳しく説明する。図5に示したように,レジスト液は,塗布現像処理システム1の床F面の下方数メートルの地下に設けられている薬液キャビネット81に貯蔵されている。この薬液キャビネット81に隣接して,後述する第1のポンプ82の空打ちを防止するために,レジスト液を一旦貯蔵させておく処理液供給源としてのリキッドエンドタンク83が設けられている。このリキッドエンドタンク83と薬液キャビネット81とは第1の管路84で連絡されている。このリキッドエンドタンク83は,外形が円柱形状のタンクであり,上部から補助管路85が伸びている。この補助管路85は,管路84内の気体を排除したり,後述する第1のポンプ82によりレジスト液が吸引されたときに圧力開放するためのものである。なお,この補助管路85には弁86が取り付けられている。この管路84内の気体を排除するプロセスは,先ず,薬液キャビネット81を加圧し,弁86を開放する。そして,補助管路85から気体が排除され,気体が管路84内に無くなった時点で弁86を閉じる。最後に薬液キャビネット81の加圧を解除して気体の排除が終了する。また,リキッドエンドタンク83には,当該タンク83内のレジスト液の不足を検出するセンサ87が設けられており,レジスト液の水位が所定の位置まで下降すると,センサ87が作動し後述するポンプ制御装置100によって,第1のポンプ82の駆動を停止できるように構成されている。
【0031】リキッドエンドタンク83は後述するバッファタンク90と第2の管路91によって結ばれている。このバッファタンク90は,リキッドエンドタンク83よりも例えば数メートル高い床F上に置かれている。そして,この第2の管路91には第1のポンプ82が,リキッドエンドタンク83に隣接して設けられており,この第1のポンプ82によって,リキッドエンドタンク83内のレジスト液をバッファタンク90に汲み上げることができるように構成されている。また,この第2の管路91には,第2の弁94がバッファタンク90に隣接して設けられており,床F上で第2の管路91を開閉できるように構成されている。
【0032】また,床F下の第2の管路91から床Fの下方でかつ第2の弁94の上流側で分岐配管としての第3の管路95が分岐しており,前記第3の管路95の端部は前記リキッドエンドタンク83に通じている。この第3の管路95には,第1の弁96が取り付けられており,第3の管路95を開閉できるように構成されている。なお,上述したように,第1の弁96は,第2の弁94よりも低位に位置するように構成されている。
【0033】第1のポンプ82によって汲み上げられたレジスト液を一旦貯留する前記バッファタンク90は,略円筒形状をなし,その上面には,大気側に通ずる補助管路97が設けられており,この補助管路97には弁98が設けられている。また,バッファタンク90には,例えばバッファタンク90内の液面の高さを検出し,所定の高さになった時点で,第1のポンプ82の駆動を停止させる信号を出力する検出手段としてのハイレベル液面センサ99aと,バッファタンク90内のレジスト液の不足を検出するローレベル液面センサ99bが取り付けられている。」
(段落【0028】ないし【0033】)

(イ)「【0040】ここで上述したレジスト塗布装置17の作用について詳しく説明する。
…(中略)…
【0042】ここで,レジスト液供給装置80の作用について詳しく説明する。先ず,バッファタンク90内のレジスト液の液面が所定の位置まで下がると,ローレベル液面センサ99bが検出し,ポンプ制御装置100にそのことを示す信号が送られる。そして,ポンプ制御装置100は,第1のポンプ82にON信号を出力し,図6に示すように,第1のポンプ82が稼働する。そして,薬液キャビネット81のレジスト液が,第1の管路84,開放されている第2の弁94のある第2の管路91を通して,バッファタンク90に汲み上げる。なおこのとき,第1の弁96は閉じられている。なお,ここで図6,及び後述する図7,図8において,第1の弁96及び第2の弁94は,黒塗りの場合が閉じている状態を示し,白塗りの場合が開放されている状態を示す。そして,バッファタンク90内の液面が所定の高さになるとハイレベル液面センサ99aが作動し,ポンプ制御装置100により,第1のポンプ82が停止される。
【0043】次に,図7に示すように,第2の弁94が閉じられ,第1の弁96が開かれる。これによって,第2の管路91内に残ったレジスト液が自重によって下降し,第2の弁94の直下に落下しようとするレジスト液に対して相対的な負圧空間Tが生じる。そしてこの負圧により,管路内,すなわち図7中の格子斜線で示した部分のレジスト液中の溶存気体が泡となって析出し,負圧空間Tに溜まる。また,上述したように自重により下降したレジスト液の液柱の一端部は,第3の管路95を通ってリキットエンド83まで達し,下降した分だけリキットエンド83に排出される。その後,再び第1のポンプ82によって汲み上げられて塗布液として利用される。このようにしてレジスト液から溶存気体が析出された後,第1の弁96が閉じられ,第2の弁94が開かれる。
【0044】一方,バッファタンク90からウェハW上へのレジスト液の供給は,先ず,第3の弁106が開放され圧送されたレジスト液が,第4の管路105内を通り,レジスト液供給ノズル65から吐出されることにより行われる。この吐出のタイミングは,レジスト塗布装置17内にウェハWが搬入された後,図示しないコントローラにより,第2のポンプ106,第3の弁108を制御することにより図られている。
【0045】次に,バッファタンク90からウェハW上にレジスト液が供給され,バッファタンク90内の液面が所定の位置まで減少すると,再びローレベル液面センサ99b作動し,ポンプ制御装置100を介して,図8に示すように,第1のポンプ82を稼働させる。それにより,溶存気体が析出されたレジスト液がバッファタンク90内に移送される。この時析出した溶存気体はバッファタンク90の補助管路97から排気され,溶存気体が除去されたレジスト液だけが,バッファタンク90に貯留される。そして,所定の液面高さになるとハイレベル液面センサ99aが,ポンプ制御装置100を介して第1のポンプ82に信号を送り,バッファタンク90への供給が停止される。ここで上述したようにバッファタンク90に貯留されたレジスト液の量が第2の管路91の全容積よりも小さい時点でハイレベル液面センサ99aが信号を送るように設定されているため,未だ,第2の管路91で溶存気体の除去されていないレジスト液がバッファタンク90に流れ込むことはない。したがって,初回以外は,常にバッファタンク90内には,溶存気体を取り除いたレジスト液が供給されるように構成されている。」(段落【0040】ないし【0045】)

2.1.2 引用文献1記載の事項
上記2.1.1(ア)及び(イ)並びに図4ないし図8の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)2.1.1(ア)及び(イ)並びに図4ないし図8の記載から、引用文献1には、レジスト塗布装置17が記載されていることが分かる。

(キ)2.1.1(イ)及び図4の記載から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17は、ウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65を備え、前記レジスト液供給ノズル65から前記レジスト液をウェハWに向けて供給し、前記ウェハW上にレジスト液を塗布するものであることが分かる。

(ク)2.1.1(イ)及び図5の記載から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17は、レジスト液を一旦貯蔵するリキッドエンドタンク83を備えることが分かる。

(ケ)図5において、レジスト塗布装置17は、第2の管路91と第3の管路95が分岐する部位(以下、便宜上、「分岐部」という。)を有することが看取されるところ、図5において、第2の管路91のリキッドエンドタンク83と分岐部の間の部位、及び第2の管路91の分岐部とバッファタンク90の間の部位を、それぞれ、便宜上、「第2の管路の上流部」及び「第2の管路の下流部」ということとすると、2.1.1(ア)の段落【0031】から、リキッドエンドタンク83内のレジスト液が、第2の管路の上流部を経路として分岐部に送られ、2.1.1(イ)の段落【0043】から、レジスト液が、第3の管路95を経路として分岐部からリキッドエンドタンク83に送られることが分かる。
以上から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17は、リキッドエンドタンク83と分岐部とに接続されており、レジスト液がリキッドエンドタンク83から分岐部に送られる経路である第2の管路の上流部と、リキッドエンドタンク83と分岐部とに接続されており、レジスト液が分岐部からリキッドエンドタンク83に送られる経路である第3の管路95を備えることが分かる。

(コ)2.1.1(イ)の段落【0044】及び図5の記載から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17は、分岐部とレジスト液供給ノズル65とに接続されており、レジスト液が分岐部からバッファタンク90を介してレジスト液供給ノズル65に供給される経路である第2の管路の下流部及び第4の管路105を備えることが分かる。

(サ)2.1.1(ア)の段落【0030】及び【0033】の記載から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17は、レジスト液の溶存気体を排気する手段として、リキッドエンドタンク83に設けられた補助管路85及びバッファタンク90に設けられた補助管路97を備えることが分かる。

(シ)2.1.1(イ)の段落【0042】ないし【0045】及び図6ないし8の記載から、引用文献1に記載されたレジスト塗布装置17において、分岐部付近に設けられた第2の弁94及び第1の弁96を切り替えることにより、第2の管路の上流部のレジスト液の流れを、第3の管路95又は第2の管路の下流部に切り替えるものであることが分かる。

2.1.3 引用文献1記載発明
上記2.1.1及び2.1.2並びに図4ないし8の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載発明」という。)が記載されているといえる。

「ウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65を備え、前記レジスト液供給ノズル65から前記レジスト液をウェハWに向けて供給し、前記ウェハW上にレジスト液を塗布するレジスト塗布装置17であって、
前記レジスト液を一旦貯蔵するリキッドエンドタンク83と、
前記リキッドエンドタンク83と分岐部とに接続されており、前記レジスト液が前記リキッドエンドタンク83から分岐部に送られる経路である第2の管路の上流部と、
前記リキッドエンドタンク83と前記分岐部とに接続されており、前記レジスト液が前記分岐部から前記リキッドエンドタンク83に送られる経路である第3の管路95と、
前記分岐部と前記レジスト液供給ノズル65とに接続されており、前記レジスト液が前記分岐部からバッファタンク90を介して前記レジスト液供給ノズル65に供給される経路である前記第2の管路の下流部及び第4の管路105と、
レジスト液の溶存気体を排気する手段として、リキッドエンドタンク83に設けられた補助管路85及びバッファタンク90に設けられた補助管路97と、を備え、
前記分岐部付近に設けられた第2の弁94及び第1の弁96を切り替えることにより、前記第2の管路の上流部の前記レジスト液の流れを、前記第3の管路95又は前記第2の管路の下流部に切り替えるレジスト塗布装置17。」

2.2 引用文献2
2.2.1 引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2005-059476号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「インク供給装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(タ)「【0001】
本発明は、インクの微細な粒子を記録媒体に吹き付けることにより印刷を行なうインクジェット印刷機などに好適に利用できるインク供給装置に関するものである。
…(中略)…
【0005】
一方、特許文献2の方法においては、循環経路を採用しており、インクが蓄えられたメインタンクや一時的にインクを保持するサブタンクにインクを戻して脱気を行っているが、サブタンクにインクを戻すと、メインタンクにもインクが戻ってしまう構造になっているため、結果として、循環させるインク量が多く、容量が大きい脱気装置を設置する必要があり、装置コストが高く、また、メインタンクで空気が溶融する可能性があり、脱気効率が悪かった。
【0006】
また、インクジェット式のヘッド部とサブタンクとの間に脱気装置が配置されているため、ヘッド部の圧力調整を行う場合に、脱気装置で圧力が損失してしまい、圧力伝達がうまくいかず、インクが正しく流れないといった問題が生じてしまっていた。」(段落【0001】ないし【0006】)

(チ)「【0016】
本発明は、インクを吐出して、記録媒体にインクを塗布し、画像を形成するプリンタ用のインク供給装置であり、吐出不良を未然に防ぐという目的を、インクに混入されている泡や溶融している気体を除去する脱気装置をインク供給系に設置し、かつ、インクが長時間供給されない場合に、インクを循環させる経路を形成することにより実現した。
【0017】
以下、図面等を参照して、本発明の実施例について、さらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明によるインク供給装置の実施例1を模式的に示す図であり、図2は、図1におけるサブタンクをより詳細に示した図である。
実施例1によるインク供給装置100は、メインタンク10と、インク供給チューブ20と、サブタンク30と、インクジェットヘッド40と、脱気装置50と、流路切替弁60と、ポンプ70と、開閉弁80などとを備える。
…(中略)…
【0025】
流路切替弁60は、第1流路切替弁61と、第2流路切替弁62とを有しており、それぞれインクの流れる方向を切替える3方弁である。」(段落【0016】ないし【0025】)

(ツ)「【0028】
次に、実施例1によるインクの流れについて説明する。
インクをヘッド部から吐出させて印刷を行う場合は、まず、第1流路切替弁61をインクがメインタンク10からサブタンク30へ流れる方向に、かつ、第2流路切替弁62をインクがサブタンク30からインクジェットヘッド40へ流れる方向に切替える。
…(中略)…
【0031】
一方、インクを脱気させる場合は、まず、第1流路切替弁61をインクが第3インクチューブ23から脱気装置50へ流れる方向に、かつ、第2流路切替弁62をインクがサブタンク30から第3インク供給チューブ23へ流れる方向に切替える。これにより、サブタンク30,第2流路切替弁62,第3インク供給チューブ23,第1流路切替弁61,脱気装置50の順で循環させ、再びサブタンク30に戻す循環経路が形成される。
ついで、ポンプ70を作動させて、循環経路内のインクを循環させることにより、脱気装置50にてインクが脱気される。」(段落【0028】ないし【0031】)

2.2.2 引用文献2記載技術
上記2.2.1及び図1の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。

「画像形成装置において、メインタンク10からインクジェットヘッド40に至るインクの流れの途中に、第1流路切替弁61、脱気装置50、サブタンク30、第2流路切替弁62を設け、該第2流路切替弁62により分岐したインクの流れをポンプ70を介して第1流路切替弁61に合流し、第2流路切替弁は、サブタンク30に連通する流路を第3インク供給チューブ23又はインクジェットヘッド40に至る流路に切り替えることにより、サブタンク30、第2流路切替弁62、第3インク供給チューブ23、第1流路切替弁61、脱気装置50の順で循環させ、再びサブタンク30に戻す循環経路を形成し、ポンプ70を作動させて、循環経路内のインクを循環させることにより、脱気装置50にてインクを脱気する技術。」

2.3 引用文献3の記載
本願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2008-207425号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「インクジェットインク吐出方法、活性光線硬化型インクジェットインク及びインクジェット記録装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ナ)「【0082】
本発明の活性光線硬化型インクジェットインクでは、ラジカル重合性、カチオン重合性あるいはラジカル・カチオンハイブリッド重合性の各種インクが適用可能であるが、これらの活性光線硬化型インクジェットインクは、比較的電気伝導性を有するインクであり、具体的には、電気伝導度が10μS/cm以上、60μS/cm以下であることが好ましく、より好ましくは、20μS/cm以上、50μS/cm以下である。なお、インクの電気伝導度は、電導度計(例えば、電導度計SC-51型:横河北辰電機社製)を用いて求めることができる。」(段落【0082】)

2.4 引用文献4の記載
本願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2006-247531号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「塗布方法及び光学フィルムの製造方法」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ハ)「【0027】
すなわち、スロットダイ12は塗布液14を貯留する塗布液タンク40と給液配管42で連結されている。給液配管42には、上流側より順に、送液ポンプ46、濾過フィルタ48、膜脱気装置50、流量計52、圧力センサ54、圧力調整バルブ56が接続されている。圧力センサ54及び圧力調整バルブ56には制御手段であるバルブコントローラ58が接続されている。」(段落【0027】)

2.5 引用文献5の記載
本願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2004-327638号公報(以下、「引用文献5」という。)には、「薄膜塗布装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(マ)「【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態における薄膜塗布装置の概略構成図である。この薄膜塗布装置は、先に図11を用いて説明した従来のものとほぼ同様の構成を有しており、ウエハー1を水平に保持し回転させるウエハー回転機構2と、薬液3を搬送し滴下する薬液塗布機構4とを備えている。
【0015】
ウエハー回転機構2はウエハー1を保持するウエハーチャック5と、ウエハーチャック5を回転させるモーターフランジ6とを有している。薬液塗布機構4は、ウエハー1に薬液3を滴下する吐出ノズル7と、薬液3の供給源である薬液瓶8とが配管9により連通され、その管路途中に、薬液瓶8側から順にバッファータンク10とポンプ11とパーティクルろ過装置12と薬液液面高さ調整装置13とが介装されている。
【0016】
薬液瓶8にはN_(2)加圧配管14が設けられており、バッファータンク10とパーティクルろ過装置12にはそれぞれ、廃液を捨てるためのバッファータンクドレイン15とパーティクルろ過装置ドレイン16が設けられている。薬液液面高さ調整装置13は、吐出ノズル7における薬液液面高さを調整するもので、所定量吐出後の吐出ノズル7の先端からの垂れ落ちを防止するために負圧をかけて吸引するサックバック機能を有している。17は後述するように薬液塗布機構を制御する制御装置であり、制御ラインは簡便のために一部のみ示している。」(段落【0014】ないし【0016】)

2.6 対比・判断
2.6.1 本願発明と引用文献1記載発明との対比
本願発明と引用文献1記載発明とを対比すると、「液状体」という限りにおいて、引用文献1記載発明における「ウェハWにレジスト液」は、本願発明における「重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体」に相当し、「ワーク上に液状体を塗布する」という限りにおいて、引用文献1記載発明において「レジスト液供給ノズル65からレジスト液をウェハWに向けて供給し、ウェハW上にレジスト液を塗布する」ことは、本願発明において「吐出ヘッドから液状体を被描画媒体に向けて吐出し、被描画媒体上に液状体を配置する」ことに相当するといえる。したがって、「液状体を供給する供給口を備え、ワーク上に液状体を塗布する塗布装置」という限りにおいて、引用文献1記載発明における「ウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65を備え、レジスト液供給ノズル65からレジスト液をウェハWに向けて供給し、ウェハW上にレジスト液を塗布するレジスト塗布装置17」は、本願発明における「重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、吐出ヘッドから液状体を被描画媒体に向けて吐出し、被描画媒体上に液状体を配置する描画装置」に相当する。
そして、引用文献1記載発明における「一旦貯蔵する」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「貯留する」に相当し、以下同様に、「リキッドエンドタンク83」は「貯留タンク」に、「分岐部」は「接続部」に、「第2の管路の上流部」は「第一供給路」に、「第3の管路95」は「循環流路」に、「第2の管路の下流部及び第4の管路105」は「第二供給路」に、「レジスト液の溶存気体を排気する手段」である「補助管路85、97」は「脱気手段」に、それぞれ相当する。
さらに、「接続部付近で、第一供給路に連通する流路を、循環流路又は第二供給路に切り替える」という限りにおいて、引用文献1記載発明において「分岐部付近に設けられた第2の弁94及び第1の弁96を切り替えることにより、第2の管路の上流部のレジスト液の流れを、第3の管路95又は第2の管路の下流部に切り替える」ことは、本願発明において「接続部は、第一供給路に連通する流路を、循環流路又は第二供給路に切り替える」ことに相当する。

よって、本願発明1と引用文献1記載発明とは、
「 液状体を供給する供給口を備え、ワーク上に液状体を塗布する塗布装置であって、
前記液状体を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクと接続部とに接続されており、前記液状体が前記貯留タンクから前記接続部に送られる経路である第一供給路と、
前記貯留タンクと前記接続部とに接続されており、前記液状体が前記接続部から前記貯留タンクに送られる経路である循環流路と、
前記接続部と前記供給口とに接続されており、前記液状体が前記接続部から前記供給口に供給される経路である第二供給路と、
前記液状体の溶存気体を脱気する脱気手段と、を備え、
接続部付近で、第一供給路に連通する流路を、循環流路又は第二供給路に切り替える塗布装置。」

<相違点>
(a)「液状体を供給する供給口を備え、ワーク上に液状体を塗布する塗布装置」に関し、本願発明においては「重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、吐出ヘッドから液状体を被描画媒体に向けて吐出し、被描画媒体上に液状体を配置する描画装置」であるのに対し、引用文献1記載発明においては「ウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65を備え、レジスト液供給ノズル65からレジスト液をウェハWに向けて供給し、ウェハW上にレジスト液を塗布するレジスト塗布装置17」である点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「接続部付近で、第一供給路に連通する流路を、循環流路又は第二供給路に切り替える」ことに関し、本願発明においては「接続部は、第一供給路に連通する流路を、循環流路又は第二供給路に切り替える」のに対し、引用文献1記載発明においては「分岐部付近に設けられた第2の弁94及び第1の弁96を切り替えることにより、第2の管路の上流部のレジスト液の流れを、第3の管路95又は第2の管路の下流部に切り替える」点(以下、「相違点2」という。)。
(c)本願発明1においては、脱気手段が、第二供給路に配設されているのに対し、引用文献1記載発明においては、レジスト液の溶存気体を排気する手段である補助管路85、97は、リキッドエンドタンク83及びバッファタンク90に設けられている点(以下、「相違点3」という。)。

2.6.2 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
事案に鑑み、相違点1と相違点3を合わせて検討すれば、引用文献1記載発明は、「ウェハWにレジスト液を供給するレジスト液供給ノズル65を備え、レジスト液供給ノズル65からレジスト液をウェハWに向けて供給し、ウェハW上にレジスト液を塗布するレジスト塗布装置17」であることを前提として、レジスト液の溶存気体を排気する手段である補助管路85、97は、リキッドエンドタンク83及びバッファタンク90に設けたものである。これにより、引用文献1記載発明は、「処理液が前記配管中,すなわち前記供給用バッファタンク移送される前に,溶存気体を泡として析出させることにより,溶存気体を含有しない処理液が供給用バッファタンクから基板に供給されるため,基板や基板上に形成される処理膜は溶存気体の悪影響を受けない。」(上記2.2.1(タ)段落【0006】、下線は当審で付与した。)との作用効果を奏するものである。
これに対し、本願発明は、「重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、吐出ヘッドから液状体を被描画媒体に向けて吐出し、被描画媒体上に液状体を配置する描画装置」であることを前提として、脱気手段を、第二供給路に配設することにより、「吐出ヘッドから吐出するために描画装置に貯留されている液状体の多くは、貯留タンクと第一供給路と接続部と循環流路とからなる循環流路を流動させることができる。吐出ヘッドに供給される直前の液状体が、第二供給路に滞留する。脱気手段が第二供給路に配設されているため、脱気手段によって脱気された液状体は、第二供給路における脱気手段と吐出ヘッドとの間の部分にのみ存在する。当該部分の液状体は、吐出ヘッドに補充され、吐出される直前の液状体である。これにより、脱気手段によって脱気された液状体が描画装置内に留まる時間を抑制することができる。すなわち、例えば重合抑制剤や酸素が減少させられることで反応し易くなった液状体が、描画装置の内部に留まる時間を抑制することができる。」(本願の明細書の段落【0008】)との作用効果を奏するものである。
そして、重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出するに際し、循環流路より下流に設けられた脱気手段により脱気することは、引用文献1ないし5のいずれにも開示も示唆もない。
したがって、引用文献1記載発明において、相違点1及び3に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

次に、相違点2について検討する。
本願発明と引用文献2記載技術とは、画像を形成する装置という共通の技術分野に属する(上記2.2.1(チ)の段落【0016】参照。)。
そして、引用文献2記載技術において、第2流路切替弁は、サブタンク30に連通する流路を第3インク供給チューブ23又はインクジェットヘッド40に至る流路に切り替えるものであるから、引用文献1記載発明において、分岐部付近に設けられた第2の弁94及び第1の弁96に代えて、引用文献2記載技術における第2流路切替弁を参酌して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

2.6.3 小活
したがって、本願発明は、引用文献1ないし5に係る発明から当業者が容易に発明ができたものではない。
また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献1ないし5に係る発明から当業者が容易に発明ができたものではない。
よって、原審拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本願は、特許請求の範囲の記載の請求項1、3及び4の記載が、次の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



本願の請求項1並びに請求項1を引用する請求項3及び4の記載は、以下の点で、発明の課題を解決するための手段であるとして発明の詳細な説明に記載されている技術的特徴に関連する事項が反映したものではない。
請求項1並びに請求項1を引用する請求項3及び4に係る発明の内容として、発明の詳細な説明に開示されている技術は、「しかしながら、特許文献1に記載されている減圧機構のような脱気装置は、溶存気体を脱気するとともに、液状体に添加された添加剤も減少させることがある。例えばUV硬化型の機能液においては、描画装置の内部で機能液が固化することを抑制するために、重合抑制剤が添加されている。特許文献1に記載されている減圧機構のような脱気装置は、循環している機能液から重合抑制剤や酸素が減少させられることで、機能液が反応し易くなり、描画装置の内部で固化し易くなるという課題があった。このように、脱気装置によって添加剤が減少させられた液状体が描画装置の内部に留まることで、不具合が発生する可能性が高くなるという課題があった。」(【発明が解決しようとする課題】を記載した段落【0005】)との記載からみて、描画装置の内部で固化することを抑制するために、例えば重合抑制剤が添加されているUV硬化型の機能液を用いることを前提とした描画装置において、脱気装置によって添加剤が減少させられた液状体が描画装置の内部に留まることで、不具合が発生する可能性が高くなるという課題を解決するものである。
しかしながら、本願の請求項1は、上記前提を発明特定事項とするものではないから、上記課題に対応して、発明の課題を解決するための手段を反映していない。
このため、本願の請求項1並びにこれを引用する請求項3及び4に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

本願の明細書の段落【0037】に、「機能液40は、例えば、紫外線硬化型インクである。本実施形態におけるインク(以下、「インク組成物」ともいう。)の組成は、特に限定されない。インクが紫外線硬化型インクである場合、重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む。さらに、上記インクがクリアインク以外の有色インクである場合には、色材も含む。以下、インク組成物に含まれるか又は含まれ得る各成分を説明する。」と記載されているところ、例えば請求項1において、「液状体」が「重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む」ことを明らかにされたい。

2.当審拒絶理由に対する判断
平成28年3月30日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)によって、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから前記液状体を被描画媒体に向けて吐出し、前記被描画媒体上に前記液状体を配置する描画装置であって」は、「重合制化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む液状体を吐出する吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから前記液状体を被描画媒体に向けて吐出し、前記被描画媒体上に前記液状体を配置する描画装置であって」と補正された。
これによって、本願の請求項1及びこれを引用する請求項2ないし4の記載は、発明の課題を解決するための手段であるとして発明の詳細な説明に記載されている技術的特徴に関連する事項を反映したものとなった。
よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原審拒絶査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2011-11686(P2011-11686)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B05C)
P 1 8・ 537- WY (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 篠原 将之  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 描画装置  
代理人 西田 圭介  
代理人 仲井 智至  
代理人 渡辺 和昭  

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